時価純資産法とは? 簿価純資産との違いと使いどころ
最終更新: 2026-06-18
時価純資産法(修正純資産法)は、貸借対照表(B/S)の純資産をベースに、資産・負債を時価へ評価し直して株式価値を求めるコスト・アプローチの代表的な手法です。「今この会社を解散したら株主にいくら残るか」に近い、静的な(ストックの)価値を表します。計算根拠が分かりやすく客観性が高いため、中小企業の評価や他手法の検証に広く使われます。
本稿では、似て非なる「3つの純資産」の違いから、時価への評価替えの具体項目、税効果、数値例、適している会社と限界までを整理します。
「簿価」「時価」「清算」——3つの純資産の違い
| 種類 | 考え方 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 簿価純資産 | 帳簿上の純資産そのまま | 簡便だが実態とズレやすい |
| 時価純資産 | 資産・負債を時価評価し直す(継続前提) | 事業継続を前提とした評価の基本 |
| 清算価値 | 解散・換金を前提に処分価格で評価 | 清算・廃業を検討する場面 |
通常「時価純資産法」というときは、事業の継続を前提に資産・負債を時価評価する2番目を指します。清算を前提とする場合は処分コストなども見込むため、より保守的な金額になります。
時価純資産の求め方
帳簿上の純資産(簿価)に対し、含み損益のある資産・負債を時価評価し、評価差額にかかる税金(税効果)を控除して時価純資産を求めます。主な評価替えの対象は次のとおりです。
- 土地・不動産 … 取得時の簿価と時価の差(含み益・含み損)を反映
- 有価証券・投資 … 市場価格・実質価額へ評価替え
- 保険積立金 … 解約返戻金ベースへ
- 売掛金・在庫 … 回収不能・不良在庫を実態評価(評価減)
- 退職給付・未計上の債務 … 簿外債務があれば負債に反映
税効果の考え方
含み益のある資産を時価評価すると、将来それを売却したときに課税される可能性があります。そこで、評価差額(含み益)に対応する税金相当額を控除してから純資産に反映するのが一般的です。これを税効果といいます。含み益をそのまま全額価値に加えると過大評価になるため、この調整を行います。
簡単な数値例(イメージ)
含み益合計6,000万円 × (1−実効税率 約30%)=税効果控除後 約4,200万円。
時価純資産 = 1.5億円 + 約4,200万円 = 約1.92億円。
(単純化した例・目安。実際は項目ごとに精査します)
収益力を加味する「純資産+営業権」
時価純資産法は将来の収益力を反映しないため、収益力のある会社では実態より低く出がちです。そこで中小企業のM&Aでは、時価純資産に数年分の利益(のれん/営業権)を上乗せする折衷的な方法がよく使われます。これが年買法(年倍法)の考え方で、「時価純資産+営業利益×2〜3年分」といった形で目安を出します。
適している会社・限界
- 適合 … 資産保有色が強い会社(不動産・投資会社)、清算を前提とする場合、収益性手法が使いにくい会社
- 限界 … 将来の収益力(のれん・成長性)を反映しないため、収益性のある事業会社では過小評価になりやすい
そのため実務では、収益性のある会社では時価純資産法を下限の目安・参考値として位置づけ、DCF法や類似会社比較法と並べて多面的に検証します。赤字・債務超過などで収益性手法が成立しないときに主役になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 純資産がそのまま会社の価値になりますか?
A. なりません。純資産は1つの目安にすぎず、収益力のある会社では実態より低く出ます。逆に資産型の会社では有力な指標になります。
Q. 簿価純資産法と時価純資産法はどちらを使うべきですか?
A. 実態を反映するのは時価純資産法です。簿価のままでは含み損益が反映されずズレが生じます。ただし簡便な概算として簿価を見ることはあります。
Q. 相続税の株価評価と同じですか?
A. 別物です。相続税・贈与税の「取引相場のない株式の評価」は国税庁方式によるもので、目的も計算方法も異なります(事業承継における株価算定)。
まとめ
時価純資産法は、純資産を時価ベースに引き直して静的な価値を測る、客観性の高いコスト・アプローチです。資産型の会社や清算前提、収益性手法が使えない場面で力を発揮する一方、将来の収益力を反映しないため、事業会社では参考値や下限の目安として他手法と併用します。収益力を加味したい場合は、年買法のように営業権を上乗せする折衷法も有効です。