株式譲渡と事業譲渡の手取り比較

「1億円で売れた」と言っても、株式譲渡か事業譲渡かでオーナーの手元に残る金額はまったく違います。株式譲渡は個人が対価を受け取って一度課税されるだけですが、事業譲渡は会社が対価を受け取るため、法人税等を払ったうえで、その資金を個人へ移す段階でもう一度課税されます。この差を、無料・登録不要で試算できるツールです。入力した数値はブラウザ内で計算され、サーバーには送信されません。

同じ譲渡価額でも、株式譲渡(個人が株式を売る)と事業譲渡(会社が事業を売る)ではオーナーの最終手取りが変わります。金額の単位はすべて万円です。入力した数値はブラウザ内で計算され、サーバーには送信されません。

1. 共通の前提

2. 事業譲渡の前提

株式譲渡:個人の手取り

7,632万円

税額 1,818万円(20.315%)

事業譲渡:個人の手取り

5,956万円

税額合計 3,494万円(法人 1,975+個人 1,519

手取りの差

1,675万円

株式譲渡のほうが多い1,675万円

株式譲渡(個人が株式を売る)

譲渡価額10,000 万円
仲介手数料(税込)550 万円
取得費500 万円
譲渡所得(課税対象)8,950 万円
譲渡益課税(20.315%)1,818 万円
個人の手取り7,632 万円

事業譲渡(会社が事業を売る)/配当で受け取る

譲渡価額(会社が受け取る)10,000 万円
仲介手数料(税込)550 万円
対象資産の簿価3,000 万円
事業譲渡益6,450 万円
法人税等(30.620000000000005%)1,975 万円
会社に残る資金7,475 万円
配当への課税(概算20.315%)1,519 万円
個人の手取り5,956 万円

参考:事業譲渡では課税対象資産の譲渡に消費税がかかります。課税対象資産の割合を50%とすると、買い手が別途負担し会社が預かって納付する消費税は約500万円です。手取りの計算には含めていません(買い手の資金負担は増えます)。

事業譲渡:会社から個人へ移す方法の比較

受け取り方法人税等個人の税額税額合計個人の手取り
配当で受け取る1,9751,5193,4945,956
役員退職金+残りを配当最大1,0561,2822,3387,112
会社を清算して残余財産を分配1,9751,4173,3926,058
(参考)株式譲渡01,8181,8187,632

単位:万円。退職金の額・勤続年数・資本金等の額は入力値をそのまま使っています(退職金は「役員退職金+残りを配当」を選んだときだけ支給する前提)。「最大」は3つのうち手取りが多いというだけで、税務上・実務上おすすめできる方法という意味ではありません。

税金以外の違い

論点株式譲渡事業譲渡
売り手(対価を受け取る人)株主である個人会社(法人)。個人が受け取るには配当・退職金・清算などの段階が必要
許認可会社がそのまま存続するため、原則として引き継がれる原則として引き継がれず、買い手が取り直す必要がある業種が多い
従業員雇用契約は会社に残るため、個別の同意は原則不要転籍のため従業員一人ひとりの同意が必要
契約(取引先・賃貸借など)会社の契約として継続。ただしチェンジ・オブ・コントロール条項に注意個別に相手方の同意を得て契約を承継する必要がある
簿外債務・偶発債務会社ごと引き継ぐため買い手のリスクが大きい(価格・表明保証で調整)引き継ぐ資産・負債を選べるため買い手のリスクは限定されやすい
手続きの重さ比較的軽い(株式譲渡契約・株主名簿の書換えなど)重い(資産ごとの移転登記・名義変更・契約の巻き直し・従業員の転籍手続き)
会社の行方会社ごと買い手のものになる会社は売り手に残る。事業を売ったあとの会社をどうするかを別途決める
消費税株式の譲渡は非課税課税資産(棚卸資産・建物・のれんなど)の譲渡には消費税がかかる
買い手から見たメリット手続きが軽く、事業を丸ごと引き継げる欲しい資産だけ買える。のれん相当額を税務上の資産として償却できる場合がある

この試算だけで方式を決めないでください

  • 配当は原則として総合課税です。非上場株式の配当には配当控除や少額配当の申告不要制度などがあり、その人の他の所得によって実際の税率は変わります。本ツールは比較のための概算として一律20.315%で計算しています。
  • 清算にはみなし配当の論点があります。残余財産の分配のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当として扱われ、原則として総合課税です。ここでも概算として20.315%で計算しています。清算そのものにも期間・費用がかかり、繰越欠損金や期限切れ欠損金の取扱いなど専門的な検討が必要です。
  • 役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金になりません。損金にならなければ法人税等は表示より重くなります。支給には株主総会の決議と、実際に退任している実態が必要です。
  • 消費税・不動産取得税・登録免許税は手取りの計算に含めていません。事業譲渡では不動産の移転に不動産取得税と登録免許税がかかり、資産ごとの名義変更コストも発生します。
  • 配当できる金額は分配可能額の範囲に限られます。会社に他の資産・負債がある場合、この試算の前提とは金額が変わります。
  • 税率は執筆時点の一般的な水準にもとづく概算で、税制改正と個別事情によって変わります。実行前に必ず税理士等の専門家にご確認ください。本ツールは税務・法務に関する助言を行うものではありません。

同じ価額でも手取りが変わる理由

違いの根っこは「誰が対価を受け取るか」にあります。

株式譲渡は、株主である個人が持っている株式を買い手に売る取引です。対価は個人に直接入ります。課税は申告分離課税で、(譲渡価額 − 取得費 − 譲渡費用)に対して一律20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)。金額がいくら大きくなっても税率は変わりません。会社そのものは何も変わらず、株主が入れ替わるだけです。

事業譲渡は、会社が持っている事業(資産・負債・契約・従業員などの集合)を買い手に売る取引です。対価を受け取るのは会社であって、オーナー個人ではありません。まず会社の段階で、譲渡価額から対象資産の簿価を引いた譲渡益に法人税等がかかります(本ツールの初期値は実効税率30.62%)。その後、会社に残った資金をオーナー個人が受け取るには、配当・役員退職金・会社の清算といった手段が必要で、それぞれの段階でまた課税されます。これが二段階課税と呼ばれるもので、手取りに大きな差が生まれる理由です。両者の制度上の違いは事業譲渡と株式譲渡の違いで整理しています。

ただし、事業譲渡が常に不利だとは限りません。対象資産の簿価が大きければ譲渡益そのものが小さくなり、法人税等は軽くなります。繰越欠損金があれば課税所得と相殺できます。逆に、株式の取得費がほとんどない創業者(資本金相当額しか払っていない)の場合、株式譲渡でも譲渡価額のほぼ全額が課税対象になります。どちらが有利かは会社の状況によって変わるので、実際の数字を入れて確かめてください。

会社に残った資金をどう受け取るか

事業譲渡のあと、会社には現金が残ります。この現金をオーナー個人が受け取る方法は、大きく3つあります。本ツールはこの3つを切り替えて比較できます。

① 配当として受け取る

もっとも単純な方法です。ただし非上場株式の配当は原則として総合課税で、その人の他の所得と合算して累進税率が適用されます。配当控除や少額配当の申告不要制度もあり、実際の税率は人によって変わります。本ツールは比較のための概算として一律20.315%で計算していますが、これはあくまで概算で、所得が大きい方の場合は実際の負担がこれより重くなることがあります。配当の仕組みは配当とはを参照してください。なお、配当できる金額は分配可能額の範囲に限られます。

② 役員退職金として受け取る

退職所得は、勤続年数に応じた退職所得控除を引き、残りを1/2にしてから累進税率をかけます。勤続30年なら控除は1,500万円です。控除と1/2の効果が効く範囲では、譲渡益課税の20.315%より軽い負担で受け取れる領域が生まれます。さらに、支払う側の会社では退職金が損金になるため、法人税等も減ります。本ツールはこの損金算入の効果も反映しています(退職所得の計算には役員退職金 計算ツールと同じロジックを使っています)。

注意点は2つ。まず不相当に高額な部分は損金になりません。功績倍率法(最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率)などで説明できる範囲に収める必要があり、否認されれば法人税等は試算より重くなります。次に勤続5年以下の役員等(特定役員退職手当等)は1/2が使えません。直前に役員に就任させて退職金を出す、といった設計は機能しません。自己株式の取得と組み合わせる論点は役員退職金と自己株式の取得で扱っています。

③ 会社を清算して残余財産の分配を受ける

事業を売ったあとの会社を残す理由がなければ、清算するという選択もあります。このとき、残余財産の分配のうち資本金等の額に対応する部分は株式の譲渡対価として扱われ、取得費を引いた部分に20.315%が課されます。それを超える部分はみなし配当となり、原則として総合課税です。本ツールはみなし配当も概算として20.315%で計算しているため、実際の負担はこれと異なる可能性があります。清算には時間と費用がかかり、期限切れ欠損金の損金算入など専門的な検討も必要です。会社をたたむ選択肢全般は黒字廃業という選択、後継者がいない場合の整理は後継者不在のときの選択肢をご覧ください。

税金以外の違いのほうが、実務では大きい

手取りの比較は分かりやすいのですが、方式の選択が税金だけで決まることはまずありません。ツール内の比較表に主な論点をまとめましたが、特に重いのは次の4つです。

  • 許認可:株式譲渡なら会社が存続するので原則そのまま引き継げますが、事業譲渡では買い手が取り直す必要がある業種が多くあります。取り直しに時間がかかれば、その間は事業を続けられません。
  • 従業員:株式譲渡では雇用契約が会社に残るため個別の同意は原則不要ですが、事業譲渡は転籍になるので一人ひとりの同意が要ります。同意が得られなければ事業は動きません。開示の進め方は従業員への開示のタイミングを参照してください。
  • 契約:取引基本契約、賃貸借契約、リース契約などを個別に巻き直す必要があります。相手方が応じてくれるとは限りません。株式譲渡でもチェンジ・オブ・コントロール条項の確認は必要です。
  • 簿外債務:株式譲渡は会社ごと引き継ぐため、未払残業代や係争、保証債務といった見えないリスクも一緒に移ります。買い手はこれを嫌い、価格や表明保証で調整しようとします。事業譲渡は引き継ぐ対象を選べるので、買い手にとってはリスクが限定されます。買い手が事業譲渡を望む理由の多くはここにあります。

つまり、売り手は手取りが多い株式譲渡を、買い手はリスクの小さい事業譲渡を選びたがる、という構図になりやすいということです。方式は交渉で決まります。売り手が一方的に決められるものではありません。事業の一部だけを切り出したい場合は会社分割という選択肢もあります(会社分割とは)。契約段階で詰めるべき事項は株式譲渡契約(SPA)の要点にまとめました。

よくある質問

Q. 取得費がわからないときはどうすればよいですか?

A. 取得費が不明な場合には、譲渡収入の5%を概算取得費とする取扱いがあります。本ツールもチェックひとつで切り替えられます。ただし、実際の取得費のほうが大きければそちらを使ったほうが有利です。設立時の出資額、増資に応じた払込額、相続や贈与で取得した場合の引継ぎ、過去に他の株主から買い取った価格。まずは資料を探してください。名義株の整理が済んでいない場合は、そもそも誰が売主なのかから確認が必要です。

Q. 消費税はどう扱われますか?

A. 株式の譲渡は消費税の非課税取引です。一方、事業譲渡では課税資産(棚卸資産・建物・のれんなど)の譲渡に消費税がかかります。土地や有価証券、売掛金などは非課税です。消費税は買い手が上乗せして支払い、売り手の会社が預かって納付する流れになるため、最終的な手取りには中立ですが、買い手にとっては資金負担が増えるため価格交渉に影響します。本ツールでは課税対象資産の割合を入力すると参考値として表示しますが、手取りの計算には含めていません。不動産が含まれる場合は不動産取得税・登録免許税もかかります。

Q. 手取りが最大になる方法を選べばよいのですか?

A. 順番が逆です。手取りが最大になる形を先に決めてから理屈を後付けすると、税務上の説明が苦しくなります。役員退職金なら適正額の範囲、清算なら本当に会社をたたんでよいのか、配当なら分配可能額があるか。それぞれに実体と手続きの裏づけが必要です。まず取引の形と実体を固め、そのうえで税負担を確認する順番にしてください。M&Aに関わる税金の全体像は中小企業M&Aの税制に、相談先の選び方は事業承継における税理士の役割にまとめています。

Q. そもそも譲渡価額はどう決まるのですか?

A. 手取りを増やす一番大きな要素は、税務の工夫ではなく譲渡価額そのものです。価格は、時価純資産に営業利益の数年分を加える年買法、EBITDA倍率による類似会社比較、DCF法などで評価レンジを出し、そのうえで交渉で決まります。相場の考え方は会社売却の相場はいくらか、事業承継の場面での株価は事業承継の株価算定をご覧ください。なお、事業譲渡と株式譲渡では買い手から見た価値の意味が違うため、同じ価額が提示されるとは限りません。本ツールは比較のために同額としています。

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※ 本ツールの金額はすべて目安です。税率は執筆時点の一般的な水準(株式譲渡益20.315%、法人実効税率の初期値30.62%、退職所得課税は所得税の速算表・復興特別所得税2.1%・住民税10%)にもとづく概算で、税制改正がありえます。配当とみなし配当は原則として総合課税ですが、比較のための概算として20.315%で計算しています。消費税・不動産取得税・登録免許税・社会保険料は手取りの計算に含めていません。繰越欠損金、分配可能額、複数株主での配分、法人株主の場合の取扱い、各種特例などによって実際の税負担は変わります。実行前に必ず税理士等の専門家にご確認ください。本ツールは税務・法務に関する助言を行うものではありません。

手取りを左右するのは、まず譲渡価額そのもの

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