事業譲渡と株式譲渡の違い|税金・手続き・従業員・許認可を比較して選ぶ

最終更新: 2026-09-12

自社の価値を、まずは無料で試算できます。無料で試算 →

会社や事業を売る方法を調べ始めると、必ず出てくるのが「株式譲渡」と「事業譲渡」という2つの言葉です。どちらも会社の事業が第三者に引き継がれる点は同じですが、法律上はまったく別の取引であり、誰が売り手になるのか、代金を誰が受け取るのか、税金がいくらかかるのか、従業員や許認可がそのまま引き継げるのかが大きく変わります。

同じ「1億円で売れた」という結果でも、株式譲渡と事業譲渡ではオーナーの手取りが数千万円単位で違ってくることもあります。スキーム選びは、価格交渉と同じかそれ以上に手取りを左右する論点だと言えます。

本稿では、事業譲渡と株式譲渡の違いを、売買の対象・契約当事者・代金の受取人・簿外債務の承継・許認可・従業員の雇用・取引先契約・不動産の移転コスト・必要な手続き・期間・税金という観点から総合比較表で整理します。あわせて、税金の違い、同じ譲渡価額でも手取りが変わる試算例、売り手・買い手それぞれが事業譲渡を選ぶ場面、会社分割や合併との関係、実務上の注意点までを解説します。売却の全体像はM&Aによる会社売却の流れもあわせてご覧ください。

結論:中小M&Aの原則は株式譲渡、例外的な事情があるときに事業譲渡

先に結論を整理すると、次のように考えるのが実務的です。

  • 会社をまるごと引き継ぐなら株式譲渡:手続きがシンプルで、従業員・取引先契約・許認可が原則そのまま残ります。中小企業のM&Aで最も多く使われるスキームです。
  • 一部の事業だけを切り出す、または簿外債務を遮断したいなら事業譲渡:買い手が引き継ぐ対象を選べる代わりに、契約・雇用・許認可を一つずつ移し替える手間がかかります。
  • 売り手の手取りは、一般に株式譲渡のほうが有利になりやすい:事業譲渡は会社に法人税、そこから株主にお金を移す段階でもう一度課税されるため、二重課税になりやすいという構造上の違いがあります。

ただし、どちらが有利かは会社の状況(簿価、繰越欠損金の有無、不動産の保有、許認可の種類、オーナーの退職金活用の余地など)で変わります。以下で違いを一つずつ見ていきましょう。

まず押さえる基本:何を売買しているのか

2つのスキームの違いは、突き詰めると「売買の対象が株式か、事業か」の一点に集約されます。ここを図解代わりに表で整理します。

株式譲渡事業譲渡
売買するもの会社の株式(会社の持ち主が変わる)会社が営む事業(資産・負債・契約の集合)
会社という器そのまま存続し、株主だけが入れ替わる売り手の会社は存続し、事業だけが外に出る
承継の性質包括承継(原則すべてが自動的に付いてくる)特定承継(移すものを一つずつ指定して個別に移す)
たとえるなら家を家財ごと、名義変更して丸ごと引き渡す家の中から必要な家具だけを選んで運び出す

株式譲渡では、会社の資産・負債・従業員との雇用契約・取引先との契約・許認可は、すべて会社に紐づいたまま動きません。動くのは株主の名前だけです。だからこそ手続きが軽く、そして過去のリスクもそのまま引き継がれます

事業譲渡では逆に、会社に紐づいているものを一つずつ外して買い手に移し替えます。だから対象を選べる代わりに、相手方(従業員、取引先、貸主、行政庁)の同意や再手続きが必要になります。

総合比較表:事業譲渡と株式譲渡の違い

実務で問題になる論点を横並びで比較すると次のようになります。数値や税率は執筆時点における一般的な水準の目安であり、実際の取扱いは個別事情や制度改正で変わります。

比較の観点株式譲渡事業譲渡
譲渡の対象発行済株式(会社そのもの)事業を構成する資産・負債・契約を個別に指定
契約の当事者売り手=株主(オーナー個人など)、買い手=取得者売り手=会社(法人)、買い手=取得者
売却代金の受取人株主(オーナー個人の口座に入る)会社(法人の口座に入る。個人に移すには別途手当てが必要)
簿外債務・偶発債務原則そのまま承継する(未払残業代、係争、保証債務など)承継対象を限定でき、遮断しやすい
許認可会社が保有したまま継続するのが原則承継できないものが多く、買い手側での取得・届出が必要になりやすい
従業員の雇用雇用契約は会社との関係のまま継続(個別同意は原則不要)転籍には従業員一人ひとりの同意が必要
取引先との契約原則そのまま継続(チェンジ・オブ・コントロール条項に注意)契約ごとに相手方の同意を得て個別に移転
不動産の移転コスト会社が持ち続けるため、原則として発生しない所有権移転により不動産取得税・登録免許税が発生
必要な手続き譲渡制限株式なら取締役会等の承認、株主名簿の書換え事業の全部・重要な一部の譲渡は原則として株主総会の特別決議、反対株主の株式買取請求への対応
債権者保護手続き不要法定の債権者保護手続きはないが、債務の移転には債権者の個別同意が必要
一般的な所要期間相手探しから成約まで数ヶ月〜1年程度が目安同程度〜さらに数ヶ月。契約・許認可の移転作業が加わる分、長引きやすい
売り手の税金個人株主は株式譲渡益に申告分離課税(執筆時点で合計20.315%)会社の譲渡益に法人税等。株主に資金を移す段階でさらに課税
買い手の税務メリット税務上ののれん償却は原則できないのれん(資産調整勘定)を一定期間で損金算入できる場合がある
消費税株式の譲渡は非課税課税資産の譲渡部分に消費税が課される
上表は一般的な整理です。税率・手続き・許認可の取扱いは、業種、会社の状況、制度改正によって変わります。実際の判断は必ず税理士・弁護士などの専門家に確認してください。

税金の違い:ここが手取りを最も大きく左右する

スキーム選択で最も差が出るのが税金です。株式譲渡と事業譲渡では、誰に、どの段階で課税されるかが根本的に異なります。

株式譲渡の税金:株主に一度だけ課税される

株式譲渡では、株式を売った株主に譲渡益課税が生じます。個人株主の場合、譲渡益(譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額)に対して申告分離課税が適用され、執筆時点の税率は所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%です。他の所得と合算されない分離課税なので、金額が大きくても税率が跳ね上がらないのが特徴です。

取得費は、創業者が設立時に払い込んだ資本金額などが基本になります。取得費が不明な場合には譲渡価額の5%を概算取得費とする取扱いが一般的です。オーナーが会社を設立して育ててきた中小企業では、取得費が小さく譲渡益がほぼ譲渡価額に近くなることが多くなります。

株主が法人(持株会社など)の場合は分離課税ではなく、譲渡益がその法人の所得に含まれて法人税等の対象になります。グループでの持株構造については持株会社とはもあわせて確認してください。中小企業のM&A税務全般は中小M&Aの税務で整理しています。

事業譲渡の税金:会社に課税され、株主に渡す段階でもう一度

事業譲渡では、売り手は会社(法人)です。譲渡価額から譲渡する資産・負債の帳簿価額を差し引いた譲渡益が、その事業年度の益金に算入され、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税の対象になります。中小企業の実効税率はおおむね30%前後とされることが多いものの、所得規模や自治体によって変わります。

問題はその先です。事業譲渡で得た資金は会社に入るため、オーナー個人が使えるお金にするには、さらに一段階必要になります。主な方法は次の3つで、いずれにも課税が伴います。

  • 配当として支払う:個人株主の配当所得は総合課税が原則で、所得が大きいほど累進税率が上がります(配当控除の適用はあります)。分離課税の株式譲渡益より重くなりやすい点が要注意です。
  • 役員退職金として支払う:退職所得は勤続年数に応じた退職所得控除があり、控除後の金額の2分の1に課税される取扱いがあるため、税負担を抑えやすい方法とされています。ただし不相当に高額な部分は会社側で損金にならないため、勤続年数・最終報酬月額・功績倍率などから妥当性を説明できる水準に収める必要があります。
  • 会社を清算して残余財産を分配する:手続きに時間がかかり、分配額のうち資本金等を超える部分はみなし配当として扱われるのが一般的です。

つまり事業譲渡は、法人段階と個人段階で二重に課税されやすい構造を持っています。役員退職金をうまく組み合わせることで負担を抑えられる余地はありますが、それでも株式譲渡の20.315%というシンプルな一段階課税と比べると、手取りが目減りしやすいのが一般的です。役員退職金の設計は役員退職金と自社株もあわせてご確認ください。

消費税:のれんは課税、土地・有価証券は非課税

株式の譲渡は消費税の非課税取引なので、株式譲渡では消費税を気にする必要は基本的にありません。一方、事業譲渡は資産の売買ですから、譲渡する資産のうち課税資産に該当する部分に消費税がかかります。

譲渡する資産消費税の扱い(執筆時点の一般的な整理)
建物、機械設備、車両、備品課税対象
棚卸資産(商品・製品)課税対象
のれん(営業権)課税対象
特許権・商標権などの無形固定資産課税対象
土地非課税
有価証券非課税
売掛金などの金銭債権非課税

見落とされやすいのがのれんに消費税がかかる点です。事業譲渡では譲渡価額のうち相当部分がのれんになることが多く、その分だけ買い手の支払総額が膨らみます。買い手は原則として仕入税額控除ができるため最終的な負担は限定的ですが、決済時には税込み金額を用意する必要があり、資金繰りに影響します。契約書では譲渡価額を資産ごとに配分し、消費税の内訳を明記しておくのが実務上のポイントです。のれんの考え方はのれん(営業権)とは、買い手側の会計処理はのれんの償却で解説しています。

不動産取得税・登録免許税

事業譲渡で土地や建物を移す場合、所有権が移転するため、買い手には不動産取得税と、登記のための登録免許税が発生します。不動産を多く保有する会社では、この移転コストが数百万円〜数千万円規模になることもあり、スキーム選択の判断材料になります。

株式譲渡であれば不動産は会社が保有し続けるため、これらの流通課税は原則として発生しません。不動産の比重が大きい会社ほど、株式譲渡が選ばれやすくなる理由の一つです。

手取りの違い:同じ譲渡価額でもこれだけ変わる

数字で見てみましょう。前提を単純化した試算例です(仲介手数料などは考慮していません)。

項目株式譲渡の場合事業譲渡の場合
譲渡価額1億円1億円
差し引く簿価取得費(資本金)500万円譲渡する資産・負債の簿価純資産 3,000万円
譲渡益9,500万円7,000万円
第1段階の税個人の譲渡益課税 20.315% → 約1,930万円法人税等 実効税率30%とすると → 約2,100万円
この時点の残り個人の手元に 約8,070万円会社に 約7,900万円
第2段階(個人に移す)不要(すでに個人の資金)配当で全額を移し、所得税・住民税の負担が約40%かかると仮定 → 約3,160万円
オーナー個人の手取り(概算)約8,070万円約4,740万円

この例では、同じ1億円でも手取りに3,000万円以上の差が出ています。もちろん事業譲渡側は、役員退職金を活用すれば税負担を大きく圧縮できますし、会社に繰越欠損金があれば譲渡益と相殺できて第1段階の法人税がほとんど出ないこともあります。逆に株式譲渡側も、取得費が大きければ譲渡益は小さくなります。

重要なのは、「いくらで売れたか」ではなく「いくら残るか」で比較するという視点です。株式譲渡の場合の手取りの目安は株式譲渡の手取り計算ツールで試算できます。株式譲渡と事業譲渡のどちらが手元に多く残るかを並べて比べたい場合は、株式譲渡と事業譲渡の手取り比較ツールをご利用ください。仲介手数料の水準はM&A仲介手数料の相場を参考にしてください。

上記はスキームによる差を示すための単純化した例で、実際の税額は取得費、繰越欠損金、退職金の設計、所得区分、適用できる特例などによって大きく変わります。必ず税理士に個別の試算を依頼してください。

それでも事業譲渡が選ばれる場面

税負担では不利になりやすい事業譲渡ですが、それでも選ばれる合理的な理由があります。

売り手が事業譲渡を選ぶ場面

  • 一部の事業だけを売り、本業は続けたい:複数事業を営む会社が、非中核事業だけを切り離すケースです。会社は手元に残ります。
  • 会社に残したい資産がある:オーナーが個人的に使ってきた不動産、社宅、ゴルフ会員権、保険などを会社に残したまま、事業だけを売ることができます。
  • 繰越欠損金がある:会社に繰越欠損金があれば、事業譲渡益と相殺されて法人税の負担が軽くなり、二重課税の不利が小さくなります。赤字・債務超過の会社の売却は赤字・債務超過会社の売却で詳しく扱っています。
  • 株主が分散していて株式をまとめられない:株式譲渡には原則として全株主の協力が必要ですが、事業譲渡は会社の意思決定(株主総会の特別決議)で進められるため、少数株主の所在が不明といった事情があるときの現実的な選択肢になります。
  • 会社ごと売れる相手が見つからない:会社全体では買い手がつかなくても、価値のある事業単位なら引き受け手が見つかることがあります。

買い手が事業譲渡を好む場面

  • 簿外債務を遮断したい:未払残業代、係争中の訴訟、他社の債務の連帯保証、税務上の未確定リスクなど、決算書に表れないリスクを引き継ぎたくない場合、承継対象を契約で限定できる事業譲渡が安全です。株式譲渡でこうしたリスクを検出するにはデューデリジェンスが欠かせません。
  • 欲しい事業だけを取得したい:赤字の事業や不要な資産まで抱え込まずに済みます。
  • のれんを税務上償却したい:事業譲渡で生じた差額は税務上「資産調整勘定」として一定期間で損金に算入できる場合があり、買い手にとって実質的な節税効果になります。株式譲渡では買い手個社の税務上ののれんは生じないため、この差はしばしば価格交渉の材料になります。
  • 繰越欠損金の制限を避けたい:株式譲渡で会社を取得すると繰越欠損金も会社に残りますが、支配関係の変更後に事業内容が大きく変わるなどの場合には利用が制限される規定があります。買い手が欠損金の活用を当てにするのはリスクがある、という点は押さえておく必要があります。

買い手が事業譲渡を望み、売り手が株式譲渡を望む——というのはよくある対立構図です。この場合、買い手の税務メリットや売り手の税負担増を織り込んで価格を調整する、という交渉になります。価格の考え方は会社売却の相場はいくらか、簡便な目安の出し方は年倍法シミュレーター年倍法とはを参照してください。

会社分割・合併・株式交換との関係

株式譲渡と事業譲渡のほかにも、事業を移すためのスキームがあります。関係を一言で整理すると次のとおりです。

スキーム一言でいうと使いどころ
株式譲渡会社の持ち主を替える中小M&Aの原則。会社まるごとの承継
事業譲渡事業を構成する資産・契約を個別に売る一部事業の切り出し、簿外債務の遮断
会社分割事業を包括的に別会社へ移す組織再編事業譲渡と同じ「切り出し」を、契約を個別に移さずに行いたいとき
合併2つの会社を1つに統合するグループ内の再編や、統合を前提とした買収の最終形
株式交換・株式移転会社を他社の完全子会社にする/持株会社を作る対価に株式を使いたいとき、グループ体制を作るとき

なかでも事業譲渡と迷いやすいのが会社分割です。どちらも「事業の切り出し」ですが、会社分割は包括承継なので契約や雇用を一つずつ移し替える必要がなく、そのかわりに債権者保護手続きなどの法定手続きが必要になります。詳しくは会社分割とはをご覧ください。合併とは株式交換・株式移転とはもあわせて確認すると、スキーム全体の地図が描けます。

親族内承継など、売却以外の承継を検討している場合は、税制上の特例が使える可能性があります。事業承継の税制もあわせてご確認ください。

実務の注意点

事業譲渡を選ぶ場合、契約書に署名すれば終わりではありません。実務では次の点が案件を遅らせる要因になります。

  • 許認可の再取得:建設業、産業廃棄物処理業、運送業、飲食業、宅建業、介護事業、医療関連などの許認可は、事業譲渡では原則として承継されず、買い手が自ら取得し直す必要があります。要件を満たす人的体制(専任技術者、管理者など)を確保できるか、取得までにどれだけ期間がかかるかを事前に確認し、クロージングの前提条件として契約に織り込んでおきます。許認可が事業の生命線である業種では、この一点で株式譲渡が選ばれることも珍しくありません。
  • 従業員の個別同意:事業譲渡で従業員を移すには、一人ひとりの同意が必要です。同意が得られなければ売り手会社に残ることになり、事業の引継ぎに支障が出ます。同意を得るには、雇用条件(賃金、勤続年数の通算、退職金、役職)をどう扱うかを具体的に示す必要があり、そのために公表のタイミングを慎重に設計します。キーパーソンが移らなければ事業価値そのものが落ちるため、買い手は主要人材の同意取得をクロージング条件にすることがあります。
  • 取引先の同意条項:主要取引先との契約に「相手方の承諾なく契約上の地位を移転できない」旨の条項があるのが通常です。事業譲渡では一件ずつ同意を取ることになり、この過程で価格改定や取引条件の見直しを求められることもあります。株式譲渡でも、支配株主の交代を解約事由とするチェンジ・オブ・コントロール条項があれば同様の交渉が必要になるため、主要契約の条項確認は売却前の磨き上げの段階で済ませておくのが理想です。
  • 賃貸借契約の承継:店舗や工場の賃貸借契約は、貸主の承諾なく移転できないのが通常です。承諾料を求められたり、保証人の差し替えや敷金の再差入れが必要になったりします。立地が事業価値の中心である店舗業では、貸主の承諾が得られるかが取引成立の前提条件になります。
  • 契約書の記載:事業譲渡契約書では、承継する資産・負債・契約・従業員を個別に列挙します。列挙から漏れたものは移転しないため、別紙のリスト作成が実務の中心作業になります。あわせて、譲渡価額の資産ごとの配分と消費税の内訳、クロージングの前提条件、競業避止義務(会社法上の規定と契約上の合意)、表明保証と補償の範囲、移行期間中のサポートを定めます。株式譲渡契約の要点は株式譲渡契約書の要点で解説しています。
  • 屋号・会社名の扱い:譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用する場合、譲渡人の事業上の債務についても弁済責任を負う可能性がある旨の規定が会社法にあります。屋号を引き継ぐかどうかは、法務面からも整理が必要です。

スキームを決める前に、価値のレンジを把握する

どちらのスキームを選ぶにしても、出発点は対象の価値がどのくらいかを把握することです。株式譲渡なら会社全体の株式価値、事業譲渡なら対象事業の価値(のれんを含む)を見積もることになり、評価の対象が異なります。企業価値と株式価値の関係は企業価値と株式価値の違いで整理しています。

価値のレンジが分かっていれば、「事業譲渡なら税負担が重くなる分、価格をいくら上乗せしてもらう必要があるか」といった交渉の土台を持てます。逆に価値の見当がつかないまま買い手が提示したスキームに乗ると、税負担の差を価格に反映させる機会を失いかねません。

よくある質問(FAQ)

Q. 中小M&Aではどちらのスキームが多いですか?

A. 手続きが比較的シンプルで、従業員・取引先・許認可をそのまま引き継げる株式譲渡が中心です。事業譲渡は、一部事業だけを切り出す場合、買い手が簿外債務を強く警戒する場合、株主が分散していて株式をまとめられない場合など、事情があるときに選ばれることが多くなります。

Q. 売り手にとって、税金はどちらが有利ですか?

A. 一般には株式譲渡のほうが有利になりやすいと言えます。個人株主の株式譲渡益は執筆時点で20.315%の申告分離課税で完結するのに対し、事業譲渡は会社に法人税等がかかり、資金を個人に移す段階でもう一度課税されるためです。ただし繰越欠損金がある場合や、役員退職金を活用できる場合には差が縮まります。実際の有利不利は必ず税理士に個別試算を依頼してください。

Q. 事業譲渡では、従業員は自動的に引き継がれますか?

A. 自動的には引き継がれません。転籍には従業員一人ひとりの同意が必要です。同意しない従業員は売り手会社に残るため、雇用条件をどう提示するか、いつ説明するかを買い手と事前に設計しておくことが重要になります。株式譲渡であれば、雇用契約の相手は会社のままなので個別同意は原則不要です。

Q. 許認可は引き継げますか?

A. 株式譲渡では会社が許認可を保有したままなので、原則として継続します(役員変更の届出などは必要です)。事業譲渡では承継できないものが多く、買い手が新たに取得し直すのが原則です。ただし業種によっては地位承継の手続きが用意されている場合もあるため、所管する行政庁への事前確認が欠かせません。取得に数ヶ月かかる許認可もあるので、スケジュールに織り込む必要があります。

Q. 事業譲渡に株主総会の決議は必要ですか?

A. 事業の全部または重要な一部を譲渡する場合、売り手側では原則として株主総会の特別決議が必要とされています。反対する株主には株式買取請求権が認められています。一定の要件を満たす小規模な譲渡については簡易な手続きが認められる場合もあります。買い手側でも、他社の事業の全部を譲り受ける場合には決議が必要となることがあります。具体的な要否は弁護士に確認してください。

Q. 買い手が事業譲渡を希望してきました。応じるべきでしょうか?

A. 頭ごなしに断る必要はありませんが、税負担が増える分を価格に反映させる交渉が前提になります。買い手には、簿外債務の遮断とのれんの税務償却という明確なメリットがあります。売り手側は、株式譲渡と事業譲渡それぞれの手取りを試算して差額を示し、その差を踏まえた価格を提示するのが建設的です。手取りベースで比較する姿勢が、納得のいく着地につながります。

まとめ

事業譲渡と株式譲渡の違いは、「事業という中身を個別に売るか、会社という器ごと売るか」の一点から生まれます。株式譲渡は包括承継なので従業員・取引先契約・許認可がそのまま残り、手続きも軽く、売り手は個人として一段階の分離課税(執筆時点で20.315%)で完結します。事業譲渡は承継対象を選べる代わりに、契約・雇用・許認可を一つずつ移す手間がかかり、法人税と個人への移転時の課税で二重課税になりやすく、消費税や不動産の流通課税も加わります。

だからこそ中小企業のM&Aでは株式譲渡が原則となり、一部事業の切り出し、簿外債務の遮断、株主の分散、繰越欠損金の活用といった事情があるときに事業譲渡が選ばれます。どちらを選ぶ場合でも、譲渡価額ではなく最終的な手取りで比較すること、そしてその前提として自社や対象事業の価値レンジを把握しておくことが、後悔しないスキーム選択の鍵になります。税務・法務の最終判断は、必ず税理士・弁護士などの専門家に確認してください。

「M&Aバリュークラウド」では、財務データを入力するとDCF法・類似会社比較法・純資産法で株式価値のレンジを算定し、PDF報告書にまとめます(簡易版2,200円・詳細版5,500円、税込)。登録と試算は無料です。スキームを検討する前提として、まず自社の価値の目安を確認してみてください。無料で登録して試算する

自社の価値を、まずは無料で試算

DCF法・類似会社比較法・時価純資産法による評価レンジを最短数分で。登録・シミュレーションは無料です。