事業承継の株価はいくらになる? 相場の考え方と、承継方法別の金額の違い

最終更新: 2026-09-12

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事業承継を考え始めた経営者の方から最初に出てくる質問は、ほとんどの場合「うちの株は、いくらになるのか」です。後継者に渡すにも、税金を払うにも、外部に売るにも、金額が分からないままでは何も決められません。ところが調べてみると、出てくるのは「会社によって違います」という答えばかりで、肝心の相場観がつかめない、という声をよく伺います。

本稿では、事業承継における自社株の金額について、「なぜ一律の相場が言えないのか」を整理したうえで、承継方法によって金額の考え方がどう違うのか、自社の営業利益と純資産からどうやって自分で目安を出すのか、そして何が金額を押し上げ、何が押し下げるのかを順に解説します。計算例も3パターン示しますので、決算書を横に置きながら読んでいただくと、ご自身の会社のおおよその位置が見えてくるはずです。なお、評価の手法そのものや税務上の計算方法の違いについては事業承継における株価算定で詳しく扱っていますので、あわせてご覧ください。以下の金額はすべて考え方を示すための例・目安であり、個別の会社の価格や税額を保証するものではありません。

結論:事業承継の株価に「一律の相場」がない理由

「年商3億円の会社の株価はいくらか」という問いに答えが返ってこないのは、専門家が出し惜しみをしているからではありません。株価を決める変数が多く、しかもその変数の重みが承継方法によって変わるからです。主な理由は次の4つです。

  • 会社の規模が違う:同じ業種でも、従業員5人の会社と50人の会社では、収益の安定性も組織としての完成度も違います。税務上の評価でも、規模区分によって使う計算方法の組み合わせが変わります。
  • 利益の水準と安定性が違う:株価の土台は利益です。毎期コンスタントに営業利益3,000万円を出す会社と、良い年は5,000万円だが悪い年は赤字という会社では、同じ平均利益でも評価は大きく変わります。
  • 純資産の中身が違う:長年の内部留保が現預金として厚く積み上がっている会社と、同じ純資産でも大半が回収の怪しい売掛金や含み損のある不動産という会社では、実質的な価値が違います。
  • 承継方法が違う:これが最も見落とされやすい点です。誰に、どうやって渡すのかによって、参照すべき金額の物差しそのものが変わります。

逆に言えば、この4つを自社に当てはめて整理すれば、精密な評価をする前でも「だいたいこのくらいのレンジ」という感覚は持てます。まずは4つ目の、承継方法による違いから見ていきましょう。

同じ会社でも、承継方法によって金額は3通りになる

ここが事業承継の株価の分かりにくさの中心です。同じ会社の同じ株式でも、「息子に贈与する場合の金額」「専務に買い取ってもらう場合の金額」「同業他社に売却する場合の金額」は、それぞれ別の物差しで決まり、実際に違う金額になることが珍しくありません。しかも、どれか一つが正解というわけではなく、それぞれの場面で正しい金額です。

承継方法金額の物差し誰が・何をもとに決めるか実務での論点
親族内へ贈与・相続相続税評価額(財産評価基本通達)国税庁が定めた方式。類似業種比準価額と純資産価額を、会社の規模区分に応じて組み合わせる交渉の余地がない。金額が大きいほど後継者の贈与税・相続税の負担が重くなる
役員・従業員へ譲渡(社内承継)税務上の時価と、後継者が払える金額原則として税務上の時価を下回らない価格。実際には後継者の資金力が上限を決める安すぎると贈与とみなされるおそれがあり、高すぎると後継者が買えない。両側から挟まれる
第三者へM&A(社外へ譲渡)取引価格(交渉で決まる価格)買い手の評価と売り手の希望のすり合わせ。DCF法、類似会社比較法、年買法などが根拠に使われる買い手が複数いれば上がり、一社しかいなければ下がる。相場の幅が最も広い

なぜ違う金額になるのかというと、目的が違うからです。相続税評価額は「課税の公平のために、誰が計算しても同じ答えになる物差し」として作られています。一方、M&Aの取引価格は「その会社を手に入れることで、買い手がいくら得をするか」から逆算される金額です。前者は過去の実績と保有資産をもとにした静的な計算、後者は将来のキャッシュフローとシナジーを見込んだ動的な交渉です。物差しの目的が違う以上、答えが一致しないのはむしろ自然なことです。

実務でよく見られるのは、「相続税評価額は高いのに、M&Aで売ろうとすると思ったほどの値がつかない」というケースです。純資産を厚く積み上げてきたが利益はそこそこ、という典型的な中小企業では、純資産価額が評価を押し上げる一方、買い手は将来の収益力を見るため、この差が生まれます。逆に、資産は少ないが高収益という会社では、M&A価格のほうが相続税評価額を上回ることもあります。どちらが高いかは会社の中身次第で、一般論としてどちらが高いとは言えません。

押さえておきたいのは、「うちの株価は◯円」という単一の数字は存在しないということです。承継方法を決めずに株価だけを調べても、方針は立ちません。逆に、3つの金額を並べて比べることで、「税負担を考えると親族内より社内承継が現実的だ」「この価格で売れるなら外部への譲渡も選択肢だ」といった判断ができるようになります。
※ 相続税評価額の計算は特例や調整が多く、専門的な判断を伴います。具体的な金額は必ず税理士にご確認ください。

非上場株式の評価方法そのものの全体像は非上場株式の評価方法で、税理士に依頼する場合の進め方や費用感は株価算定は税理士に頼むべきかで整理しています。また、後継者が見つからず外部への譲渡も含めて検討する段階の方は後継者不在のときの選択肢もあわせてご覧ください。

規模別の目安の作り方:営業利益と純資産から自分で試算する

承継方法のうち、社内承継と第三者へのM&Aで参照される「取引価格」については、決算書の数字から自分でおおよその目安を出すことができます。使うのは、中小企業のM&Aで最もよく使われる2つの式です。

手法計算式使いどころ一般に語られる水準
年買法(年倍法)時価純資産 + 実質営業利益 × 年数小規模から中規模の会社。純資産が厚い会社の目安を出しやすい上乗せは営業利益の2〜5年分程度で議論されることが多い
EV/EBITDA倍率法EBITDA × 倍率 = 事業価値。ここから有利子負債を引き、現預金を足して株式価値へ一定の収益力がある中規模以上の会社。買い手が投資回収を考えるときの物差し中小企業では3〜6倍程度のレンジが目安とされることが多い

ここで使う数字は、決算書の数字そのままではありません。実質営業利益とは、オーナー社長への過大な役員報酬、家族への名目的な給与、私的な保険料や交際費、一過性の特別損益などを調整して、「第三者が普通に経営したらいくら利益が出るのか」に直した利益です。中小企業では、この調整だけで営業利益が数百万円から一千万円単位で変わることも珍しくありません。EBITDAは、この実質営業利益に減価償却費を足したものと考えれば実務上は十分です。

時価純資産も同様に、帳簿上の純資産をそのまま使うのではなく、土地や有価証券の含み損益を反映し、回収見込みのない売掛金や不良在庫を落とし、退職金の積立不足や未計上の債務を引いた後の金額です。年買法の考え方は年買法とは、倍率法の考え方は類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)で詳しく解説しています。計算だけ手早く試したい方は年買法の計算ツールEV/EBITDA倍率の計算ツールもご利用ください。

計算例1:小規模(従業員10名程度、実質営業利益1,000万円)

時価純資産5,000万円、実質営業利益1,000万円、減価償却費300万円、有利子負債2,000万円、現預金3,000万円の会社を考えます。年買法で上乗せを3年分とすると、5,000万円+1,000万円×3年=8,000万円が一つの目安になります。EBITDAは1,300万円ですから、倍率4倍なら事業価値5,200万円、そこから有利子負債2,000万円を引き現預金3,000万円を足すと6,200万円です。2つの手法で6,200万円〜8,000万円というレンジが見えてきます。この規模では買い手は個人や同業に限られやすく、レンジの下側で決まることも多くなります。

計算例2:中規模(従業員40名程度、実質営業利益4,000万円)

時価純資産2億円、実質営業利益4,000万円、減価償却費1,500万円、有利子負債1億円、現預金8,000万円の会社です。年買法で3年分なら2億円+1億2,000万円=3億2,000万円。EBITDAは5,500万円で、倍率5倍なら事業価値2億7,500万円、有利子負債1億円を引き現預金8,000万円を足して2億5,500万円となります。おおむね2億5,000万円〜3億2,000万円のレンジです。この規模になると事業会社やファンドも買い手候補に入り、複数の買い手が競合すればレンジの上側、あるいはそれを超えることもあります。

計算例3:やや大きめ(従業員100名程度、実質営業利益1億円)

時価純資産5億円、実質営業利益1億円、減価償却費4,000万円、有利子負債3億円、現預金2億円の会社です。年買法で3年分なら5億円+3億円=8億円。EBITDAは1億4,000万円で、倍率6倍なら事業価値8億4,000万円、有利子負債3億円を引き現預金2億円を足して7億4,000万円です。この規模ではDCF法による将来キャッシュフローの評価も併用され、事業計画の説得力が価格を左右します。買い手の関心も高く、シナジーが見込める相手であれば倍率がさらに上振れすることもあります。

上記はいずれも計算の流れを示すためのです。実際の価格は、業種、成長性、取引先の構成、買い手の数と種類、交渉のタイミングによって大きく上下します。同じ計算式を使っても、倍率や年数の置き方一つで結果は数割変わりますので、幅を持ったレンジとして捉えてください。会社売却の相場観全般は会社売却の相場はいくらかでも整理しています。

金額を左右する8つの要素

同じ利益、同じ純資産でも、次のような要素で評価は上下します。自社がどちら側に寄っているかを確認してみてください。相続税評価額に影響するもの、取引価格に影響するもの、その両方に影響するものが混在している点にご注意ください。

要素評価が上がる方向評価が下がる方向
利益水準と安定性複数期にわたり安定して黒字。景気変動の影響を受けにくい収益構造赤字期がある、単年で大きく振れる、特需に依存している
純資産と含み損益土地や有価証券に含み益がある。資産の中身が実在し換金性が高い含み損を抱えた不動産、不良在庫、回収不能な売掛金や貸付金がある
現預金事業に必要な水準を超える現預金がある(M&Aでは株式価値に加算される方向)運転資金が常にぎりぎりで、季節資金を借入に頼っている
有利子負債実質無借金、または返済負担が小さい借入が多い。M&Aでは事業価値から差し引かれ、株式価値が圧縮される
オーナーへの依存営業も管理も社員が回している。社長が抜けても業務が続く受注も技術も人脈も社長個人。社長の退任で売上が落ちる懸念がある
取引先の分散上位数社に偏らず、契約も継続的。値決めの主導権がある1社で売上の大半を占める。その1社の方針次第で業績が変わる
許認可・人材必要な許認可が承継後も維持できる。有資格者や中核人材が定着している許認可が社長個人の資格に紐づく。中核人材が高齢、または退職リスクが高い
株式の分散状況後継者に集約できる状態。議決権の3分の2以上を確保できる見通しがある親族や元役員、所在不明の株主に分散している。名義株が残っている

最後の株式の分散は、金額そのものよりも「そもそも承継できるかどうか」に関わる重大な論点です。分散した株を集めないまま承継を進めると、後から少数株主に買取請求をされたり、重要な決議ができなくなったりします。過去の設立時に名前だけ借りた株主が残っているケースも多いため、早めの整理をおすすめします。詳しくは名義株の整理をご覧ください。

承継の資金をどう用意するか

株価の目安が出ると、次に直面するのが資金の問題です。親族内なら後継者の納税資金、社内承継なら株式の買取資金が必要になります。「株価が高すぎて渡せない」という状況は、中小企業の事業承継で最もよく起きる行き詰まりの一つです。主な手段を整理します。

手段概要向いている場面留意点
後継者の自己資金後継者が個人の預貯金や退職金などで支払う株価が比較的小さい場合多くの場合これだけでは足りない。無理をすると後継者の生活基盤が不安定になる
金融機関からの借入後継者個人、または受け皿会社が借り入れて買い取る収益力があり返済原資が見込める場合返済は配当や役員報酬から。個人保証の扱いも含めて事前に条件を詰める
持株会社スキーム後継者が設立した持株会社が借入で株式を買い取り、事業会社の利益で返済する株価が高く、後継者個人では買いきれない場合設計を誤ると税務上の論点が生じる。返済計画の実現性が前提になる
種類株式の活用議決権のある株式と、配当優先で議決権のない株式に分けて渡す経営権は後継者に集約しつつ、他の相続人にも財産を分けたい場合定款変更と登記が必要。設計は専門家と行う
事業承継税制(納税猶予)一定要件のもとで、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される親族内承継で納税額が大きい場合要件の維持と継続的な届出が必要。取消事由に該当すると猶予税額と利子税の納付が生じる

それぞれの詳細は、持株会社とは種類株式とは事業承継税制で解説しています。役員や従業員が借入で株式を買い取る形はMBOとはの枠組みと重なる部分が多いため、社内承継を検討している方はこちらも参考になります。

資金手当ての検討で大切なのは、順番です。株価が分からないまま「税制を使えば何とかなる」と考えるのではなく、まず金額の目安を出し、必要額を確定させてから手段を選ぶ。この順番を守るだけで、選択肢の見え方がかなり変わります。

「株価を下げる対策」として語られる手法と、その注意点

相続税評価額が高い場合、評価額を引き下げる方法としていくつかの手法が語られます。ただし、これらはいずれも効果を保証できるものではなく、実行のタイミングや事業上の合理性によっては税務上否認されるおそれもあります。ここでは、よく話題になる手法と、検討する際に必ず確認すべき点を整理します。

  • 役員退職金の支給:先代経営者の退任時に退職金を支給すると、その期の利益と純資産が減り、評価額に影響することがあります。ただし、不相当に高額と判断された部分は損金に算入されません。功績倍率などの根拠を整え、支給時期や退任の実態と整合させる必要があります。詳しくは役員退職金と自社株評価をご覧ください。
  • 生命保険の活用:保険料の支払いが利益を圧縮し、将来の退職金や納税の原資にもなるという整理で語られます。ただし、保険商品の税務上の取扱いは改正が重ねられており、加入時点の説明が将来も妥当とは限りません。契約前に必ず最新の取扱いを税理士に確認してください。
  • 資産の組み替え:現預金を事業用資産に振り替えるなどの手法が挙げられます。ただし、評価額の引き下げだけを目的とした取引は、事業上の必要性が説明できなければ問題視されるおそれがあります。本業にとって意味のある投資かどうかが出発点です。
これらの手法は、「節税になる」と断定できるものではありません。効果は会社の状況と実行時期によって変わり、想定どおりの結果にならないこともあります。また、評価額を下げるために会社の財務体質を弱めてしまえば、金融機関の評価や事業の継続性に悪影響が出ることもあります。実行する前に、必ず顧問税理士に相談し、税務上の根拠と事業上の合理性の両方を確認してください。本記事は一般的な情報の整理であり、個別の税務判断を示すものではありません。

相談と準備の進め方:3つのステップ

事業承継は数年がかりの取り組みになります。順番を間違えると手戻りが大きいため、次の流れで進めるのが現実的です。

ステップ1:現状の株価を把握する

まず、今の自社株がどのくらいの金額なのかを、おおまかにでも把握します。取引価格ベースの目安は、本稿の計算式で自分でも出せます。相続税評価額は税理士に試算を依頼するのが確実です。この段階では精密さよりも、「数千万円台なのか、億単位なのか」という桁の感覚をつかむことが目的です。桁が分かれば、次に検討すべきことが自ずと絞られます。

ステップ2:承継方法を決める

株価の桁が分かったら、親族内・社内・第三者のどれを軸に進めるかを決めます。後継者候補の有無、後継者の資金力、他の相続人との関係、従業員の雇用維持といった条件を並べて比較します。ここで複数の選択肢を同時に検討しておくと、一つが行き詰まったときに一からやり直さずに済みます。相談先の選び方は事業承継の相談先で整理しています。

ステップ3:期限から逆算して計画を組む

承継方法が決まったら、いつまでに何を終えるかを逆算します。株式の集約には数年かかることがありますし、事業承継税制を使うなら計画の提出や要件の確認に時間が必要です。後継者の育成期間も見込まなければなりません。経営者の年齢や健康状態を踏まえ、余裕を持った期限を設定してください。準備が早いほど、選べる手段は増えます。

よくある質問(FAQ)

Q. 相続税評価額とM&Aの取引価格では、どちらが高くなりますか?

A. 会社の中身によって、どちらが高くなることもあります。純資産を厚く積み上げてきたが利益は控えめという会社では、純資産価額が効いて相続税評価額のほうが高くなりやすい傾向があります。逆に、資産は少ないが高収益で成長性もあるという会社では、将来の収益力を評価するM&A価格のほうが高くなることがあります。両者は目的も計算方法も異なるため、片方から他方を推測することはできません。承継方法を検討する段階では、両方を並べて確認しておくことをおすすめします。

Q. 株価が高すぎて後継者に渡せません。どうすればよいですか?

A. まず、本当に渡せないのかを金額で確認します。そのうえで、事業承継税制による納税猶予、持株会社を使って借入で買い取る方法、議決権と財産価値を分ける種類株式の活用など、複数の手段を組み合わせて検討します。並行して、役員退職金の支給時期など、評価額に影響する要素の整理も検討対象になりますが、これは税理士と相談しながら慎重に進めるべき領域です。どの手段も準備に時間がかかるため、行き詰まりを感じた時点で早めに専門家へ相談してください。

Q. 親族や元役員に分散した株を集めるにはどうすればよいですか?

A. 基本は、株主一人ひとりと交渉して買い取ることになります。この際の価格は、相手が同意すれば当事者間で決められますが、著しく低い価格だと贈与とみなされるおそれがあるため、根拠のある金額を用意しておくことが望ましいです。所在の分からない株主がいる場合や、名義だけ借りていた株主が残っている場合は、手続きが複雑になります。会社法上の手続きを使う方法もあるため、名義株の整理を確認したうえで、弁護士や税理士に相談してください。集約には年単位の時間がかかることもあります。

Q. 株価はいつ算定すべきですか?

A. 「承継を考え始めたとき」が最も良いタイミングです。金額が分からなければ、承継方法も資金計画も決められないからです。また、実際に贈与や譲渡を行う直前にも、その時点の数字であらためて算定が必要になります。相続税評価額は原則として贈与や相続があった時点の状況で計算されるため、事前の試算はあくまで方針決定のための目安です。方針決定用の試算と、実行時の正式な算定は、別のものとして考えてください。

Q. 自社株の評価額は毎年変わるのですか?

A. 変わります。利益、配当、純資産といった評価の基礎になる数字が毎期変動しますし、類似業種比準価額の計算で使う業種ごとの指標も毎年更新されます。大きな設備投資をした年、退職金を支給した年、特別利益が出た年などは、前年から大きく動くことがあります。そのため、数年前に算定した金額をそのまま使うのは危険です。承継の実行が近づいたら、直近の決算に基づいて再度確認してください。

Q. 自分で株価を試算することはできますか?

A. 取引価格ベースの目安であれば、本稿で紹介した年買法やEV/EBITDA倍率法を使って、決算書から自分でおおよその金額を出すことができます。桁の感覚をつかむには十分です。一方、相続税・贈与税の計算に使う評価額は、会社の規模区分の判定、類似業種比準価額の計算、各種の調整や特例など専門的な要素が多く、自力での正確な計算は現実的ではありません。方針検討の段階では自分で目安を出し、実行の段階では税理士に依頼する、という使い分けが実務的です。手計算の進め方は自分で企業価値を計算する方法もご参照ください。

まとめ

事業承継の株価に一律の相場がないのは、会社の規模・利益水準・純資産の中身が違ううえに、承継方法によって参照する物差しそのものが変わるからです。親族内への贈与・相続では相続税評価額、役員や従業員への譲渡では税務上の時価と後継者の資金力、第三者へのM&Aでは交渉で決まる取引価格と、同じ会社の同じ株式でも3通りの金額が並びます。まずはこの構造を理解したうえで、実質営業利益と時価純資産から年買法やEV/EBITDA倍率法で取引価格の目安を出し、桁の感覚をつかむところから始めてください。

金額の見当がついたら、利益の安定性、含み損益、有利子負債、オーナー依存、取引先の分散、許認可と人材、株式の分散状況といった要素を点検し、自社が評価レンジのどちら側に寄っているかを確認します。そのうえで、必要な資金をどう用意するかを、自己資金・借入・持株会社・種類株式・納税猶予といった選択肢から組み立てる。評価額を下げる手法については、節税効果を前提にせず、税理士と一緒に税務上の根拠と事業上の合理性を確認してから判断する。この順番で進めれば、行き当たりばったりの承継を避けられます。

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