M&Aで社長の個人保証は外れる? 経営者保証の解除の進め方と、外れない場合の対処

最終更新: 2026-09-12

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中小企業のオーナーが会社の売却を考えるとき、価格と並んで、あるいは価格以上に気になるのが「会社の借入に付けている自分の個人保証はどうなるのか」という点です。会社を手放したのに保証だけが残るのであれば、引退後も返済リスクを抱え続けることになります。ご自宅を担保に入れている場合はなおさらです。

結論から言えば、株式を売っただけで個人保証が自動的に外れるわけではありません。保証契約は経営者個人と金融機関との間の契約であり、株主が変わったことだけを理由に当然に消滅するものではないためです。一般に、解除には金融機関の同意が必要で、その判断は金融機関ごと・案件ごとに異なります。

本稿では、個人保証(経営者保証)とは何かという基本から、M&Aのスキーム別に保証がどう扱われるか、解除を進める手順、金融機関が見ているとされる観点、外れなかった場合の代替策、売却価格や手取りとの関係、事前にできる準備までを順に整理します。なお、保証の解除は金融取引・法律の両面に関わる論点です。実際の判断にあたっては、必ず取引金融機関および弁護士・税理士などの専門家にご確認ください。

そもそも個人保証(経営者保証)とは何か

個人保証とは、会社が金融機関から借入を行う際に、経営者個人が会社の債務を保証する契約です。中小企業の融資では、経営者が連帯保証人となる形が広く用いられてきました。連帯保証では、一般に、主債務者である会社が返済できなくなった場合、金融機関は保証人である経営者個人に直接請求できるとされています。

なぜ中小企業で求められてきたのか

背景としてよく挙げられるのは、次のような事情です。

  • 法人と個人の一体性:中小企業では会社の資金と経営者個人の資金の区別が曖昧になりやすく、金融機関から見ると会社と経営者を一体として捉えざるを得ない面がありました。
  • 財務情報の限界:上場企業のような開示体制がなく、決算書だけでは実態の把握が難しいケースがあるため、経営者の規律付け(モラルハザードの抑制)として保証が用いられてきたとされます。
  • 担保余力の不足:不動産などの物的担保が十分でない場合に、人的な保証で補うという実務が定着していました。

近年は、こうした慣行を見直す動きが進み、経営者保証に依存しない融資も広がってきていると言われます。もっとも、既存の借入にすでに付いている保証がどうなるかは別問題であり、M&Aの局面ではこの「既存の保証」をどう処理するかが実務上の焦点になります。

保証の種類を確認しておく

一口に個人保証といっても、契約の形はいくつかあります。まずは自社の契約がどれに当たるのかを確認するところから始めます。

区分概要M&Aで確認したいポイント
特定債務の保証特定の借入契約(証書貸付など)ごとに保証する形対象となる借入が完済されれば、その保証は基本的に役目を終える
根保証一定の範囲の債務をまとめて保証する形。極度額(上限)や期間が定められていることがある将来発生する借入まで対象になり得るため、解除・終了の手続を明確にする必要がある
連帯保証主債務者と連帯して責任を負う形。金融機関は保証人に直接請求できるとされる「まず会社に請求してほしい」という主張が通りにくいとされる点に注意
物上保証(担保提供)経営者個人の自宅などの資産に抵当権を設定する形保証の解除とは別に、抵当権の抹消手続が必要になる
上記は一般的な整理です。契約の名称が同じでも条項の内容は金融機関や時期によって異なります。手元の保証契約書・金銭消費貸借契約書の原本を確認し、不明点は取引金融機関や弁護士に確認してください。

M&Aのスキーム別:個人保証はどうなるか

個人保証の扱いは、どのスキームで会社・事業を譲渡するかによって大きく変わります。中小企業のM&Aで用いられる主なスキームごとに、借入と保証の扱いを整理すると次のとおりです。スキームそのものの違いは事業譲渡と株式譲渡の違いで詳しく解説しています。

スキーム会社の借入の行き先経営者の個人保証の扱い(一般論)
株式譲渡借入は会社に残ったまま、株主だけが交代する保証契約は経営者個人と金融機関の契約であり、株主が変わっただけでは当然には消滅しない。解除には金融機関の同意が必要になるのが一般的
事業譲渡借入は原則として売り手側の法人に残る(個別に引き受ける合意をした場合を除く)会社に借入が残るため、保証もそのまま残るのが原則。譲渡代金で返済して初めて解除を相談できる形になりやすい
会社分割分割契約・分割計画の定めにより、承継会社に移る債務と残る債務が分かれる債務が移っても、保証がそのまま移るとは限らない。債権者保護手続や金融機関との調整が必要になるのが一般的
合併消滅会社の債務は存続会社に包括的に承継されるのが原則保証の扱いは金融機関との個別の合意によることが多く、事前協議が欠かせない
株式譲渡+借入の借り換え買い手側で新たな借入を起こし、既存借入を返済する形既存借入が完済されれば、その借入に紐づく保証は役目を終える。買い手の資金調達力に左右される

「株を売れば自動的に外れる」わけではない

もっとも誤解されやすいのが株式譲渡です。株式譲渡では、会社(法人)はそのまま存続し、借入も会社に残ります。変わるのは株主だけです。したがって、旧オーナーが金融機関と結んだ保証契約は、株式を譲渡したという事実だけでは終了しないのが一般的です。「もう株主でも役員でもないのだから当然外れるはず」と考えて手続を怠り、クロージング後も保証が残っていたことに後から気付く、というのは避けたい事態です。

実務では、旧オーナーの保証を解除し、必要に応じて新オーナー(買い手側の代表者や親会社)が保証を引き受ける、という「保証人の交代」を金融機関に相談することになります。この交代に応じるかどうかは金融機関の判断であり、必ず認められるとは限りません。

事業譲渡は「借入が残る」ことに注意

事業譲渡では、譲渡するのは事業に関する資産・負債・契約であり、原則として借入は売り手法人に残ります。会社の器と借入が手元に残る以上、保証も残ります。事業譲渡代金で借入を返済し、完済によって保証を終わらせる、という流れになるのが一般的です。譲渡代金が借入残高に届かない場合、保証の問題は解消しません。この点は赤字・債務超過の会社でも売却できるかでも触れている論点です。

会社分割・合併は手続が重くなりやすい

会社分割では、どの債務を承継会社に移し、どれを残すかを分割契約等で定めます。ただし、債務を移すこと自体に債権者保護の手続が必要になるほか、保証契約が自動的に付いて回るわけではありません。合併の場合も、包括承継によって債務は存続会社に移りますが、旧経営者の保証をどうするかは金融機関との合意事項です。組織再編の基本は会社分割とはで整理しています。いずれのスキームでも、金融機関への事前相談なしに進めることは現実的ではありません。

どのスキームでも共通するのは、「保証を外すかどうかを決めるのは金融機関である」という点です。売り手と買い手の間だけで合意しても、金融機関が応じなければ保証は残ります。契約書に何を書くかと同じくらい、金融機関との協議をいつ・どう進めるかが重要になります。

個人保証を解除するための進め方

保証解除は、思い付いたタイミングで金融機関に相談すればよいというものではありません。M&Aのプロセスに合わせて、順序立てて進めるのが実務的です。M&A全体の流れはM&Aによる会社売却の流れを前提に読み進めてください。

ステップ1:借入と保証の棚卸し

まず、自社の借入と保証の全体像を紙に落とします。ここが曖昧なままでは、買い手にも金融機関にも説明ができません。棚卸しの項目は次のとおりです。

棚卸し項目確認する内容確認先・資料
借入先取引金融機関の一覧(メイン行・準メイン行・信用金庫・政府系など)残高証明書、返済予定表
残高・条件借入残高、金利、返済期間、返済方法、期限の利益喪失事由金銭消費貸借契約書
保証の有無と範囲どの借入に保証が付いているか、特定債務か根保証か、極度額はいくらか保証契約書
保証人経営者本人のほか、配偶者・親族・役員が保証人になっていないか保証契約書、登記情報
担保会社資産・個人資産のどれに抵当権が設定されているか、順位はどうか不動産登記事項証明書
信用保証協会の関与保証協会付き融資が含まれているか、その残高はいくらか返済予定表、金融機関への確認
リース・その他リース契約や取引先との取引に個人保証が付いていないかリース契約書、取引基本契約書

見落としが多いのは、借入以外に付いている保証です。オフィスや店舗の賃貸借契約、リース契約、仕入先との取引基本契約などにも、代表者個人の連帯保証が付いていることがあります。これらも合わせて洗い出しておくと、クロージング後に「これも残っていた」という事態を減らせます。売却前の課題洗い出しの進め方はセルサイドDDと売却前の磨き上げも参考になります。

ステップ2:買い手・金融機関との三者調整のタイミング

保証の解除は、売り手・買い手・金融機関の三者が関わる論点です。相談が早すぎると情報漏えいのリスクがあり、遅すぎるとクロージングに間に合いません。一般的な進め方の目安を示すと次のようになります。

フェーズ保証まわりでやること留意点
検討初期(買い手探索の前)自社の借入・保証を棚卸しし、解除のハードルを自分なりに把握するこの段階では金融機関に具体名を出す必要はない。一般論としての相談にとどめる方法もある
買い手候補との交渉中保証の存在と残高を買い手に開示し、解除を前提に条件を話し合う秘密保持契約の締結後に開示するのが一般的
基本合意(LOI/MOU)前後基本合意書に「経営者保証の解除に努める」旨や、解除を最終契約の前提とする方針を記載する基本合意の書き方は案件ごとに異なる
デューデリジェンス期間買い手の信用力・資金計画を踏まえ、金融機関へ打診を始める誰が・どの順番で金融機関に話すかを買い手とすり合わせる
最終契約の交渉保証解除をクロージング条件(前提条件)とするか、努力義務にとどめるかを詰める金融機関の回答が出ていない段階で条件を確定させないよう注意
クロージング決済と同時に保証解除・保証人交代の書面を取り交わす抵当権の抹消が必要な場合は登記手続の段取りも必要

金融機関に伝える時期は悩ましいところです。メインバンクに早く相談すれば協力を得やすい一方、社内外に話が伝わるリスクもあります。一般には、買い手がある程度絞られ、基本合意に近づいた段階で、売り手と買い手が歩調を合わせて相談するケースが多いとされます。基本合意書の位置づけは基本合意書(LOI)の書き方を参照してください。

ステップ3:クロージング条件として最終契約に織り込む

保証解除を確実に近づける方法として、最終契約(株式譲渡契約など)に「クロージングの前提条件」として書き込むという考え方があります。前提条件が満たされなければクロージングを実行しない、という建て付けです。株式譲渡契約の主な条項は株式譲渡契約書の要点で整理しています。

ただし、ここには実務的なジレンマがあります。金融機関は、株主が実際に交代し、新体制が固まってから解除を判断したいと考えることがある一方、売り手は解除が決まってからでなければ株式を渡したくない、という順序の問題です。実務では、次のような組み合わせで折り合いをつけることがあります。

  • クロージング前に金融機関から解除の内諾(同意見込みの回答)を得て、クロージング日に正式な書面を取り交わす
  • クロージング後の一定期間内に解除手続を完了させることを買い手の義務として定め、期限を切る
  • 解除が完了するまでの間に旧オーナーが請求を受けた場合に備え、買い手が補償する条項を置く
  • 解除されないまま一定期間が経過した場合の対応(借り換えの実施など)をあらかじめ定めておく

どの建て付けが適切かは、金融機関の姿勢、買い手の信用力、借入残高と売却代金のバランスによって変わります。条項の具体的な文言は、必ず弁護士に確認してください。

ステップ4:解除されない場合の代替策

金融機関が保証の解除に応じないケースもあります。その場合に検討される代替策を整理すると次のとおりです。いずれも一長一短があり、案件の状況に応じて組み合わせて使います。

代替策内容メリット留意点
買い手による免責的債務引受会社の借入や保証債務を買い手側が引き受け、旧オーナーを債務から解放する形旧オーナーの責任が切れる形にできる債権者(金融機関)の承諾が前提。買い手の信用力が問われる
借入の借り換え買い手が別の金融機関などから資金を調達し、既存借入を返済する既存借入が消えれば、それに紐づく保証も役目を終える買い手の資金調達力次第。金利や条件が変わることがある
売却代金からの一括返済株式譲渡代金や事業譲渡代金を原資に、会社の借入を返済する確実性が高く、手続もシンプルになりやすい手取りが大きく減る。株式譲渡では代金は個人に入るため、資金の流れの設計が必要
返済原資の確保・預金の留保一定額を返済用に確保しておき、金融機関の懸念を和らげる解除の判断材料になり得る資金が拘束される。会社に残す場合は買い手との価格交渉に影響
補償条項(買い手による補償)解除までの間に旧オーナーが請求を受けた場合、買い手が補償する旨を契約に定める契約上のリスク配分を明確にできる金融機関に対する関係では保証人のままであり、買い手の支払能力に依存する
分割払い・エスクローとの組み合わせ代金の一部を留保し、保証解除の完了と紐づける買い手に手続を進める動機付けができる売り手の資金回収が遅れる。仕組みが複雑になる
補償条項はあくまで売り手と買い手の間の取り決めです。金融機関との関係では保証人であり続けるため、「契約に書いたから安心」とは言い切れません。最終的なリスクの所在を弁護士に確認したうえで、どこまで許容するかを判断してください。

経営者保証に関するガイドラインという枠組み

経営者保証の見直しについては、「経営者保証に関するガイドライン」という自主的なルールが公表されています。これは法的な拘束力を持つ法令ではなく、関係者の自主的なルールという位置づけとされており、金融機関や中小企業が自発的に尊重し遵守することが期待されているものです。したがって、要件に当てはまれば必ず保証が外れる、というものではありません。

また、事業承継の場面での取り扱いについても、ガイドラインを補う形の考え方が示されています。一般に、前経営者と後継者の双方から重ねて保証を求めること(いわゆる二重徴求)は避けることが望ましいという方向性が示されているとされますが、個別の融資でどう扱うかは金融機関の判断です。

本稿では、ガイドラインの条項を逐一引用したり、「この条件を満たせば解除される」と断定したりすることは避けます。実際の適用可否は、取引金融機関に直接確認するのが確実です。事業承継に関する公的な支援制度の全体像はM&A・事業承継の公的支援で整理しています。

金融機関が見ていると言われる観点

保証を外せるかどうかは金融機関の判断ですが、一般に重視されるとされる観点はある程度共通しています。売り手として準備できることを考えるうえで、押さえておく価値があります。

観点見られている内容売り手側でできること
法人と個人の資産・経理の分離会社の資金が私的に使われていないか、役員貸付・役員借入金が過大でないか、社宅や車両の扱いが整理されているか私的経費を整理し、役員貸付があれば清算の道筋を付ける
財務基盤利益が安定して出ているか、自己資本は十分か、返済原資(キャッシュフロー)が確保されているか無理のない返済計画を示せるよう、月次の資金繰り表を整える
情報開示の姿勢決算書だけでなく、月次試算表や事業計画を継続的に開示しているか、質問への回答が的確か普段から定期的に業績を報告し、悪い情報も早めに共有する
買い手の信用力買い手(新オーナー)の財務内容、事業の継続性、取引実績、グループとしての支援姿勢買い手選定の段階で、金融機関から見た信用力も評価軸に入れる
承継後の経営体制誰が経営を担うのか、旧オーナーの引継ぎ期間はどの程度か、キーパーソンは残るのか引継ぎ計画を具体的に示し、急激な体制変更を避ける

このうち「法人と個人の分離」と「情報開示」は、M&Aを決めてから数か月で整えるのが難しい項目です。売却の1〜3年前から取り組んでおくほど有利になりやすく、この点は売却タイミングの判断とも重なります。詳しくは会社を売却するタイミングを参照してください。

売却価格・手取りとの関係

保証の解除は、価格や手取りと切り離して考えることができません。保証を外すために借入を返済すれば、その分だけ手元に残る金額は減ります。ここを見落とすと、「価格には合意したのに、思ったほど残らなかった」ということになりかねません。

借入返済と手取りの関係

株式譲渡では、譲渡代金は会社ではなく株主個人に支払われます。したがって、会社の借入を返済する原資は原則として会社のキャッシュフローであり、譲渡代金をそのまま返済に充てる場合は、いったん個人が受け取った資金を会社に入れる形になり、税務上の整理が必要になります。ここは設計を誤ると余計な負担が生じ得るため、税理士に相談しながら進めるのが安全です。

また、価格の考え方としても、借入が多い会社は株式価値がその分小さくなるのが一般的です。事業価値から有利子負債を差し引いた残りが株式価値になるという関係があるためで、相場観の考え方は会社売却の相場はいくらかで整理しています。譲渡代金から税金・手数料を引いた手取りの目安は株式譲渡の手取り計算ツールで試算できます。実際の税額は取得費や個別の事情で変わるため、最終的には税理士に確認してください。

役員借入金・役員貸付金の清算

中小企業では、社長が会社に貸し付けている「役員借入金」や、逆に会社が社長に貸している「役員貸付金」が残っていることがよくあります。これらは保証の解除とも、価格交渉とも関係します。

  • 役員借入金(社長→会社):会社にとっては負債ですが、実質的に返済を求められない資本に近い性格として扱われることもあります。M&Aでは、クロージング前に返済するのか、債権放棄するのか、買い手に引き継ぐのかを決める必要があります。処理によって税務上の影響が生じ得るため、税理士への確認が必要です。
  • 役員貸付金(会社→社長):買い手からは「回収可能性が不明な資産」と見られやすく、価格の減額要因になりやすい項目です。金融機関から見ても、法人と個人の分離ができていないサインと受け取られる可能性があります。クロージングまでに清算しておくのが望ましいとされます。
  • 非事業用資産:社長個人が使っている車両、保険、別荘などが会社名義で残っている場合も、あらかじめ扱いを決めておくと交渉がスムーズになります。

譲渡に伴う税務の全体像は事業承継・M&Aの税制もあわせてご覧ください。

事前にできる準備

保証解除の可否は最終的に金融機関の判断ですが、売り手側で準備できることは少なくありません。売却を意識し始めた段階から、次の項目に手を付けておくと、交渉の選択肢が広がります。

準備項目具体的な内容着手の目安
法人と個人のけじめ私的経費の混在をなくす。役員貸付を清算する。社宅・車両の扱いを整理する1〜3年前
決算書の整備実態に合った資産評価、在庫・売掛金の精査、簿外債務の有無の確認1〜2年前
資金繰りの見える化月次試算表と資金繰り表を継続的に作成し、返済原資を説明できる状態にする1〜2年前
金融機関との対話定期的に業績を報告し、将来の承継の考え方も含めて相談できる関係を作る常時
保証内容の確認保証契約書を取り寄せ、範囲・極度額・担保を一覧化する検討開始時
借入の圧縮不要な借入を返済し、残高を減らしておく可能な範囲で継続的に
買い手選定の視点価格だけでなく、金融機関から見た買い手の信用力も評価軸に入れる買い手探索時
専門家の体制弁護士・税理士・仲介やFAと、保証の論点を早い段階で共有しておく検討開始時

後継者が不在で第三者への承継を検討している場合、保証の問題は「そもそも承継できるか」を左右する要素にもなります。選択肢の整理は後継者不在の会社の選択肢を参照してください。なお、廃業を選ぶ場合でも借入と保証の処理は避けて通れません。黒字のまま廃業する場合の論点は黒字廃業で整理しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 個人保証のことは、いつ金融機関に伝えるべきですか?

A. 一律の正解はありませんが、実務では、買い手候補がある程度絞られ、基本合意に近づいた段階で、売り手と買い手が歩調を合わせて相談するケースが多いとされます。早すぎると情報が広がるリスクがあり、遅すぎるとクロージングまでに手続が間に合わないおそれがあります。日頃から業績を報告している取引金融機関であれば、一般論として「将来の承継を考えている」と伝えておき、具体的な相談は案件が固まってから、という進め方もあります。誰がどの順番で話すかは、買い手やアドバイザーと事前にすり合わせておくことをおすすめします。

Q. 買い手が保証を引き継いでくれない場合はどうなりますか?

A. 買い手が個人保証を差し入れることに難色を示すケースはあります。特に、事業会社が買い手の場合は「代表者個人ではなく法人として保証する」形を希望することもありますし、そもそも保証を出さない方針の買い手もいます。この場合に検討されるのは、借入の借り換え、売却代金からの一括返済、法人としての保証や親会社の支援表明、あるいは補償条項の設定などです。どの方法が取れるかは、借入残高、買い手の信用力、金融機関の姿勢によって変わります。買い手を選ぶ段階から、保証の扱いを条件のひとつとして確認しておくと、後戻りを減らせます。

Q. 担保に入れている自宅はどうなりますか?

A. 保証契約の解除と、不動産に設定された抵当権の抹消は別の手続です。保証が外れても抵当権が残ったままであれば、担保としての負担は続きます。一般には、被担保債権が完済されるか、金融機関が担保の差し替えなどに応じることで抹消の手続に進みます。売却の交渉に入る前に、登記事項証明書で誰の名義のどの物件にどの順位で設定されているかを確認しておき、抹消の見通しを金融機関に確認しておくことが大切です。ご家族の生活にも直結する論点ですので、弁護士・司法書士にも相談しながら進めてください。

Q. 連帯保証と根保証はどう違いますか?

A. 連帯保証は「保証人が主債務者と連帯して責任を負う」という責任の重さに関する区分で、根保証は「一定の範囲に属する不特定の債務をまとめて保証する」という保証の対象範囲に関する区分です。両者は排他的なものではなく、連帯保証かつ根保証という契約もあります。根保証の場合、個別の借入を完済しても契約自体が残っていれば将来の借入まで対象になり得るため、M&Aでは「契約そのものを終了させる」手続まで確認する必要があります。極度額や元本確定に関する定めがどうなっているかを含め、契約書を弁護士に確認してもらうのが確実です。

Q. 「保証を解除する」と最終契約に確約として書けますか?

A. 売り手と買い手の間で「解除に向けて努力する」「解除をクロージングの前提条件とする」といった定めを置くことは実務上あります。ただし、解除するかどうかを決めるのは契約当事者ではない金融機関であるため、買い手が「必ず解除させる」と約束することには限界があります。そのため、前提条件とする方法、期限を切って義務化する方法、解除されるまでの補償を定める方法などを組み合わせて設計するのが一般的です。条項の具体的な文言と、その効果については必ず弁護士に確認してください。

Q. 保証が外れるまで、どのくらいの期間がかかりますか?

A. 案件によって幅があり、一概には言えません。金融機関の内部での検討、買い手の信用調査、稟議の手続などが必要になるため、相談を始めてから結論が出るまでに一定の期間を見ておく必要があります。借入先が複数ある場合は、金融機関ごとに判断が異なり、足並みがそろわないこともあります。信用保証協会が関与している場合はさらに関係者が増えます。クロージング直前に慌てて相談すると間に合わないおそれがあるため、デューデリジェンスと並行して動き始めるのが安全です。具体的な所要期間の見込みは、取引金融機関に直接確認してください。

まとめ

M&Aで会社を売却しても、社長の個人保証が自動的に外れるわけではありません。特に株式譲渡では、借入は会社に残り、保証契約は経営者個人と金融機関の間に残るため、解除には金融機関の同意が必要になるのが一般的です。事業譲渡では借入が原則として売り手法人に残り、会社分割や合併でも保証の扱いは金融機関との個別協議になります。

進め方としては、①借入と保証の棚卸し、②買い手・金融機関との三者調整、③最終契約への織り込み、④解除されない場合の代替策の準備、という順に整理するとぶれません。金融機関は、法人と個人の分離、財務基盤、情報開示の姿勢、買い手の信用力といった点を見ているとされ、これらは短期間では整えにくいものです。売却を考え始めた段階から、私的経費の整理や役員貸付の清算、月次の資金繰りの見える化に着手しておくことが、結果的に選択肢を広げます。

そして、保証を外すために借入を返済すれば手取りは減ります。保証の整理と手取りの見込みは、必ずセットで考えてください。なお、保証の解除に関する判断はすべて金融機関によるものであり、契約の効力や税務の取り扱いは個別の事情で変わります。実行にあたっては、弁護士・税理士・取引金融機関に必ずご確認ください。

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