企業価値評価に必要なデータ一覧|決算書のどこを見て、何を用意するか
最終更新: 2026-09-12
企業価値評価を依頼しよう、あるいは自分で試算してみようと思ったときに、多くの方が最初につまずくのが「結局、何を用意すればいいのか」という点です。決算書と言われても3期分なのか1期分なのか、事業計画は必須なのか、税務申告書まで要るのか——ここがはっきりしないまま止まってしまうのは、もったいないことです。
本稿では、企業価値評価に必要な資料をチェックリストの形で一覧にし、それぞれ「なぜ必要か」「手元に無い場合はどう代替するか」まで整理します。あわせて、簡易的な評価に必要な最小セットと、DCF法を使う詳細な評価で追加になるセットの違い、決算書のどの数字が評価のどこに効くのか、事業計画を作るときの最低ラインもまとめます。数字が完全にそろっていなくても評価は始められますので、その現実的な進め方も後半で扱います。
なお、集めた数字を実際に価格レンジへ落とし込む手順そのものは会社売却シミュレーションの手順や自分で企業価値を計算する方法で扱っています。本稿は、その一歩手前の「資料をそろえる」段階に絞ります。
資料チェックリスト(全体像)
まずは全体像です。下の表は、企業価値評価の実務で求められることの多い資料を並べ、それぞれが評価のどこで効くのか、手元に無い場合にどう代替するのかを整理したものです。上から順に優先度が高いと考えてください。すべてがそろわないと評価できない、というものではありません。
| 資料 | なぜ必要か | 無い場合の代替 |
|---|---|---|
| 決算書3期分(貸借対照表・損益計算書) | 収益力の水準と推移、資産・負債の状況をつかむ土台。単年度では一時的な好不調と実力の区別がつかない | 2期分でも試算は可能。1期分しかない場合は、レンジの幅を広めに見る前提で進める |
| キャッシュフロー計算書 | 利益と現金の動きのズレ、設備投資と減価償却の関係を確認する。DCF法の前提づくりに効く | 中小企業では作成義務がなく、無いことも多い。損益計算書と貸借対照表2期分の差額から簡易的に組み立てられる |
| 販売費及び一般管理費の内訳 | 役員報酬、地代家賃、減価償却費など、正常収益力を出すための調整項目がここに集まっている | 決算書の附属明細や試算表の科目別残高で代用する |
| 勘定科目内訳明細書 | 売掛金・買掛金・借入金・仮払金などの中身を相手先別に確認する。回収不能債権や役員貸付金の発見につながる | 総勘定元帳や補助元帳の該当科目を出力して代える |
| 法人税申告書(別表を含む) | 繰越欠損金の残高、税務上の簿価と会計上の簿価の差、同族会社の判定などを確認する | 別表一・別表四・別表五(一)・別表七だけでも大半の確認はできる |
| 直近の月次試算表 | 決算期から時間が経っている場合に、足元の業績を反映するために使う | 月次を作っていない場合は、直近の売上台帳と主要経費の実績で概況をつかむ |
| 事業計画(3〜5年) | DCF法で将来キャッシュフローを見積もる根拠。将来の設備投資や人員計画も反映される | 無い場合は簡易な評価から始める。または直近実績の横置き+一定成長という単純な前提で仮に置く |
| 株主名簿 | 誰が何株持っているかを確認する。1株あたりの価値、少数株主の扱い、名義株の有無に関わる | 法人税申告書別表二(同族会社等の判定に関する明細書)で株主構成の概要を確認できる |
| 固定資産台帳 | 減価償却費の内訳、遊休資産や含み損益のある資産の把握。設備投資の周期も読める | 決算書の固定資産明細と、主要資産の取得時期・取得価額のメモで代える |
| 借入金一覧・返済予定表 | 有利子負債の残高と返済スケジュール。事業価値から株式価値への調整に直結する | 金融機関ごとの残高証明書、または決算書の借入金明細 |
| リース契約の一覧 | オフバランスのリースが実質的な負債にあたる場合がある。EBITDA倍率での比較にも影響する | 毎月のリース料の合計と残期間の一覧を作る |
| 保険契約の一覧(保険積立金) | 解約返戻金のある保険は非事業用資産として時価純資産に反映される場合がある | 保険会社から取り寄せる解約返戻金額の一覧(証券番号単位) |
| 退職金規程・退職給付債務の資料 | 簿外の退職給付債務は実質的な負債。従業員数が多いほど金額が大きくなる | 規程と従業員名簿(年齢・勤続年数)から自己都合要支給額を概算する |
| 主要な取引契約書 | 売上の集中度、契約の残期間、支配権が変わったときに解除される条項(チェンジ・オブ・コントロール)の有無 | 上位取引先の売上構成比と契約期間の一覧だけでも有用 |
| 不動産の賃貸借契約書 | 本社・工場・店舗の賃料水準と残期間。オーナー個人の不動産を借りている場合は賃料の適正化が論点になる | 契約の要点(賃料・期間・更新条件・貸主)をまとめた一覧 |
| 許認可・免許の一覧 | 事業に必要な許認可が譲渡で承継できるか、再取得が必要かで手続きの重さが変わる | 許認可の種類・番号・有効期限のメモ |
| 係争・偶発債務の有無 | 訴訟、労務トラブル、保証債務などは価格の減額要因になりうる | 「無い」という確認だけでも記録として意味がある |
資料を集めるときは、紙で探すよりも、顧問税理士や会計事務所に「決算書3期分と勘定科目内訳明細書、法人税申告書の控えをPDFでください」と依頼するのが最短です。多くの場合、電子データで保管されているため、その日のうちにそろうこともあります。あわせて、月次試算表を作成しているかどうかも確認しておくとよいでしょう。
この一覧を見て「そんなに用意できない」と感じても、心配は要りません。上の3〜4行がそろえば、おおまかな評価レンジは出せます。下のほうの契約書や許認可の資料は、評価そのものというより、買い手の調査(デューデリジェンス)で必ず求められるものです。売却を視野に入れているなら、早めに整えておくと後で楽になります。この観点は売り手側デューデリジェンスと磨き上げやデューデリジェンスとはで詳しく扱っています。
簡易版と詳細版で必要な資料はどう違うか
評価には、直近の実績をもとに素早くレンジを出す簡易的なやり方と、将来の事業計画をもとに時間をかけて積み上げる詳細なやり方があります。必要な資料の量が大きく違うので、まずどちらを目指すのかを決めてから資料集めに入ると効率的です。
| 簡易版に必要な最小セット | 詳細版(DCF)で追加になるもの | |
|---|---|---|
| 決算書 | 直近1〜3期の貸借対照表・損益計算書 | 3期分に加え、キャッシュフロー計算書または設備投資・減価償却の推移 |
| 将来の見通し | 不要(実績ベースで評価) | 3〜5年の事業計画(売上・原価・販管費・設備投資・減価償却・運転資本) |
| 調整項目 | 役員報酬、明らかな一時損益 | 私的経費、地代家賃の適正化、非経常的な取引の洗い出し |
| 資産・負債の中身 | 現預金、有利子負債、純資産の残高 | 固定資産台帳、保険の解約返戻金、退職給付債務、遊休資産の時価 |
| 株式の情報 | 発行済株式数 | 株主名簿、種類株式や新株予約権の有無 |
| 主に使う手法 | 年買法、EV/EBITDA倍率法、簿価純資産法 | DCF法、類似会社比較法、時価純資産法の併用 |
| 準備の手間の目安 | 決算書が手元にあれば数十分 | 計画の作成を含めて数日〜数週間 |
簡易版と詳細版のどちらを選ぶかは、評価結果を何に使うかで決まります。自分の頭の整理や初期の当たり付けなら簡易版で足りますし、株主や取引先など第三者に説明する場面では詳細版のほうが向いています。判断の軸は簡易版と詳細版レポートの選び方にまとめています。
決算書のどこを見るか:各項目が評価のどこに効くか
決算書は情報の塊ですが、企業価値評価で実際に使う数字は限られています。ここでは主要な10項目について、決算書のどこにあり、評価のどの部分に効くのかを整理します。テンプレートに数字を入力するときの手引きとしても使えます。
| 項目 | 決算書のどこにあるか | 評価のどこに効くか |
|---|---|---|
| 営業利益 | 損益計算書の売上総利益から販管費を引いた行 | 収益力の出発点。年買法やEV/EBITDA倍率法の基礎になる。ここから役員報酬などを調整して正常収益力を出す |
| 減価償却費 | 販管費の内訳、製造原価報告書、キャッシュフロー計算書 | 営業利益に足し戻してEBITDAを算出。DCF法では投資と対応させて将来のキャッシュフローに反映する |
| 役員報酬 | 販管費の内訳(役員報酬・役員賞与) | オーナーの取り分は会社の実力と切り離して考えるため、市場水準との差額を調整する。調整の有無で評価額が大きく動く |
| 現預金 | 貸借対照表の流動資産の先頭 | 事業価値から株式価値への橋渡し。有利子負債から差し引く(ネット有利子負債)。運転資金として必要な分は事業用として扱う考え方もある |
| 有利子負債 | 短期借入金、長期借入金、社債、リース債務 | 事業価値から差し引いて株式価値を求める。詳しくは事業価値と株式価値の関係を参照 |
| 純資産 | 貸借対照表の下段(純資産の部合計) | 純資産法の起点。含み損益を反映して時価純資産に置き換える |
| 投資有価証券 | 貸借対照表の固定資産(投資その他の資産) | 含み損益の調整対象。事業と関係のない保有株式は非事業用資産として別に評価する |
| 保険積立金 | 貸借対照表の投資その他の資産 | 解約返戻金との差額が含み損益になる。簿価より返戻金が大きければ純資産に上乗せされる |
| 役員貸付金 | 貸借対照表の流動資産・投資その他の資産、勘定科目内訳明細書 | 回収可能性が問われる。回収できない前提なら資産から除く。売却時には整理を求められることが多い |
| 退職給付引当金 | 貸借対照表の固定負債。計上していない会社も多い | 計上していない場合、自己都合要支給額が簿外債務として純資産から差し引かれることがある |
事業価値・企業価値・株式価値の違いがあいまいだと、有利子負債や現預金の扱いで混乱しやすくなります。企業価値と株式価値の違いを先に押さえておくと、入力の意味が理解しやすくなります。純資産の調整については時価純資産法とは、倍率での評価は類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)が参考になります。
事業計画の作り方の最低ライン
DCF法を使う詳細な評価では、事業計画が中心的な材料になります。とはいえ、精緻な計画を一から作る必要はありません。押さえるべき最低ラインは3〜5年分と6つの項目、そして各項目に根拠を1行つけることです。
| 項目 | 最低限の作り方 | 根拠の書き方の例 |
|---|---|---|
| 売上高 | 既存顧客の継続分と新規分を分けて置く。単価×数量に分解できるなら分解する | 「主要3社の取引は横ばい、新規は年1社×平均◯万円を想定」 |
| 売上原価 | 直近実績の原価率を基準に、変動要因があれば織り込む | 「原価率は直近3期平均の◯%を維持。仕入価格の上昇分を年◯%見込む」 |
| 販売費及び一般管理費 | 人件費とそれ以外に分ける。増員予定があれば人数と時期を書く | 「2年目に営業1名を増員。その他経費は売上連動で年◯%増」 |
| 設備投資 | 更新投資と成長投資を分ける。予定が無ければ減価償却費と同額を置く | 「3年目に生産設備の更新◯百万円。それ以外は維持更新のみ」 |
| 減価償却費 | 既存資産の償却予定に、新規投資分の償却を上乗せする | 「固定資産台帳の償却予定+新規投資を耐用年数◯年で定額償却」 |
| 運転資本 | 売上債権・棚卸資産・仕入債務の回転期間を実績から出し、売上に連動させる | 「売掛金◯日・在庫◯日・買掛金◯日を維持し、売上増に比例して増加」 |
この6項目がそろえば、フリーキャッシュフローを組み立てられます。フリーキャッシュフローの考え方はフリーキャッシュフロー(FCF)とは、それを現在価値に割り引く仕組みはDCF法とはで解説しています。
計画づくりで気をつけたいのは、右肩上がりに描きすぎないことです。毎年二桁成長が続く計画は、第三者から見ると根拠を問われやすく、かえって評価の説得力を落とします。実績の延長線上に置き、増える理由・減る理由を1行ずつ書き添えるほうが、結果的に信頼される計画になります。強気の計画と保守的な計画の2本を用意し、レンジとして示す方法も実務ではよく使われます。
- 期間は3年でも成立しますが、投資回収に時間がかかる事業なら5年が扱いやすくなります。
- 数字は千円単位でも百万円単位でも構いませんが、資料全体で単位をそろえることが重要です。
- 計画の最終年度が特殊な状態(大型投資の直後など)にならないよう注意します。最終年度の数値は継続価値の計算に大きく影響します。
- 税率の前提、割引率の考え方は、計画そのものとは分けて別紙に書いておくと後から検証しやすくなります。
数字が整っていないときの現実的な進め方
「3期分の決算書が手元にない」「事業計画なんて作ったことがない」「決算から半年以上経っている」——実際の相談では、資料が完全にそろっているほうが少数派です。整っていないことを理由に止まってしまうより、次の3つの方針で前に進めるほうが有益です。
1. 試算表や手元の資料で代用する
決算書が古い、あるいは最新期がまだ確定していない場合は、月次試算表で足元の状況を補います。月次を作っていなければ、直近の売上台帳と主要経費の実績から概況をつかむだけでも十分に意味があります。勘定科目内訳明細書が無ければ総勘定元帳、固定資産台帳が無ければ主要資産のメモ——このように「一段落ちる資料」で代えていく発想が実務的です。代用したことを記録に残しておけば、後から精緻化するときに手戻りが少なくて済みます。
2. 概算で入れて、感応度を見る
どうしても分からない数字は、常識的な範囲で仮に置いて先に進めます。大切なのは、その仮定を動かしたときに結果がどれだけ変わるかを確認することです。動かしても結果がほとんど変わらない項目は、精度を上げる必要がありません。逆に、大きく変わる項目だけを重点的に調べれば、少ない労力で精度を確保できます。この考え方は感応度分析と呼ばれ、評価報告書でも定番の項目です。実際の見せ方は評価報告書サンプルの見方で確認できます。
3. まず簡易版から始める
最初から詳細版を目指すと、資料集めの段階で息切れしがちです。手元にある決算書だけで簡易的なレンジを出し、その数字を見てから「どこを詰めるべきか」を判断するほうが、結果的に早く着地します。無料の計算ツールで感覚をつかむのも有効です。年買法の計算ツールなら営業利益と純資産だけ、EV/EBITDA倍率の計算ツールなら営業利益・減価償却費・有利子負債・現預金だけで試せます。事業計画ができた段階でDCF法の計算ツールに進むという順序が自然です。
入力時によくある間違い
資料がそろっていても、入力の段階で取り違えると評価額が大きくずれます。ここでは実務で頻出する5つの間違いを挙げます。いずれも、入力後に見直せば気づける類のものです。
| 間違い | 何が起きるか | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 税込と税抜の混在 | 売上や仕入の金額が実態と1割前後ずれ、原価率や利益率が正しく計算されない | 決算書は原則として税抜(税抜経理の場合)。売上台帳から拾うときは、どちらの基準か必ず確認する |
| 千円単位と円単位の取り違え | 評価額が1,000倍または1,000分の1になる。桁が違うのですぐ気づけるが、一部の項目だけ間違えると発見が遅れる | 入力後、売上高と純資産の桁を実感と照らす。決算書の表紙や欄外の単位表記を確認する |
| 決算期のズレ | 3期分のつもりが4期分になっていたり、変則決算(決算期変更で12か月未満の期)をそのまま年換算せずに使ってしまう | 各期の期首・期末の日付を並べて確認する。変則決算は月数で年換算するか、その旨を注記する |
| 連結と単体の混在 | 売上は連結、負債は単体といった組み合わせになり、事業価値と負債の対応が崩れる | どちらか一方に統一する。子会社がある場合、評価対象の範囲(グループ全体か親会社単体か)を先に決める |
| 役員報酬の戻し忘れ | オーナー報酬が市場水準より高いまま利益が過少に出て、評価額が実力より低くなる。逆に低く取っている場合は過大になる | 販管費の内訳で役員報酬を確認し、同規模・同業の水準との差額を調整する。調整額の根拠をメモに残す |
このほか、非事業用資産(遊休不動産、事業に関係のない保有株式、オーナー個人向けの貸付金など)を事業用資産と混ぜてしまう間違いもよくあります。事業から生まれる価値と、たまたま会社が持っている資産の価値は、分けて考えるのが原則です。正常収益力の考え方は正常収益力とはで整理しています。
- 入力を終えたら、営業利益率と自己資本比率を計算して実感と合うか確かめると、桁や符号の間違いに気づきやすくなります。
- 3期分を横に並べて、極端に振れている科目が無いか目視で確認します。振れている場合は、その理由を1行で説明できるかを考えます。
- 名義株や、実態のない株主が残っている場合は、1株あたりの計算がずれます。株式の整理については名義株の整理が参考になります。
評価の目的別に、追加で用意しておくとよいもの
同じ企業価値評価でも、何のために行うのかによって、重点的に見られる資料は変わります。目的がはっきりしていれば、優先して集める資料も絞り込めます。
| 目的 | 重点的に見られる資料 | 理由 |
|---|---|---|
| 第三者への会社売却を検討している | 主要取引契約、許認可、労務関係の資料、係争の有無 | 買い手は価格だけでなく、引き継いだあとに問題が起きないかを重視するため |
| 親族や役員への承継を考えている | 株主名簿、法人税申告書別表二、退職金規程、生命保険の一覧 | 株式の移転方法と、退職金の支給余力が論点になりやすいため |
| 少数株主から株式を買い取りたい | 株主名簿、過去の株式異動の記録、定款 | 1株あたりの価値の算定根拠と、譲渡制限の手続きを確認する必要があるため |
| 増資や資本政策を検討している | 事業計画、資本政策表、新株予約権の一覧 | 将来の見通しと、既存株主の持分がどう変わるかが中心の論点になるため |
| 社内での意思決定や説明に使いたい | 決算書3期分、事業計画、前提条件をまとめた資料 | 結論より、どういう前提で計算したかを説明できることが求められるため |
目的が複数にまたがることもありますが、その場合も「一番重い用途」を基準に資料をそろえておけば、他の用途にも流用できます。なお、EBITDAや割引率といった評価の基礎概念があいまいなままだと、資料を集めても何に使うのか分からなくなりがちです。必要に応じてEBITDAとはやWACC(加重平均資本コスト)とはも参照してください。
また、資料は一度そろえて終わりではありません。決算のたびに更新し、契約や許認可に変更があれば差し替えるという運用にしておくと、いざ検討を本格化させたときに慌てずに済みます。フォルダを1つ作り、本稿のチェックリストの順に入れておくだけでも、後の作業がかなり軽くなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 決算書が3期分ないとダメですか?
A. 3期分が理想ですが、無くても試算はできます。2期分あれば推移がつかめますし、1期分でも簡易的なレンジは出せます。ただし期数が少ないほど、その年が実力どおりだったのか、たまたま良かった(悪かった)のかを判断できないため、結果のレンジは広めに受け止めてください。設立から間もない会社なら、そもそも3期分が存在しないこともあります。その場合は、直近の実績と月次の推移を組み合わせて評価する、あるいは資産価値を軸に考えるといった進め方になります。
Q. 事業計画がない場合はどうすればよいですか?
A. 事業計画が無ければ、DCF法以外の手法から始めるのが現実的です。年買法やEV/EBITDA倍率法、純資産法は実績だけで計算できます。そのうえで、将来の見通しを反映したくなったら、本稿の「事業計画の作り方の最低ライン」を参考に、まず3年分の粗い計画を作ってみてください。売上・原価・販管費・設備投資・減価償却・運転資本の6項目を、根拠1行ずつで埋めるだけでも、DCF法の入力としては成立します。完璧な計画を待つより、粗くても作って感応度を見るほうが学びが多いはずです。
Q. 連結決算をしている会社はどうすればよいですか?
A. まず評価対象の範囲を決めます。グループ全体を売却するのか、親会社単体か、特定の子会社だけかで、使う決算書が変わります。グループ全体なら連結決算書を、単体なら単体決算書を使い、途中で混ぜないことが最も重要です。子会社が少なく、実質的に親会社だけで事業が完結している場合は、単体をベースに子会社株式を非事業用資産として別に評価する簡便な方法もあります。持株会社形態の場合は構造がやや複雑になるため、判断に迷うときは専門家に相談するのが安全です。相談先の選び方は企業価値評価の依頼先にまとめています。
Q. 期中(決算前)でも評価できますか?
A. できます。実務でも期中の評価は日常的に行われます。直近の決算書を土台に、月次試算表で足元の状況を補うのが基本です。たとえば決算から8か月経っているなら、その8か月の試算表を見て、通期の着地見込みを立てたうえで評価します。ただし、季節性のある事業では月数按分が実態とずれるため、前年同期との比較で判断するほうが確かです。期中の数字を使ったこと、どの時点を基準日にしたのかは記録に残しておいてください。基準日が違えば結果も変わるためです。
Q. 手元の数字が古い場合はどうなりますか?
A. 古い数字でも評価自体は可能ですが、結果の意味合いが変わります。1年以上前の決算書だけで出した数字は「その時点の会社の姿」を示すもので、現在の姿とは限りません。その間に大きな受注があった、主要取引先を失った、設備を入れ替えた、といった変化があれば、結果は実態から離れます。まずは直近の状況を試算表や売上実績で補い、それも難しければ「◯年◯月期時点の数字にもとづく」と前提を明記したうえで参考値として扱ってください。相手に提示する場面では、数字の古さは必ず指摘されるので、先に自分から明示しておくほうが信頼を得られます。
Q. どこまで正確に数字を入れるべきですか?
A. 項目によって求められる精度が違います。営業利益、有利子負債、現預金、純資産といった結果への影響が大きい項目は、決算書の数字をそのまま正確に入れてください。一方で、細かな経費区分や、金額の小さい資産の時価などは、多少の誤差があっても最終的なレンジはほとんど動きません。判断に迷ったら、その項目を1割動かしてみて、結果がどれだけ変わるかを見るのが近道です。ほとんど動かないなら概算で十分、大きく動くなら調べる価値がある、という切り分けができます。
まとめ
企業価値評価の準備は、「全部そろえてから始める」のではなく、「あるもので始めて、必要なところだけ足していく」と考えると進めやすくなります。優先順位をもう一度整理すると、次のとおりです。
- まず決算書3期分。これだけで簡易的なレンジは出せます。
- 次に販管費の内訳と勘定科目内訳明細書。役員報酬の調整と、資産・負債の中身の確認に使います。
- DCF法まで進むなら3〜5年の事業計画。6項目に根拠1行ずつで十分です。
- 売却を視野に入れるなら契約・許認可・係争の確認。買い手の調査で必ず求められます。
この4段階は、いずれも前の段階が終わっていなくても着手できます。事業計画を作りながら決算書を取り寄せる、といった並行作業でも問題ありません。
そして、入力するときは税込と税抜、千円単位と円単位、決算期のズレ、連結と単体、役員報酬の戻し——この5点を最後に見直してください。資料集めより、この確認のほうが結果への影響は大きいことがあります。
資料がそろったら、Excelテンプレートに沿って財務データを入力すると、DCF法・類似会社比較法・純資産法による評価レンジと前提条件をPDF報告書にまとめることができます(簡易版2,200円・詳細版5,500円、税込)。登録・試算は無料で、テンプレートもダウンロードできます。無料で登録して試算する