類似会社比較法とEV/EBITDA倍率の考え方
最終更新: 2026-06-18
類似会社比較法(マルチプル法/類似上場会社法)は、事業内容が似た上場企業の市場評価(倍率=マルチプル)を参照し、評価対象に当てはめて価値を求める手法です。マーケット・アプローチの代表格で、「市場が今その業種をどの水準で評価しているか」を反映できるのが強みです。M&Aの初期検討では、DCF法と並んでよく使われます。
本稿では、EV/EBITDAをはじめとする主要なマルチプルの意味から、類似会社の選び方、算定手順、数値例、注意点までを解説します。
EVとマルチプルの基礎
まず前提となるのがEV(Enterprise Value=事業価値)です。EV=株式時価総額+有利子負債−現金等で、買い手が事業を丸ごと取得するのに必要な価値の目安を表します。このEVが、利益指標の何倍かを示すのがマルチプルです。たとえば「EV/EBITDA=7倍」なら、その業種ではEBITDAの約7倍で事業が評価されている、という見方になります。
主なマルチプルの種類
| 指標 | 意味 | 特徴・使いどころ |
|---|---|---|
| EV/EBITDA | 事業価値 ÷ EBITDA | 減価償却・設備投資方針の差をならせる。買収評価の定番 |
| EV/EBIT | 事業価値 ÷ 営業利益 | 設備投資負担を加味したい場合に |
| EV/売上高 | 事業価値 ÷ 売上高 | 赤字企業・成長企業の概算に |
| PER | 株価 ÷ 1株当たり純利益 | 株式価値ベース。最終利益で比較 |
| PBR | 株価 ÷ 1株当たり純資産 | 資産価値との比較。金融・資産型に |
中でもEV/EBITDA倍率は、減価償却や設備投資方針の違いをならして比較できるため、買収評価で広く使われます。株式価値ベースの指標としてはPER・PBRもよく参照されます。
算定の手順
- ① 事業・規模・成長段階・収益構造が近い上場類似会社を複数選定する
- ② 各社の市場株価と財務から EV/EBITDA・EV/EBIT 等の倍率を算定(中央値などを採用)
- ③ その倍率を評価対象のEBITDA・EBITに適用して事業価値(EV)を求める
- ④ EVから有利子負債を差し引き、非事業用資産を加えて株式価値を求める(企業価値と株式価値の違い)
- ⑤ 必要に応じて非流動性ディスカウントや規模差の調整を加える
類似会社の選び方が精度を決める
この手法の精度は比較対象の選定でほぼ決まります。選定の主な基準は次のとおりです。
- 事業内容・ビジネスモデルが近いこと(同じ業種でも収益構造が違えば外す)
- 規模が大きく離れていないこと(売上規模の差は倍率に影響する)
- 成長段階・利益率の水準が近いこと
- 特殊要因のある会社(一過性の損益・再編中など)は除く
複数社の中央値を用い、外れ値を除くなどの配慮が必要です。比較対象が乏しいニッチ業種では、この手法の適用自体が難しいこともあります。
簡単な数値例(イメージ)
仕組みを示すための単純化した例・目安です。
事業価値(EV)=1億円 × 6 = 6億円。
有利子負債2億円を差し引くと株式価値の目安は4億円。さらに非流動性ディスカウント(仮に20%)を考慮すると 約3.2億円。
倍率の置き方やディスカウントの有無で結果が動くため、ここでも一点ではなくレンジで捉えます。
類似取引比較法との違い
類似会社比較法が「上場企業の市場株価」を参照するのに対し、過去のM&Aで実際に成立した取引価格の倍率を参照するのが類似取引比較法です。取引比較法には経営権の取得に伴うプレミアムが含まれる傾向があり、両者は性格が異なります。
メリットと注意点
メリットは、市場の相場観を反映でき、事業計画がなくても直近の財務数値から概算できること。スピーディで、DCF法の検証にも使えます。
注意点は、(1) 比較対象の選定で結果が大きく変わる、(2) 市場全体が過熱・低迷していると倍率もその影響を受ける、(3) 非上場株式には流動性の差があるため調整が要る、という点です。単独で結論を出さず、時価純資産法やDCF法と3アプローチで比較してレンジで把握しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. なぜPERではなくEV/EBITDAがよく使われるのですか?
A. PER(純利益ベース)は資本構成や税・特別損益の影響を受けやすい一方、EV/EBITDAは本業の稼ぐ力をならして比較しやすいためです。目的に応じて両方を併用することもあります。
Q. 非上場会社なのに上場会社の倍率を使ってよいのですか?
A. 市場の相場観を借りる考え方です。ただし上場株式と非上場株式には流動性の差があるため、非流動性ディスカウントなどの調整を加えるのが一般的です。
Q. 比較できる上場企業が見つからない場合は?
A. 近い業種をやや広めに取る、複数の指標で確認する、他手法(DCF法・時価純資産法)の比重を上げる、といった対応をします。無理に当てはめると精度が落ちます。
まとめ
類似会社比較法は、上場類似企業のEV/EBITDA等の倍率を当てはめて価値を概算する、市場ベースの代表的な手法です。スピーディで相場観を反映できる反面、比較対象の選定が精度を左右し、非上場株式には流動性の調整が必要です。単独で決め打ちせず、他手法と並べてレンジで捉えるのが、会社売却の検討(会社売却の相場)でも有効です。