中小企業のM&A・事業承継の統計まとめ|件数・後継者不在率・成約データ(公的資料ベース)

最終更新: 2026-09-12

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中小企業のM&Aや事業承継について調べていると、「M&Aの件数は増えているらしい」「後継者不在率は下がっているらしい」といった話には出会うものの、その数字がどの調査の何年の値なのかが分からないまま引用されている場面が少なくありません。数字は出どころと年次が分からなければ使えません。このページは、中小企業のM&A・事業承継に関して公表されている数字だけを集め、それぞれに調査主体名と年次を添えて一覧にした早見表です。

掲載しているのは、中小企業庁・中小企業基盤整備機構(中小機構)などの公的機関が公表している資料と、調査主体と年次が明確な民間調査の公表値です。まとめサイトなどからの孫引きは使っていません。また、確認できなかった数字は載せていません。特に譲渡価額については、公表されている統計そのものが限られているため、その事実も含めて正直に整理しています。最終更新日:2026年9月12日

本ページの数字は、それぞれの調査主体が公表した時点の値です。調査は毎年更新されるため、実際に引用する際は必ず最新の公表資料をご確認ください。また、調査によって集計対象(全企業か中小企業か、暦年か年度か)や定義が異なるため、異なる調査の数字を単純に足したり比べたりすることはできません。

このページに収録している数字の一覧

先に全体像を示します。それぞれの項目について、どの調査の何年(何年度)の値を載せているかをまとめました。以下の各章で、内訳とあわせて表にしています。

項目主な出典本ページに載せている年次
国内のM&A件数レコフデータ(M&A専門誌マール/公表ベース集計)2024年・2025年(暦年)
中小M&Aの成約件数中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」2022年度〜2024年度
後継者不在率帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2025年)2017年・2020年・2023年〜2025年
経営者の年齢構成帝国データバンク 全国「社長年齢」分析調査(2025年)2025年(2025年12月時点)
事業承継・引継ぎ支援センターの実績中小企業基盤整備機構(中小機構)公表資料令和3年度〜令和7年度
M&A支援機関登録制度の登録数中小企業庁 公表資料令和8年3月時点・令和8年8月時点
休廃業・解散と黒字割合帝国データバンク 全国企業「休廃業・解散」動向調査(2025年)2016年〜2025年
譲渡価額の水準(PBR・EV/EBITDA)中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」2022年度〜2024年度

1. M&Aの件数の推移

国内のM&A件数(公表ベース)

日本企業が関わるM&Aの件数として広く参照されているのが、レコフデータが公表ベースで集計している統計です。同社の集計によると、2025年(1〜12月)の日本企業のM&A件数は5,115件で、5,000件を突破しました。

年(暦年)M&A件数前年比出典
2024年4,700件レコフデータ「2025年のM&A回顧」(M&A専門誌マール2026年2月号)
2025年5,115件(過去最多、2年連続で更新)+415件・+8.8%レコフデータ「2025年のM&A回顧」(M&A専門誌マール2026年2月号)
2025年の内訳(マーケット別)件数前年比
IN-IN(日本企業同士)4,086件(最多更新)+10.4%
IN-OUT(日本企業による海外企業の買収など)657件△1.2%
OUT-IN(海外企業による日本企業の買収など)372件(最多更新)+11.7%
合計5,115件+8.8%

この数字の読み方:これは「公表された」M&Aの件数です。中小企業のM&Aは公表されないものが大半のため、この5,115件という数字に中小企業の案件がすべて含まれているわけではありません。また、同じ集計によれば件数は2012年から2019年まで8年連続で増加した後、2020年に減少、2021年から再び増加し、2023年に一度減少しています。単調に増え続けてきたわけではない点は押さえておきたいところです。

中小M&Aの件数(登録支援機関の実績報告ベース)

中小企業のM&Aについては、中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録した支援機関(FA・仲介業者)が実績報告した案件を集計した「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」が公表されています。ここでいう中小M&Aは、資本金1億円以下の法人または個人事業主を当事者とするM&Aで、最終契約に至ったものが対象です。

年度譲渡側の報告件数譲受側の報告件数
2022年度4,036件3,871件
2023年度4,681件4,505件
2024年度4,940件4,708件
2024年度の支援形態譲渡側譲受側合計
FA(一方の当事者と契約)916件703件1,619件
仲介(双方と契約)4,024件4,005件8,029件
合計4,940件4,708件9,648件

この数字の読み方:この集計は登録支援機関から報告があった案件のみを対象にしています。登録していない支援機関が扱った案件や、当事者同士で直接進めた案件は含まれないため、中小M&Aの総数ではなく「制度を通じて把握できている件数」と理解するのが正確です。それでも年度ごとに増えていること、支援形態としては約8割が仲介であることは、中小M&Aの実務を考えるうえで参考になります。FAと仲介の違いはM&A仲介とFAの違い、中小M&Aの全体像はスモールM&Aとはで整理しています。

2. 後継者不在率の推移

後継者不在率については、帝国データバンクが毎年公表している全国「後継者不在率」動向調査が広く参照されています。2025年の調査(2025年11月21日公表)は、同社のデータベースから事業承継の実態が分析可能な約27万社(全国・全業種)を抽出し、2023年10月〜2025年10月を対象期間として分析したもので、通算12回目にあたります。

全国の後継者不在率備考
2017年66.5%同調査で2016年以降の10年間では最高
2020年65.1%2025年はここから15.0ポイントの低下
2023年53.9%
2024年52.1%
2025年50.1%前年比△2.0ポイント、7年連続で改善。該当は約13.8万社
企業規模別(帝国データバンク/2025年)2023年2024年2025年
大企業30.4%27.5%24.9%
中小企業54.9%53.1%51.2%
中小企業のうち小規模企業60.2%58.8%57.3%
全国・全業種53.9%52.1%50.1%
社長の年代別(帝国データバンク/2025年)2024年2025年
30代未満84.6%83.2%
30代81.8%81.3%
40代74.9%72.6%
50代60.4%58.3%
60代37.8%35.9%
70代28.5%27.3%
80代以上23.2%22.2%
業種別(帝国データバンク/2025年)2024年2025年
建設業59.3%57.3%
小売業56.8%55.2%
サービス業55.5%52.9%
不動産業52.9%51.1%
卸売業48.8%46.8%
運輸・通信業47.2%45.7%
製造業43.8%42.4%
その他40.5%38.5%

この数字の読み方:全体は改善していますが、規模が小さいほど不在率が高い構造は変わっていません。2025年時点でも小規模企業は57.3%で、全国平均を7ポイント以上上回ります。また、年代別に見ると60代以上では全国平均を大きく下回る一方、80代以上でもなお22.2%が後継者を決めていません。「不在率が下がった」という見出しだけで判断せず、自社が属する規模・年代・業種の区分で見ることが大切です。後継者がいない場合の選択肢は後継者不在のときの選択肢で整理しています。

新任社長の就任経緯:親族外への承継が増えている

同じ調査では、その年に代表者が交代した企業について、前代表者との関係性(就任経緯)も集計されています。

就任経緯(帝国データバンク)2021年2024年(実績値)2025年(速報値)
同族承継38.7%35.7%32.3%
内部昇格31.4%35.0%36.1%
M&Aほか(買収・出向・分社化の合計)18.6%19.2%20.6%
外部招聘7.3%7.0%7.6%
創業者4.0%3.0%3.4%

この数字の読み方:2025年は速報値の段階で内部昇格(36.1%)が同族承継(32.3%)を上回っています。同調査ではこの傾向を「脱ファミリー」と表現しています。また、後継者候補の属性では「非同族」が41.0%と初めて40%を超え、「子ども」は29.7%、「親族」は24.6%、「配偶者」は4.7%でした。親族内で継ぐことが当然ではなくなりつつある、というのがデータから読み取れる流れです。親族内承継を選ぶ場合の株価の考え方は事業承継における株価の相場で解説しています。

3. 経営者の年齢構成・高齢化

経営者の高齢化については、中小企業白書2025年版が「中小企業の経営者年齢の水準は依然として高く、60歳以上の経営者が過半数を占めている」と記述しています(第1-1-68図)。具体的な年齢構成の数値としては、帝国データバンクの全国「社長年齢」分析調査(2025年、2026年2月16日公表)が参照できます。同調査は企業概要ファイル「COSMOS2」(約150万社収録)から2025年12月時点の社長データを抽出したものです。

社長の年代(帝国データバンク/2025年)構成比
30歳未満0.2%
30代2.8%
40代14.4%
50代30.0%
60代27.5%
70代19.5%
80代以上5.6%
(参考)50歳以上の合計82.6%
(参考)60歳以上の合計52.6%
社長年齢に関するその他の指標(帝国データバンク/2025年)
社長の平均年齢60.8歳(35年連続で過去最高を更新)
1990年の平均年齢54.0歳
2015年の平均年齢59.2歳
社長交代率(2024年→2025年)3.84%
交代前(引退)社長の平均年齢68.5歳
交代後(新社長)の平均年齢52.8歳
交代にともなう若返り幅15.7歳

この数字の読み方:社長の平均年齢は1990年の54.0歳から2025年の60.8歳まで、35年間で約7歳上がっています。一方、社長交代率は3.84%にとどまり、母集団全体の年齢が下がるほどの交代は起きていません。60歳以上が52.6%、70歳以上が25.1%(70代19.5%+80代以上5.6%)という構成は、今後10年程度のあいだに承継か廃業かの判断を迫られる企業が相当数あることを示しています。なお中小企業白書2025年版は、事業承継に3年以上を要すると回答した割合が半数を超えていることにも触れており、準備期間の長さを考えると早めの検討が現実的だといえます。

4. 事業承継・引継ぎ支援センターの相談件数・成約件数

事業承継・引継ぎ支援センターは、国が47都道府県(48か所)に設置している事業承継に関する公的相談窓口です。中小機構が毎年度、全国の実績を取りまとめて公表しています。

指標令和6年度(2024年度)令和7年度(2025年度)
新規相談者数23,000者超24,030者(開設以来初めて2万4,000者を突破、過去最多)
相談回数92,509回(過去最多)
第三者承継(M&A)に関する新規相談者数16,045者16,322者(過去最多)
第三者承継(M&A)の成約件数2,132件(当時の過去最高)2,265件(過去最多を更新)
後継者人材バンクの成約件数106件114件(過去最多)
後継者人材バンクの新規登録者数1,551者1,472者
後継者人材バンクの累計登録者数10,075者11,547者
累計(センター開設以来)令和6年度末時点令和7年度末時点
相談者数の累計150,655者174,685者
第三者承継の成約件数の累計12,306件14,571件
親族内承継の支援完了件数(中小機構)件数
令和3年度1,043件
令和4年度1,270件
令和5年度1,558件
令和6年度1,695件
令和3〜6年度の合計5,566件

この数字の読み方:センターの成約は第三者承継(M&A)が年間2,000件台、親族内承継の支援完了が年間1,500〜1,700件台で、いずれも増加傾向にあります。ただしこれは「センターが関与した案件」の数であり、民間の仲介会社などを通じた案件は含まれません。公的支援の使い方はM&Aの公的支援、相談先の選び方は事業承継の相談先を参考にしてください。

センターで成約した譲渡企業の規模

中小機構の公表資料には、令和6年度にセンターで成約した譲渡企業の売上規模と業種の内訳も掲載されています。中小M&Aの実際の規模感が分かる、数少ない公表データです。

成約譲渡企業の売上規模(令和6年度)割合
30百万円以下36.1%
30百万円超〜1億円以下31.9%
1億円超〜5億円以下27.0%
5億円超〜10億円以下2.9%
10億円超〜50億円以下1.8%
50億円超0.3%
成約譲渡企業の業種(令和6年度)割合
サービス業・その他27.3%
製造業19.5%
卸・小売業18.1%
宿泊・飲食サービス業14.6%
建設業12.2%
医療・福祉5.3%
運輸業3.0%

この数字の読み方:売上1億円以下が68.0%(36.1%+31.9%)、5億円以下まで含めると95.0%を占めます。センターに持ち込まれる案件は小規模なものが中心だということです。売上規模と価格の関係は会社売却の規模別の相場、業種ごとの評価の違いは業種別の企業価値評価のポイントで整理しています。

5. M&A支援機関登録制度の登録数

M&A支援機関登録制度は、中小M&Aガイドラインの遵守の宣言等を登録要件として、M&A支援を行うFAまたは仲介業者を登録する制度で、令和3年(2021年)8月に創設されました。事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)では、登録された支援機関の提供する支援に係る費用のみが補助対象となります。登録数は中小企業庁が毎月公表しています。

時点登録FA・仲介業者の合計うち法人うち個人事業主
令和8年3月9日時点3,399件2,606件793件
令和8年8月20日時点3,287件2,531件756件

この数字の読み方:登録には年度ごとの継続申請が必要なため、新年度に入った直後は継続手続きの進み具合によって登録数が一時的に減ることがあります。時点の違いによる増減を「業者が減った/増えた」とそのまま解釈しないよう注意が必要です。なお、登録の有無は補助金の対象になるかどうかを示すもので、支援の質を保証するものではありません。支援機関を選ぶ際の考え方はM&A仲介会社の選び方、手数料の仕組みはM&A仲介手数料の相場、補助金の内容は事業承継・引継ぎ補助金で解説しています。

6. 休廃業・解散の件数と、そのうち黒字だった企業の割合

休廃業・解散については、帝国データバンクの全国企業「休廃業・解散」動向調査(2025年、2026年1月9日公表)が年次で公表されています。同調査における「休廃業・解散企業」とは、倒産(法的整理)を除き、特段の手続きを取らずに企業活動が停止した状態を確認した企業、または商業登記等で解散(みなし解散を除く)を確認した企業の総称です。

休廃業・解散件数(帝国データバンク)
2016年約6.02万件
2017年約5.97万件
2018年約5.85万件
2019年約5.92万件
2020年約5.61万件
2021年約5.47万件
2022年約5.34万件
2023年約5.91万件
2024年69,019件(年間で最多)
2025年67,949件(前年比△1.6%、過去10年で2番目の多さ)
2025年の休廃業・解散に関する指標(帝国データバンク)
直前期の当期純損益が「黒字」だった割合49.1%(2016年以降で初めて5割を下回る)
「黒字」割合のピーク2020年の57.1%(以後5年連続で低下)
「資産超過型」の割合63.4%
資産超過かつ黒字だった割合15.2%
休廃業・解散率4.58%
消失した雇用者数(正社員)93,272人
消失した売上高の合計2兆4,909億円
休廃業・解散時の経営者年齢(帝国データバンク/2025年)
平均年齢71.5歳(5年連続で70代、過去最高を更新)
最も多い年齢(ピーク年齢)76歳(2010年は63歳)
80代以上の割合24.4%(過去最高、過去10年で約2倍)
70代の割合39.3%
60代以上の割合84.1%
50代の割合11.3%
40代の割合3.7%

この数字の読み方:ここでいう「黒字」は休廃業・解散の直前期の当期純損益に基づく判定です。2025年に49.1%まで下がったとはいえ、休廃業した企業の約半数は直前期が黒字だったことになります。同調査は、物価高や人件費などのコスト上昇で損益が悪化した企業の割合が高まった点を2025年の特徴として挙げています。黒字のまま会社を閉じる場合に何が失われるかは黒字廃業で整理しています。

後継者難による倒産

同社は、後継者がいないことで事業継続が困難になった「後継者難倒産」(負債1,000万円以上、法的整理)も集計しています。

後継者難倒産の件数(帝国データバンク)
2023年564件(過去最多)
2024年540件
2025年1〜10月425件(前年同期比△6.6%)

この数字の読み方:同調査によれば、2025年の後継者難倒産のうち、代表者の病気または死亡により事業が立ち行かなくなったケースは194件で、全体の4割を超える水準で推移しています。後継者を「決めていない」状態そのものより、決めないまま代表者に不測の事態が起きることのほうが直接的なリスクとして表れている、と読むことができます。

7. 譲渡価額の分布:公表統計は限られる

中小企業のM&Aで最も知りたい「いくらで売れたか」については、正直に言えば公表されている統計は非常に限られています。個別案件の譲渡価額はほとんど開示されないためです。そのなかで参照できる数少ない公表データが、中小企業庁の「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」です。ここでは金額そのものではなく、譲渡価額を純資産や収益力と比べた倍率の分布が公表されています。

なお同資料は、集計対象が登録支援機関から報告のあった案件に限られること、譲渡価額や財務データの一部は任意報告のためサンプル数に制約があること、報告された純資産に簿価のものと時価反映のものが混在していることなどを、利用上の留意点として明示しています。あくまで参考値として扱う必要があります。

PBR(株式譲渡価額÷純資産)の分布

業種(2022〜2024年度合計)第1四分位中央値第3四分位
全体(2,830件)0.7倍1.3倍2.5倍
建設業(479件)0.7倍1.1倍1.8倍
製造業(517件)0.5倍1.0倍1.7倍
情報通信業(189件)1.2倍2.4倍4.5倍
運輸業、郵便業(129件)0.8倍1.1倍1.7倍
卸売業、小売業(461件)0.7倍1.2倍2.2倍
不動産業、物品賃貸業(158件)0.9倍1.6倍3.8倍
学術研究、専門・技術サービス業(164件)1.0倍1.8倍3.5倍
宿泊業、飲食サービス業(104件)0.8倍1.5倍3.9倍
生活関連サービス業、娯楽業(98件)1.0倍1.7倍4.0倍
医療、福祉(246件)0.5倍1.2倍2.6倍
サービス業(他に分類されないもの)(198件)1.0倍1.6倍2.9倍
純資産規模別のPBR(2022〜2024年度合計)第1四分位中央値第3四分位
1千万円超〜2千万円以下(212件)0.9倍1.5倍3.9倍
2千万円超〜3千万円以下(171件)0.7倍1.6倍3.4倍
3千万円超〜4千万円以下(130件)0.5倍1.0倍2.2倍
5千万円超〜1億円以下(534件)0.6倍1.2倍2.2倍
1億円超〜1億5千万円以下(278件)0.6倍1.0倍2.0倍
2億円超〜3億円以下(259件)0.8倍1.1倍1.9倍
3億円超〜5億円以下(254件)0.9倍1.3倍2.3倍
5億円超(422件)0.8倍1.3倍1.9倍

この数字の読み方:全体の中央値は1.3倍、第1四分位から第3四分位までは0.7〜2.5倍と幅があります。純資産規模別に見ると各区分の中央値はおおむね1〜2倍の範囲に収まっており、規模が大きくなるほどばらつきは小さくなる傾向が見られます。同資料は、純資産が少ない案件はPBRが過大になりやすいため純資産500万円未満の案件を除いて集計している旨も付記しています。純資産をベースにした評価の考え方は時価純資産法とは、それに利益を数年分加える方法は年買法とはで解説しています。

EV/EBITDA倍率の分布

業種(2024年度)第1四分位中央値第3四分位
全体(1,987件)3.6倍7.3倍15.5倍
建設業(310件)2.9倍5.4倍11.6倍
製造業(358件)3.5倍6.3倍14.7倍
情報通信業(153件)4.7倍9.0倍17.2倍
運輸業、郵便業(95件)3.2倍7.1倍13.3倍
卸売業、小売業(336件)3.8倍7.7倍14.9倍
不動産業、物品賃貸業(107件)9.5倍19.6倍40.6倍
学術研究、専門・技術サービス業(125件)3.4倍6.5倍11.9倍
宿泊業、飲食サービス業(72件)5.3倍10.3倍17.7倍
生活関連サービス業、娯楽業(72件)3.3倍5.1倍9.9倍
医療、福祉(150件)3.5倍8.5倍19.0倍
サービス業(他に分類されないもの)(147件)3.2倍7.8倍17.3倍

この数字の読み方:全体の中央値は7.3倍ですが、第1四分位3.6倍から第3四分位15.5倍まで大きく広がっています。業種別の中央値はおおむね5〜10倍程度に分布する一方、不動産業、物品賃貸業のように20倍近い業種もあります。この指標は「株式譲渡価額+純有利子負債」を「営業利益+減価償却費」で割ったものとして定義されています。倍率法の考え方そのものは類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)で詳しく解説しています。倍率のレンジが広いということは、同じ業種でも収益の安定性や属人性によって評価が大きく変わるということでもあります。

M&A支援機関への報酬

同じ集計結果には、支援機関への報酬に関するデータも含まれています。一般的なレーマン方式の報酬基準額と報酬率として、次の水準が示されています。

報酬基準額報酬率(一般に設定されることが多い水準)
5億円以下の部分5%
5億円超〜10億円以下の部分4%
10億円超〜50億円以下の部分3%
50億円超〜100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%
報酬の内訳(2022〜2024年度、株式譲渡案件)譲渡側譲受側
集計対象件数3,245件3,280件
最終契約時に成功報酬のみを受領1,616件(49.8%)1,172件(35.7%)
着手金・中間金等を最終契約前に一部受領1,629件(50.2%)2,108件(64.3%)

この数字の読み方:レーマン方式では「報酬基準額」に何を使うか(株価、オーナー受取額、企業価値、移動総資産など)で最終的な金額が大きく変わります。同資料もこの点を留意事項として挙げています。計算の仕組みはレーマン方式の計算方法で具体例つきで解説しています。

数字から言えること(考察)

後継者不在率が下がっているのに、M&Aは減っていない

後継者不在率は2017年の66.5%から2025年の50.1%まで16.4ポイント下がりました(帝国データバンク/2025年)。それでも中小M&Aの報告件数は2022年度4,036件から2024年度4,940件へ、センターの第三者承継成約は令和6年度2,132件から令和7年度2,265件へと増えています。一見すると矛盾しますが、就任経緯のデータを見ると説明がつきそうです。同族承継は32.3%まで下がり、内部昇格が36.1%、M&Aほかが20.6%となっています(いずれも2025年速報値)。つまり「後継者が決まった」の中身自体が、親族から社内の人材や第三者へ移っている可能性があります。後継者不在率の低下は、必ずしもM&Aの需要が減ることを意味しないと考えられます。

廃業と承継は、同じ母集団の中で分かれている

休廃業・解散は2025年に67,949件で、経営者の平均年齢は71.5歳、60代以上が84.1%を占めます(帝国データバンク/2025年)。一方、社長の平均年齢は60.8歳、60歳以上が52.6%です(帝国データバンク/2025年)。休廃業する経営者の年齢層は、全体の経営者年齢よりも10歳以上高い水準にあります。ここから読み取れるのは、承継の検討を先送りするほど、選べる選択肢が「畳む」側に寄っていく可能性がある、ということです。同じ調査でも、後継者難倒産の4割超が代表者の病気・死亡をきっかけとしている点は、時間の余裕が意思決定の質に直結することを示唆しています。ただし、廃業を選ぶ理由は事業の将来性や設備更新の負担など多様であり、単一の要因に帰することはできません。

「黒字なのに畳む」は減ったが、なくなったわけではない

休廃業した企業のうち直前期が黒字だった割合は、2020年の57.1%から2025年の49.1%まで5年連続で低下しました(帝国データバンク/2025年)。この低下は「黒字なのに畳む会社が減った」というより、同調査が指摘するようにコスト上昇で損益が悪化した企業の割合が高まったことによる面が大きいと考えられます。それでもなお約半数は黒字であり、資産超過かつ黒字で畳んだ企業も15.2%あります。収益力が残っている段階であれば、譲渡という選択肢を検討する余地はあると考えられます。

「相場」は公表統計からは出てこない

ここまで見てきたとおり、件数や不在率については毎年更新される公表統計がありますが、譲渡価額については倍率の分布が参考値として公表されているにとどまります。しかもその分布は、PBRで0.7〜2.5倍、EV/EBITDAで3.6〜15.5倍という広いレンジです(中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」/2022〜2024年度)。この幅の中でどこに位置するかは、公表統計からは分かりません。自社の価格の目安を知るには、結局のところ自社の財務数値を当てはめて計算するほかない、というのが実情です。

公表統計で分からない部分は、自社の数字で補う

上の分布表は「業種の中央値」「規模の中央値」であって、自社の値ではありません。たとえばEV/EBITDA倍率の中央値が7.3倍と言われても、自社のEBITDAがいくらか、純有利子負債がいくらかが分からなければ株式価値には結びつきません。逆に言えば、決算書があれば、公表されている倍率のレンジを使って自社なりのレンジを出すことはできます。

出典一覧

本ページで用いた数字の出典です。いずれも各機関が公表した資料に基づいています(URLは変更されることがあるため、機関名と資料名・年次で記載しています)。

  • 中小企業庁「2025年版 中小企業白書」第1部第1章第9節 事業承継(第1-1-67図、第1-1-68図、第1-1-69図、コラム1-1-10〜1-1-12)
  • 中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(M&A支援機関登録制度/報告対象:2022年4月1日〜2025年3月31日に最終契約に至った中小M&A)
  • 中小企業庁「M&A支援機関登録制度に係る登録フィナンシャル・アドバイザー及び仲介業者の公表」(令和7年度公募2月分/2026年3月9日公表、令和8年度公募7月分/2026年8月20日公表)
  • 独立行政法人中小企業基盤整備機構「令和6年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」(2025年5月30日公表)
  • 独立行政法人中小企業基盤整備機構「令和7年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」(2026年5月公表)
  • 株式会社帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2025年)(2025年11月21日公表)
  • 株式会社帝国データバンク 全国「社長年齢」分析調査(2025年)(2026年2月16日公表)
  • 株式会社帝国データバンク 全国企業「休廃業・解散」動向調査(2025年)(2026年1月9日公表)
  • 株式会社レコフデータ「2025年のM&A回顧(2025年1-12月の日本企業のM&A動向)」(M&A専門誌マール2026年2月号/公表ベース集計)

まとめ

中小企業のM&A・事業承継に関する数字を、出典と年次つきで整理しました。要点を挙げると、日本企業のM&A件数は2025年に5,115件(レコフデータ)、登録支援機関を通じた中小M&Aの報告件数は2024年度に4,940件(中小企業庁)、後継者不在率は2025年に50.1%(帝国データバンク)、社長の平均年齢は2025年に60.8歳(帝国データバンク)、事業承継・引継ぎ支援センターの第三者承継成約は令和7年度に2,265件(中小機構)、休廃業・解散は2025年に67,949件でうち直前期が黒字だった割合は49.1%(帝国データバンク)です。

一方で、譲渡価額そのものについては、PBRやEV/EBITDA倍率の分布が参考値として公表されているにとどまり、金額の統計はほとんどありません。分布の幅も広いため、「統計上の相場」から自社の価格を導くことはできません。自社の位置を知るには、自社の財務数値を当てはめて計算するのが確実です。

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