類似会社比較法とは? EV/EBITDA倍率の選び方と計算手順

最終更新: 2026-09-12

自社の価値を、まずは無料で試算できます。無料で試算 →

類似会社比較法(マルチプル法、類似上場会社法、コンパラブル法とも呼ばれます)は、評価したい会社と事業内容が似た上場企業が市場でどう評価されているかを調べ、その倍率を評価対象に当てはめて価値を求める手法です。「同じような事業なら、同じような倍率で評価されるはずだ」という考え方に立っています。

中小企業の株式には市場価格がありません。だからこそ、市場で日々値がついている上場企業を物差しにする、というのがこの手法の発想です。DCF法のように将来計画を作り込む必要がなく、直近の実績だけで概算できる手軽さもあり、M&Aの初期検討では最初に回される計算になります。

一方で、「どの会社を類似会社に選ぶか」で結果は簡単に2倍にも半分にもなります。手順そのものは単純でも、選定と調整の考え方を理解していないと、根拠のない数字を作ってしまう手法でもあります。本稿では、6つのステップに沿って実務の進め方を整理し、倍率の使い分け、通しの計算例、上場企業の倍率をそのまま非上場に使えない理由までを解説します。手元の数字で試したい方は、登録不要のEV/EBITDA倍率 企業価値計算機を開きながら読み進めてください。

類似会社比較法の位置づけ:3つのアプローチの中のマーケット・アプローチ

企業価値評価の手法は、大きく3つのアプローチに分類されます。

アプローチ考え方代表的な手法主に反映されるもの
マーケット・アプローチ市場での取引実績や市場評価を参照する類似会社比較法、類似取引比較法現在の市場の評価水準
インカム・アプローチ将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法将来の収益力・成長性
コスト・アプローチ保有する資産と負債の価値を積み上げる時価純資産法現時点の資産の裏づけ

類似会社比較法はマーケット・アプローチの代表格です。最大の強みは、「いま市場がその業種をどの水準で評価しているか」がそのまま反映されることです。市況が良ければ倍率は上がり、悪ければ下がります。M&Aの価格は結局のところ買い手がいくら出すかで決まるので、市場の温度感を織り込めるこの手法は、実際の取引価格との親和性が高いといえます。

逆に弱点は、対象会社固有の事情(独自の成長計画、特殊な収益構造、シナジーの有無)を反映できないことです。だからこそ、実務では単独で使わず、DCF法・純資産法と並べて評価レンジを作ります。3つのアプローチの比較は株式評価3つのアプローチの比較、非上場株式の評価方法全体の見取り図は非上場株式の評価方法にまとめています。

算定手順の6ステップ

類似会社比較法は、次の6つのステップで進めます。

ステップ1:類似会社を選定する

事業内容、規模、収益性、成長性、地域といった観点から、評価対象と条件の近い上場企業を選びます。この手法の精度は、ほぼこのステップで決まります。詳しい選定基準は次章で扱います。

ステップ2:財務データを取得する

選んだ各社について、株式時価総額、有利子負債、現預金、EBITDA、営業利益、売上高などを揃えます。ここで注意すべきは時点をそろえることです。時価総額は評価基準日の株価で計算し、財務数値は同じ基準日の直近本決算(または直近12か月の実績)を使います。1社だけ古い決算を使う、1社だけ株価が別の日、といった混在があると倍率が歪みます。

また、決算期がずれている会社を混ぜるときは、四半期開示を使って直近12か月ベースに揃えるか、期ずれを承知のうえで使うかを決めておきます。会計基準が異なる会社(日本基準とIFRS)を混ぜる場合も、のれん償却やリースの扱いで数字が変わることを念頭に置く必要があります。

ステップ3:各社の倍率を算出する

まず各社のEV(事業価値)を計算します。

EV = 株式時価総額 + 有利子負債 − 現金及び現金同等物
EV/EBITDA倍率 = EV ÷ EBITDA

非支配株主持分や優先株がある場合はEVに加算します。ここで求めた倍率が、後で対象会社に当てはめる物差しになります。EBITDAそのものの計算方法はEBITDAとはで詳しく解説しています。

ステップ4:外れ値を除外する

算出した倍率の中には、明らかに他社と水準の違うものが混ざることがあります。一時的に利益が落ち込んで倍率が跳ね上がっている、赤字でマイナスの倍率になっている、買収報道で株価が急騰している、といったケースです。これらをそのまま平均に含めると、代表値が大きく歪みます。除外の考え方は後の章で詳述します。

ステップ5:中央値・四分位で代表値を決める

残った各社の倍率から、対象会社に適用する代表値を決めます。実務で平均値より中央値が好まれるのは、外れ値の影響を受けにくいためです。5社の倍率が4.0倍、4.5倍、5.0倍、5.5倍、15.0倍だった場合、平均は6.8倍ですが中央値は5.0倍です。1社の突出値に引きずられない中央値のほうが、集団の実態を表しています。

さらに、第1四分位(下位25%の位置)と第3四分位(上位25%の位置)を併せて示すと、「この業種の評価水準はおおむねこの幅にある」というレンジで説明できます。評価結果を一点の金額ではなくレンジで示すのは、この手法が本質的に幅を持つものだからです。当サービスの詳細版レポートでも、中央値と四分位を並べて表示しています。

ステップ6:対象会社に適用し、株式価値まで落とす

決めた倍率を対象会社の(正常化後の)EBITDAに掛けて事業価値を求め、そこから株式価値に換算します。

  • 事業価値(EV)= 対象会社のEBITDA × 採用倍率
  • + 非事業用資産(遊休不動産、投資有価証券、生命保険の解約返戻金など)
  • + 現預金 − 有利子負債(= ネットデットの控除)
  • = 株式価値

この換算を間違えると、事業価値と株式価値を取り違えたまま価格交渉に入ってしまいます。両者の関係は企業価値と株式価値の違いで整理しています。

ステップ6の続き:非流動性ディスカウント

上場企業の倍率をそのまま使って求めた株式価値は、「もし対象会社が上場していたら」という前提の価値です。実際には非上場株式はすぐに売れないため、非流動性ディスカウント(DLOM)を適用して調整します。適用の有無と水準は、評価の目的や当事者の合意によって変わります。

類似会社の選び方

繰り返しになりますが、この手法の結論は選定でほぼ決まります。判断の軸は次の5つです。

① 事業内容・ビジネスモデル

最も重視すべき軸です。業種分類が同じでも、収益構造が違えば倍率の水準は変わります。たとえば同じ「システム開発」でも、受託開発中心の会社と、月額課金のサービスを提供する会社では、収益の安定性がまったく違うため市場の評価も違います。「何を売っているか」だけでなく、「どうやって稼いでいるか」まで見て判断します。

複数の事業を持つ会社にも注意が必要です。売上の6割が別事業という会社を類似会社に入れると、その別事業の評価水準が混ざり込みます。セグメント情報を確認し、対象会社と近い事業が主力である会社を選びます。

② 規模

売上高や総資産の規模が近いほど望ましいのですが、非上場の中小企業を評価する場合、規模が近い上場企業はまず見つかりません。この差は選定では埋めきれないため、後の調整(ディスカウント)で扱うことになります。それでも、上場企業の中では比較的規模の小さい会社を選ぶほうが、差は小さくなります。

③ 収益性

営業利益率やEBITDAマージンの水準が近い会社を選びます。利益率が構造的に違う会社は、そもそもビジネスモデルが違う可能性が高く、倍率の比較対象として適切ではありません。

④ 成長性

倍率は成長期待を織り込んで形成されます。売上が年率で大きく伸びている会社には高い倍率がつき、横ばいの会社には低い倍率がつきます。安定成熟している会社を評価するのに、高成長企業ばかりを類似会社に選べば、当然過大な結果が出ます。過去数期の売上・利益の推移を確認して、成長段階の近い会社を選びます。

⑤ 地域・事業展開の範囲

国内中心の会社と海外売上比率の高い会社では、為替や地政学リスクの受け方が違います。また、全国展開の会社と特定地域に密着した会社でも、事業の性質が変わります。国内の中小企業を評価するなら、国内事業が中心の会社を選ぶほうが整合的です。

何社必要か

1社だけを物差しにすると、その会社固有の事情がそのまま結論になってしまいます。中央値を取る意味を持たせるためにも、複数社を並べる必要があります。当サービスでは、有効な倍率が3社以上そろった場合に統計値として採用しています。実務上は5社前後を選ぶことが多く、多ければよいというものでもありません。条件の合わない会社を数合わせで入れると、かえって代表値が歪みます。

類似会社が見つからないとき。ニッチな業種や、日本に同種の上場企業が存在しない業態では、この手法自体が使えないことがあります。その場合は、隣接業種まで範囲を広げたうえで違いを明示する、DCF法時価純資産法に軸足を移す、といった対応をとります。無理に遠い業種の倍率を当てはめるより、「この手法は適用が難しい」と判断するほうが誠実です。

使う倍率の種類と向き不向き

マルチプルはEV/EBITDAだけではありません。何を分母に置くかで、見えるものが変わります。

倍率計算式対応する価値向いているケース注意点
EV/EBITDAEV ÷ EBITDA事業価値買収評価全般。償却方針・資本構成の差をならせる設備投資と運転資本の負担を反映しない
EV/EBITEV ÷ 営業利益事業価値設備投資が重い業種。償却負担を残して比較したいとき会計方針(償却方法)の差がそのまま出る
EV/売上高EV ÷ 売上高事業価値赤字企業、先行投資中の成長企業の概算利益率の差を無視するため精度は低い
PER株価 ÷ 1株当たり純利益株式価値収益が安定した会社。株式価値を直接求めたいとき資本構成・税率・特別損益の影響を受ける
PBR株価 ÷ 1株当たり純資産株式価値金融業、不動産賃貸業など資産が価値の源泉の業種収益力を反映しない。含み損益に左右される

中小企業のM&Aで中心になるのはEV/EBITDAです。減価償却の方法や借入の多寡といった、事業の実力とは別の要因を取り除いて比較できるためです。ただし、設備投資が重い装置産業や運送業では、償却費を足し戻すEBITDAが実態より大きく見えるため、EV/EBITと併用して両者のレンジを確認するのが実務的です。当サービスの詳細版レポートでも、EV/EBITとEV/EBITDAの両方を算出しています。

PERとPBRは株価ベースの指標なので、求まるのは株式価値です。EV系の倍率のようにネットデットを差し引く必要がない代わりに、対象会社と類似会社の財務レバレッジが違うと比較が歪みます。EV系とPER系を併用するときは、それぞれ何の価値を求めているのかを取り違えないよう注意してください。

通しの計算例

実際に最初から最後まで計算してみます。以下の数値はすべて仕組みを説明するための例示であり、特定の業種や実在企業の水準を示すものではありません。

前提

  • 評価対象:非上場の中小企業
  • 正常化後のEBITDA:8,000万円
  • 有利子負債:1億5,000万円/現預金:6,000万円(ネットデット9,000万円)
  • 非事業用資産:遊休不動産と投資有価証券で3,000万円

ステップ1〜3:類似会社5社の倍率

類似会社(仮)EV(例)EBITDA(例)EV/EBITDA倍率
A社180億円40億円4.5倍
B社260億円52億円5.0倍
C社150億円25億円6.0倍
D社320億円58億円5.5倍
E社210億円14億円15.0倍

ステップ4:外れ値の確認

E社の15.0倍は他社と水準が大きく離れています。内容を確認したところ、当期は大型の減損とシステム障害対応費用でEBITDAが一時的に落ち込んでいた、という前提を置きます。この場合、倍率が高いのは市場評価が高いからではなく、分母が一時的に小さくなっているためです。したがってE社は外れ値として除外します。

逆に、E社を除外せずに単純平均を取ると (4.5+5.0+6.0+5.5+15.0)÷5 = 7.2倍となり、実態より高い倍率で評価してしまいます。

ステップ5:代表値の決定

残る4社(4.5倍、5.0倍、5.5倍、6.0倍)から代表値を出します。

統計値計算倍率
最小値4.5倍
第1四分位4.5と5.0の間4.75倍
中央値5.0と5.5の中間5.25倍
第3四分位5.5と6.0の間5.75倍
最大値6.0倍

採用値は中央値の5.25倍とし、四分位(4.75倍〜5.75倍)をレンジとして併記します。

ステップ6:株式価値まで落とす

ステップ計算金額(例)
対象会社の正常化EBITDA8,000万円
採用倍率(中央値)5.25倍
事業価値(EV)8,000万円 × 5.254億2,000万円
+ 非事業用資産+3,000万円
− ネットデット1億5,000万円 − 6,000万円△9,000万円
= 株式価値(ディスカウント前)3億6,000万円
− 非流動性ディスカウント(仮に20%)3億6,000万円 × 20%△7,200万円
= 株式価値の目安2億8,800万円

四分位のレンジ(4.75倍〜5.75倍)で同じ計算をすると、ディスカウント後の株式価値はおおむね2億5,600万円〜3億2,000万円になります。結論はこの幅で示し、「中央値ベースでは約2億9,000万円、レンジは2億6,000万円〜3億2,000万円程度」という形で伝えるのが実務の作法です。

同じ計算を自社の数字で試したい場合は、EV/EBITDA倍率 企業価値計算機にEBITDA・倍率・有利子負債・現預金を入力してください。登録不要・入力データの送信なしで、事業価値と株式価値の目安が確認できます。

EBITDA・倍率・有利子負債・現預金を入力すると、企業価値(EV)と株式価値の目安をその場で計算できます。登録不要で、入力した数値はサーバーに送信されません。単体ページはEV/EBITDA倍率 企業価値計算機からも開けます。

EBITDA・倍率・有利子負債・現預金を入力すると、企業価値(EV)と株式価値の目安を計算します。入力した数値はどこにも送信されません。

企業価値(EV)

25,000万円

EBITDA × 5

株式価値(目安)

25,000万円

EV − 純有利子負債 0万円

株式価値 = 2億5,000万円

倍率企業価値(EV)株式価値
315,000 万円15,000 万円
420,000 万円20,000 万円
525,000 万円25,000 万円
630,000 万円30,000 万円
735,000 万円35,000 万円

※ EV/EBITDA倍率法によるざっくりした目安です。適切な倍率は業種・規模・成長性・類似上場会社によって変わり、非上場会社では非流動性ディスカウント等も考慮します。実際の評価はDCF法・時価純資産法なども併用し、評価レンジで捉えるのが基本です。

外れ値・マイナス倍率の扱い

倍率の集計で最も判断が必要になるのが、異常値の処理です。

マイナスの倍率は使えない

EBITDAが赤字の会社は、EV/EBITDA倍率がマイナスになります。これは「マイナスの倍率で評価されている」という意味ではなく、単に指標として成立していない状態です。マイナス倍率を平均や中央値の計算に含めると、代表値が意味を失います。当サービスでは、0以下の倍率を統計の対象から除外しています。

異常に高い倍率

分母(EBITDA)が一時的に小さくなっていると、倍率は跳ね上がります。大型の減損、災害損失、一過性の費用計上、事業の再編途上といった事情が典型です。また、買収提案や業績上方修正の直後で株価が急騰している会社も、分子が一時的に膨らんでいます。こうしたケースは、市場の評価水準を表しているとは言えないため除外を検討します。

除外の判断で大切なこと

外れ値の除外は、恣意的な操作と紙一重です。「結論を高くしたいから低い倍率を外す」ということをすれば、それはもう評価ではありません。除外にあたっては、次の2点を守る必要があります。

  • 除外の基準を先に決める… 「0以下の倍率は除く」「一過性要因で分母が半減している場合は除く」といったルールを、結果を見る前に決めておきます。
  • 除外した事実と理由を記録する… どの会社をなぜ外したかを開示できる状態にしておきます。第三者が同じ手順を踏めば同じ結論になる、という再現性が信頼性の源です。

除外せずに中央値を使う、という選択も有力です。中央値はもともと外れ値の影響を受けにくいので、明らかな異常値以外は残したままでも代表値は大きく歪みません。評価レポートの読み方については評価レポートの見方もあわせてご覧ください。

上場企業の倍率をそのまま非上場企業に使えない理由

類似会社比較法の最大の論点がここです。物差しにしているのは上場企業ですが、評価対象は非上場企業です。両者の間には、事業内容以外に構造的な違いが3つあります。

① 規模の差

上場企業と中小企業では、事業の分散度、取引先の数、人材の層、資金調達力、外部環境の変化への耐性がまったく違います。特定の取引先に売上の大半を依存している、オーナー個人の人脈で受注している、キーパーソンが抜けたら事業が回らない、といった中小企業特有のリスクは、上場企業の倍率には織り込まれていません。この差を「サイズ・リスク・プレミアム」として調整することもあります。

② 流動性の差

上場株式は市場でいつでも売買でき、換金までの時間もコストも小さい。一方、非上場株式は買い手を自分で探す必要があり、成立までに時間がかかり、そもそも売れないこともあります。この換金のしにくさを価値の減額として反映するのが非流動性ディスカウント(DLOM)です。

③ 支配権の差

上場企業の株価は、少数株主が市場で取引する1株の値段です。これに対してM&Aで取引されるのは、経営権を伴う支配的持分であることがほとんどです。経営権を握れば、役員の選任、配当方針、事業戦略、資産の処分まで自分で決められます。この価値の上乗せがコントロール・プレミアムです。

DLOMとコントロール・プレミアムは逆方向に働きます。流動性の欠如は価値を下げ、支配権の取得は価値を上げます。両方を同時に適用するのか、一方だけを見るのか、あるいは相殺されると考えるのかは、評価の目的と当事者の立場によって判断が分かれる論点です。実務では、どちらをどの水準で適用したかを明示し、適用しない場合はその理由を示すことが求められます。

類似取引比較法との違い

「実際のM&A取引の倍率を参照する」手法もあります。これが類似取引比較法(先行取引比較法)です。同じマーケット・アプローチですが、参照する対象が違います。

類似会社比較法類似取引比較法
参照するもの上場企業の市場評価(株価)過去のM&A取引の成立価格
含まれるプレミアム少数株主ベース。支配権プレミアムは含まない支配権プレミアムやシナジー期待を含んだ価格
データの入手上場企業の開示情報から算定できる取引条件が非開示のことが多く、把握が難しい
時点評価基準日の最新の市場評価過去の取引時点の市況を反映
主な用途評価の基準となるレンジづくり実際の取引価格水準の裏づけ・補完

類似取引比較法は、実際に成立した価格を見るので説得力がありますが、非上場企業同士の取引は条件が公表されないことが多く、使えるデータが限られます。また、取引ごとに買い手の事情(どうしても欲しかった、競合と競り合った)が価格に乗っているため、水準がばらつきます。実務では、類似会社比較法を軸に据え、参考情報として類似取引の水準に触れる、という組み立てが多くとられます。

よくある質問(FAQ)

Q. 類似会社は何社選べばよいですか?

A. 中央値を取る意味を持たせるには複数社が必要で、当サービスでは有効な倍率が3社以上そろったときに統計値として採用しています。実務では5社前後を選ぶことが多く見られます。ただし、数を増やすこと自体が目的ではありません。条件の合わない会社を数合わせで加えると、かえって代表値が実態から離れます。「事業内容が近い会社が3社しかない」という状況なら、無理に広げず3社で算定し、サンプルが限られる点を明記するほうが誠実です。

Q. 平均値と中央値のどちらを使うべきですか?

A. 実務では中央値が一般的です。倍率の分布は一部の会社が突出して高くなりやすく、平均値はその影響を強く受けるためです。上位1社の倍率が他社の3倍あるようなケースでは、平均値は集団の実態を表しません。中央値に加えて第1四分位・第3四分位を示せば、ばらつきの大きさも伝わります。サンプル数が少ないときほど、一点の数値ではなくレンジで示すことが重要になります。

Q. 使うのは実績のEBITDAですか、予想のEBITDAですか?

A. どちらもありえます。直近の実績(過去12か月)を使う方法は、確定した数字に基づくため検証しやすいという利点があります。一方、株価は将来の期待を織り込んで形成されているので、理論的には予想値との対応のほうが整合的です。重要なのは、類似会社と対象会社で時点をそろえることです。類似会社の倍率を予想ベースで算出したなら、対象会社にも予想EBITDAを掛けます。実績と予想を混ぜると、成長分を二重に評価したり逆に無視したりすることになります。中小企業では信頼できる予想が作りにくいため、実績ベースで算定することが多くなります。

Q. 非流動性ディスカウントは必ず適用するのですか?

A. 常に適用するとは限りません。評価の目的(M&Aの価格検討か、税務上の評価か、裁判上の争いかなど)や、取得する持分の性質によって扱いが変わります。100%の株式を取得する取引では、支配権の価値との相殺を考える立場もあります。実務上大切なのは、適用したかどうかと、その水準の考え方を明示することです。「なんとなく30%引いた」では説明になりません。詳しくは非流動性ディスカウントの記事をご覧ください。

Q. 対象会社のEBITDAは決算書の数字をそのまま使ってよいですか?

A. 中小企業ではそのまま使わないのが原則です。オーナー企業の決算書には、市場水準から乖離した役員報酬、実態のない親族給与、私的な経費、一時的な損益などが含まれます。これらを引き直した正常化EBITDAに倍率を掛けます。倍率が5倍なら、正常化で1,000万円の差が出れば価値は5,000万円動きます。調整の考え方はEBITDAとはの記事で具体例つきで解説しています。

Q. 類似会社比較法とDCF法で結果が違うときはどうしますか?

A. 結果が違うのは異常ではなく、むしろ普通です。類似会社比較法は「いまの市場がこの業種をどう見ているか」を、DCF法は「この会社が将来どれだけ稼ぐか」を反映しており、見ている角度が違うからです。差が出たら、どちらが正しいかを決めるのではなく、なぜ差が出たのかを説明できるようにすることが重要です。DCF法のほうが高いなら、事業計画が類似会社の成長期待より強気になっている可能性があります。逆に低いなら、市況が良好で倍率が高めに形成されている可能性があります。実務では、両手法と時価純資産法を並べて評価レンジを作り、その中で交渉するのが一般的です。

まとめ

類似会社比較法は、事業内容の近い上場企業の市場評価(倍率)を物差しに、評価対象の価値を推定する手法です。手順は、①類似会社の選定 → ②財務データの取得 → ③倍率の算出 → ④外れ値の除外 → ⑤中央値・四分位の算定 → ⑥対象会社への適用と株式価値への換算・ディスカウント、の6ステップです。

押さえるべき要点は3つあります。第一に、結論は類似会社の選定でほぼ決まるため、事業内容・規模・収益性・成長性・地域の観点から丁寧に選ぶこと。第二に、外れ値やマイナス倍率の扱いは基準を先に決め、除外の理由を記録して再現性を確保すること。第三に、上場企業の倍率をそのまま非上場企業に使うことはできず、規模・流動性・支配権の差を明示的に調整する必要があることです。

そして、この手法の結論は一点の金額ではなく幅です。中央値と四分位でレンジを示し、DCF法時価純資産法と並べて多面的に確認するのが、実務での基本の進め方になります。

「M&Aバリュークラウド」の詳細版レポート(5,500円・税込)は、類似する上場会社を選定してEV/EBIT・EV/EBITDA倍率の中央値と四分位を算出し、DCF法・純資産法と並べた評価レンジをPDFにまとめます。完成イメージは詳細版レポートのサンプルでご確認いただけます。登録と試算は無料です。まずはEV/EBITDA倍率 企業価値計算機で手元の数字を入れてみるところから始めてみてください。無料で登録して試算する

自社の価値を、まずは無料で試算

DCF法・類似会社比較法・時価純資産法による評価レンジを最短数分で。登録・シミュレーションは無料です。

評価モデルをご自身で組む方へ

業種別β・株式リスクプレミアム・無リスク利子率などの基礎データを、加工可能なExcelにまとめた「評価用データパック」もご用意しています。

評価用データパックを見る →