株価算定書はどんなときに必要? 場面別に求められる水準と、依頼先・費用の考え方

最終更新: 2026-09-12

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「株価算定書が必要だと言われたのですが、どこに頼めばよいですか」という相談は珍しくありません。ところが話をうかがっていくと、必要とされている書面の性格が案件によってまったく違うことがよくあります。社内で価格の目線を合わせたいだけの段階もあれば、税務署や裁判所に提出する前提の資料が求められている場面もあります。前者であれば自社で作った試算表で足りますが、後者を自己算定で済ませると、あとから根拠として通用せずやり直しになりかねません。本稿では、株価算定が必要になる代表的な8つの場面を並べ、それぞれで求められる水準、誰が作るのが一般的か、使われる評価手法、注意点を切り分けて整理します。あわせて、依頼先ごとの費用・期間・第三者性の違いと、自己算定で足りる線引きも扱います。

「株価算定」と一口に言っても、求められる厳密さは目的で変わる

株式の価値を求める行為はどれも「株価算定」と呼ばれますが、その成果物に期待される役割は目的によって大きく異なります。実務上は、次の3つの水準に分けて考えると整理しやすくなります。

水準成果物の性格誰に見せるか典型的な場面
水準1:目線合わせレンジと前提が分かればよい。社内の検討材料自社の担当者・経営陣(内々の検討)売却や買収を検討し始めた段階、初期の価格交渉
水準2:説明できる根拠第三者が計算過程を追え、前提の出典が明記されている取締役会・監査役・金融機関・取引の相手方稟議・取締役会、株主への説明、融資審査の補足
水準3:外部に耐える証拠独立した立場の専門家が、責任を持って結論を示す税務当局・裁判所・少数株主・監査法人税務申告、紛争、利益相反のある取引、上場会社の開示

重要なのは、水準3が常に望ましいわけではないという点です。水準3の書面は費用も期間も相応にかかるため、水準1で足りる場面にまで持ち込むと、意思決定が遅れ、費用も無駄になります。逆に、水準3が求められる場面で水準1の資料を出すと、根拠として採用されないだけでなく、判断の過程がずさんだったと評価されるおそれもあります。まず自分の案件がどの水準にあるかを見極めることが、依頼先選びよりも先に来る作業です。

本稿の分類は実務上の一般的な整理であり、法令で定められた区分ではありません。個別の取引でどの水準が必要かは、会社の規程、取引の性質、関係者の構成によって変わります。税務上の取扱いは税理士、法的な要否は弁護士にご確認ください。

場面別:どの水準の算定が必要か(一覧表)

代表的な8つの場面について、求められる水準、作成者、使われる評価手法、注意点を並べます。自分の案件に近い行を探して、そこから読み進めていただくのがよいでしょう。

場面求められる水準誰が作るのが一般的か使われる評価手法注意点
① M&Aの価格交渉の目線合わせ水準1(社内検討)自社の財務担当、M&Aアドバイザー、評価ツール類似会社比較法、年買法、DCF法(簡易)相手に提示する数字ではなく、自分の許容範囲を知るための資料と割り切る
② 社内の稟議・取締役会水準2(説明できる根拠)自社の財務担当、または外部の評価者DCF法(主)+類似会社比較法・純資産法(検証)前提の出典と感応度を明記し、提示価格がレンジのどこかを示す
③ 少数株主からの買取・自己株式の取得水準2〜3(相手・金額による)公認会計士・評価専門機関(争いが想定される場合)収益方式・純資産方式・配当還元方式の併用支配株主と少数株主で妥当な価格観が異なる。利益相反に注意
④ 従業員持株会・ストックオプションの発行価額水準2〜3(制度設計による)税理士・公認会計士(税務上の取扱いと一体で検討)配当還元方式、純資産方式、税務上の評価基準発行価額が低すぎると課税上の論点になりうる。事前に税理士へ
⑤ 相続・贈与の税務水準3(申告の根拠)税理士(税務代理は税理士の独占業務)財産評価基本通達に基づく類似業種比準・純資産価額・配当還元M&Aの時価とは考え方が別物。通達に沿った計算が原則
⑥ 第三者割当増資水準2〜3(既存株主の希薄化の程度による)公認会計士・評価専門機関、VC投資では投資家との交渉DCF法、類似会社比較法、直近取引価格の参照有利発行に当たらないかの検討が必要。手続の要否は弁護士に確認
⑦ 組織再編(合併・株式交換・会社分割)水準3(比率の合理性を説明)公認会計士・評価専門機関複数手法の併用と、当事会社間の比率算定反対株主の株式買取請求に備え、比率の根拠を残す
⑧ 裁判・紛争水準3(証拠としての耐久性)独立した評価専門家(鑑定意見を作成できる者)収益方式・純資産方式・比較方式の併用と、相手方主張への反論前提の一つひとつが争点になる。早い段階で弁護士と方針を決める

① M&Aの価格交渉の目線合わせ

売却や買収を検討し始めた段階で最初に知りたいのは、「だいたいいくらの世界の話なのか」です。この段階では、精緻な算定書よりも、複数の手法でレンジを出して桁を掴むことのほうが役に立ちます。相手に提示するための書面ではなく、自分が交渉のどこで降りるかを決めるための材料だからです。非上場株式でよく使われる手法の全体像は非上場株式の評価方法で整理しています。

この段階で外部に本格的な算定を依頼すると、案件が成立しなかった場合に費用だけが残ります。まずは自社または評価ツールで一次算定を行い、交渉が具体化してから水準を上げていくのが合理的です。相手から提示された価格が妥当か確かめたい場合は、提示価格のセカンドオピニオンという選択肢もあります。

② 社内の稟議・取締役会

買収や出資を社内で通す段階になると、求められる水準が一段上がります。決裁者や監査役は評価の専門家ではないため、結論の金額よりも「どういう筋道でその金額になったのか」を見ます。前提となる事業計画の出所、割引率の構成要素と出典、類似会社の選定基準、感応度分析の結果までが揃っていて、はじめて説明できる資料になります。稟議に使う算定書の構成や決裁者が見るポイントは稟議に使える株価算定書の作り方で詳しく解説しています。

この場面では、必ずしも外部の第三者に依頼しなければならないわけではありません。社内で作成した算定書でも、作成者・依拠資料・前提条件・第三者の検証を受けていない旨を明記していれば、決裁資料として使われている例は多くあります。提示価格の妥当性を社内で多角的に検証する手順は買収価格の妥当性を社内で検証する方法が参考になります。

③ 少数株主からの買取・自己株式の取得

創業から時間が経った会社では、退職した役員や取引先、親族などに少数株式が分散していることがあります。これを会社や支配株主が買い取る場面では、買い手と売り手の間に構造的な利害の対立があります。会社が自社の株式を取得する自己株式の取得では、財源規制や手続の要件もあわせて確認が必要です。

価格については、支配権を持たない少数株式であることをどう反映するかが論点になります。支配株主が取得する場合と、少数株主同士でやり取りする場合とでは、妥当とされる価格観が異なります。支配権に伴う上乗せの考え方はコントロールプレミアム、換金しにくいことによる割引は非流動性ディスカウント(DLOM)を参照してください。相手方との間で価格に争いが生じそうな場合は、早い段階で独立した第三者の算定を取り、あわせて弁護士に手続面を確認しておくのが安全です。

④ 従業員持株会・ストックオプションの発行価額

従業員持株会に株式を譲渡する場合や、ストックオプションを発行する場合、その価額をいくらに設定するかは制度設計の中心的な論点です。価額が低すぎると、受け取った側に経済的利益が生じたとみなされ課税上の論点になりうるため、税務上の取扱いと一体で検討する必要があります。逆に高すぎると、制度としてのインセンティブ効果が薄れます。

この場面では、M&Aの時価をそのまま使うのではなく、税務上の評価基準に沿った価額が用いられることが一般的です。制度設計の段階から税理士に相談し、発行価額の根拠を書面で残しておくことをおすすめします。

⑤ 相続・贈与の税務

相続や贈与で非上場株式を移転する場合の評価は、他の場面とはっきり性格が異なります。詳しくは次の章で扱いますが、ここで押さえておきたいのは、税務目的の評価は原則として財産評価基本通達という定められたルールに沿って計算するものであり、M&Aで使う時価の算定とは出発点から違うということです。事業承継に伴う株価の考え方は事業承継の株価算定で整理しています。

⑥ 第三者割当増資

新株を特定の相手に割り当てる第三者割当増資では、発行価額が既存株主にとって不利に低い水準でないかが問題になります。いわゆる有利発行に該当する場合には、株主総会の特別決議など追加の手続が必要とされており、価額の合理性を説明できる資料が求められます。既存株主の持分がどれだけ薄まるかは希薄化(ダイリューション)で確認できます。

ベンチャー企業の資金調達のように、投資家との交渉で価額が決まる場面もあります。この場合は独立した投資家との交渉価格そのものが一定の合理性を持つと考えられますが、既存株主や役員が引受先に含まれるときは、利益相反の観点から第三者の算定を取っておくほうが無難です。手続の要否は弁護士に確認してください。

⑦ 組織再編(合併・株式交換・会社分割)

合併株式交換会社分割では、当事会社それぞれの価値を算定したうえで、交付する株式の比率を決めます。比率が一方に有利であれば、他方の株主が不利益を被るため、比率の根拠を第三者の算定で裏づけるのが一般的です。反対株主から株式買取請求が出る可能性も踏まえ、算定の過程を記録に残しておく必要があります。

⑧ 裁判・紛争

株式買取請求や株主間の争いが裁判に持ち込まれた場合、株価算定書は証拠として扱われます。この場面では、結論の金額よりも、前提の一つひとつがどれだけ堅牢かが問われます。事業計画の作成者は誰か、割引率のパラメータの出典は何か、類似会社をなぜその5社にしたのか——相手方はこうした点を個別に突いてきます。訴訟を見据えるなら、評価の専門家と弁護士が早い段階から方針をすり合わせておくことが不可欠です。

税務目的の評価は「別物」だと理解しておく

場面別の整理で最も誤解が多いのが、税務目的の評価とM&Aの時価の関係です。両者は同じ「株価」という言葉を使いますが、目的も計算方法も違います。

比較項目相続税・贈与税の評価M&Aの企業価値評価
目的課税価格を公平・画一的に算定する取引の当事者が納得できる価格の目安を示す
拠りどころ財産評価基本通達などの定められたルールファイナンス理論に基づく評価実務(法定の様式はない)
主な手法類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式DCF法、類似会社比較法、時価純資産法など
将来性の扱い原則として過去の実績と資産をもとに計算する将来の収益力・シナジーを織り込むのが中心
結論の形原則として一つの金額幅のあるレンジで示すのが一般的
作成する専門家税理士(税務代理・税務書類の作成は税理士の独占業務)公認会計士、評価専門機関、M&Aアドバイザー等

たとえば、将来の成長が見込まれる会社では、M&Aの評価額が相続税評価額を大きく上回ることがあります。逆に、不動産などの含み益を多く抱えながら収益力が低い会社では、相続税評価額のほうが高くなることもあります。どちらかが「間違っている」のではなく、測っている対象が違うのです。この違いの詳しい解説と具体例は株価算定と税理士の役割(相続税評価とM&A評価の違い)をご覧ください。

税務上の株価評価や、税負担が生じるかどうかの判断は、個別の事情によって結論が変わります。本稿の記載は一般的な説明にとどまるため、実際の申告や取引にあたっては必ず税理士にご確認ください。

依頼先の比較:費用・期間・第三者性・使える場面

必要な水準が見えたら、次は依頼先の選択です。それぞれに得意な領域があり、費用と期間の相場も異なります。以下は一般的な傾向を整理したもので、金額はいずれも目安です。実際の費用は対象会社の規模や資料の整い具合で大きく変わります。

依頼先費用の目安期間の目安第三者性使える場面
税理士・税理士法人数十万円程度〜(税務評価。顧問契約に含まれる場合も)2週間〜1か月程度税務上の評価では標準的な担い手相続・贈与、持株会・ストックオプションの価額、事業承継の設計
公認会計士・評価専門機関数十万円〜数百万円程度(意見書を伴う場合はさらに)3週間〜2か月程度高い(独立性の確認を伴うことが多い)組織再編、少数株主対応、利益相反のある取引、裁判、開示
M&Aアドバイザー・仲介簡易査定は無料の例も/成功報酬に内包されることが多い数日〜2週間程度低い(取引の成立に利害を持つ)売却・買収の初期検討、相場観の把握、交渉戦略の立案
評価ツールでの自己算定無料〜数千円程度即日〜数日なし(自社で作成した資料)社内検討、交渉前の目線合わせ、外部依頼前の一次算定

依頼先の選び方をさらに詳しく比較したい場合は企業価値評価の依頼先、ツールを使う場合の比較軸は株価算定ツールの比較を参照してください。

なお、第三者性は「高ければよい」ものではありません。初期検討の段階でM&Aアドバイザーの相場観を聞くことには十分な価値がありますし、税務評価は税理士に依頼するのが自然です。必要な場面で必要な独立性を確保する、という発想で選ぶのが実務的です。

費用が変わる理由

同じ「株価算定書」でも見積金額が数倍違うことがあります。主な変動要因は次のとおりです。見積もりを比較するときは、以下の条件が揃っているかを確認すると、金額の差の理由が見えてきます。

  • 対象会社の規模と複雑さ:売上規模、事業セグメントの数、子会社や関連会社の有無、海外拠点の有無
  • 採用する手法の数:1手法だけか、2〜3手法を併用して相互に検証するか
  • 事業計画の有無と精度:計画がなければ作成の支援から必要になり、その分の工数が乗る
  • 意見書の要否:算定書に加えてフェアネスオピニオン等の意見書を求める場合、独立性の確認手続も含めて費用が大きく上がる
  • 期日:通常より短い納期を求める場合、割増になることがある
  • 資料の整い具合:試算表や固定資産台帳、契約書などがすぐ出せるかどうかで、質問対応の往復回数が変わる
  • 報告の形式:報告書の提出のみか、取締役会や株主説明の場での質疑対応まで含むか

費用を抑えたい場合、手法を減らす方向で削るのは避けたほうが無難です。複数手法の併用は結論の頑健性を支える部分だからです。削るなら、資料を整えて質問対応の往復を減らす、事業計画は自社で作る、必要のない意見書を外す、といった順で検討します。依頼先ごとの相場や見積もりの取り方は株価算定の費用相場で詳しく扱っています。

自己算定で足りる場面/足りない場面

「自分で作った資料でも通用するか」は、この記事で最も多い問いです。結論としては、通用する場面とそうでない場面がはっきり分かれます。

区分該当する場面理由
自己算定で足りることが多い売却・買収の初期検討、交渉に臨む前の上限・下限の把握、社内での事前検討、外部依頼前の一次算定資料の読み手が自社の中に限られ、第三者に対する証明が求められていないため
自己算定+開示で足りる場合がある稟議・取締役会(利益相反がなく、規模も過大でない案件)作成者・前提・検証の有無を明記すれば、検討の過程を示す資料として機能するため
第三者への依頼が必要相続・贈与などの税務、裁判・紛争、少数株主との争いが想定される買取、組織再編の比率、利益相反のある取引、上場会社の開示自社に有利な前提を置いた資料と見られる余地があり、独立した立場からの結論が求められるため

線引きの判断軸はシンプルで、「この資料に利害の対立する相手がいるか」です。相手がいなければ自己算定で足りますし、いるのであれば、その相手が納得できる独立性が必要になります。自分で計算する場合の手順は自分で企業価値を計算する方法にまとめています。

算定書には何が書かれているか、どこを読むか

受け取った算定書をどう読めばよいか分からない、という声もよく聞きます。株価算定書に法定の様式はありませんが、実務で使われる報告書はおおむね共通した項目を備えています。読む側としては、次のチェックポイントを押さえておけば要点を掴めます。

記載項目何が書かれているか読むときのチェックポイント
評価の目的と利用範囲何のための評価か、どの範囲で使ってよいか自分が使いたい用途と一致しているか。他目的への流用を禁じていないか
評価基準日いつ時点の価値を算定したか基準日以降に業績や財政状態の大きな変化がないか
前提条件・依拠資料使った資料の出所と、検証していない事項の範囲監査を受けていない試算表に依拠していないか。未検証事項が結論を左右しないか
採用手法と選定理由どの手法を使い、なぜその手法が適切と判断したか対象会社の性格(収益型か資産型か)と手法が合っているか
算定過程手法ごとの計算の流れと中間結果事業価値から株式価値への調整(有利子負債・非事業用資産等)が示されているか
感応度分析主要な前提を動かした場合の価値の振れ幅どの前提が崩れると結論が変わるか。振れ幅が許容できる範囲か
免責・利用上の制約算定書が保証していない事項第三者算定機関の意見書ではない旨、責任の範囲がどう書かれているか

とくに見落とされやすいのが、冒頭の「評価の目的と利用範囲」と末尾の「免責」です。社内検討のために作られた算定書を、そのまま税務や紛争の場に持ち込もうとすると、利用範囲の記載と矛盾してしまいます。手法の中身をもう少し理解したい場合はDCF法とは類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)時価純資産法とはを、3つのアプローチの位置づけは3つの評価アプローチの比較を、実際の報告書の読み進め方は評価レポートのサンプルと見方をご覧ください。事業価値と株式価値の関係は企業価値と株式価値の違いで整理しています。

よくある質問

株価算定書の作成は法律上の義務ですか?

すべての株式取引に算定書が義務づけられているわけではありません。ただし、組織再編や自己株式の取得、有利発行に該当しうる新株発行など、会社法上の手続が定められている場面では、価格や比率の合理性を説明できる資料が実務上ほぼ必須になります。また、義務でなくても、取締役の善管注意義務の観点から、一定金額以上の取得では算定書を残す運用にしている会社が多くあります。個別の案件で手続が必要かどうかは、弁護士に確認してください。

自分で作った資料でも通用しますか?

社内検討や初期交渉であれば十分に通用します。稟議や取締役会でも、作成者・依拠した資料・前提条件・第三者の検証を受けていないことを明記していれば、検討の過程を示す資料として使われている例は多くあります。一方、税務申告、裁判、少数株主との争いが想定される取引、利益相反のある取引では、独立した第三者の算定が求められるのが通常です。

株価算定書に有効期限はありますか?

法定の有効期限はありませんが、算定はあくまで評価基準日時点の価値を示すものです。実務では、基準日から3〜6か月程度が経過すると、直近の業績や市場環境を踏まえた見直しを検討することが多くあります。決算をまたいだ場合や、業績・事業環境に大きな変化があった場合は、期間の長短にかかわらず更新を検討すべきです。決裁までに時間が空くときは、基準日以降に重大な変化がない旨を確認し、その事実を記録しておくとよいでしょう。

評価手法は複数を使わないといけませんか?

法律上の決まりはありませんが、実務では2つ以上の手法を併用するのが一般的です。単一の手法だけでは、その手法特有の前提に結論が引きずられてしまうためです。たとえばDCF法は事業計画と割引率の置き方で結果が大きく動くため、類似会社比較法や純資産法で水準を検証します。そのうえで、どれを主たる手法とし、どれを検証用と位置づけるかを明記しておくと、読み手の理解が進みます。

フェアネス・オピニオンとは何が違いますか?

株価算定書は「株式の価値がどのくらいのレンジにあるか」を算定した資料です。これに対しフェアネス・オピニオンは、「すでに合意されようとしている取引条件が、財務的な観点から公正といえるか」について、独立した専門家が意見を述べるものです。前者は価値を測る作業、後者は条件を評価する意見であり、目的が異なります。フェアネス・オピニオンは独立性の要件が厳しく、費用も期間も算定書より大きくなるのが通常で、利益相反が大きい取引や上場会社が関わる取引で求められることが中心です。

評価基準日はいつに設定すればよいですか?

一般には、直近の決算日、または財務データが確定している直近の月末を基準日とすることが多いです。税務目的の評価では、相続開始日や贈与日など、税法上定められた日が基準になります。M&Aでは、交渉の進行に合わせて基準日を更新することもあります。いずれの場合も、基準日を動かすと結論も動くため、なぜその日を選んだのかを算定書に記載しておくことが大切です。

まとめ

株価算定書が必要かどうか、どの程度のものが必要かは、「誰に見せる資料か」でほぼ決まります。読み手が自社の中に限られる初期検討なら、レンジと前提が分かる自己算定で足ります。取締役会や金融機関に説明するなら、計算過程を追え出典が明記された水準が要ります。そして、税務・裁判・利益相反のある取引のように利害の対立する相手がいる場面では、独立した第三者による算定が必要になります。

あわせて押さえておきたいのが、税務目的の評価はM&Aの時価とは別物だという点です。相続税評価額とM&Aの評価額が食い違っても、どちらかが誤っているわけではありません。目的に合った物差しを選び、必要な水準に応じて段階的に費用をかけていくことが、遠回りを避ける実務的な進め方です。

社内検討や交渉前の目線合わせには、「M&Aバリュークラウド」の詳細版(5,500円・税込)をご利用いただけます。財務データを入力すると、DCF法・類似会社比較法・純資産法による株式価値のレンジと、割引率の算定根拠、感応度分析、株式価値への調整項目の内訳、前提条件をまとめたPDF報告書を作成します。なお、本サービスは第三者算定機関による意見書やフェアネス・オピニオンを提供するものではありません。税務・法務上の判断が伴う場面では、税理士・弁護士にご確認ください。仕上がりは詳細版レポートのサンプルでご確認いただけます。登録・試算は無料です。無料で登録して試算する

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