のれんの減損テストとは|兆候・認識・測定の手順と使用価値の計算
最終更新: 2026-10-31
結論から言うと、日本基準ののれんの減損テストは「兆候の把握 → 認識の判定 → 測定」の3段階で進みます。兆候があれば、のれんを含む単位の帳簿価額と割引前の将来キャッシュ・フローを比べ、下回ったときだけ、帳簿価額を回収可能価額(正味売却価額と使用価値のいずれか高い方)まで減額します。認識の段階は割引前、測定の段階は割引後という「二つの物差し」を使うため、判定をわずかに下回っただけでも、減損損失が大きな金額になることがあります。
本稿は、過去の買収でのれんを抱え、期末の減損判定に備える経営企画・経理の担当者と、これから買収価格を決める買い手の方に向けて、企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損基準」)と、企業会計基準委員会の「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」)にもとづく手順を整理します。のれんそのものの意味はのれん(営業権)とは、償却年数の決め方や減損の全体像はのれんの償却とはで解説しています。本稿はその続編として、減損テストの「手順」と「計算」に絞って掘り下げます。
のれんの減損テストの全体像
減損基準は、固定資産の帳簿価額のうち、収益性の低下によって回収が見込めなくなった部分を減額する仕組みです。のれんも無形固定資産としてこの対象に含まれます。ただし、のれんはそれ自体では独立したキャッシュ・フローを生まないため、単体で判定することはできません。そこで、のれんが帰属する事業の資産グループと組み合わせて判定するのが基本の考え方です。
| 段階 | 何をするか | 使う数字 |
|---|---|---|
| ① 兆候の把握 | 減損が生じている可能性を示す事象があるかを確認する | 営業損益の推移、経営環境、事業計画との乖離など |
| ② 認識の判定 | 帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローの総額を比べる | 割引前将来CF(見積期間は最長20年) |
| ③ 測定 | 帳簿価額を回収可能価額まで減額し、差額を減損損失とする | 正味売却価額と使用価値のいずれか高い方 |
日本基準では、兆候がなければ②③へは進みません。対象資産すべてについて毎期判定するのは実務上の負担が大きいためと、減損基準の設定に関する意見書で説明されています。この点が、のれんについて毎期テストを求めるIFRSとの大きな違いです(後述)。
ステップ1:のれんの減損の兆候
減損基準は、減損の兆候として次の4つの事象を例示しています。のれんについても、のれんを含む単位(買収した事業など)に当てはめて検討します。
| 減損基準の例示 | のれんの場面での読み替えの例 |
|---|---|
| ① 営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナス(または、その見込み) | 買収した子会社・事業の営業損益が赤字続き。減損適用指針では「継続して」はおおむね過去2期がマイナスであることとされ、当期の見込みが明らかにプラスなら該当しないとされる |
| ② 使用されている範囲・方法について、回収可能価額を著しく低下させる変化(または、その見込み) | 買収した事業の撤退・縮小の決定、主要拠点の閉鎖、事業の再編 |
| ③ 事業に関連する経営環境の著しい悪化(または、その見込み) | 主要顧客の喪失、規制の変更、技術の陳腐化、原材料高騰や販売価格の大幅下落 |
| ④ 市場価格の著しい下落 | のれんには市場価格がないため、主に事業に含まれる土地等の資産で問題になる |
M&Aののれんで特に注意したい「事業計画との乖離」
のれんの金額は、買収時に描いた事業計画にもとづいて支払った価格から生まれています。そのため実務では、上の例示に加えて、買収時の事業計画と実績との乖離が兆候の検討で重視されることが多くあります。営業損益がまだ黒字であっても、計画を大きく下回っている状態が続けば、②や③に当たらないかを監査法人と議論することになります。黒字かどうかだけで「兆候なし」と判断するのは危険です。
- 売上・営業利益が、取得時の事業計画を一定程度以上下回る状態が続いている
- 買収時に見込んだシナジー(M&Aのシナジー)の実現が大きく遅れている、または見込めなくなった
- キーパーソンの退職や主要取引先との契約終了など、買収の前提が崩れた
- 統合(PMI)の過程で、事業の範囲を縮小・再編する決定をした
どの程度の乖離を「著しい」と見るかについて、減損基準に数値の線引きはありません。会社ごとに社内の判断基準を決め、継続して適用しておくと、監査対応の説明がしやすくなります。基準の作り方は監査法人と事前にすり合わせておくのが安全です。
ステップ2:認識の判定(割引前将来キャッシュ・フロー)
兆候がある場合、資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比べ、割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回るときに減損損失を認識します。割引前で比べるのは、将来キャッシュ・フローの見積りが主観的になりやすいことを踏まえ、「減損の存在が相当程度に確実な場合に限って認識する」という考え方によるものです。
見積期間は「主要な資産の経済的残存使用年数」と20年の短い方
割引前将来キャッシュ・フローを見積る期間は、資産の経済的残存使用年数、または資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方とされています。主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合は、21年目以降のキャッシュ・フローにもとづいて20年経過時点の回収可能価額を算定し、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに加算します。
のれんを含む単位で何を「主要な資産」とみるか、のれんの残存償却期間と見積期間の関係をどう整理するかは、事業の実態によって判断が分かれやすい論点です。会社の方針を決める前に監査法人に確認してください。
将来キャッシュ・フローの見積りのルール
減損基準では、将来キャッシュ・フローの見積りについて次のような定めがあります。DCF法による事業価値の算定と似ていますが、目的が「時価の算定」ではなく「その企業にとって帳簿価額が回収できるかの判定」である点が異なります。
- 企業に固有の事情を反映した、合理的で説明可能な仮定および予測にもとづいて見積る
- 現在の使用状況と合理的な使用計画を考慮する。計画されていない将来の設備の増強や事業再編の効果は含めない
- 現在の価値を維持するための合理的な設備投資は見積りに含める
- 本社費などの間接的な支出は、合理的な方法で配分して控除する
- 利息の支払額、法人税等の支払額・還付額は含めない
- 最も可能性の高い単一の金額、または複数のシナリオの確率加重平均(期待値)のいずれかで見積る
特に見落としやすいのが本社費の配分と未計画の改善策の除外です。買収した事業の損益を本社費控除前で見ていると、減損判定では想定より厳しい数字になることがあります。また、「来期から新しい施策で巻き返す」という見込みも、合理的な使用計画として承認された計画でなければ織り込みにくい点に注意が必要です。キャッシュ・フローの考え方そのものはフリーキャッシュフロー(FCF)とはも参考になります。
ステップ3:測定(回収可能価額まで減額)
減損損失を認識すべきと判定された場合、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その差額を当期の減損損失とします。回収可能価額は、売却による回収額と使用による回収額のいずれか高い方です。
| 項目 | 定義(減損基準の考え方) | 実務での主な求め方 |
|---|---|---|
| 正味売却価額 | 資産または資産グループの時価から処分費用見込額を控除した金額 | 事業を売却すると仮定した価格。市場価格がなければ合理的に算定した価額(事業の場合は評価手法を用いることが多い) |
| 使用価値 | 継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値 | 将来キャッシュ・フローを割引率で現在価値に割り引く(DCF法と同じ計算構造) |
| 回収可能価額 | 正味売却価額と使用価値のいずれか高い方 | 多くの場合、継続保有を前提に使用価値が中心になる |
減損損失は、固定資産に関する臨時的な損失として原則として特別損失に計上します。また日本基準では、いったん計上した減損損失は、その後に回収可能価額が回復しても戻し入れません。測定の段階で使う割引計算の考え方はDCF法とは、見積期間の後の価値の扱いはターミナルバリュー(継続価値)とはで詳しく解説しています。
のれんを含む「より大きな単位」での判定
のれんの減損の判定には、減損基準上、2つの方法があります。原則は「より大きな単位」で判定する方法で、のれんを合理的な基準で各資産グループに配分できる場合には、配分したうえで判定する方法も認められています。
| 方法 | 判定の進め方 | 減損損失の配分 |
|---|---|---|
| より大きな単位で判定(原則) | まず、のれんを含まない各資産グループごとに判定・測定し、その後、のれんを含むより大きな単位で判定する | のれんを加えたことで増えた減損損失は原則としてのれんに配分。のれんの帳簿価額を超える部分は、合理的な基準で各資産グループに配分する |
| 各資産グループに配分して判定 | のれんの帳簿価額を関連する資産グループに配分し、のれんを含めた各資産グループで判定する(兆候の有無にかかわらず配分する) | 各資産グループで認識した減損損失は、のれんに優先的に配分し、残額を各構成資産に配分する |
また、一つの取引で複数の事業を取得し、取得の対価がおおむね独立して決まり、取得後も内部管理上それぞれ独立して業績を評価している場合には、のれんの帳簿価額をまず取得した事業の単位に応じて合理的な基準で分割します。複数の事業ののれんを一括して減損処理するのは適当でない、というのが減損基準の考え方です。
いずれの方法でも、どこまでを一つの単位とするかで結論が変わり得ます。グルーピングは「他の資産または資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位」で行うとされ、都合のよいように広げたり狭めたりできるものではありません。買収後に事業を統合して運営している場合ほど判断が難しくなるため、早めに監査法人と協議しておきましょう。
使用価値の割引率とWACCの関係
減損基準では、使用価値の算定に用いる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とされています。将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクをキャッシュ・フロー側に反映していない場合は、そのリスクを割引率に反映させます。逆に、リスクをキャッシュ・フローの見積りに反映させる方法をとるなら、割引率は貨幣の時間価値だけを反映した無リスクの割引率になります。
実務では、事業の資本コストであるWACC(加重平均資本コスト)を出発点に、税引前の割引率へ換算して使うことが多くあります。ここで注意したいのは、M&Aの価値算定で使うWACCは通常税引後だという点です。減損基準のキャッシュ・フローは法人税等の支払額を含まない税引前の数字なので、割引率も税引前でそろえる必要があります。
| 比較項目 | M&Aの価値算定(DCF法) | 減損テストの使用価値 |
|---|---|---|
| キャッシュ・フロー | 税引後のFCFが一般的 | 税引前(法人税等の支払額・還付額を含めない) |
| 割引率 | 税引後WACCが一般的 | 税引前の利率 |
| 見積りの前提 | 市場参加者や買い手の視点(シナジーを含めることもある) | 企業に固有の事情と合理的な使用計画。未計画の再編・増強は含めない |
| 目的 | 取引価格の算定 | 帳簿価額が回収できるかの判定・測定 |
税引後WACC 4.5%、実効税率30%と仮定すると、簡便的な割り戻しでは 4.5% ÷(1−0.30)≒ 約6.4%。
ただし、この簡便法はあくまで目安です。税引後のキャッシュ・フローを税引後割引率で割り引いた現在価値と一致するように税引前割引率を逆算する方法もあり、税務上の償却の有無などで結果が変わります。採用する方法は監査法人に確認してください。WACCの部品のうち株主資本コストの推計はCAPM(株主資本コスト)とは、数字を入れた試算はWACC計算ツールで確認できます。
計算例:のれんを含む単位の減損テスト(仮の数字)
ここでは「より大きな単位」で判定する方法を、仮の数字で一通り計算します。前提は次のとおりです。
| 前提(すべて仮の数字) | 金額・条件 |
|---|---|
| 買収した事業ののれん(期末帳簿価額) | 5.0億円 |
| 資産グループA(工場設備など)の帳簿価額 | 4.0億円 |
| 資産グループB(営業拠点など)の帳簿価額 | 1.0億円 |
| のれんを含む単位の帳簿価額 合計 | 10.0億円 |
| 兆候 | 2期連続で事業計画を大きく下回り、主要顧客との取引縮小が決まった |
| 見積期間 | 主要な資産の経済的残存使用年数10年(20年より短い) |
| 将来キャッシュ・フロー(税引前・本社費配分後) | 毎年0.9億円×10年、10年後の処分による収入0.6億円 |
| 使用価値の割引率(税引前) | 6% |
| 正味売却価額(事業を売却した場合の見積り) | 5.5億円 |
① 資産グループごとの判定
まず、のれんを含まない資産グループごとに判定します。仮に、資産グループAの割引前将来キャッシュ・フローが7.0億円(帳簿価額4.0億円)、資産グループBが2.6億円(帳簿価額1.0億円)とすると、いずれも割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を上回るため、資産グループ単独では減損損失を認識しません。
② のれんを含むより大きな単位での判定
次に、のれんを加えた単位で判定します。割引前将来キャッシュ・フローの総額は 0.9億円×10年+0.6億円=9.6億円(AとBの合計7.0億円+2.6億円と一致)です。帳簿価額の合計10.0億円を下回るため、減損損失を認識します。
③ 測定
使用価値は、毎年0.9億円を6%で10年分割り引いた現在価値(約6.62億円)と、処分収入0.6億円の現在価値(約0.34億円)の合計で約6.96億円です。正味売却価額5.5億円より高いため、回収可能価額は約6.96億円となります。
| 項目 | 金額(仮の数字) |
|---|---|
| のれんを含む単位の帳簿価額 | 10.00億円 |
| 割引前将来キャッシュ・フロー | 9.60億円(帳簿価額を下回る → 認識) |
| 使用価値(割引率6%) | 約6.96億円 |
| 正味売却価額 | 5.50億円 |
| 回収可能価額(高い方) | 約6.96億円 |
| 減損損失 | 約3.04億円 |
| 配分 | 全額をのれんに配分(のれん5.0億円 → 約1.96億円) |
資産グループ単独では減損損失がゼロなので、のれんを加えたことで増えた減損損失は約3.04億円全額です。これはのれんの帳簿価額5.0億円の範囲内なので、全額をのれんに配分し、資産グループA・Bの帳簿価額はそのまま残ります。仮に減損損失がのれんの帳簿価額を超えていたら、その超過額を合理的な基準でA・Bに配分することになります。
この計算例から分かること
割引前将来キャッシュ・フロー9.6億円は、帳簿価額10.0億円をわずか4%下回っただけです。それでも、測定は割引後の使用価値で行うため、減損損失は帳簿価額の約3割に当たる約3.04億円になりました。反対に、割引前将来キャッシュ・フローが10.1億円であれば、使用価値が帳簿価額を大きく下回っていても、日本基準では減損損失を認識しません。この「認識の崖」が、日本基準の減損の特徴です。
また、割引率の前提ひとつで結果は動きます。同じキャッシュ・フローで割引率だけを変えると、次のようになります。
| 割引率(税引前・仮) | 使用価値 | 減損損失 |
|---|---|---|
| 5% | 約7.32億円 | 約2.68億円 |
| 6% | 約6.96億円 | 約3.04億円 |
| 7% | 約6.63億円 | 約3.37億円 |
| 8% | 約6.32億円 | 約3.68億円 |
割引率が1ポイント変わるだけで、減損損失は3,000万円以上動きます。割引率の根拠を文書化しておくことが、監査対応で重要になる理由です。
IFRSとの違い:毎期のテストと1ステップの判定
IFRS(IAS第36号「資産の減損」)では、のれんは定期償却せず、兆候の有無にかかわらず毎期(加えて兆候があるときにも)減損テストを行います。のれんは、企業結合のシナジーから便益を受ける資金生成単位(CGU)またはそのグループに配分して判定します。判定は、帳簿価額と回収可能価額(処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方)を直接比べる1ステップで、日本基準のような割引前将来キャッシュ・フローによる認識の段階はありません。
| 論点 | 日本基準 | IFRS |
|---|---|---|
| のれんの償却 | 20年以内で規則的に償却 | 償却しない |
| テストの頻度 | 兆候がある場合に実施 | 毎期実施(兆候があればその都度も) |
| 判定の段階 | 2段階(割引前CFで認識 → 回収可能価額で測定) | 1段階(帳簿価額と回収可能価額を直接比較) |
| 判定の単位 | のれんを含むより大きな単位(または各資産グループに配分) | のれんを配分したCGUまたはCGUグループ |
| 減損損失の戻入れ | 行わない | のれんについては行わない |
先ほどの計算例をIFRSに当てはめると、違いがはっきりします。IFRSではのれんを償却しないため、取得時ののれん(仮に6.25億円)が残り、帳簿価額は11.25億円のままです。これを回収可能価額約6.96億円と直接比べると、減損損失は約4.29億円になります(その他の資産の測定差は無視した簡略計算)。また、割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を上回る場合でも、回収可能価額が帳簿価額を下回れば減損損失を計上します。日本基準より早い段階で減損が表面化しやすい構造だと言えます。会計基準による違いの全体像はIFRSと日本基準の評価の違いも参考にしてください。
個別財務諸表との関係
連結財務諸表でのれんの減損を検討する場面では、親会社の個別財務諸表で子会社株式の評価も同時に問題になることが多くあります。買収価格に含まれた超過収益力が失われれば、連結ではのれんの減損、個別では子会社株式の減損として表れるという関係です。両者の判定の考え方は異なるため、個別財務諸表側の論点は子会社株式の減損で整理しています。結論に矛盾が生じないよう、連結と個別の検討資料は同じ事業計画にもとづいて作るのが基本です。
買収時に減損リスクを下げる価格と事業計画の作り方
減損リスクの大部分は、買収時点で決まっています。のれんの金額は「買収価格 − 取得した資産・負債の時価」で決まり、その後の減損テストは買収時の事業計画を基準に行われるからです。買い手としてできる備えを整理します。
1. 支払う価格の根拠を、減損テストと同じ物差しで確かめる
買収価格を決める段階で、減損テストで使うのと同じ構造(税引前・本社費配分後・合理的な使用計画ベース)で将来キャッシュ・フローを見積り、帳簿価額との余裕(ヘッドルーム)がどの程度あるかを確かめておくと、取得直後の減損リスクを把握できます。買収価格が評価レンジの上限に張り付いている場合は、計画のわずかな下振れで兆候に当たる可能性があります。価格の妥当性の確かめ方は買収価格の妥当性検証で解説しています。
2. シナジーを「誰の努力で実現するか」で切り分ける
買い手にしか実現できないシナジーまで売り手に支払うと、その分のれんが膨らみます。しかも、シナジーの実現が遅れると、減損の兆候に直結します。シナジーを確度別に分け、価格に織り込むのは確度の高い部分にとどめるのが、減損リスクを抑える基本的な考え方です。
3. 事業計画は「達成できる計画」として作る
減損テストでは、買収時の事業計画と実績が比べられます。社内承認を通すために楽観的な計画を作ると、それが後に兆候判定の基準になってしまいます。売上成長率や利益率は、過去の実績や同業の水準と照らして説明できる範囲に置き、下振れケースも併せて用意しておきましょう。稟議資料としての算定書の作り方は稟議用の株価算定書を参考にしてください。
4. 無形資産の識別でのれんの中身を明確にする
取得原価の配分(PPA)で顧客関連資産や技術などの無形資産を識別すると、のれんとして残る金額と、その中身の説明が明確になります。識別の考え方はPPA(取得原価の配分)で解説しています。
5. 価格の一部を将来の業績に連動させる
将来の業績が不確かな場合、対価の一部を業績達成に応じて支払うアーンアウトなどの価格調整の仕組みを使うと、当初に支払う金額を抑えられます。仕組みの全体像はM&Aの価格調整を、買収前の調査で計画の前提を確かめる方法はデューデリジェンスとはをご覧ください。なお、条件付取得対価の会計処理は個別に検討が必要なため、監査法人に確認してください。
監査対応:準備しておきたい資料と論点
のれんの評価は、見積りの不確実性が高いため、監査で重点的に検討されやすい領域です。上場会社では「監査上の主要な検討事項(KAM)」として取り上げられることも多く、会計上の見積りの開示に関する会計基準(企業会計基準第31号)にもとづく注記の対象になることもあります。期末直前に慌てないよう、次の資料を早めにそろえておきましょう。
| 準備する資料 | 監査で確認されやすい点 |
|---|---|
| 兆候の判定資料 | 事業計画との乖離の度合い、社内基準の内容と継続適用 |
| 資産グルーピングとのれんの帰属の整理 | 独立したキャッシュ・フローを生む最小単位か、前期から変えていないか |
| 承認済みの事業計画 | 取締役会等での承認の有無、過去の計画の達成状況(予実) |
| 将来キャッシュ・フローの見積り | 本社費の配分、未計画の再編・増強を含めていないか、見積期間の根拠 |
| 割引率の算定資料 | 税引前への換算方法、リスクの反映先(CFか割引率か)の一貫性 |
| 正味売却価額の根拠 | 時価の算定方法、処分費用の見込み |
| 感応度分析 | 主要な仮定(売上成長率・利益率・割引率)が変わったときの結論の変化 |
特に重視されやすいのが、過去の事業計画の達成状況です。毎期計画を下回っている会社が、将来だけは計画どおりに回復すると説明するのは難しいため、計画の見直しや下振れケースの検討を求められることがあります。判定の考え方や必要な資料の範囲は会社ごとに異なるため、期中のうちに監査法人と論点を共有しておくのが確実です。
よくある質問(FAQ)
Q. 黒字なら、のれんの減損は起きませんか?
A. 黒字でも起こり得ます。減損の兆候は営業損益のマイナスだけではなく、経営環境の著しい悪化や事業の使用範囲の変化も含みます。M&Aののれんでは、買収時の事業計画との乖離が大きい場合に兆候として検討されることが多いため、黒字かどうかだけで判断しないことが大切です。
Q. 認識の判定と測定で、なぜ違う数字を使うのですか?
A. 将来キャッシュ・フローの見積りは主観的になりやすいため、日本基準では、割引前の金額でも帳簿価額を回収できない「減損が相当程度に確実な場合」に限って減損損失を認識する考え方をとっています。いったん認識すると決まったら、帳簿価額を回収可能価額(割引後の使用価値などの高い方)まで減額します。
Q. 減損テストの割引率に、M&A時のWACCをそのまま使えますか?
A. そのままは使えないことが多いです。減損基準では使用価値の割引率は税引前の利率とされている一方、M&Aの価値算定で使うWACCは通常税引後です。また、買収時点から金利水準や事業のリスクが変わっていれば、算定し直す必要もあります。換算方法は監査法人に確認してください。
Q. 減損したのれんは、業績が回復したら戻せますか?
A. 戻せません。日本基準では減損損失の戻入れは行わず、IFRSでものれんの減損損失は戻し入れません。減損後は、切り下げた帳簿価額を残りの期間で償却していくことになります(日本基準)。
まとめ
のれんの減損テストは、兆候の把握、割引前将来キャッシュ・フローによる認識の判定、回収可能価額までの減額(測定)の3段階で進みます。のれんは単独ではキャッシュ・フローを生まないため、のれんを含むより大きな単位(または各資産グループに配分した単位)で判定し、増えた減損損失はまずのれんに配分します。使用価値の割引率は税引前の利率とされ、税引後のWACCとは換算が必要です。
日本基準では、割引前の判定をわずかに下回っただけで大きな減損損失になる「認識の崖」があり、IFRSでは毎期の1ステップのテストで減損がより早く表面化しやすくなります。いずれの基準でも、減損リスクの大部分は買収時の価格と事業計画で決まります。買収前に、減損テストと同じ物差しで将来キャッシュ・フローと余裕の幅を確かめておくことが、将来の減損を避ける近道です。具体的な会計処理は、必ず監査法人・会計士にご確認ください。
なお、当サイトでは決算書の数値をもとに、DCF法と類似会社比較法を併用した企業価値の評価を試算できます(会員登録と試算までは無料で、報告書は有料)。将来キャッシュ・フローと割引率から価値を試算する感覚をつかむには、DCF法 計算ツールも使えます。詳しくはM&Aバリュークラウドのトップページをご覧ください。