純資産価額方式とは|計算の順序と、法人税額等相当額が38%になった改正
最終更新: 2026-09-22
純資産価額方式は、会社の資産と負債をすべて相続税評価額に洗い替えて、その差額を株式数で割るという、素直な発想の評価方法です。相続税・贈与税の世界では小会社の原則的評価方式であり、中会社でも一定割合を占め、特定の評価会社に当たる場合の評価方法にもなります。
発想は素直なのですが、実際に計算しようとすると細かい定めが多い。どの資産をいくらで入れるか、何を負債に含めるか、いつ時点の株式数で割るか——ここを間違えると結果がずれます。本稿はその手順を整理します。
記述は財産評価基本通達185〜186-3、「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」第5表の様式と記載方法等、国税庁の改正通達とそのあらましで確認できた範囲に限っています。全体の流れは取引相場のない株式の評価をご覧ください。実際の申告にあたっては必ず税理士にご確認ください。
計算の順序
評価明細書第5表の欄番号に沿うと、次のように進みます。
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| ⑤ | 純資産価額(相続税評価額)= 総資産 − 負債 |
| ⑥ | 純資産価額(帳簿価額)。マイナスのときは0とする |
| ⑦ | 評価差額に相当する金額 = ⑤ − ⑥。マイナスのときは0とする |
| ⑧ | 評価差額に対する法人税額等に相当する金額 = ⑦ × 38%(または37%) |
| ⑨ | 課税時期現在の純資産価額 = ⑤ − ⑧ |
| ⑪ | 1株当たりの純資産価額 = ⑨ ÷ 課税時期における発行済株式数 |
| ⑫ | 議決権割合50%以下の同族株主グループの場合 = ⑪ × 80% |
⑥と⑦でマイナスを0にするのがこの方式の癖です。含み損がある会社では評価差額がマイナスになりますが、その場合に法人税額等相当額を加算するのではなく、単に控除しないだけにとどめます。含み損はすでに⑤の純資産価額に反映されているためです。
法人税額等相当額が37%から38%になりました
この方式の要が⑧の控除です。相続税評価額で見た純資産が帳簿価額で見た純資産を上回る部分、つまり含み益に対して、「もし会社を清算したら法人税等がかかるはずだ」という考え方で一定割合を差し引きます。
この割合が、令和8年3月25日付の通達改正(課評2-28)で37%から38%に引き上げられました。適用されるのは令和8年4月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産の評価からです。
国税庁が公表した改正のあらましによれば、防衛特別法人税の創設に伴って根拠となる税率が変わったためで、内訳は法人税23.2%、地方法人税2.3896%、防衛特別法人税0.928%、事業税7.0%、特別法人事業税2.59%、道府県民税0.232%、市町村民税1.392%の合計37.7316%を38%としたものとされています。なお、防衛特別法人税の基礎控除額に相当する部分は、評価方法の簡便性を考慮して合計割合の算定には加味しないこととされています。
| 課税時期 | 法人税額等に相当する金額の割合 |
|---|---|
| 令和8年3月31日以前に取得 | 37% |
| 令和8年4月1日以後に取得 | 38% |
1ポイントの差ですが、含み益が大きい会社では金額に表れます。含み益が3億円あれば300万円の違いです。ネット上の解説記事や手元の計算シートが37%のままになっていないか、課税時期と照らして確認してください。計算は純資産価額方式 計算ツールで行えます(課税時期を入れると自動で切り替わります)。
資産をいくらで入れるか
原則は通達による評価額
課税時期における各資産を、財産評価基本通達の定めに従って評価します。土地なら路線価方式または倍率方式、上場株式なら通達の定める価額、といった具合です。帳簿価額をそのまま入れるのではない点が出発点です。
課税時期前3年以内に取得した土地・建物は「通常の取引価額」
ここが実務でよく問題になります。通達は、評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等・家屋等について、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価することとしています(帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は帳簿価額によることもできます)。
路線価は公示価格の8割程度の水準とされるため、取得直後の不動産を路線価で評価すると評価額が下がります。それを封じるための定めです。直前に不動産を購入した会社ほど、ここで結果が変わります。評価明細書でも、他の土地等と科目欄を分けて「課税時期前3年以内に取得した土地等」などと記載することとされています。
資産に計上しないもの
評価の対象とならないもの——財産性のない創立費・新株発行費等の繰延資産や、繰延税金資産は記載しません。一方で、被相続人の死亡により評価会社が生命保険金を取得する場合は、その保険金請求権(未収保険金)を資産に計上します。
負債に含めるもの・含めないもの
決算書の負債をそのまま転記すると、ここでずれます。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 負債に含めない | 貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金その他の引当金および準備金、繰延税金負債 |
| 帳簿になくても負債に含める | 未納公租公課・未払利息等、課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税・都市計画税のうち未払額、被相続人の死亡により支給が確定した退職手当金・功労金等、課税時期の属する事業年度の法人税・消費税・事業税・住民税のうち期首から課税時期までの期間に対応する未払分 |
引当金が負債に入らないのは、それが将来の支出の見積りであって確定した債務ではないためです。反対に、帳簿に載っていなくても課税時期に債務として確定しているものは負債に入れます。この2方向の調整を忘れると、純資産価額が過大にも過小にもなります。
なお、仮決算を行わずに直前期末の数値によって計算する簡便的な方法を採る場合には、直前期末日後から課税時期までに確定した剰余金の配当等の金額も負債に含めるものとされています。
株式数は「課税時期」のもの
1株当たりの金額を出すときに割るのは、課税時期における発行済株式数です(自己株式を除きます)。類似業種比準方式では直前期末の株式数を使うので、同じ評価の中で基準日が違うことになります。通達もわざわざ「直前期末ではなく、課税時期における発行済株式数であることに留意する」と注記しています。
自己株式の扱いは自己株式とは、議決権の数え方は議決権とはをご覧ください。
80%評価——ただし書の射程に注意
通達185のただし書は、取得者とその同族関係者の有する議決権の合計数が議決権総数の50%以下である場合に、1株当たりの純資産価額に100分の80を乗じることとしています。支配権を持たない立場では会社財産を自由に処分できないことを踏まえた取扱いです。
ここで正確に読んでおきたいのは、ただし書が「179の(2)の算式及び(3)の1株当たりの純資産価額について」と書いている点です。179の(2)は中会社の算式、(3)は小会社です。大会社が納税義務者の選択により純資産価額によるときの取扱いは、この文言からは直接には読み取れません。適用の可否は税理士にご確認ください。
また議決権割合の端数処理にも定めがあり、1%未満は切り捨てますが、50%超から51%未満までの範囲にあるときは切り上げて51%とします。つまり50%をわずかに超えるだけで80%評価は使えなくなります。判定は議決権比率 計算ツールと同族株主の判定ツールで確認できます。
子会社株式には法人税額等相当額を控除しない
評価会社が別の取引相場のない株式を持っている場合、その株式を純資産価額で評価するときには評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除しません(評基通186-3)。親会社の計算ですでに一度控除しているため、二重に引かないという趣旨です。
持株会社の評価ではここが効きます。あわせて、総資産のうち株式・出資等の占める割合が50%以上であれば株式等保有特定会社に当たり、原則として純資産価額によることになります(納税義務者の選択によりS1+S2方式も可)。持株会社の仕組みは持株会社とは、組織再編の手法は株式交換・株式移転や会社分割とはをご覧ください。
「評価差額」とは何を指しているのか
⑧で控除する金額の正体を、通達186-2の構造から確認しておきます。通達は、次の(1)から(2)を引いた残額に一定割合を乗じる、と定めています。
- (1) 課税時期における各資産を通達に従って評価した価額の合計額から、各負債の金額の合計額を控除した金額
- (2) その相続税評価額の計算の基とした各資産の帳簿価額の合計額から、各負債の金額の合計額を控除した金額
つまり、同じ資産を「通達による評価額」で見たときと「帳簿価額」で見たときの差が評価差額です。土地を路線価で評価したら帳簿価額の3倍だった、という部分がここに乗ってきます。負債は両方から同じ金額を引くので、差額には影響しません。
(2)にはかっこ書があり、現物出資・合併・株式交換・株式移転・株式交付により著しく低い価額で受け入れた資産がある場合には、受入れ時の評価額と帳簿価額の差額(現物出資等受入れ差額)を帳簿価額に加算することとされています。低い帳簿価額で資産を受け入れて評価差額を人為的に作る、という経路をふさぐ定めです。
ただしこの加算には例外があり、課税時期の相続税評価額による総資産価額に占める現物出資等受入れ資産の割合が20%以下である場合には適用しないとされています。組織再編を経ている会社では、この20%基準の確認が必要になります。再編の手法は合併とはや会社分割とはをご覧ください。
仮決算をするか、直前期末の数値で済ませるか
純資産価額は課税時期における資産・負債で計算するのが原則です。しかし課税時期は期の途中であることがほとんどで、その時点の決算を組み直す(仮決算を行う)のは実務的な負担が大きくなります。
そこで、直前期末の数値をもとに計算する簡便的な方法も用いられます。その場合には、直前期末から課税時期までに生じた事項を調整する必要があり、記載方法等は負債に含めるものとして未納公租公課、未払利息等の金額/直前期末日以前に賦課期日のあった固定資産税・都市計画税の未払額/直前期末日後から課税時期までに確定した剰余金の配当等の金額/死亡により支給が確定した退職手当金等を挙げています。
どちらの方法を採るかで結果が変わりうるため、課税時期と直前期末の間に大きな取引があった会社ほど、仮決算の必要性が高くなります。判断は税理士にご相談ください。
M&Aの時価純資産法とはどう違うか
名前も発想も似ていますが、別のものです。
| 純資産価額方式(相続税評価) | 時価純資産法(M&A) | |
|---|---|---|
| 目的 | 相続税・贈与税の課税価格を求める | 売買の目安となる株式価値を求める |
| 資産の評価 | 財産評価基本通達に従った評価額 | 時価(実際に売買される水準) |
| 法人税額等相当額の控除 | 評価差額の38%(令和8年4月1日以後の取得)を控除 | 控除する仕組みはない |
| のれんの扱い | 資産として計上されない | 年買法などで営業権を加算することがある |
結果として、相続税評価額とM&Aでの価格は一致しません。承継の方針を考えるときは両方を把握しておくのが実務的です。M&Aの文脈は時価純資産法とはと時価純資産 計算ツール、営業権の考え方はのれん・営業権とはや年買法とはをご覧ください。
なぜ含み益から税金相当額を引くのか
この控除の意味が腑に落ちないという声をよく聞きます。相続で株式を取得しただけなのに、なぜ会社が払うはずの法人税を引くのか、という疑問です。
考え方はこうです。純資産価額方式は、「この会社を解散して財産を分けたら、株主の手元にいくら残るか」という発想に立っています。実際に資産を売却して株主に分配しようとすれば、会社の段階で含み益に対する法人税等が課され、残った金額しか株主には回りません。だから、株主が受け取れる価値を測るうえでは、その税負担を先に差し引いておく——という理屈です。
だからこそ、含み損がある場合には控除しません。含み損が出ている状態では、清算しても追加の税負担は生じないからです。評価差額がマイナスのときに0とするのは、この考え方の裏返しにあたります。
同じ理屈から、子会社株式を評価するときに二重に控除しないという定めも出てきます。親会社の計算で一度引いている以上、子会社の段階でも引けば二重取りになるためです。
計算例で流れを追う
数字を入れて通してみます。いずれも説明のための仮の数値です。
- 相続税評価額による総資産 5億円、負債 2億円
- 帳簿価額による総資産 3億5,000万円、負債 2億円
- 課税時期における発行済株式数 10,000株
- 課税時期は令和8年9月(=38%を適用)
⑤の純資産価額(相続税評価額)は 5億円 − 2億円 = 3億円。⑥の純資産価額(帳簿価額)は 3億5,000万円 − 2億円 = 1億5,000万円。⑦の評価差額は 3億円 − 1億5,000万円 = 1億5,000万円です。土地の含み益などがここに表れています。
⑧の法人税額等相当額は 1億5,000万円 × 38% = 5,700万円。⑨の課税時期現在の純資産価額は 3億円 − 5,700万円 = 2億4,300万円。これを10,000株で割って、⑪の1株当たりの純資産価額は24,300円となります。
取得者とその同族関係者の議決権割合が50%以下であれば、⑫として 24,300円 × 80% = 19,440円です。
ここで課税時期が令和8年3月以前だったとすると、⑧は 1億5,000万円 × 37% = 5,550万円、⑪は24,450円になります。1株当たり150円、10,000株で150万円の差です。含み益が大きくなるほど、この差も広がります。
よくある質問
小会社なら純資産価額だけ計算すればよいですか
いいえ。小会社でも納税義務者の選択により、Lを0.50として類似業種比準価額との併用方式を採ることができます。含み益が大きい会社では併用のほうが低くなることがあるので、両方を計算して比べてください。類似業種比準方式もあわせてご覧ください。
債務超過の会社はどうなりますか
純資産価額がマイナスになる場合、株式の評価額は0として扱われるのが一般的です。ただし個人保証や貸付金の扱いなど、株式以外の論点が絡むことが多い局面です。会社の存続や譲渡の選択肢については赤字・債務超過会社の売却をご覧ください。
含み益を減らせば評価額は下がりますか
本稿は節税の方法を案内するものではありません。一般論として、評価額は会社の実態を反映して決まるものであり、実態の伴わない資産構成の変更は通達上も問題とされます。特定の評価会社の判定について、通達は合理的な理由のない資産構成の変動はなかったものとして判定する旨を明記しています。個別の検討は税理士にご相談ください。
評価明細書のどの表を使いますか
純資産価額の計算は第5表です。その前に第1表の1・第1表の2で株主の判定と会社規模の判定を行い、第2表で特定の評価会社に当たるかを確認します。一般の評価会社であれば第6表以下は不要です。必要資料の整理は企業価値評価に必要なデータも参考になります。
まとめ
純資産価額方式は、資産と負債を相続税評価額に洗い替え、含み益に対する法人税額等に相当する金額を控除して、課税時期の発行済株式数で割る方法です。
いま押さえるべき最大の変更点は、この割合が令和8年4月1日以後の取得から37%→38%になったことです。防衛特別法人税の創設に伴う改正で、国税庁の示す内訳の合計は37.7316%です。
細部では、課税時期前3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額で入れること、引当金は負債に含めず、未納公租公課や死亡退職金は含めること、株式数は課税時期のものを使うこと、子会社株式には法人税額等相当額を控除しないことが要点です。
そして80%評価は、通達のただし書が中会社の算式と小会社について書いていること、議決権割合は50%超51%未満なら51%として扱われることを踏まえて判断してください。実際の計算は純資産価額方式 計算ツールで確認できます。
本稿で参照した主な公表資料は、国税庁「財産評価基本通達」(185〜186-3)、同「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」の様式および記載方法等【令和8年4月1日以降用】、令和8年3月25日付 課評2-28による改正通達および「『財産評価基本通達の一部改正について』通達のあらましについて(情報)」です。いずれも改正される可能性があるため、最新版の確認をおすすめします。