EBITDAとは? 計算式と営業利益との違い、評価で使われる理由
最終更新: 2026-09-12
EBITDA(イービットディーエー、またはイービッタ/Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)は、「支払利息・税金・減価償却費を差し引く前の利益」を指します。日本語に直せば「利払前・税引前・償却前利益」です。損益計算書にそのまま載っている項目ではなく、営業利益などの数字から自分で組み立てて求める指標である点が、まず押さえるべきポイントになります。決算書の数字を入れて計算するだけならEBITDA 計算ツールが使えます。組み立てに必要な減価償却費そのものの計算は減価償却 計算ツール(定額法・定率法)をご利用ください。
EBITDAがこれほど広く使われるのは、会社ごとに異なる借入の多寡、適用される税率、減価償却の方法といった「事業そのものの実力とは別の要因」を取り除いた状態で、会社同士を並べて比較できるからです。M&Aの現場では類似会社比較法の中心指標として使われ、「EBITDAの何倍で買うか」という形で価格の相場観が語られます。
本稿では、EBITDAの2通りの計算式とそれが一致しない理由、他の利益指標との違い、M&Aで使われる理由と見落とされがちな弱点、実務で必ず作ることになる正常化EBITDA(実態EBITDA)の組み方、そしてEV/EBITDA倍率から企業価値・株式価値を求める計算例までを、順を追って整理します。手元の数字で試算しながら読みたい方は、登録不要のEV/EBITDA倍率 企業価値計算機を開いて数字を入れてみてください。
EBITDAとは:定義と読み方
EBITDAは、利益から「事業の稼ぐ力とは直接関係しない要素」を順に取り除いていった残りの利益です。取り除く4つの要素はそれぞれ次の意味を持ちます。
- Interest(支払利息)… いくら借入をしているかという資本構成の違い。同じ事業でも、無借金の会社と借入の多い会社では最終利益が変わります。
- Taxes(税金)… 所在地、規模、繰越欠損金の有無などで変わる税負担の違い。
- Depreciation(有形固定資産の減価償却費)… 過去に行った設備投資を期間配分した費用。現金の流出を伴いません。
- Amortization(無形固定資産の償却費)… ソフトウェアやのれんなどの償却費。これも現金の流出を伴いません。
読み方は「イービットディーエー」が最も一般的ですが、実務では「イービッタ」「エビータ」と発音されることもあります。どれも同じ指標を指しているので、会話で聞き慣れない読み方が出てきても戸惑う必要はありません。
EBITDAは「営業キャッシュフローに近い概算値」と説明されることが多い指標です。ただし後述するとおり、運転資本の増減も設備投資も反映していないため、実際のキャッシュフローとは別物です。あくまで「現金の出入りを伴わない償却費だけを足し戻した利益」であって、キャッシュフローそのものではない、という距離感を最初に理解しておくと、後の議論がずれません。キャッシュフローの正確な考え方はFCF(フリーキャッシュフロー)の記事で扱っています。
EBITDAの計算式:2通りのアプローチ
EBITDAの求め方には、大きく分けて2つのアプローチがあります。どちらも「利息・税金・償却の影響を取り除く」という目的は同じですが、出発点が違います。
① 簡便法(営業利益から積み上げる)
日本の実務で最もよく使われるのがこの式です。営業利益は、売上高から売上原価と販売費及び一般管理費を差し引いた利益で、そもそも支払利息(営業外費用)も税金も引かれていません。したがって、あとは費用に含まれている減価償却費を足し戻すだけでEBITDAになります。
注意点は、減価償却費が損益計算書の1か所にまとまっていないことです。製造業であれば工場設備の償却費は売上原価に、本社建物や社用車の償却費は販売費及び一般管理費に入っています。決算書の表面だけを見て販管費の減価償却費だけを足すと、EBITDAを大きく過小評価してしまいます。正しくはキャッシュフロー計算書の「減価償却費」の行、あるいは法人税申告書の別表十六(償却額の計算に関する明細書)から、当期の償却費の総額を拾います。中小企業でキャッシュフロー計算書を作成していない場合は、固定資産台帳の当期償却額の合計を使うのが確実です。
② 積み上げ法(税引前利益から戻す)
こちらは名前のとおり「Earnings Before Interest, Taxes, D&A」を定義どおりに再現した式です。税引前当期純利益は税金が引かれる前の利益なので、あとは支払利息と償却費を足し戻せば定義に一致します。海外の資料や、連結ベースの分析でよく見かける形です。
2つの式が一致しない理由
同じ会社の同じ決算書から2つの式で計算すると、多くの場合、金額は一致しません。これは計算ミスではなく、両者が拾っている範囲が違うからです。
営業利益と税引前当期純利益の間には、営業外損益と特別損益が挟まっています。営業外収益には受取利息・受取配当金・持分法投資利益・雑収入などが、営業外費用には支払利息のほか、社債発行費や為替差損などが入ります。特別損益には固定資産売却損益、減損損失、災害損失といった一過性の項目が入ります。
積み上げ法では、支払利息だけを足し戻して他の営業外損益と特別損益はそのまま残すため、たとえば不動産を売却して特別利益が出た期には、その利益がEBITDAに混じり込みます。一方の簡便法は営業利益が出発点なので、営業外損益も特別損益も最初から入っていません。
簡便法のEBITDA = 営業利益 + 減価償却費
積み上げ法のEBITDA = 簡便法のEBITDA +(受取利息・受取配当金などの営業外収益)−(支払利息以外の営業外費用)+(特別利益 − 特別損失)
M&Aの評価実務では、「その事業が継続的に生み出す利益」を測りたいので、一過性の損益が混じらない簡便法(営業利益+減価償却費)を基本とし、そこからさらに正常化調整を加える形をとることが一般的です。どちらの式を使ったのかは、資料に明記しておくべき前提のひとつです。買い手と売り手が違う式で計算した数字を持ち寄ると、そもそも議論が噛み合いません。
営業利益・EBIT・経常利益・当期純利益との違い
EBITDAを正しく使うには、隣接する利益指標との位置関係を把握しておく必要があります。損益計算書の上から順に、どこまでを含みどこを除いているかを整理したのが次の表です。
| 指標 | 計算のイメージ | 含むもの | 除いているもの | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|---|
| 売上総利益 | 売上高 − 売上原価 | 原価に含まれる償却費 | 販管費以降すべて | 粗利率の把握 |
| 営業利益 | 売上総利益 − 販管費 | 減価償却費を費用として含む | 支払利息・税金・特別損益 | 本業の儲け |
| EBIT | ≒ 営業利益(実務上の近似) | 減価償却費を費用として含む | 支払利息・税金 | 海外比較、EV/EBIT倍率 |
| EBITDA | 営業利益 + 減価償却費 | 償却前の営業段階の利益 | 支払利息・税金・減価償却費 | M&A評価、EV/EBITDA倍率 |
| 経常利益 | 営業利益 + 営業外損益 | 支払利息・受取配当金など財務損益 | 特別損益・税金 | 日本基準での経常的な収益力 |
| 当期純利益 | 税引前利益 − 法人税等 | 税金・特別損益まですべて | — | 株主に帰属する最終利益、PER |
EBITとEBITDAの関係は単純で、EBITに減価償却費(D&A)を足し戻したものがEBITDAです。EBITは日本の営業利益とほぼ同じものとして扱われますが、厳密には一致しません。EBITは「支払利息と税金を引く前の利益」なので、定義上は営業外収益や特別損益も含みます。日本の実務では簡便的に営業利益=EBITとみなすことが多いものの、営業外損益が大きい会社では差が生じます。
経常利益は日本基準に特有の区分で、営業利益に受取利息・支払利息・持分法損益などの財務的な損益を加減したものです。財務体質を含めた「経常的な力」を見る指標であり、資本構成の影響を取り除きたいEBITDAとは目的が逆になります。借入が多い会社は経常利益が小さく出ますが、EBITDAは同じ水準になる、という現象が起こります。
当期純利益は税金も特別損益も反映した最終値です。株主に帰属する利益なので、PERのような株式価値ベースの指標の分母になります。ただし、税率や一過性の損益に大きく左右されるため、事業そのものの比較には向きません。
なぜM&A・企業価値評価でEBITDAが使われるのか
EBITDAが買収評価の共通言語になっている理由は、「事業そのものの稼ぐ力」を、会社ごとの事情を取り除いた状態で比較できるからです。具体的には、次の3つの違いをならせます。
① 会計方針の違いをならせる
減価償却には定額法と定率法があり、耐用年数の見積りも会社によって異なります。同じ設備を同じ価格で買っても、定率法を選んだ会社は初年度の償却費が大きく、営業利益は小さく出ます。中古資産を取得した会社は短い耐用年数で一気に償却するため、やはり利益が圧縮されます。償却費を足し戻すEBITDAなら、この選択の差が結果に出ません。
のれんの償却も同様です。日本基準では買収で生じたのれんを最長20年で規則的に償却しますが、IFRSでは償却せず減損テストのみを行います。過去に買収を重ねた会社は、日本基準では毎期のれん償却費が営業利益を押し下げますが、EBITDAではこの差も消えます。詳しくはIFRSと日本基準で評価はどう変わるかで扱っています。
② 資本構成の違いをならせる
買い手にとって、対象会社が借入で調達しているか自己資本で調達しているかは、買収後に自分で組み替えられる要素です。買収時に既存借入を返済することも、逆に借入を増やしてレバレッジをかけることもできます。つまり資本構成は「買った後に変えられるもの」なので、価格を決める段階では取り除いて、事業そのものの力で比べたい。支払利息を差し引く前のEBITDAは、この考え方に合致します。
この発想は、企業価値(EV)と株式価値の区別とセットになっています。EBITDAは債権者と株主の両方に帰属する利益なので、対応する価値も両方に帰属するEV(事業価値)です。株主だけに帰属する株式価値を求めるには、EVから有利子負債を引く必要があります。この関係は企業価値と株式価値の違いで詳しく解説しています。
③ 税率の違いをならせる
繰越欠損金を抱えている会社は当面の納税負担が軽く、税引後利益が実力以上に大きく見えます。逆に軽減税率の適用がない会社は重く出ます。税負担も買収後の資本構成や組織再編で変わりうる要素なので、価格算定の段階では除いておくほうが比較しやすくなります。
結果として「倍率で語れる」ようになる
これら3つをならした結果、EBITDAは業種内での横比較に耐える指標になります。だからこそ「この業種はEBITDAの何倍」という倍率の相場観が成立し、類似会社比較法が機能します。日本の中小M&Aで長く使われてきた年買法(年倍法)も、営業利益の数年分に純資産を足すという発想の点で、EBITDA倍率と同じ「利益の何倍か」という考え方の親戚といえます。
EBITDAの弱点:これだけで判断してはいけない理由
EBITDAは便利ですが、便利さの裏返しとして重要な情報を切り落としています。買い手側の視点では、次の弱点を必ず補正して見ることになります。
① 設備投資(CAPEX)を無視する
EBITDAは減価償却費を足し戻しますが、その償却の元になった設備投資そのものは、将来も繰り返し発生します。装置産業や運送業のように、事業を継続するだけで定期的な設備更新が必要な業種では、EBITDAが大きくても、更新投資に消えて手元に残る現金はわずか、ということが起こります。
逆に、設備をほとんど持たないサービス業やソフトウェア業では、EBITDAと実際の手残りが近くなります。つまりEBITDA倍率を業種をまたいで比べても意味がないのは、この投資負担の差が大きな理由です。同じ倍率でも、必要な再投資が違えば買い手にとっての価値はまったく違います。
この点を補正したいときは、EBITDAから設備投資を差し引いた「EBITDA − CAPEX」を見る、あるいは償却費を費用のまま残すEV/EBIT倍率を併用します。EV/EBITは設備投資負担が利益に反映されるため、投資の重い業種では実態に近い比較ができます。
② 運転資本の増減を無視する
売上が伸びると、売掛金と在庫が増えて現金が寝ます。回収サイトが長い取引先が増えた、在庫を積み増した、といった事情はEBITDAには一切現れません。急成長中の会社が「EBITDAは過去最高なのに資金繰りが苦しい」という状態になるのは、この運転資本の増加が原因です。
M&Aの実務では、この点を価格そのものではなく、クロージング時の運転資本調整(適正水準からの過不足を代金で精算する仕組み)で処理することが多くあります。EBITDA倍率で価格を決めた後に、運転資本の水準をめぐって交渉が続くのはこのためです。
③ リースの扱いで会計基準による差が出る
リース取引の会計処理は、EBITDAの水準を大きく動かします。オペレーティング・リースとして処理すれば、支払リース料は販管費に計上され、営業利益もEBITDAも押し下げられます。一方、資産計上(オンバランス)すれば、費用は減価償却費と支払利息に分解されるため、EBITDAには影響しません。
IFRSでは原則としてすべてのリースを資産計上するため、店舗や倉庫を賃借している会社のEBITDAは日本基準より大きく出ます。日本基準でも新たなリース会計の適用に向けた見直しが進んでおり、同じ会社でも適用基準によってEBITDAが変わりうる状況です。店舗展開型の小売・飲食、倉庫を借りている物流など、賃借資産の比重が高い業種では、比較対象と自社の基準が揃っているかを必ず確認してください。基準差の影響はIFRSと日本基準の評価差にまとめています。
④ 赤字企業には使えない
EBITDAがマイナスの会社に倍率を掛けても、マイナスの企業価値が出てくるだけで意味がありません。創業期のスタートアップ、構造改革の途上にある会社、業績が一時的に落ち込んでいる会社では、EBITDA倍率は使えません。この場合はEV/売上高倍率を使う、DCF法で将来の黒字化を織り込む、あるいは時価純資産法で資産価値から評価する、といった代替手段をとります。当サービスの計算でも、0以下の倍率は統計の対象から除外しています。
⑤ 「稼ぐ力」を大きく見せる方向に働く
構造上、EBITDAは他のどの利益指標よりも大きな数字になります。売り手側が自社を良く見せたいときにEBITDAを前面に出す、という傾向は現実にあります。買い手の立場では、EBITDAと営業キャッシュフロー、EBITDAと当期純利益の乖離がなぜ大きいのかを必ず確認します。乖離の理由が説明できない会社は、そこに評価上の論点が隠れています。
正常化EBITDA(実態EBITDA)の作り方
中小企業のM&Aでは、決算書のEBITDAをそのまま使うことはまずありません。オーナー企業の決算書には、事業の実力とは切り離して考えるべき費用や収益が混ざっているためです。これを引き直したものを正常化EBITDA(実態EBITDA、調整後EBITDA、Adjusted EBITDA)と呼びます。買い手が価格を検討するのは、この正常化後の数字に対してです。考え方の背景は正常収益力の記事もあわせてご覧ください。
主な調整項目
- 役員報酬… 同規模・同業で第三者の経営者を雇った場合の水準に引き直します。オーナーが報酬を高く取っていれば足し戻し、逆に節税目的などで低く抑えていれば差し引きます。この調整は金額が大きくなりやすく、価格への影響が最も大きい項目です。
- オーナー親族への給与… 実態として勤務していない配偶者・親族への役員報酬や給与は、その全額を足し戻します。実際に勤務している場合は、業務内容に見合う水準との差額のみを調整します。
- 私的経費… 社用車(高級車のリース料や維持費)、オーナー個人に紐づく生命保険料、私的な交際費、自宅を兼ねる社宅家賃など。事業に必要なぶんとの差額を足し戻します。
- 一時的な損益… 訴訟の和解金、大規模な修繕、災害損失、退職金の一括支給、補助金収入、資産売却益など、その期限りで翌期以降は繰り返されないもの。
- 関連当事者取引… オーナー個人所有の不動産を相場とかけ離れた賃料で借りている、関係会社と通常と異なる条件で取引している、といったケースは市場水準に引き直します。
- 買収後に発生しなくなる/発生する費用… 売却に伴って不要になる費用や、逆に上場企業グループに入ることで新たに発生する管理コストなど。買い手側の調整として議論されます。
調整表の例
調整は「どの項目を、いくら、なぜ調整したか」を一覧にして示すのが基本です。数字は仕組みを説明するための例示であり、実際の水準を示すものではありません。
| 項目 | 金額(例) | 調整の考え方 |
|---|---|---|
| 営業利益(決算書) | 4,000万円 | 出発点 |
| + 減価償却費 | +1,500万円 | 売上原価・販管費の合計額を計上 |
| = 決算書ベースのEBITDA | 5,500万円 | 簡便法 |
| + 役員報酬の適正化 | +1,800万円 | オーナー報酬3,600万円 → 市場水準1,800万円との差額 |
| + 非常勤親族への給与 | +600万円 | 実態として勤務していない2名分 |
| + オーナー個人の保険料・社用車 | +300万円 | 事業に必要な水準を超える部分 |
| + 一時的な訴訟関連費用 | +400万円 | 当期限りで翌期以降は発生しない |
| − 補助金収入 | △200万円 | 継続性がないため控除 |
| − オーナー所有不動産の賃料適正化 | △400万円 | 相場より安く借りている差額を費用として認識 |
| = 正常化EBITDA | 8,000万円 | この数字に倍率を掛ける |
この例では、決算書ベースの5,500万円が正常化後に8,000万円になりました。仮に倍率を5倍とすれば、事業価値の差は1億2,500万円です。正常化の巧拙が価格に直結することがわかります。
EBITDAマージンの見方
EBITDAマージン(EBITDA ÷ 売上高)は、売上に対してどれだけEBITDAを生み出せているかを示す収益性の指標です。営業利益率と似ていますが、償却負担の差を除いているぶん、設備投資方針の異なる会社同士を比べやすくなります。
重要なのは、EBITDAマージンに「何%以上なら良い」という業種横断の基準は存在しないということです。水準は業種のビジネスモデルによって構造的に決まります。
- 売上が大きく利幅が薄い業種(卸売、燃料販売、一部の小売など)は、売上高が大きいためマージンは構造的に低く出ます。マージンの低さがそのまま収益性の低さを意味するわけではありません。
- 設備投資が重い業種(不動産賃貸、インフラ、装置産業など)は、償却費を足し戻すためマージンが高く出ます。ただしその裏で継続的な設備投資が必要なので、マージンの高さが手残りの多さを意味しません。
- 人件費が主要コストの業種(人材サービス、受託開発など)は、償却費が小さいため営業利益率とEBITDAマージンがほぼ一致します。
したがってEBITDAマージンは、同業種・同規模の会社と比べる、あるいは自社の時系列で追う、という使い方をします。同業と比べて明らかに低ければコスト構造に改善余地があり、明らかに高ければ何か特別な要因(一過性の収益、特殊な取引条件)がないかを確認する、という読み方です。業種ごとの評価上の着眼点は業種別の企業価値評価のポイントにまとめています。資本効率の観点から収益性を見たい場合はROEとROICもあわせて参照してください。
EV/EBITDA倍率との関係と計算例
EBITDAが企業価値評価で最も活躍するのが、EV/EBITDA倍率です。
EV = 株式時価総額 + 有利子負債 − 現金及び現金同等物
この倍率は「EBITDAの何年分で買収額を回収できるか」の目安として語られることもあります(簡易買収倍率)。実際には税金も設備投資も無視した粗い見方ですが、直感的にわかりやすいため広く使われています。
倍率から企業価値・株式価値を求める手順
評価対象の非上場企業に倍率を当てはめる流れは次のとおりです。
- ① 対象会社の正常化EBITDAを確定する
- ② 類似する上場会社を複数選び、各社のEV/EBITDA倍率を算出して中央値などの代表値を取る
- ③ 正常化EBITDA × 倍率 = 事業価値(EV)
- ④ EV + 非事業用資産 − 有利子負債 + 現預金 = 株式価値
- ⑤ 非上場であることによる流動性の制約などを考慮してディスカウントを検討する
通しの計算例
前章の正常化EBITDA 8,000万円の会社を例に、最後まで計算してみます。倍率や割合はすべて説明のための仮の数値であり、実際の相場を示すものではありません。
| ステップ | 計算 | 金額(例) |
|---|---|---|
| 正常化EBITDA | — | 8,000万円 |
| 採用倍率(類似会社の中央値と仮定) | — | 5.0倍 |
| 事業価値(EV) | 8,000万円 × 5.0 | 4億円 |
| + 非事業用資産(遊休不動産・投資有価証券など) | — | +3,000万円 |
| + 現預金 | — | +6,000万円 |
| − 有利子負債 | — | △1億5,000万円 |
| = 株式価値(ディスカウント前) | — | 3億4,000万円 |
| − 非流動性ディスカウント(仮に20%) | 3億4,000万円 × 20% | △6,800万円 |
| = 株式価値の目安 | — | 2億7,200万円 |
ここで確認しておきたいのは、倍率を1つ動かすだけで結果が大きく変わるということです。同じ会社でも倍率が4.0倍なら事業価値は3億2,000万円、6.0倍なら4億8,000万円で、1億6,000万円の開きが出ます。だからこそ、評価の結論は一点の金額ではなく、四分位などを使ったレンジで示すのが実務の作法です。
現金と有利子負債の扱いにも注意してください。EVの定義に「− 現金」が入っているため、対象会社に適用するときは「EV − 有利子負債 + 現金」で株式価値に戻します。ネットデット(有利子負債 − 現預金)をまとめて差し引く形で計算しても結果は同じです。上の例ではネットデット9,000万円を差し引いたのと同じことになります。
この一連の計算はEV/EBITDA倍率 企業価値計算機で試せます。EBITDA・倍率・有利子負債・現預金を入れるだけで、事業価値と株式価値の目安が出ます。登録不要・入力データの送信なしで使えるので、手元の数字を入れて感触をつかんでみてください。倍率の選び方そのものについては類似会社比較法とEV/EBITDA倍率の選び方で詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. EBITDAと営業キャッシュフローは同じものですか?
A. 違います。営業キャッシュフローは、税引前利益に減価償却費を足し戻したうえで、売掛金・在庫・買掛金といった運転資本の増減を調整し、法人税等の実際の支払額と支払利息を反映したものです。EBITDAはこのうち運転資本の増減も税金の支払いも反映していません。したがって、売上が急拡大して運転資本が膨らんでいる会社では、EBITDAが大きくても営業キャッシュフローはわずか、あるいはマイナスということがあります。EBITDAは「キャッシュ創出力の粗い目安」であって、キャッシュフローそのものではないと理解してください。
Q. 減価償却費はどこから拾えばよいですか?
A. 最も確実なのは、キャッシュフロー計算書の「減価償却費」の行です。作成していない場合は、法人税申告書の別表十六に記載された当期償却額の合計、または固定資産台帳の当期償却額の合計を使います。損益計算書の販売費及び一般管理費の明細に載っている減価償却費だけを拾うと、売上原価に含まれる製造設備の償却費が漏れてしまいます。製造業や物流業では、この漏れが金額的に非常に大きくなるため注意が必要です。長期前払費用の償却や、リース資産の償却費も忘れずに含めます。
Q. のれん償却費もEBITDAで足し戻しますか?
A. 足し戻します。EBITDAのA(Amortization)は無形固定資産の償却を指し、のれん償却費もこれに含まれます。日本基準では過去の買収で生じたのれんを規則的に償却するため、買収を重ねた会社ほど営業利益が押し下げられますが、EBITDAではその影響が消えます。逆に言えば、のれん償却費を足し戻さないままEBITDAを計算すると、買収歴のある会社を過小評価してしまいます。詳しくはのれん償却の記事をご覧ください。
Q. EBITDA倍率は何倍が適正ですか?
A. 一律の適正水準はありません。倍率は業種の成長性、収益の安定性、必要な設備投資の重さ、会社の規模、そして市況によって変わります。同じ業種でも、成長率が高く参入障壁のある会社は高い倍率がつき、特定の取引先に依存している会社や成長が止まっている会社は低い倍率になります。また上場企業の倍率をそのまま非上場企業に当てはめることもできません(規模と流動性の差があるため)。実務では、条件の近い会社を複数選んで倍率を算出し、その中央値と四分位でレンジを示すという進め方をします。
Q. EBITDAがマイナスの会社はどう評価しますか?
A. EBITDA倍率は使えないので、別の手法に切り替えます。売上規模があり将来の黒字化が見込める事業ならEV/売上高倍率、事業計画に根拠があるならDCF法、資産の裏づけが主な価値なら時価純資産法が候補になります。ただし、正常化調整によってEBITDAがプラスに転じるケースもあります。過大な役員報酬や一時費用でマイナスになっているだけなら、正常化EBITDAはプラスになり、倍率法が使える可能性があります。まずは正常化を行ってから判断してください。
Q. 「EBITDA」と「調整後EBITDA」はどう使い分けますか?
A. 決算書からそのまま計算したものが「EBITDA」、正常化調整を加えたものが「調整後EBITDA(正常化EBITDA)」です。M&Aの価格交渉で使われるのはほぼ例外なく後者です。ただし「調整後」の中身に決まった定義はなく、どこまでを調整項目と認めるかは当事者の交渉次第です。売り手が主張する調整後EBITDAと、買い手がデューデリジェンスを経て認める調整後EBITDAが食い違うのは普通のことです。だからこそ、調整の一つひとつに根拠資料を用意し、なぜその調整が妥当なのかを説明できる状態にしておくことが重要になります。
まとめ
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足し戻して求める「利払前・税引前・償却前利益」です。資本構成・税率・会計方針という会社ごとの事情を取り除いて事業の稼ぐ力を比べられるため、M&Aと企業価値評価の共通言語になっています。計算式は簡便法(営業利益+減価償却費)と積み上げ法(税引前利益+支払利息+減価償却費)の2通りがあり、営業外損益と特別損益の扱いの違いから両者は一致しません。評価実務では簡便法が基本です。
一方で、EBITDAは設備投資と運転資本の負担を映さず、リースの会計処理の差にも影響を受け、赤字企業には使えません。この弱点を理解せずにEBITDA倍率だけで価格を判断すると、投資負担の重い事業を過大評価することになります。EV/EBITとの併用、DCF法や純資産法との突き合わせが欠かせません。
そして中小企業の評価では、決算書のEBITDAをそのまま使わず、役員報酬・親族給与・私的経費・一時損益を引き直した正常化EBITDAを作ることが出発点になります。この調整の精度が、そのまま価格の説得力になります。
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