買収の投資回収シミュレーション

買収価額を何年で回収できるのか、その投資は求める利回りに届くのか。M&Aの買い手が最初に確かめるべき数字を、無料・登録不要で試算できるツールです。単純回収年数、NPV、IRR、借入を入れた場合のエクイティIRR、そして買収価額とシナジーを動かしたときの感応度まで一度に確認できます。入力した数値はブラウザ内で計算され、サーバーには送信されません。

買収価額と対象会社のキャッシュフロー、シナジー、出口の想定を入力すると、単純回収年数・NPV・IRR・エクイティIRRと感応度を計算します。金額の単位はすべて万円です。入力した数値はブラウザ内で計算され、サーバーには送信されません。

1. 買収価額と対象会社

2. シナジーと統合コスト

3. 出口・割引率・借入

単純回収年数

6.4 年

出口価値を含まない・割引前

NPV(割引率 10%)

12,691万円

1億2,691万円

IRR(レバレッジなし)

17.8%

投資倍率 2.40 倍

エクイティIRR(借入あり)

25.5%

自己資金 15,000万円

出口価値:7年目のEBITDA 7,757万円 × 出口倍率 5倍 = 企業価値 38,785万円 − 純有利子負債 0万円 = 株式価値 38,785万円(最終年のキャッシュフローに加算しています)

年度別キャッシュフロー(万円)

年度対象会社FCFシナジー統合コスト事業CF累計現在価値利息(税引後)元本返済エクイティCF
0年目買収価額30,00030,00030,000借入 15,00015,000
1年目4,000231−5553,6763,6763,342−208−2,1431,325
2年目4,0804634,5438,2193,754−178−2,1432,221
3年目4,1626944,85513,0743,648−149−2,1432,564
4年目4,2456944,93918,0133,373−119−2,1432,677
5年目4,3306945,02423,0363,119−89−2,1432,791
6年目4,4166945,11028,1462,885−59−2,1432,908
7年目回収4,5056945,19833,3452,668−30−2,1433,026
出口(7年目末)EBITDA×倍率−純有利子負債38,78519,90338,785

シナジーと統合コストは実効税率を掛けた税引後の金額で計上しています。借入は元本を保有年数で均等返済し、出口時点で残高がゼロになる前提です。「回収」は割引前の累積事業CFが買収価額に達した年度です。

レバレッジあり/なしの比較

区分自己資金借入IRR投資倍率
レバレッジなし(全額自己資金)30,000017.8%2.40 倍
レバレッジあり(借入 50%・金利 2%)15,00015,00025.5%3.75 倍

事業の利回りが借入金利(税引後)を上回る間はエクイティIRRが高くなりますが、下回れば逆に大きく悪化します。レバレッジは利回りを増幅する仕組みであって、価値を生む仕組みではありません。

感応度分析(買収価額 ±10%・シナジー ±50%)

買収価額 \ シナジー−50%基準+50%
−10%27,000万円)NPV 13,025IRR 18.8%NPV 15,691IRR 20.4%NPV 18,357IRR 21.9%
基準30,000万円)NPV 10,025IRR 16.3%NPV 12,691IRR 17.8%NPV 15,357IRR 19.2%
+10%33,000万円)NPV 7,025IRR 14.2%NPV 9,691IRR 15.6%NPV 12,357IRR 17.0%

単位:万円。買収価額とシナジー年額だけを動かし、ほかの前提は据え置いています。

この試算を読むときの注意

  • シナジーは実現確率と時期を割り引いて入れてください。年3,000万円の効果を70%の確率で3年目から、と考えるなら、年額は3,000×70%=2,100万円、実現までの年数は3年です。満額・即時で置くと回収年数もIRRも実力以上に良く見えます。
  • 統合コストは過小に見積もられがちです。システム統合、人事制度の統一、拠点の集約、退職に伴う採用と教育、外部専門家の費用。初年度だけでは終わらないことも多く、金額も想定より膨らみます。
  • のれんの償却は会計上の費用であってキャッシュアウトではありません。本ツールのキャッシュフローには含めていません(会計上の利益は償却分だけ下がります)。税務上の取扱いは会計と異なり、株式取得か事業譲渡かでも変わります。
  • 出口倍率は「そのとき買い手がいくらで買うか」の想定にすぎません。市況・業績・買い手の有無で大きく振れます。0倍にして「売らずに保有し続ける」前提でも試算してみてください。
  • 本ツールは対象会社のFCFが買い手にそのまま帰属する簡易前提で、追加の設備投資・運転資本の変動・税務上の繰越欠損金・少数株主持分などは反映していません。

4つの数字が示していること

買収の投資判断で使う指標は役割が違います。ひとつだけを見て決めると判断を誤ります。

  • 単純回収年数(ペイバック):割引をせず、事業が生むキャッシュフローの累計が買収価額に達するまでの年数です。分かりやすく、社内の説明でもよく使われます。ただし、時間の価値を無視していること、回収したあとの価値を評価していないこと、という2つの弱点があります。「何年で元が取れるか」という感覚をつかむための入口の指標だと考えてください。本ツールでは出口(売却)による回収を含めずに計算しています。事業そのものの回収力を見るためです。
  • NPV(正味現在価値):将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に直し、その合計から買収価額を引いた金額です。プラスなら、その割引率で求める利回りを上回っている、つまり価値を生む投資だという意味になります。割引率には、買い手が自社の投資に求める利回り(ハードルレート)や、対象会社のリスクを反映した資本コストを置きます。考え方はDCF法とはと同じです。
  • IRR(内部収益率):NPVがちょうどゼロになる割引率です。「この投資は年利何%の運用に相当するか」を表します。本ツールは二分法(対分法)でこの解を数値的に求めています。−99.99%から+1000%の範囲を半分ずつ狭めながら最大200回反復し、NPVの絶対値または区間の幅が十分小さくなった時点で収束とみなします。キャッシュフローの符号が変わらない場合など、この範囲に解がないときは計算結果を「—」と表示します。
  • エクイティIRR:買収価額の一部を借入で賄ったときに、自己資金に対して何%の利回りになるかです。同じ案件でも、資本構成を変えれば見える利回りは変わります。

キャッシュフローの組み立て方

本ツールは、各年度のキャッシュフローを「対象会社のFCF + シナジー(税引後) − 統合コスト(初年度・税引後)」で組み立てます。対象会社のFCFは、税引後営業利益に減価償却費を足し戻し、設備投資と運転資本の増加を引いた金額です(FCFとは)。手元にFCFの数字がなければ、EBITDAから概算するチェックを入れてください。EBITDAから減価償却費を引いて営業利益を出し、実効税率で税を引き、減価償却費を戻して設備投資と運転資本の増加を差し引きます(EBITDAとは)。

最終年には出口価値を加算します。出口価値は「保有最終年のEBITDA × 出口倍率 − 出口時点の純有利子負債」で計算します。倍率のとり方は類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)の考え方と同じです。出口倍率を入口の買収倍率と同じにすれば「倍率が変わらない前提」、低くすれば保守的な前提になります。売却を前提としない事業会社の買収なら、出口倍率を0倍にして「売らずに保有し続ける場合の回収」だけを見る使い方もできます。その場合、保有年数を長めにとらないとNPVは大きくマイナスになります。長期の価値をどう扱うかは継続価値(ターミナルバリュー)とはで整理しています。

シナジーは割り引いて入れる

買収の投資回収シミュレーションが甘くなる最大の原因はシナジーです。クロスセルで売上が伸びる、仕入を統合して原価が下がる、間接部門を集約して固定費が減る。どれも理屈は通りますが、実現するかどうか、いつ実現するかは別問題です。買収の検討段階で挙がるシナジーは、実現確率と時期の両方で割り引いて入れてください。年3,000万円の効果を70%の確率で見込み、満額になるまで3年かかると考えるなら、年額は2,100万円、実現までの年数は3年と入力します。本ツールはこの立ち上がりを直線的に反映します。シナジーの種類と評価の仕方はM&Aのシナジーとはで解説しています。

あわせて注意したいのが、売り手に払う価格にシナジーの分をどこまで乗せるかです。シナジーは買い手が統合努力によって生み出すものですから、その価値をすべて価格に織り込んでしまうと、買い手の取り分はゼロになります。価格の妥当性を別の角度から確かめる手順は買収価格の妥当性の検証にまとめました。社内の稟議で価格の根拠を示す必要がある場合は稟議に使う株価算定書もご覧ください。

統合コストも同じく過小に見積もられがちです。システムの統合、人事・給与制度の統一、拠点の集約、退職に伴う採用と教育、外部専門家への支払い。実際には初年度だけでは終わらず、金額も想定より膨らむのが普通です。統合の進め方そのものはPMIとはで扱っています。買収後の数年間、経営陣の時間がPMIに奪われることの機会費用は、この試算には入っていません。

レバレッジは利回りを増幅するだけ

借入割合を上げると、自己資金が小さくなるためエクイティIRRは上がります。加えて支払利息は損金になるので、税引後の負担は金利より軽くなります。本ツールは元本を保有年数で均等返済し、出口時点で借入残高がゼロになる前提でエクイティ・キャッシュフローを作っています。この手法を突き詰めたものがLBOで、経営陣が受け皿会社を作って買い取る場合はMBOと呼ばれます。

ただし、レバレッジは利回りを増幅する仕組みであって、価値を生む仕組みではありません。事業の利回りが借入コストを上回っている間はエクイティIRRが伸びますが、業績が計画を下回れば逆方向にも同じだけ増幅されます。元本返済は業績にかかわらず発生するため、キャッシュフローが計画を割り込んだ瞬間に資金繰りが厳しくなります。年度別キャッシュフロー表のエクイティCFがマイナスの年がないか、返済に対して余裕があるかを必ず確認してください。返済負担そのものの試算は借入返済シミュレーションで行えます。

のれんの償却とキャッシュフローは別の話

買収価額が対象会社の純資産を上回ると、その差額はのれんとして計上されます。日本の会計基準では原則として20年以内の期間で規則的に償却するため、買収後の連結損益計算書には毎年のれん償却費が乗り、会計上の利益は押し下げられます。ここで混同しやすいのが、のれん償却は現金の支出を伴わない費用だという点です。本ツールのキャッシュフローにのれん償却を入れていないのはそのためです。

一方で、会計上の利益が下がること自体は無視できません。上場会社なら利益指標に、金融機関との取引なら決算書の見え方に影響します。また、税務上ののれん(資産調整勘定など)が計上できるかどうかは、株式取得か事業譲渡かといった取引の形態によって変わり、会計上ののれんとは別に判断されます。キャッシュフロー・会計上の利益・税務上の取扱いの3つを分けて考えることが、買収の意思決定では欠かせません。判断の前提となる財務数値そのものの精査はデューデリジェンスとはを参照してください。

こんな場面で使います

  • 候補企業から提示された希望価額に対して、自社のハードルレートで見て投資として成立するかを一次判定する。
  • 複数の買収候補を、同じ前提(割引率・保有年数・出口倍率)で並べて比較する。
  • 社内の投資委員会・稟議に向けて、回収年数とIRRの根拠、前提が外れたときの振れ幅を示す。
  • 金融機関に持ち込む前に、どこまで借入を入れれば返済と両立するかを確かめる。
  • 交渉の過程で価格が上がったとき、いくらまでなら投資として成立するかの上限を把握する。

よくある質問

Q. 割引率は何%に置けばよいですか?

A. 決まった正解はありません。実務では、自社の資本コスト(WACC)を出発点に、対象会社の事業リスクや規模の小ささを踏まえて上乗せした水準を使うことが多くなります。非上場の中小企業を対象にする場合、上場会社より高めに置くのが一般的です。重要なのは水準そのものより、社内の他の投資案件と同じものさしを使うことです。案件ごとに割引率を変えると比較ができなくなります。

Q. IRRが「—」と表示されるのはなぜですか?

A. キャッシュフローの符号が一度も変わらない場合、どんな割引率でもNPVの符号は変わらないため、IRRは定義できません。回収がまったくない(毎年のキャッシュフローがマイナスで出口価値もない)ケースや、投資額がゼロのケースがこれにあたります。また、途中で大きな追加投資が入って符号が何度も変わる場合は解が複数存在しうるため、本ツールは安全側に倒して解なし(—)を返します。そのときはNPVで判断してください。

Q. 回収年数が長いと、その買収はやめるべきですか?

A. 回収年数だけでは決められません。回収年数は時間の価値と回収後の価値を無視した指標だからです。回収に10年かかっても、その後も安定して稼ぎ続ける事業なら、NPVは大きくプラスになりえます。逆に5年で回収できても、その後に設備の更新投資が重くのしかかる事業なら評価は変わります。回収年数は「資金が寝る期間」の目安として使い、投資として成立するかはNPVとIRRで判断するのが基本です。

Q. 感応度はどこまで振って見るべきですか?

A. 本ツールは買収価額±10%とシナジー±50%を初期設定にしています。価格は交渉で1割程度動くことが珍しくなく、シナジーは見込みの半分も実現しないことが実際にあるためです。表の右上(価格が10%安く、シナジーが1.5倍)がうまくいったときの姿、左下(価格が10%高く、シナジーが半分)が最悪ケースにあたります。判断の軸になるのは前者ではなく後者です。その最悪ケースでも投資として耐えられるかを見てください。加えて、売上が計画を1割下回るケースは、対象会社のFCFを直接下げて再計算すると確認できます。

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※ 本ツールの数値はすべて目安です。対象会社のFCFがそのまま買い手に帰属する簡易前提で計算しており、追加の設備投資、運転資本の変動、繰越欠損金、少数株主持分、取得関連費用などは反映していません。税率・金利・倍率の水準は執筆時点の一般的な考え方にもとづく概算で、税制改正や市況によって変わります。会計・税務・法務の判断は必ず専門家にご確認ください。本ツールは投資判断・税務・法務に関する助言を行うものではありません。

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