役員退職金の功績倍率とは|計算方法と国税庁・判例の考え方を解説
最終更新: 2026-10-25
役員退職金の金額を決めるとき、よく登場するのが功績倍率という言葉です。「社長は3倍まで」といった話を聞いたことがある方も多いと思いますが、その数字がどこから来ていて、税務上どこまで通用するのかは意外と正確に語られていません。
結論を先に整理すると、功績倍率法は「最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」で役員退職金の目安を出す方法です。国税庁の法人税基本通達には功績倍率法の定義がありますが、役職ごとの倍率の数値表は示されていません。税務上「不相当に高額」かどうかが争われた裁決・判決では、同業種・類似規模の法人の平均功績倍率を当てはめる考え方が中心になっています。
本稿では、功績倍率法の算式と1年当たり平均額法との違い、法人税法の判断要素、公表されている裁決・判決の内容、最終報酬月額や分掌変更をめぐる論点、受け取る側の退職所得の計算と手取りまでを、数値例を通して順に解説します。自社株評価への影響は役員退職金と自社株評価で詳しく扱っていますので、本稿では要点にとどめます。なお、税額や制度は改正や個別事情で変わります。実際の支給額は必ず税理士等の専門家に確認してください。
功績倍率法とは:役員退職金の目安を出す算式
功績倍率法は、退任する役員の最終報酬月額に、役員として在任した年数と、役職や貢献に応じた倍率を掛けて退職金の額を算定する方法です。
役員退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
それぞれの要素には意味があります。最終報酬月額は在任期間を通じた会社への貢献が最終的に反映された水準、在任年数は貢献した期間の長さ、功績倍率は役職の責任の重さや功績の度合いを表す係数、という位置づけです。
国税庁の法人税基本通達9-2-27の3は、功績倍率法を「役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法」と定義し、この方法で支給する退職給与は業績連動給与に該当しないと整理しています。つまり、功績倍率法という計算方法そのものは通達上も前提とされているものの、何倍が妥当かという数値までは通達に書かれていません。
「功績倍率」と「平均功績倍率」は別物
言葉が似ているため混同されやすいのですが、実務では二つの使い方があります。
| 用語 | 意味 | 主に使われる場面 |
|---|---|---|
| 功績倍率(自社の倍率) | 自社の役員退職慰労金規程で定める倍率。役職ごとに設定することが多い | 支給額を決める社内の計算 |
| 平均功績倍率 | 同業種・類似規模の法人が実際に支給した退職給与から逆算した功績倍率の平均値 | 税務上、支給額が不相当に高額かを検証する場面 |
会社が規程で3.0倍と定めていても、税務上の検証では同業類似法人の平均功績倍率と比べられる可能性がある、という点がポイントです。規程があることは手続き上大切ですが、規程の倍率がそのまま税務上の上限として認められるわけではありません。
1年当たり平均額法との違い
功績倍率法と並んで語られるのが1年当たり平均額法です。これは、同業類似法人の役員退職給与の額を在任年数で割った「1年当たりの平均額」に、退任役員の在任年数を掛けて相当額を求める方法で、最終報酬月額を計算の基礎にしない点が異なります。
| 比較の観点 | 功績倍率法 | 1年当たり平均額法 |
|---|---|---|
| 計算の基礎 | 最終報酬月額 × 在任年数 × 倍率 | 類似法人の1年当たり退職給与額 × 在任年数 |
| 最終報酬月額の影響 | 大きく受ける | 受けない |
| 向いている場面 | 最終報酬月額が在任中の貢献を適正に反映している場合 | 最終報酬月額が貢献に比べて著しく低いなど特段の事情がある場合 |
国税不服審判所の昭和61年9月1日裁決(裁決事例集No.32)は、最終報酬月額が在職期間を通じた貢献を適正に反映しておらず低額であるなどの特段の事情があるときは、最終報酬月額を基礎とする功績倍率法は妥当でなく、1年当たり平均額法による方がより合理的であると判断しています。退任前に報酬を大きく下げていた場合などに検討される考え方です。
「社長は3.0倍」という目安の出どころと注意点
インターネットや書籍では「代表取締役3.0倍、専務2.5倍、取締役2.0倍」といった役職別の目安がよく紹介されます。しかし、これは国税庁が公式に示した倍率表ではありません。法人税法・同施行令・法人税基本通達のいずれにも、役職別の功績倍率の数値は定められていません。
こうした数値は、過去の裁決や裁判で認定された倍率や、民間の調査資料などをもとに、実務上の目安として語られてきたものと考えられます。実際に公表されている裁決・判決を見ると、認定された倍率は事案ごとにかなり幅があります。
| 裁決・判決 | 認定・言及された倍率 | 内容の要点 |
|---|---|---|
| 国税不服審判所 昭和59年12月25日裁決(裁決事例集No.28) | 3倍 | 専務取締役の全期間の功績を評価し、類似法人の平均功績倍率に近似する3倍で計算した請求人の計算に不合理はないとした |
| 国税不服審判所 平成19年11月15日裁決(裁決事例集No.74) | 1.9 | 請求人は「功績倍率3.3〜3.6倍は定着している」と主張したが、比較法人3社の平均功績倍率1.9を相当とした |
| 東京高等裁判所 平成30年4月25日判決(税務訴訟資料268号順号13149) | 3.26 | 類似法人5社の功績倍率(4.31〜2.13)の平均3.26を適用。第一審が認めた「平均の1.5倍(4.89)」までの許容を取り消した |
特に平成19年の裁決は、「裁判事例や裁決事例と異なるというだけで、平均功績倍率が社会通念上不相当に低率であるということはできない」と述べています。つまり、「3.0倍なら安全」という一律の基準はないというのが公表事例から読み取れる姿です。同業類似法人の平均が2倍を下回れば、3.0倍で計算した退職金の一部が否認される可能性もあります。
法人税法の「不相当に高額」の判断要素
役員退職金は、会社にとって原則として損金になります。法人税法34条1項は、定期同額給与などの要件を課す対象から「退職給与で業績連動給与に該当しないもの」を除いているためです。ただし同条2項により、役員に支給する給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません。
退職給与についての判断要素は、法人税法施行令70条2号に定められています。条文は、退職給与の額が次の事情に照らして相当と認められる金額を超える場合、その超える部分を不相当に高額な部分とする、という構造です。
- その役員がその法人の業務に従事した期間(在任年数)
- その退職の事情(業務上の死亡、任期満了、引責辞任など)
- 同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等
三つ目の「同業類似法人の支給状況」を数値化したものが平均功績倍率であり、功績倍率法が税務の場面で使われる理由もここにあります。前述の東京高裁平成30年4月25日判決は、同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、平均功績倍率法が法人税法34条2項・同施行令70条2号の趣旨に最も合致する方法であると述べています。また、在任期間や退職の事情以外の個別事情は、原則として同業類似法人の支給状況に織り込まれていると考えるべきで、別途「功労加算」を考慮するのは極めて特殊な事情がある場合に限られる、という趣旨も示しています。
否認されるとどうなるか
不相当に高額と判断された部分は損金不算入となり、会社に法人税等の追加負担と加算税が生じる可能性があります。支給額を決めたあとで減らすことは難しいため、支給前に算定根拠を整え、同業類似法人の水準と比べておくことが大切です。
損金に算入する時期
法人税基本通達9-2-28は、退職した役員の退職給与は株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度の損金とし、支払った事業年度に損金経理した場合もこれを認める、としています。退任の時期と決議・支払いの時期が決算期をまたぐ場合は、どの期の損金になるかを事前に確認しておく必要があります。
最終報酬月額をめぐる論点:退職直前に上げた・下げた場合
功績倍率法は最終報酬月額に大きく左右されるため、この金額をどう扱うかがよく問題になります。
退職直前に報酬を引き上げた場合
退任の直前に報酬を引き上げて最終報酬月額を高くすると、計算上の退職金も増えます。しかし、功績倍率法が最終報酬月額を使うのは、それが在任中の功績を反映しているという前提があるからです。前述の東京高裁判決も「最終月額報酬額は当該役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を通常反映している」と述べています。退職金を増やす目的だけで直前に増額した報酬は、この前提を欠くものとして相当性を問われる可能性があります。
また、期中に役員報酬を増額すると、通常の役員報酬(定期同額給与)の損金算入要件との関係も問題になります。改定の時期や理由については税理士等の専門家に確認してください。
退職前に報酬を大きく下げていた場合
反対に、業績悪化や後継者への権限移譲で退任前に報酬を大幅に下げていた場合、最終報酬月額をそのまま使うと退職金が過小に算定されます。この場合は、前述の昭和61年裁決のように、1年当たり平均額法の方が合理的とされる余地があります。報酬を下げた経緯と理由を議事録などに残しておくと、後から説明しやすくなります。
賞与を最終報酬月額に含めるか
東京高裁平成30年判決の事案では、納税者側が年額の賞与を月割りして最終報酬月額に加えるべきと主張しましたが、会社自身が規程上の計算で賞与を含まない月額を基礎にしていたことなどから、認められませんでした。規程で何を最終報酬月額とするかを明確にしておくことが重要です。
分掌変更による退職金(法人税基本通達9-2-32)
事業承継では、社長が代表権を後継者に譲って会長として残るケースがよくあります。役員として会社に残る場合でも、一定の場合には退職金を支給して損金とすることが認められています。その根拠が法人税基本通達9-2-32で、分掌変更等により役員としての地位または職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合に、退職給与として扱うことができるとしています。例示されているのは次の三つです。
- 常勤役員が非常勤役員になったこと(代表権を持つ人や、実質的に経営上主要な地位を占める人を除く)
- 取締役が監査役になったこと(実質的に経営上主要な地位を占める人などを除く)
- 分掌変更後の給与がおおむね50%以上減少したこと(分掌変更後も経営上主要な地位を占める人を除く)
注意したいのは、どの例示にも「実質的に経営上主要な地位を占めている者を除く」という趣旨の条件が付いている点です。報酬を半分以下に下げても、引き続き経営判断に関与していれば退職とは認められない可能性があります。国税不服審判所の平成29年7月14日裁決では、代表取締役社長から代表権のない取締役会長になった役員について、地位や職務に相当程度の変動はあったものの、分掌変更後も経営や業務において主要な地位を占め重要な決定事項に関与していたとして、支給した金員は損金算入できる退職給与に該当しないと判断されました。
また、同通達の注書きでは、退職給与として支給した給与には原則として未払金等に計上しただけのものは含まれないとされています。分掌変更時の退職金は、実際に支払うことが前提になると考えておくのが安全です。
反対に、国税不服審判所の令和2年12月15日裁決では、代表取締役と取締役を辞任した元代表者について、辞任後も経営に従事していたと認めるに足りる客観的な証拠がなく、退職後に報酬も受けていないことなどから、退職の事実があるとして退職金の損金算入が認められています。退任後の関与の実態が判断を分けるということです。
弔慰金との違い
役員が在任中に亡くなった場合、遺族には死亡退職金のほかに弔慰金が支払われることがあります。両者は相続税上の扱いが異なります。
| 区分 | 相続税上の扱い(執筆時点) |
|---|---|
| 死亡退職金 | 死亡後3年以内に支給が確定したものはみなし相続財産。500万円 × 法定相続人の数までは非課税 |
| 弔慰金(業務上の死亡) | 死亡当時の賞与以外の普通給与の3年分に相当する金額までは弔慰金として扱い、超える部分は退職手当金等とする |
| 弔慰金(業務上でない死亡) | 死亡当時の賞与以外の普通給与の半年分に相当する金額までは弔慰金として扱い、超える部分は退職手当金等とする |
上記は相続税法基本通達3-20と国税庁タックスアンサーNo.4117による整理です。法人側の損金算入の判断でも、業務上の死亡という退職の事情は考慮されます。国税不服審判所の平成2年12月20日裁決では、平均功績倍率で計算した通常の退職給与額に、相続税法基本通達3-20に準じて普通給与の3年分を加算した金額を適正額とし、これを超える部分を不相当に高額とした原処分が相当とされています。相続税への影響は相続税の計算ツールでも概算できます。
受け取る側の税金:退職所得の計算
役員退職金を受け取った個人には、所得税・復興特別所得税と住民税がかかります。退職所得は他の所得と分離して計算され、次の算式が原則です(所得税法30条、国税庁タックスアンサーNo.1420)。
(退職金の収入金額 − 退職所得控除額) × 1/2
退職所得控除額
| 勤続年数(1年未満の端数は切り上げ) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年) |
たとえば勤続25年なら、800万円+70万円×5年=1,150万円が控除されます。前年以前に他の退職金を受け取っている場合などは控除額の計算が変わることがあります。
勤続5年以下の役員は1/2にならない
役員等としての勤続年数が5年以下の人が、その期間に対応して受け取る退職金は特定役員退職手当等とされ、1/2を掛ける計算が適用されません(所得税法30条2項・5項)。M&Aの後に買い手から派遣された役員や、設立間もない会社の役員などで問題になりやすいルールです。
なお、役員以外の従業員として勤続5年以下の場合は短期退職手当等として、控除後の金額のうち300万円を超える部分について1/2計算が適用されません。
源泉徴収と「退職所得の受給に関する申告書」
「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していれば、会社が退職所得に応じた税額を源泉徴収するため、原則として確定申告は不要です。提出していない場合は支払金額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算します。
数値例:最終報酬月額100万円・在任25年・倍率3.0の場合
ここまでの内容を、一つの数値例で通して計算してみます。前提は次のとおりです(令和8年中の支払いを想定。数字は目安です)。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 最終報酬月額 | 100万円 |
| 役員在任年数(=勤続年数) | 25年 |
| 功績倍率(社内規程) | 3.0 |
| その他 | 他の所得・他の退職金なし。「退職所得の受給に関する申告書」を提出済み |
ステップ1:支給額
100万円 × 25年 × 3.0 = 7,500万円。これが社内規程による支給額です。税務上の相当額かどうかは、同業類似法人の平均功績倍率と照らして別途検討が必要です。
ステップ2:法人側の損金と株式価値
7,500万円の全額が相当と認められれば、支給した事業年度の損金になります。仮に法人税等の実効税率を30%とすると、法人税等の負担は約2,250万円軽くなる計算です。同時に現金7,500万円が流出し、純資産は税効果を差し引いた分だけ減ります。仮に同業類似法人の平均功績倍率が2.0だった場合、相当額は100万円×25年×2.0=5,000万円となり、差額2,500万円が損金不算入とされる可能性があります。
ステップ3:個人側の税金と手取り
| 計算項目 | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| 退職所得控除額 | 800万円 + 70万円 × (25年 − 20年) | 1,150万円 |
| 退職所得の金額 | (7,500万円 − 1,150万円) × 1/2 | 3,175万円 |
| 所得税 | 3,175万円 × 40% − 279万6,000円 | 990万4,000円 |
| 復興特別所得税 | 990万4,000円 × 2.1% | 20万7,984円 |
| 住民税 | 3,175万円 × 10% | 317万5,000円 |
| 税金合計 | 約1,328万7,000円 | |
| 手取り | 7,500万円 − 税金合計 | 約6,171万3,000円 |
7,500万円に対する税負担は約17.7%です。退職所得控除と1/2計算の効果で、同じ金額を給与として受け取る場合に比べると税負担は大きく抑えられます。一方、在任4年の役員が同じ月額・倍率で受け取る場合(100万円×4年×3.0=1,200万円)は特定役員退職手当等に当たり、退職所得は1,200万円−160万円=1,040万円と1/2になりません。所得税の速算表(国税庁タックスアンサーNo.2260)の税率区分は、退職所得の金額によって変わります。
ご自身の数字で試算したい場合は、役員退職金の計算ツールで最終報酬月額・在任年数・倍率を入れると、功績倍率法による目安額と税金・手取りの概算を確認できます。
事業承継・M&Aでの使いどころ
退職金の支給で株価・譲渡価格が下がる
役員退職金を支給すると、会社の利益と純資産が減り、株式の評価額も下がる方向に動きます。相続税評価の取引相場のない株式の評価では、類似業種比準方式の利益・純資産の要素と、純資産価額方式の純資産が影響を受けます。事業承継でこのタイミングを使って後継者へ株式を移す考え方は、事業承継の株価算定と役員退職金と自社株評価で解説しています。
譲渡対価の一部を退職金で受け取ると手取りが変わる
株式譲渡によるM&Aでは、オーナーが受け取る対価の一部を「株式の譲渡代金」ではなく「役員退職金」として受け取る設計がよく検討されます。株式の譲渡益は一般に20.315%の分離課税ですが、退職所得は退職所得控除と1/2計算があるため、金額や在任年数によっては退職金の方が税負担が軽くなることがあります。
上の数値例で単純比較すると、7,500万円を退職金で受け取った場合の税金は約1,329万円です。同じ7,500万円を株式の譲渡益(取得費等は考慮しない単純化)として受け取ると、7,500万円×20.315%=約1,524万円となり、差は約195万円です。ただし退職所得は累進税率のため、退職金の額が大きくなるほど有利さは縮み、逆転することもあります。また、退職金を支給すると会社の価値が下がるため、買い手との間では譲渡価格の調整が必要です。最適な配分は退職金と株式譲渡の配分シミュレーターで比較でき、株式譲渡部分の手取りは株式譲渡の手取り計算機でも確認できます。
- 退職の実態:M&A後も顧問や取締役として残り経営に関与する場合、分掌変更の論点(9-2-32)と同じく、実質的に退職したといえるかが問われます。
- 金額の相当性:譲渡対価を退職金に振り替えた結果、功績倍率が同業類似法人の水準を大きく超えると、不相当に高額な部分が損金不算入となる可能性があります。
- 契約への反映:退職金の額・支給時期・決議の手続きは、株式譲渡契約書(SPA)に書き込んでおくのが一般的です。
会社全体の売却価格の目安は会社売却の相場、スキームの違いは事業譲渡と株式譲渡の違い、経営者保証の扱いはM&Aでの個人保証の解除もあわせてご覧ください。
株主総会決議と役員退職慰労金規程
役員退職金は、会社法上、取締役の報酬等として定款に定めがない限り株主総会の決議で定めます。実務では、株主総会で「規程に基づき相当額の範囲内で支給する。具体的な金額・時期・方法は取締役会に一任する」と決議し、取締役会で金額を決める流れがよく見られます。国税不服審判所の平成13年11月13日裁決では、規程上、支給の可否と金額が社員総会の承認に委ねられていたのに承認決議がなかったため、その事業年度に債務が確定したとはいえないとされました。決議の有無は損金算入の時期にも直結します。
| 準備するもの | 主な内容 |
|---|---|
| 役員退職慰労金規程 | 算式(最終報酬月額の定義、在任年数の数え方、役職別の功績倍率)、功労加算・減額の条件、支給時期 |
| 算定根拠の資料 | 在任期間の記録、報酬の推移、倍率を設定した理由、同業他社の水準の検討結果 |
| 株主総会議事録 | 支給の決議、金額または一任の範囲 |
| 取締役会議事録 | 具体的な金額・支給時期・方法の決定 |
| 退任の実態を示す資料 | 役員変更登記、退任後の業務・報酬の状況 |
規程を整備する段階から、税務と事業承継の両面を見ながら検討することになります。進め方は事業承継における税理士の役割も参考にしてください。
まとめ
功績倍率法は「最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」で役員退職金の目安を出す方法で、国税庁の通達にも定義があります。ただし役職別の倍率表は公表されておらず、「社長3.0倍」は実務上の目安にすぎません。税務上の相当性は、在任期間、退職の事情、同業類似法人の支給状況に照らして判断され、公表されている裁決・判決では同業類似法人の平均功績倍率が中心的な物差しになっています。
最終報酬月額の扱い、分掌変更時の退任の実態、決議と支払いの時期、受け取る側の特定役員退職手当等のルールなど、確認すべき点は多くあります。退職金の額は会社の株式価値やM&Aの手取りにも影響するため、支給額の最終判断は税理士等の専門家に確認したうえで進めてください。
退職金を支給したあとの株式価値の目安は、M&Aバリュークラウドで試算できます(会員登録と試算までは無料で、報告書は有料)。退職金の目安額と手取りは役員退職金の計算ツールで確認できます。M&Aバリュークラウドで株式価値を試算する