子会社株式の減損とは|実質価額の算定と回復可能性、のれん減損との関係
最終更新: 2026-10-31
非上場の会社を買収すると、買い手の個別財務諸表には「子会社株式」が取得原価で計上され、連結財務諸表では買収価格と子会社の純資産との差額が「のれん」として計上されます。買収後に子会社の業績が計画を下回ると、この二つが同時に問題になります。個別では子会社株式の減損(評価損)、連結ではのれんの減損や一時償却です。どちらも金額が大きくなりやすく、決算の直前になって監査法人との協議で初めて論点に気づく、ということも珍しくありません。
この記事では、買収を実行した(または検討中の)事業会社の経営企画・経理担当者向けに、市場価格のない株式等の減損の判定ルール、実質価額の算定方法と超過収益力の扱い、回復可能性の考え方、連結上ののれんとの関係、買収後のモニタリング、買収前に準備しておくこと、監査法人との対話、そして税務上の評価損との違いまでを、仮の数字を使った計算例とともに整理します。のれんそのものの考え方はのれん(営業権)とは、償却の基本はのれんの償却とはもあわせてご覧ください。
子会社株式の減損とは
子会社株式の減損とは、個別財務諸表に計上している子会社株式の帳簿価額を、価値の下落にあわせて強制的に切り下げ、切下額を当期の損失として計上する処理です。子会社株式は、時価で毎期評価替えをするものではなく、原則として取得原価で計上し続けます。ただし、価値が大きく下がり、回復の見込みも立たない場合には、取得原価のまま据え置くことが許されず、減額しなければなりません。
非上場の子会社株式は、会計基準上「市場価格のない株式等」に当たります。2019年改正の金融商品に関する会計基準以降、従来の「時価を把握することが極めて困難と認められる株式」に代えてこの用語が使われており、現在の実務指針も同じ用語で整理されています。上場株式であれば株価の下落で判定しますが、市場価格のない株式等では株価がないため、後述する「実質価額」を使って判定します。
根拠となる基準
| 基準・指針 | 主な内容 |
|---|---|
| 金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)第21項 | 市場価格のない株式等は、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をし、評価差額は当期の損失として処理する |
| 金融商品会計に関する実務指針(移管指針第9号)第92項 | 実質価額の算定方法、「著しく低下したとき」=少なくとも実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合、回復可能性が十分な証拠で裏付けられる場合は減額しないことも認められる |
| 同 実務指針 第285項(結論の背景) | 子会社・関連会社等の株式は事業計画等で回復可能性を判定できることがあること、事業計画等は実行可能で合理的であること、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限とすること、毎期見直すこと |
金融商品会計に関する実務指針は、もともと日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第14号として公表されていたもので、2024年に企業会計基準委員会(ASBJ)へ移管され、現在は「移管指針第9号」となっています。項番号は移管前と同じ体系が引き継がれているため、実務では「金融商品実務指針92項」「285項」と呼ばれることが多い部分です。
実質価額の算定方法
実質価額は、市場価格のない株式等について「その株式が実質的にどれだけの価値を持っているか」を測る物差しです。実務指針第92項では、次のように整理されています。
- 発行会社の財政状態とは、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成した財務諸表を基礎に、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいう
- 通常は、この1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じた金額が実質価額になる
- ただし、会社の超過収益力や経営権等を反映して、1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額が実質価額として評価される場合もある
- 基礎とする財務諸表は決算日までに入手できる直近のものを使い、その後に財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明していれば、それも加味する
純資産は「時価ベース」に直して使う
子会社の貸借対照表をそのまま使うのではなく、土地や有価証券の含み損益、回収できない売掛金、不良在庫、計上漏れの引当金などを反映した、より実態に近い純資産で判定するのが原則です(実務指針第285項)。考え方としては、M&Aの算定で使う時価純資産法の修正とよく似ています。時価評価のための資料が合理的に入手できる限り、それに基づいて財務諸表を修正することが求められます。
超過収益力を反映する考え方
M&Aで子会社株式を取得するとき、買い手は多くの場合、純資産を大きく上回る金額を支払います。差額は、その会社が将来生み出す収益力、つまり超過収益力への対価です。取得直後の子会社株式を「1株当たり純資産×株式数」だけで評価すると、取得原価を大きく下回ってしまい、買収した瞬間に減損が必要という不合理な結果になります。
そこで実務指針は、超過収益力や経営権を反映した金額を実質価額とみる余地を認めています。実務では、取得時に見込んだ超過収益力が現在も維持されているかを、事業計画の達成状況などで確かめたうえで、「時価純資産+超過収益力」を実質価額とみる考え方が一般的です。言い換えると、超過収益力が維持されている限り、純資産が多少減っても実質価額は大きく下がりません。
なお、子会社株式の減損は子会社全体の実質価額で判定するのに対し、連結上ののれんは事業単位(資産グループ)で減損を検討するという違いがあります。子会社の一部の事業の収益力が落ちても、他の事業で全体の価値が維持されていれば、子会社株式は減損に至らないこともあります。
減損の判定:「50%程度以上の低下」と回復可能性
判定は大きく二段階で進みます。まず、実質価額が取得原価に比べて著しく低下しているかを確認し、低下している場合に、回復可能性が十分な証拠で裏付けられるかを検討します。
| ステップ | 確認すること | 結果 |
|---|---|---|
| 1. 著しい低下 | 実質価額が取得原価に比べて少なくとも50%程度以上低下しているか | 低下していなければ減損不要(ただし注記・検討記録は残す) |
| 2. 回復可能性 | 実行可能で合理的な事業計画等により、おおむね5年以内に回復すると見込まれるか(回復を見込む金額が上限) | 十分な証拠で裏付けられれば、相当の減額をしないことも認められる |
| 3. 減損処理 | 回復可能性が裏付けられない場合 | 実質価額まで帳簿価額を切り下げ、差額を当期の損失(子会社株式評価損など)として処理 |
「50%程度」はあくまで「少なくとも」の水準で、これを下回る低下であれば何もしなくてよい、という意味ではありません。会社ごとに、より保守的な社内基準(たとえば30%以上の低下で個別に検討する、など)を設けている例もあります。自社の会計方針を確認しておきましょう。
回復可能性の判断で求められること
実務指針第285項では、子会社・関連会社等の株式について、事業計画等を入手して回復可能性を判定できることもあるため、回復可能性が十分な証拠で裏付けられる場合には期末に相当の減額をしないことも認められる、とされています。ただし、条件はかなり厳しく書かれています。
- 事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならない
- 回復可能性の判定は、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行う(特定のプロジェクトのために設立された会社で、当初計画上、累積損失の解消が5年を超えると合理的に見込まれる場合を除く)
- 回復可能性は毎期見直す必要がある
- その後の実績が事業計画等を下回るなど、業績回復が予定どおり進まないことが判明したときは、その期末に減損処理の要否を検討しなければならない
つまり、「来年から黒字化する計画です」と言うだけでは足りず、その計画がなぜ実現できるのかを説明できる材料が必要です。過去の計画と実績の乖離が大きい会社ほど、新しい計画の信頼性は低く見られます。
超過収益力が毀損したときの扱い
買収後の減損でもっとも多いパターンは、子会社の純資産はそれほど減っていないのに、取得時に見込んだ超過収益力が失われるケースです。たとえば、主要顧客の離脱、キーパーソンの退職、規制や市場環境の変化、想定したシナジーが実現しない、といった事態です。
このとき、実質価額に超過収益力を上乗せする根拠がなくなるため、実質価額は「時価純資産×持分」に近い水準まで下がります。もともと純資産の何倍もの価格で買っていれば、純資産がほとんど減っていなくても、取得原価との比較では50%以上の低下になりやすいのです。超過収益力が毀損したかどうかの見極めは、主に次の観点で行います。
| 観点 | 毀損を疑うサイン(目安) |
|---|---|
| 事業計画の達成度 | 売上・営業利益が取得時の計画を大きく、または複数期にわたって下回っている |
| 損益の状況 | 営業損益やキャッシュ・フローが継続してマイナスになっている |
| 事業の前提 | 主要顧客・主要取引先・キーパーソン・許認可など、価格の根拠だった要素が失われた |
| 経営環境 | 市場の縮小、競合の参入、価格下落など、収益性を下げる外部変化が起きた |
| 計画の見直し | 経営陣が計画を下方修正した、または計画の前提を変えた |
超過収益力の評価は、取得時の買収価格をどう組み立てたかと表裏一体です。取得時にどんな正常収益力を前提にし、どの程度のシナジーを価格に織り込んだかが記録されていれば、「何が失われたのか」「どこまでが維持されているのか」を説明しやすくなります。
連結上ののれんとの関係
子会社株式は連結財務諸表では投資と資本の相殺消去によって消え、代わりに子会社の資産・負債とのれんが計上されます。そのため、個別の子会社株式の減損と、連結ののれんの減損は、別の基準に基づく別の手続でありながら、同じ「超過収益力の低下」という事象を映す関係にあります。
個別で子会社株式を減損したときの連結上の処理
連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針では、親会社の個別財務諸表で子会社株式を減損処理した結果、減損後の帳簿価額が、連結上の「子会社の資本の親会社持分額+のれん未償却残高」を下回った場合には、その差額のうちのれん未償却残高に達するまでの金額について、のれんを償却する取扱いが定められています。取得時に見込んだ超過収益力の減少を連結上も反映させるための処理で、連結損益計算書には「のれん償却額」として計上されます(表示区分を含め、監査法人と確認してください)。
個別で計上した子会社株式評価損そのものは、連結上は投資と資本の消去にあわせて消去されます。連結に残るのは、上記ののれんの一時償却という形での損失です。
固定資産の減損に係る会計基準によるのれんの減損
連結上ののれんは、子会社株式の減損とは別に、固定資産の減損に係る会計基準の対象でもあります。手順は「兆候 → 認識 → 測定」の三段階です。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 兆候 | 営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナス(適用指針ではおおむね過去2期がマイナスであったことを指す)、使用範囲・方法の著しい変化、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落など |
| 認識 | 兆候がある場合、のれんを含むより大きな単位で、割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較する。見積期間は主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い期間 |
| 測定 | 帳簿価額を回収可能価額(使用価値と正味売却価額のいずれか高い金額)まで減額し、減少額を減損損失とする |
使用価値は、将来キャッシュ・フローを割り引いた現在価値です。考え方はDCF法に近く、割引率にはWACCなどを基礎にした税引前の率が使われることが一般的です。日本基準では減損損失の戻入れは行わないため、いったん減損すると業績が回復しても簿価は戻りません。
なお、IFRSではのれんを償却せず、毎期の減損テストで評価します。日本基準とIFRSで買収後の損益の見え方が変わる点はIFRSと日本基準の企業価値評価の違いで整理しています。
二つの判定の違い
| 項目 | 個別:子会社株式の減損 | 連結:のれんの減損 |
|---|---|---|
| 根拠 | 金融商品会計基準・金融商品実務指針 | 固定資産の減損に係る会計基準・適用指針 |
| 判定単位 | 子会社全体(株式) | のれんを含む資産グループ(事業単位) |
| 判定の物差し | 実質価額が取得原価の50%程度以上低下したか | 兆候 → 割引前将来キャッシュ・フローとの比較 |
| 回復の扱い | おおむね5年以内の回復を十分な証拠で裏付けられれば減額しないことも認められる | 認識の判定で将来キャッシュ・フローを見込む |
| 減額後の金額 | 実質価額 | 回収可能価額 |
計算例(仮の数字)
ここからは、すべて仮の数字で流れを確認します。税効果、非支配株主、識別可能な無形資産の配分は考慮せず、単純化しています。
・親会社Pが、非上場会社Sの株式100%(1,000株)を6億円で取得
・取得時のSの時価純資産:2億円(1株当たり20万円)
・連結上ののれん:6億円 − 2億円 = 4億円(10年で定額償却 → 年4,000万円)
・取得から2年後の期末、Sの業績が取得時の事業計画を大きく下回った。期末の時価純資産は1.8億円(1株当たり18万円)
ケースA:超過収益力が維持されていると説明できる場合
主要顧客との取引は続いており、業績の下振れは一時的な要因(大型案件の期ずれなど)で、翌期以降の計画にも実績の裏付けがあるとします。この場合、実質価額は「時価純資産1.8億円+維持されている超過収益力」とみる余地があり、取得原価6億円に対して50%程度以上の低下には当たらない、と判断されることがあります。ただし、下振れの理由と回復の根拠を文書で残し、翌期以降も毎期見直すことが前提です。
ケースB:超過収益力が毀損した場合
主要顧客が離脱し、取得時に見込んだ収益力の前提が崩れたとします。超過収益力を上乗せする根拠がなくなると、実質価額は時価純資産ベースになります。
| 項目 | 計算 | 金額(仮) |
|---|---|---|
| 取得原価 | — | 6.0億円 |
| 実質価額 | 1株当たり18万円 × 1,000株 | 1.8億円 |
| 低下率 | (6.0 − 1.8)÷ 6.0 | 70%(50%程度以上に該当) |
| 回復可能性 | 合理的な事業計画で、おおむね5年以内に回復を見込む根拠がない | 裏付けなし |
| 個別:子会社株式評価損 | 6.0 − 1.8 | 4.2億円 |
次に連結への影響です。2年分の償却後、のれんの未償却残高は4億円 − 0.4億円×2年 = 3.2億円です。
| 項目 | 計算 | 金額(仮) |
|---|---|---|
| 子会社の資本の親会社持分額 | 時価純資産1.8億円 × 100% | 1.8億円 |
| のれん未償却残高 | 4.0 − 0.4 × 2 | 3.2億円 |
| 連結上の投資の額 | 1.8 + 3.2 | 5.0億円 |
| 減損後の個別帳簿価額 | — | 1.8億円 |
| 差額 | 5.0 − 1.8 | 3.2億円 |
| のれんの一時償却 | 差額のうち、のれん未償却残高に達するまで | 3.2億円(のれん全額) |
この例では、個別では4.2億円の子会社株式評価損、連結ではのれん3.2億円の一時償却が生じます。個別と連結で金額が違うのは、連結ではすでに2年分(0.8億円)の償却を済ませており、さらに子会社の純資産の減少(0.2億円)は子会社の損益として連結に取り込まれているためです。実際には、連結上ののれんについて減損会計基準による検討も並行して行います。
同じ例の税務上の扱い
税務では、後述のとおり、非上場株式の評価損を損金に算入するには「発行法人の資産状態が著しく悪化したこと」が必要です。この例では、1株当たり純資産は取得時の20万円から18万円への約10%の減少にとどまり、法人税基本通達9-1-9の「おおむね50%以上下回る」に当たりません。そのため、会計上は4.2億円の評価損を計上しても、税務上は損金に算入できず、申告で加算調整することになると考えられます。会計と税務で扱いが大きく分かれる典型例です(実際の判定は税理士に確認してください)。
事業計画の達成状況をモニタリングする
減損の議論は、決算期末にいきなり始めるとうまくいきません。買収直後から、取得時の事業計画と実績を定期的に比べ、乖離の理由を記録しておくことが、結果的に減損の回避にも、減損が避けられないときの説明にも役立ちます。PMI(統合プロセス)の管理項目に、最初から組み込んでおくのがおすすめです。
| 頻度 | 確認すること(例) |
|---|---|
| 月次 | 売上・粗利・営業利益の計画比、主要顧客別の売上、受注残 |
| 四半期 | 通期見込みの更新、乖離要因の分析(一時的か構造的か)、KPI(解約率・単価・稼働率など) |
| 年次(決算前) | 実質価額の算定、超過収益力の維持の検討、回復可能性の判断資料、減損の兆候の有無 |
| 随時 | キーパーソンの退職、主要顧客の離脱、許認可・規制の変化など、前提を揺るがす事象 |
乖離が出たときは、「計画の数字が楽観的だったのか」「事業そのものが変わったのか」を切り分けることが大切です。前者なら計画の見直しで説明できる場合がありますが、後者は超過収益力の毀損に直結しやすく、早めに監査法人へ共有したほうが判断の時間を確保できます。
買収前にやっておくこと
子会社株式の減損リスクは、買収価格を決めた時点でかなりの部分が決まっています。買収後の減損を避けるために、買収前に次の点を押さえておきましょう。
保守的な事業計画で価格を組み立てる
売り手が作った事業計画は、売り手に有利な前提で組まれていることが少なくありません。買い手側で前提を一つずつ点検し、デューデリジェンスの結果を反映した保守的な計画(ベースケース)と、下振れケースの両方を用意しておくことが基本です。取得時の計画が保守的であるほど、買収後に「計画未達=超過収益力の毀損」と見られるリスクは下がります。
支払ってよい価格の上限を決めておく
スタンドアロンの価値、実現可能なシナジー、それを踏まえて支払ってよい上限を分けて考え、上限を超える価格では買わない、という規律を持つことが重要です。シナジーへの対価を払い過ぎると、その分はのれんと子会社株式の取得原価に乗り、シナジーが実現しなければ減損として跳ね返ってきます。社内での検証の進め方は買収価格の妥当性を社内で検証する方法、第三者の目を入れる方法はM&A価格のセカンドオピニオンで解説しています。
価格の根拠を記録として残す
取得時にどの手法で、どの前提を置いて価格を決めたかは、買収後に実質価額や超過収益力を検討するときの出発点になります。DCF法の事業計画・割引率、類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)の倍率、企業価値から株式価値への換算の内訳などを、稟議資料とあわせて保管しておきましょう。稟議にどんな算定資料を添付するかは稟議に添付する株価算定書を参照してください。
監査法人に早めに相談する
上場会社や監査を受けている会社では、買収の検討段階から監査法人に取引の概要を共有しておくと、取得原価の範囲、取得原価の配分(識別可能な無形資産の認識など)、のれんの償却年数、買収後の減損判定の方法について、決算期末を待たずに論点をすり合わせられます。
監査法人との対話のポイント
子会社株式やのれんの評価は、見積りの要素が大きく、監査上も重点的に検討されやすい領域です。上場会社では、関係会社株式やのれんの評価が監査報告書の「監査上の主要な検討事項(KAM)」として取り上げられることもあります。監査法人との対話では、次のような点を準備しておくと議論が進みやすくなります。
- 実質価額の算定根拠:時価純資産の修正内容、超過収益力を上乗せする場合はその金額と算定方法
- 事業計画の合理性:前提(売上成長率・利益率・設備投資など)の根拠、過去の計画と実績の比較、外部環境との整合
- 回復可能性の裏付け:おおむね5年以内に回復を見込む金額と、その実現の根拠となる具体的な施策
- 感応度:売上や利益率、割引率が変わったときに結論がどう変わるか
- 連結上ののれんとの整合:子会社株式の判定と、のれんの兆候・認識の判定で前提がずれていないか
監査法人は、会社が作った見積りを検証する立場です。会社自身が根拠をそろえて説明し、結論を出すのが前提であり、資料の受け入れ可否は監査法人が判断します。社内に算定の経験が少ない場合は、外部の評価専門家に算定を依頼する選択肢もあります。
税務上の評価損との違い
会計で子会社株式を減損しても、税務上そのまま損金になるとは限りません。法人税法では、資産の評価換えによる帳簿価額の減額は原則として損金に算入されず(法人税法33条1項)、一定の事実が生じた場合に限り、損金経理を条件に評価損の損金算入が認められています(同条2項、法人税法施行令68条)。
| 項目 | 会計(減損処理) | 税務(評価損の損金算入) |
|---|---|---|
| 判定の基準 | 実質価額(超過収益力を含みうる)が取得原価の50%程度以上低下し、回復可能性が裏付けられない | 発行法人の資産状態が著しく悪化したため、価額が著しく低下したこと(法人税法施行令68条1項2号ロ) |
| 資産状態の悪化の目安 | — | 特別清算・破産・再生・更生の手続開始等、または期末の1株当たり純資産価額が取得時に比べおおむね50%以上下回ること(法人税基本通達9-1-9) |
| 価額の著しい低下 | — | 期末の価額が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、近い将来の回復が見込まれないこと(同9-1-7・9-1-11) |
| 超過収益力の毀損 | 実質価額の低下要因になりうる | 資産状態(純資産)の悪化が要件のため、超過収益力の毀損だけでは要件を満たしにくい |
ポイントは、税務の「資産状態の著しい悪化」が、1株当たり純資産価額の取得時との比較で判定される点です。M&Aで純資産を大きく上回る価格で取得した子会社株式は、超過収益力が失われて会計上は減損になっても、純資産自体が半分以下になっていなければ、税務上の評価損は認められにくいのが実情です。
このほかにも、増資の払込み直後の株式には原則として評価損を計上できないとする取扱い(法人税基本通達9-1-12)や、完全支配関係にある内国法人のうち清算中・解散見込みなど政令で定める法人の株式には評価損の規定を適用しないとする定め(法人税法33条5項)があります。会計上の減損額と税務上の損金算入額がずれる場合は、申告調整と税効果会計の検討も必要になります。税務上の扱いは個別性が強いため、必ず税理士に確認してください。
よくある質問
子会社株式の減損とのれんの減損は、どちらが先に起きますか?
決まった順序はありません。個別の子会社株式の判定は子会社全体の実質価額で行い、連結ののれんは事業単位で兆候から検討するため、どちらか一方だけが問題になることもあれば、同じ期に両方が生じることもあります。個別で子会社株式を減損した場合は、連結でのれんの一時償却が必要かどうかもあわせて確認します。
減損した子会社株式は、業績が回復したら戻せますか?
戻せません。減損処理後の帳簿価額は翌期首の取得原価とされ、その後に業績が回復しても評価益は計上しません。連結ののれんの減損損失も、日本基準では戻入れを行いません。
実質価額に超過収益力を上乗せするには、どんな根拠が必要ですか?
一律の基準はありませんが、取得時の事業計画と実績の比較、今後の事業計画の合理性、取得時の価格算定との整合などで「取得時に見込んだ収益力が現在も維持されている」ことを説明するのが一般的です。将来キャッシュ・フローに基づく株式価値の算定結果を参考資料にすることもあります。どこまで上乗せが認められるかは、監査法人と協議して判断してください。
持株比率が100%でない場合はどうなりますか?
実質価額は「1株当たり純資産額×所有株式数」が基本なので、持分に応じた金額で判定します。連結上ののれんも親会社持分に対応する金額で計上されているため、計算例の考え方を持分比率に置き換えて検討します。非支配株主持分がある場合の連結処理は複雑になるため、監査法人と確認してください。
まとめ
非上場の子会社株式は「市場価格のない株式等」として、実質価額が取得原価の50%程度以上低下し、回復可能性を十分な証拠で裏付けられない場合に減損処理が必要です。実質価額は時価ベースの1株当たり純資産×株式数が基本で、超過収益力を反映する余地がありますが、取得時に見込んだ収益力が失われると実質価額は大きく下がります。個別で減損すると連結ではのれんの一時償却が生じることがあり、のれんは別途、減損会計基準の兆候・認識・測定でも検討されます。税務上の評価損は純資産の悪化が要件のため、会計上の減損と一致しないことが多い点にも注意が必要です。
減損を避ける最大の対策は、保守的な事業計画で価格の上限を決め、価格の根拠を記録し、買収後は計画と実績を継続的に比べることです。判定や処理は会社ごとに異なるため、監査法人・税理士と早めに相談しながら進めてください。
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