譲渡対価と役員退職金の配分シミュレーター

M&Aでオーナーが受け取る総額が同じでも、株式譲渡対価として受け取るか、役員退職金として受け取るかで、手元に残る金額は変わります。配分を動かしながら手取りの差を確かめられる無料ツールです。登録不要、入力した数値はブラウザ内で計算され、サーバーには送信されません。

オーナーが受け取る総額を、株式譲渡対価と役員退職金にどう振り分けるかで手取りがどう変わるかを試算します。入力した数値はブラウザ内で計算され、どこにも送信されません。

株式譲渡側の手取り

18,860万円

税額 4,490万円(20.315%)

退職金側の手取り

4,392万円

税額 608万円(1/2適用あり)

合計手取り(概算)

23,253万円

総額の 77.5%2億3,253万円

株式譲渡側

譲渡対価25,000 万円
仲介手数料(税込)1,650 万円
取得費(概算5%)1,250 万円
譲渡所得(課税対象)22,100 万円
譲渡益課税(20.315%)4,490 万円
手取り18,860 万円

役員退職金側

退職金5,000 万円
退職所得控除(勤続30年)1,500 万円
課税退職所得(1/2適用)1,750 万円
所得税+復興特別所得税433 万円
住民税(10%)175 万円
手取り4,392 万円

配分を変えたときの比較(総額 30,000万円)

退職金の割合譲渡対価退職金税額合計手取り合計
0%30,00005,45522,895
25%最大22,5007,5005,24723,103
50%15,00015,0005,84622,504
75%7,50022,5006,49721,853

単位:万円。仲介手数料は配分にかかわらず同額とし、株式譲渡側の費用として差し引いています。「最大」は4パターンのうち合計手取りがもっとも多い配分で、税務上・実務上おすすめできる配分という意味ではありません。

この試算だけで配分を決めないでください

  • 退職金のうち不相当に高額な部分は損金にならない可能性があります。同業・同規模の支給実績と比べて説明できる水準か、事前の検討が必要です。
  • 退職金は会社が支払うため、買い手の同意と、株主総会の決議・役員退職慰労金規程などの手続きが要ります。
  • 形式だけ整えても、実際に退任している実態がなければ退職金として認められないおそれがあります。
  • 退職金を支払うと会社の純資産と利益が減るため、株価(譲渡対価)は下がる方向に働きます。総額が一定という前提そのものが交渉の対象です。
  • 会社側の資金負担(支払原資の確保)と、法人税の減少額もあわせて確認してください。
  • 税率は執筆時点の一般的な水準(譲渡益20.315%)にもとづく概算で、税制改正がありえます。必ず税理士等の専門家にご確認ください。本ツールは税務・法務の助言を行うものではありません。

なぜ配分で手取りが変わるのか

理由は、2つの受け取り方にまったく別の課税ルールが適用されるからです。株式譲渡による利益は申告分離課税で、譲渡所得に対して一律20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)がかかります。金額が大きくなっても税率は変わりません。一方の役員退職金は退職所得として扱われ、長年の勤労に報いるという趣旨から、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引き、さらに残りを1/2にしてから累進税率をかけます。税率表は5%から45%までの累進ですが、控除と1/2の効果が効くため、実効的な負担は譲渡益課税より軽くなる領域が生まれます。

たとえば勤続30年なら退職所得控除は1,500万円です。退職金がこの範囲に収まれば税負担はゼロ。超えた部分も1/2になってから課税されるため、一定の金額までは20.315%より軽い負担で受け取れます。ただし退職金の額が大きくなるほど累進税率の上のほうが適用されるので、どこかで譲渡益課税の20.315%を上回ります。「退職金にすればするほど得」ではなく、有利になる範囲があるというのが正確な理解です。この分岐点は勤続年数と総額によって動くので、比較表で位置を確かめてください。株式譲渡と事業譲渡そのものの違いは事業譲渡と株式譲渡の違いで整理しています。

計算の中身

株式譲渡側

(譲渡対価 − 取得費 − 譲渡費用)× 20.315% が税額です。取得費は、その株式を取得したときに実際に払った金額(設立時の出資額や買い取った価格)で、創業者の場合は資本金相当額であることが多く、数百万円にとどまるケースがよくあります。取得費が不明な場合は、譲渡対価の5%を概算取得費とする取扱いがあり、本ツールもチェックひとつで切り替えられます。譲渡費用には仲介会社への手数料などが含まれます。手数料の水準はM&A仲介手数料の相場を、レーマン方式の試算はレーマン方式 計算機をご覧ください。本ツールでは仲介手数料に消費税10%を加え、配分にかかわらず同額として株式譲渡側から差し引いています。

役員退職金側

退職所得控除は、勤続20年以下なら「40万円 × 勤続年数」(最低80万円)、20年超なら「800万円 + 70万円 ×(勤続年数−20年)」です。1年未満の端数は切り上げます。この控除を引いた残りを1/2にしたものが課税退職所得で、所得税の速算表(5%〜45%)を適用し、算出税額の2.1%を復興特別所得税として加え、さらに住民税10%を足したものが税額になります。

重要な例外が勤続5年以下の役員等(特定役員退職手当等)です。この場合は1/2の適用がありません。短期間だけ役員に就いて多額の退職金を受け取る形を防ぐための取扱いで、該当すると税負担は一気に重くなります。M&Aの直前に役員に就任させて退職金を出す、といった設計が機能しないのはこのためです。本ツールでは「役員である」にチェックを入れたうえで勤続年数を5年以下にすると、自動で1/2が外れます。役員退職金そのものの計算は役員退職金 計算ツールで、自己株式との組み合わせは役員退職金と自己株式の取得で扱っています。

「総額が一定」という前提そのものが交渉ごと

このツールは総額を固定して配分だけを動かしますが、現実はそう単純ではありません。役員退職金を支払うのは会社です。会社から現金が出ていけば純資産が減り、その期の利益も落ちます。純資産や利益をベースに株価を算定していれば、時価純資産法で見た株価はその分下がります。つまり「退職金を1億円出すから、株式の対価は1億円下げる」という形で、買い手は総額を調整してきます。退職金の分だけ純粋に手取りが増えるわけではありません。

もっとも、買い手にとって退職金は損金になり法人税の負担を減らす効果があるため(適正額の範囲内であれば)、単純に1対1で株価が下がるとは限らず、そこが交渉の余地になります。逆に、会社に支払原資となる現金がなければ、そもそも退職金を出せません。買い手が資金を入れる形にするのか、会社の手元資金で払うのか、支払時期はクロージングの前か後か。こうした点は株式譲渡契約(SPA)の要点で定める事項です。売り手が一方的に決められる話ではなく、買い手の同意が前提だという点を押さえてください。

税務上のリスク:不相当に高額な部分

役員退職金は、不相当に高額と判断された部分は損金に算入されない可能性があります。否認されると会社側では法人税の負担が増える一方、受け取った個人側では退職所得として課税されたままになり、結果として両方で不利になりかねません。適正額の目安としては功績倍率法(最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率)がよく使われますが、これは実務上の考え方であって法令で率が定められているわけではありません。最終的には、同業・同規模の会社の支給実績と比べて説明できるかどうかで判断されます。

手続き面も軽視できません。支給には株主総会の決議(または定款の定め)が必要で、役員退職慰労金規程を整備しておくのが一般的です。加えて実際に退任している実態が問われます。名目上は退職金を受け取りながら、これまでどおり経営の中心にいる状態では、退職金として認められないおそれがあります。M&A後も一定期間は引継ぎのために残るケースは多いので、どの立場でいつまで関与するのかを整理し、税理士と事前に確認しておくことが欠かせません。M&Aに関わる税金の全体像は中小企業M&Aの税制に、事業承継の税制は事業承継の税制にまとめています。相談先の選び方は事業承継における税理士の役割をご覧ください。

よくある質問

Q. 退職金の割合はどのくらいが一般的ですか?

A. 「何%が一般的」という決まった水準はありません。決まるのは、功績倍率法などで説明できる適正額の範囲、会社が支払える現金の有無、買い手が損金として受け入れられるか、という3つの制約の重なりです。手取りが最大になる割合を先に決めてから金額を逆算する進め方は、税務上の説明が後付けになりやすく危険です。まず適正額を算定し、その範囲内でどうするかを考える順番にしてください。適正額の試算は役員退職金 計算ツールで行えます。

Q. 株式譲渡と退職金、どちらが得なのですか?

A. 勤続年数が長く、退職金の額が退職所得控除と1/2の効果が効く範囲に収まるなら、退職金のほうが手取りは多くなる傾向があります。逆に、勤続年数が短い場合、特に勤続5年以下の役員で1/2が使えない場合は、退職金にすると不利になることが多くなります。また、株式の取得費が大きい(高い価格で株式を買い取っている)ケースでは譲渡所得そのものが小さくなるため、譲渡対価側の税負担が軽く、退職金に回すメリットは小さくなります。比較表の4パターンで、ご自身の条件での傾向を確かめてください。

Q. 退職金を出すと会社の株価はどれくらい下がりますか?

A. 単純化すると、支給額から法人税等の減少分を差し引いた金額だけ純資産が減ります。加えてその期の利益が落ちるため、利益をベースにした評価にも影響します。どの評価方法を使うかで影響の出方は変わるので、実際の金額は税理士による株価算定で確認してください。売却価格の全体感は会社売却の相場はいくらかが参考になります。

Q. 手数料や税額はこの計算どおりになりますか?

A. なりません。本ツールは個人株主が1人で全株式を保有し、同一年中に他の退職手当を受け取っていないというシンプルな前提での概算です。実際には、複数株主での配分、過去に受け取った退職金がある場合の勤続期間の重複調整、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しない場合の源泉徴収、法人株主の場合の取扱い、各種特例など、多くの調整が入ります。社会保険料や会社側の法人税の減少額も計算していません。実際の税額は必ず税理士等の専門家にご確認ください。

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※ 本ツールの金額はすべて目安です。税率は執筆時点の一般的な水準(株式譲渡益20.315%、退職所得課税は所得税の速算表・復興特別所得税2.1%・住民税10%)にもとづく概算であり、税制改正がありえます。役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金に算入されない可能性があり、支給には買い手の同意、株主総会の決議、退任の実態が必要です。実行前に必ず税理士等の専門家にご確認ください。本ツールは税務・法務に関する助言を行うものではありません。

配分の前に、株価そのものを確かめる

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