株価算定ツールの選び方|Excel自作・無料ツール・有料サービス・専門家依頼の比較
最終更新: 2026-09-12
「株価算定 ツール」「企業価値評価 ツール 比較」「バリュエーション ソフト」といったキーワードで探し始める方の多くは、自社(あるいは顧問先・買収候補先)の株価をいくらと見るべきかを、できるだけ手早く、できるだけ納得のいく形で知りたいと考えています。ところが実際に検索してみると、無料の簡易計算ツール、Excelテンプレート、オンラインのレポートサービス、会計事務所や評価機関のサービスが横並びに出てきて、何をどう比べればよいのか分かりにくいのが実情です。
この記事では、特定の事業者を推奨するのではなく、選ぶための軸を整理します。具体的には、①Excelで自作する、②無料の計算ツールを使う、③オンラインの有料レポートサービスを使う、④会計士・税理士・評価機関に依頼する、という4つの選択肢を、費用・所要時間・必要な知識・根拠資料の有無・第三者性・向いている場面・限界の観点で比較します。そのうえで、ツールを比べるときのチェックリスト、無料ツールで分かること/分からないこと、Excel自作でつまずきやすい論点、専門家に依頼すべき場面までを順に見ていきます。
まず決めるのは「何のための株価か」
ツール選びで最初につまずくのは、手段から入ってしまうことです。ツールの機能一覧を見比べる前に、「その数字を、誰に、何のために示すのか」をはっきりさせると、必要な精度と必要なコストが自ずと決まります。同じ「株価算定」という言葉でも、用途によって求められるものはまったく違います。
| 目的 | 求められる水準 | 現実的な選択肢 |
|---|---|---|
| 社内での初期検討・方向性の判断 | 桁とレンジが分かればよい。一点の精緻な数字は不要 | 無料ツール/Excel自作 |
| 取締役会・稟議での説明 | 採用手法と前提条件が第三者に説明できる形で示されていること | 有料レポートサービス/Excel自作+整形 |
| 買い手・売り手との価格交渉 | 複数手法のレンジと、前提を動かしたときの振れ幅 | 有料レポートサービス/専門家依頼 |
| 金融機関・株主への参考説明 | 根拠となるデータの出所と前提の明記 | 有料レポートサービス/専門家依頼 |
| 税務申告(相続・贈与・自己株取得など) | 税務上の評価ルールに沿った計算と、税理士の関与 | 税理士への依頼 |
| 裁判・紛争・少数株主との対立 | 独立した第三者による評価と、意見としての責任 | 評価機関・専門家への依頼 |
つまり、ツールで足りる場面とツールでは足りない場面がはっきり分かれているということです。どの場面でどこまでの資料が必要になるかは、株価算定書が必要になる場面で場面別に整理しています。ここを先に読んでおくと、以下の比較がぐっと使いやすくなります。
よくある失敗は二方向あります。ひとつは、初期検討の段階でいきなり正式な算定書を発注してしまい、方向性が変わったときに費用が無駄になるパターン。もうひとつは、税務や紛争の場面で無料ツールの出力をそのまま使おうとして、後から作り直しになるパターンです。過剰にも過少にもならない選び方が、結果的にいちばん安く早く済みます。
4つの選択肢を比較する
株価算定の手段は、大きく次の4つに分けられます。それぞれの性格を一覧にすると、どこで線を引くべきかが見えてきます。金額・期間は一般的な目安です。
| 観点 | ①Excelで自作 | ②無料の計算ツール | ③有料レポートサービス | ④専門家・評価機関へ依頼 |
|---|---|---|---|---|
| 費用の目安 | 0円(自分の作業時間はかかる) | 0円 | 数千円程度〜が中心 | 一般に数十万円程度〜 |
| 所要時間の目安 | スキル次第で数時間〜数日 | 数分 | 資料が揃っていれば当日中も可能 | 数週間〜1か月以上 |
| 必要な知識 | 高い。手法・会計・Excelモデリングの理解が要る | 低い。入力項目に沿って数値を入れるだけ | 中程度。前提の意味が分かると精度が上がる | 低い。資料提出と質疑対応が中心 |
| 根拠資料(成果物) | 自分で体裁を整える必要がある | 画面上の計算結果のみのことが多い | 前提と手法を記載したPDF等が出る | 詳細な報告書・意見書が出る |
| 第三者性 | 低い(自社・自分の試算) | 低い(ロジックは第三者、前提は自分) | 中程度(ロジックと出典は第三者、前提は自分) | 高い(独立した第三者の判断) |
| 向いている場面 | 仕組みの理解、繰り返しの社内試算 | 桁とレンジの把握、初期のふるい分け | 社内説明・稟議・交渉準備・参考資料 | 税務・裁判・開示・対外的な説明責任 |
| 主な限界 | 計算ミスに気づきにくい/市場データを自力で集める必要 | 前提の明記がなく根拠資料になりにくい | 独立した意見書ではない/入力の質に結果が左右される | 費用と時間がかかる/初期検討には重い |
①Excelで自作する
財務の知識がある方にとって、Excelでの自作は依然として有力な選択肢です。費用がかからず、計算の中身が完全に見えるため、手法の理解が深まります。繰り返し同じ形式で試算する場面(たとえば買収候補を複数比較する、毎期の自社株価をモニタリングする)では、一度作ったモデルが資産になります。
一方で、実務では見えにくいコストがあります。割引率(WACC)の前提となる金利や株式リスクプレミアム、類似会社の倍率といった市場データを自分で集めて更新し続ける必要があり、計算式の誤りは自分では気づきにくいものです。社外に出せる体裁の資料に仕上げるまでの整形作業も、意外に時間を取ります。手順の全体像は自分で企業価値を計算する方法にまとめています。
②無料の計算ツールを使う
Webの無料計算ツールは、必要な項目だけを入力すれば数分で結果が出ます。年買法やEV/EBITDA倍率のような比較的シンプルな手法であれば、無料ツールで出した値と精緻に計算した値の「桁」はそう大きく変わりません。初期のふるい分け、社内での雑談ベースの検討、専門家に相談する前の準備には十分に役立ちます。
限界は、多くの場合前提条件が画面に残らないことです。どの倍率を使い、どの利益をベースにし、有利子負債をどう差し引いたのかが記録されないと、後から「この数字は何ですか」と聞かれたときに答えられません。根拠資料としては使いにくい、と割り切って使うのが現実的です。
③オンラインの有料レポートサービスを使う
入力した財務データをもとに複数手法で算定し、前提条件や出典まで含めたPDFレポートを出力するタイプのサービスです。専門家依頼より大幅に安く速い一方、無料ツールと違って成果物が残る点が特徴です。社内説明や稟議、交渉前の準備といった「説明が必要だが独立した意見書までは求められない」場面に位置づけられます。納期を含めた比較は企業価値評価レポートを即日で用意する方法で整理しています。
注意すべきは、算定ロジックが第三者製でも、入力する数値と将来計画の前提は利用者自身が置くという点です。したがって「独立した第三者の意見」としての性格は持ちません。税務申告や裁判の証拠として使う想定であれば、この選択肢は適しません。
④会計士・税理士・評価機関に依頼する
独立した第三者として評価の妥当性に責任を負ってもらえるのが、専門家依頼の最大の価値です。税務申告に用いる株価、係争中の株式価格、上場会社の開示に伴う意見など、相手方や当局に対して説明責任がある場面では、これ以外の選択肢はありません。費用は一般に数十万円程度からで、規模や検証の深さによってさらに広がります(株価算定の費用相場)。
どの専門家に頼むかも論点です。税務上の株価は税理士、M&Aの交渉を前提とした評価はFAや評価専門会社、というように得意領域が分かれます。依頼先タイプごとの違いは企業価値評価の依頼先の選び方を参考にしてください。
ツールを比べるときのチェックリスト
ここからは、②や③のツール・サービスを具体的に比較するときに見るべき項目です。機能の多さではなく、出てきた数字を説明できるかどうかを基準に見ていくのがコツです。
- 採用手法は3つのアプローチをカバーしているか:インカム(DCF法・収益還元法)、マーケット(類似会社比較法)、コスト(時価純資産法)の3系統に対応しているかを確認します。1手法だけの結果は、その手法の弱点をそのまま被ります。考え方の違いは株式評価の3つのアプローチで解説しています。
- WACC(割引率)の算定根拠が示されるか:DCF法の結果は割引率でほぼ決まります。リスクフリーレート、株式リスクプレミアム、ベータ、負債コスト、資本構成をどこから取ったのかが示されないと、結果の妥当性を検証できません(WACCとは)。
- 類似会社を選べるか、または業種の設定ができるか:倍率法の結果は比較対象の選び方で大きく動きます。上場類似会社を自分で選べるのか、業種平均が自動適用されるのか、どちらの方式かを確認しましょう(類似会社比較法(EV/EBITDA倍率))。
- 感応度分析があるか:割引率や成長率を上下に振ったときに評価額がどう動くかを示す表があると、交渉や社内説明での説得力が違います。一点の数字だけを出すツールは、そこが弱点になります。
- 非上場株式のディスカウントを扱えるか:非上場株式には流動性が低いことによる減価(DLOM)や、支配権の有無による差(コントロールプレミアム/マイノリティディスカウント)という論点があります。扱えるか、扱わないなら明示されているかを確認します(非流動性ディスカウント(DLOM)とは、コントロールプレミアムとは)。
- 前提条件が明記されるか:評価基準日、使用した決算期、正常収益力の調整内容、有利子負債の範囲、非事業用資産の扱い。これらが成果物に書かれていないと、後から検証も説明もできません。
- 成果物の形式:画面表示のみか、PDFで残るか、Excelでダウンロードできるか。稟議や取締役会で回覧するならPDFが実用的です。
- データの取扱い・秘密保持:決算書や事業計画は極めて機微な情報です。利用規約とプライバシーポリシーで、入力データの保存期間、第三者提供の有無、学習利用の有無を確認しましょう。
- サポート・問い合わせ手段:入力項目の意味が分からないときに聞ける窓口があるか。入力の誤りは結果を何倍にもずらすため、実務上は地味に重要です。
このうち、特に優先順位が高いのは「3手法に対応しているか」「前提条件が明記されるか」の2点です。この2つを満たしていれば、多少入力に手間がかかっても、出てきた数字を人に説明できます。逆に、この2つを欠くツールは、どれだけ画面がきれいでも社内外の説明には使えません。
入力に必要な資料が事前に分かっていると、比較検討もスムーズです。どのツールでも共通して求められる項目は企業価値評価に必要なデータ・書類にまとめています。
無料ツールでどこまで分かるか
「無料ツールは意味がないのでは」と思われがちですが、そんなことはありません。用途を限定すれば、無料ツールは十分に実用的です。分かることと分からないことを、はっきり切り分けておきましょう。
分かること:桁とレンジ
年買法(時価純資産+営業利益×年数)、EV/EBITDA倍率法、簡易なDCF法。この3つを回すだけで、自社の価値が「数千万円規模なのか、数億円規模なのか、十数億円規模なのか」という桁は掴めます。さらに、手法ごとに出た値を並べれば、上下のレンジも見えてきます。M&Aの初期検討では、この桁とレンジが分かるだけで判断材料としては足ります。
手法の中身を先に理解しておくと、出てきた数字の意味が分かります。年買法とは、DCF法とはをあわせてご覧ください。
分からないこと:根拠としての使いやすさ
無料ツールの出力は、多くの場合「数字だけ」です。どの利益をベースにしたのか、有利子負債に何を含めたのか、倍率をどこから取ったのかが残らないため、そのまま稟議資料や交渉資料に貼り付けると、必ず「この前提は?」という質問で止まります。無料ツールは自分が判断するための道具であって、他人を説得するための資料ではない、と考えると使い分けを間違えません。
用途別の無料ツール
当サイトでは、目的に応じて次の無料計算ツールを公開しています。いずれも登録不要で、その場で計算できます。
| ツール | 何が分かるか | 使いどころ |
|---|---|---|
| 年買法 計算機(/tools/nenbaiho) | 時価純資産+営業利益×年数の簡易な株式価値 | 中小企業のM&Aで最も広く使われる目安。最初の一手 |
| EV/EBITDA倍率 計算機(/tools/ev-ebitda) | EBITDAに倍率を掛けた企業価値と、そこから求める株式価値 | 同業他社との相対比較。買い手の目線に近い |
| DCF法 計算機(/tools/dcf) | 将来キャッシュフローの現在価値による事業価値 | 成長を織り込みたいとき。割引率の影響を体感できる |
| レーマン方式 計算機(/tools/lehman) | 取引金額に応じた仲介手数料の目安 | 売却時に手元にいくら残るかを考えるとき |
| 手取り額 計算機(/tools/tedori) | 株式譲渡の税金・手数料を差し引いた概算手取り | 譲渡価格と手取りのギャップを把握するとき |
実務上のおすすめは、年買法 計算機とEV/EBITDA倍率 計算機を先に回して2つの値を比べることです。両者が近ければレンジは狭く、大きく離れていれば「資産は厚いが収益力が低い」「収益は出ているが純資産が薄い」といった会社の性格が浮かび上がります。そのうえで将来性を織り込みたければDCF法 計算機を使い、実際に手元に残る金額を知りたければレーマン方式 計算機と手取り額 計算機で仲介手数料と税金を差し引いてみる、という順序が分かりやすいでしょう。
Excelで自作するときに注意すること
自作は自由度が高いぶん、間違えても誰も指摘してくれません。実務でよく見かける落とし穴を5つ挙げます。いずれも、結果が数割〜数倍ずれる原因になります。
1. 事業価値と株式価値の混同
最も多いのがこれです。DCF法や倍率法で最初に出てくるのは事業価値(または企業価値)であって、株主が受け取る株式価値ではありません。事業価値に非事業用資産を加え、有利子負債を差し引いて初めて株式価値になります。この一段を飛ばすと、借入の多い会社では評価額が大きく過大になります。定義の整理は企業価値と株式価値の違いをご確認ください。
2. ネットデットの範囲
差し引く有利子負債の範囲も、判断が分かれるところです。金融機関からの借入だけでなく、リース債務、社債、役員からの借入金を含めるかどうか。逆に現預金を全額控除してよいのか(運転資金として必要な手元資金をどう扱うか)。範囲を決めたら、その定義を必ず前提としてメモに残しておきましょう。
3. 循環参照
WACCを計算するには資本構成(負債と株式の時価比率)が必要ですが、株式の時価はWACCで割り引いて求める――という構造上、Excelでは循環参照が発生しがちです。実務では目標資本構成を固定して計算する、あるいは反復計算を有効にして収束させる、といった対処をします。エラー表示のまま放置すると、気づかないうちにゼロや前回値で計算が進んでしまいます。
4. 税率の置き方
DCF法ではNOPAT(税引後営業利益)を使いますが、ここで使う税率は実効税率です。会社の実際の税負担率(欠損金の繰越控除などで一時的に低い場合がある)をそのまま将来にわたって使ってしまうと、将来のキャッシュフローを過大に見積もることになります。原則は法定実効税率を置き、特殊事情は別途注記するのが安全です。
5. 継続価値(ターミナルバリュー)の比率
DCF法では、予測期間後の価値である継続価値が事業価値の大半を占めるのが通常です。ただし、これが全体の9割を超えるようだと、実質的に永久成長率の設定だけで結果が決まっていることになります。計算後は必ず「継続価値が事業価値の何%か」を確認し、比率が高すぎる場合は予測期間を延ばすか、永久成長率を保守的に置き直しましょう(ターミナルバリューとは)。
有料レポートサービスの位置づけ
本サイトを運営する「M&Aバリュークラウド」は、この記事の分類でいう③オンラインの有料レポートサービスに当たります。立場上どうしても身びいきになりますので、ここでは事実のみを記載します。他社サービスとの優劣を述べるものではありません。
- Excelテンプレートに直近3期の財務データ、事業計画、借入金の内訳などを入力してアップロードすると、株式価値のレンジを算定してPDFレポートを出力します。
- 簡易版(2,200円・税込)は、収益還元法/業種平均倍率による類似会社比較法/時価純資産法の3手法で算定し、A4・5ページのレポートを出力します。
- 詳細版(5,500円・税込)は、DCF法/評価者が選んだ上場類似会社による類似会社比較法/純資産法の3手法に加え、WACCの算定根拠と感応度分析を掲載したA4・6ページのレポートを出力します。
- いずれのレポートも、評価基準日・採用手法・主な前提条件・使用データの出典を明記しています。
- 登録とシミュレーションは無料で、レポートは必要なときだけ購入する形式です。
- 第三者算定機関による意見書(フェアネス・オピニオン)ではありません。入力する数値と将来計画の前提は利用者が置くため、税務申告・裁判・上場会社の開示など、独立した第三者の意見が求められる場面には適しません。
簡易版と詳細版のどちらを選ぶかは、目的次第です。目安レンジの把握なら簡易版、交渉や対外説明を見据えて前提の振れ幅まで示したいなら詳細版が目安になります。判断基準は簡易版と詳細版レポートの選び方で詳しく整理しています。実際の紙面は簡易版レポートのサンプルと詳細版レポートのサンプルで確認できます。
なお、稟議に添付する資料として株価算定書を用意する場合の考え方は稟議に使う株価算定書にまとめています。社内の承認プロセスで何が問われるかを先に把握しておくと、簡易版で足りるか詳細版が要るかの判断がしやすくなります。
専門家に依頼すべき場面
どれだけツールが便利になっても、ツールでは代替できない領域があります。次のいずれかに当てはまるなら、費用と時間をかけてでも専門家に依頼するのが結果的に安全です。
| 場面 | なぜツールでは足りないか | 主な依頼先 |
|---|---|---|
| 相続・贈与・自己株取得などの税務 | 税務上の株価は財産評価基本通達などのルールに従う必要があり、M&Aの時価とは考え方が異なる | 税理士 |
| 裁判・株式買取請求などの紛争 | 相手方の反論に耐える独立性と、評価者としての責任が求められる | 評価専門会社・公認会計士 |
| 利益相反が生じる取引(MBO、親子間取引など) | 当事者が自ら算定した数字は、手続きの公正性を担保できない | 第三者算定機関 |
| 上場会社の開示・株主への説明責任 | 開示のルール上、独立した第三者の意見が必要になる場合がある | 評価専門会社・FA |
| 複雑な資本構成(種類株式・新株予約権など) | 希薄化や優先分配の処理が定型化しておらず、個別の設計に依存する | 評価専門会社・公認会計士 |
税務上の株価は、M&Aで語られる「時価」とは別の体系だと考えたほうが誤解がありません。非上場株式の評価方法の全体像は非上場株式の評価方法で、税理士がどこまで関与するかは株価算定と税理士の役割で解説しています。
逆に言えば、上の表に当てはまらない場面——初期検討、社内説明、稟議、交渉準備、金融機関や株主への参考説明——では、ツールで作った資料が十分に機能します。「専門家に頼むかどうか」ではなく「いつ頼むか」という順序で考えると、コストのかけどころを間違えません。
実務的な進め方の例
最後に、ここまでの整理を踏まえた進め方の一例を示します。もちろん案件によって順序は変わりますが、多くの場合この流れが無駄が少なくなります。
- ステップ1:目的を決める——誰に何のために示す数字なのかを一行で書き出します。ここが曖昧なまま先に進むと、後戻りが発生します。
- ステップ2:資料を集める——直近3期の決算書、借入金の内訳、発行済株式数と自己株式数、あれば事業計画。所要時間の大半はここです。
- ステップ3:無料ツールで桁を掴む——年買法とEV/EBITDAを回し、2つの値の距離から会社の性格を見ます。
- ステップ4:説明が必要なら成果物を作る——稟議や交渉準備の段階になったら、前提が明記されたレポートを用意します。
- ステップ5:必要な場面だけ専門家へ——税務・紛争・利益相反・開示に当たる場面になったら、そこで初めて正式な依頼を検討します。
この進め方の利点は、ステップ3・4で自社の数字を整理しておくと、ステップ5で専門家に依頼する際の資料提出と質疑がスムーズになることです。結果として、外部依頼の納期短縮と費用の抑制にもつながります。
よくある質問(FAQ)
Q. 無料ツールだけで十分でしょうか?
A. 目的によります。自分や社内の少人数で「だいたいいくらか」を把握したいだけなら、無料ツールで十分に足ります。一方、取締役会や金融機関、取引相手など社外の第三者に説明する場面では、前提条件が明記された成果物が必要になるため、無料ツールの画面表示だけでは足りないことが多くなります。まず無料で桁を掴み、説明が必要になった時点で次の手段を検討する、という順序が無駄がありません。
Q. Excelで自作するのとツールを使うのと、どちらが早いですか?
A. 1回だけならツールのほうが圧倒的に早く、モデルを一度作ってしまえば繰り返しの試算はExcelも速くなります。ただしExcelの場合、市場データ(金利や類似会社の倍率)を都度更新する手間と、検算の時間が別途かかります。財務モデリングの経験がある方でも、社外に出せる体裁まで含めると半日〜数日を見ておくのが現実的です。初回はツールで当たりを付け、継続的にモニタリングするならExcelを整備するという併用も有効です。
Q. ツールで作った結果を株価算定書として使えますか?
A. 用途を分けて考える必要があります。社内の意思決定資料や、取引相手への参考資料として、手法と前提を明示したうえで示すことは一般的に行われています。しかし、税務申告に用いる株価、裁判で証拠として提出する評価、上場会社の開示に伴う第三者意見といった場面では、独立した専門家による算定が求められるのが通例です。相手が何を求めているかを事前に確認するのが確実です。詳しくは株価算定書が必要になる場面をご覧ください。
Q. 決算書や事業計画を入力しても、データは安全ですか?
A. サービスによって扱いが異なるため、利用規約とプライバシーポリシーの確認が必須です。見るべきポイントは、①入力データの保存期間と削除の可否、②第三者への提供の有無、③従業員がデータを閲覧する範囲、④通信と保管の暗号化、⑤機械学習など他目的への利用の有無、の5点です。特に譲渡を検討中であることは高い機密性を要する情報ですので、社内で共有する範囲もあわせて決めておきましょう。M&Aにおける秘密保持の実務はNDA(秘密保持契約)とはも参考になります。
Q. 複数の方法を試したほうがよいですか?
A. 試すことを強くおすすめします。企業価値評価に唯一の正解はなく、手法ごとに結果が異なるのが普通です。むしろ、その差そのものが情報になります。たとえば時価純資産法の値が高く収益系の手法が低ければ資産型の会社、逆なら収益力で評価される会社、という具合に、自社がどちらのタイプかが見えてきます。複数手法で出したレンジを持っていると、交渉の場でも一点の数字に振り回されずに済みます。
Q. ツールの結果はどのくらいの精度ですか?
A. 「精度」という言葉は慎重に使う必要があります。企業価値評価は、将来のキャッシュフローや適用倍率という不確実な前提の上に成り立つ推定であり、正解が存在してあとから答え合わせができる類のものではありません。実際の成約価格は、評価額に加えて、買い手とのシナジー、交渉力、タイミング、譲渡条件(表明保証や役員の残留など)で動きます。ツールが出す数字は「合理的な前提を置いたときの目安レンジ」と捉え、一点の数字として扱わないことが大切です。相場観の全体像は会社売却の相場はいくらかもあわせてご覧ください。
まとめ:目的から逆算して選ぶ
株価算定の手段は、Excel自作・無料ツール・有料レポートサービス・専門家依頼の4つに整理できます。優劣があるのではなく、費用・スピード・第三者性のどれを優先するかで最適解が変わるだけです。社内検討なら無料ツールで桁を掴み、稟議や交渉準備なら前提が明記されたレポートを用意し、税務・裁判・利益相反・開示の場面では専門家に依頼する。この線引きさえ間違えなければ、過剰な支出も、作り直しの手戻りも防げます。
ツールを比べるときの軸も、機能の多さではありません。3手法をカバーしているか、WACCと倍率の根拠が示されるか、前提条件が成果物に明記されるか、感応度が見られるか、データの取扱いが明確か。この5点を満たしていれば、出てきた数字を人に説明できます。Excelで自作する場合は、事業価値と株式価値の区別、ネットデットの範囲、循環参照、税率、継続価値の比率という5つの落とし穴に注意してください。
まずは無料の計算ツール(年買法/EV/EBITDA倍率/DCF法/レーマン方式/手取り額)で目安をつかむところから始められます。前提条件まで記載した根拠資料が必要になった場合は、M&Aバリュークラウドの簡易版レポート(2,200円・税込)または詳細版レポート(5,500円・税込)をご利用いただけます。登録とシミュレーションは無料です。完成イメージは簡易版のサンプルと詳細版のサンプルでご確認ください。無料で登録して試算する