建設業の企業価値評価|完成工事高・未成工事・経審の見方と手法の使い分け

最終更新: 2026-09-12

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建設業の決算書は、他業種と勘定科目の名前からして違います。売上高ではなく完成工事高、売上原価ではなく完成工事原価、そして貸借対照表には未成工事支出金と未成工事受入金という、初めて見ると意味をつかみにくい科目が並びます。この「建設業会計」の作りを理解しないまま数字を読むと、収益力も純資産も実態から離れた形で認識してしまいます。企業価値評価の場面では、それがそのまま評価額の誤りになります。

本稿は、建設業の企業価値評価を「技術的にどう組み立てるか」に絞って解説します。会計の独特さと読み違えやすい点、3つの評価手法の使い分け、受注残(バックログ)の見方、経営事項審査(経審)の位置づけ、建設業許可と技術者の要件、貸借対照表の個別論点、労務・安全のリスクまでを順に整理します。価格の水準感そのもの、売却の進め方や買い手探しについては建設会社の売却相場とM&Aの進め方で扱っていますので、そちらとあわせてお読みください。

本稿で挙げる比率・年数・倍率などはいずれも一般的な考え方を示す目安であり、特定の水準を保証するものではありません。工種、地域、公共・民間の構成、規模によって大きく変わります。また、建設業許可や技術者要件の可否、労務・社会保険の取り扱いについては、必ず行政書士・社会保険労務士など専門家にご確認ください。

建設業会計の独特さ:どこで読み違えるか

建設業の会計が独特なのは、工事が期をまたぐからです。着工から引渡しまで数ヶ月から数年かかる仕事を、期間で区切った決算書に落とし込む必要があります。そのために用意されているのが、未成工事支出金・未成工事受入金といった科目であり、工事進行基準(現行の収益認識基準では一定の期間にわたり充足される履行義務としての処理)という考え方です。

まず、主要な科目が何を表しているかを押さえます。

科目・概念内容評価で読み違えやすい点
完成工事高/完成工事原価引渡しが完了した工事(または進捗に応じて認識した分)の売上と原価。一般企業の売上高・売上原価にあたる工事の完成時期が期末にずれ込んだだけで、完成工事高が大きく上下する。単年度の売上だけで規模や成長を判断すると誤る
未成工事支出金まだ完成・引渡しをしていない工事に投入した材料費・労務費・外注費などの累計。棚卸資産として資産計上される資産として計上されているが、現金化されているわけではない。回収可能性は工事の採算しだいで、赤字工事なら回収できない部分が残る
未成工事受入金未完成の工事について、発注者から前受けした金額。負債として計上される前受金なので返済義務のある借入とは性質が違うが、負債であることに変わりはない。純資産を見るときにこれを資本のように扱ってはいけない
工事未収入金完成・引渡し済みの工事について、まだ回収していない代金。一般企業の売掛金にあたる回収サイトが長い取引先や、係争中の請求が混ざっていることがある。滞留分は時価純資産で減額の対象
工事進行基準(進捗度に応じた収益認識)工事の進捗に応じて収益と原価を各期に配分する処理。進捗度は原価比例法などで測る見積総原価が変われば、過去に計上した利益の水準も変わる。総原価の見積が甘いと、利益が前倒しで出ているように見える
工事完成基準(一時点での収益認識)引渡し時点でまとめて収益と原価を認識する処理。工期の短い工事などで用いられる完成のタイミングで利益が集中するため、期ごとの損益が跳ねる。平準化しないと収益力を見誤る
工事損失引当金将来赤字になることが見込まれる工事について、見込まれる損失をあらかじめ計上する引当金適切に計上されていないと、損失が将来期に先送りされている。未計上の赤字工事がないかは重点確認項目

評価の実務でとくに注意すべきなのは、次の3点です。第一に、完成工事高の増減が、事業の実力ではなく引渡し時期のずれである可能性。第二に、未成工事支出金という資産が、将来の利益ではなく将来の損失を抱えている可能性。第三に、工事進行基準における総原価の見積が、利益の出方を左右している可能性です。いずれも、単年度の決算書を眺めているだけでは見えません。複数期の推移と、工事台帳・工事別の予実(見積原価と実際原価の差)まで下りて確認する必要があります。

こうした調整を経て求めるのが、いわゆる正常収益力です。役員報酬や私的経費の調整といった一般的な論点に加えて、建設業では「工事の期ズレを均す」「一過性の大型工事を切り分ける」「赤字工事の損失を適切な期に帰属させる」という作業が加わります。

3手法の使い分け:なぜ時価純資産+営業権が中心になりやすいのか

企業価値評価の手法は、資産にもとづくコストアプローチ、他社と比べるマーケットアプローチ、将来収益にもとづくインカムアプローチの3つに大別されます。手法そのものの全体像は非上場株式の評価方法で整理しています。建設業ではこの3つのうち、中小規模ほど時価純資産法に営業権を加える形(いわゆる年買法)が実務の中心になりやすい傾向があります。

手法考え方建設業で向く場面留意点
時価純資産法+営業権(年買法)資産・負債を時価に直した純資産に、正常収益力の数年分を営業権として上乗せする地域密着の中小建設会社。純資産が厚く、受注が単年度ごとに積み上がるタイプ営業権の年数に客観的な根拠を置きにくい。将来の受注が読める場合は過小評価になりうる
類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)類似する上場企業などの倍率を、自社の実態EBITDAに掛けて事業価値を求める一定規模以上で、工種・地域が明確に括れる会社。専門工事で高い技術を持つ会社上場企業とは規模・受注構造が違うため調整が必要。単年度EBITDAが工事の期ズレで振れる点にも注意
DCF法将来の各期のフリーキャッシュフローを割引率で現在価値に引き直して合計する受注残が厚く、複数年の工事計画が具体的に立っている会社。大型案件の進行中受注残の外側(将来の新規受注)の前提が主観的になりやすい。事業計画の精度に結果が強く依存する

では、なぜ中小の建設業では時価純資産+営業権が中心になりやすいのでしょうか。理由はいくつかあります。

  • 資産が実在し、価値が測りやすい:重機・車両・仮設材、工場や資材置き場としての不動産など、換金性のある資産を持っていることが多く、純資産が価値の下支えになります。
  • 単年度の利益が振れやすい:工事の完成時期や大型案件の有無で利益が上下するため、単年度のEBITDAに倍率を掛ける方法は結果がぶれます。
  • 将来の受注が確約されていない:受注残の外側は入札や指名、営業活動の結果しだいで、何年も先まで安定的に読める性質のものではありません。継続的な契約収入があるビジネスとは事情が異なります。
  • 実務上の合意しやすさ:純資産という検証可能な土台があると、売り手・買い手の議論が「営業権を何年分にするか」という一点に収れんしやすくなります。

ただし、これは「時価純資産+営業権だけを使えばよい」という意味ではありません。実務では複数の手法で試算し、レンジで捉えるのが基本です。3つのアプローチの関係は3つのアプローチの比較で整理しています。

EV/EBITDA倍率を使う場合の注意

類似会社比較法(EV/EBITDA)を使う場合、分母となるEBITDAをどう作るかが結果を左右します。建設業では、単年度ではなく複数期の平均や、直近の受注構成を反映した水準を使うことが検討されます。また、重機を自社保有している会社とリース・レンタル中心の会社では、同じ事業内容でも減価償却費とリース料の入り方が違うため、EBITDAの水準が単純には比較できません。倍率を当てる前に、この差を揃えておく必要があります。

DCFを使う場合の受注残の扱い

DCF法を建設業に適用するとき、最大の論点は受注残(バックログ)をどう事業計画に落とすかです。実務では、将来のキャッシュフローを次の2層に分けて考えると整理しやすくなります。

  • 第1層:受注済みの工事。契約が成立している分は、工期と工事ごとの見込粗利をもとに、各期に配分します。ここは相対的に確度が高い部分です。ただし「契約済み=利益が確定」ではなく、資材価格や労務費の上昇で粗利が削られるリスクは残ります。
  • 第2層:未受注の将来工事。過去の受注実績、入札への参加状況、指名の実績、営業体制などから推計します。ここは前提の置き方で結果が大きく変わるため、複数シナリオで幅を見るのが現実的です。

第1層と第2層を分けずに「売上高が毎年◯%成長する」という一本の前提で計画を作ると、受注残という建設業でもっとも確度の高い情報を活かせません。逆に、第2層をゼロと置いて受注残だけで評価すると、継続企業としての価値を大きく取りこぼします。割引率の考え方はWACCで整理しています。

受注残(バックログ)をどう評価するか

受注残は、建設業の企業価値評価でもっとも重要な情報のひとつです。ただし「受注残高がいくらあるか」という金額だけを見ても十分ではありません。次の観点で分解して初めて、価値としての意味が読めます。

切り口見るポイント価値への影響
受注残高の総額年間の完成工事高に対して何ヶ月分あるか。前年同期と比べて増えているか減っているか厚いほど将来の売上の見通しが立つ。ただし採算を伴わない受注残は価値にならない
工事別の見込粗利率受注残を工事ごとに開き、見込粗利率の分布を見る。赤字見込の工事が混ざっていないか低採算の受注残は、将来の売上ではなく将来の損失。工事損失引当金の計上要否にも直結する
工期の分布いつ着工し、いつ引き渡す予定か。翌期に集中しているか、数年に分散しているかDCFで各期に配分する際の基礎になる。長工期の工事は資材・労務費の変動リスクを抱える
公共・民間の構成官公庁発注、民間元請、下請(ゼネコンからの二次請け)の比率構成によって代金回収の確実性、価格交渉力、景気変動への感応度が変わる
発注者の信用力発注者・元請の財務状態、取引実績、支払条件回収不能リスクが高い相手が多いと、受注残の質が下がる。特定発注者への集中も論点
特定顧客への依存度上位1社・上位3社が受注残に占める割合依存が高いと、その関係が承継後も続くかが価値の前提になる。集中度が高いほどリスク要因

買い手側のデューデリジェンスでは、この受注残の中身が必ず検証されます。したがって売り手としては、あらかじめ工事台帳を整理し、見込粗利率と工期、発注者を一覧で示せる状態にしておくことが有効です。売り手側で事前に論点を洗い出す進め方はセルサイドDD・売り手の磨き上げで解説しています。

経営事項審査(経審)とP点の位置づけ

経営事項審査(経審)は、公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が受けなければならない審査です。経営規模、経営状況、技術力、その他の審査項目(社会性等)といった観点から評価され、総合評定値(一般にP点と呼ばれます)が算出されます。発注者はこの点数などをもとに入札参加資格の等級を決めるため、経審の結果は公共工事をどの規模まで受注できるかに直結する指標です。

企業価値評価との関係を整理すると、次のようになります。

  • 経審は直接的な価値算定式の入力値ではありません。株式価値は将来の収益とリスクから決まるもので、点数を倍率に掛けるといった使い方をするものではありません。
  • ただし、受注可能性の代理指標として参考にされます。等級が上がれば参加できる入札の規模が広がり、それが将来の収益機会につながるためです。公共工事中心の会社では、この意味が大きくなります。
  • 点数の構成要素そのものに情報があります。完成工事高の規模、自己資本や利益の水準、技術職員の数と資格、社会保険の加入状況などが評価項目に含まれるため、点数の内訳を見ると会社の体質が読み取れます。
  • 承継後の維持可能性が論点になります。技術職員が退職すれば技術力の評価が下がりますし、決算内容が悪化すれば経営状況の評価も下がります。M&A後に等級を維持できるかは、買い手が確認する点です。
経審の審査項目や算定方法は制度改正により変更されることがあります。また、必要な点数の水準は発注者や工事の種類によって異なります。具体的な点数の見込みや対策については、行政書士など制度に詳しい専門家にご確認ください。本稿では特定の点数水準について断定的な評価は行いません。

許認可と技術者:承継後に要件を満たせるか

建設業は許可がなければ一定規模以上の工事を請け負えません。そして許可の維持には人の要件があります。ここが建設業の企業価値評価における最大の特徴のひとつで、「人がいなくなると許可が維持できず、事業そのものが成り立たなくなる」という構造を持っています。

要件・役割位置づけM&Aでの論点
経営業務の管理責任者(常勤役員等)建設業の経営経験を持つ者が常勤していることが、許可の要件のひとつとされている現オーナーがこの要件を満たしている場合、退任すると要件を欠くおそれがある。後任の確保が前提条件になる
専任技術者営業所ごとに、一定の資格または実務経験を持つ技術者を専任で置くことが求められる対象者の年齢・退職意向を確認する必要がある。複数営業所がある場合は営業所ごとに要件を見る
監理技術者元請として一定金額以上の下請契約を結ぶ工事の現場に配置が必要とされる人数が受注できる現場数の上限を規定する。実質的な事業規模の制約になる
主任技術者上記に該当しない工事の現場に配置が必要とされる同様に、配置できる人数が同時進行できる現場数を左右する
資格者の年齢構成1級・2級の施工管理技士など、有資格者の人数と年齢の分布高齢に偏っていると、数年内に要件を満たせなくなるリスク。若手の育成・採用状況が価値に効く

評価の観点では、これらの人の要件は二重の意味を持ちます。ひとつはリスク要因としての意味で、承継後に要件を欠くおそれがあれば、そのリスクは価格の引き下げや条件(キーパーソンの残留期間、表明保証、価格の一部後払い)に反映されます。もうひとつは価値の源泉としての意味です。許可や技術者の確保にはそれなりの時間と要件の充足が必要なため、「揃った状態を丸ごと引き継げる」こと自体が買い手にとって価値になります。これは決算書の純資産には表れず、営業権(のれん)として評価に反映される部分です。

なお、許可が承継できるかどうかはスキームによって扱いが異なります。株式譲渡であれば会社が変わらないため許可は原則としてそのまま残りますが、事業譲渡では取り直しが必要になることがあります。スキームの違いは株式譲渡と事業譲渡の違いで整理しています。具体的な可否は個別事情によりますので、行政書士にご確認ください。

貸借対照表の論点:どこを時価に直すか

時価純資産法を用いる場合、あるいは他の手法を使う場合でも純資産の実態を把握する必要があります。建設業でとくに調整の対象になりやすい項目を整理します。

項目確認すること調整の方向
工事未収入金回収サイト、滞留の有無、係争中の請求、発注者の信用状態回収可能性が低い分は減額。長期滞留や係争中のものは個別に検討
未成工事支出金対応する工事の見込採算。総原価の見積が実態に合っているか赤字見込の工事に対応する部分は回収できない。工事損失引当金の要否とあわせて減額を検討
JV(共同企業体)の持分参加しているJVの一覧、出資比率、各JVの損益状況、他の構成員の信用状態JVの損失は持分に応じて負担する。連帯責任の範囲も確認したうえで、必要なら負債側を追加認識
瑕疵担保・契約不適合責任、保証工事引渡し済み工事について将来発生しうる補修義務。過去の発生実績と保証期間見込まれる負担が引当計上されていなければ、負債として追加認識を検討
不動産(事務所・資材置き場・社宅など)簿価と時価の差。事業に使っているか遊休か。担保設定の有無含み益は加算、含み損は減算。遊休不動産は非事業用資産として切り出す考え方もある
機械装置・重機・車両実際の稼働状況、年式、整備履歴、中古市場での換価可能性簿価より時価が高いことも低いこともある。稼働していない機材は別扱いに
リース・割賦の残債オフバランスになっているリースの有無、割賦残債の総額実質的な負債として認識すべきものがないかを確認
退職給付・役員退職慰労金引当の計上状況、就業規則・規程の内容未計上の要支給額があれば負債として追加認識
保険積立金・共済(建設業退職金共済など)解約返戻金の水準、加入状況簿価と解約返戻金額の差を調整

建設業では、JVと瑕疵担保が他業種にはあまりない論点です。JVは複数社で工事を請け負う仕組みで、構成員としての持分に応じた損益が発生します。表面上の決算書だけでは全体像が見えないことがあるため、参加中のJVを一覧で把握することが出発点になります。瑕疵担保・契約不適合責任については、引渡し後に補修義務が発生する可能性が残るため、過去の発生実績を踏まえて将来負担を見積もる必要があります。

労務・安全:見落とすと後で効いてくる論点

建設業は労働集約的で、かつ現場の安全が事業継続に直結する業種です。この領域の問題は、決算書には表れないまま潜在的な負債として蓄積し、デューデリジェンスで発覚して価格に響くことがあります。

  • 時間外労働の上限規制:建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。現場の実態が規制に適合しているか、適合させるために必要な人員増や工程見直しのコストがどれだけかを確認します。適合のためのコストは、将来の収益力を押し下げる要因として計画に織り込む必要があります。
  • 未払残業代:現場の実労働時間が適切に記録・支払われているか。記録が残っていない、みなし残業の運用が実態と合っていないといった場合、潜在的な債務になりえます。
  • 社会保険の加入状況:法人として加入義務のある社会保険に、対象となる従業員が適切に加入しているか。未加入があれば遡って保険料負担が発生する可能性があり、経審の評価項目にも関わります。
  • 労働災害の履歴と安全管理体制:過去の労災の発生状況、是正措置、安全教育の実施記録。重大な労災は、損害賠償だけでなく指名停止など受注機会の喪失につながることがあります。
  • 下請への支払い:下請代金の支払条件と支払遅延の有無。未払いや取引条件をめぐるトラブルは、承継後の施工体制の維持にも影響します。
  • 一人親方・外注の実態:外注として処理している人の働き方が、実態として雇用に近くないか。実態と契約形態が乖離していると、社会保険や労務上の論点になります。
労働時間、社会保険、外注と雇用の区分といった論点は、個別の事情によって判断が分かれます。自社の状況を評価に反映させる際は、社会保険労務士にご確認のうえ、必要な調整額を見積もることをおすすめします。

価格を上げる要素/下げる要素

ここまでの論点を、価値へのプラス・マイナスという形で整理します。業種横断の評価ポイントは業種別の評価ポイントもあわせてご覧ください。

観点価格を上げやすい要素価格を下げやすい要素
受注受注残が厚く、見込粗利率も確保されている。発注者が分散している受注残が薄い、または低採算・赤字見込の工事が多い。特定発注者への依存が高い
許認可・技術者有資格者が複数おり、年齢構成に偏りがない。要件を満たす後任候補がいるオーナー個人が要件を担っている。有資格者が高齢に偏り、若手がいない
収益の質工事別の採算管理ができており、予実の乖離が小さい。複数期にわたり安定大型案件の有無で損益が乱高下する。工事ごとの原価が把握されていない
財務純資産が厚く、無借金または低負債。工事未収入金の回収が順調滞留債権が多い。借入が重く、代表者の個人保証が事業と一体化している
資産自社不動産に含み益がある。重機が整備され稼働率も高い遊休資産・遊休機材が多い。不動産に含み損や担保設定がある
労務・安全労働時間の管理と社会保険加入が整っている。労災の履歴が少ない未払残業代や社会保険未加入の懸念がある。重大な労災の履歴がある
組織現場代理人・施工管理が育ち、オーナー不在でも回るオーナーが営業も現場も一手に担っており、離脱すると業務が止まる
管理体制工事台帳・原価管理・受注残の資料がすぐ出せる資料が整備されておらず、デューデリジェンスで確認に時間がかかる

計算例:時価純資産+営業権で試算してみる

考え方を具体的にするため、簡略化した例で計算の流れを示します。あくまで手順を理解するための例であり、実際の水準を示すものではありません。

前提として、次のような会社を想定します。完成工事高が年8億円、税引前の営業利益が4,000万円、簿価純資産が2億円。役員報酬が世間相場より年1,200万円多く支給されており、代表者所有の車両にかかる私的経費が年200万円含まれています。一方で、前期に補助金収入が500万円あり、これは一過性のものでした。

まず、正常収益力を求めます。営業利益4,000万円に、過大な役員報酬1,200万円と私的経費200万円を戻し入れ、一過性の補助金500万円を控除すると、4,000+1,200+200-500=4,900万円。ここから、承継後に必要となる後任役員の報酬相当や、時間外労働の管理を適正化するための人件費増を年900万円と見積もって差し引くと、正常収益力は年4,000万円と置けます。

次に、時価純資産を求めます。簿価純資産2億円に対し、自社所有の資材置き場の含み益が3,000万円、重機の時価が簿価を1,000万円下回る、工事未収入金のうち回収が困難と見られる滞留分が1,500万円、未計上の役員退職慰労金相当が2,000万円、赤字見込工事に対応する工事損失引当金の未計上分が1,000万円あるとします。すると、2億円+3,000万円-1,000万円-1,500万円-2,000万円-1,000万円=1億7,500万円が時価純資産となります。

最後に営業権を上乗せします。有資格者が複数在籍し受注残も厚いという評価で3年分と置けば、4,000万円×3年=1億2,000万円。合計すると1億7,500万円+1億2,000万円=2億9,500万円が、株式価値の一つの目安になります。営業権を2年分と置けば2億5,500万円、4年分なら3億3,500万円ですから、この前提ひとつで幅が生じることが分かります。

同じ会社をEBITDA倍率で見る場合は、正常収益力4,000万円に減価償却費(仮に年1,500万円)を足した5,500万円が実態EBITDAとなり、これに倍率を掛けて事業価値を求め、そこから純有利子負債を差し引いて株式価値に落とします。両者の結果を並べると、どこで差が出るのかが見えます。自社の数字で幅を確かめたい場合は、年買法の計算ツールで純資産と営業権年数の組み合わせを、EV/EBITDA倍率の計算ツールで倍率を変えたときの事業価値を、DCF法の計算ツールで割引率や成長率を変えたときの動きを、それぞれ試算できます。

上記はあくまで計算手順を示すための数値例です。実際の営業権年数や倍率は、会社の状況と交渉によって決まります。相場感については会社売却の相場建設会社の売却相場をご参照ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 経審の点数は、そのまま価格に影響しますか?

A. 点数を直接価格に換算する計算式があるわけではありません。株式価値は将来の収益力とリスクから決まるものだからです。ただし、経審の結果は入札参加資格の等級を通じて受注できる工事の規模に関わるため、公共工事中心の会社では将来の収益機会に影響します。その意味で、間接的に価値に効いてくる指標だと考えるのが実務的です。また、点数の内訳(技術職員の数、自己資本の水準、社会保険の加入状況など)自体が会社の体質を示す情報になります。承継後に点数を維持できるかどうかも、買い手が見るポイントです。具体的な点数の見込みは行政書士にご確認ください。

Q. 建設業許可は引き継げますか?

A. スキームによります。株式譲渡の場合は会社そのものが存続するため、許可は原則としてそのまま維持されます。一方、事業譲渡の場合は許可の取り直しが必要になることがあります。いずれの場合も、許可の維持には経営業務の管理責任者や専任技術者といった人の要件を満たし続ける必要があるため、「会社が変わらないから安心」とは限りません。オーナーが要件を担っている場合、退任後の体制をどう作るかが評価の前提そのものになります。具体的な手続きと可否は、行政書士にご確認ください。

Q. 技術者が辞めてしまったら、価値はどうなりますか?

A. 影響の大きさは、その技術者が担っていた役割によります。許可要件(専任技術者など)を担っていた人が抜けると、要件を欠くおそれがあり、事業継続そのものに関わります。監理技術者・主任技術者であれば、配置できる現場数が減るため、受注可能な工事量の上限が下がります。評価では、こうしたリスクを価格の引き下げだけでなく、条件面(キーパーソンの一定期間の残留、表明保証、価格の一部を後払いにするアーンアウト)で調整することがあります。売り手としては、資格者の年齢構成と後任の育成状況を整理しておくと、リスクの説明がしやすくなります。

Q. 公共工事中心の会社と民間中心の会社では、評価の見方が違いますか?

A. 見るべきポイントが変わります。公共工事中心の場合は、代金の回収確実性が高い一方、入札で価格が決まるため利益率が構造的に抑えられやすく、発注量が公共投資の動向に左右されます。経審の等級と技術者の体制が受注力に直結します。民間中心の場合は、価格交渉の余地があり利益率を確保しやすいこともありますが、発注者の信用力によって回収リスクが変わり、景気変動の影響も受けやすくなります。また、元請なのか下請なのかで、価格決定力とリスクの負い方がまったく違います。評価では、この構成比を確認したうえで、収益の安定性と回収リスクをそれぞれ判断します。

Q. 未成工事支出金や未成工事受入金は、どう見ればよいですか?

A. どちらも「まだ終わっていない工事」に関する科目です。未成工事支出金は投入済みの原価で資産に計上されていますが、これは現金ではなく、対応する工事が採算に乗って初めて回収されるものです。したがって、工事ごとの見込採算を確認し、赤字見込の工事に対応する部分は回収できないものとして扱う必要があります。未成工事受入金は発注者から受け取った前受金で、負債に計上されます。手元に現金があるように見えても、それは工事を完成させる義務に対応した預かりに近い性質のものです。純資産を見るときに資本のように扱ってはいけません。両者のバランスと、工事別の採算をあわせて確認するのが基本です。

Q. 赤字工事があると、評価はどうなりますか?

A. 赤字工事の存在自体で価値がゼロになるわけではありませんが、二つの意味で評価に影響します。ひとつは、将来発生する損失を価値から差し引く必要があるという直接的な影響です。損失が見込まれる工事については工事損失引当金の計上要否を確認し、未計上であれば純資産から減額します。もうひとつは、赤字工事が発生した原因が問われるという間接的な影響です。見積の精度が低い、原価管理ができていない、無理な受注をしているといった構造的な問題があれば、それは将来も繰り返される可能性があるため、収益力の見方そのものを保守的にする理由になります。逆に、特定の一件だけが例外的な事情で赤字になったのであれば、一過性として切り分ける整理が可能です。原因の説明ができるかどうかが分かれ目になります。

まとめ

建設業の企業価値評価は、まず建設業会計の作りを理解するところから始まります。完成工事高の増減が実力なのか引渡し時期のずれなのか、未成工事支出金が将来の利益を抱えているのか損失を抱えているのか、工事進行基準の総原価見積が妥当か。ここを押さえずに数字を読むと、収益力も純資産も実態から離れて認識してしまいます。

そのうえで、受注残を金額だけでなく見込粗利率・工期・公共民間の構成・発注者の信用力まで分解し、経審の位置づけを受注可能性の代理指標として理解し、許可要件と技術者の体制が承継後も維持できるかを確認します。貸借対照表側では、工事未収入金の回収可能性、JV持分、瑕疵担保、不動産と重機の時価を調整し、労務・安全の潜在的な負担も織り込みます。

手法としては、中小規模では時価純資産に営業権を加える形が中心になりやすく、一定規模でEV/EBITDA倍率、受注残が厚く計画が具体的な場合にDCF法という使い分けになります。いずれにせよ単一の手法に頼らず、複数で試算してレンジで捉え、なぜその前提を置いたのかを説明できる状態にしておくことが、交渉の場での説得力につながります。価格の水準感や売却の進め方については建設会社の売却相場とM&Aの進め方をあわせてご確認ください。

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