ノンネームシート(ティザー)の作り方|記載項目・特定回避のコツ

最終更新: 2026-06-28

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M&A仲介・FAが売り案件を買い手候補に持ち込むとき、最初に渡す資料がノンネームシート(ティザー)です。会社が特定されない範囲で案件の魅力を伝え、買い手の関心を引き出す「入口の1枚」であり、出来栄えが打診の反応率を大きく左右します。本稿では、ノンネームシートの役割・記載項目・特定回避のコツ・作成効率化までを、実務目線で解説します。

ノンネームシートとは(IMとの違い)

ノンネームシートは、譲渡対象の会社名を伏せたまま、業種・地域・規模感・特徴・譲渡理由などを1枚程度にまとめた匿名の概要資料です。NDA(秘密保持契約)の締結前に配布できるのが最大の特徴で、まず広く関心を募り、興味を示した買い手とだけNDAを結んで、より詳しい企業概要書(IM)を開示する——という二段構えの入口を担います。

項目ノンネームシート企業概要書(IM)
会社名伏せる(匿名)開示する(実名)
開示タイミングNDA締結前NDA締結後
分量1枚〜数枚数十ページ
目的関心の喚起・打診本格検討・価格形成

ノンネームシートの記載項目

決まった様式はありませんが、買い手が「自社に合うか」を瞬時に判断できるよう、次の項目を簡潔に並べるのが定番です。

  • 業種・事業内容(特定されない粒度で)
  • 所在地(「関東地方」「西日本」など広めのエリア表記)
  • 売上高・営業利益の規模感(レンジ表記)
  • 従業員数(レンジ)・設立年代
  • 事業の強み・特徴(取引基盤・技術・許認可・シェアなど)
  • 譲渡理由(後継者不在・選択と集中・成長加速 など)
  • 希望スキーム(株式譲渡・事業譲渡)・譲渡割合
  • 想定価格帯(提示する場合・レンジで)

会社が特定されないための書き方のコツ

ノンネームの肝は「魅力は伝わるが、誰の会社かは分からない」絶妙なバランスです。匿名性が破れると、情報漏えいや売り手の信頼喪失に直結します。次の点に注意します。

  • 固有名詞を出さない … 取引先名・ブランド名・社名の一部を書かない
  • 数値はレンジ化 … 「売上12.3億円」ではなく「売上10〜15億円」
  • 地域を広めに … 市区町村まで書くと特定されやすい。地方・地域ブロックで
  • ニッチな表現を一般化 … 業界内で一社しかない特徴は、抽象度を上げて記述
  • 組み合わせで特定されないか確認 … 「業種×地域×規模」が揃うと一社に絞れることがある
特に地方の特徴的な事業は、「業種+地域+売上規模」の3点が揃うだけで関係者には特定されます。書き上げたら、第三者の目で「これで会社を当てられないか」を必ず検証しましょう。

やりがちな失敗

  • 魅力を盛りすぎて、IM開示後の実態とギャップが生じる(後の交渉で不信に)
  • 抽象化しすぎて特徴が伝わらず、関心を引けない
  • 譲渡理由が曖昧で、買い手に不安(簿外債務・業績悪化の懸念)を抱かせる
  • 毎回ゼロから作り、案件ごとに記載粒度がばらつく

「ティザー」という呼び方と役割の再確認

ノンネームシートは、英語では「ティザー(teaser)」と呼ばれます。teaseは「じらす・興味をそそる」という意味で、その名のとおり、詳細を明かさずに買い手の関心を引き出すための資料です。会社名や踏み込んだ数値を伏せながらも、「もっと知りたい」と思わせる——この一見矛盾する要件を1枚に成立させるのが、ティザーづくりの難しさであり、腕の見せどころです。打診先は限られた時間で多くの案件を見ているため、最初の数十秒で「自社に関係があるか」を判断できる構成が求められます。

想定価格は載せるべきか

ノンネームシートに想定価格(希望価格帯)を載せるかは、案件ごとに判断が分かれます。それぞれにメリット・デメリットがあります。

載せる場合載せない場合
メリット価格感の合わない相手を早期に除外でき、打診が効率化価格に縛られず、買い手の評価を引き出せる
デメリット提示額がアンカーになり、上振れを逃すおそれ価格が合わない相手にも時間を使う可能性

一般には、明確な希望価格があり相手を絞りたい場合は価格帯を示し、買い手の評価を広く募りたい場合は載せない、という使い分けになります。載せる場合も、具体的な金額ではなく幅を持たせたレンジで示すのが無難です。

業種別の書き方の工夫

特定回避のさじ加減は業種によって変わります。ニッチな業種ほど、特徴をそのまま書くと一社に絞られやすいため、抽象度の調整が重要です。

  • 製造業 … 製品カテゴリは書いても、特定の取引先名・独自工法の固有名は出さない。技術力は「特定分野で高いシェア」など抽象化
  • IT・ソフトウェア … 提供サービスの種類は示しても、プロダクト名・主要顧客は伏せる。継続課金比率など魅力は数値の粒度を調整
  • 建設・工事 … 許認可・公共/民間の比率は魅力になるが、エリアと組み合わさると特定されやすいので注意
  • 飲食・小売 … 店舗数・エリアの粒度に注意。ブランド名は出さない

良い書き方・悪い書き方(具体例)

同じ内容でも、書き方次第で「特定リスク」と「訴求力」は大きく変わります。簡単な例で比べてみましょう。

観点避けたい書き方望ましい書き方
所在地○○市の老舗東日本/地方中核エリア
売上売上12.3億円売上10〜15億円規模
特徴業界唯一の△△工法を保有特定分野で独自の技術的強みを保有
取引先大手□□社と長年取引上場企業を含む安定した取引基盤

配布の実務とノンネーム後の流れ

ノンネームシートは、買い手ロングリストから絞り込んだショートリストの各社へ配布します。配布段階ではまだ会社が特定されないため、比較的広く打診できますが、それでも「誰に渡したか」を記録し、配布先を管理することが情報管理の基本です。関心を示した相手とはNDAを締結し、そのうえで会社名を開示した企業概要書(IM)を渡して本格検討へ進みます。打診→NDA締結→IM開示という二段構えの入口を、ノンネームシートが担っているわけです。買い手探索全体の進め方は買い手ロングリストの作り方もあわせてご覧ください。

テンプレート化のポイント

ノンネームシートは案件ごとに繰り返し作るため、テンプレート化すると品質が安定し、作成時間も短縮できます。テンプレートに落とし込むとよいのは次の要素です。

  • 記載項目の標準セット(業種・エリア・規模・特徴・譲渡理由・希望条件)
  • 数値のレンジ化ルール(売上・利益・従業員数の刻み)
  • エリア表記の粒度ルール(地方ブロック単位など)
  • 匿名化のチェック観点(固有名・組み合わせ特定の確認)
  • 自社ブランド(ロゴ・連絡先)の白ラベル要素

作成前のチェックリスト

  • 会社名・取引先名・ブランド名など固有名詞を出していないか
  • 数値はレンジ化したか(売上・利益・従業員数)
  • エリア表記は広めにとったか
  • 「業種×地域×規模」の組み合わせで特定されないか
  • 魅力は伝わるか(抽象化しすぎていないか)
  • 譲渡理由は買い手の不安を招かない書き方か
  • 第三者の目で「会社を当てられないか」を検証したか

よくある質問

ノンネームシートはどのくらいの分量にすべきですか?

A4で1枚、多くても数枚程度が目安です。打診先が短時間で要点を把握できることが重要で、情報を詰め込みすぎると匿名性も訴求力も損なわれます。

ノンネームシートとIMの違いは何ですか?

ノンネームシートは会社名を伏せてNDA前に配る関心喚起の資料、IMは会社名を開示してNDA後に渡す詳細資料です。役割と開示タイミングが異なります。IMの作り方は企業概要書(IM)の作り方を参照してください。

想定価格は必ず載せるべきですか?

必須ではありません。相手を絞りたい場合はレンジで示し、買い手の評価を広く募りたい場合は載せない、という使い分けが一般的です。

同じ案件で複数のノンネームを作ってもよいですか?

買い手の類型(同業・周辺業界・ファンドなど)に応じて訴求点を変えた複数バージョンを用意するのは有効です。ただし、いずれも匿名性のルールは共通して守る必要があります。

打診時の添え状(カバーレター)

ノンネームシートを送る際は、本体だけを送りつけるのではなく、短い添え状(カバーレター)を添えると反応率が上がります。添え状では、なぜ貴社に打診したのか(どんなシナジーを想定しているのか)を一言添え、相手に「自社に関係がある話だ」と感じてもらうことが狙いです。定型文を一斉送信するのではなく、相手の事業特性に合わせて一文だけでも調整すると、開封・返信の確率が変わります。もちろん、添え状でも会社が特定される情報は書きません。

反応率を高める3つの工夫

  • 冒頭で結論 … 業種・規模・強み・譲渡理由を最初の数行に凝縮し、続きを読みたくさせる
  • 魅力の言語化 … 「安定した取引基盤」「特定分野での高い技術力」など、買い手目線の価値を具体的に
  • 次のアクションを明示 … 「ご関心があればNDA締結のうえ詳細をご案内します」と、進め方を分かりやすく示す

打診先は多忙で、多くの案件情報に目を通しています。短時間で要点が伝わり、かつ「もう少し知りたい」と思わせる構成が、反応率を左右します。

配布の形式(PDF・メール・フォーム)

ノンネームシートは、PDF化してメールに添付する、あるいはマッチングプラットフォーム上で公開するなど、複数の方法で配布されます。いずれの場合も、誰に・いつ渡したかを記録し、配布先を管理することが情報管理の基本です。メール送信時は宛先の取り違え(CCでの一斉送信など)に注意し、プラットフォーム公開時は、記載内容から会社が特定されないかを改めて確認します。配布チャネルが増えるほど、匿名性の検証は重要になります。

コンプライアンス上の注意

ノンネームシートの作成・配布では、守秘義務と表示の適正さに注意が必要です。売り手から預かった情報は、売却検討の目的の範囲でのみ用い、第三者への漏えいを防ぎます。また、買い手の関心を引きたいあまり、事実と異なる誇大な表現を用いると、後のIM開示やデューデリジェンスで実態とのギャップが露呈し、信頼喪失や交渉決裂を招きます。あくまで事実にもとづき、魅力を「正確に・分かりやすく」伝えることが原則です。

ノンネームシートとロングリストの関係

ノンネームシートは単体で完結するものではなく、買い手探索の一連のプロセスの中で機能します。まずシナジー仮説にもとづいて買い手ロングリストを作り、関心度・実現性で絞り込んだショートリストの各社へノンネームシートで打診します。つまり、誰に届けるか(リスト)と、何を届けるか(ティザー)はセットです。質の高いリストと質の高いティザーがそろって初めて、打診の反応率が最大化されます。M&A全体の流れはM&A仲介の業務フローもご覧ください。

ノンネームシートのサンプル構成

実際のノンネームシートは、おおむね次のような構成にまとめられます。1枚で完結させることを意識し、各項目を簡潔に記載します。

  • 案件番号・作成日(管理用)
  • 業種・事業内容(特定されない粒度で1〜2行)
  • 所在地(地方ブロック)
  • 規模感(売上・営業利益・従業員数をレンジで)
  • 事業の特徴・強み(箇条書きで2〜4点)
  • 譲渡理由(後継者不在・選択と集中 など)
  • 希望スキーム・譲渡割合
  • 想定価格帯(提示する場合のみ・レンジ)
  • 問い合わせ先(自社の連絡先・白ラベル)

この構成をテンプレート化しておけば、案件ごとに内容を差し替えるだけで、粒度のばらつきなく素早く作成できます。

売り手の同意とコミュニケーション

ノンネームシートの内容と配布範囲は、売り手オーナーの同意を得たうえで進めます。とくに、どこまでの情報を出すか(特定されない範囲の線引き)や、打診を避けたい相手の有無は、事前に確認しておくべき重要事項です。匿名とはいえ、情報が出回ること自体に不安を感じるオーナーもいます。「どんな情報を・誰に・どう届けるのか」を丁寧に説明し、納得を得てから打診を始めることが、信頼関係を保つうえで欠かせません。配布後も、反応の状況を共有し、進捗を見える化することで、オーナーの安心につながります。

打診後のフォロー

ノンネームシートを送って終わり、ではありません。一定期間反応がなければ、改めて連絡を取り、関心の有無を確認します。買い手側も多忙で、見落としや検討の保留があるため、適切なタイミングでのフォローが反応を引き出すことがあります。ただし、しつこい催促は逆効果になるため、相手の状況を尊重した節度ある接触を心がけます。関心を示した相手には、速やかにNDAの締結とIM開示に進み、熱量が高いうちに検討を前へ動かします。打診先ごとの反応・検討状況を記録しておくと、フォローの抜け漏れを防げます。

デジタル時代のノンネームシート

近年は、M&Aマッチングプラットフォーム上でノンネーム情報を公開し、能動的に検討する買い手と出会う方法も一般化しています。自社ネットワークでの直接打診と、プラットフォーム経由の探索を組み合わせると、買い手の網羅性が高まります。一方、公開範囲が広がるほど、記載内容から会社が特定されるリスクは増します。チャネルが増えても、匿名性のルール——固有名を出さない、数値はレンジ、エリアは広め、組み合わせ特定を確認——は一貫して守ることが大切です。

まとめ:1枚で関心を引き、匿名性を守る

ノンネームシート(ティザー)は、会社を特定させずに案件の魅力を伝え、買い手の関心を引き出す「入口の1枚」です。魅力の訴求と匿名性の確保という相反する要件を、レンジ表記・抽象化・エリアの粒度調整で両立させるのがポイントです。記載項目を標準化し、匿名化のルールをテンプレートに落とし込めば、案件ごとに品質を保ちながら素早く作成できます。そして、質の高い買い手リストと組み合わせて初めて、打診の反応率が最大化されます。情報管理を徹底し、売り手の同意を得ながら進めることが、信頼につながります。

なお、ノンネームシートは買い手探索の起点にすぎません。関心を引いた後は、NDA締結、IM開示、交渉、デューデリジェンス、最終契約と工程が続きます。入口の1枚で良いスタートを切り、その後の各工程へ滑らかにつなぐことが、成約への近道です。各工程の進め方はM&A仲介の業務フロー、買い手探索の実務は買い手ロングリストの作り方もあわせてご覧ください。良いノンネームシートは、案件全体の好スタートを左右する重要な一歩です。限られた情報量の中で「読みたくなる1枚」をつくる工夫が、買い手探索全体の成果を大きく左右します。

作成を効率化する

ノンネームシートは案件ごとに何度も作るため、項目を定型化し、レンジ表記や匿名化のルールをテンプレートに落とし込むと、品質を保ちながら短時間で量産できます。M&Aバリュークラウドでは、登録した案件情報からノンネームシート(Word)を自社ブランドの白ラベルで生成でき、企業概要書(IM)まで一気通貫で作成できます。まずは無料で始めるか、ノンネームシート・IMの基礎もあわせてご確認ください。

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