個人事業の売却相場|法人と違う価格の決まり方と、事業譲渡の手続き・税金

最終更新: 2026-09-12

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美容室、飲食店、整体院、学習塾、小売店――こうした個人事業を営んできた方から、「そろそろ引退したいが、店をたたむのはもったいない」「この事業はいくらで売れるのか」というご相談が増えています。後継者不在に加えて、個人が小さな事業を買って独立する動きが広がったことで、個人事業や小規模事業の売買(スモールM&A)は以前より現実的な選択肢になりました。

ただし、個人事業の売却は法人の売却とは仕組みが違います。会社の売却であれば「株式を売る」という分かりやすい形がありますが、個人事業には株式がありません。この違いを理解しないまま話を進めると、価格の考え方も、手続きも、税金も、途中でつじつまが合わなくなります。本稿では、個人事業の売却価格がどう決まるのかを計算例つきで整理したうえで、事業譲渡の手続き、税金の一般的な考え方、売り手が準備しておきたいこと、買い手の探し方までを順に解説します。金額はいずれも考え方を示すための目安であり、実際の価格は事業の内容・立地・時期・買い手の数によって大きく変わります。

結論:個人事業で売買されるのは「株式」ではなく「事業そのもの」

まず前提を整理します。法人の売却では、通常は会社の株式を売ります。株式が移れば、会社が持っている資産・負債・契約・従業員・許認可は、原則としてそのまま買い手のもとに移ります。会社という「入れ物」ごと引き渡すイメージです。

一方、個人事業には株式という入れ物がありません。そのため売買の対象になるのは、事業を構成している個々の要素、すなわち資産・負債・のれん(営業権)です。具体的には、店舗の内装や造作、厨房機器や施術ベッドなどの設備、在庫、店舗を借りるときに差し入れた敷金・保証金、そして「常連客がついている」「立地がよい」「口コミの評価が高い」といった目に見えない収益力の源泉をまとめて引き渡す形になります。この形式が事業譲渡です。

「事業を丸ごと渡す」という点は同じでも、株式譲渡と事業譲渡では引き継がれる範囲がまったく違います。事業譲渡では、契約も許認可も従業員も自動では移りません。ひとつずつ相手方の同意を取り、必要なものは取り直すことになります。この「自動では移らない」という性質が、価格にも手続きにも税金にも影響します。

法人の売却と個人事業の売却は、ここが違う

個人事業の売却を考えるときに押さえておきたい違いを、項目ごとに整理すると次のようになります。

項目法人の売却(株式譲渡)個人事業の売却(事業譲渡)
売買の対象会社の株式。資産・負債は会社に残ったまま所有者が変わる資産・負債・のれん(営業権)を個別に特定して引き渡す
契約関係会社が当事者のまま。原則として契約は継続する取引先・仕入先との契約は、相手方の同意を得て結び直すのが基本
許認可会社が持つ許認可は原則として維持される(業種により届出が必要)買い手が自分の名義で取り直すのが基本。取得までの期間に注意
従業員会社との雇用関係が続くため、そのまま在籍するいったん退職し、買い手と新たに雇用契約を結ぶ(本人の同意が必要)
税金(売り手)個人株主なら株式の譲渡所得として分離課税されるのが一般的引き渡す資産の種類ごとに、事業所得・譲渡所得などに分かれる
手続きの重さ株式の移転と株主名簿の書き換えが中心で、比較的シンプル契約・名義変更・届出が個別に発生し、件数が多くなりやすい
廃業・開業の手続き会社は存続するため不要売り手は廃業届など、買い手は開業届などの提出が必要になる

表のとおり、事業譲渡は手続きの件数が多くなりがちです。とはいえ、小規模な個人事業では引き継ぐ契約の数自体が限られていることも多く、店舗の賃貸借と主要な仕入先、リース契約を押さえれば実務が回るケースも珍しくありません。両者の違いをより詳しく知りたい方は事業譲渡と株式譲渡の違いを参考にしてください。

個人事業の売却価格の決まり方:時価純資産+営業権

個人事業の価格は、「時価で評価した資産の価値」に「収益力に対する上乗せ(営業権)」を足す形で組み立てるのが一般的です。中小企業のM&Aで広く使われる年買法と同じ考え方で、小規模事業でも相場感をつかむ出発点になります。

構成要素中身評価の考え方
時価純資産内装・造作、設備・什器、在庫、車両、敷金・保証金など。買い手が引き継ぐ借入やリース残債があれば控除帳簿価額ではなく、現在の状態で売買するとしたらいくらか(時価)で見直す
営業権(のれん)常連客、立地、屋号や口コミの評価、スタッフ、仕入ルートなど、利益を生み出している無形の要素オーナー報酬などを調整した実質的な利益の1〜3年分程度が、小規模では一つの目安とされることが多い
造作譲渡(居抜き)店舗型で、内装・厨房設備・空調などをまとめて引き渡す形収益力より設備の状態と立地が価格の中心になり、営業権の上乗せが小さくなることもある

資産を時価で評価し直す考え方は時価純資産法、上乗せ部分の考え方はのれん・営業権とはで詳しく解説しています。営業権の年数が「1〜3年分」と、法人のM&Aでよく語られる「2〜5年分」より控えめなのは、個人事業ほどオーナー個人の技能や人柄に売上が依存しやすく、引き継いだあとに客足が続く保証が弱いためです。逆に言えば、オーナーが抜けても回る仕組みができているほど、上乗せの年数は伸びやすくなります。

ここで使う「利益」は、確定申告書に出てくる所得金額そのままではなく、オーナー自身の生活費相当の報酬や、事業と関係の薄い経費を調整した実質的な利益です。個人事業では公私の区分があいまいになりやすいため、買い手は必ずこの調整を行います。

計算例1:美容室(オーナー1人+スタッフ1人)

説明のための仮の例です。年間売上1,200万円、確定申告上の所得が420万円。ここからオーナー自身の労働の対価として月30万円(年360万円)を差し引くと、実質的な利益は年60万円になります。一方で、開業から6年が経過した内装・設備の時価が250万円、在庫(薬剤・店販品)が30万円、店舗の敷金が60万円、引き継ぐ借入・リース残債はないものとします。

項目計算金額の目安
時価純資産内装・設備250万円+在庫30万円+敷金60万円340万円
営業権(1〜3年分)実質利益60万円 × 1〜3年60万〜180万円
合計(価格の目安)340万円+60万〜180万円400万〜520万円程度

この例では、価格の大半を設備と敷金が占めています。オーナーの技術で指名客を集めているタイプの美容室では、オーナーが引退すると売上が落ちる前提で見られるため、営業権の上乗せは控えめになりがちです。反対に、スタッフが定着していて指名が分散している、予約システムで顧客名簿が整っている、といった状態であれば、上乗せの年数を伸ばす交渉材料になります。

計算例2:飲食店(造作譲渡が中心になるケース)

もう一つの仮の例です。駅から徒歩5分、席数20席の居酒屋。年間売上2,400万円、オーナー報酬を調整した後の実質的な利益は年180万円。厨房機器・内装の時価が500万円、敷金・保証金が200万円、食材在庫は少額で50万円、リース残債が100万円あるとします。

項目計算金額の目安
時価純資産造作・厨房設備500万円+敷金200万円+在庫50万円−リース残債100万円650万円
営業権(1〜2年分)実質利益180万円 × 1〜2年180万〜360万円
合計(価格の目安)650万円+180万〜360万円830万〜1,010万円程度

飲食店では、家主が賃貸借契約の引き継ぎを認めるかどうかが価格を大きく動かします。契約の承継が難しければ、買い手は同じ場所で営業できず、造作の価値も大きく目減りしてしまうためです。反対に、契約が問題なく引き継げて立地が良ければ、収益力が高くなくても造作譲渡として一定の値がつくことがあります。業種特有の見方は飲食店の売却相場もあわせてご覧ください。なお、法人化している事業の相場観については会社売却の相場はいくらかで整理しています。

個人事業の価格を左右する要素

同じ利益水準でも、次のような要素によって評価は上下します。買い手は「引き継いだあとも同じように稼げるか」という一点を見ているため、継続性を裏づける材料があるほど価格は安定します。

要素評価が上がりやすい状態評価が下がりやすい状態
立地と賃貸借契約家主が名義変更に前向きで、残存期間が長く、賃料が相場並み契約の承継に家主の同意が得られない、更新が近い、賃料が割高
リピーター・顧客名簿予約システムやカルテで来店履歴が残り、再来店率を数字で示せる常連の顔と名前が店主の頭の中にしかなく、引き継ぎようがない
屋号・SNS・口コミ屋号ごと引き継げて、SNSアカウントやレビュー評価も移管できる屋号がオーナー個人名で、アカウントも個人アカウントと一体
スタッフの継続主要なスタッフが売却後も働く意思を示しているオーナーの退任と同時に全員が退職する見込み
設備の年数主要設備が新しく、当面は大きな更新投資が不要空調や厨房機器が耐用年数を大きく超え、引き継ぎ直後に買い替えが必要
許認可取得要件が明確で、買い手が短期間で取り直せる資格者がオーナー本人だけで、買い手が要件を満たせない
オーナーの技能への依存度施術やレシピが標準化され、マニュアルや研修で再現できる売上の大半がオーナー個人への指名・信頼で成り立っている

特に大きいのは、いちばん下の属人性です。個人事業は「その人がいるから成り立っている」ことが多く、そこが強みであると同時に、売却時にはもっとも評価を下げる要因になります。売却を意識し始めたら、手順を書き出す、スタッフに任せる範囲を広げる、予約や顧客情報を仕組みに載せる、といった形で、オーナー個人から事業を切り離していく作業が価格に直結します。

税金の考え方(一般的な整理)

個人事業を売却したときの税金は、法人の株式を売った場合とは考え方が異なります。株式譲渡であれば譲渡所得として一本で計算されますが、個人事業の事業譲渡では、引き渡す資産の種類ごとに所得の区分が分かれるのが一般的な整理です。

引き渡すもの一般的な所得区分補足
棚卸資産(在庫・商品)事業所得として扱われるのが一般的通常の販売と同じ考え方で、事業の売上に含めて計算する整理がとられる
固定資産(内装・設備・車両など)譲渡所得として扱われるのが一般的保有期間によって短期・長期の区分が変わる点に注意
営業権(のれん)譲渡所得として扱われることが多い契約書での金額の内訳の書き方によって整理が変わりうる
売掛金・敷金などの債権資産ごとに個別の整理が必要そもそも譲渡の対象に含めるかどうかから検討する

もう一つ見落とされやすいのが消費税です。事業譲渡で引き渡す資産のうち、在庫や設備などは消費税の課税対象になるのが一般的で、土地や一定の債権などは対象外とされます。売り手が消費税の課税事業者である場合、受け取った代金に含まれる消費税を納める必要が出てくるため、「手元にいくら残るか」を考えるうえで無視できません。契約書で総額だけを決めて内訳を詰めずにいると、あとから負担の押し付け合いになりがちなので、資産ごとの金額と消費税の扱いは契約段階で明確にしておくのが安全です。

ここに書いたのはあくまで一般的な整理であり、実際の税額や所得区分は、資産の内訳、契約書の記載、課税事業者かどうか、その年の他の所得の状況などによって変わります。個別の判断は必ず税理士にご確認ください。とくに営業権の金額の決め方と消費税の扱いは、契約書に署名する前に相談しておくことをおすすめします。

税金や手数料を差し引いたあとに実際に手元へ残る金額の考え方は、手取り額の計算ツールで試算の流れを確認できます(法人の株式譲渡を前提とした計算ですが、税・費用を差し引いて手取りを考えるという発想は共通です)。

事業譲渡の手続き:何を、どの順番で進めるか

個人事業の譲渡は、契約を結んで終わりではありません。名義を変え、届出を出し、従業員と結び直すという実務が続きます。代表的な項目を整理します。

手続き内容つまずきやすい点
事業譲渡契約の締結引き渡す資産の一覧、価格と内訳、引き渡し日、競業避止、引き継ぎ支援の期間などを定める資産の内訳を書かずに総額だけ決めると、税務と消費税の整理ができなくなる
屋号の引き継ぎ屋号を使い続ける場合は、契約書で使用を認める旨を明記する屋号がオーナー個人名だと、そのまま使うことに抵抗が出ることがある
許認可の取り直し飲食店営業許可、美容所の開設届、古物商許可などを買い手名義で取得する取得までに時間がかかり、引き渡し日と営業再開日がずれる
従業員の再雇用現在の雇用をいったん終了し、買い手と新たに雇用契約を結ぶ本人の同意が必要。有給や勤続年数の扱いを事前に決めておく
賃貸借契約の名義変更家主の承諾を得て、契約を買い手名義に切り替える(または新規に締結)家主が承諾しない、敷金の引き継ぎ方法でもめる
リース・各種契約の変更設備リース、通信回線、水道光熱、決済端末、保険などの名義を切り替えるリース会社の審査が必要で、買い手の与信によっては引き継げない
売り手の廃業手続き個人事業の廃業届、青色申告の取りやめ届出書、必要に応じて消費税関係の届出提出期限があるため、引き渡し後に放置しない
買い手の開業手続き開業届、必要に応じて青色申告承認申請書、従業員がいれば給与支払事務所等の開設届青色申告の申請には期限があり、遅れるとその年の適用を受けられない

このうち、日程を左右しやすいのが許認可の取り直し賃貸借契約の名義変更です。この二つは相手方(行政・家主)のスケジュールに左右されるため、契約書で引き渡し日を決める前に見通しを立てておくと、営業を止めずに引き継げます。買い手が事前に事業の中身を確認する調査についてはデューデリジェンスとはで解説していますが、個人事業の場合は帳簿・賃貸借契約書・許認可の写し・設備の一覧といった基本資料がそろっているかどうかが、そのまま調査のスムーズさに直結します。

売り手が売却前に準備しておきたいこと

個人事業の売買では、買い手の多くが個人や小さな会社で、限られた資金で判断します。だからこそ「見えないもの」を嫌います。準備のほとんどは、事業の実態を説明できる形に整えることに尽きます。

  • 帳簿を整える:直近3期分の確定申告書と青色申告決算書、月次の売上推移を用意します。事業用と生活費が混ざった経費は、あとから説明できるよう区分しておくと、実質的な利益を示しやすくなります。
  • 現金商売の売上を説明できるようにする:飲食店や整体院などレシートベースの商売では、買い手がいちばん不安に思うのが売上の裏づけです。レジのジャーナル、予約台帳、キャッシュレス決済の入金明細、仕入との整合など、複数の資料で同じ数字を示せるようにしておくと信頼されます。逆に、申告していない売上を「実際はもっとある」と口頭で主張しても、価格には反映されないのが通常です。
  • 顧客名簿の扱いを確認する:顧客名簿は価値の源泉ですが、氏名・連絡先・来店履歴は個人情報にあたります。事業譲渡にともなって引き継ぐ場合の取り扱いは、利用目的の範囲や本人への通知の要否を含めて事前に整理し、必要に応じて専門家に確認してください。「渡せる前提」で価格を組んだあとに渡せないと分かると、交渉が振り出しに戻ります。
  • 設備と契約の一覧を作る:主要な設備の購入年・状態、リースの有無と残債、賃貸借契約の期間と条件、加入している保険を一覧にします。これがあるだけで買い手の検討スピードが変わります。
  • 繁忙期を避けて動く:交渉と引き継ぎには時間と気力が必要です。繁忙期に重ねると、店の業績が落ちて評価にも響きます。閑散期に交渉を進め、繁忙期の直前に引き渡すと、買い手にとっても立ち上がりが楽になります。
  • 引き継ぎ期間を決めておく:オーナーが一定期間残って技術や顧客を引き継ぐ約束は、買い手の不安をやわらげ、価格の上乗せにつながることがあります。何をどこまで、何か月間支援するのかを具体的に示せるようにしておきましょう。

買い手をどう探すか

個人事業の売買では、大手のM&A仲介会社が取り扱う金額帯に届かないことが多く、探し方そのものを工夫する必要があります。主な選択肢は次のとおりです。

  • マッチングサイト:小規模案件を扱うオンラインの事業承継プラットフォームに登録し、自分で買い手を探す方法です。費用を抑えやすい反面、資料づくりや交渉を自分で担う必要があります。
  • 同業者・近隣の事業者:同じ商圏で店舗を増やしたい同業者は、事業の価値を理解しやすく、話が早い相手です。ただし情報が漏れると顧客やスタッフの動揺につながるため、打診の順番と守秘には注意が必要です。
  • 従業員・常連客:長く働いてくれたスタッフや、独立を考えている常連客が買い手になることがあります。事業の中身をすでに知っているため、引き継ぎがもっともスムーズになりやすい相手です。
  • 公的窓口:各地の事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所など、公的な相談窓口を活用する方法もあります。費用を抑えながら相談できる点が特徴です。詳しくはM&Aの公的支援で整理しています。

買い手の探し方の全体像や、それぞれのルートの向き・不向きはM&Aの買い手の探し方で詳しく解説しています。また、仲介会社に依頼する場合は、小規模案件ほど最低手数料の影響が大きくなります。売却価格が数百万円でも、最低手数料が数百万円に設定されていれば手元にほとんど残らないという事態が起こりうるため、依頼前に必ず体系を確認してください。相場感はM&A仲介手数料の相場にまとめています。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字の個人事業でも売れますか?

A. 売れる可能性はあります。個人事業の赤字は、オーナー自身の報酬の取り方や、事業と生活が混ざった経費によって生じていることも多く、買い手が自分で運営すれば黒字になると判断する場合があるためです。また、立地のよい店舗、状態のよい設備、取得に時間のかかる許認可といった要素は、それ自体に価値があります。ただし赤字の場合、価格は営業権の上乗せがほとんどない、資産価値中心の水準になりやすい点は理解しておきましょう。

Q. 屋号はそのまま引き継げますか?

A. 屋号は事業譲渡契約のなかで引き継ぐ対象に含めることができます。看板・SNSアカウント・口コミの評価とセットで移せれば、買い手にとっては大きな価値になります。ただし、屋号にオーナー個人の名前が入っている場合や、商標が第三者に登録されている場合は、そのまま使えないことがあります。また、屋号を引き継ぐと、買い手が過去の債務について責任を問われる場面が生じうる点も踏まえ、契約書での取り決めが必要です。詳細は専門家に確認してください。

Q. 顧客名簿は売買の対象にできますか?

A. 顧客名簿は事業の価値を支える中心的な資産ですが、氏名や連絡先は個人情報にあたるため、単純に「モノとして売る」という発想は避けるべきです。実務では、事業譲渡にともなって事業を承継する形で引き継ぐことになり、その際の取り扱い(利用目的の範囲、本人への通知や公表の要否など)を事前に確認します。判断に迷う場合は、契約前に専門家へ相談してください。名簿が整っているかどうかは価格にも影響するため、日ごろから管理方法を整えておくことが結果的に有利に働きます。

Q. 法人成りしてから売ったほうが高く売れますか?

A. 一概には言えません。法人化して株式譲渡の形にすれば、契約や許認可がまとめて移りやすく、買い手の手間が減るという利点はあります。一方で、法人化には設立費用や社会保険の負担が生じ、設立直後の会社は決算実績が乏しいため、かえって評価しづらくなることもあります。売却の直前に法人化しても、税務上の扱いが期待どおりになるとは限りません。判断には税務の検討が欠かせないので、税理士に相談したうえで決めることをおすすめします。

Q. 結局、いくらで売れるのでしょうか?

A. 小規模な個人事業では、時価純資産に実質的な利益の1〜3年分を加えた水準が一つの目安になります。本稿の計算例のように、数百万円から1,000万円程度のレンジで話が進むケースが多く見られますが、立地や収益力によっては、それを大きく上回ることも下回ることもあります。まずは自分の事業の時価純資産と実質的な利益を数字にしてみて、年買法の計算ツールでレンジを確認するところから始めるとよいでしょう。

Q. 売却にはどのくらいの期間がかかりますか?

A. 買い手が見つかるまでの期間は事業の内容と条件次第で幅がありますが、買い手が決まってから引き渡しまでは、契約・許認可の取り直し・名義変更・従業員との手続きを合わせて、数か月かかることが一般的です。とくに許認可と賃貸借契約の承諾は相手方の都合に左右されます。引退の時期が決まっている場合は、そこから逆算して半年から1年程度の余裕をもって動き始めると、条件面で焦らずに済みます。

まとめ

個人事業の売却は、株式ではなく事業そのもの――資産・負債・のれん――を引き渡す取引です。価格は、内装・設備・在庫・敷金などを時価で評価した純資産に、オーナー報酬を調整した実質的な利益の1〜3年分程度を営業権として上乗せする形で組み立てるのが基本で、店舗型では造作譲渡が価格の中心になることもあります。上乗せの幅を決めるのは、立地と賃貸借契約の承継可否、リピーターと顧客名簿、屋号や口コミ、スタッフの継続、設備の年数、許認可、そして何より、オーナー個人の技能にどれだけ依存しているかです。

税金は資産の種類ごとに区分が分かれ、消費税の扱いも絡むため、契約書の内訳を決める前に税理士へ相談しておくと安心です。手続き面では、許認可の取り直しと賃貸借契約の名義変更が日程を左右します。帳簿と資料を整え、売上を説明できる状態にし、繁忙期を避けて動く――この準備が、そのまま価格と交渉の余裕につながります。売却価格のシミュレーションも参考に、まずは自分の事業の数字を並べてみるところから始めてみてください。

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