事業承継・M&A補助金(旧・事業承継引継ぎ補助金)とは? 枠の違いと申請の流れ

最終更新: 2026-09-12

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事業承継・M&A補助金は、事業承継やM&Aを契機に新しい取り組みに踏み出す中小企業・小規模事業者を支援する国の補助金です。従来「事業承継・引継ぎ補助金」と呼ばれていた制度が改称されたもので、名称は変わっても、承継や引継ぎに伴う費用の一部を補助して世代交代と事業の存続を後押しするという目的は共通しています。

この補助金の特徴は、承継の局面ごとに複数の「枠」が用意されている点です。承継後の設備投資を支援する枠、M&Aの専門家費用を支援する枠、統合作業(PMI)を支援する枠、そして、やむを得ない廃業を伴う場合を支援する枠があり、自社がどの局面にいるかで使う枠が変わります。本稿では、4つの枠の違いを表で整理したうえで、申請の流れを順を追って解説し、実務で特につまずきやすい落とし穴をまとめます。

補助金の枠の構成、対象者・対象経費の範囲、補助率や上限額、加点項目、公募のスケジュールは、年度ごとに見直されます。本稿は制度の考え方と進め方を理解していただくための一般的な解説であり、具体的な金額・率・期限には触れていません。実際に申請を検討する際は、必ずその年度の最新の公募要領を確認し、認定経営革新等支援機関や税理士などの専門家にご相談ください。

この補助金の目的:承継を「乗り切る」ではなく「伸ばす」ための制度

経営者の高齢化と後継者不在は、日本の中小企業にとって長く続く課題です。国は、後継者がいない企業の事業を第三者に引き継ぐこと(第三者承継・M&A)と、承継を機に新しい取り組みへ投資することの両面を政策として支援してきました。事業承継・M&A補助金は、その中心にある費用面の支援策です。

制度設計で意識されているのは、承継そのものが目的化しないことです。単に経営者が交代するだけでなく、その機会に設備を入れ替える、販路を広げる、新しいサービスを始めるといった前向きな変化を伴うことが期待されています。事業計画に「承継後に何をするのか」を書かせる構成になっているのも、この考え方の表れです。

また、M&Aを行う際に必要となる仲介・FAへの手数料やデューデリジェンス費用は、規模の小さい会社ほど負担感が大きくなります。専門家費用を支援する枠は、費用の壁で第三者承継が進まない状況を緩和する狙いがあります。費用の相場感はM&A仲介手数料の相場で解説しています。

4つの枠の違い

枠の名称や細かな類型は年度によって整理し直されることがありますが、大きくは次の4つに分けて理解しておくと迷いにくくなります。

対象者のイメージ対象経費のイメージ典型的な使い方
事業承継促進枠親族内承継・従業員承継を予定している、または承継を終えたばかりの中小企業設備投資、店舗や工場の改装、システム導入、販路開拓に伴う費用など先代から引き継いだ後継者が、老朽化した設備を入れ替えて生産性を上げる
専門家活用枠M&Aで事業を譲り渡す売り手、または譲り受ける買い手仲介・FAへの手数料、デューデリジェンス費用、企業評価、契約書作成などの専門家費用売り手が仲介会社に依頼して買い手を探し、成約までの費用の一部に充てる
PMI推進枠M&Aを実行した、または実行予定の買い手統合作業に関する専門家費用、業務プロセスやシステムの統合に伴う費用など買収した会社の会計・人事の仕組みを自社に合わせて整える
廃業・再チャレンジ枠承継やM&Aに伴い一部または全部の廃業を行う事業者、再挑戦を目指す経営者廃業に伴う原状回復費用、在庫や設備の処分費用、専門家への相談費用など事業の一部だけを譲渡し、残った拠点を閉じる際の費用に充てる

枠は排他的に運用されるものばかりではなく、たとえばM&Aで会社を譲り受けた買い手が、専門家活用の枠とPMIの枠を段階的に検討するといった使い方も考えられます。ただし、同じ経費を複数の補助で重複して受けることはできないのが原則です。どの枠にどの経費を割り当てるかは、公募要領の定義に沿って整理する必要があります。

事業承継促進枠:承継を機に投資する後継者向け

親族や社内の後継者に引き継ぐケースで、承継後の新しい取り組みに使う枠です。経営者の交代という節目に合わせて、老朽化した設備の更新、業務のデジタル化、新商品の開発、販路の開拓などを行う計画が想定されています。承継の時期と投資の時期が公募要領の定める期間の範囲に収まっているかが、まず確認すべき点です。

親族内承継では株式の移転に伴う税負担が論点になることが多く、補助金とは別に事業承継税制の検討が並行して必要になる場合があります。自社株の評価の考え方は事業承継における株価算定で解説しています。

専門家活用枠:M&Aの手数料・調査費用を支援する

第三者へのM&Aを進めるうえで発生する専門家費用を対象とする枠で、売り手・買い手のどちらの立場でも検討できます。M&Aの実務では、仲介やFAへの報酬、財務・税務・法務のデューデリジェンス、株式価値の算定、契約書の作成といった費用が積み上がります。特に小規模な案件では、これらの費用が譲渡価格に対して相対的に重くなり、検討自体をためらう要因になりがちです。

この枠を使う場合に最も重要な要件が、M&A支援機関登録制度に登録された事業者を利用することです。登録されていない事業者に支払った費用は対象外になりうるため、依頼先を決める段階で確認しておく必要があります。仲介とFAの立場の違いはM&A仲介とFAの違い、選定の観点はM&A仲介会社の選び方を参考にしてください。調査の内容と費用感はデューデリジェンスとはで整理しています。

PMI推進枠:買収後の統合に伴う費用を支援する

M&Aは契約して終わりではなく、統合(PMI)がうまくいかなければ期待した効果は出ません。人事制度や給与体系の違い、会計処理の方法、システムの重複、取引先や従業員への説明といった課題を、買収後の限られた期間で整理していく必要があります。この枠は、その統合作業に外部の力を借りるための費用を支援するものです。

統合で押さえるべき論点の全体像はPMIとはで解説しています。統合の計画は、買収前のデューデリジェンスの段階から検討を始めておくと、補助金の申請時にも説得力のある事業計画を書きやすくなります。

廃業・再チャレンジ枠:整理を伴う承継を支える

すべての事業を引き継げるとは限りません。採算の合わない拠点を閉じたうえで主力事業だけを譲渡する、あるいは、M&Aでの引継ぎが成立せず廃業を選ぶといった場面で、原状回復費用や在庫・設備の処分費用などを対象とする枠です。他の枠と併せて申請する類型が設けられることもあります。

なお、財務内容が健全なうちに事業を終える「黒字廃業」は、雇用や取引先の観点から社会的な損失も大きく、まずは引継ぎの可能性を検討する価値があります。判断材料は黒字廃業とは、後継者不在時の選択肢の比較は後継者不在の場合の選択肢をご覧ください。

申請の流れ:交付決定より前に発注しないことが最大の鉄則

補助金の手続きは、一般的な買い物とは順序が違います。「先に契約して、後から補助金を申請する」ことができないのが最大の特徴です。全体の流れを段階ごとに整理します。

段階やることつまずきやすい点
1. 公募要領の確認その年度の公募要領を入手し、枠・対象者・対象経費・スケジュールを確認する前年度の情報で進めてしまい、要件や枠の構成が変わっていることに気づかない
2. GビズIDの準備電子申請に必要なアカウントを取得する発行までに時間がかかるため、公募開始後に着手すると締切に間に合わない
3. 事業計画の作成承継・M&Aの内容と、その後に取り組むことを計画として書き起こす設備の必要性や効果の説明が抽象的で、審査で評価されにくい
4. 申請必要書類をそろえ、公募期間内に電子申請する添付書類の不足や記載の不整合による形式不備
5. 採択審査を経て採択の可否が通知される採択されただけで発注してしまう(まだ交付決定ではない)
6. 交付決定経費の内容が確認され、正式に交付が決定される交付決定の通知日を確認せずに動き、対象外の経費が発生する
7. 契約・発注・支払い交付決定後に契約・発注し、期限内に事業を実施して支払いを済ませる支払いが期限をまたぐ、現金払いで証拠が残らない
8. 実績報告実施内容と支払いの証拠書類をそろえて報告する見積書・契約書・請求書・振込記録の一連がそろわず、経費が認められない
9. 補助金の受領確定検査を経て金額が確定し、後日入金される入金までの資金繰りを見込んでいない
10. 事後の対応取得財産の管理、一定期間の状況報告などに対応する報告義務や処分制限の存在を知らず、設備を早期に売却してしまう

公募要領の確認とスケジュールの逆算

最初にやるべきは、その年度の公募要領を通読し、自社が対象になるか、やりたいことが対象経費に含まれるかを確認することです。あわせて、公募の締切、交付決定の見込み時期、事業を実施できる期間、実績報告の期限をカレンダーに落とし込みます。M&Aのクロージング時期や設備の納期と噛み合うかを、この段階で確かめておくと後の手戻りを防げます。

GビズIDの準備

電子申請には、行政サービスへの共通のログインに使うGビズIDが必要になるのが一般的です。発行には申請から一定の期間がかかるため、公募が始まってから取得を始めると締切に間に合わないおそれがあります。補助金の活用を少しでも考えているなら、公募を待たずに取得を済ませておくのが安全です。

事業計画の作成

審査で見られるのは、承継やM&Aの内容そのものよりも、それによって事業がどう良くなるのかという筋道です。次のような点を、数字と具体的な行動で説明できるかがポイントになります。

  • 現状の課題は何か(設備の老朽化、人手不足、取引先の集中など)。
  • 承継・M&Aによって何が変わるのか(技術の承継、販路の拡大、仕入の効率化など)。
  • 補助対象の経費が、その変化にどう必要なのか。
  • 実施後にどのような成果を見込むのか、その根拠は何か。
  • 実施体制とスケジュールに無理がないか。

M&Aを伴う場合、対象事業や自社の価値の目安を把握しておくと、計画の記述に具体性が出ます。価値の考え方は会社はいくらで売れるのか、簡便な試算は年倍法シミュレーターが参考になります。

採択と交付決定は別物

実務で最も誤解が多いのがここです。「採択」は審査を通過したという通知であり、「交付決定」は経費の内容が確認されて正式に補助が決まった状態です。この2つの間には時間差があり、交付決定より前に契約・発注した経費は原則として対象外になります。採択の連絡を受けて安心し、その勢いで発注してしまうと、補助を受けられない事態になりかねません。

実績報告と受領

事業を実施したら、内容と支払いを証拠書類とともに報告します。ここで求められるのは、見積書、発注書や契約書、納品書、請求書、振込記録といった一連の書類です。金額が合っているだけでなく、日付が交付決定の後になっているか、実施期間内に支払いが完了しているかまで確認されます。書類がそろわない経費は認められないことがあるため、進行中から整理しておくことが大切です。

実務でつまずきやすい落とし穴

  • 交付決定前の発注は対象外:最も多い失敗です。仲介契約の締結日、設備の発注日、着手金の支払日などが交付決定より前になっていないか、日付単位で確認してください。すでに契約済みの費用を後から補助対象にすることは原則できません。
  • 専門家活用枠は登録支援機関の利用が要件:M&A支援機関登録制度に登録された事業者への支払いであることが求められてきました。依頼先を決めてから気づくと変更が難しいため、面談の段階で登録の有無を確認しておきましょう。制度の位置づけはM&A・事業承継の公的支援まとめで解説しています。
  • 補助金は原則として課税対象:受け取った補助金は、原則として会社の益金(収入)に算入されます。固定資産の取得に充てた場合に圧縮記帳を検討できることもありますが、扱いは個別に異なるため税理士に確認してください。関連する税制の全体像はM&Aの減税措置・税制優遇で整理しています。
  • 証拠書類の保存義務:補助事業に関する書類は、事業終了後も一定期間の保存が求められます。会計検査などで提示を求められる可能性があるため、専用のファイルにまとめて保管しておくのが実務的です。
  • 公募期間が短い:公募から締切までの期間は長くありません。事業計画を一から書き始めると間に合わないことがあるため、公募を待つ間に構想と数字を準備しておくのが現実的です。
  • 後払いによる資金繰り:補助金は原則として実績報告と検査を経た後の入金です。支払いから入金までの期間、自社で資金を手当てできるかを事前に確認しておく必要があります。
  • 採択されない可能性がある:申請すれば必ず受け取れるものではありません。補助金が下りることを前提とした資金計画は避け、不採択の場合にどうするかも考えておきましょう。
  • M&A自体が不成立になる場合の扱い:専門家活用枠では、成約に至らなかった場合の取り扱いが公募要領に定められることがあります。あらかじめ確認しておくと、途中で方針が変わったときに慌てずに済みます。
  • 取得財産の処分制限:補助金で取得した設備などには、一定期間の処分制限や報告義務がかかることがあります。早期の売却や用途変更を予定している場合は注意が必要です。

ほかの補助金との違い

中小企業向けの補助金は複数あり、名前が似ているため混同されがちです。事業承継・M&A補助金は、承継・引継ぎという出来事を起点にしている点が他と異なります。承継やM&Aが計画の前提になっていない取り組みは、たとえ設備投資や販路開拓であっても、この補助金の対象にはなりません。

逆にいえば、設備投資そのものを支援する補助金や、小規模事業者の販路開拓を支援する制度、事業の再構築を支援する制度など、目的の異なる補助金が別に用意されています。自社の取り組みがどの制度の趣旨に最も合うかを見極め、対象経費が重ならないように整理することが重要です。複数の制度に同じ経費を出すことはできません。どれを使うべきか迷う場合は、公的な相談窓口や認定経営革新等支援機関に相談すると整理が早く進みます。相談先の選び方は事業承継の相談先で解説しています。

申請を検討する前にそろえておきたいもの

  • 直近数期分の決算書と、承継・M&Aの計画の概要。
  • GビズIDのアカウント(未取得なら早めに手続き)。
  • 予定している経費の見積書(発注はまだしない)。
  • M&Aを伴う場合、依頼先候補が登録支援機関かどうかの確認結果。
  • 自社または対象事業の価値の目安。手取りベースの感覚は株式譲渡の手取り計算ツールでつかめます。
  • 金融機関との相談状況、個人保証の扱いの見通し。個人保証の論点はM&Aでの個人保証の解除を参照してください。

M&Aの全体スケジュールの中で補助金がどこに位置するかを把握しておくことも大切です。工程の全体像はM&Aによる会社売却の流れ、小規模案件の進め方の特徴はスモールM&Aとはで解説しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 事業承継・引継ぎ補助金と事業承継・M&A補助金は別の制度ですか?

A. 従来「事業承継・引継ぎ補助金」と呼ばれていた制度が「事業承継・M&A補助金」に改称されたもので、支援の目的は共通しています。ただし、名称変更に前後して枠の構成や要件が見直されることがあるため、過去の記事や資料の内容をそのまま前提にせず、その年度の公募要領で確認してください。

Q. いつでも申請できますか?

A. いいえ。公募期間が定められており、期間外の申請はできません。年度内に複数回の公募が行われることもありますが、回によって枠や要件が異なる場合があります。M&Aや設備投資のスケジュールと公募の時期が合うかを、早い段階で確認しておくことが大切です。

Q. すでに仲介会社と契約してしまいましたが、費用を補助してもらえますか?

A. 原則として、交付決定より前に契約・発注した経費は対象外です。したがって、契約済みの費用を後から補助対象にすることは難しいと考えてください。これから発生する費用の一部が対象になる可能性はありますが、判断は公募要領の定めによります。契約前に補助金の利用可否を確認するのが正しい順序です。

Q. 売り手でも専門家活用枠を使えますか?

A. 専門家活用の枠は、譲り渡す側・譲り受ける側の双方が対象として想定されてきました。売り手側では、仲介やFAへの手数料、企業評価、契約書作成などの費用が検討対象になります。対象となる経費の範囲や、売り手・買い手それぞれの要件は年度ごとに定められるため、最新の公募要領を確認してください。

Q. 補助金を受け取ると税金はかかりますか?

A. 受け取った補助金は、原則として会社の益金(収入)に算入され、法人税等の課税対象になります。固定資産の取得に充てた場合には圧縮記帳を検討できることもありますが、適用の可否は個別の事情によります。手元に残る金額を見積もる際は、税負担も織り込んで税理士に確認しておくと安心です。

Q. 採択されやすくなるコツはありますか?

A. 加点項目や評価の観点は年度ごとに定められるため、断定的なことは言えません。一般論として、現状の課題、承継・M&Aによる変化、補助対象経費の必要性、見込む成果とその根拠が、数字と具体的な行動でつながっている計画は説明力があります。まずは公募要領の審査の観点を読み込み、認定経営革新等支援機関や専門家に計画を見てもらうのが確実です。

まとめ

事業承継・M&A補助金は、承継やM&Aを契機とした前向きな取り組みと、その過程で必要になる費用を支援する国の制度です。枠は大きく、承継後の投資を支援する事業承継促進枠、M&Aの専門家費用を支援する専門家活用枠、統合作業を支援するPMI推進枠、整理を伴う場合の廃業・再チャレンジ枠の4つに分けて理解できます。

申請は、公募要領の確認 → GビズIDの準備 → 事業計画の作成 → 申請 → 採択 → 交付決定 → 交付決定後に契約・発注 → 実績報告 → 補助金の受領、という順序で進みます。特に、採択と交付決定は別物であり、交付決定前の発注は対象外になるという点が最大の注意点です。専門家活用枠では登録された支援機関を利用することが要件とされてきたこと、補助金が原則として課税対象であること、証拠書類の保存が求められること、公募期間が短いことも押さえておきましょう。

枠の構成、対象経費、加点項目、補助率や上限は年度ごとに変わります。本稿の内容は全体像をつかむための一般的な整理ですので、実際の申請にあたっては必ず最新の公募要領を確認し、認定経営革新等支援機関や税理士などの専門家にご相談ください。公的支援の全体像はM&A・事業承継の公的支援まとめで整理しています。

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