実態EBITDA(正常収益力)調整シート

決算書の営業利益から「実態EBITDA(正常収益力)」を組み立てるための無料ツールです。調整項目を「一般に認められやすい」「説明が必要」「戻すべきでない」の3区分に分けて入力すると、区分Aのみ・A+B・A+B+Cという3段階の実態EBITDAと、EV/EBITDA倍率をかけた事業価値・株式価値の目安を同時に表示します。買い手がどこまで調整を認めるかで価格の議論がどれだけ動くかを、売り手も買い手も同じ画面で確認できます。入力した数値はブラウザ内で計算され、サーバーに送信されません。

営業利益と減価償却費から基礎EBITDAを出し、調整項目を「一般に認められやすい(区分A)」「説明が必要(区分B)」「戻すべきでない(区分C)」に分けて入力すると、3段階の実態EBITDAと、それぞれの事業価値・株式価値の目安を計算します。加算はプラス、減算はマイナスで入力してください。入力した数値はブラウザ内で計算され、どこにも送信されません。

基礎EBITDA(営業利益 + 減価償却費)

4,000万円

調整項目を3つの区分に分けて入力する

区分A:一般に認められやすい調整

小計 +1,500 万円(基礎EBITDA比 +37.5%

オーナー固有の費用や非事業用資産の損益など、買い手も比較的受け入れやすい調整です。根拠資料(報酬の市場水準、契約書、内訳明細など)を揃えておきます。

万円

同業・同職務の報酬水準との差額。現状が高ければプラス

万円

事業に必要でない支出を戻す

万円

遊休資産・投資有価証券などの損益を打ち消す

万円

相場との差額。相場より高く払っていればプラス

万円

再び起きないと説明できるものに限る

区分B:説明が必要な調整

小計 +400 万円(基礎EBITDA比 +10.0%

「一時的」とされるものの、再び起きる可能性が残る項目です。買い手が認めるかは説明次第で、交渉の争点になりやすい部分です。

万円

回復の見込みを説明できるかが分かれ目

万円

反復可能性が残るため買い手は割り引いて見る

万円

今後も同種の支出が続くなら認められにくい

区分C:戻すべきでない項目

小計 +300 万円(基礎EBITDA比 +7.5%

毎期発生している営業費用や、リストラ費用・減損損失など、戻すべきでないとされる項目です。入力すると「売り手の最大主張」がどこまで膨らむかを確認できます。

万円

通常・反復的な営業費用は戻すべきでない

万円

過去にも将来にも影響する項目は非経常と扱われにくい

万円

同上。非経常として扱うのはまれとされる

万円

実態のキャッシュ創出力は変わらない

万円

圧縮を戻さずに利益だけ主張するのは片側だけの除外

3段階の実態EBITDA

実態EBITDA(Aのみ)=保守的

5,500万円

調整 +1,500万円(基礎EBITDA比 +37.5%)

実態EBITDA(A+B)=交渉の出発点

5,900万円

調整 +1,900万円(基礎EBITDA比 +47.5%)

実態EBITDA(A+B+C)=売り手の最大主張

6,200万円

調整 +2,200万円(基礎EBITDA比 +55.0%)

※ 区分Cまで戻した「A+B+C」は売り手の最大主張です。この水準は買い手に否認される可能性が高いとお考えください。通常・反復的な営業費用やリストラ費用・減損損失を「一時的」として戻すことは、海外の開示規制でも問題とされている類型です。

価値の目安に引き直す

既定の4.0倍は、中小企業のM&Aで一般に語られる目安を置いたものであり、特定のデータベースの集計値ではありません。適正な倍率は業種・規模・成長性によって変わります。

段階実態EBITDA調整額事業価値株式価値の目安
実態EBITDA(Aのみ)=保守的5,500+1,50022,00020,000
実態EBITDA(A+B)=交渉の出発点5,900+1,90023,60021,600
実態EBITDA(A+B+C)=売り手の最大主張6,200+2,20024,80022,800

単位は万円。事業価値 = 実態EBITDA × 4倍、株式価値 = 事業価値 − 有利子負債 + 現金(純有利子負債 +2,000万円)で計算した目安です。 A+Bの株式価値は2億1,600万円です。

区分Aだけの水準と、区分Cまで戻した水準の差は 700万円(倍率4倍なら価値ベースで 2,800万円)です。どの調整まで買い手が認めるかで、価格の議論はこれだけ動きます。

※ 本シートは概算です。数値はいずれも目安であり、どの調整が認められるかは買い手・対象会社・資料の揃い方によって変わります。調整の根拠資料(役員報酬の市場水準、契約書、内訳明細など)を残し、比較する過去の期間にも同じ定義を当てはめることが前提です。税務・会計・法務の判断は税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

実態EBITDAとは何か、なぜ営業利益のままでは使えないか

実態EBITDA(正常収益力)とは、その会社が平常どおりに事業を続けたとき、毎期どれくらいのキャッシュを生み出せるかを表す利益水準です。中小企業のM&Aでは、この実態EBITDAに倍率をかけて価格のたたき台を作ることが多く、出発点の数字が数百万円ずれれば、価格は倍率の分だけ動きます。

では、なぜ決算書の営業利益をそのまま使えないのでしょうか。オーナー企業の決算書は、税負担や資金繰り、オーナー個人の事情を織り込んだ結果として出来上がっています。オーナーの役員報酬は市場水準と切り離して決められ、事業に直接関係しない支出が経費に紛れ、オーナー個人が所有する不動産を相場と異なる賃料で借りていることもあります。買い手にとって重要なのは「自分が経営したときにいくら残るか」であり、前オーナー固有の事情は引き継がれません。そこで、決算書の利益をいったん平時の姿に引き直す作業が必要になります。これが正常収益力の調整です。詳しい考え方は正常収益力(実態収益力)とはEBITDAとはで解説しています。

「一時的だから戻す」の線引きは、どこまで許されるか

調整でもっとも揉めるのが「これは一時的な費用だから戻してよい」という主張です。この線引きについては、上場企業の開示規制という別の文脈ではありますが、海外の当局が繰り返し同じ趣旨の指摘をしています。中小M&Aの交渉に直接適用される規則ではないものの、買い手や、買い手側に付く会計士が調整を見るときの目線を知る手がかりになります。

米国証券取引委員会(SEC)企業財務部の「Non-GAAP Financial Measures — Compliance & Disclosure Interpretations」(最終更新2022年12月13日)は、事業を運営するために必要な通常・反復的な現金営業費用を除外した指標の提示は、誤解を招くものとして規則違反となりうるとしています。欧州証券市場監督機構(ESMA)の「Guidelines on Alternative Performance Measures」(ESMA/2015/1415en、2015年10月公表・2016年7月適用)第25項は、リストラ費用や減損損失のように過去の期間に影響を与え、将来も影響を与える項目が「非経常」と扱われることはまれであるとしています。証券監督者国際機構(IOSCO)の「Statement on Non-GAAP Financial Measures」(Final Report FR05/2016、2016年6月)第11項も同じ趣旨を述べています。

豪州証券投資委員会(ASIC)の「Regulatory Guide 230 Disclosing non-IFRS financial information」(2011年12月)は、さらに具体的です。過去に発生した、あるいは将来発生しそうな項目を「one-off」「non-recurring」と記述すべきではないこと、調整を行うなら比較対象となる過去の期間にも同じ調整を加えること、そして片側だけを除外してはならないこと(費用だけを除き、対応する収益を残すような扱いをしないこと)を求めています。上のシートで区分Cに挙げている項目は、これらの指摘に当たる類型です。毎期出ている修繕費や外注費、リストラ費用、減損損失、会計方針の変更による見かけの改善、広告費を絞ったことによる一時的な利益の上振れは、戻した瞬間に買い手の不信を招きます。

米国内国歳入庁(IRS)のRevenue Ruling 59-60(1959年)第4.02(d)項も、詳細な損益計算書を5年以上の期間について取得し、経常項目と非経常項目を分離できるようにすべきだとしたうえで、恣意的な5年・10年平均に頼っても現実的な評価は得られないと述べています。米国の税務上の評価に関する取扱いであり日本の制度ではありませんが、「何年分を、どの粒度で見るか」という実務の作法として参考になります。買い手のデューデリジェンスも、結局は同じことをします(デューデリジェンスとは)。

役員報酬の正常化は、どう根拠を残すか

区分Aのなかでも金額が大きくなりやすいのが役員報酬の調整です。ここで効くのは「いくら戻したか」ではなく「なぜその水準が適正だと言えるか」です。IRSの「Reasonable Compensation — Job Aid for IRS Valuation Professionals」(2014年10月29日)は、裁判所が市場アプローチ、すなわち同業・同規模・同じ職務内容のポジションの報酬との比較を選好してきたとしています。また、報酬として扱うべきものとして、社用車、低利の貸付、住宅関連の便益、退職給付といった現金給与以外の項目を具体的に列挙しています。なお、この文書自身が述べているとおり、これはIRSの評価担当者向けの内部参考資料であり、IRSの公式見解ではありません。日本の制度でもありません。

実務への含意は単純です。後任の経営者を外部から雇うとしたらいくら払うことになるか、という水準を、根拠の示せる資料で置くこと。そして役員報酬本体だけでなく、社用車や社宅、保険、退職金の積立など、オーナーが受け取っている経済的な便益をひととおり洗い出して一体で示すことです。売り手側デューデリジェンスで先に整理しておくと、交渉での説得力が変わります。

調整後EBITDAを名乗るなら守るべき手続

ESMAのガイドラインが求めている作法は、そのまま中小M&Aの資料作りに応用できます。第一に、調整後EBITDAの定義を文章で書くこと。第二に、比較のために並べる過去の期間も、同じ定義で作り直すこと。第三に、決算書のどの科目から何を足し引きしたのかを表で示し、決算書に戻れるようにすること。第四に、結果を見てから定義を変えない、つまり後知恵で作り直さないことです。

同じ定義で3期分を並べると、区分Bに入れた項目が本当に一時的だったのかが自然に見えてきます。毎期少しずつ姿を変えて出ている費用は、名前が違っても反復的な費用です。逆に、定義を明示したうえで3期とも同じ調整を加えてなお利益が伸びているなら、その数字は交渉の場で強く働きます。

日本の中小M&Aでの位置づけ

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)は、中小M&Aでは時価純資産法により算定されるケースが多いとしています。つまり実態EBITDAは、それ単独で価格を決める数字ではなく、時価純資産法年買法と並べて、価格のレンジを作るための一つの軸と考えるのが実情に合っています。倍率をかけて出るのは事業価値であり、そこから有利子負債を引き現金を足して株式価値になります(企業価値と株式価値の違い)。上のシートの既定倍率4.0倍も、一般に語られる目安を置いたものであり、特定のデータベースの集計値ではありません。税務上の株価評価はまったく別の基準によるため、税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 区分A・B・Cはどう決めればよいですか?

A. 「同じことが来期以降も起きるか」で分けるのが目安です。前オーナー固有の事情で、買い手に引き継がれないものは区分A。一時的と説明できるが、再び起きる可能性が残るものは区分B。毎期出ている費用や、過去にも将来にも影響する費用は区分Cです。迷ったら区分Bに置き、根拠資料と一緒に買い手へ提示して判断を仰ぐほうが、後から否認されるより傷は浅く済みます。

Q. 区分Cを入れた「A+B+C」の数字は使ってよいのですか?

A. 交渉で提示する数字としては勧められません。このシートでは、売り手の最大主張がどこまで膨らむか、そして区分Aだけの水準との差がいくらになるかを見るために表示しています。通常・反復的な営業費用やリストラ費用・減損損失を戻す主張は、上に挙げた各国の開示規制でも問題とされている類型であり、買い手に否認される可能性が高いとお考えください。

Q. 何期分を調整すればよいですか?

A. 直近1期だけでは、その期がたまたま良かったのか悪かったのかを判断できません。Revenue Ruling 59-60(1959年)が5年以上の詳細な損益計算書を求めているように、複数期を同じ定義で並べるのが基本です。ただし同ルーリングは、単純な5年・10年平均に頼っても現実的な評価にはならないとも述べています。平均で潰すのではなく、期ごとの動きの理由を説明できるようにしておくことが大切です。

Q. 減価償却費を足し戻すのに、設備投資は考えなくてよいのですか?

A. EBITDAは設備投資と運転資本の増減を無視した指標なので、設備投資の重い会社では収益力を実際より大きく見せます。買い手は通常、必要な設備投資の水準も併せて確認します。キャッシュフローまで踏み込むならDCF法 計算ツール運転資本・CCC 計算ツールも併用してください。

Q. 入力した数字は保存・送信されますか?

A. されません。本シートの計算はすべてブラウザ内で行われ、入力した金額や項目名がサーバーに送信されることはありません。画面を閉じると入力内容も残りません。記録を残したい場合は、お手元で控えを取ってください。

本文で参照した一次情報

  • 米国証券取引委員会(SEC)企業財務部「Non-GAAP Financial Measures — Compliance & Disclosure Interpretations」(最終更新2022年12月13日)
  • 欧州証券市場監督機構(ESMA)「Guidelines on Alternative Performance Measures」(ESMA/2015/1415en、2015年10月公表・2016年7月適用)第25項
  • 証券監督者国際機構(IOSCO)「Statement on Non-GAAP Financial Measures」(Final Report FR05/2016、2016年6月)第11項
  • 豪州証券投資委員会(ASIC)「Regulatory Guide 230 Disclosing non-IFRS financial information」(2011年12月)
  • 米国内国歳入庁(IRS)Revenue Ruling 59-60(1959年)第4.02(d)項
  • 米国内国歳入庁(IRS)「Reasonable Compensation — Job Aid for IRS Valuation Professionals」(2014年10月29日)※IRSの評価担当者向け内部参考資料であり、IRSの公式見解ではありません
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)

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※ 本ツールは単純化した概算です。数値はいずれも目安であり、どの調整が認められるかは買い手・対象会社・資料の揃い方によって変わります。本文で触れた海外当局の文書は上場企業の開示規制に関するものであり、中小M&Aの交渉に直接適用される規則ではありません。税務・会計・法務の判断は税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

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