会計事務所のM&A業務|顧問先の事業承継・M&Aをどう支援するか
最終更新: 2026-06-28
後継者不在の中小企業が増えるなか、会計事務所が顧問先のM&A・事業承継を支援する動きが広がっています。会計事務所は、顧問先の財務を継続的に把握し、経営者から最も信頼される相談相手であり、M&A支援に取り組む土台を備えています。本稿では、会計事務所がM&A業務に取り組む意義、提供できるサービス、体制づくり、収益化の考え方、始め方を、実務目線で解説します。後継者不在は地域経済の課題であり、会計事務所がここに応えることは、顧問先と地域の事業を守ることにつながります。個々の税理士の関与については税理士のM&A支援もあわせてご覧ください。
なぜ会計事務所がM&Aに取り組むのか
会計事務所がM&A業務に取り組む背景には、いくつかの事情があります。第一に、顧問先の高齢化と後継者不在が進み、事業承継・M&Aの相談が増えていること。第二に、これに対応できないと、顧問先の廃業によって顧問契約そのものが失われてしまうこと。第三に、会計事務所が持つ財務の専門性と顧客基盤は、M&A支援と親和性が高いこと。つまりM&A業務は、顧問先を守り、事務所の価値を広げ、社会的な課題(後継者不在)に応える取り組みとして、会計事務所にとって自然な方向性なのです。
会計事務所が提供できるM&Aサービス
事業承継・M&Aの相談対応
後継者不在や承継の悩みを受け止め、親族承継・従業員承継・M&A・廃業といった選択肢を整理して示します。経営者にとって最も身近な相談先として、検討の入口を担えます。後継者不在の選択肢は後継者不在の選択肢を参照してください。
企業価値評価・株価算定
顧問先の財務をもとに、M&Aでの企業価値(株価)の目線を示します。「いくらで譲れそうか」を早い段階で示せると、相談が具体化します。相続税評価とM&A評価の違いは株価算定と税理士で解説しています。
提案資料・税務面の支援
ノンネームシートや企業概要書(IM)などの提案資料の作成、スキーム選択に伴う税務の助言、税務デューデリジェンスなどを担えます。財務・税務の専門性が活きる領域です。
案件の進行管理
受託から評価、買い手探索、交渉、成約までの進行を管理します。買い手探索は仲介・FAやマッチングプラットフォームと連携する形も現実的です。
会計事務所の強み
会計事務所のM&A支援における強みは、(1) 顧問先の財務・事業を継続的に把握していること、(2) 経営者との長年の信頼関係、(3) 財務・税務の専門性、(4) 地域の中小企業との接点、の4つです。仲介会社が一から会社を理解するのに対し、会計事務所は既に深く理解しており、評価の前提づくりや課題の把握を効率的に進められます。また、経営者は見知らぬ仲介よりも、信頼する会計事務所に最初に相談したいと考えるのが自然です。この「信頼の入口」と「財務の理解」を兼ね備えていることが、会計事務所ならではの価値です。
体制づくり
M&A業務に取り組むには、専門の人員を抱える必要があると思われがちですが、必ずしもそうではありません。多くの会計事務所は、(1) まず相談対応と評価の提示から始め、(2) 評価・資料作成はツールを活用して効率化し、(3) 買い手探索や法務などの専門領域は仲介・FAや弁護士と連携する、という形で無理なく始めています。重要なのは、最初から完璧な体制を整えることより、顧問先の相談に応えられる入口をつくり、案件に応じて連携の輪を広げていくことです。ツールの活用は、少人数の事務所がM&A支援を始める際の大きな助けになります。
仲介・FA・他士業との連携
M&Aは、財務・税務だけでなく、買い手探索、法務、労務など多様な専門性が必要です。会計事務所が自らの強み(財務・税務・承継相談)を軸にしつつ、買い手探索は仲介・FAやマッチングプラットフォームと、法務は弁護士と、労務は社労士と連携することで、ワンストップに近い支援を提供できます。仲介とFAの違いはM&A仲介とFAの違いを参照してください。連携の設計は、案件の規模や事務所の方針に応じて柔軟に考えます。
収益化の考え方
会計事務所のM&A業務の収益は、関与の仕方によって変わります。相談・助言を顧問業務の延長で行う場合、株価算定や税務DDを個別業務として受託する場合、M&A支援機関として成功報酬(レーマン方式など)を得る場合などがあります。M&A業務は単発の報酬だけでなく、顧問先の事業承継を支えることで顧問契約の継続や、譲渡先との新しい関係につながる可能性もあります。短期の報酬と中長期の関係の両面で、収益化を考えるとよいでしょう。
M&A支援機関登録制度
中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録すると、登録支援機関を利用したM&Aが事業承継・引継ぎ補助金(M&A関連)の対象になるなどのメリットがあります。M&A支援に本格的に取り組む会計事務所にとって、登録は信頼性と顧客獲得の面で意味を持ちます。補助金・公的支援はM&Aの公的支援もご確認ください。
注意点
よくある質問
小規模な会計事務所でもM&A業務はできますか?
できます。専門人員を抱えなくても、評価・資料作成をツールで効率化し、買い手探索や法務を連携で補うことで、少人数でも始められます。まずは顧問先の相談対応と価格目線の提示から始めるのが現実的です。
顧問先の廃業を防ぐにはどうすればよいですか?
黒字でも後継者不在で廃業を選ぶ経営者は少なくありません。早めに「M&Aで第三者に譲れば会社と雇用を残せる」と示すことが有効です。黒字廃業の問題は黒字廃業を参照してください。
M&A業務は顧問契約にどう影響しますか?
顧問先の事業承継を支えることで、廃業による契約喪失を防げるほか、譲渡先との新しい関係につながることもあります。M&A支援は、顧問先との長期的な関係を強める一つの方向性になり得ます。
顧問先のM&Aを支援する流れ
会計事務所が顧問先のM&Aを支援する流れは、おおむね次のようになります。まず、経営者から事業承継・M&Aの相談を受け、意向(譲渡の理由・時期・従業員や屋号の扱いなど)を丁寧に聞き取ります。次に、顧問先の財務をもとに簡易な企業価値の目線を示し、M&Aの現実味を持ってもらいます。本格的に進めるなら、評価を精緻化し、ノンネームシートや企業概要書(IM)などの提案資料を準備します。買い手探索は、自所のネットワークやマッチングプラットフォーム、連携する仲介・FAを通じて進めます。買い手が見つかれば、交渉・基本合意・デューデリジェンス・最終契約を経て成約に至ります。各工程で財務・税務の専門性が問われる場面が多く、会計事務所が強みを発揮できる局面は少なくありません。会計事務所は、この過程で財務・税務の専門性を活かしながら、経営者に寄り添って進行を支えます。各工程の詳細はM&A仲介の業務フローもご覧ください。
提案資料づくりの効率化
M&A支援で意外に負担が大きいのが、提案資料の作成です。ノンネームシート、企業概要書(IM)、受託提案書など、案件ごとに作り込む資料は多岐にわたります。これらをゼロから作っていては、少人数の事務所では手が回りません。財務データや案件情報から資料を半自動で生成できるツールを使えば、作成の手間を大きく減らし、本来注力すべき相談対応や交渉に時間を割けます。資料の質を保ちながら効率化できることは、会計事務所がM&A業務を継続的に回すうえで重要なポイントです。提案資料の作り方は企業概要書(IM)の作り方やノンネームシートの作り方も参考になります。
地域の中小企業を支える役割
会計事務所は、地域の中小企業と深く結びついた存在です。後継者不在による黒字廃業が地域経済の損失につながるなか、会計事務所がM&A支援に取り組むことは、地域の事業と雇用を守ることにもつながります。地元の経営者にとって、遠方の大手仲介よりも、長年付き合いのある地域の会計事務所に相談したいという心情は自然です。地域密着という強みを活かし、顧問先やその周辺の中小企業の事業承継を支えることは、会計事務所が果たせる社会的な役割でもあります。この役割を担うことが、事務所の信頼と存在意義をさらに高めます。
追加のよくある質問
M&A業務を始めるのに資格や許可は必要ですか?
M&Aの支援自体に特別な資格は必要ありませんが、弁護士でなければ行えない法律事務との線引きには注意が必要です。M&A支援機関登録制度への登録は任意ですが、補助金対象になるなどのメリットがあります。業務範囲は所属する士業の倫理規程や関係法令にしたがって判断します。
評価や資料作成の品質はどう担保しますか?
公的データと連携した評価ツールや、実務に沿ったテンプレートを使うことで、一定の品質を保ちながら効率化できます。最終的な内容は専門家として確認し、案件に応じて調整することで、品質と効率を両立できます。
M&A業務を段階的に広げる
会計事務所がM&A業務を軌道に乗せるには、いきなり大きく構えるのではなく、段階的に広げていくのが現実的です。第一段階は、顧問先からの事業承継・M&Aの相談に応え、簡易な企業価値の目線を示すこと。ここは既存の財務理解と評価ツールがあれば、追加の人員なしで始められます。第二段階は、評価の精緻化や提案資料の作成、税務面の助言など、専門性を活かした個別業務を受託すること。第三段階は、買い手探索や交渉まで含めた一連の支援に関与し、必要に応じて仲介・FAと連携して案件をまとめること。このように、相談対応から始めて徐々に関与を深めていけば、無理なくM&A業務を事務所の柱の一つに育てられます。最初から完璧を目指すより、できることから始める姿勢が大切です。
顧問先以外への展開
M&A業務に慣れてきたら、顧問先以外の案件へ展開することも考えられます。M&A支援機関として、あるいは他の士業・金融機関・仲介会社と連携して、地域の中小企業のM&Aに関与する道があります。顧問先で培ったノウハウや実績は、新規の相談を呼び込む信頼につながります。ただし、顧問先以外の案件では、対象会社の理解を一から進める必要があり、買い手探索のネットワークも問われます。自所の強みと連携先をうまく組み合わせ、関与する範囲を見極めて取り組むことが大切です。地域の金融機関や商工団体との連携は、案件の入口を広げる有効な手立てになります。
スタッフの育成と知見の蓄積
M&A業務を継続的に行うには、所内に知見を蓄積していくことが重要です。とはいえ、最初から専門家を揃える必要はありません。一件一件の案件を通じて、評価の考え方、提案資料の作り方、税務・法務の論点、交渉の進め方を学び、所内で共有していくことで、徐々に対応力が高まります。標準的な進め方やチェックリストを整え、ツールで作業を効率化することは、属人的になりがちなM&A業務を、組織として回せる業務に育てる助けになります。外部のセミナーや専門家との連携も、知見を補う手段になります。焦らず、案件を重ねながら力をつけていく姿勢が、長く続けるコツです。
料金・提案の伝え方
M&A支援の料金は、相談・助言を顧問業務の延長で行うのか、個別業務として受託するのか、成功報酬を得るのかによって変わります。いずれの場合も、何に対して、いつ、いくらの費用が発生するのかを、顧問先に分かりやすく伝えることが信頼につながります。とくに成功報酬を伴う場合は、計算方法(レーマン方式など)や発生のタイミングを明示します。長年の顧問関係があるからこそ、料金の透明性に配慮し、経営者が納得して依頼できる形を整えることが、関係を損なわないために重要です。
取り組む際の心構え
M&Aは経営者にとって人生の大きな決断であり、会社や従業員の将来を左右します。会計事務所がM&A支援に取り組む際は、報酬や成約を急ぐのではなく、経営者の意向を尊重し、誠実に選択肢と情報を提供する姿勢が何より大切です。長年の信頼関係があるからこそ、その信頼を裏切らない丁寧な対応が求められます。M&Aが必ずしも最善とは限らず、廃業や承継の延期が適切な場合もあります。経営者が納得して意思決定できるよう支えることが、結果的に会計事務所の信頼を高め、長期的な関係につながります。
さらによくある質問
M&A業務は採算が合いますか?
案件の規模や関与の仕方によります。単発の報酬だけでなく、顧問契約の継続や新しい関係の構築といった中長期の効果も含めて考えると、地域の会計事務所にとって取り組む価値のある業務です。少人数でもツールと連携で始められるため、初期投資を抑えて取り組めます。
どんな案件から始めるとよいですか?
まずは、財務をよく把握している顧問先で、後継者不在などM&Aの動機が明確な案件から始めるのが取り組みやすいでしょう。理解の深い案件で経験を積み、徐々に対応の幅を広げていくのが現実的です。
買い手はどうやって探せばよいですか?
自所のネットワークに加え、M&Aマッチングプラットフォームの活用や、仲介・FAとの連携で買い手候補を探します。会計事務所の強みは売り手(顧問先)側の理解にあるため、買い手探索は連携で補うのが現実的です。買い手探索の実務は買い手ロングリストの作り方も参考になります。
まとめ
会計事務所は、顧問先の財務を熟知し、経営者の信頼を得ている存在として、M&A・事業承継の支援に取り組む土台を備えています。相談対応・評価・税務支援・進行管理を軸に、仲介・FAや他士業と連携することで、無理なくワンストップに近い支援を提供できます。専門人員を抱えなくても、ツールの活用と連携で始められます。相談対応という入口から段階的に広げ、案件を重ねて知見を蓄積していけば、M&A業務は地域の中小企業を支える事務所の柱に育ちます。相談対応と価格目線の提示という入口から始め、案件を重ねながら段階的に対応の幅を広げていけば、M&A業務を事務所の柱の一つに育てられます。
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