IFRSと日本基準の違いが企業価値評価に与える影響|のれん・リース・収益認識
最終更新: 2026-09-12
企業価値評価では、対象会社と比較対象会社の数字を並べて倍率を求める場面が繰り返し出てきます。このとき前提になっているのは、「同じ言葉で書かれた数字を比べている」ということです。ところが、IFRS(国際財務報告基準)を採用している会社と日本基準の会社では、同じ「営業利益」「EBITDA」「有利子負債」という名前でも中身が違います。この違いに気づかないまま倍率を計算すると、評価額が実態から離れてしまいます。
本稿では、企業価値評価に効いてくる会計基準の差異を、のれん・リース・収益認識・開発費・退職給付・有給休暇引当の順に整理します。そのうえで、EV/EBITDA倍率がリースの扱いでどれだけ歪むかを数値例で確認し、類似会社比較法で基準の違う会社を混ぜるときにどう調整するか、DCF法では影響がどう変わるか、そして日本の中小企業の会計とはどこが違うのかまでを見ていきます。
評価に効いてくる主な差異
まず全体像を表で押さえます。数ある差異のうち、企業価値評価の数字を動かしやすいものを取り上げています。
| 論点 | 日本基準(一般的な取扱い) | IFRS(一般的な取扱い) | 評価への影響 |
|---|---|---|---|
| のれんの償却 | 原則として一定期間で規則的に償却し、減損の兆候があれば減損処理 | 償却せず、毎期の減損テストで必要に応じて減損処理 | 日本基準は償却費のぶん営業利益・純利益が小さくなる。PER・PBRの比較がずれる |
| リース | ファイナンス・リースはオンバランス、オペレーティング・リースは原則として賃借料を費用処理 | 借手は原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上 | IFRS採用企業はEBITDA・資産・有利子負債がいずれも大きく出る。EV/EBITDAが直撃を受ける |
| 収益認識 | 収益認識に関する会計基準により国際基準と考え方はおおむね収れん。中小企業では従来の実現主義が残る場合がある | 履行義務の充足に応じて認識。総額表示か純額表示か、変動対価、返品の見積りなどで判断が分かれる | 売上高の水準そのものが変わるため、PSR等の売上ベースの指標や成長率の比較に影響する |
| 開発費 | 研究開発費は原則として発生時に費用処理 | 研究段階は費用、開発段階は一定の要件を満たせば無形資産として資産計上 | IFRS採用企業は開発費が資産化されるぶん、当期の利益と資産が大きく出やすい |
| 退職給付 | 数理計算上の差異等を一定期間で費用処理する方法が認められる | 再測定はその他の包括利益で即時認識し、以後純損益には振り替えない | 純利益と純資産の出方が変わる。退職給付債務の未積立額を負債として見るかも論点になる |
| 有給休暇の引当 | 一般に引当計上は行われないことが多い | 未消化の有給休暇に対応する債務を負債として計上 | IFRS採用企業は負債が大きく、費用も先に出る。純資産の比較に影響する |
表を眺めると、差異の方向にひとつの傾向があることに気づきます。IFRSは、将来の支払義務や経済実態を早めに、そして幅広く貸借対照表に載せる方向に働きます。その結果、IFRS採用企業は資産も負債も大きく見え、費用の計上タイミングも日本基準とずれます。この「ずれ」が、評価指標のどこにどう現れるのかを次に見ていきます。
のれんの償却:利益とPERが比較できなくなる
最も有名な差異がのれんの償却です。日本基準では、買収で生じたのれんを一定期間にわたって規則的に償却します。IFRSでは償却せず、毎期減損テストを行い、必要があればまとめて減損損失を計上します。
この違いは、買収を繰り返してきた会社ほど大きく効きます。日本基準の会社は毎期のれん償却費が営業利益を押し下げるのに対し、IFRS採用企業には償却費がありません。同じ買収を同じ価格で行った二社を並べたとき、IFRS採用企業のほうが利益が大きく見えるわけです。PERで比べると、日本基準の会社は利益が小さいぶん見かけの倍率が高くなり、「割高」に見えてしまいます。
一方で、IFRS採用企業には「減損がいつ、どれだけ来るか分からない」というリスクが残ります。日本基準が毎期少しずつ費用にしていくのに対し、IFRSは平時は費用ゼロで、事業が悪化した局面に大きな損失が一度に出る構造です。どちらが優れているかという話ではなく、利益の出方の時間軸が違うと理解しておくのが実務的です。のれんという資産そのものの性質についてはのれん・営業権とはで解説しています。
評価実務での扱い
- EBITDAで比べる: のれん償却は非現金の費用で、EBITDAの計算段階では足し戻されます。したがってEBITDAベースで比較すれば、のれん償却の差は原則として消えます
- PER比較なら償却前利益に揃える: どうしても利益ベースで比べるなら、のれん償却前の利益(いわゆる実質利益)に揃えて計算します
- PBRを見るなら、のれんの残高に注意: IFRS採用企業は償却しないぶん、のれんが資産に厚く残ります。PBRの水準を比べるときは、純資産に占めるのれんの割合を確認しておくと解釈を誤りません
リース:EV/EBITDA倍率が最も歪む論点
のれんはEBITDAで比べれば影響を消せますが、リースはそうはいきません。EBITDAそのものと有利子負債の両方を同時に動かすため、EV/EBITDA倍率に直接効いてきます。しかも動く向きが分子と分母で違うので、影響が直感的に読みにくいのが厄介なところです。
何が起きているのか
日本基準でオペレーティング・リースとして処理している場合、賃借料は販売費及び一般管理費に計上され、EBITDAを計算する段階で差し引かれたままになります。資産にも負債にも何も載りません。
IFRSでは、借手は原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上します。そして、これまで賃借料だった費用は、使用権資産の減価償却費と、リース負債にかかる支払利息に分解されます。減価償却費も支払利息もEBITDAでは足し戻されるので、結果としてEBITDAが賃借料相当額だけ大きくなります。同時に、リース負債が有利子負債として企業価値(EV)の計算に入ってきます。
数値例で確認する
店舗や物流拠点を賃借して事業を行う、経済実態がまったく同じ二社を考えます。単位は億円です。
| 項目 | A社(日本基準・オペレーティング・リース) | B社(IFRS・オンバランス) |
|---|---|---|
| 売上高 | 100 | 100 |
| 賃借料(費用計上) | 10 | ―(減価償却9+支払利息1に分解) |
| EBITDA | 20 | 30 |
| 使用権資産 | ― | 45 |
| リース負債(有利子負債に算入) | ― | 45 |
| その他の純有利子負債 | 30 | 30 |
| 純有利子負債の合計 | 30 | 75 |
| 株式価値(同額と仮定) | 200 | 200 |
| EV(株式価値+純有利子負債) | 230 | 275 |
| EV/EBITDA | 11.5倍 | 9.2倍 |
まったく同じ事業なのに、EV/EBITDA倍率が11.5倍と9.2倍に分かれました。会計処理の違いだけで、倍率が2倍以上ずれています。
問題は、この状態で倍率を横に持っていったときに起きます。仮にB社の9.2倍を「業界の相場」としてA社の評価に使うと、A社のEVは20 × 9.2 = 184となり、そこから純有利子負債30を引いた株式価値は154。本来の200と比べて4分の1近く低く出てしまいます。逆にA社の11.5倍をB社に当てはめれば、B社は過大に評価されます。
どう調整するか
調整の方向は二つあります。どちらを選んでもよいのですが、比較する全社に同じ処理を適用することが絶対条件です。
- オンバランス側に揃える(IFRSベースに寄せる): 日本基準の会社について、注記に開示されているオペレーティング・リースの未経過リース料などから負債相当額を見積もり、EBITDAに賃借料を足し戻したうえで、その負債相当額をEVに加えます
- オフバランス側に揃える(従来ベースに寄せる): IFRS採用企業について、EBITDAからリースの支払額相当を差し引き、リース負債をEVから除きます。「リース調整後EBITDA」といった名前で示されることがあります
- そもそもリースの影響が小さい指標を使う: EBITではなくEBITDAを使うことにこだわらず、営業利益ベースの倍率やEV/売上高を補助的に見るという選択もあります
実務では、比較会社の有価証券報告書からリース負債と使用権資産の残高、リースに関する費用の内訳を拾い、表にして横に並べる作業から始めます。手間はかかりますが、この一手間を省くと結論そのものが変わってしまいます。倍率の計算を手元で試したい場合はEV/EBITDA計算ツールで、EBITDAと有利子負債を動かしたときに倍率がどう振れるかを確認できます。
収益認識・開発費・退職給付・有給休暇
収益認識
日本でも収益認識に関する会計基準が適用され、考え方は国際的な基準とおおむね揃ってきました。ただし、実務上の判断が分かれる領域は残っています。代表的なのが、取引を総額で計上するか純額で計上するかという論点です。自社が本人(プリンシパル)として取引しているのか、代理人(エージェント)として仲介しているのかで、売上高の水準が何倍も変わることがあります。
売上高が変わると、成長率、売上高利益率、EV/売上高といった指標が一斉に動きます。EBITDAや利益は変わらないのに売上だけが違って見えるため、売上をベースにした比較をするときは、収益の計上方法が揃っているかを確認する必要があります。
開発費の資産計上
日本基準では研究開発費は原則として発生時に費用処理されますが、IFRSでは開発段階に入り一定の要件を満たしたものは無形資産として計上されます。開発投資の大きい会社では、この差が利益と資産の両方に効いてきます。
評価の観点で注意したいのは、資産計上された開発費がその後償却されていく点です。ある年に資産化した分は、翌年以降に償却費として利益を押し下げます。つまり、費用の総額は同じでもタイミングがずれるだけです。ただしEBITDAで見ると、資産計上した年は費用が計上されないぶんEBITDAが大きく出て、償却は足し戻されるので償却期間中もEBITDAは大きいまま。開発投資を多く行っている会社ほど、EBITDAが実態より良く見える構造になります。この点は、フリーキャッシュフローで見れば投資として控除されるため、影響が中和されます。
退職給付
年金資産の運用成績や割引率の変動から生じる数理計算上の差異について、日本基準では一定期間にわたって費用処理する方法が認められる一方、IFRSでは再測定をその他の包括利益で即時に認識し、以後純損益には振り替えません。純利益の振れ方と純資産の水準が変わります。
評価実務では、基準の違いとは別に「退職給付債務のうち積み立てられていない部分を、有利子負債と同じように扱うかどうか」という論点があります。将来確実に支払う義務であることから、負債類似項目としてEVの計算に加える扱いをすることがあります。これを行う場合も、比較会社すべてに同じ処理を適用しなければ意味がありません。
有給休暇引当
IFRSでは、従業員が権利を得た未消化の有給休暇について、対応する債務を負債に計上します。日本基準ではこうした引当を行わないことが一般的です。従業員数の多い労働集約型の会社では、それなりの金額になることがあります。
純資産を比較する場面や、時価純資産法で価値を求める場面では、この種の「日本基準では表に出ていない債務」をどこまで拾うかが論点になります。有給休暇に限らず、未払残業代や将来の修繕義務なども同じ発想で確認します。
DCF法では影響が小さい、ただしリースには注意
ここまで見てきた差異は、いずれも「利益をどう計算するか」に関するものです。DCF法はキャッシュフローを出発点にするため、会計処理の違いによる影響は原理的には小さくなります。のれんを償却しようがしまいが現金は出ていきませんし、開発費を資産計上しようが費用処理しようが、その年に支払った金額は同じです。
とはいえ、実務上まったく無関係というわけではありません。注意すべき点を挙げます。
| 論点 | DCFでの注意点 |
|---|---|
| リース料の扱い | リース料を営業費用として毎年のキャッシュフローから引くなら、リース負債はEVから差し引かない。逆にリース負債を有利子負債として差し引くなら、キャッシュフローからはリース料を除く。どちらか一方に統一し、二重計上や計上漏れを避ける |
| 設備投資の見積り | 開発費を資産計上している会社では、損益計算書の費用と実際の投資額がずれる。キャッシュフロー計算書の投資活動の金額で確認する |
| 運転資本の把握 | 収益認識の方法が変わると、契約資産・契約負債の残高や表示区分が変わる。運転資本の増減を過去の推移から見るときは、基準変更の期をまたいでいないか確認する |
| 割引率の推定 | 比較会社のベータや資本構成から割引率を推定する場合、リース負債を有利子負債に含めるかどうかで資本構成が変わる。倍率の調整と同じ考え方を割引率にも一貫して適用する |
| 税金の計算 | 会計上の利益と課税所得は基準にかかわらず一致しない。税効果の影響を見るなら、繰延税金資産・負債の中身を確認する |
まとめると、DCFは基準差に対して頑健ですが、それは「キャッシュフローの定義と、そこから引く負債の定義を整合させている限り」という条件付きです。リースの扱いだけは、この整合を崩しやすいので意識しておく必要があります。
日本の中小企業の会計は、また別の世界
ここまでは上場企業の話でしたが、実際のM&Aで評価の対象になるのは非上場の中小企業であることのほうが多くあります。中小企業の決算書は、中小企業の会計に関する指針や中小企業の会計に関する基本要領に沿って作られることが多く、実務上は税務上の処理をそのまま会計に用いているケースも珍しくありません。上場企業の日本基準ともまた違う世界です。
| 論点 | 中小企業でよく見られる状態 | 評価での対応 |
|---|---|---|
| 減価償却 | 税法上の限度額まで償却する、あるいは任意に償却を見送っている(償却不足) | 償却不足があれば、正常な償却費に引き直して収益力を見る |
| 貸倒引当金 | 税法基準の繰入率で計上。実態の回収可能性は反映されていないことがある | 長期滞留債権の回収可能性を個別に確認し、必要なら評価減する |
| 退職給付 | 引当を計上していない、または要支給額の一部のみ計上 | 自己都合要支給額を把握し、不足額を負債類似項目として扱うか検討する |
| リース | 所有権移転外ファイナンス・リースを賃貸借処理している | 実質的な有利子負債として扱うかを決め、EBITDAの定義と揃える |
| 資産の実在性・時価 | 簿価と実態が乖離した土地・保険積立金・在庫が残っている | 時価に引き直し、非事業用資産と事業用資産を分ける |
| オーナー関連の損益 | 役員報酬、生命保険料、私的経費、同族間取引が混在 | 正常収益力に引き直す調整を行う |
つまり中小企業の評価では、IFRSと日本基準の差というより先に、「決算書が実態を表しているか」という一段手前の確認が必要になります。上場企業の倍率を非上場企業に当てはめるときは、会計基準の差に加えて、この実態調整と、規模や流動性に関する調整も併せて考えることになります。非上場株式の評価全体の流れは非上場株式の評価方法で整理しています。
実務での結論:比較する前に定義を揃える
会計基準の差異をめぐる話は細部に入ると際限がありませんが、評価実務での結論はシンプルです。
- 比較会社を選ぶ段階で、採用基準を確認する: リストに日本基準とIFRSが混在しているなら、その時点で調整が必要だと分かります
- EBITDAの定義を文書化する: リースをどう扱うか、のれん償却をどうするか、一時的な損益をどこまで除くか。定義を一枚のメモにして、全社に同じ定義を適用します
- 分子と分母の整合をとる: EBITDAに含めた費用に対応する負債は、EVにも含める。片方だけを動かすと倍率が歪みます
- 調整しきれないなら、その会社を外す: 必要な開示がなく調整できない会社を無理に残すより、比較対象から外すほうが結論の信頼性は上がります
- 複数の指標で確かめる: EV/EBITDAだけでなく、EV/EBITやEV/売上高でも見て、順位関係が大きく変わらないかを確認します
よくある質問(FAQ)
Q. のれんを償却する日本基準と、償却しないIFRSでは、どちらが企業価値は高く出ますか?
A. 企業価値そのものは、本来どちらの基準でも変わりません。のれんの償却は現金の支出を伴わない会計上の処理で、事業が生むキャッシュフローには影響しないためです。変わるのは「見かけの利益」と、そこから計算される指標です。日本基準の会社は償却費のぶん利益が小さく出るので、PERは高く、ROEは低く見えます。EBITDAやキャッシュフローで比較すれば、この差は消えます。したがって、のれん償却の差が気になる場面では、比較の物差しをEBITDAに切り替えるのが実務的な対応になります。
Q. IFRS採用企業のEV/EBITDA倍率が低く見えるのは、割安だということですか?
A. 必ずしもそうではありません。本稿の数値例で見たとおり、リースをオンバランスにするとEBITDAが大きくなり、その効果が有利子負債の増加を上回る場合、倍率は低く出ます。事業の中身がまったく同じでも、会計処理の違いだけで倍率が下がるということです。割安かどうかを判断するには、リースの影響を揃えたうえで比べ直す必要があります。特に店舗や倉庫を多く賃借する業種では、この影響が大きく出やすいので注意が必要です。
Q. 日本基準の会社のリース負債相当額は、どうやって見積もればよいですか?
A. 有価証券報告書のリース取引に関する注記に、オペレーティング・リースの未経過リース料が開示されている場合があります。これを一定の割引率で現在価値に割り引くのが素直な方法です。開示が乏しい場合には、年間の賃借料に一定の倍数を掛けて概算する簡便法が使われることもあります。ただし、これはあくまで概算で、実際のリース期間や割引率によって金額は変わります。概算を使う場合は、その前提を明記し、感応度も併せて確認しておくことをおすすめします。
Q. DCF法を使えば、会計基準の違いは無視してよいのでしょうか?
A. 基本的には影響が小さいのは事実ですが、無視してよいわけではありません。特に注意が必要なのはリースです。フリーキャッシュフローの計算でリース料を営業費用として引いているのに、企業価値から株式価値を求める段階でリース負債も差し引いてしまうと、二重に控除することになります。逆に、リース料をキャッシュフローから除いておきながらリース負債を差し引かなければ、控除漏れです。どちらの整理を採るかを最初に決めて、モデル全体で一貫させることが大切です。また、割引率を比較会社から推定する場合も、資本構成の定義を同じ整理に揃える必要があります。
Q. 中小企業の評価で、IFRSとの差異を気にする必要はありますか?
A. 対象会社自体がIFRSを採用していることはまずありませんが、比較会社として上場企業の倍率を使う場面では関係してきます。上場企業のなかにIFRS採用企業が含まれていれば、その倍率は本稿で述べたとおり日本基準の会社とは前提が違います。加えて、中小企業の決算書は税務基準に寄っていることが多く、償却不足や引当不足、オーナー関連費用の混在といった実態調整のほうが金額的な影響は大きいのが通例です。優先順位としては、まず対象会社の実態調整、次に比較会社の基準差の調整、という順で考えるとよいでしょう。
Q. 会計基準の差異を調整した結果は、報告書にどう書けばよいですか?
A. 「何を、どの前提で、いくら調整したか」を明示するのが基本です。たとえばEBITDAであれば、開示された営業利益からスタートし、減価償却費、のれん償却費、リース関連の調整額、一時的な損益をそれぞれ行に分けて積み上げ、最終的な調整後EBITDAに至る過程を表で示します。比較会社についても同じ表を作り、同じ定義が適用されていることが見て取れるようにしておくと、読み手が結論を検証できます。調整の根拠となった開示のページや注記番号を控えておくと、後から質問を受けたときに説明しやすくなります。
まとめ
IFRSと日本基準の差異のうち、企業価値評価に効いてくるのは、のれんの償却、リースのオンバランス、収益認識、開発費の資産計上、退職給付、有給休暇引当といった項目です。これらが重なると、営業利益・EBITDA・有利子負債・純資産という、評価で使う数字のほとんどが同じ名前のまま別の中身になります。
なかでも影響が大きいのがリースです。IFRS採用企業はEBITDAも有利子負債も大きく出るため、EV/EBITDA倍率が日本基準の会社と直接比べられなくなります。本稿の数値例では、経済実態が同じ二社で倍率が11.5倍と9.2倍に分かれました。この状態で倍率を横に持っていけば、評価額は簡単に2割、3割とずれます。
対処法は難しいものではありません。比較する前に定義を揃え、分子と分母の整合をとり、調整できない会社は比較対象から外す。そして、どう調整したかを残しておく。DCF法は基準差に対して比較的頑健ですが、リース料の扱いだけは二重計上・控除漏れが起きやすいので、モデル全体で整理を統一しておく必要があります。会計基準は改正されるため、実際の検討にあたっては最新の公表資料を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。
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