DLOM(非流動性ディスカウント)計算ツール

非上場株式に市場性がないことを理由とする減価=DLOM(非流動性ディスカウント)を、オプション型の2つのモデルから下限〜上限のレンジで計算します。あえて「答えは何%」という単一の数字を出しません。理由は下で説明します。入力した数値はブラウザ内で計算され、サーバーに送信されません。

想定保有期間とボラティリティなどを入力すると、オプション型の2つのモデルから非流動性ディスカウント(DLOM)の目安をレンジで計算します。入力した数値はブラウザ内で計算され、どこにも送信されません。

DLOMの目安(レンジ)

下限の目安(ヨーロピアン・プット型)

24.4%

「売る権利」を確保しておく費用として見た場合。参考資料はこの型が最小値を与えると説明しています。

上限の目安(ルックバック・プット型)

68.4%

「いちばん高い時に売れたはず」の損失として見た場合。参考資料はこの型が上限を導くと説明しています。

適用するDLOM割引率割引後の株式価値
下限の目安を当てた場合24.4%2億2,694万円
上限の目安を当てた場合68.4%9,487万円

同じ会社でも、どちらのモデルを当てるかで結論はこれだけ動きます。DLOMは「一律で何%」と決め打ちできるものではなく、前提とその根拠を残せるかどうかが実務上の分かれ目になります。

前提を動かしたときの感応度

上段が下限の目安、下段(かっこ内)が上限の目安。無リスク利子率・配当利回りは入力値のままです。

ボラティリティ\保有期間1235
20%7%17%10%25%11%31%14%41%
30%11%26%15%39%18%49%22%66%
40%15%36%20%54%24%68%30%94%
50%19%47%26%70%31%90%37%125%
60%23%58%31%88%37%114%44%160%

オレンジ色は上限の目安が100%以上になった組み合わせです。前提の置き方しだいで計算上は容易に非現実的な水準に達することが分かります。

なぜ「一律30%」と出さないのか

日本の実務では、非上場株式の評価でDLOMを「だいたい30%」と置く場面をよく見かけます。しかし、この数字の出どころをたどると、根拠として引かれるのは米国の「制限付株式研究(restricted stock studies)」と呼ばれる実証研究群であることがほとんどです。

その研究群を一覧にまとめた公開資料があります。米国内国歳入庁(IRS)が評価担当者向けに作成した参考資料「Discount for Lack of Marketability — Job Aid for IRS Valuation Professionals」(2009年9月25日)です。この資料自身が「IRSの公式見解ではなく、法的権威として引用できるものではない」と注記している点は先にお断りしておきます。そのうえで、同資料には研究ごとの平均割引率が文献名つきで並んでおり、そこから読み取れることが2つあります。

1つめは、割引率が時代とともに明確に下がっていることです。1966年から1969年を対象とした古い研究では25.8%だったのに対し、1997年5月から1998年12月を対象とした研究では13.0%まで下がっています。同資料はその理由として、米国の証券規制(Rule 144)における保有期間の要件が2年から1年に短縮されたことを挙げています。つまり「売れるようになるまでの期間」が短くなれば割引も小さくなる、という関係です。日本でよく引かれる30%台は、比較的古い時期の研究の水準だということになります。

2つめは、同資料が研究全体の幅を「13%程度から40%台半ばまで」と総括し、特定の率を選び取ること(bright line selections)はしないと明言していることです。さらに、分析者は他人がまとめた要約統計をそのまま使うのではなく、その数字の背後にあるデータまで踏み込むべきだとも述べています。本ツールが単一の率を出さないのは、この立場に合わせているためです。

2つのモデルが「下限」と「上限」を出す

本ツールが使っているのは、同資料が「証券ベースの手法」として整理しているオプション型の2つのモデルです。どちらも、株式そのものではなく「売れないこと」の対価をオプションの価格に置き換えて測るという発想で共通しています。

下限側:ヨーロピアン・プット型

いま売れない株式を持っている人が、値下がりの不安を消すには「決まった価格で売る権利(プット・オプション)」を買えばよい、という考え方です。権利行使価格を現在の株価と同じに置いたプットの価格を、株価に対する比率で表したものをDLOMとみなします。前掲の資料は、この型が最小値(minimum)を与えると説明しています。保有期間に加えて無リスク利子率と配当利回りが結果に効きます。

上限側:ルックバック・プット型

こちらは「保有期間のうちいちばん高い価格で売れたはずなのに、売れなかった」という機会損失として測る考え方です。完璧な売り時を逃した損失なので、必然的に大きな値になります。前掲の資料はこの型が上限(upper bound)を導くものであり、ボラティリティが高い前提では現実的でない結果を出しうると注意しています。

実際、上のツールでボラティリティを70%・保有期間を5年にしてみてください。上限の目安は100%を大きく超えます。株式の価値がゼロ以下になる計算であり、そのまま使える数字ではありません。モデルが出した数字をそのまま採用してはいけないことが、数字自体から分かる作りにしてあります。

日本では「どの手続で評価するか」で結論が変わる

ここは実務上とても重要なので、正確に書きます。日本の最高裁には、DLOMの可否について結論の異なる2つの決定があります。矛盾しているのではなく、対象となる手続と算定手法が違うのです。

決定手続DLOMの可否
最高裁第一小法廷
平成27年3月26日決定
民集69巻2号365頁
会社法785条1項にもとづく反対株主の株式買取請求で、裁判所が収益還元法を用いて買取価格を決定する場合できない
最高裁第三小法廷
令和5年5月24日決定
集民270号113頁
会社法144条2項にもとづく譲渡制限株式の売買価格の決定で、裁判所がDCF法によって算定された評価額を基礎とする場合できる(評価額の算定過程で市場性のないことが考慮されていることがうかがわれない等の事情のもとで)

令和5年決定の裁判要旨は、算定過程ですでに市場性のないことが考慮されているかどうかを問題にしています。裏を返せば、割引率の側で非流動性をすでに織り込んでいるのなら、そこからさらにDLOMを引くのは二重の減価になるということです。これは実務でもっとも起こりやすい誤りなので、DLOMを当てる前に「自分の算定のどこかで、すでに同じ要素を見ていないか」を必ず確認してください。割引率側の考え方はWACC・株主資本コスト計算ツールで確認できます。

なお、この2件はいずれも裁判所が価格を決める手続についての判断です。当事者どうしが交渉して値段を決めるM&Aの場面に、そのまま当てはまるわけではありません。また、相続税・贈与税の「取引相場のない株式の評価」は財産評価基本通達にもとづく別の体系であり、目的が異なります。個別の判断は弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。

当局が割引率を公開している例もある

英国歳入関税庁(HMRC)は「Shares and Assets Valuation Manual」を一般に公開しており、そのなかで過去の裁判例で実際に適用された割引率を紹介しています。少数持分について40%・45%・65%、支配持分について12.5%、支配権プレミアムとして30%といった具体的な数字が並びます。従業員向け株式制度に関する説明では、類似上場会社のPERを60〜65%割り引いて非上場の少数持分の価格を導く計算例まで示されています。

ただし同マニュアルは、少数持分割引や市場性の欠如に関する裁判例の判断は法的な拘束力を持つものではないとも明記しています。当局が数字を出しながら「これは標準値ではない」と釘を刺している構図です。実際、同マニュアルには保有比率ごとの割引率の一覧表がかつて掲載されていましたが、業界標準と誤解されたため削除されたと説明されています。日本で「実務上30%」と語られるときの危うさも、これと同じ性質のものです。

結局、何を残せばよいのか

前掲のIRS資料は、米国の裁判例(1995年のMandelbaum事件)が示した10の判断要素を紹介したうえで、裁判所が重視してきたのは定量的な結果そのものではなく、そこに至るプロセスであると述べています。売買実績、財務内容、配当政策、経営陣、支配持分かどうか、譲渡制限、保有期間、買戻しの方針、売却コストといった要素を、その会社について順に検討した記録が残っているか。問われるのはそこだ、ということです。

したがって実務での使い方はこうなります。まず、想定保有期間とボラティリティをなぜその水準に置いたのかを説明できる形で決める。次に本ツールでレンジを出す。そのうえで、会社の個別事情(譲渡制限の強さ、買い手の見つけやすさ、配当の有無、株主間契約の有無)を踏まえてレンジのどのあたりを採るかを決め、その判断を文章で残す。一点の数字だけを示すより、この手順を踏んだ記録のほうがはるかに強い、ということです。

よくある質問

ボラティリティはどう決めればよいですか

非上場会社には株価がないため、事業内容が似た上場会社の株価変動率から置くのが一般的です。類似会社の選び方は類似会社比較法の考え方と同じで、業種・規模・収益構造の近さを見ます。数字は目安であり、選んだ会社によって結果は変わります。

想定保有期間は何年にすべきですか

「その株式が売れる状態になるまでに、どれくらいかかりそうか」で考えます。買い手を探すところから始めるのであれば、会社売却の流れに要する期間が目安になります。前掲の制限付株式研究で割引率が下がった理由が保有期間の短縮だったことからも分かるとおり、この前提が結果に最も強く効きます。

支配権プレミアムとは別物ですか

別物です。DLOMは「売りたいときに売れないこと」による減価、コントロール・プレミアムは「会社を支配できること」による増価で、着目している性質が違います。ただし両方を機械的に重ねると二重計上になりやすいので、どの段階でどちらを当てるのかを決めてから計算してください。

M&Aの交渉価格にもそのまま使えますか

そのままでは使いにくい場面が多いと考えてください。会社をまるごと売買するM&Aでは、買い手は支配権を取得しますし、売り手も「売れないから安くなる」状況とは限りません。DLOMが効きやすいのは、少数持分の売買や、株主間の買い取り、評価書を作る場面です。株価算定書が必要な場面もあわせてご覧ください。

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※ 本ツールは公開資料で説明されているモデルを単純化して実装した概算です。出力される率はいずれも目安であり、特定の水準を推奨するものではありません。引用した米国内国歳入庁の資料は評価担当者向けの参考資料であって同庁の公式見解ではなく、法的権威として引用できるものではない旨が資料自身に明記されています。税務・会計・法務の判断は必ず専門家にご確認ください。

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