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算定方法:株式価値の計算式と前提

M&Aバリュークラウドが作成する株式価値評価報告書の計算方法を、すべて公開します。どの数字がどの式から出ているか、どの前提値を何から取っているかを、報告書と同じ順序で説明します。

1. 算定の基本方針

  • 一般的な評価手法だけを使います。年買法・DCF法・類似会社比較法・純資産法は、中小企業庁「事業承継ガイドライン」や日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」で説明されている手法です。独自の係数や非公開のスコアは使いません。
  • すべて式で検算できます。計算は決まった式で行い、同じ入力からは必ず同じ結果が出ます。報告書には計算の途中の数字をすべて載せています。
  • 使った前提値と出所を報告書に表示します。国債利回りなどの公表値・類似会社のデータ・利用者が入力した値を区別して載せるので、どの数字が何に基づくかを追えます。
簡易版詳細版
結論の手法年買法DCF法と類似会社比較法の併用法
参考として表示類似会社比較法(業種平均倍率)・時価純資産純資産法(簿価)
必要な資料直近の決算書決算書と事業計画、類似する上場会社3社以上
向いている場面売却額の目安をつかむ・初回の打ち合わせ買い手との交渉・社内の検討資料

2. 簡易版:年買法

年買法は、中小企業のM&Aで広く使われている算定方法です。会社の純資産を時価に直したものに、のれん(営業権)として正常な営業利益の数年分を加えます。

株式価値 = 時価純資産 + 正常営業利益 × 3〜5年

時価純資産

時価純資産 = 簿価純資産 + 含み益(不動産・有価証券・その他)− 含み益にかかる税金 − 非支配株主持分
  • 含み益にかかる税金は「含み益 × 実効税率」です。含み損益の合計がマイナスのときは税金を差し引きません。
  • 実効税率は、資本金1億円以下の中小法人が33.58%、それを超える法人が30.62%です(法人税・住民税・事業税等を合わせた標準税率ベース)。報告書ごとに任意の税率も指定できます。

正常営業利益

正常営業利益 = 直近期の営業利益 + 役員報酬の正常化調整 + その他の正常化調整

オーナー経営者の報酬が相場より高い(または低い)場合や、一時的な費用・収益がある場合は、その分を調整して「平常時に稼ぐ力」に直します。調整額と理由は報告書に表示します。正常営業利益が0以下の場合、のれんは0とし、時価純資産だけで評価します。

のれんの年数(3〜5年)

のれんの年数は、買い手が会社の収益力を何年分評価するかを表し、実務では3〜5年が目安とされます。3年を下限、5年を上限として株式価値のレンジを示し、4年を参考の中央値として表示します。年数は理論から一つに決まるものではありません。だからこそ1つの数字ではなく幅で示しています。

  • 上限寄りになりやすい会社:利益が安定している、取引先が分散している、経営者に依存しない組織がある、成長余地がある。
  • 下限寄りになりやすい会社:業績の変動が大きい、特定の取引先や経営者への依存度が高い、設備の更新負担が大きい。

設例

項目金額計算
簿価純資産1億2,000万円決算書の純資産
土地の含み益3,000万円時価 − 帳簿価額
含み益にかかる税金▲1,007万円3,000万円 × 33.58%
時価純資産1億3,993万円
営業利益(直近期)2,000万円決算書
役員報酬の正常化+500万円相場との差額
正常営業利益2,500万円
のれん7,500万〜1億2,500万円2,500万円 × 3〜5年
株式価値2億1,493万〜2億6,493万円時価純資産 + のれん

参考:類似会社比較法(業種平均倍率)

上場企業の業種別の倍率(EV/EBIT・EV/EBITDAの中央値)を正常営業利益に掛けた値も参考として表示します。上場企業の水準には規模や株式の売買のしやすさの分が含まれ、小規模なM&Aの価格水準とは前提が異なるため、結論には含めません。報告書には、どの業種の・いつ集計した・何社分の倍率かを明記します。

3. 詳細版:DCF法と類似会社比較法の併用法

詳細版は、将来の収益力から評価するDCF法と、市場での評価から求める類似会社比較法の2つで株式価値を算定し、両方の結果を合わせて結論を出します。

DCF法

フリーキャッシュフロー = 税引後営業利益 + 減価償却費 − 設備投資 − 運転資本の増加
事業価値 = 各年のフリーキャッシュフローの現在価値 + 継続価値の現在価値
継続価値 = 継続期のフリーキャッシュフロー ÷(WACC − 永久成長率)
  • 事業計画の各年の数字は利用者が入力します。空欄の項目は前の年の値を引き継ぎます。
  • 税引後営業利益の税金は「(営業利益 + 税務調整 − 繰越欠損金の利用額)× 実効税率」で計算します。
  • 割引は各年の期末に発生する前提で行い、継続価値は計画の最終年度末の時点の価値として割り引きます。
  • 永久成長率がWACC以上の場合は継続価値が計算できないため、算定不能と表示します。
株式価値 =(事業価値 + 非事業用資産 − 有利子負債 − 負債に準じる項目 − 非支配株主持分)×(1 − 非流動性ディスカウント)

DCF法の結果は、WACC±0.5%と永久成長率±0.5%の組み合わせで計算した値の最小〜最大をレンジとします。報告書にはWACC±1.0%までの感応度表も載せます。

割引率(WACC)

WACC = 株主資本コスト × 自己資本比率 + 負債コスト ×(1 − 実効税率)× 有利子負債比率
株主資本コスト = 無リスク金利 + β × 市場リスクプレミアム + サイズ・個別リスクプレミアム
  • β:選定した類似会社ごとに、週次の株価とTOPIXの5年分(260週)から推計します。βが0以下、または決定係数が0.05未満の会社は除きます。借入の影響を除いたβの中央値を、対象会社の資本構成に合わせて戻します(ハマダの式)。
  • 資本構成:類似会社の有利子負債÷時価総額の平均(5社以上なら最大と最小を除く)から求めます。利用者が指定することもできます。
  • サイズ・個別リスクプレミアム:公的に定まった数値表がないため、利用者が入力します(空欄は0%)。入力した場合は、その根拠メモを報告書に表示します。

類似会社比較法

  • 利用者が、事業内容が近い上場会社を3社以上選びます。
  • 各社の企業価値(時価総額 + 有利子負債 − 現預金)を営業利益・EBITDAで割った倍率を求め、その中央値を使います。利益がマイナスの会社の倍率は除きます。
  • 売上高が対象会社の50倍を超える会社は、倍率の集計から除きます(売上高が不明な会社は営業利益で比較)。ただし除いた結果が3社未満になる場合は除かず、報告書で注記します。
  • 倍率を掛ける利益は、役員報酬などの正常化調整をした直近期の営業利益・EBITDAです。DCF法と同じく非流動性ディスカウントを適用します。

結論の出し方(併用法)

状況結論とするレンジ
DCF法と類似会社比較法のレンジが重なる重なっている範囲
重ならないDCF法のレンジ(2つの結果が2倍以上離れている場合は注記)
DCF法が算定不能類似会社比較法のレンジ
両方とも算定不能純資産法(簿価)

複数の手法の結果に比率を掛けて平均する方法(加重平均)は、比率の決め方に根拠を示しにくいため採用していません。純資産法(簿価)は参考値として表示します。

4. 前提値の一覧と出所

利用者が値を指定した場合は、指定した値を使います。

前提値使う値出所・決め方
無リスク金利評価時点の10年国債利回り財務省「国債金利情報」
負債コスト評価時点の長期プライムレート日本銀行の公表値
市場リスクプレミアム6.0%専門家への調査で示される日本の水準の上側(下記)
β類似会社のβの中央値を再レバー週次株価とTOPIXの5年分から推計
自己資本比率類似会社の平均有利子負債÷時価総額から算出
サイズ・個別リスクプレミアム利用者が入力(未入力は加算なし)根拠メモを報告書に表示
非流動性ディスカウント利用者が入力(未入力は適用なし)上場会社の評価では適用しない
永久成長率利用者が入力事業計画の前提とあわせて設定
実効税率中小法人33.58%/その他30.62%法人税・住民税・事業税等を合わせた標準税率ベース
のれんの年数(簡易版)3〜5年中小企業M&Aの実務の目安

市場リスクプレミアム6.0%の根拠

IESEビジネススクールのPablo Fernandez教授らが毎年行っている調査(大学教員・アナリスト・企業の財務担当者が実際に使っている値を尋ねるもの)では、2025年の日本の市場リスクプレミアムは、回答36件の平均5.1%・中央値5.7%、回答の範囲は2.8〜6.2%でした。

本サービスの6.0%はこの範囲の上側の値です。市場リスクプレミアムが高いほど割引率が上がり、DCF法の評価額は低めに出ます。売り手に有利な方向へ評価額がふくらまないよう、やや保守的な値を標準としています。案件に応じて利用者が変更することもできます。

出典:Pablo Fernandez, Diego García, Lucía F. Acín「Survey: Market Risk Premium and Risk-Free Rate used for 54 countries in 2025」(IESE Business School、2025年5月)Table 2。論文(PDF)

5. 入力の扱いと算定の限界

  • 決算書の数字・含み益・正常化調整・事業計画は利用者の入力に基づきます。入力内容の正確性について、監査やデューデリジェンスのような検証は行いません。
  • 算定結果は、取引価格の目安を検討するための資料です。実際の取引価格は、買い手との交渉や契約条件によって決まります。
  • 相続税・贈与税の申告に使う「相続税評価額」(財産評価基本通達による評価)とは、目的も計算方法も異なります。税務申告には使えません。
  • 税務・法務の判断が必要な点は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。

6. 見本で検算する

見本の報告書には、ここで説明した計算の途中の数字がすべて載っています。電卓や表計算ソフトで同じ結果になることを確かめられます。

手法ごとの考え方は、ガイドの年買法・DCF法・WACC・類似会社比較法・非流動性ディスカウントで詳しく解説しています。