名義株とは? M&A・事業承継の前に株主名簿を整理する手順とリスク

最終更新: 2026-09-12

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「株主名簿には親戚や昔の知人の名前が並んでいるが、実際に出資したのは創業者本人」——中小企業のM&Aや事業承継の準備を始めると、かなりの確率でこの論点に突き当たります。いわゆる名義株の問題です。普段の経営では表面化しないため放置されがちですが、株式を売る、あるいは後継者に渡す段になると、真っ先に整理を求められる項目のひとつになります。

本稿では、名義株がなぜ生まれたのかという背景から、M&Aで具体的にどんな不都合が起きるのか、実質的な株主が誰かを判断する際に見られる材料、株主名簿を整理していく実務の手順、買い取る場合の価格の考え方、名義人が亡くなっている・連絡が取れないケースの選択肢、そして今後同じ問題を起こさないための予防策までを順に整理します。なお、名義株の取り扱いは法律・税務の両面にまたがり、事実関係によって結論が大きく変わります。本稿は一般的な考え方の整理であり、具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家に確認してください。

名義株とは:出資者と株主名簿上の名義が一致しない株式

名義株とは、一般に実際に出資したお金を出した人(実質的な株主)と、株主名簿に記載されている名義人が異なる株式を指します。たとえば、創業者が全額の出資金を用意したにもかかわらず、株主名簿には創業者の兄弟や取引先の担当者、当時の従業員などの名前が並んでいる、という状態です。

名義を貸した側は「名前を貸しただけ」という認識で、配当を受け取ったことも株主総会に出たこともないというケースが多く見られます。一方で、法律上の外形はあくまで株主名簿の記載が基準になるため、外から見れば名義人が株主です。この「実態」と「外形」のずれこそが、名義株の本質的な問題です。

なぜ名義株が生まれたのか(発起人7名要件の名残)

名義株が多く残っている最大の理由は、かつての商法にありました。平成2年の商法改正より前は、株式会社の設立に発起人が7名必要とされていたため、実質的にはひとりで始める会社であっても、形式上の頭数をそろえる必要がありました。そこで、創業者が親族・知人・従業員などに名義だけを借りて設立するという実務が広く行われていたのです。

改正でこの要件はなくなりましたが、すでに設立された会社の株主名簿はそのまま残りました。その結果、平成2年以前に設立された会社では、名義株が残っている可能性が相対的に高いと言われます。加えて、次のような事情で名義株が生まれることもあります。

  • 相続税の負担を軽くするなどの目的で、家族・親族の名義に分けて株式を保有していた
  • 従業員持株の趣旨で従業員名義にしていたが、実際の出資金は会社や社長が出していた
  • 取引先や金融機関との関係づくりのために、形式的に名義を分散させていた
  • 増資の際に、資金は社長が出したが引受人だけ別の人の名前にした
名義株と、単に株式が分散しているだけの状態は別物です。過去に本当に出資を受けた少数株主がいる場合、それは名義株ではなく実在の株主であり、整理のアプローチも交渉の性質もまったく異なります。まずは「名義だけの人」なのか「実際に出資した人」なのかを切り分けるところから始まります。

いま何が問題になるのか

名義株は、日常の経営では大きな支障になりません。株主総会も事実上は社長ひとりで意思決定でき、配当も出していない会社であれば、名義人と接点を持つ機会すらないでしょう。問題が表面化するのは、株式そのものを動かすとき——つまりM&A、事業承継、相続、そして組織再編のタイミングです。

しかも厄介なのは、時間が経つほど解決が難しくなる点です。名義を貸した当時の事情を知る人は高齢化し、亡くなれば相続で権利者が増えます。当時の書類も散逸します。「いつかやろう」と先送りにすると、選択肢が減っていくタイプの課題だと理解しておくことが重要です。

M&Aで名義株が引き起こす不都合

実際にM&Aの現場で名義株がどのような形で問題になるのか、代表的なものを整理します。

場面起きる不都合実務上の影響(一般的な傾向)
株式譲渡の実行株式譲渡は各株主が個別に契約する必要があり、名義人全員の協力(押印・書類提出)が要る1名でも協力が得られないと、その分の株式を移転できず取引の前提が崩れる
買い手の取得割合買い手が望む100%取得ができず、少数株主が残る買収後の意思決定に制約が残るため、買い手が難色を示す、価格が抑えられるなどの影響が出やすい
デューデリジェンス法務DDで株主構成の不備として指摘される解消を実行の前提条件(クロージング条件)とされたり、スケジュールが後ろ倒しになったりする
表明保証「株主名簿の記載が正確である」「株式に第三者の権利が付いていない」といった条項に抵触するおそれ後から名義人が権利を主張した場合、売り手が補償責任を負うリスクがある
名義人の相続名義人が亡くなると、相続人全員が交渉相手になる関係者が数名から十数名に増え、所在確認・説明・合意形成の負担が跳ね上がる
価格・条件交渉リスクが定量化しにくいため、買い手が保守的な条件を求める価格の減額、代金の一部留保(エスクロー)、特別補償の設定などにつながることがある

「全株主の協力が必要」という構造上の問題

中小企業のM&Aで最も多く用いられるのは株式譲渡です。この方式では、買い手は各株主から個別に株式を買い取る形になるため、対象となる株主一人ひとりの署名・押印と、印鑑証明書などの書類が必要になります。会社が「これは実質的には社長の株です」と説明しても、名義人本人の協力がなければ手続き上は先に進みません。M&Aの全体像はM&Aによる会社売却の流れで整理していますが、この「全株主の協力」というハードルは、流れのかなり後半——最終契約とクロージングの直前——で顕在化することが多く、それゆえに影響が大きくなります。

買い手が100%取得にこだわる理由

買い手が全株式の取得を強く望むのは、少数株主が残ると意思決定に制約が生じるためです。組織再編や重要な決議には一定割合以上の賛成が必要になる場面があり、また少数株主には帳簿の閲覧請求など会社に対する各種の権利が認められています。買収後にグループの方針を反映させたい買い手にとって、素性のはっきりしない少数株主が残ることは、それ自体がリスクです。譲渡制限株式種類株式の設計次第で緩和できる部分もありますが、根本的な解決にはなりません。

デューデリジェンスと表明保証

買い手が実施するデューデリジェンスでは、法務分野の基本項目として株主構成が確認されます。株主名簿、法人税申告書の別表二、設立時の書類、過去の株式異動の記録などが突き合わされ、整合しない点があれば必ず質問が来ます。

さらに、株式譲渡契約では売り手が株主構成について表明保証を行うのが一般的です。株式譲渡契約(SPA)の要点でも触れているとおり、表明した内容が事実と異なっていた場合、売り手が補償責任を負う可能性があります。名義株を「たぶん大丈夫だろう」と伏せたまま契約すると、クロージング後に名義人やその相続人から権利主張を受けたとき、売り手個人が矢面に立つことになりかねません。隠さずに開示し、事前に整理しておくことが、結果として売り手自身を守ります。

売却前に自社の課題を先回りして洗い出す取り組みはセルサイドDDと売却前の磨き上げで詳しく解説しています。名義株はその中でも、着手から解決までの期間が読みにくい代表的な項目です。

実質株主の判定で見られる材料

「誰が本当の株主か」は、名前だけで決まるものではなく、複数の事実を総合して判断されるのが一般的な考え方です。裁判例や税務の実務でも、出資金の負担者を中心に、その後の権利行使や経済的利益の帰属といった事情を積み上げて評価されます。実務でよく確認される材料を整理すると次のとおりです。

確認する材料見るポイント確認できる資料の例
出資金の出所払込金を実際に負担したのは誰か。最も重視されやすい要素設立時の払込金保管証明、当時の預金通帳、振込記録、資金の贈与の有無
配当の受領者配当を出していた場合、実際に受け取って自分のものにしていたのは誰か配当金支払明細、振込先口座、支払調書、名義人の確定申告の状況
株主総会への出席・議決権行使招集通知を受け、実際に出席や議決権行使をしていたか株主総会議事録、委任状、招集通知の送付記録
名義人本人の認識自分が株主だと認識していたか。「名前を貸しただけ」と述べているか本人・家族への聞き取り、当時のやり取りを示すメモや手紙
贈与税の申告の有無名義変更時に贈与として申告されていたか。申告がないことは名義のみを示す一材料になり得る贈与税申告書の控え、税理士の記録
当時の経緯を示す書類名義を借りた事情や、返還の約束が記録に残っているか発起人会の記録、覚書、当時の顧問税理士の記録、設立時の定款
株券・株主名簿の管理株券発行会社の場合、株券を誰が保管していたか。名簿の管理者は誰か株券の現物、保管状況、株主名簿の記載と更新履歴

これらのうち出資金の出所が最も重視されやすいとされますが、それ単独で結論が決まるわけではありません。たとえば出資金は社長が出していても、その後長年にわたり名義人が配当を受け取り、株主総会にも出席していたのであれば、贈与があったものとして名義人が真の株主だと評価される可能性もあります。反対に、出資金も社長、配当も社長の口座、名義人は総会に出たこともない、という状態であれば、名義株と判断されやすい方向に働きます。結論はケースにより異なるため、材料を集めたうえで弁護士・税理士に見解を求めるのが実務的です。

材料集めの段階では、結論を先に決めて都合の良い証拠だけを集めないことが大切です。不利な材料も含めて全体像を把握しておくほうが、後の交渉や買い手への説明で破綻しません。

株主名簿を整理する6つの手順

名義株の整理は、突然名義人に連絡して「名前を返してください」と伝えるところから始めるものではありません。事実関係を固め、相手の状況を把握したうえで、順序立てて進めます。一般的な流れは次のとおりです。

段階やること注意点
① 資料の突き合わせ株主名簿・法人税申告書別表二・設立時の書類・過去の異動記録を並べて整合を確認書類間で株主や株数が食い違うことが多い。どれが正しいかを決めつけず、差異をすべて洗い出す
② 名義人・相続人の所在確認現在の住所・連絡先、存命かどうか、亡くなっている場合の相続人を確認個人情報の取扱いに注意。戸籍等の取得が必要な場合は専門家に依頼する
③ 事実関係の聞き取り当時の経緯を本人・家族・元役員・顧問税理士などから聞き取る相手を追い詰める言い方をしない。感情的なこじれが最大の障害になる
④ 確認書の取り交わし「名義を貸したにすぎず、実質的な株主は◯◯である」旨を書面で確認文面は弁護士に確認してもらう。日付・署名・押印を備えた原本を保管する
⑤ 名義変更または買取確認書に基づく名義の是正、または対価を払って買い取るどちらの扱いにするかで税務上の取扱いが変わるため、事前に税理士に相談する
⑥ 株主名簿の更新株主名簿を書き換え、以後の管理体制を整える別表二など関連書類との整合も忘れずに。譲渡制限がある場合は承認手続きも要確認

① 資料の突き合わせ

出発点は現状把握です。株主名簿、法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)、設立時の定款・発起人の記録、過去の株式異動に関する書類を並べ、記載されている株主と株数を突き合わせます。実務では、株主名簿自体が長年更新されていない、あるいはそもそも作成されていないという会社も珍しくありません。その場合、別表二が事実上の株主リストとして機能していることが多く、まずはここから復元することになります。

この段階で「誰が」「何株」「いつから」保有していることになっているのかを一覧化し、根拠資料の有無を並記した表を作っておくと、以降の作業がぶれません。買い手やDDの担当者に説明する際にもそのまま使えます。

② 名義人・相続人の所在確認

次に、名義人が現在どこにいるのかを確認します。設立から数十年が経過していれば、転居している、連絡先が変わっている、すでに亡くなっているというケースが普通です。亡くなっている場合は相続人が権利を承継しているため、誰が相続人にあたるのかを戸籍等で確認する必要があります。この作業は手間がかかるうえ、取得できる資料に制約もあるため、司法書士や弁護士に依頼するのが現実的です。

③ 事実関係の聞き取りと合意

所在が分かったら、当時の経緯を確認します。ここは技術的な作業ではなく、人間関係の問題です。名義人やその家族にとっては、突然「あなたの名前は形式だけでした」と言われる話であり、警戒されるのが自然です。

  • 会社の現状と、なぜ今この話をしているのかを率直に説明する
  • 当時の資料(出資金の出所が分かる記録など)を示し、事実の確認としてお願いする
  • 相手が名義株であることを認識していれば、無償での確認書に応じてもらえることも多い
  • 認識が食い違う場合は、無理に押さず、いったん持ち帰って専門家と方針を練り直す
  • M&Aを検討していること自体は、秘密保持の観点から伝え方に注意が必要

なお、聞き取りの過程で「実は出資した記憶がある」といった話が出てくることもあります。その場合は名義株ではなく実在の少数株主として扱う可能性が出てくるため、方針を切り替える判断が必要です。

④ 確認書の取り交わし

合意ができたら、書面に残すことが決定的に重要です。口頭の了解だけでは、後日本人の気が変わったとき、あるいは相続が発生したときに、何も残りません。確認書には一般に、名義を貸した経緯、出資金を実際に負担した者、実質的な株主が誰であるか、今後株主としての権利を主張しない旨などを記載します。文面や必要な添付書類は事案によって異なるため、弁護士に内容を確認してもらったうえで取り交わすのが安全です。実印での押印と印鑑証明書の添付を求めておくと、後の手続きでも使いやすくなります。

⑤ 名義変更または買取

確認書をもとに、名義を実質株主に是正します。あくまで「元から実質株主のものだった」という整理であれば、名義の是正として処理されます。一方、名義人が権利を主張する、あるいは円満に収めるために対価を払って解決する場合は、株式の売買として処理することになります。どちらの扱いになるかで課税関係が変わるため、実行前に必ず税理士に相談してください。自社株を会社が取得する形も選択肢のひとつですが、財源規制など会社法上の制約があり、自己株式の取得のルールを踏まえた検討が必要です。

⑥ 株主名簿の更新と体制整備

最後に株主名簿を正しい内容に更新し、法人税申告書の別表二など関連書類とも整合させます。譲渡制限が付いている会社では、譲渡承認の手続きが必要になる場合があります。ここまで終えて初めて、買い手に対して「株主構成はクリアです」と説明できる状態になります。

買い取る場合の価格の考え方

名義人が無償での確認書に応じない場合や、円満な解決のために対価を払う場合、いくらで買い取るかが論点になります。ここで注意したいのが、当事者同士で合意した金額と、税務上の時価とが乖離しているときに生じる問題です。

税務上の時価との乖離が論点になる

非上場株式には市場価格がないため、税務上は一定の考え方に基づく評価額(税務上の時価)が観念されます。この時価から大きく離れた金額で売買すると、一般に次のような論点が生じ得ます。

取引の形想定される論点(一般論)留意点
時価より著しく低い価格で個人から個人へ差額部分について、みなし贈与として買主に贈与税の問題が生じ得る「著しく低い」の判断は個別事情による。事前の税理士確認が必須
時価より著しく低い価格で個人から法人へ法人側で受贈益、売主側でみなし譲渡の論点が生じ得る会社が自己株式として取得する場合の取扱いも別途検討が必要
時価より著しく高い価格で会社が役員等から取得差額が給与や役員賞与として扱われる論点が生じ得る損金算入の可否にも影響するため、価格の根拠を残す
適正と考えられる時価での売買原則として売主に譲渡所得の課税取得費の把握が難しい古い株式では計算方法の確認が要る

重要なのは、「当事者が納得しているから問題ない」とは限らないという点です。税務上の取扱いは当事者の合意とは別の物差しで判断されるため、価格を決める前に税理士に相談し、算定の根拠を書面で残しておくことが実務上の防御になります。

相続税評価とM&A価格は別物

もうひとつ混乱しやすいのが、相続税・贈与税の計算で使う評価額と、M&Aで買い手が払う価格は別物だという点です。前者は税制上の一定のルールに沿って算出されるもので、後者は買い手が将来の収益力やシナジーを踏まえて提示する価格です。同じ会社の株でも、両者は数倍の開きが出ることも珍しくありません。

それぞれの考え方は、事業承継の株価算定非上場株式の評価方法で整理しています。税務上の評価が絡む場面での専門家の役割は株価算定と税理士、事業承継まわりの税制の枠組みは事業承継税制も参考になります。いずれも一般的な整理であり、適用の可否や具体的な金額は個別事情で変わるため、税理士に確認してください。

名義株の買取価格を検討するタイミングは、M&Aの話が具体化する前が望ましいと言えます。売却価格の目線が固まった後に買い取ろうとすると、名義人側もその水準を意識するため、交渉が難航しやすくなります。

名義人が亡くなっている・連絡が取れない場合

実務で最も苦労するのがこのケースです。時間が経つほど発生確率が上がるため、名義株の整理を先送りするコストはここに表れます。

名義人が亡くなっている場合

名義人が亡くなっていれば、原則として相続人が権利を承継します。まず戸籍等をたどって相続人を特定し、全員から確認書や譲渡の合意を得る流れになります。相続人が複数いれば全員の協力が必要で、さらにその相続人が亡くなっていれば次の世代にまで広がります。1名の名義株が、数年後には十数名との交渉に化けることがあるのはこのためです。相続人にとっては「聞いたこともない会社の株」であり、事情の説明から始める必要があります。

所在が分からない場合

住民票や戸籍の附票をたどっても所在がつかめない株主については、会社法上、所在不明株主に関する制度が設けられています。一定の要件のもとで、その株式を競売または売却することができるとされる仕組みで、事業承継の場面での活用を念頭に置いた特例が設けられた経緯もあります。ただし、要件の充足や手続の進め方は専門的な判断を伴い、相応の期間もかかります。制度の存在を知っておいたうえで、実際に使えるかどうかは弁護士に相談するというのが現実的な向き合い方です。

また、相手が権利を主張して話し合いがまとまらない場合には、最終的に法的手続で解決を図る選択肢もあります。ただし時間も費用もかかり、M&Aのスケジュールとは相性がよくありません。実務では、多少の対価を払ってでも早期に合意する判断が取られることも少なくありません。どこで線を引くかは、案件の規模やスケジュール次第です。

名義株を作らない・増やさないための予防

いま名義株がない会社、あるいは整理を終えた会社でも、株主構成が再び乱れないようにする仕組みは必要です。

  • 株主名簿を正しく整備し、更新する:氏名・住所・株数・取得日を記載した名簿を作り、異動があれば速やかに反映します。別表二との整合も毎期確認します。
  • 譲渡制限を設ける:株式に譲渡制限を付けておけば、会社の承認なく第三者に株式が渡ることを防げます。詳しくは譲渡制限株式とはを参照してください。
  • 種類株式の活用を検討する:議決権のない株式などを組み合わせることで、資本政策と支配権のバランスを取れる場合があります。種類株式とはで整理しています。
  • 新株予約権などの潜在株式も把握する:将来株式に変わりうる権利が残っていないかも確認対象です。新株予約権とはもあわせてご覧ください。
  • 定期的な棚卸しを習慣にする:年に一度、決算のタイミングで株主構成を確認し、高齢の株主の状況や連絡先の変更を把握しておきます。
  • 相続の発生に備える:株主に相続が起きた際の対応方針を、あらかじめ専門家と相談して決めておきます。

承継全般をどこに相談すべきか迷う場合は、事業承継の相談先も参考になります。名義株は法律と税務の両方にまたがるため、弁護士と税理士が連携できる体制で進められると安心です。

よくある質問(FAQ)

Q. 自社に名義株があるかどうかは、どうやって見分ければよいですか?

A. まずは株主名簿と法人税申告書の別表二を確認し、記載されている株主に心当たりがあるかを洗い出すところから始めます。平成2年より前に設立された会社で、株主が7名前後いる配当を出したことがないのに株主が分散している株主総会に出席したことのない株主がいるといった特徴があれば、名義株の可能性を疑ってよいでしょう。決定的なのは出資金を誰が負担したかですが、古い記録が残っていないことも多く、当時を知る関係者への聞き取りが手がかりになります。判断に迷う場合は、資料を持参して弁護士・税理士に相談してください。

Q. 名義人が「自分の株だ」と主張して返してくれません。どうすればよいですか?

A. 一般に、実質的な株主が誰かは出資金の負担者を中心に諸事情を総合して判断されるため、まずは客観的な資料を集めて事実関係を固めることが先決です。そのうえで、話し合いで解決するのか、対価を払って買い取るのか、法的手続を検討するのかを判断します。感情的な対立に発展すると解決が長期化しやすいため、早い段階で弁護士に入ってもらい、交渉の窓口や進め方を整理するのが現実的です。M&Aを予定している場合は、スケジュールとの兼ね合いで「買い取って早く決着させる」判断が取られることもあります。

Q. 名義を戻すと贈与税がかかりますか?

A. ケースにより異なります。もともと実質的な株主のものであった株式の名義を是正するだけであれば、新たな財産の移転はないという整理もあり得ます。一方、名義人が真の株主であると評価される事情がある場合や、時価より著しく低い価格で買い取る場合には、贈与に関する論点が生じ得ます。事実関係の評価によって結論が変わる典型的な論点ですので、実行前に必ず税理士に相談し、判断の根拠を書面で残しておいてください。

Q. 名義株がごく少数(数%)でも問題になりますか?

A. なります。買い手が100%の取得を前提としている場合、株数の多寡にかかわらず「その1株が移せない」こと自体が障害になるためです。また、少数株主にも会社に対する一定の権利が認められており、買収後にトラブルの火種となる可能性があります。持株比率が小さいから放置してよい、という考え方は取らないほうが安全です。むしろ少数のうちは相手も納得しやすく、整理のコストも小さく済む傾向があります。

Q. M&Aの何か月前から着手すべきですか?

A. 一概には言えませんが、買い手探索を始める前に方針が固まっている状態が理想です。名義人が存命で連絡が取れ、事情も理解してもらえるケースなら数か月で片付くこともありますが、相続が発生していたり所在が不明だったりすると、1年以上かかることも珍しくありません。所要期間が読みにくい課題であるため、売却を意識し始めた段階で現状把握だけでも先に済ませておき、必要な作業量を見積もっておくことをおすすめします。少なくとも、デューデリジェンスで指摘されてから慌てて着手する事態は避けたいところです。

まとめ

名義株は、平成2年より前の商法で株式会社の設立に発起人7名が必要だったことを主な背景に、いまも多くの中小企業に残っています。日常の経営では表面化しませんが、M&Aや事業承継で株式を動かす段になると、株式譲渡に全株主の協力が要る、買い手が100%取得できない、デューデリジェンスで指摘されて価格やスケジュールに響く、表明保証違反のリスクを負う、名義人の相続で交渉相手が増える、といった形で一気に問題化します。

整理の進め方は、①資料の突き合わせ、②名義人・相続人の所在確認、③事実関係の聞き取り、④確認書の取り交わし、⑤名義変更または買取、⑥株主名簿の更新、という順序が基本です。実質的な株主が誰かは、出資金の出所を中心に、配当の受領、株主総会への出席、名義人の認識、贈与税の申告の有無、当時の経緯を示す書類といった材料を総合して判断されます。買い取る場合は税務上の時価との乖離に注意が必要で、価格の根拠を残しておくことが後の防御になります。そして何より、時間が経つほど関係者が増え、解決が難しくなる課題です。売却や承継を意識し始めたら、まずは現状把握から着手してください。法律・税務の判断は事案ごとに異なるため、具体的な進め方は弁護士・税理士に確認しながら進めることをおすすめします。

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