赤字・債務超過の会社は売却できる? 値段の付き方と、買い手が見るポイント
最終更新: 2026-09-12
決算書が赤字である、あるいは貸借対照表の純資産がマイナス(債務超過)である。この状態で「会社を売る」という選択肢を考え始めた経営者の方が、最初に抱く不安はおそらく共通しています。こんな会社を買う人などいるのだろうか、値段など付くはずがないのではないか、金融機関や取引先に知られたらどうなるのか、従業員はどうなるのか——。
結論から申し上げると、赤字や債務超過であっても、M&Aで会社や事業が第三者に承継される例は実際にあります。ただし、それは「赤字でも必ず買い手が見つかる」という意味ではありません。買い手が見ているのは過去の損益そのものではなく、これから先に生み出せる収益力と、赤字の原因が自分たちの手で取り除けるかどうかだからです。原因が取り除ける見込みが立つなら検討の土俵に乗り、立たなければ乗らない。それだけのことで、赤字という一語で扉が閉まっているわけではない、というのが実務の感覚に近いところです。
本稿では、赤字の種類によって見立てがどう変わるのか、買い手が価格の根拠に使う「正常収益力」をどう作るのか、債務超過のときに取り得るスキームは何か、そして実際にどのような形で値段が付くのかを順に整理します。あわせて、売り手が先に手を付けておくべき準備と、時間の経過が選択肢に与える影響についても触れます。売却手続きの全体像を先に押さえたい方はM&Aによる会社売却の流れもあわせてご覧ください。
「赤字=売れない」とは限らない理由
買い手が企業を買う理由は、突き詰めれば「買った後に生み出される利益とキャッシュ」を得るためです。ここで重要なのは、その利益が誰の手で運営された場合の利益かという点です。売り手の体制のまま延長した損益と、買い手の資本・販路・購買力・管理体制に乗せ換えた後の損益は、同じ会社でも別物になり得ます。
たとえば、仕入れを買い手のグループ購買に乗せればコストが下がる、間接部門を買い手側に統合すれば固定費が減る、買い手の営業網に商品を載せれば売上が伸びる、といった変化です。これらはシナジーと呼ばれますが、赤字会社のM&Aでは、この「乗せ換えたら黒字になるか」という一点が検討の中心になります。逆に言えば、乗せ換えても黒字化の絵が描けない事業は、赤字でなくても買い手が付きにくいということでもあります。どれだけ売上が戻れば、あるいは固定費をいくら減らせば黒字に届くのかは、損益分岐点(BEP)計算ツールで数字にしておくと、買い手との議論がかみ合いやすくなります。
もう一つの理由は、会計上の赤字が必ずしも事業の実力を表していないことです。オーナー企業では、役員報酬や生命保険料、オーナー個人に関連する経費、税負担を抑えるための処理などが損益計算書に混ざっています。これらを買い手目線に引き直すと、実は営業利益が出ている、というケースは決して珍しくありません。この引き直し後の利益を正常収益力と呼び、価格算定の出発点になります。
ただし、期待だけで話を進めるのは危険です。買い手は必ずデューデリジェンス(DD)で数字と契約を検証しますし、赤字案件では特に、簿外債務・偶発債務・資金繰りの逼迫度合いに厳しい目が向きます。「売れる可能性はゼロではない」ことと「売れることが約束されている」ことの間には大きな距離がある、という前提で読み進めていただければと思います。
赤字の種類で見立ては大きく変わる
同じ「赤字」でも、原因によって買い手の反応はまったく違います。実務では、まず自社の赤字がどの類型に当たるのかを整理するところから始めます。下表は代表的な類型と、買い手の見方・価格の付き方の傾向をまとめたものです。
| 赤字の種類 | 典型的な中身 | 買い手の見方 | 価格の付き方の傾向 |
|---|---|---|---|
| 一時的な赤字 | 大口顧客の一時的離脱、災害・事故、特別損失の計上、単年度の原材料高騰 | 原因が特定でき、再発しないことを説明できれば、調整後の利益で評価しやすい | 調整後利益をベースに評価されることがあり、黒字企業に近い考え方が使えるケースもある |
| 構造的な赤字 | 市場自体の縮小、価格競争で粗利が確保できない、固定費が売上規模に対して過大 | 買い手側の施策で構造を変えられるかを厳しく見る。変えられないと判断されれば見送りになりやすい | 収益性の手法が成立しにくく、資産価値や事業の一部の価値が中心になりやすい |
| オーナー報酬・節税による見かけの赤字 | 高額な役員報酬、家族への給与、保険料、社用車・交際費などの私的支出 | 調整すれば実態は黒字と判断されることがあり、赤字案件のなかでは評価されやすい | 正常収益力をもとに営業権が認められる余地がある |
| 投資先行の赤字 | 新規出店、システム開発、人員の先行採用、研究開発 | 投資の成果が出る時期と確度を見る。既存事業が黒字かどうかで評価が分かれる | 回収見込みが説明できれば評価されることもあるが、割り引かれやすい |
| 債務超過 | 累積損失で純資産がマイナス、借入過多、含み損のある資産 | 事業の収益力と負債の重さを分けて見る。負債の処理方針が固まらないと前に進みにくい | 株式の価値がゼロ〜備忘価額となることもあり、スキームの設計が価格以上に重要になる |
ここで押さえておきたいのは、赤字と債務超過は別の問題だということです。赤字は損益計算書(フロー)の話、債務超過は貸借対照表(ストック)の話で、毎期黒字でも過去の累積損失で債務超過が続いている会社もあれば、純資産は厚いのに単年度で大きな赤字を出している会社もあります。買い手も両者を分けて見るため、売り手側も「今期の損益をどう説明するか」と「バランスシートをどう処理するか」を分けて考えると、論点が整理しやすくなります。
正常収益力(実態EBITDA)の作り方
赤字会社の売却で、最初にやるべき作業が正常収益力の把握です。中小企業のM&Aでは、営業利益に減価償却費を足し戻したEBITDAを基準にすることが多く、そこにオーナー企業特有の項目を調整した「実態EBITDA」を作ります。これが買い手との共通言語になります。
調整する代表的な項目
- 役員報酬:オーナーとその家族に支払っている報酬を、後任者を雇った場合の市場水準に引き直します。過大なら足し戻し、逆に無報酬・低額で回していた場合は差額を差し引く必要があります。ここを都合よく片側だけ調整すると、DDで必ず指摘されます。
- 私的経費:事業に関係の薄い交際費、社用車、旅費、家族名義の携帯電話代、生命保険料などを整理します。金額よりも、領収書や契約で裏付けられるかどうかが問われます。
- 一時損益:固定資産の売却損益、災害損失、訴訟の和解金、コロナ禍に関連する補助金収入、退職に伴う一時的な費用など、毎期は発生しない項目を除きます。プラスの一時収益を除くことも忘れないでください。
- 退職金・引当:オーナーへの役員退職慰労金の支給予定、未計上の退職給付債務、未消化の有給休暇に対応する負担などを織り込みます。未計上の債務は、価格の減額要因として扱われるのが一般的です。
- 家賃の適正化:オーナー個人や資産管理会社が所有する不動産を会社が借りている場合、賃料が相場から乖離していることがあります。相場水準に引き直したうえで、譲渡後も同じ条件で借り続けられるのかを整理しておきます。
調整表の例
調整は、次のように「決算書の数字から出発して、増減の理由を一行ずつ示す」形にまとめます。金額は説明のための例示です。
| 項目 | 金額(例) | 調整の考え方 |
|---|---|---|
| 営業利益(決算書) | △1,500万円 | 出発点。決算書の数値をそのまま置く |
| + 減価償却費 | +1,200万円 | EBITDAに引き直すための足し戻し |
| = EBITDA | △300万円 | 調整前の水準 |
| + 役員報酬の適正化 | +1,800万円 | オーナー報酬3,600万円を後任者相当の1,800万円に引き直した差額 |
| + 私的経費の除外 | +250万円 | 事業関連性の乏しい交際費・車両費など(証憑で裏付け可能な分のみ) |
| + 一時的な損失 | +400万円 | 前期に発生した訴訟和解金など、反復しない費用 |
| △ 一時的な収益 | △150万円 | 単年度限りの補助金収入を控除 |
| △ 家賃の適正化 | △200万円 | オーナー所有物件を相場より低い賃料で借りていた分を是正 |
| △ 未計上の負担 | △100万円 | 有給休暇・退職給付など未計上分の年間相当額 |
| = 実態EBITDA(正常収益力) | +1,700万円 | 買い手との議論の出発点になる数値 |
この表のように、決算書上は営業赤字でも、調整後にはプラスの収益力が見えてくることがあります。重要なのは金額そのものより、一つひとつの調整に裏付けがあることです。買い手はDDでこの表を逆から検証します。根拠のない足し戻しが一つでも見つかると、表全体の信頼性が疑われ、かえって不利になります。都合の悪い調整(マイナス側)を自分から出しておくほうが、結果的に交渉は進みやすくなります。
算定手法そのものの考え方は会社売却の相場はいくらかで、赤字企業に絞った相場観は赤字会社の売却相場で整理しています。EBITDAに倍率を掛ける簡便な考え方は年倍法(年買法)を、実際の数値感は年倍法の計算ツールで確認できます。
債務超過の場合に取り得る選択肢
債務超過の会社では、価格の議論より先に「負債をどう扱うか」を決める必要があります。ここは売り手だけで完結できない領域で、取引金融機関の同意や、法律上の手続きが関わってきます。以下は代表的な選択肢の整理ですが、いずれも弁護士および金融機関との連携が前提です。自己判断で相手に持ちかける前に、専門家に相談してください。
| 選択肢 | 概要 | 向いている場面 | 主な留意点 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡+債務の引継ぎ | 株式をそのまま譲渡し、買い手が負債を抱えた会社ごと引き受ける | 事業の収益力があり、買い手の信用力で借入を維持・借換えできる | 譲渡代金はゼロや備忘価額になることがある。個人保証の解除には金融機関の同意が必要 |
| 事業譲渡(優良事業のみ) | 収益性のある事業と必要な資産だけを切り出して譲渡し、譲渡代金を残った会社の返済等に充てる | 赤字部門と黒字部門が分かれており、切り分けが可能 | 許認可や契約の承継に個別の手続き・同意が必要。残った会社の後始末をどうするか要検討 |
| 会社分割 | 事業を包括的に別会社へ移し、その会社の株式を譲渡する | 契約や従業員の承継をまとめて行いたい | 債権者保護手続などの法定手続が必要。債権者を害する分割と評価されないよう設計に注意 |
| スポンサー型の私的整理・法的整理 | 金融機関との協議や法的手続のなかで、スポンサーに事業を引き継ぐ | 自主的な交渉だけでは負債の整理が付かない | 弁護士の関与が事実上不可欠。信用・取引関係への影響が大きく、要件も厳格 |
| 廃業・清算 | 事業を止め、資産を換価して債務を弁済し会社を畳む | 承継の相手が見つからず、資金繰りが持たない | 債務超過では清算しきれない場合がある。従業員の雇用・取引先への影響が最も大きい |
事業譲渡と株式譲渡で何がどう変わるかは事業譲渡と株式譲渡の違いに、会社分割の基本的な仕組みは会社分割とはにまとめています。後継者不在で選択肢そのものを比較したい場合は後継者不在のときの選択肢を、廃業と売却の損得を数字で比べたい場合は黒字廃業を避けるためにもあわせてご覧ください。公的な相談窓口や支援制度についてはM&Aの公的支援で触れています。
買い手が評価する「損益以外の資産」
赤字案件で買い手を動かすのは、多くの場合、損益計算書に表れていない要素です。買い手側から見れば、これらを自前で一から揃えるには時間とコストがかかるため、買収で手に入れるほうが合理的だという判断が働きます。
- 許認可・登録:建設業許可や各種の業法上の登録など、取得に年数や実績要件を要するもの。新規取得の難易度が高いほど、承継価値は大きくなります。ただし、許認可が譲渡で当然に引き継がれるとは限らず、スキームによって扱いが異なる点は事前確認が必要です。
- 技術者・有資格者:現場を回せる職人、施工管理技士、ドライバー、看護師・介護福祉士、エンジニアなど。採用難の職種を抱えていること自体が価値になります。
- 顧客基盤・取引口座:継続取引のある顧客、大手企業との取引口座、長期契約。新規開拓では代替しにくいため、赤字でも評価されやすい要素です。
- 拠点・立地:営業エリアの補完、物流網の結節点、出店余地の少ない地域の店舗など。
- 設備・製造能力:稼働可能な生産設備、認証を取得済みの工場、車両。簿価が小さくても、代替取得コストで見ると価値が残っていることがあります。
- 繰越欠損金:過去の赤字を将来の課税所得と相殺できる制度上の資産です。ただしその利用には税務上の制限があり、M&Aの態様や支配関係の変動、その後の事業の継続状況などによって使えない場合があります。価格の前提に織り込む際は、必ず税理士等に個別の可否を確認してください。
これらは自社では当たり前になっていて、価値として認識されていないことが多い要素です。買い手に伝わる形で整理しておくと、交渉の材料が一つ増えます。
実際の値段の付き方
赤字・債務超過の案件では、価格の決まり方が黒字企業の場合とは少し異なります。代表的なパターンを挙げます。
純資産がマイナスでも営業権が付くケース
時価純資産法で評価すると純資産がマイナスでも、正常収益力がプラスであれば、そこに営業権(のれん)を加えて評価する考え方があります。時価純資産に実態利益の数年分を足す方法では、マイナスの純資産と営業権が相殺され、結果としてプラスの株式価値が算出されることもあります。ただし、負債の重さが営業権を上回れば価値はゼロ以下となり、この場合は価格ではなくスキームの話に移ります。
1円譲渡+債務の引受
株式そのものの対価は1円などの備忘価額とし、買い手が借入や買掛金を引き継ぎ、必要に応じて運転資金を注入する形です。売り手から見れば「売却代金は入らない」ことになりますが、事業と雇用が継続し、個人保証の解除や、廃業した場合に生じたはずの費用負担を回避できる可能性がある点に意味があります。実質的には、買い手が負債という対価を負担していると捉えることもできます。
アーンアウト(業績連動の後払い)
譲渡時点では低い金額とし、譲渡後に一定の業績目標を達成した場合に追加の対価を支払う取り決めです。将来の見通しについて売り手と買い手の見方が離れているときに、その差を埋める手段として使われます。売り手にとっては上振れの余地が残る一方、達成できなければ受け取れないため、目標の定義・測定方法・支配権が移った後の運営方針をどう扱うかを契約で細かく詰める必要があります。支払方式や達成シナリオによって受取額がどこまで振れるかは、アーンアウト・シミュレーターで確認できます。
経営者の一時的な残留
譲渡後も一定期間、前経営者が役員や顧問として残り、顧客・仕入先・従業員への引継ぎを担う形です。属人性の高い会社ほど買い手のリスクが下がるため、価格や成約可能性にプラスに働くことがあります。期間・役割・報酬は事前に明確にしておきます。
売り手が準備すべきこと
赤字案件では、準備の質がそのまま選択肢の広さに直結します。買い手は不確実性を嫌うため、説明できない部分が多いほど価格は保守的になり、検討そのものを見送られることもあります。
- 数字を整える:直近3〜5期の決算書に加え、月次試算表を直近まで揃えます。赤字案件では期中の推移が重視されるため、月次が出せるかどうかで印象が変わります。
- 資金繰り表を作る:向こう6〜12ヶ月の入出金予定を月次で示します。「いつまでに資金が持つか」は、買い手が検討スピードを決める材料であり、売り手自身が締切を知るための材料でもあります。
- 赤字の説明ストーリーを用意する:いつ、何が原因で、どのような手を打ち、現在どこまで戻っているのか。時系列で、数字と対応させて説明できるようにします。原因を外部要因だけに帰す説明は、かえって信頼を損ないます。
- 簿外債務を洗い出す:未払残業代、社会保険の未加入・未納、係争中の案件、個人保証や第三者への担保提供、リース残高、返済条件を変更している借入の状況など。DDで後から出てくると、価格の減額どころか破談の原因になります。先に開示するほうが、結果的に守りになります。
- 価値の源泉を言語化する:許認可、有資格者の人数と資格、主要顧客との取引年数、設備の稼働状況などを一覧にしておきます。
- 早めに着手する:後述のとおり、これが最も効きます。
売り手側で事前に問題点を洗い出して整える進め方はセルサイドDDと売却前の磨き上げに、買い手が実際に何を見るかはデューデリジェンスとはにまとめています。従業員へ伝える時期の考え方は従業員への開示タイミングを参考にしてください。
時間が経つほど選択肢は減る
赤字・債務超過の案件で、最も価格と成否を左右するのは時間です。理由ははっきりしています。
- 資金が細るほど、買い手を選ぶ余裕がなくなり、条件交渉の立場が弱くなります。
- 優秀な人材から先に離職し、買い手が評価していた「人」という価値が失われていきます。
- 支払遅延が始まると、仕入先の与信が縮小し、事業自体の継続が難しくなります。
- 債務超過の幅が広がるほど、金融機関との調整に必要な手続きが重くなります。
- 相手探しから成約までには数ヶ月〜1年程度かかるのが一般的で、残り時間が短いと、そもそも探索の時間が取れません。
逆に言えば、資金繰りにまだ余裕がある段階で動き始めれば、複数の買い手候補に当たる、スキームを選ぶ、条件を交渉する、といった余地が残ります。「もう少し業績を戻してから相談しよう」と考えているうちに選択肢が狭まっていく、というのが赤字案件で最もよくある展開です。まずは現状を数字で把握し、残り時間を見積もるところから始めてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 債務超過でも買い手はいますか?
A. 債務超過の会社が承継された例はありますが、買い手が見つかるかどうかは、事業の収益力・負債の規模・許認可や人材といった価値の源泉、そして金融機関の姿勢によって変わります。必ず見つかると申し上げることはできません。実務では、株式譲渡が難しくても事業譲渡や会社分割で価値のある部分だけを引き継ぐ形が検討されることがあります。まずは正常収益力と負債の実額を整理し、どのスキームなら成立し得るかを専門家と検討するのが出発点です。
Q. 社長の個人保証はどうなりますか?
A. 会社を譲渡しても、個人保証が自動的に外れるわけではありません。解除には保証をしている金融機関の同意が必要で、買い手が新たに保証を引き受ける、借換えを行う、といった形で調整されるのが一般的です。中小企業の経営者保証については、一定の考え方を示したガイドラインもあります。譲渡契約のなかで保証解除を条件として明記しておくことが実務上は重要です。詳しくはM&Aと個人保証の解除をご覧いただき、実際の手続きは金融機関と弁護士に確認してください。
Q. 従業員の雇用は守られますか?
A. 株式譲渡では会社がそのまま存続するため、雇用契約は原則として継続します。事業譲渡では、従業員の転籍について個別の同意が必要になるのが原則です。ただし、いずれの場合も譲渡後の処遇や体制は買い手の方針に左右されるため、雇用の維持を重視するなら、交渉段階で買い手の考えを確認し、必要な事項は契約に落とし込んでおくことが現実的な対応になります。何もしなければ守られる、というものではありません。
Q. 銀行に相談すべきですか?
A. 債務の引継ぎ・借換え・個人保証の解除・返済条件の変更が絡む以上、取引金融機関との調整は避けて通れません。ただし、伝える内容と順序を誤ると、与信判断に影響が及ぶおそれもあります。何を、いつ、どこまで伝えるかは、弁護士やM&Aの実務に詳しい専門家と方針を決めたうえで進めるのが安全です。少なくとも「金融機関に無断で負債の処理を前提としたスキームを進める」ことは避けてください。
Q. いつまでに動くべきですか?
A. 一律の期限はありませんが、判断の目安になるのは資金繰り表です。相手探しから成約までに数ヶ月〜1年程度かかることを踏まえると、手元資金と借入枠で1年程度の運転資金が見通せるうちに着手できると、選択肢を残しやすくなります。支払遅延や税・社会保険の滞納が始まってからでは、取り得る手段が急速に狭まります。まだ余裕があると感じている段階が、実は最も条件を作りやすい時期です。
Q. 廃業と比べてどちらが得ですか?
A. 一概には言えず、比較には計算が必要です。廃業では、資産を処分価格で換価することになり、原状回復費用・解雇に伴う費用・専門家報酬などの支出も発生します。債務超過の場合、清算しても債務が残ることがあります。一方、譲渡では代金がゼロや備忘価額でも、負債の引継ぎ・雇用の継続・保証解除の可能性といった非金銭的な効果が生じ得ます。判断するには、廃業した場合の最終的な手残り(またはマイナス)と、譲渡した場合の条件を、同じ土俵で並べて比べることです。考え方は黒字廃業を避けるためにで整理しています。譲渡代金が出る場合の税引後の手残りは株式譲渡の手取り計算ツールでおおまかな目安を確認できますが、実際の税額は個別事情によるため税理士にご確認ください。
まとめ
赤字や債務超過であることは、売却の可能性を閉ざす条件ではありません。買い手が見ているのは過去の損益そのものではなく、将来の収益力と、赤字の原因を取り除けるかどうかです。だからこそ、まず自社の赤字がどの類型に当たるのかを整理し、役員報酬・私的経費・一時損益・退職金・家賃を調整した正常収益力を示すことが出発点になります。純資産がマイナスでも営業権が認められる場合があり、1円譲渡+債務引受やアーンアウト、経営者の一時残留といった形で条件が組まれることもあります。
一方で、成約が保証されるものではないことも事実です。負債の処理が絡む場面では、弁護士や取引金融機関との連携が前提になりますし、繰越欠損金のように税務上の制限がある論点も個別確認が欠かせません。そして何より、時間が経つほど資金も人材も減り、選択肢は確実に狭まります。まだ余裕があるうちに数字を整え、残り時間を見積もり、専門家に相談することが、最も効果の大きい一手です。
赤字でも、正常収益力と時価純資産を整理すると価格の目線が作れます。「M&Aバリュークラウド」では、財務データを入力すると、DCF法・類似会社比較法・純資産法で株式価値のレンジを算定し、PDF報告書にまとめます(簡易版2,200円・詳細版5,500円、税込)。登録・試算は無料です。無料で登録して試算する