アーンアウト・シミュレーター

アーンアウトは、譲渡後の一定期間の業績に応じて追加の対価を支払う仕組みです。売り手と買い手で将来見通しに差があるときに価格の溝を埋める手段ですが、いくら受け取れるかは支払方式と目標の置き方で大きく変わります。本ツールでは3つの支払方式と3つのシナリオで、支払額・現在価値・総取得価格を並べて確認できます。入力した数値はブラウザ内で計算され、サーバーに送信されません。

クロージング時に支払う基本対価と、譲渡後の業績に応じて追加で支払うアーンアウトの条件を入力すると、保守・基準・楽観の3シナリオで支払額・現在価値・総取得価格を計算します。支払方式を切り替えると、同じ業績でも支払額がどれだけ変わるかを確認できます。入力した数値はブラウザ内で計算され、どこにも送信されません。

① 支払方式

② 年ごとの目標・見込み・上限額(万円)

目標値基準シナリオの見込み上限支払額
1年目
2年目
3年目

目標値・見込みは同じ指標(実態EBITDA、営業利益、売上など)で揃えてください。指標の定義は契約書で数式まで決めておく必要があります。

③ シナリオの振れ幅と確率

合計が100%にならなくても、比率として扱います。確率の置き方自体が主観なので、期待値は参考値として見てください。

④ シナリオ別のアーンアウト支払額

保守シナリオ(基準の80%)

1,600万円

現在価値 1,455万円 / 1年ぶん支払

総取得価格 31,600万円

基準シナリオ(基準の100%)

5,758万円

現在価値 4,783万円 / 3年ぶん支払

総取得価格 35,758万円

楽観シナリオ(基準の115%)

6,000万円

現在価値 4,974万円 / 3年ぶん支払

総取得価格 36,000万円

確率加重した期待受取額(現在価値)

3,823万円

割引前 4,559万円 / 上限額の合計 6,000万円

期待される総取得価格(現在価値)

33,823万円

3億3,823万円

※ 保守シナリオと楽観シナリオで、総取得価格は 4,400万円 動きます。基準シナリオでも、総取得価格のうち 16.1% はクロージング時点で確定していない金額です。アーンアウトの比率が高いほど、価格の合意は「見かけ上のもの」に近づきます。

シナリオ実績見込み達成率支払率支払額
保守シナリオ1年目4,00080.0%80%1,600
2年目4,16075.6%0%0
3年目4,48074.7%0%0
基準シナリオ1年目5,000100.0%100%2,000
2年目5,20094.5%95%1,891
3年目5,60093.3%93%1,867
楽観シナリオ1年目5,750115.0%100%2,000
2年目5,980108.7%100%2,000
3年目6,440107.3%100%2,000

単位は万円。達成率が「—」の年は目標値が0以下で算定できないため、支払額を0としています。

※ 本シミュレーターは概算です。実際のアーンアウトでは、指標の定義、買い手の事業運営についての約束、算定書の開示と異議申立ての手続、争いになったときの付託先まで契約で定める必要があります。税務上の取り扱い(対価の確定時期など)も含め、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

「総額◯億円」の何割が、まだ確定していないのか

アーンアウトを含む条件で合意したとき、提示された総額はそのまま受け取れる金額ではありません。上のツールの初期値では、総取得価格のうち一定割合が「業績次第の金額」です。保守シナリオと楽観シナリオの差を見れば、同じ条件でも最終的な受取額がどれだけ動くかが分かります。

売り手が最初に確認すべきなのは、基本対価だけで納得できるかです。アーンアウトが実現しなかった場合の金額が、自分にとって受け入れられる水準かどうか。そこが下限になります。手元に残る金額は税負担でも変わるため、株式譲渡の手取り額 計算ツールとあわせて確認してください。

また、将来受け取る金額は現在価値に引き直すと目減りします。3年後の2,000万円は、いま受け取る2,000万円と同じではありません。上のツールで割引率を入れているのはこのためです。割引率の考え方はWACC・株主資本コスト計算ツールで確認できます。

支払方式で、同じ業績でも結果が変わる

上のツールで支払方式を切り替えてみてください。同じ実績見込みでも、支払額が大きく変わります。

  • 全部か無か:目標に届けば満額、届かなければゼロ。分かりやすい反面、わずかな未達で全額が消えます。期末が近づいたときに、翌期の売上を前倒ししたり、必要な投資を先送りしたりする誘因が生まれやすい方式です。
  • 比例:閾値を超えた部分から達成率に応じて支払います。未達の程度に応じた結果になるため、極端な行動を招きにくく、当事者の利害も近づきます。
  • 段階:達成率の帯ごとに支払率を決めます。全部か無かよりなだらかですが、帯の境目では同じ問題が小さく再現します。

どの方式でも、指標を何にするかが最大の論点です。売上は操作されにくい一方、利益を伴わない売上でも支払いが生じます。利益やEBITDAは実態に近い一方、買い手側の費用配賦しだいで大きく動きます。実態EBITDAの組み立て方は実態EBITDA(正常収益力)調整シート正常収益力とはをご覧ください。

「そんな事態は想定していなかった」は通らない

アーンアウトで最も多い争いは、目標が達成できなかったのは買い手のせいではないかという主張です。この点について、米国で近年もっとも注目された判断があります。デラウェア州最高裁判所のJohnson & Johnson ほか 対 Fortis Advisors LLC 事件(2026年1月12日決定)です。手術支援ロボットの会社を買収した際、追加対価の支払条件が特定の規制当局の承認経路に紐づけられていました。契約締結後、当局がその経路ではなく別の審査を求めたため、条件は達成できなくなりました。

売り手側は「買い手は別の承認経路を追求すべきだった」と主張し、下級審では信義則(黙示の誠実義務)を根拠に10億ドルを超える賠償が認められていました。最高裁はこれを取り消しました。判決は、黙示の誠実義務を「メスであって刷毛ではない」と表現し、契約の隙間を外科的に埋めるための限定的な道具であって、あとから後悔した条項を塗りつぶすためのものではないと述べています。

そして、この法理が及ぶのは「予見できなかった事態であって、当事者が単に検討しなかった事態ではない」という先例を引いたうえで、起こりうると分かっていた事態については、交渉の場で容易に書けたはずの保護を後から与えることはできないとしました。本件では契約が当該事項に触れていたため、埋めるべき「隙間」がそもそもなかった、というのが結論です。

米国の判決であり日本の契約に直接適用されるものではありませんが、示唆は明快です。買い手に何をしてほしいのかは、契約書に書いておくしかないということ。「誠実に努力する」という一文では、具体的に何を守らせたいのかが決まりません。上のチェックリストのうち「買い手の事業運営についての約束」と「想定外の事象が起きたときの取り扱い」は、まさにこの点に対応する項目です。契約条項全体の読み方は株式譲渡契約書(SPA)の要点をご覧ください。

対象事業の帳簿を分けていないと、数字を検証できない

もう1件、実務に直結する判断があります。米国デラウェア州上位裁判所(商事部門)のAM Buyer LLC ほか 対 Argosy Investment Partners IV, L.P. ほか事件(2024年9月3日決定)です。契約には、買い手が対象事業について別個の帳簿・記録・財務諸表を維持し、アーンアウトの金額を算定・検証できる状態にしておく義務が定められていました。ところが買い手はこれを維持していませんでした。

争いを付託された第三者の会計専門家は、この不履行を契約違反と認定したうえで、帳簿を分けていなかったために論点が不明確になっている場面では、売り手側の主張により重みを置いてよいと判断しました。裁判所は、この専門家の判断が契約で与えられた権限の範囲を超えておらず、明白な誤りにも当たらないとして、その結論を維持しています。契約上、専門家の書面による判断は最終的かつ拘束力を持ち、不正または明白な誤りがある場合を除いて覆せない、と定められていました。

統合を進めれば進めるほど、対象事業だけの数字は取り出しにくくなります。アーンアウト期間中の会計をどう分けるかは、PMIの進め方を設計する段階で決めておくべき事項です。あわせて、第三者に判断を委ねるならその権限の範囲を契約で明確にしておくことの重みも分かります。範囲が広く書かれていれば、専門家の判断はそのまま結論になります。

契約で決めておくこと

指標の定義を数式まで書く

EBITDA・営業利益・売上のどれを使うかだけでなく、どの費用を控除し、どの調整を加えるかを明記します。買い手の本社費配賦、のれん償却、譲渡に伴う一時費用の扱いは必ず争点になります。

対象事業の会計を分けて管理する義務を入れる

譲渡後に対象事業を買い手の他事業と混ぜてしまうと、そもそも指標を計算できません。分別して帳簿・財務諸表を維持する義務を、買い手側の義務として明記します。

買い手の事業運営についての約束

人員・設備・販売チャネルの維持、予算水準、他事業への需要の振り替えを行わないことなど、指標に影響する行動をどこまで縛るかを具体的に書きます。「誠実に努力する」だけでは何を守るのか決まりません。

想定外の事象が起きたときの取り扱い

許認可・規制・大口顧客の喪失・災害など、達成できなくなりうる事象を挙げ、そのときに目標をどう修正するか(または修正しないか)をあらかじめ書きます。書いていない事象について後から救済を求めるのは困難です。

算定書の作成・開示・異議申立ての手続

誰がいつまでに算定書を作り、売り手側がどの資料を閲覧でき、いつまでに異議を出せるかを定めます。

第三者専門家に委ねる範囲

争いになったときに第三者の会計専門家へ付託するなら、その専門家が判断できる論点の範囲と、判断の拘束力(どのような場合に覆せるか)を明確にします。

支配権が移った後の変化への備え

アーンアウト期間中に買い手がさらに売却・統合された場合に、アーンアウトをどう扱うか(繰上げ支払・目標の引き継ぎなど)を決めておきます。

よくある質問

アーンアウトは売り手に不利な仕組みですか

一概には言えません。買い手が将来の業績に確信を持てないとき、アーンアウトがなければ価格そのものが下がる、あるいは交渉が成立しないこともあります。問題は仕組みそのものではなく、達成の可否を左右する要素が譲渡後は買い手の手にあるという構造です。だからこそ、指標の定義と買い手の行動についての約束を先に決めることが重要になります。価格の妥当性の検証は買収価格の妥当性の検証もご覧ください。

アーンアウト期間はどれくらいが一般的ですか

1〜3年程度に設定されることが多いとされます。期間が長いほど買い手の経営判断の影響が積み重なり、対象事業の数字を切り出すことも難しくなります。一方で短すぎると、譲渡直後の混乱がそのまま結果に反映されてしまいます。売り手が一定期間経営に関与するかどうかとあわせて設計するのが現実的です。

赤字や債務超過の会社でも使えますか

使われることがあります。現時点の価値が付きにくい場合に、再建後の成果を分け合う形で条件を組むという考え方です。詳しくは赤字・債務超過会社の売却をご覧ください。

税金はどう扱われますか

追加対価をいつの時点の収入として認識するかなど、取り扱いは契約の内容によって変わります。金額が大きくなりやすい部分なので、契約書の文言を確定する前に税理士に確認してください。譲渡全体の税負担の考え方は株式譲渡と事業譲渡の違いで整理しています。

価格調整条項とは何が違いますか

価格調整条項は、引き渡し日時点の運転資本や純有利子負債の残高のズレを精算するもので、対象は過去です。アーンアウトは譲渡後の業績に対する追加対価で、対象は将来です。両方を置くことも珍しくありません。価格調整については運転資本ペグ(クロージング価格調整)計算ツールをご覧ください。

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※ 本ツールは概算です。出力される金額はいずれも目安であり、特定の条件を推奨するものではありません。引用した米国の裁判例は日本の契約に直接適用されるものではなく、契約条項の設計・解釈および税務上の取り扱いは、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

条件を組む前に、基本対価の土台を固める

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