取引相場のない株式の評価とは|相続税・贈与税の評価方法を判定の順序で理解する
最終更新: 2026-09-22
非上場会社の株式を相続したり贈与したりするとき、その株式にいくらの値段が付くのか。上場株式なら証券取引所の相場を見れば済みますが、取引相場のない株式にはその相場がありません。そこで、国税庁の財産評価基本通達が評価の方法を定めています。
この評価は、手順さえ分かれば筋道は明快です。ところが解説を読むと、類似業種比準方式だの純資産価額方式だの配当還元方式だのが一度に出てきて、どれをいつ使うのか分からなくなる。本稿では「判定の順序」に沿って整理します。実際、国税庁の「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」も、この順序で書き進める構成になっています。
記述は、財産評価基本通達の本文、同明細書の様式と記載方法等、国税庁の改正通達および改正のあらましなど、公的資料で確認できた範囲に限っています。評価の方法は改正で変わります。本稿でも、令和8年4月1日以後の取得から法人税額等に相当する金額の割合が37%から38%になった点など、更新の入っている論点を明示します。実際の申告にあたっては必ず税理士にご確認ください。
全体像:3つの問いに順番に答える
評価の方法は、次の3つを順番に決めていけば確定します。
| 順序 | 問い | 決まること |
|---|---|---|
| ① 誰が取得したか | 取得者は同族株主等か、それ以外か | 原則的評価方式によるか、配当還元方式(特例的評価方式)によるか |
| ② どんな会社か | 特定の評価会社に当たるか | 当たる場合、規模にかかわらず別の評価方法になる |
| ③ どれくらいの規模か | 大会社・中会社・小会社のどれか | 類似業種比準方式・純資産価額方式の組み合わせ方 |
①を最初に置くのが要点です。会社の中身を調べる前に、まず取得者の立場を見る。同族株主等以外の人が取得したのであれば、そもそも会社の利益や資産を細かく計算する必要がなく、配当還元方式で終わるからです。
① 誰が取得したか——同じ株式でも評価額が変わる
同じ会社の同じ株式でも、取得した人によって評価額は大きく変わります。会社を支配する側にとって株式は会社財産そのものに近い意味を持ちますが、ごく少数しか持たない人にとっては配当を受け取る権利にすぎない——この違いを評価に反映させるためです。
判定の基準は、取得者が属する同族関係者グループの議決権割合です。基準となる割合は、筆頭株主グループがどれだけ持っているかで変わります。
| 筆頭株主グループの議決権割合 | 同族株主等となる基準 |
|---|---|
| 50%超 | 取得者のグループが50%超 |
| 30%以上50%以下 | 取得者のグループが30%以上 |
| 30%未満(同族株主のいない会社) | 取得者のグループが15%以上 |
間違えやすいのが1行目です。筆頭グループが50%超を握っている会社では、30%持っていても同族株主にはなりません。過半数を握るグループがある以上、それ以外は支配しているとは言えない、という整理です。
さらに、同族株主等に当たる場合でも、本人の議決権割合が5%未満なら二段目の判定があります。役員であるか、本人が中心的な同族株主か、ほかに中心的な同族株主がいるか——この順に見ていきます。詳しい手順と配当還元価額の計算は同族株主の判定と配当還元方式で解説しています。実際に判定してみるなら同族株主の判定ツールが使えます。
② 特定の評価会社に当たらないか
次に確認するのが、評価会社が特定の評価会社に当たらないかです。当たる場合、会社規模にかかわらず別の評価方法によることになります。通達は6つの類型を挙げています。
| 類型 | 判定の基準 | 評価方法の概要 |
|---|---|---|
| 比準要素数1の会社 | 配当・利益・純資産のうち2つが0で、直前々期末を基準にしても2つ以上が0 | 純資産価額(選択によりLを0.25とした併用方式も可) |
| 株式等保有特定会社 | 総資産(相続税評価額)のうち株式・出資・新株予約権付社債の占める割合が50%以上 | 純資産価額(選択によりS1+S2方式も可) |
| 土地保有特定会社 | 総資産(相続税評価額)のうち土地等の占める割合が一定以上(大会社70%以上、中会社90%以上など) | 純資産価額 |
| 開業後3年未満の会社等 | 開業後3年未満、または3つの比準要素がいずれも0 | 純資産価額 |
| 開業前または休業中の会社 | — | 純資産価額 |
| 清算中の会社 | — | 分配を受ける見込みの金額の複利現価 |
2つ以上に当たる場合は後の番号の判定によることとされています。またこの判定について通達は、課税時期前に合理的な理由もなく資産構成に変動があり、その変動が判定を免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして判定すると明記しています。直前に資産を組み替えて基準を外す、という発想は通達自身が封じているわけです。
③ 会社の規模で組み合わせが決まる
一般の評価会社であれば、最後に会社規模を判定します。考え方は、上場会社に近い規模なら上場会社と比べ、個人事業に近い規模なら持っている財産で評価するというものです。
| 区分 | 原則的評価方式 | 納税義務者の選択 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額 | 1株当たりの純資産価額によることもできる |
| 中会社 | 類似業種比準価額 × L + 1株当たりの純資産価額 ×(1−L) | 算式中の類似業種比準価額を純資産価額に置き換えられる |
| 小会社 | 1株当たりの純資産価額 | Lを0.50として中会社の算式によることもできる |
どの区分にも「納税義務者の選択」が用意されている点が実務上とても重要です。含み益の大きい不動産を持つ会社は純資産価額が高く出ますし、赤字続きの会社は類似業種比準価額が低く出ます。両方を計算してから低いほうを選ぶのが基本の進め方になります。
中会社のLの割合は0.90・0.75・0.60の3段階で、総資産価額(帳簿価額)および従業員数による区分と、取引金額による区分のいずれか大きい方を採ります。区分の判定は会社規模区分の判定ツールで確認できます。
判定の順序に癖がある
規模判定の手順は決まっています。まず従業員数が70人以上なら、それだけで大会社。70人未満なら、総資産価額の区分と従業員数の区分のうち下位の区分を採り、それと取引金額の区分のうち上位の区分を採ります。2段階目で「下位」、3段階目で「上位」と向きが入れ替わるので、ここは間違えやすいところです。
従業員数の数え方にも定めがあります。1年間継続して勤務した従業員(1週間の労働時間が30時間未満の人を除く)の数に、それ以外の従業員の年間労働時間の合計を1,800時間で割った数を加えます。社長・理事長など一定の役員は含めません。端数は切り捨てず、5.1人なら「5人超」、4.9人なら「5人以下」です。
類似業種比準方式——上場会社と3つの要素で比べる
同じ業種の上場会社の株価を基準に、配当・利益・純資産の3つを比べて評価額を出す方法です。算式は次のとおりです。
Aは類似業種の株価、B・C・Dは類似業種の1株当たりの配当金額・年利益金額・純資産価額(帳簿価額)です。ⓑ・ⓒ・ⓓが評価会社の同じ3つで、いずれも1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額に直してから比べます。斟酌率は大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5です。
ここで必ず確認してほしいのが分母の「3」です。3つの要素の比重は現行で1:1:1ですが、かつては利益を3倍に重く見る1:3:1(分母5)でした。平成29年4月の通達改正で1:1:1に変わっており、改正時の国税庁の説明では、検証の結果「1:1:1という比重が最も実際の株価と評価額との乖離が少ない」と認められたためとされています。インターネット上には1:3:1のまま解説している記事がいまも残っています。
類似業種のA・B・C・Dは、国税庁が年分ごとに公表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について」という法令解釈通達に掲載されています。標本会社が年分ごとに入れ替わるため、前年の数値を流用することはできません。詳しくは類似業種比準方式とは、実際の計算は類似業種比準価額 計算ツールをご覧ください。
純資産価額方式——資産と負債を洗い替える
会社の資産と負債をすべて相続税評価額に洗い替え、その差額から評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除して、課税時期の発行済株式数で割る方法です。
この「法人税額等相当額」が要です。相続税評価額で見た純資産が帳簿価額で見た純資産を上回る部分——つまり含み益に対して、会社を清算したら法人税等がかかるはずだという考え方で一定割合を差し引きます。
この割合が、令和8年3月25日付の通達改正で37%から38%に引き上げられました。適用されるのは令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産の評価からです。国税庁の説明によれば、防衛特別法人税の創設に伴って法人税・地方法人税・防衛特別法人税・事業税・特別法人事業税・道府県民税・市町村民税の税率の合計が37.7316%となったことを受けたものとされています。含み益の大きい会社では、この1ポイントの差が金額に表れます。
もう1つ、取得者とその同族関係者の議決権の合計数が議決権総数の50%以下である場合、80%を乗じるという定めがあります(評基通185ただし書)。ただしこのただし書は、中会社の算式と小会社の1株当たりの純資産価額について書かれており、大会社が選択により純資産価額によるときの扱いは文言から直接には読み取れません。詳しくは純資産価額方式とは、計算は純資産価額方式 計算ツールをご利用ください。
配当還元方式——受け取れる配当から逆算する
同族株主等以外の株主が取得した株式は、次の算式で評価します。
年配当金額は直前期末以前2年間の配当金額の合計の2分の1を、資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数で割って求めます。年配当金額が2円50銭未満のとき、および無配のときは2円50銭として計算するため、一度も配当したことがない会社でも評価額は0になりません。中小企業では無配が多く、この下限がそのまま使われる場面が少なくありません。
また、配当還元価額が原則的評価方式による価額を超える場合は、原則的評価方式による価額で評価します。赤字続きの会社では、この逆転が実際に起こります。
特定の評価会社の中身をもう少し詳しく
株式等保有特定会社
課税時期における各資産を相続税評価額で見たとき、そのうちに占める株式・出資および新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上であれば該当します。原則は純資産価額による評価ですが、納税義務者の選択により「S1の金額」+「S2の金額」という方式によることもできます。
S2は、保有する株式等そのものの価額に対応する部分です。株式等の相続税評価額の合計から、含み益に対する法人税額等相当額を控除し、課税時期の発行済株式数で割って求めます。S1は、それ以外の部分について、株式等を除いた資産をもとに通常の評価方法を当てはめたものです。類似業種比準価額を使う場合には、評価会社の配当・利益・純資産から受取配当金等収受割合に対応する部分を差し引いた金額で比準します。
要するに、株式を持っているだけの部分と、自ら事業をしている部分を切り分けて評価するという発想です。持株会社の形をとっている会社では、この判定が評価額を大きく左右します。
土地保有特定会社
土地等の占める割合による判定で、基準は会社規模によって変わります。大会社は70%以上、中会社は90%以上。小会社については、総資産価額(帳簿価額)が一定以上であれば大会社または中会社と同じ基準が当てはまり、それに満たない小規模な会社は土地保有特定会社に該当しません。不動産賃貸業を営む会社では現実に問題になる類型です。
比準要素数1の会社と開業後3年未満の会社等
比準要素数1の会社は、配当・利益・純資産のうち2つが0で、かつ直前々期末を基準にしても2つ以上が0である会社です。直前期だけの一時的な状況ではなく、継続して比準要素が欠けている状態を捉えるため、2期分を見る構成になっています。評価は純資産価額が原則で、納税義務者の選択によりLを0.25とした併用方式も採れます。
3つの比準要素がいずれも0の会社は「開業後3年未満の会社等」に含まれ、純資産価額によります。この場合は併用方式の選択がありません。
清算中の会社
清算の結果、分配を受ける見込みの金額を、課税時期から分配を受けると見込まれる日までの期間に応じた基準年利率による複利現価に引き直して評価します。分配が2回以上に分かれる場合はそれぞれを計算して合計します。1年未満の端数は1年として扱います。
評価明細書はどの表で何をするのか
実際の申告では「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」に記入していきます。表の構成を知っておくと、本稿で述べた判定の順序がそのまま用紙の並びになっていることが分かります。
| 表 | 何をするか |
|---|---|
| 第1表の1 | 株主の議決権割合を整理し、同族株主等か配当還元方式かを判定する |
| 第1表の2 | 少数株式所有者の評価方式の判定と、会社規模(Lの割合)の判定 |
| 第2表 | 特定の評価会社(6類型)に当たるかの判定 |
| 第3表 | 一般の評価会社の株式の価額の計算(原則的評価方式・配当還元方式) |
| 第4表の1・第4表の2 | 類似業種比準価額の計算(比準要素の計算と、比準割合・比準価額) |
| 第5表 | 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算 |
| 第6表以下 | 特定の評価会社に当たる場合の計算(一般の評価会社では不要) |
記載方法等は、各欄の金額について表示単位未満の端数を切り捨てるのを原則としています。ただし切り捨てると0になってしまう場合には、分数で記載するか、発行済株式数の桁数に応じた小数で記載する、という特則も置かれています。細かい話ですが、1株当たりの金額が極端に小さい会社では実際に効いてきます。
相続税評価額と「売ったらいくらか」は別物
ここは誤解が生まれやすいので、はっきり書いておきます。財産評価基本通達で求めた金額は、相続税・贈与税の課税価格を計算するためのものであって、第三者に売却したときの価格ではありません。
目的が違うため、結果も一致しません。類似業種比準方式は上場会社の株価を基準にしながら斟酌率で3割から5割を減価しますし、純資産価額方式は清算を前提とした税負担を控除します。一方、M&Aの価格は買い手が将来得られる利益をどう見るかで決まり、シナジーが乗ることもあれば、買い手が見つからずに下がることもあります。
承継の方針を決めるときは、税務上の評価額と、第三者に売った場合の価格の両方を把握しておくのが実務的です。片方だけを見て「思ったより高い/安い」と判断すると、選択肢を見誤ります。M&Aの文脈での評価は非上場株式の評価方法、3つのアプローチの違いは株式評価の3つのアプローチ比較、目安の把握は企業価値の1分診断をご覧ください。
なお、事業承継税制(納税猶予)を使う場合も、猶予される税額の計算の基礎になるのはこの通達による評価額です。制度の中身は事業承継税制、前提となる知事認定は経営承継円滑化法で解説しています。
よくある質問
評価の基準日はいつですか
課税時期(相続なら被相続人の死亡の日、贈与なら贈与の日)です。ただし計算に使う数値は項目によって基準日が違い、たとえば類似業種比準方式の発行済株式数は直前期末、純資産価額方式の発行済株式数は課税時期のものを使います。同じ評価の中で基準日が混在するので注意してください。
自社株の評価額を下げたいのですが
本稿は節税の方法を案内するものではありません。一般論として、評価額は会社の実態を反映して決まるものであり、実態の伴わない資産構成の変更は通達上も問題とされます。役員退職金の支給や設備投資など、事業上の合理性がある行為の結果として評価額が動くことはありますが、それは目的ではなく結果です。個別の検討は税理士にご相談ください。役員退職金については役員退職金と自己株式で扱っています。
株主が分散している場合はどうすればよいですか
取得者ごとに判定するため、同じ会社の株式でも人によって評価方式が分かれます。そのうえで、株主が分散していること自体が承継やM&Aの障害になることがあります。整理の考え方は名義株の整理、譲渡制限株式とは、種類株式とはをご覧ください。
自分で計算できますか
考え方の理解と概算であれば、本サイトの各ツールで追えます。ただし申告に使う評価額は、土地の個別評価、各資産の通達評価、特定の評価会社の該当性など、判断を伴う項目が多数あります。最終的な評価と申告は税理士にご依頼ください。必要な資料の整理は企業価値評価に必要なデータが参考になります。
まとめ
取引相場のない株式の評価は、①誰が取得したか → ②特定の評価会社に当たらないか → ③会社の規模はどれか、という順序で決まります。この順番どおりに進めれば、どの方式を使うのかは機械的に確定します。
同族株主等以外が取得したなら配当還元方式。同族株主等が取得し、一般の評価会社であれば、大会社は類似業種比準価額、小会社は純資産価額、中会社はその併用です。いずれの区分でも納税義務者の選択が用意されているので、両方を計算して比べるのが基本になります。
数値で注意すべき点は2つ。類似業種比準方式の比準要素の比重は1:1:1(分母3)で、1:3:1は平成29年改正前の古い情報です。純資産価額方式の法人税額等相当額は、令和8年4月1日以後の取得から38%で、それ以前は37%です。どちらも解説記事が更新されずに残りやすい論点なので、計算前に確認してください。
そして最後にもう一度。ここで求めた金額は税金を計算するための評価額であって、会社を売ったときの値段ではありません。承継を考えるなら、両方の数字を持っておくことをおすすめします。
本稿で参照した主な公表資料は、国税庁「財産評価基本通達」(178〜189-7)、同「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」の様式および記載方法等【令和8年4月1日以降用】、同「財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」(令和8年3月25日付 課評2-28)および同改正のあらまし、平成29年4月27日付 課評2-12による改正とそのあらまし、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)」です。いずれも改正される可能性があるため、最新版の確認をおすすめします。