同族株主の判定と配当還元方式|30%・50%超・15%・5%の使い分けを順序で理解する

最終更新: 2026-09-22

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非上場株式の相続税評価で、最初に効いてくるのが「誰が取得したか」です。同じ会社の同じ株式でも、取得者の立場によって評価額は何倍も変わります。会社を支配する側なら原則的評価方式、そうでないなら配当還元方式。この分かれ目を決めるのが、財産評価基本通達188の定めです。

条文は読みにくいのですが、判定には決まった順序があり、国税庁の「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」もその順序で書き進める構成になっています。本稿はその順序に沿って整理します。全体の流れは取引相場のない株式の評価をご覧ください。

記述は財産評価基本通達188・188-2ほか、同明細書の様式と記載方法等で確認できた範囲に限っています。実際の申告にあたっては必ず税理士にご確認ください。

なぜ取得者によって評価額が変わるのか

会社を支配している人にとって、株式は会社の財産そのものに近い意味を持ちます。配当を決めるのも、資産を処分するのも自分たちの判断です。だから会社の利益や資産にもとづいて評価する——これが原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式)の発想です。

一方、ごく少数の株式しか持たない人にとって、その株式から得られるのは配当だけです。会社の資産を自由にできるわけでも、買い手を見つけて売れるわけでもありません。そこで、受け取れる配当を一定の利回りで割り戻した金額で評価する——これが配当還元方式です。

結果として、配当還元方式による価額は原則的評価方式による価額より大幅に低くなるのが通常です。差が大きいからこそ、判定を誤ると影響も大きくなります。

第1段階:グループの議決権割合で見る

まず、取得者が属する同族関係者グループの議決権割合を見ます。ここで重要なのは、基準となる割合が会社によって変わることです。何を見て変わるかというと、筆頭株主グループがどれだけ持っているかです。

筆頭株主グループの議決権割合同族株主等となる基準通達上の位置づけ
50%超取得者のグループが50%超188(1)のかっこ書
30%以上50%以下取得者のグループが30%以上188(1)の本則
30%未満取得者のグループが15%以上188(3)(同族株主のいない会社)

間違えやすいのが1行目です。筆頭グループが50%超を握っている会社では、30%持っていても同族株主にはなりません。過半数を握るグループがある以上、それ以外は会社を支配しているとは言えない、という整理です。この場合、30%のグループに属する人は配当還元方式によることになります。

3行目の「同族株主のいない会社」は、株式が分散していて誰も30%に届かない会社です。この場合は基準が15%まで下がります。分散している会社では、より低い割合でも相対的な影響力を持つためです。議決権割合そのものの計算は議決権比率 計算ツールで行えます。

議決権の数え方

  • 自己株式に係る議決権は0として計算します。会社が自己株式を持っていると議決権総数が変わり、各株主の割合が動きます
  • 会社法308条1項により議決権を有しないこととされる会社の議決権の数も0とします
  • 種類株式のうち「株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権の数」は含めます
  • 議決権割合は1%未満の端数を切り捨てます。ただし50%超から51%未満までの範囲にあるときは切り上げて51%とします

最後の端数処理は、切り捨てると「50%超」かどうかの判定が変わってしまうことへの手当てです。自己株式は自己株式とは、種類株式は種類株式とはをご覧ください。

第2段階:議決権割合5%未満のときの判定

第1段階で同族株主等に当たっても、取得後の本人の議決権割合が5%未満なら、もう一段の判定があります。グループとしては支配側でも、本人の持分がごく小さいなら実質は少数株主と変わらない——という考え方です。評価明細書はこれを3つの欄で順に判定します。

順序問い「はい」の場合
課税時期において評価会社の役員か(法定申告期限までに役員となる者を含む)原則的評価方式
取得者本人が中心的な同族株主か原則的評価方式
取得者以外に中心的な同族株主(中心的な株主)がいるか配当還元方式

③だけ向きが逆なので注意してください。ほかに中心的な同族株主がいる場合にだけ配当還元方式になります。ほかに誰も中心的な同族株主がいなければ、本人が実質的な中心と見られるため原則的評価方式です。

なお、同族株主のいない会社(筆頭グループが30%未満)では②の判定は行わず、①のあと③に進みます。そこで見るのは「中心的な株主」の有無です。

「役員」の範囲

社長・理事長のほか、代表取締役・代表執行役・代表理事、副社長・専務・常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員、取締役(指名委員会等設置会社の取締役および監査等委員である取締役に限る)、会計参与、監査役、監事が含まれます。平取締役は一般に含まれませんが、地位の実態で判断される部分があるため、迷う場合は確認してください。

「中心的な同族株主」とは(25%)

課税時期において、同族株主の1人と、その配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族(これらの者が議決権の25%以上を持つ会社を含む)の議決権の合計が、議決権総数の25%以上である場合のその株主をいいます。

範囲が限定されている点が要点です。いとこや甥姪は含まれません。同族関係者の範囲(同族株主の判定に使うもの)より狭いので、混同しないようにしてください。親族関係図と株主名簿を突き合わせて機械的に計算するのが確実です。

「中心的な株主」とは(10%)

同族株主のいない会社で、議決権割合15%以上の株主グループのうち、いずれかのグループに単独で議決権総数の10%以上を持つ株主がいる場合の、その株主をいいます。こちらは親族関係ではなく単独の保有割合で決まります。

配当還元方式の算式

価額 =(その株式に係る年配当金額 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)

年配当金額は、直前期末以前2年間の剰余金の配当金額の合計の2分の1を、資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数(=直前期末の資本金等の額 ÷ 50円)で割って求めます。特別配当・記念配当など将来毎期継続することが予想できない金額は除きます。

10%という還元率は通達が定めた固定値で、個別に算定するものではありません。配当の基本は配当とはをご覧ください。

2円50銭の下限——無配でも0にはならない

重要な定めがあります。年配当金額が2円50銭未満のとき、および無配のときは、2円50銭として計算します。

中小企業は無配であることが多いため、実務ではこの下限がそのまま使われる場面が少なくありません。その場合、価額は「2.5 ÷ 10% = 25円」を50円換算の基準として、1株当たりの資本金等の額に応じて調整した金額になります。配当を一度もしていない会社でも、配当還元価額は0にはならないということです。

原則的評価額との逆転

もう1つ、配当還元価額が原則的評価方式による価額を超える場合は、原則的評価方式による価額で評価します(評基通188-2ただし書)。

赤字続きで純資産も薄い会社では、原則的評価額が配当還元価額を下回ることが現実に起こります。その場合、少数株主であっても低いほうの金額で評価されるわけです。「少数株主だから配当還元方式で終わり」と決めつけず、原則的評価額も確認するのが正確な進め方です。計算は同族株主の判定・配当還元価額 計算ツールで行えます。

具体例で追ってみる

例1:社長一族が70%を持つ会社で、甥が2%を相続した

筆頭株主グループ(社長一族)が70%なので、基準は50%超です。甥が属するグループが社長一族と同じ同族関係者グループであれば、グループとしては70%で基準を満たすため同族株主等に当たります。

ただし甥本人の議決権割合は2%で5%未満なので、第2段階に進みます。甥が役員でなく、本人が中心的な同族株主でもないとして、ほかに中心的な同族株主(社長など)がいれば配当還元方式になります。相続した株式がごく少数で、経営にも関与していないなら、評価額は大きく下がるということです。

例2:同じ会社で、後継者である長男が10%を相続した

グループは同じ70%なので同族株主等。本人の議決権割合が10%で5%以上なので、第2段階には進まず、そのまま原則的評価方式です。同じ会社の株式でも、例1の甥とはまったく違う金額になります。

例3:創業家が40%、取引先が20%、その他が分散している会社

筆頭株主グループが40%なので30%以上50%以下の区分、基準は30%以上です。創業家のグループに属する人は同族株主等、取引先(20%)のグループに属する人は基準に届かないため配当還元方式、ということになります。

この例で、仮に創業家が28%まで減っていたとすると、筆頭グループが30%未満=同族株主のいない会社になり、基準は15%以上に下がります。今度は取引先の20%も同族株主等の側に回ることになります。筆頭グループの割合が30%を割るかどうかで、他の株主の扱いまで変わる——この連動が判定を難しくしている部分です。

「同族関係者」と「中心的な同族株主」は範囲が違う

判定でつまずきやすいのが、この2つの言葉の混同です。

用語範囲使う場面
同族関係者法人税法施行令4条に規定する特殊の関係のある個人または法人。親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)のほか、一定の関係にある会社なども含む広い範囲第1段階:グループの議決権割合を合計するとき
中心的な同族株主の判定に用いる親族の範囲配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族(およびこれらの者が議決権の25%以上を持つ会社)第2段階:本人が中心的な同族株主かを見るとき

第1段階では広く数え、第2段階では狭く数える。いとこや甥姪は、グループの合計には入るが、中心的な同族株主の判定には入らないということです。この差で結論が変わる場面は実際にあります。

なお、中小企業投資育成株式会社が株主である場合には、判定についての特則が置かれています(評基通188-6)。該当する会社では個別の確認が必要です。

実務で問題になりやすい場面

株式が分散している会社

創業から年数が経ち、相続が重なった会社では株式が分散していることがあります。この場合、取得者ごとに評価方式が分かれ、同じ会社の株式に2つの価格が併存します。承継やM&Aの前に株主を整理しておくべき理由の1つがここにあります。名義株の整理譲渡制限株式とはもあわせてご覧ください。

従業員持株会

取得する側の議決権割合で判定するという点は同じで、ごく少数の持分であれば配当還元方式によることが多くなります。ただし譲渡する側の課税関係(所得税・法人税)は別の論点であり、評価の考え方も異なります。取得者側の相続税評価と譲渡者側の課税を混同しないでください。

後継者に株式を集約する場面

後継者が株式を集めていくと、どこかで配当還元方式から原則的評価方式に切り替わります。切り替わる前後で評価額が大きく動くため、贈与の順序やタイミングが結果を左右します。事業承継の進め方は事業承継ガイドライン、株価の考え方は事業承継における株価算定、納税猶予は事業承継税制で解説しています。全体のスケジュール感は事業承継タイムラインでも確認できます。

判定はいつの時点で行うのか

基準となるのは課税時期(相続なら被相続人の死亡の日、贈与なら贈与の日)です。ただし、見る対象によって微妙に違います。

  • グループの議決権割合や役員であるかどうかは、課税時期の状況で判定します
  • 本人の議決権割合は「株式取得後」の割合です。相続や贈与で取得した分を足したあとの数字を使います
  • 役員については、課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者も含むとされています。相続後に役員に就任した場合も対象になるということです
  • 配当還元価額の計算に使う配当金額と資本金等の額・発行済株式数は、直前期末のものです

最後の点は純資産価額方式との違いとして押さえておいてください。純資産価額は課税時期の株式数、配当還元価額は直前期末の株式数を使います。同じ評価の中で基準日が混在するのは、この分野の分かりにくさの一因です。

配当還元価額の計算例

算式は短いのですが、50円換算が入るぶん、慣れるまでは桁を見失いがちです。数字を入れて通してみます(説明のための仮の数値です)。

  • 直前期末の資本金等の額 5,000万円、発行済株式数 10,000株
  • 直前期末以前2年間の経常的な配当金額の合計 1,000万円

まず資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数を出します。5,000万円 ÷ 50円 = 100万株。年配当金額は 1,000万円 ÷ 2 = 500万円 を100万株で割って5円です。2円50銭以上なので下限は使いません。

価額は(5円 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 5,000円 ÷ 50円)= 50円 × 100 = 5,000円となります。

では、この会社が無配だったらどうなるか。年配当金額は2円50銭として扱われるので、(2.5円 ÷ 10%)× 100 = 2,500円です。配当実績がゼロでも評価額はゼロにならない、というのが下限の意味です。

仮にこの会社の原則的評価額が1株30,000円だったとすると、配当還元方式によることで評価額は6分の1以下になります。この差の大きさが、判定を慎重に行うべき理由です。逆に、原則的評価額が1株2,000円しかない会社であれば、配当還元価額(2,500円)のほうが高くなるため、通達のただし書により2,000円で評価することになります。

よくある質問

配当還元方式は「安く評価できる方法」ですか

選べるものではありません。取得者の立場によって自動的に決まるもので、有利だから選ぶという性質のものではありません。結果として低くなることが多いだけです。

M&Aで第三者に売る場合にも使えますか

使いません。配当還元方式は相続税・贈与税の課税価格を求めるための特例的な方法であって、第三者間の売買価格の目安ではありません。M&Aでの価格は会社売却の相場企業価値の1分診断で考えてください。評価アプローチの違いは株式評価の3つのアプローチ比較で整理しています。

少数株主が買取りを請求してきた場合の価格は

相続税評価とは別の話です。裁判所が価格を決める手続では、収益還元法やDCF法など別の考え方が用いられ、非流動性ディスカウントの可否も手続によって結論が分かれています。この点は非流動性ディスカウント(DLOM)で扱っています。

原則的評価方式になった場合、次は何をしますか

特定の評価会社に当たらないかを確認したうえで、会社規模を判定し、類似業種比準方式純資産価額方式の組み合わせを決めます。規模の判定は会社規模区分の判定ツールで行えます。

本稿は公表資料の整理であり、個別の助言ではありません。同族関係者の範囲、役員の該当性、種類株式や投資育成会社が株主である場合の特則など、判断を伴う項目が多数あります。実際の評価・申告にあたっては必ず税理士にご確認ください

まとめ

判定は2段階です。第1段階はグループの議決権割合。基準は筆頭株主グループの割合によって変わり、筆頭が50%超なら50%超、30%以上50%以下なら30%以上、30%未満なら15%以上です。筆頭が50%超の会社で30%持っていても同族株主にならない点が落とし穴です。

第2段階は、本人の議決権割合が5%未満のときだけ行います。役員か → 本人が中心的な同族株主(25%)か → ほかに中心的な同族株主がいるか、の順で、最後の問いだけ「いる」と配当還元方式になります。

配当還元価額は(年配当金額 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)で求め、無配でも2円50銭として計算するため0にはなりません。そして原則的評価額のほうが低ければ、そちらによります

実際の判定は同族株主の判定・配当還元価額 計算ツールで確認できます。判定の理由が順に表示されるので、どこで結論が決まったのかを追えます。

本稿で参照した主な公表資料は、国税庁「財産評価基本通達」(188・188-2・188-3〜188-6)、同「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」の様式および記載方法等【令和8年4月1日以降用】です。いずれも改正される可能性があるため、最新版の確認をおすすめします。

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