年買法(年倍法)とは? 計算式・年数の決まり方と、使えるケース・使えないケース

最終更新: 2026-09-12

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年買法(ねんばいほう/年倍法)は、中小企業のM&Aで最もよく使われている価格算定の簡便法です。計算式は「時価純資産 + 営業利益 × 年数」というシンプルなもので、専門的な評価モデルを組まなくても、決算書と少しの調整だけで買収価格の目安が出せます。売り手の社長も、買い手の担当者も、頭の中で検算できる。この分かりやすさが、小規模案件の現場で年買法が支持され続けている最大の理由です。

一方で、年買法は「便利だから使われている」だけであって、理論的に正しい価格を与えてくれる手法ではありません。年数に客観的な根拠はなく、将来の成長も時間価値も織り込めません。使いどころを外すと、実態からかけ離れた価格を土台にして交渉を進めてしまうことになります。本稿では、年買法の計算式の意味から、年数の決まり方、時価純資産と正常営業利益の作り方、計算例、EV/EBITDA倍率法やDCF法との関係と換算、そして「年買法が使えないケース」までを、実務で判断できる粒度で整理します。数字を入れて確かめたい場合は、登録不要の年買法 計算機で試しながら読み進めてください。

年買法の計算式と、その意味

年買法の基本式は次のとおりです。

株式価値の目安 = 時価純資産 + 正常営業利益 × 年数(一般に2〜5年)
※ 年数・利益の取り方で結果が大きく変わります。仕組みを示す目安としてご覧ください。

前半の「時価純資産」は、いま会社が持っている財産の実態価値です。帳簿上の純資産をそのまま使うのではなく、含み損益や回収できない債権などを反映し直した数字を用います。詳しくは時価純資産法とはで解説しています。

後半の「営業利益 × 年数」が、いわゆる営業権(のれん)にあたる部分です。会社には、貸借対照表に載らない稼ぐ力があります。取引先との関係、リピートする顧客、ブランド、従業員の技能、立地、許認可。こうしたものが毎年の利益を生んでいるわけですが、資産としては計上されていません。そこで「これから何年分かの利益に相当する価値がある」とみなして、純資産に上乗せするのが年買法の発想です。

なぜ中小M&Aでこれほど多用されるのか

年買法が中小企業のM&Aで定着している理由は、大きく3つあります。

  • 計算が簡単で、検証もしやすい:必要なのは時価純資産と営業利益と年数だけです。事業計画も割引率も要りません。中小企業では精緻な事業計画を作っていないことが多く、DCF法の前提となる数字がそもそも存在しないケースが珍しくありません。年買法なら、過去の決算書だけで議論を始められます。
  • 売り手と買い手の双方が納得しやすい:「財産の価値」と「稼ぐ力の価値」を足す、という構造が直感に合います。売り手にとっては「自分が築いた財産は最低限守られる」という安心感があり、買い手にとっては「払った上乗せ分が何なのか」を説明できます。社内の稟議でも通しやすい構造です。この点は稟議用の株価算定書を作る場面でも効いてきます。
  • 回収年数のイメージと直結する:買い手にとって「営業利益の3年分を上乗せする」とは、「上乗せ分は3年で回収できる計算になる」ということです。投資判断の感覚とそのまま結びつくため、年数の議論が「何年で元を取りたいか」という具体的な話に落ちます。

逆に言えば、この3つの利点はいずれも「簡単さ」から来ています。理論的な精度を犠牲にして簡便さを取った手法である、という前提は忘れないでください。

上乗せする「年数」は何で決まるのか

年買法で最も議論になるのが年数です。一般には2〜5年程度が目安とされますが、この幅は決して小さくありません。営業利益3,000万円の会社なら、2年なら6,000万円、5年なら1億5,000万円。同じ会社でも9,000万円の差が出ます。年数は「なんとなく3年」で決めるものではなく、次のような要素を一つずつ点検して積み上げるものだと考えてください。

要素年数が短くなる(2年寄り)年数が長くなる(4〜5年寄り)
業種の安定性景気や流行に左右されやすく、利益の振れ幅が大きい業種需要が景気に左右されにくく、過去の利益が安定して推移している業種
オーナー依存度社長個人の営業力・人脈・技能で受注が成り立っている組織で回っており、社長が退いても業務・受注が継続する体制がある
取引先の継続性特定先への依存が高い、スポット受注中心、契約が単年で更新未確定取引が長期・反復的で、継続契約やストック収益の比率が高い
許認可・参入障壁誰でも始められ、競合の参入が容易許認可・免許・資格者要件などで新規参入が制約されている
人材の定着キーパーソンの退職リスクが高い、慢性的な人手不足有資格者・熟練者が定着しており、譲渡後も残る見込みが立っている
設備投資の必要性利益維持のために継続的な大型投資が必要(利益がそのまま残らない)追加投資が小さく、稼いだ利益が手元に残りやすい
買い手のシナジー単独運営が前提で、統合による上積みが見込みにくい仕入・販路・人員の相互活用で収益改善が具体的に見込める

表の右側に該当する項目が多い会社ほど、上乗せ年数は長く取られやすくなります。特に効きやすいのがオーナー依存度です。社長が抜けた瞬間に売上が半分になる会社では、買い手は「その利益は買えない」と考えます。この場合、年数を短くするか、社長に一定期間残ってもらう条件(引継期間・アーンアウト)とセットで議論することになります。

なお、シナジーの分をどこまで価格に乗せるかは、本来は買い手の取り分と売り手の取り分の配分問題です。シナジー効果を全額価格に反映させると、買い手には統合リスクだけが残ります。実務では、確度の高い一部のみを織り込むのが通例です。

計算の実務①:時価純資産の作り方

年買法の精度は、投入する2つの数字(時価純資産と営業利益)の作り方でほぼ決まります。まず時価純資産です。帳簿の純資産をそのまま使うと、実態と大きくずれることがあります。最低限、次の項目は点検してください。

点検項目見るポイント調整の方向
土地・有価証券の含み損益取得時の簿価のままになっていないか。特に古くから保有する土地時価との差額を加算または減算
回収不能債権長期滞留している売掛金、実質的に回収の見込みがない貸付金回収見込みのない部分を減額
在庫(棚卸資産)長期滞留品・型落ち品・実地棚卸との差異が放置されていないか処分可能価額まで評価減
退職給付(退職金)自己都合要支給額に対して引当・積立が足りているか不足額を負債として認識し減額
簿外債務未払残業代、社会保険の未加入、係争・クレーム、リース債務、保証債務見積可能な範囲で負債計上して減額
事業に不要な資産社長の車、保険積立金、事業と無関係の投資不動産、ゴルフ会員権取扱いを売り手・買い手で決める(譲渡前に切り出す場合も)

中小企業で金額インパクトが大きくなりやすいのは、退職給付の不足額未払残業代です。どちらも決算書の表面には出ていませんが、買い手は買収後に負担することになるため、デューデリジェンスで必ず確認され、価格から差し引かれます。売り手側で先に把握しておくと、交渉で不意を突かれずに済みます。

計算の実務②:営業利益の正常化

次に営業利益です。中小企業の損益計算書には、オーナー個人の事情に紐づく費用や一時的な損益が混じっています。これらを取り除いて「この事業が平常時にどれだけ稼ぐか」を表す数字に直す作業を、正常化(ノーマライゼーション)と呼びます。考え方の全体像は正常収益力とはにまとめています。

調整項目典型的な状況調整の方向
役員報酬節税目的で市場水準より過大、または逆に無報酬に近い後任者に払うべき適正水準に置き換える(過大なら利益を戻し、過少なら減らす)
役員保険料節税目的の生命保険料が販管費に計上されている事業運営に不要な部分は費用から除外
私的経費家族への給与、社用車、交際費、自宅関連費用など事業と無関係な部分を費用から除外
一時的な損益補助金収入、固定資産売却損益、災害損失、訴訟和解金、特需反復しないものは平常時の利益から除外
地代家賃社長個人所有の建物を無償/低廉/高額な賃料で使用している第三者間の相場水準に引き直す
会計方針のずれ減価償却の未計上・不足、引当金の未計上本来あるべき費用を計上して利益を修正

役員報酬の戻し入れは、年買法で最も金額が動く調整です。ただし「社長の報酬を全額利益に戻す」のは誤りです。買い手は譲渡後、その役割を担う誰かに報酬を払う必要があります。戻すのは適正水準との差額だけです。ここを取り違えると、利益が過大に出て、年数を掛けた分だけ価格が膨らみます。

のれん(営業権)が意味するもの

年買法における「営業利益×年数」の部分は、会計上のれん・営業権と呼ばれる無形の価値に対応します。これは「純資産では説明できない超過収益力」への対価です。買い手側では、株式取得の場合は連結上ののれん、事業譲渡の場合は資産調整勘定などとして扱われ、償却や減損の対象になります。会計・税務上の扱いはのれんの償却で整理しています。上乗せ分が大きすぎると、買収後に収益が想定を下回った際の減損リスクが高まる点は、買い手が年数を伸ばしたがらない実務的な理由の一つです。

計算例1:安定して黒字の小売業

前提:地域密着で20年営業する小売業。帳簿純資産1億2,000万円。
調整:土地の含み益+2,000万円/長期滞留在庫の評価減▲800万円/退職給付の積立不足▲1,200万円
時価純資産 = 1億2,000万円 + 2,000 − 800 − 1,200 = 1億2,000万円

表面の営業利益 2,500万円。調整:過大な役員報酬の戻し+800万円/役員保険料+200万円/前期限りの補助金収入▲300万円
正常営業利益 = 2,500 + 800 + 200 − 300 = 3,200万円

年数:店長・従業員が定着し社長依存度は低め、常連客中心で売上が安定 → 3年
株式価値の目安 = 1億2,000万円 + 3,200万円 × 3 = 約2億1,600万円
(年数2年なら約1億8,400万円、4年なら約2億4,800万円。仕組みを示す例です)

年数を1つ動かすだけで3,200万円動くことが分かります。だからこそ、年数は「相場だから3年」ではなく、前掲の表の要素で説明できる形にしておくことが交渉上重要です。

計算例2:オーナー報酬が過大な卸売業

前提:社長が年間4,000万円の役員報酬を取っている卸売業。表面の営業利益は300万円(ほぼトントン)。
時価純資産:帳簿8,000万円に対し、回収不能な売掛金▲1,000万円、社長個人向け貸付金▲500万円を減額 → 6,500万円

営業利益の正常化:後任者の適正報酬を1,500万円と想定し、差額の+2,500万円を戻す。社長個人所有の倉庫を相場より高い賃料で借りていたため、相場との差額+300万円を戻す。一方、減価償却が一部未計上だったため▲400万円。
正常営業利益 = 300 + 2,500 + 300 − 400 = 2,700万円

年数:仕入先・販売先ともに社長の人脈に依存、上位1社で売上の45% → 2年
株式価値の目安 = 6,500万円 + 2,700万円 × 2 = 約1億1,900万円

表面の営業利益300万円のままなら「6,500万円+600万円=7,100万円」にしかなりません。正常化をするかしないかで、目安が5,000万円近く変わるということです。中小企業の評価で「決算書をそのまま使ってはいけない」と言われるのは、この差があるからです。ただしこの例では、依存度の高さから年数を2年に抑えている点にも注目してください。利益を戻すなら、その利益の危うさも年数に反映するのが筋の通った使い方です。

時価純資産・営業利益・年数を入れ替えると金額がどう動くかは、その場で試せます。登録不要で、入力した数値はサーバーに送信されません。単体ページは年買法(年倍法)計算機からも開けます。

時価純資産と営業利益、年数を入力すると、年買法による目安の株式価値を計算します。入力した数値はどこにも送信されません。

目安の株式価値(年買法)

19,000万円

1億9,000万円(時価純資産 10,000万円 + 営業権 9,000万円)

年数営業権目安の株式価値
26,000 万円16,000 万円
39,000 万円19,000 万円
412,000 万円22,000 万円
515,000 万円25,000 万円

※ 年買法(年倍法)は中小M&Aで使われる簡便な目安の計算です。実際の評価は、収益力にもとづくDCF法・類似会社比較法なども併用し、評価レンジで捉えるのが基本です。営業利益の代わりに正常収益力やEBITDAを使う流儀もあります。最終的な価格は交渉により決まります。

EV/EBITDA倍率法・DCF法との関係と換算

年買法だけで価格を決めるのは危険です。実務では、類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)やDCF法と並べて、レンジとして把握します。株式評価の3アプローチで言えば、年買法はコストアプローチ(純資産)とインカムアプローチ(利益)を折衷した位置づけです。

混同しやすい最大のポイント:株式価値か、事業価値か

年買法とEV/EBITDA倍率法を比べるときに、最も間違えやすいのがここです。

  • 年買法が出すのは「株式価値」:時価純資産にはすでに有利子負債がマイナス要素として織り込まれています。したがって、年買法の答えからさらに借入金を引く必要はありません。引いてしまうと二重控除です。
  • EV/EBITDA倍率法が出すのは「事業価値(EV)」:EBITDA×倍率で得られるのは事業全体の価値であり、そこから純有利子負債(有利子負債−現預金)を差し引いて、はじめて株式価値になります。

「年買法では1.5億円、EV/EBITDA5倍では2億円」と単純比較すると、借入金の有無の分だけ話が噛み合いません。比較するときは、必ず株式価値どうしに揃えてください。この区別は企業価値と株式価値の違いで詳しく整理しています。EV/EBITDA 計算機では、事業価値から株式価値への調整まで含めて確認できます。

年買法の「年数」はEBITDA倍率で何倍にあたるか

両者は式の形が違うため厳密な換算はできませんが、実務的な感覚としては次のように対応づけて考えられます。EBITDAは営業利益+減価償却費なので、減価償却が大きい会社ほど営業利益より大きくなります。

年買法の年数対応するEBITDA倍率の感覚(目安)考え方
2年おおむね2〜3倍相当上乗せ分の回収を2年で見込む水準。依存度が高い、または利益の安定性に不安がある案件
3年おおむね3〜4倍相当中小案件で最もよく見られる水準。標準的な安定性を想定
4〜5年おおむね4〜6倍相当収益が安定し参入障壁がある、またはシナジーを一定織り込む場合

ずれが生じる主因は3つあります。①年買法は営業利益、倍率法はEBITDAと、分子が違う(減価償却の大きい設備産業ほど乖離する)。②年買法は純資産をフルに加算するが、倍率法では余剰現預金以外の資産は明示的に足さない。③倍率法は非上場ゆえの調整(非流動性ディスカウントなど)を別途反映する。上の表はあくまで感覚をつかむための目安であり、換算式として使えるものではありません。

DCF法との関係

DCF法は、将来のフリーキャッシュフローをWACCで割り引いて価値を求めます。成長も投資も時間価値も織り込めるため、理論的には最も精緻です。年買法は、この「割り引く」という作業を「年数を掛ける」に置き換えた、極端に単純化した近似と見ることもできます。裏返せば、年買法は成長率ゼロ・割引率ゼロ・数年で打ち切りという強い仮定を暗黙に置いているということです。事業計画がある会社なら、DCF 計算機で試算して、年買法の答えがDCFのレンジのどこに位置するかを確認しておくと安心です。

年買法が使えない・向かないケースと代替手法

年買法は「安定した黒字の、資産と利益がバランスした事業」に向いた手法です。次のような会社では、そのまま当てはめると誤った目安が出ます。

ケース年買法が機能しない理由代替となる考え方
赤字が続いている上乗せする利益がなく、式が成立しない(マイナスを掛けると純資産割れになる)時価純資産法を軸に、清算価値も確認。事業の一部だけを譲渡する選択肢も検討
成長投資中で利益が出ていない先行投資で利益が圧縮されている時期の数字を使うと、価値を著しく過小評価するDCF法、または売上倍率・顧客数などのKPIベースの評価
不動産賃貸業など資産に価値が偏る価値の源泉が保有資産そのもの。利益の数年分を足す構造が実態に合わない時価純資産法(不動産の鑑定評価)、収益還元法
将来の事業構造が大きく変わる過去の営業利益が将来の指標にならない(法規制の変更、主要取引先の喪失など)DCF法でシナリオ別に試算し、感応度分析でレンジを把握
無形資産中心のIT・SaaS純資産が小さく、利益より解約率・成長率が価値を決める。純資産加算に意味が乏しいDCF法、ARR倍率・売上倍率などのマルチプル

赤字企業の売却については赤字会社の売却相場、IT・SaaSの評価についてはIT・ソフトウェア企業の評価で、それぞれの考え方を扱っています。なお「赤字だから価値ゼロ」ではありません。許認可、有資格者、顧客リスト、拠点といった資産に買い手が価値を見出すことはあります。

年買法の限界を正しく理解する

年買法を使う以上、次の3つの限界は常に意識しておく必要があります。

  • 将来性を織り込めない:計算に使うのは過去の利益です。これから伸びる会社も、これから縮む会社も、同じ利益なら同じ価格になります。成長性の違いは年数でしか表現できず、その表現力には限界があります。
  • 時間価値を無視している:3年後の1,000万円と今日の1,000万円を同じ価値として足し合わせています。金利やリスクを反映していないため、理論的な整合性はありません。年数が長くなるほど、この歪みは大きくなります。
  • 年数に客観的な根拠がない:2〜5年という幅は慣行であって、統計的な裏付けのある数値ではありません。「3年が相場です」という説明は、根拠ではなく慣行の紹介にすぎない点は理解しておきましょう。

したがって、年買法の答えは点ではなくレンジで持つべきです。年数を2年・3年・4年と振り、正常営業利益も直近単年と3期平均の両方で計算すれば、自然に幅が出ます。その幅を、EV/EBITDA倍率法やDCF法のレンジと重ね合わせ、複数の手法が重なる帯を「妥当そうな領域」と捉える。これが実務的な使い方です。会社売却の相場はいくらかでも、レンジで捉える考え方を整理しています。

交渉の場で年買法はどう使われるか

年買法は、算定の道具であると同時に、交渉の言語でもあります。売り手と買い手は、それぞれ違う立場から同じ式を眺めています。

  • 買い手の視点:回収年数:買い手は「上乗せ分を何年で回収できるか」を見ています。年数を短くしたいというのは、要するに早く回収したいということです。加えて、譲渡後に必要な追加投資(設備更新、システム刷新、人員補充)があれば、その分だけ年数を切り下げる理屈になります。
  • 売り手の視点:希望価格:売り手には、借入の返済、連帯保証の解除、引退後の生活資金といった「必要額」があります。この必要額から逆算して年数を主張してしまうと、根拠のない要求に見えてしまいます。年数は、前掲の表の要素(安定性、非属人性、継続契約、参入障壁)で裏づけるのが有効です。
  • 落としどころの作り方:年数そのものを削り合うより、条件で調整するほうがまとまりやすい場面が多くあります。たとえば、固定部分は3年分に抑えたうえで、譲渡後の業績が一定水準を超えたら追加で支払うアーンアウト、社長が2年間引き継ぎに関与する前提での年数上乗せ、退職金の支給と株式対価の組み合わせ、といった設計です。役員退職金を絡めた設計は役員退職金と自社株も参考になります。

提示された価格が妥当かどうかを確かめたいときは、年買法の内訳(時価純資産・正常営業利益・年数)に分解して、どの要素で差が出ているのかを特定するのが近道です。M&A価格のセカンドオピニオンでも、この分解の考え方を扱っています。

よくある質問(FAQ)

Q. 年数は何年が普通ですか?

A. 一般には2〜5年程度が目安とされ、中小案件では3年前後が語られることが多い印象です。ただしこれは慣行であって根拠のある数値ではありません。オーナー依存度が高い、取引先が固定していない、キーパーソンの退職リスクがあるといった事情があれば2年寄りに、許認可や継続契約に支えられて利益が安定していれば4〜5年寄りに寄せる、という調整の仕方が実務的です。年数は交渉で最も動く変数なので、自社の年数を主張する根拠を先に用意しておくことをおすすめします。

Q. 営業利益は何期分の数字を使えばよいですか?

A. 直近1期だけでは、たまたま良かった年・悪かった年に引きずられます。実務では直近3期を並べ、平均または趨勢を見て判断するのが一般的です。単純平均を使うか、直近期を重視するかは、業績のトレンドによります。右肩上がりなら直近期に近い水準、変動が大きいなら平均に寄せる、というのが穏当な考え方です。いずれの期も、役員報酬や一時損益の正常化をしたうえで比較してください。

Q. 役員報酬はどう戻せばよいですか?

A. 全額を利益に戻すのではなく、適正水準との差額だけを戻します。適正水準とは、譲渡後に同じ役割を担う人に支払うべき報酬です。社長が実際に現場を統括しているなら、後任にも相応の報酬が必要なので、戻す額は小さくなります。逆に、実務にほとんど関与せず節税目的で高額報酬を取っているだけなら、戻す額は大きくなります。社長の家族が名目的に役員・従業員になっている場合も、同じ考え方で整理します。この判断は買い手側のデューデリジェンスでも必ず検証される部分です。

Q. 借入金はどう扱いますか?

A. 年買法では、借入金は時価純資産の中ですでに負債として控除済みです。したがって、計算結果からさらに借入金を差し引く必要はありません。ここはEV/EBITDA倍率法との最大の違いで、倍率法では事業価値から純有利子負債を控除して株式価値を求めます。年買法の結果と倍率法の結果を比べるときは、どちらも株式価値に揃っているかを必ず確認してください。なお、社長個人の連帯保証や個人資産の担保提供は、価格そのものとは別に、譲渡条件として解除の段取りを決めておく必要があります。

Q. のれん部分の税務上の扱いはどうなりますか?

A. 取引の形態で変わります。株式譲渡の場合、買い手が取得するのは株式なので、買い手の単体決算にのれんは計上されず、税務上の償却も生じません(連結財務諸表を作る場合に連結上ののれんが出ます)。事業譲渡や会社分割の場合は、超過収益力部分が資産調整勘定などとして認識され、税務上一定期間で損金算入できる扱いがあります。買い手が事業譲渡を希望する背景には、この違いがあることも少なくありません。売り手側の課税も、株式譲渡(株主個人への譲渡所得課税)と事業譲渡(法人への課税+分配時の課税)で大きく異なります。詳しくは事業譲渡と株式譲渡の違いおよび中小M&Aの税務をご確認のうえ、必ず税理士に個別の確認をしてください。

Q. 赤字なら会社の価値はゼロですか?

A. そうとは限りません。年買法の上乗せ部分はゼロ(またはマイナス)になりますが、時価純資産が残っていれば、それが価値の土台になります。加えて、許認可、有資格の人材、顧客基盤、拠点や設備、繰越欠損金といった要素に買い手が価値を見出すことはあります。特に同業の買い手にとっては、人材や許認可の獲得そのものが目的になり得ます。ただし、赤字の原因が構造的なものか一時的なものかで評価は大きく分かれ、価格も条件も慎重になりやすいのが実際です。まずは正常化後の利益がどうなるかを確認し、そのうえで純資産ベースの評価に切り替えるのが順序です。

まとめ

年買法(年倍法)は、「時価純資産+営業利益×年数」で株式価値の目安を出す、中小M&Aの標準的な簡便法です。計算が簡単で、売り手と買い手の双方が納得しやすく、回収年数のイメージと直結する——この3点が、現場で使われ続ける理由です。精度を左右するのは、時価純資産の点検(含み損益、回収不能債権、在庫、退職給付、簿外債務)と営業利益の正常化(役員報酬、保険、私的経費、一時損益、地代家賃)であり、この2つを丁寧にやるかどうかで目安は数千万円単位で変わります。

年数は2〜5年が一般的な目安ですが、業種の安定性、オーナー依存度、取引先の継続性、参入障壁、人材の定着、設備投資の必要性、シナジーといった要素で説明できる形にしておくことが、交渉での説得力につながります。一方で、年買法は将来性も時間価値も織り込めず、年数に客観的な根拠もありません。赤字、成長投資中、資産偏重、事業構造が変わる会社、無形資産中心のIT・SaaSでは、そのまま当てはめると誤ります。答えは点ではなくレンジで持ち、EV/EBITDA倍率法やDCF法と重ね合わせて確かめる。これが年買法との正しい付き合い方です。まずは年買法 計算機で自社の数字を入れ、年数を振って幅を確認するところから始めてみてください。

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