経営承継円滑化法とは|事業承継で使える4つの支援(税制・遺留分の民法特例・金融支援・所在不明株主)

最終更新: 2026-09-20

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事業承継の相談をしていると、「経営承継円滑化法(けいえいしょうけいえんかつかほう)の認定を取りましょう」という話が、税理士や金融機関から突然出てくることがあります。名前は堅いのに、何ができる法律なのかは説明されないままで、気づけば書類集めが始まっている——そういう場面は珍しくありません。

この法律は、正式には「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(平成20年法律第33号)といいます。条文を順に読んでいくとかなり読みにくいのですが、実務の目線に立つと、やっていることは意外と単純です。事業承継の場面で中小企業が現実にぶつかる4種類の壁に対して、それぞれ「出口」を1つずつ用意している——その集合体が、この法律です。

本稿では逐条解説はしません。代わりに「どの壁にぶつかったとき、どの支援を使うのか」という順番で整理します。記述は、法令本文(e-Gov法令検索で確認できる法・施行令・施行規則)と、中小企業庁財務課が公表している申請マニュアル、国税庁のパンフレットなど、公的資料で確認できた範囲に限っています。制度の期限や運用は税制改正・法改正で変わるため、実際の判断の前には必ず最新の公表資料をご確認ください。

経営承継円滑化法は「4つの入口」を持つ法律

法第1条(目的)は、この法律の狙いをこう書いています。中小企業について「代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ、遺留分に関し民法の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずる」——つまり「相続でもめる」「お金が足りない」という2つの詰まりを取り除くのが出発点だった法律です。

条文の並びも、第1章 総則(第1条・第2条)、第2章 遺留分に関する民法の特例(第3条〜第11条)、第3章 支援措置(第12条〜第16条)、第4章 雑則(第17条・第18条)と、その構造をそのまま残しています。

中小企業庁財務課「中小企業経営承継円滑化法 申請マニュアル『金融支援』」(令和6年3月)によれば、この法律は①遺留分に関する民法の特例、②事業承継時の金融支援措置、③事業承継税制の基本的枠組みを盛り込んだ総合的支援策の基礎となる法律として、平成20年10月1日(遺留分に関する民法の特例に係る規定は平成21年3月1日)から施行されました。その後、令和3年の第204回通常国会で成立した産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律に伴い、④所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例(会社法特例)が4つ目の措置として追加され、令和3年8月2日から施行されています。

整理すると、実務で使う「入口」は次の4つです。

支援の柱ひとことで言うと主な根拠条文確認・認定をする人
税制支援事業承継税制(相続税・贈与税の納税猶予)を使うための前提となる認定法第12条第1項都道府県知事
遺留分に関する民法の特例後継者に渡した自社株を、遺留分の計算から外す/価額を固定する法第3条〜第10条経済産業大臣(+家庭裁判所の許可)
金融支援信用保証の別枠化と、日本政策金融公庫等からの融資の特例法第12条〜第14条都道府県知事
所在不明株主に関する会社法の特例会社法上「5年」必要な期間を「1年」に短縮できる法第12条第1項第1号ホ・第15条都道府県知事

ここで先に押さえておきたいのが、窓口が2系統に分かれていることです。中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行令第2条は、法第12条第1項(認定)と法第16条第1項(指導及び助言)に規定する経済産業大臣の権限に属する事務を、中小企業者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事が行うと定めています。税制支援・金融支援・会社法特例はいずれも法第12条第1項の認定なので、申請先は都道府県です。

一方、遺留分に関する民法の特例の「確認」は法第7条に基づくもので、この委任の対象に入っていません。したがって確認の申請先は経済産業大臣(中小企業庁事業環境部財務課)のままです。都道府県の窓口に民法特例の相談を持ち込んでも取り扱ってもらえない、というのはこの構造から来ています。実際、複数の都道府県の案内ページでも、民法特例の問合せ先だけは中小企業庁財務課が案内されています。

そもそも「中小企業者」に当たるか/法第2条は、製造業・建設業・運輸業その他の業種は資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下を中小企業者としています(業種によっては政令でさらに範囲が広げられています)。また上記の申請マニュアル(令和6年3月)は、医療法人や社会福祉法人、外国会社は法における中小企業者に該当しないと明記しています。自社が対象かどうかは、この入口で一度確認しておくと無駄がありません。

支援1|税制支援:事業承継税制は「認定」から始まる

4つの柱のうち、最も利用されているのが税制支援です。ただしここで誤解されやすいのは、経営承継円滑化法そのものが税を猶予するわけではないという点です。納税猶予を定めているのは租税特別措置法であり、円滑化法が担っているのは「その前提となる認定」です。

国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」(令和8年7月)は、法人版事業承継税制について「後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において」納税が猶予される制度だと説明し、適用に当たっては円滑化法に基づく認定等が必要で、認定等に係る申請書・報告書の窓口は都道府県の担当課であるとしています。同資料は、ここでいう「円滑化法の認定」を、法第12条第1項の認定(円滑化省令第6条第1項第11号または第13号、一般措置については第7号または第9号の事由に限る)と定義しています。

特例措置と一般措置の違い

同じく国税庁のあらまし(令和8年7月)によれば、法人版事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2つがあり、次のように整理されています。

項目特例措置一般措置
事前の計画策定等特例承継計画の提出(平成30年4月1日から令和9年9月30日まで)不要
適用期限平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等なし
対象株数全株式総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合100%贈与:100%/相続:80%
承継パターン複数の株主から最大3人の後継者複数の株主から1人の後継者

特例承継計画は、会社の後継者や承継時までの経営見通し等を記載し、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所等)の所見を記載したうえで都道府県知事に提出して確認を受けるもので、円滑化省令第16条第1号の計画にあたります。なお同資料には、贈与の場合「円滑化法の認定」を受けるためには贈与を受けた年の翌年の1月15日までに申請を行う必要がある旨も示されています。

ここに挙げた期限は、税制改正で過去にも延長された経緯があります。現時点の期限は必ず国税庁・中小企業庁の最新の公表資料で確認してください。制度の中身(要件、猶予の継続条件、取消事由など)は、事業承継税制の仕組みと注意点で詳しく扱っています。本稿では「入口は都道府県知事の認定である」という一点に絞ります。

税制支援を使うなら、株価の把握が先にくる

実務上、税制支援の検討は「認定が取れるか」より前に、そもそも自社株にいくらの評価がつくのかという話から始まります。評価額が小さければ猶予を使うまでもなく、大きければ猶予以外の選択肢(段階的な贈与、持株会社化、退職金の活用など)も同時に検討することになるからです。

非上場株式の評価の考え方は非上場株式の評価方法に、事業承継の場面での株価算定の流れは事業承継における自社株評価にまとめています。併せて検討されることの多い役員退職金と自社株評価の関係や、持株会社スキームも、税制支援を使うかどうかの判断材料になります。税理士にどこまで任せるかの線引きは事業承継における税理士の役割が参考になります。

支援2|遺留分に関する民法の特例:もめる前に外しておく

自社株を後継者に集中させると、相続時に他の相続人の遺留分を侵害しやすくなります。会社の価値が大きいほど自社株が遺産に占める割合が高くなり、後継者は「会社は継いだが、遺留分侵害額を現金で払えない」という状態に陥ります。ここに手当てをしているのが、法第2章(第3条〜第10条)の民法特例です。

除外合意と固定合意

法第4条第1項は、旧代表者の推定相続人および会社事業後継者が、その全員の合意をもって、書面により、次の定めをすることができるとしています。

  • 除外合意(第1号)——後継者が旧代表者からの贈与等により取得した自社株式等の全部または一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと。
  • 固定合意(第2号)——同じ株式等について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を合意の時における価額に固定すること。

固定合意には、条文上はっきりした縛りがあります。固定する価額は「弁護士、弁護士法人、弁護士・外国法事務弁護士共同法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人がその時における相当な価額として証明をしたものに限る」(法第4条第1項第2号)とされ、さらに第2項で、旧代表者本人と会社事業後継者本人は、この証明をすることができないと定められています。身内で評価して固定する、という使い方はできないということです。

この「相当な価額」をどう出すかは、株価算定書が必要になる場面の典型例のひとつです。純資産をベースに考える場合の感覚は時価純資産法が、評価の前提として整理しておくべき論点は議決権の基礎知識が参考になります。

除外合意固定合意
効果対象株式等の価額を遺留分算定の基礎財産に算入しない算入すべき価額を合意時の価額に固定する
向いている場面承継後の株価上昇分も含めて争点から外したいとき基礎財産からの完全な除外までは合意が得られないとき
専門家の価額証明条文上の要求なし弁護士・公認会計士・税理士等(法人を含む)の証明が必要
個人事業主版の有無あり(事業用資産について同様の定めが可能)条文上、個人事業主版には置かれていない

誰が当事者になれるのか

法第3条の定義は、実務でつまずきやすいポイントを含んでいます。

  • 特例中小会社——中小企業者のうち、一定期間以上継続して事業を行っているものとして経済産業省令で定める要件に該当する会社で、上場株式・店頭売買有価証券登録原簿に登録された株式を発行している会社は除かれます。施行規則第2条は、この「一定期間以上」を3年以上継続して事業を行っていることと定めています。
  • 旧代表者——特例中小会社の代表者であった者(現に代表者である者を含む)で、他の者に株式等の贈与をしたもの。
  • 会社事業後継者——旧代表者から株式等の贈与を受けた者等であって、総株主または総社員の議決権の過半数を有し、かつ代表者である者。
  • 推定相続人——相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち、被相続人の兄弟姉妹およびこれらの者の子以外のもの。
「もともと過半数を持っている後継者」は使えないことがある/法第4条第1項ただし書は、会社事業後継者が所有する株式等のうち合意の対象としたものを除いた分の議決権が、総株主または総社員の議決権の50%を超える場合は、この限りでないとしています。つまり、合意対象株式を差し引いても後継者が単独で過半数を握っているなら、この特例を使う必要がない(使えない)という設計です。すでに議決権が集中している会社では、この入口で外れます。

個人事業主にも版がある

法第4条第3項は、旧個人事業者の推定相続人および個人事業後継者が、全員の合意をもって書面により、事業用資産の全部または一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の定めをすることができると規定しています。ここでいう旧個人事業者も、施行規則第2条により3年以上継続して事業を行っていたことが要件です。

注意したいのは、個人事業主版には「除外合意」に相当する定めはあるが、固定合意に相当する定めは条文に置かれていないことです。また法第3条第4項・第5項は、旧個人事業者が事業用資産の全部を贈与し、個人事業後継者がその全部を取得していることを前提にしています。一部だけ渡して残りは手元に置く、という形では要件を満たしません。

合意に必ず入れなければならない条項

法第4条第4項は、会社版の合意をする際に、併せて全員の合意により書面で、次の場合に後継者以外の推定相続人がとることができる措置を定めなければならない、としています。

  • 会社事業後継者が、合意の対象とした株式等を処分する行為をした場合
  • 旧代表者の生存中に、会社事業後継者がその会社の代表者として経営に従事しなくなった場合

個人事業版(同条第5項)でも同様に、対象事業用資産の処分をした場合、事業用以外の用途に専ら供している場合、旧個人事業者の生存中に後継者が事業を営まなくなった場合の措置を定めることが求められます。「株をもらうだけもらって会社を投げ出す」ことへの歯止めを、合意書の中に置かせる建て付けです。

このほか法第5条は株式等以外の財産についての除外合意を、法第6条は推定相続人と後継者との間・推定相続人間の衡平を図るための措置に関する合意を、それぞれ併せてできる(または書面による)と定めています。非後継者側が受け取る財産についても同時に取り決めておけるということで、実務では交渉材料になります。

手続は「合意 → 経済産業大臣の確認 → 家庭裁判所の許可」

この特例で最も注意すべきなのは、期限が短く、かつ2段階あることです。

  • 1. 合意——推定相続人全員と後継者の全員が、書面で除外合意・固定合意等を締結します。確認申請には当事者全員の署名または記名押印のある書面が必要です(法第7条第3項)。
  • 2. 経済産業大臣の確認——合意が経営の承継の円滑化を図るためにされたものであること等について確認を受けます。申請は合意をした日から1か月以内です(法第7条第3項)。
  • 3. 家庭裁判所の許可——確認を受けた日から1か月以内にした申立てにより家庭裁判所の許可を受けたときに限り、合意はその効力を生じます(法第8条第1項)。

法第8条第2項は、家庭裁判所は「合意が当事者の全員の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを許可することができない」としています。書面さえ整えば通る手続ではなく、真意性の実質審査があるということです。

確認申請の実務面では、遺留分に関する民法の特例についてGビズフォーム上に申請の入口が設けられており、オンラインでの手続にはGビズID(プライム、メンバー)が必要である一方、従来どおりの紙媒体による申請も可能である旨が案内されています(問合せ先は中小企業庁事業環境部財務課)。

なお、いったん成立した合意が後から効力を失うこともあります。法第10条は、経済産業大臣の確認が取り消されたとき、旧代表者の生存中に会社事業後継者が死亡し若しくは心身の故障のため代表者の職務を適正に執行することができない者として経済産業省令で定める者に該当するに至ったとき(個人事業版は後継者が死亡したとき)、合意の当事者以外の者が新たに推定相続人となったとき、当事者の代襲者が旧代表者等の養子となったときに、合意はその効力を失うと定めています。

また法第9条第3項により、この合意は当事者以外の者に対してする遺留分侵害額の請求には影響を及ぼしません。合意に加わっていない相続人が後から現れる可能性がある家族構成では、そこをどう設計するかが要点になります。遺留分は税務というより法務の領域ですので、合意書の内容と手続は弁護士・税理士等の専門家に必ず確認してください。

支援3|金融支援:株の買取資金と納税資金に手が届く

3つ目の柱が金融支援です。前掲の申請マニュアル「金融支援」(令和6年3月)は、その狙いをこう説明しています。先代経営者の死亡や退任により事業承継をする際には、相続などにより分散した株式等や事業用資産等の買取り、これらの資産に係る相続税の納税のために多額の資金が必要となる。また経営者の交代により信用状態が低下し、取引先から支払サイトの短縮を求められたり、金融機関からの借入条件が厳しくされたりして資金繰りが悪化する場合もある。さらにMBOやEBOなどの親族外承継では、役員や従業員が先代経営者から株式等を買い取る資金を調達する必要がある——。

そこで法は、こうした資金ニーズが生じている者を都道府県知事の認定(法第12条)の対象とし、認定を受けた中小企業者(非上場会社および個人事業主)、中小企業者(会社)の代表者個人、事業を営んでいない個人に対して、次の2系統の支援をそれぞれの類型に応じて講じています。

中小企業信用保険法の特例【信用保証】

法第13条の特例は、中小企業信用保険法に規定されている普通保険(限度額2億円)、無担保保険(同8,000万円)、特別小口保険(同2,000万円)を別枠化するものです。マニュアルは、これにより信用保証協会の債務保証も実質的に別枠化されることとなり、金融機関からの資金調達が行いやすくなると説明しています。

さらに法第13条第2項・第5項は、認定を受けた中小企業者(会社)の代表者個人、または他の中小企業者の事業を承継しようとする個人を、中小企業信用保険法における中小企業者とみなすと定めています。個人であっても信用保証協会の保証を使えるようにする、という仕掛けです(ただしマニュアルは、事業を営んでいない個人は特別小口保険を利用できない旨を注記しています)。

日本政策金融公庫法等の特例【融資】

法第14条第1項は、認定を受けた中小企業者(会社)の代表者個人に対し、株式会社日本政策金融公庫または沖縄振興開発金融公庫が、経営の承継に伴い当該中小企業者以外の者から株式等を取得するための資金その他の必要資金を貸し付けることができると定めています。同条第2項は、これから他の中小企業者の経営を承継しようとする「事業を営んでいない個人」についても同様の道を開いています。

マニュアルは、従前の制度では公庫から個人事業主に該当しない個人が融資を受けることはできなかったが、本特例により後継者である個人が事業承継の際に必要となる資金について融資を受けることが可能になった、と説明しています。金利についても、通常の基準金利ではなく特別に低い利率(特別利率①)が適用されるとされています。

なお日本政策金融公庫が公表している「事業承継・集約・活性化支援資金」は、経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者、認定を受けた事業を営んでいない個人などを利用対象に挙げ、設備資金および長期運転資金を使いみちとしています。返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)とされています。適用される利率や限度額は利用者区分によって異なるため、条件は必ず公庫の最新の公表情報と窓口でご確認ください。

どんな資金に使えるのか

資金使途は施行規則第14条・第15条に列挙されており、マニュアルが実務的な説明を加えています。要点は次のとおりです。

  • 承継した後に必要となる資金——後継者が自社の株式や事業用資産を買い取る資金(MBO・EBOを含む)、相続・贈与で取得した株式等に係る相続税・贈与税の納税資金、経営者交代により取引条件や借入条件が厳しくなったことで必要となる運転資金など。対象者は中小企業者と、中小企業者(会社)の代表者です。
  • これから他の中小企業者の経営を承継するために必要となる資金——M&Aにより他社の株式や事業用資産を買い取るための資金。対象者は、これから承継しようとする中小企業者と、事業を営んでいない個人です。
  • 承継の前に必要となる資金——認定日から経営の承継の日までの間に、現経営者の保証が付された借入れを、経営者保証の提供が不要な借入れに借り換えるための資金。対象者は中小企業者(会社)です。

見落とされやすいのが2つ目です。この法律の金融支援は「売り手側の相続対策」だけでなく、買い手側の買収資金にも使えます。法第12条第1項第3号は「事業を営んでいない個人」までも認定の対象にしており、施行規則第15条第2項は、その個人が会社の株式等を取得する場合について取得により議決権の50%超を有することとなる場合に限ると絞っています。経営権を取るための買収資金、という位置づけです。

マニュアルはまた、施行規則第14条第2号・第15条第3号として、先代経営者の相続に関して後継者が負担した債務を支払うための資金——遺産分割における代償金や、遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭——を資金使途に含めています。判決の確定、裁判上・裁判外の和解、審判の確定、調停の成立があった場合が対象です。つまり先に述べた民法特例で予防しきれなかった場面を、金融支援が後ろで受け止める構造になっています。

経営者保証を外すための借換えにも使える

3行目の類型は、法第13条第6項の「経営承継借換関連保証」です。マニュアルによれば、後継者候補が存在し今後3年以内に経営の承継を予定している中小企業者であって、現経営者が法人の金融機関からの借入に対して経営者保証を提供しており、一定の財務要件を満たしている場合に、承継前に同借入を経営者保証の提供が不要な借入に借り換えるための資金について、各種保険を別枠化するものです。承継の前に先代の個人保証を解除しておくことで、承継そのものを進めやすくする狙いがあります。

なおマニュアルは、同様の趣旨の制度として「事業承継特別保証制度」があり、こちらは経営承継円滑化法に定める都道府県知事の認定は不要で、経営承継借換関連保証と併用することが可能である旨も注記しています。個人保証の論点は経営者保証に関するガイドラインおよびM&Aにおける個人保証の解除で詳しく扱っています。

認定は「融資が決まった」ことを意味しない/マニュアル第6節は、都道府県知事は認定をした際に認定書を交付するとしたうえで、認定の有効期限は認定を受けた日(認定書の日付)の翌日から起算して1年を経過する日であること、そして「認定とは別に金融機関及び信用保証協会による金融上の審査があります。認定を受けた場合でも信用保証や融資を受けられないときがあります」と明記しています(有効期限は施行規則第8条第1項にも規定)。認定はあくまで入場券で、与信判断は別にあるという前提で段取りを組む必要があります。

支援4|所在不明株主に関する会社法の特例:5年を1年に

4つ目は、令和3年8月2日から施行された会社法特例です。古い会社ほど直面しやすい、「株主名簿に載っているのに、誰も連絡が取れない株主」の問題に対する手当てです。

会社法の原則:5年という壁

会社法第197条第1項は、①その株式の株主に対して通知及び催告をすることを要しないもの(=会社法第196条第1項により、通知・催告が5年以上継続して到達しない場合)、②その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったもの、のいずれにも該当する株式を、会社が競売し、その代金を株主に交付できると定めています。

同条第2項は、市場価格のない株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却できるとし、この許可の申立ては取締役が2人以上あるときはその全員の同意によってしなければならないとしています。さらに第3項は、会社が売却する株式の全部または一部を自ら買い取ることができると定めています(取締役会設置会社では取締役会の決議が必要)。会社が買い取る形になれば、実質的には自己株式の取得と同じ結果になります。

加えて会社法第198条第1項は、競売または売却をする場合、株主その他の利害関係人が一定の期間内に異議を述べることができる旨等を公告し、株主および登録株式質権者には各別に催告しなければならず、その期間は3か月を下ることができないとしています。

つまり原則ルートでは、「5年待つ」ことがスタートラインです。社長の健康問題やM&Aの交渉が動いている状況では、事実上使えません。

円滑化法が変えるところ

法第15条第1項は、法第12条第1項第1号ホに該当する者として認定を受けた者(特例株式会社)について、会社法第197条の適用を読み替え、通知・催告が「一年以上継続して到達しない」こと、配当の不受領を「一年間」とすると定めています。登録株式質権者についても同様の読替えが置かれています。5年が1年になる、というのはこの読替えのことです。

ただし、短縮の代わりに手続保障が一段増えます。法第15条第2項は、特例株式会社は会社法第198条第1項に定める手続に先立ち、株主その他の利害関係人が一定の期間内に異議を述べることができる旨その他経済産業省令で定める事項を公告し、かつ当該株式の株主およびその登録株式質権者に各別にこれを催告しなければならず、その期間は3か月を下ることができないと定めています。実務上は、この特例固有の公告・催告と、会社法第198条第1項の公告・催告を二段構えで踏むことになります。

公告すべき事項は施行規則第15条の2に定められており、特例対象株式の競売または売却をする旨、株主名簿に記載・記録された株主の氏名または名称および住所、特例対象株式の数(種類株式発行会社にあっては種類および種類ごとの数)などが挙げられています。

そして、この特例には明確な打ち切り条件があります。法第15条第3項は、①同条第2項の期間が満了していない場合、②その期間内に利害関係人が異議を述べた場合、③第2項の催告が株式の株主またはその登録株式質権者に到達した場合には、読替え(5年→1年)の規定は適用しないとしています。つまり、催告が届いてしまった時点でその株主は「所在不明」ではなくなり、特例のルートからは外れます。

裏を返せば、この手続は「探してもどうしても見つからない株主」に限った最後の手段だということです。名義の整理で済む話であれば、名義株の整理の手順を先に検討するほうが確実です。

認定の要件と有効期限

認定の根拠は法第12条第1項第1号ホです。条文は、当該中小企業者(株式会社に限る)の代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため事業活動の継続に支障が生じている場合であって、当該中小企業者の一部の株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者(株式会社事業後継者)に円滑に承継させることが困難であると認められること、と定めています。単に所在不明株主がいるだけでは足りず、承継の必要性と、それが所在不明株主によって妨げられていることがセットで求められる建て付けです。

有効期限も他の認定と異なります。施行規則第8条第11項は、法第12条第1項第1号ホの認定の有効期限を認定を受けた日の翌日から2年を経過する日(その2年を経過する日までに裁判所に特例対象株式の競売または売却に係る事件の申立てがされた場合には、当該競売による換価または当該売却がされた日)としています。金融支援の認定が1年であるのに対し、こちらは公告期間が長いぶん2年が確保されている、と理解すると整合します。

さらに施行規則は、認定を受けたにもかかわらず法第15条の手続をしない場合や、裁判所への申立てが取り下げ・却下された場合には認定を取り消すことができるとしています。取るだけ取って寝かせておく使い方は想定されていません。

この特例の申請実務については、中小企業庁財務課「中小企業経営承継円滑化法 申請マニュアル『会社法特例』(所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例)」(令和6年3月)が詳しく、都道府県も独自の案内を出しています。株式の種類や譲渡制限の有無で論点が変わるため、種類株式譲渡制限株式の基本も押さえておくと理解が早くなります。

局面別:どれを、いつ使うか

4つの支援は独立した制度ですが、実際の案件では複数が同時に効いてきます。申請マニュアル(金融支援)も、信用保証と融資の両特例を併用でき、認定要件を満たしていれば事業承継税制をはじめとする他の円滑化法上の支援措置との併用も可能であるとしています。

困っていることまず検討する支援補足
後継者に株を渡したいが、相続税・贈与税が重い税制支援(都道府県知事の認定)特例措置は計画提出と適用期限があるため、最新の期限を要確認
他の相続人の遺留分を侵害しそう遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)推定相続人全員の合意が前提。合意から確認、確認から申立てまで各1か月
分散した株を後継者が買い戻す現金がない金融支援(信用保証・公庫融資)代表者個人が借りられる点が要。認定の有効期限は1年
納税資金が足りない税制支援+金融支援納税猶予を使うか、借りて払うかは両にらみで検討
連絡が取れない株主がいてM&Aが進まない会社法特例(所在不明株主)公告・催告を二段構えで踏む。認定の有効期限は2年
後継者がいない第三者承継(M&A)+金融支援(買い手側)売り手側は公的窓口、買い手側は認定で資金調達

後継者が社内にも親族にもいない場合の整理は後継者不在のときの選択肢に、相談先の選び方は事業承継の相談先事業承継・引継ぎ支援センターにまとめています。補助金を含む公的支援の全体像はM&Aの公的支援制度事業承継・引継ぎ補助金公的資料の読み方をご覧ください。第三者承継を進める際の進め方の指針は中小M&Aガイドライン、税務の論点は中小M&Aの税務、市場の実態は中小M&Aの統計データが参考になります。

一方、事業が赤字や過剰債務を抱えている場合は、この法律より先に再生の枠組みを検討すべき局面もあります。その入口は中小企業の事業再生等に関するガイドライン中小企業活性化協議会にまとめています。自社の状態を数字で確認する手順はローカルベンチマークが使いやすく、廃業と承継を比べる視点は黒字廃業で扱っています。制度全体の前提として事業承継ガイドラインにも目を通しておくと、支援措置の位置づけが見えやすくなります。

使えないケース・つまずきやすい注意点

  • 対象外の法人形態がある。申請マニュアル(金融支援・令和6年3月)は、医療法人や社会福祉法人、外国会社は法における中小企業者に該当しないとしています。また会社法特例は条文上、株式会社に限られます。
  • 上場会社等は除かれる。民法特例の特例中小会社も、金融支援の対象となる会社も、上場株式・店頭売買有価証券登録原簿に登録された株式を発行している会社は除外されています。
  • 事業歴が3年に満たないと民法特例は使えない。施行規則第2条が3年以上継続して事業を行っていることを要件としています。
  • 推定相続人全員の合意が取れなければ、民法特例は成立しない。一人でも欠ければ書面は作れず、家庭裁判所も全員の真意を審査します。
  • 期限が短い。合意から確認申請まで1か月、確認から家庭裁判所への申立てまで1か月(法第7条第3項・第8条第1項)。評価の証明や戸籍類の収集を後回しにすると間に合いません。
  • 認定を取っても融資・保証が出るとは限らない。金融機関・信用保証協会の審査は別です(申請マニュアル第6節)。
  • 認定には有効期限がある。金融支援等は認定日の翌日から1年、所在不明株主の会社法特例は2年(施行規則第8条)。資金実行や裁判所手続の時期から逆算する必要があります。
  • 会社法特例は「催告が届いたら終わり」。法第15条第3項により、催告が到達した場合や異議が述べられた場合は読替えが適用されません。
  • 期限や要件は改正される。特に税制支援は税制改正の影響を直接受けます。検討の際は必ず中小企業庁・国税庁・都道府県の最新の公表資料で確認してください。
専門家への確認について/本稿は公表資料にもとづく一般的な整理であり、個別案件の判断を示すものではありません。遺留分の合意内容、株式等の評価、納税猶予の可否、借入や保証の設計は、いずれも税務・法務の判断を伴います。実際の手続に入る前に、弁護士・税理士等の専門家に必ずご確認ください。都道府県の担当課や中小企業庁財務課も、制度の解釈について問い合わせを受け付けています。

よくある質問

Q. 認定はどこに申請するのですか

A. 施行令第2条により、法第12条第1項の認定(税制支援・金融支援・会社法特例)は、中小企業者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事が行います。申請マニュアル(金融支援・令和6年3月)も「法に基づく申請等の受付は、主たる事務所が所在している都道府県にて行っております」としています。一方、遺留分に関する民法の特例の確認(法第7条)は経済産業大臣の権限のままで、中小企業庁事業環境部財務課が窓口です。

Q. 複数の支援を同時に使えますか

A. 申請マニュアル(金融支援)は、信用保証と融資の両特例を併用でき、それぞれにおいて複数の資金使途について併用することも可能であるとし、認定要件を満たしていれば事業承継税制をはじめとする他の円滑化法上の支援措置との併用も可能だとしています。併用する場合は、認定申請書に記載した必要資金のうち、信用保証と融資の各特例の利用を希望する金額と資金使途をそれぞれ区別して明記するよう求められています。

Q. 固定合意の「合意時の価額」は誰が出すのですか

A. 法第4条第1項第2号により、弁護士、弁護士法人、弁護士・外国法事務弁護士共同法人、公認会計士、監査法人、税理士または税理士法人が、その時における相当な価額として証明したものに限られます。同条第2項は、旧代表者本人と会社事業後継者本人、業務の停止の処分を受けその停止の期間を経過しない者などは証明をすることができないと定めています。評価の考え方そのものは非上場株式の評価方法で整理していますが、誰が証明するかが条文上の要件である点が、通常の株価算定と異なります。

Q. 個人事業主でも使えますか

A. 柱によって異なります。遺留分に関する民法の特例には個人事業主版があり、旧個人事業者から事業用資産の全部の贈与を受けた個人事業後継者について、除外合意に相当する定めが可能です(法第4条第3項)。金融支援についても、法第12条第1項第2号が個人である中小企業者を認定の対象としています。一方、所在不明株主に関する会社法の特例は株式会社を前提とする制度です。

Q. 「事業を営んでいない個人」でも認定を受けられるのはなぜですか

A. 法第12条第1項第3号が、他の中小企業者の役員または親族の中から経営を承継しようとする者を確保することが困難であること等により事業活動の継続に支障が生じている場合に、その承継に不可欠な資産の譲受けを行う「事業を営んでいない個人」を認定の対象としているためです。申請マニュアルは、従前は公庫から個人事業主に該当しない個人が融資を受けることはできなかったが、本特例により、これから株式または事業用資産を買い取って承継し事業を始めようとする者も融資を受けられるようになったと説明しています。

まとめ

経営承継円滑化法は、事業承継という一つの出来事に対して、税・相続・資金・株主名簿という4方向から穴を塞ぐ法律です。逐条で読むと難解ですが、実務では「自分がいま詰まっているのはどこか」を決めれば、使う入口は自ずと絞られます。

そして4つに共通しているのが、行政の確認・認定が先にあり、実際の効果はその後に来るという順序です。税の猶予は税務署に申告して初めて成立し、融資や保証は金融機関の審査を経て初めて実行され、遺留分の合意は家庭裁判所の許可を受けて初めて効力を生じ、所在不明株主の株式は公告・催告と裁判所の手続を経て初めて処分できます。認定はゴールではなく、その先の手続に進むための資格です。

だからこそ、期限から逆算した段取りが要になります。民法特例の1か月+1か月、金融支援の認定の有効期限1年、会社法特例の2年。いずれも、書類集めや評価の証明を後回しにすると簡単に溶ける長さです。そしてこれらの数字も要件も、改正の対象になり得ます。判断の前には、中小企業庁・国税庁・都道府県の最新の公表資料で必ず裏を取り、税務・法務の論点は専門家にご確認ください。

なお、どの柱を検討するにしても、最初に必要になるのは自社の株式にいくらの価値がつくのかという数字です。納税猶予を使うべき規模なのか、遺留分でいくら問題になりそうなのか、買い戻すならいくら必要なのか——すべてそこから逆算されます。

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