DCF法とは? 計算の流れをわかりやすく解説
最終更新: 2026-06-18
DCF法(Discounted Cash Flow法/割引キャッシュフロー法)は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を、リスクに見合った割引率で現在価値に換算して企業価値を求める評価手法です。インカム・アプローチの代表格で、成長性や事業計画を価値に反映できるのが最大の特徴。M&Aや増資の検討で最もよく使われる手法のひとつです。
本稿では、DCF法の考え方の根っこ(なぜ「割り引く」のか)から、計算の4ステップ、簡単な数値例、感応度分析、メリットと注意点、よくある誤りまでを順に解説します。
なぜ将来のお金を「割り引く」のか
DCF法の土台にあるのは「お金には時間的価値がある」という考え方です。同じ100万円でも、今もらえる100万円と10年後にもらえる100万円では価値が違います。今の100万円は運用でき、また将来は不確実だからです。そこで、将来受け取るキャッシュフローを「現在の価値」に引き直す——これが割引(ディスカウント)です。割引の強さを決めるのが割引率(DCF法ではWACC)で、リスクが高い会社ほど割引率は高くなり、将来価値は小さく評価されます。
計算の流れ(4ステップ)
- ① 将来FCFを予測:事業計画にもとづき、通常5年程度のフリーキャッシュフローを見積もる。FCF=営業利益×(1−税率)+減価償却−設備投資−運転資本増減。
- ② 割引率(WACC)を算定:負債コストと株主資本コスト(CAPMで算定)を資本構成で加重平均する。
- ③ 現在価値に割引・合算:予測期間のFCFと、それ以降を表すターミナルバリュー(継続価値)をWACCで割り引いて事業価値を算定する。
- ④ 株式価値へ調整:事業価値に非事業用資産(遊休不動産・余剰現金など)を加え、有利子負債を差し引いて株式価値を求める(企業価値と株式価値の違い)。
① フリーキャッシュフロー(FCF)の中身
FCFは「事業が自由に使えるキャッシュ」です。会計上の利益とは異なり、減価償却(現金支出を伴わない費用)を足し戻し、設備投資や運転資本の増加(現金の流出)を差し引いて求めます。利益が出ていてもFCFがマイナスになることがあり、その逆もあります。DCF法では利益ではなくこのFCFを評価の対象にします。
② 割引率(WACC)の役割
WACC(加重平均資本コスト)は、株主が期待するリターン(株主資本コスト)と、銀行などへの利払いコスト(負債コスト)を、資本構成で加重平均したものです。会社全体の「資金調達コスト」であり、これが割引率になります。WACCが1%変わるだけで評価額が大きく動くため、算定の前提が重要です。
③ ターミナルバリュー(継続価値)
事業は予測期間(5年など)で終わるわけではありません。予測期間以降に生み出し続ける価値をまとめて表したのがターミナルバリューです。永久成長率を用いる方法(定率成長モデル)や、倍率を使う方法があります。DCF法の評価額の過半をこのターミナルバリューが占めることも多く、永久成長率の置き方が結果を大きく左右します。
簡単な数値例(イメージ)
仕組みを示すための単純化した例・目安です(実際の評価はより精緻に行います)。
この場合の事業価値は「FCF ÷ WACC」で概算でき、1億円 ÷ 10% = 10億円。
ここに非事業用資産を加え、有利子負債(仮に2億円)を差し引くと、株式価値の目安は 約8億円。
もしWACCを10%→8%にすると事業価値は1億円÷8%=12.5億円に、永久成長率を1%置くと1億円÷(10%−1%)≒11.1億円に変わります。前提のわずかな差で結果が動くことが分かります。
感応度分析でレンジを確認する
DCF法の結果は単一の数字で出ますが、それを鵜呑みにするのは危険です。実務では、WACC・永久成長率・売上成長率などの主要前提を上下に振り、評価額がどの範囲で動くかを表にまとめます(感応度分析)。これにより「この前提なら◯〜◯億円程度」という評価レンジとして把握でき、交渉や意思決定の説明力が高まります。
| WACC\永久成長率 | 0% | 1% | 2% |
|---|---|---|---|
| 8% | 12.5億円 | 14.3億円 | 16.7億円 |
| 10% | 10.0億円 | 11.1億円 | 12.5億円 |
| 12% | 8.3億円 | 9.1億円 | 10.0億円 |
メリットと注意点
メリットは、将来の収益力・成長性を直接価値に反映できること。事業計画が描ける会社や、のれん(無形の収益力)が大きい会社の評価に適し、M&A・増資の検討で重視されます。
注意点は、結果が事業計画の前提と割引率(WACC)・永久成長率に大きく左右されること。前提を都合よく置けば評価額をいくらでも動かせてしまうため、根拠ある前提と感応度分析がセットで求められます。事業計画の信頼性が低い会社では、類似会社比較法や時価純資産法と併用してレンジで検証するのが定石です。
よくある誤り
- 事業計画が楽観的すぎる … 「ホッケースティック型」の右肩上がり計画は評価額を過大にしがち。
- WACCの算定が雑 … 株主資本コストや資本構成の置き方で大きくぶれる。根拠を持つこと。
- ターミナルバリューの永久成長率を高く置きすぎる … 長期の経済成長率を超える成長を永久に仮定しない。
- 利益とFCFを混同する … 減価償却・設備投資・運転資本の調整を忘れない。
よくある質問(FAQ)
Q. DCF法は中小企業でも使えますか?
A. 使えますが、信頼できる事業計画が前提になります。計画を描きにくい場合は、簡便な年買法や類似会社比較法、時価純資産法を併用し、レンジで捉えるのが現実的です。
Q. WACCと永久成長率はどう決めればよいですか?
A. WACCはCAPMなどを用いて算定し、永久成長率は長期の物価・経済成長を超えない範囲(0〜1%程度を置くことが多い)で慎重に設定します。いずれも感応度分析で幅を確認します。
Q. DCF法だけで株価を決めてよいですか?
A. 1手法だけに頼らず、複数手法の結果を3アプローチで比較してレンジとして捉えるのが安全です。
まとめ
DCF法は、将来のFCFをWACCで割り引いて企業価値を求める、収益力ベースの代表的な評価手法です。成長性を反映できる強力な手法である一方、前提(事業計画・WACC・永久成長率)に結果が大きく依存します。前提の根拠を持ち、感応度分析でレンジを確認すること——これがDCF法を実務で正しく使うための鍵です。