子会社化の会計処理|株式取得の仕訳と資本連結・のれんの計算例
最終更新: 2026-11-05・M&Aバリュークラウド(株式会社ベルシャンス)・ 編集方針
結論から言うと、株式を買って会社を子会社にしたときの会計処理は「個別財務諸表」と「連結財務諸表」で別々に考えます。個別財務諸表では、買った株式を「子会社株式」として取得原価で計上し、アドバイザー報酬などの付随費用も取得原価に含めます。連結財務諸表では、その付随費用(取得関連費用)を発生した期の費用に振り替え、子会社の資産・負債を支配獲得日の時価で評価し直したうえで、親会社の投資と子会社の資本を相殺消去します。差額がのれん(マイナスなら負ののれん)、親会社に帰属しない部分が非支配株主持分です。のれんは日本基準では20年以内の期間で規則的に償却します。
この記事は、買収を検討・実行している事業会社の経営企画・経理の方に向けて、日本基準を中心に、子会社化の会計処理の全体像を「仕訳」と「数字」で追えるように整理したものです。後半では、取得価額・取得関連費用・子会社の簿価純資産・時価評価差額・税効果・持分比率80%という仮の数字で、個別の仕訳から連結の相殺消去、のれんと非支配株主持分、初年度ののれん償却額までを通しで計算します。会計処理の最終的な判断は案件ごとに異なるため、実際の処理は監査法人・公認会計士に確認してください。
全体像:個別と連結で「同じ買収」の見え方が違う
子会社化の会計処理で混乱しやすいのは、同じ取引が個別財務諸表と連結財務諸表で違う形に表れることです。個別では「株式という金融資産を買った」取引として扱い、連結では「子会社の資産と負債をまるごと受け入れた」企業結合として扱います。主な違いを先に表で整理します。
| 論点 | 個別財務諸表(親会社単体) | 連結財務諸表 |
|---|---|---|
| 計上するもの | 子会社株式(取得原価) | 子会社の資産・負債(時価)、のれん、非支配株主持分 |
| 取得関連費用(FA報酬・DD費用など) | 付随費用として子会社株式の取得原価に含める | 発生した事業年度の費用として処理する |
| 子会社の資産・負債の評価 | 関係しない(株式の金額だけを持つ) | 支配獲得日の時価で評価する(全面時価評価法) |
| のれん | 生じない(株式の取得原価に含まれている) | 投資と子会社の資本(親会社持分)の差額として計上し、20年以内で償却 |
| 買収後の評価 | 子会社株式の減損(実質価額の著しい低下など) | のれん・固定資産の減損 |
| 段階取得 | 個々の取引の原価の合計 | 既存持分も支配獲得日の時価で評価し直し、差額を段階取得に係る損益とする |
上場会社や連結財務諸表を作る会社では両方を作ります。連結財務諸表を作らない非上場会社が子会社を買う場合は、個別財務諸表の処理(子会社株式の計上)だけで済むことが多いですが、借入先や将来の上場準備の関係で連結ベースの数字を求められることもあります。どちらにしても、買収前の段階で「連結にしたらのれんはいくらになり、毎年いくら償却が出るか」を見積もっておくと、稟議や取締役会での説明がしやすくなります。
個別財務諸表:子会社株式の取得の仕訳
個別財務諸表では、取得した株式を「関係会社株式(子会社株式)」として計上します。取得原価は、売り手に支払う株式の対価に、取得のための付随費用を加えた金額です。
付随費用を取得原価に含める根拠
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準委員会、最終改正2019年1月)の結論の背景第94項は、2013年改正で取得関連費用を発生した事業年度の費用とした理由を説明したうえで、「個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、従来と同様に、金融商品会計基準及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号『金融商品会計に関する実務指針』に従って算定することに留意する」としています。また、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第110項は、取得とされた株式交換について、子会社株式の取得原価は「取得の対価に付随費用を加算して算定する」と定め、付随費用の扱いは金融商品会計の実務指針に従うとしています。
つまり、連結では費用になる取得関連費用も、個別では子会社株式の取得原価に含めるのが基本、という整理です。ただし、どの支出を「取得のための付随費用」とするか(たとえば、買収するかどうか決める前の調査費用や、社内の人件費・旅費など)は、支出の内容と時期によって判断が分かれます。範囲は監査法人・公認会計士と事前にすり合わせておくのが安全です。
個別の基本仕訳
仮に、株式の対価800(単位:百万円、以下同じ)を現金で支払い、ファイナンシャル・アドバイザー報酬やデューデリジェンス費用などの付随費用30を別に支払ったとします。個別財務諸表の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 関係会社株式(子会社株式) | 800 | 現金預金 | 800 |
| 関係会社株式(子会社株式) | 30 | 現金預金 | 30 |
この結果、個別貸借対照表の子会社株式は830になります。のれんは個別では表れず、830という株式の金額の中に含まれている、と考えるとわかりやすいでしょう。買収後に子会社の業績が悪化した場合は、この830を基準に子会社株式の減損を判定します。判定の考え方は子会社株式の減損とはで解説しています。
なお、株式交換や株式交付のように対価が自社株式の場合は、取得原価の算定方法が異なります。手続と考え方は株式交換・株式移転・株式交付の違いを参照してください。
連結の範囲:いつ「子会社」になり、いつから連結するか
連結財務諸表を作る会社では、取得した会社が「子会社」に当たるかを判定し、当たれば原則として連結の範囲に含めます。企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準委員会、最終改正2013年9月)第13項は、親会社は原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めるとしています。
支配の判定(連結会計基準第7項)
子会社かどうかは、議決権の比率だけでなく「意思決定機関を支配しているか」で判断します。連結会計基準第7項の要点は次のとおりです。
| 区分 | 要件 | 実務での見方 |
|---|---|---|
| (1) 過半数 | 議決権の過半数を自己の計算において所有している | 株式取得で50%超を買えば、原則として子会社になる |
| (2) 40%以上50%以下 | 議決権の40%以上50%以下を所有し、かつ一定の要件のいずれかに該当する | 緊密な者・同意している者と合わせて過半数、役員の派遣で取締役会の過半数、方針の決定を支配する契約、資金調達額の過半の融資、その他支配が推測される事実 |
| (3) 40%未満 | 緊密な者・同意している者と合わせて議決権の過半数を占め、かつ(2)②〜⑤のいずれかに該当する | 持株比率が低くても子会社になることがある |
議決権の比率は、企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」第4項で、原則として「所有する議決権の数÷行使し得る議決権の総数」で計算するとされています。分母の「行使し得る議決権の総数」からは、自己株式・完全無議決権株式・相互保有株式の議決権が除かれます(同第5項)。名義が役員など他人になっていても、資金の出どころや配当の帰属から「自己の計算」で所有しているかを判断する点(同第7項)も押さえておきたいところです。発行済株式数ベースの持株比率と議決権比率がずれる場合は、議決権比率の計算ツールで確認できます。比率ごとに株主総会でできることは議決権とはで整理しています。
また、連結会計基準第14項は、支配が一時的であると認められる企業などは連結の範囲に含めないとし、注解(注3)は、資産・売上高等から見て重要性の乏しい小規模な子会社は連結の範囲に含めないことができるとしています。小さな会社を買った場合でも、連結に含めるかどうかは重要性の判断になるため、監査法人と事前に相談しておくのが一般的です。
連結開始のタイミング(みなし取得日)
連結は支配を獲得した日(支配獲得日)から始まります。ただし、連結会計基準の注解(注5)は、支配獲得日や株式の取得日が子会社の決算日以外の日である場合には、「当該日の前後いずれかの決算日に支配獲得、株式の取得又は売却等が行われたものとみなして処理することができる」としています。これがいわゆる「みなし取得日」です。
たとえば3月決算の会社が11月20日に株式を取得した場合、子会社の決算日(四半期・中間の決算日をどう扱うかを含む)を基準に、9月末か12月末などを支配獲得日とみなす処理が考えられます。みなし取得日を期中のどこに置くかで、連結損益計算書に取り込む子会社の損益の期間が変わり、のれんの償却開始時期も変わります。クロージング日を決める段階で、経理・監査法人と「どの日をみなし取得日にするか」を決めておくと、決算作業の手戻りを減らせます。
連結初年度の手順:資本連結の4ステップ
支配を獲得した期の連結では、「資本連結」と呼ばれる手続を行います。流れは次の4ステップです。
- ステップ1:取得関連費用を費用に振り替える。個別で子会社株式に含めた付随費用のうち取得関連費用に当たるものを、連結上は発生した期の費用にします(企業結合会計基準第26項)。連結上の「投資」の金額は、支配獲得日の時価(通常は支払った対価)になります(連結会計基準第23項(1))。
- ステップ2:子会社の資産・負債を時価で評価する。支配獲得日に、子会社の資産・負債のすべてを時価で評価します(全面時価評価法・連結会計基準第20項)。時価と簿価の差額(評価差額)は子会社の資本とします(同第21項)。評価差額には税効果を適用し、繰延税金負債(または資産)を計上するのが一般的です。
- ステップ3:投資と資本を相殺消去する。親会社の投資と、それに対応する子会社の資本(株主資本・評価換算差額等・評価差額)を相殺消去します(同第23項)。子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は非支配株主持分とします(同第26項)。
- ステップ4:差額をのれん(負ののれん)とする。相殺消去の差額はのれん(または負ののれん)とし、企業結合会計基準第32項(または第33項)に従って処理します(連結会計基準第24項)。
日本基準では、のれんは親会社の持分に対応する部分だけを計上します。非支配株主の持分に対応するのれんまで計上する方法(いわゆる全部のれん)は、IFRSでは選択できますが、日本基準では採られていません。IFRSとの違いはIFRSと日本基準の違いが企業価値評価に与える影響で整理しています。
取得原価の配分(PPA)との関係
ステップ2の「時価で評価する」作業が、いわゆるPPA(取得原価の配分)です。企業結合会計基準第28項は、取得原価を企業結合日時点で識別可能な資産・負債の時価を基礎として、企業結合日以後1年以内に配分するとしています。第29項は、法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産は識別可能なものとして扱うとしています。顧客関連の無形資産や技術、商標などを識別すると、その分だけのれんは小さくなり、代わりに無形資産の償却費が別に発生します。
決算までに配分が終わらないときは、入手可能な合理的な情報に基づく暫定的な会計処理を行い、その後に配分額を確定させます(同第28項の注6)。無形資産の識別や評価の進め方、外部評価の使い方はPPA(取得原価の配分)とはで詳しく扱っています。
計算例:個別の仕訳からのれん償却までを通しで追う(仮の数字)
ここからは、すべて説明のための仮の数字です(単位:百万円)。実在の会社や一般的な水準を示すものではありません。
前提
- 親会社P社(3月決算)が、S社(3月決算)の発行済株式の80%を現金800で取得。議決権比率も80%で、S社はP社の子会社になる
- 取得関連費用(FA報酬・デューデリジェンス費用):30。個別では全額を付随費用として子会社株式に含めると仮定
- 支配獲得日は期首の4月1日(みなし取得日も同日)
- S社の支配獲得日の簿価純資産:600(資本金100・利益剰余金500)
- 時価評価:土地の含み益150、識別した顧客関連の無形資産100(償却年数10年)。評価差額の合計250
- 法定実効税率:30%(評価差額250に対する繰延税金負債は75)
- のれんの償却年数:10年・定額法
1. 個別財務諸表の仕訳(P社)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 関係会社株式(S社株式) | 830 | 現金預金 | 830 |
内訳は株式の対価800と付随費用30です。P社の個別貸借対照表には、S社株式が830で載ります。
2. 連結修正①:取得関連費用を費用に振り替える
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 取得関連費用(販売費及び一般管理費など) | 30 | 関係会社株式(S社株式) | 30 |
連結上の投資額は800になります。初年度の連結損益計算書には、この30が費用として表れます。個別では資産、連結では費用という差が、買収した期の連結利益を押し下げる要因の一つです。
3. 連結修正②:S社の資産・負債を時価で評価する
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 150 | 繰延税金負債 | 75 |
| 無形資産(顧客関連資産) | 100 | 評価差額 | 175 |
評価差額250から税効果75を差し引いた175が、S社の資本に加わる評価差額です。時価評価後のS社の資本(時価純資産)は、簿価純資産600+175=775になります。
4. 連結修正③:投資と資本の相殺消去
親会社の持分は775×80%=620、非支配株主持分は775×20%=155です。投資800と親会社持分620の差額180がのれんになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 100 | 関係会社株式(S社株式) | 800 |
| 利益剰余金 | 500 | 非支配株主持分 | 155 |
| 評価差額 | 175 | ||
| のれん | 180 | ||
| 合計 | 955 | 合計 | 955 |
5. 計算の検算
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 評価差額(税効果前) | 土地150+無形資産100 | 250 |
| 繰延税金負債 | 250×30% | 75 |
| 評価差額(税効果後) | 250-75 | 175 |
| S社の時価純資産 | 600+175 | 775 |
| 親会社持分(80%) | 775×80% | 620 |
| 非支配株主持分(20%) | 775×20% | 155 |
| のれん | 投資800-親会社持分620 | 180 |
| 相殺消去の貸借一致 | 借方100+500+175+180/貸方800+155 | 955=955 |
| 初年度ののれん償却額 | 180÷10年 | 18 |
6. 初年度の連結損益への影響
支配獲得日を期首としたため、初年度は1年分の償却が生じます。主な項目は次のとおりです。
| 項目 | 金額 | 補足 |
|---|---|---|
| 取得関連費用 | 30 | 初年度だけ。個別では子会社株式に含まれていたもの |
| のれん償却額 | 18 | 180÷10年。10年間毎年生じる |
| 顧客関連資産の償却費 | 10 | 100÷10年。繰延税金負債の取崩しで税金費用が3減るため、税効果後の負担は7。子会社の損益の一部として、その20%は非支配株主に帰属する |
仮に支配獲得日(みなし取得日)を期中の9月30日にした場合は、初年度に取り込むS社の損益は下期の6か月分になり、のれん償却額も180÷10年×6/12=9が目安になります。みなし取得日の置き方で初年度の数字が変わることがわかります。
のれんの金額と年数を変えたときの毎期の償却額と未償却残高は、のれん償却の計算ツールで年次の表にできます。償却年数の決め方はのれん償却とはを参照してください。
のれんの償却と負ののれん
のれんは20年以内で規則的に償却する
企業結合会計基準第32項は、のれんを資産に計上し、「20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する」としています。のれんの金額に重要性が乏しい場合は、生じた事業年度の費用として処理することもできます(同項ただし書き)。IFRSでは償却せず減損テストのみで対応する点が大きな違いで、日本基準でののれんの償却の扱いについては見直しの議論が続いています。現時点の実務は、上記の規則的な償却が前提です。
償却年数は、買収の意思決定で想定した投資回収期間や、超過収益が続くと見込む期間などを根拠に決めます。買収時の事業計画と整合しない年数を選ぶと、監査で説明を求められます。また、償却とは別に、減損の兆候があれば減損の判定が必要です。手順はのれんの減損テストとはで解説しています。
負ののれんは発生した期の利益
投資額が子会社の時価純資産の親会社持分を下回る場合は、負ののれんが生じます。企業結合会計基準第33項は、まず識別可能資産・負債がすべて把握されているか、取得原価の配分が適切かを見直し、それでもなお下回る場合は、負ののれんが生じた事業年度の利益として処理するとしています。表示は原則として特別利益です(同第48項)。
計算例で、株式の対価が800ではなく550だったとすると、550-620=▲70となり、見直しの結果なお不足するなら70を特別利益に計上します。安く買えたように見えますが、簿外債務や資産の過大評価を見落としていないかを先に確認するのがこの規定の趣旨です。買収監査(デューデリジェンス)の発見事項と照らし合わせておきましょう。
段階取得と追加取得
段階取得:すでに持っていた株式も時価で評価し直す
すでに一部の株式を持っていた会社を、追加の取得で子会社にする場合を段階取得といいます。企業結合会計基準第25項は、個別財務諸表上は支配獲得に至った個々の取引ごとの原価の合計額を取得原価とし、連結財務諸表上は個々の取引すべての企業結合日における時価で取得原価を算定し、その差額を「当期の段階取得に係る損益」として処理するとしています(持分法適用関連会社だった場合は、持分法による評価額との差額)。
計算例を変えて、P社がもともとS社株式20%を150で持っていて(持分法は適用していないと仮定)、今回60%を600で追加取得し合計80%にしたとします。支配獲得日の時価が今回と同じ水準(1%当たり10)なら、既存の20%の時価は200です。
| 項目 | 個別財務諸表 | 連結財務諸表 |
|---|---|---|
| 子会社株式(投資)の金額 | 150+600=750(付随費用は除いて表示) | 200+600=800 |
| 段階取得に係る損益 | なし | 200-150=50(差益) |
| のれん | 生じない | 800-620=180 |
連結の投資額が800になるため、のれんは一括で80%を取得した前の計算例と同じ180になります。一方で、既存持分の評価替えによる差益50が、支配を獲得した期の連結利益に表れます。
追加取得:支配獲得後の買い増しは資本剰余金で処理
すでに子会社になっている会社の株式を買い増す場合は、のれんは新たに生じません。連結会計基準第28項は、追加取得した株式に対応する持分を非支配株主持分から減らし、追加投資額と相殺消去し、その差額を資本剰余金とするとしています。
たとえば翌年、S社株式10%を110で追加取得し、その時点の非支配株主持分(20%分)が160だったとすると、10%分は80です。差額30は資本剰余金の減少になります。個別では子会社株式110を追加計上し、連結修正で次のように消去します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 非支配株主持分 | 80 | 関係会社株式(S社株式) | 110 |
| 資本剰余金 | 30 |
支配獲得の前か後かで、損益に出るのか(段階取得)、資本に直接入るのか(追加取得)が変わります。数回に分けて株式を買う設計にする場合は、どの時点で支配を獲得するかを含めて、事前に会計上の影響を確認しておくことが大切です。
税務との違い(概要)
会計と税務では、子会社化の扱いが一致しません。概要だけ挙げると、次のような違いがあります。具体的な取扱いは個別の事実関係で変わるため、必ず税理士に確認してください。
- 子会社株式の取得価額:法人税法施行令第119条では、購入した有価証券の取得価額は購入の代価に購入手数料その他購入のために要した費用を加算した金額とされています。どの支出が「購入のために要した費用」に当たるか(買収の意思決定前の調査費用など)は、会計上の付随費用の範囲と必ずしも一致しないため、税務上の扱いを別に確認します。
- のれんは税務上の資産にならない:株式取得では、取得するのは株式そのものです。連結上ののれんや時価評価差額は税務上の資産ではないため、連結ののれん償却額や無形資産の償却費は税務上の損金になりません。事業譲渡や非適格合併で生じる資産調整勘定とは扱いが異なります。違いは事業譲渡と株式譲渡の違いも参照してください。
- 税効果:連結上の評価差額は会計と税務の差(一時差異)になるため、計算例のように繰延税金負債などを計上します。のれんそのものに税効果を認識するかどうかなど細かな論点があるため、監査法人・公認会計士と確認します。
- グループ通算制度など:100%子会社にする場合は、グループ法人税制やグループ通算制度の検討が必要になることがあります。適用の要否と影響は税理士に確認してください。
決算・開示のスケジュールで注意すること
子会社化は、クロージングして終わりではありません。最初の連結決算までに、次の作業が集中します。クロージング日を決める前から、経理・監査法人と工程を組んでおくのが実務的です。
| 時期 | 主な作業 | 注意点 |
|---|---|---|
| 契約前 | 連結範囲の判定、みなし取得日の想定、のれん・償却額の概算 | 稟議に会計上の影響(のれんの見込額・償却年数・初年度の取得関連費用)を書いておく |
| クロージング前後 | 支配獲得日の貸借対照表の確定、子会社の会計方針の把握 | 親子で会計方針を原則統一する(連結会計基準第17項)。決算日が違う場合の扱いも決める |
| 最初の決算まで | 時価評価(PPA)、相殺消去、税効果、注記の準備 | 配分が終わらなければ暫定的な会計処理。外部評価を使うなら早めに依頼する |
| 企業結合日以後1年以内 | 取得原価の配分の確定 | 確定が翌年度になった場合は、企業結合年度に確定したかのように処理する(企業結合会計基準第28項の注6) |
| 開示 | 企業結合の注記(取得原価と対価の種類ごとの内訳、主要な取得関連費用、のれんの金額・発生原因・償却方法・償却期間など) | 上場会社は、取引所の適時開示や臨時報告書の要否も確認する |
企業結合会計基準第49項は、取得とされた企業結合の注記事項として、被取得企業の名称や取得した議決権比率、取得原価と対価の種類ごとの内訳、主要な取得関連費用の内容と金額、発生したのれんの金額・発生原因・償却方法・償却期間などを定めています。PPAの結果を待つ項目もあるため、決算スケジュールに余裕を持たせておきましょう。買収後の統合作業全体の進め方はPMIとはで解説しています。
稟議・取締役会で会計上の影響をどう示すか
買収の稟議では、価格の妥当性と並んで「買収後の決算にどう響くか」が問われます。会計処理の論点を、次のように数字で示しておくと議論が早くなります。
- のれんの見込額:買収価格-(対象会社の時価純資産×取得比率)。時価純資産は簿価から含み損益と税効果を調整して概算します。考え方は時価純資産法とはが参考になります。
- 償却年数と毎期の償却額:投資回収の見通しと整合する年数を置き、毎期の償却額が連結の営業利益をどれだけ押し下げるかを示す。
- 初年度の一時費用:取得関連費用は連結では初年度の費用になる。段階取得なら評価替えの損益も出る。
- 減損リスク:のれんが大きいほど、計画未達時の減損の影響も大きい。感応度とあわせて示す。
買収価格が時価純資産を大きく上回るほど、のれんも大きくなります。売り手の希望価格が純資産の何倍か、EV/EBITDA倍率や年買法の年数に直すと何倍・何年かは、買収価格の妥当性チェックで逆算できます。価格の決め方と社内での検証は買収価格の決め方と買収価格の妥当性を社内で検証する方法で、稟議での株価算定書の使い方は稟議に使う株価算定書で解説しています。
無料で使える株式取得の稟議書・取締役会付議資料のひな形(Word)には、「投資回収の見通し」欄にのれんの見込額と償却年数を書く項目があります。上の計算例の流れで概算した数字をそのまま転記できます。
まとめ:個別は「株式」、連結は「資産・負債とのれん」
株式取得による子会社化の会計処理は、①個別財務諸表では付随費用を含めて子会社株式を取得原価で計上し、②連結の範囲を支配の有無(議決権の過半数、または40%以上と一定の要件など)で判定してみなし取得日を決め、③連結では取得関連費用を費用に振り替え、子会社の資産・負債を時価で評価し、投資と資本を相殺消去してのれんと非支配株主持分を出し、④のれんは20年以内で規則的に償却し、負ののれんは見直しのうえ発生した期の利益とする、という流れです。段階取得では既存持分の評価替えの損益が出て、支配獲得後の追加取得は資本剰余金で処理します。
数字はすべて前提次第で動くため、買収前の概算は目安として扱い、会計処理は監査法人・公認会計士、税務は税理士に確認しながら進めてください。
のれんの見込額の出発点になる対象会社の株式価値は、買い手向けのページで紹介している「M&Aバリュークラウド」で試算できます。対象会社の決算書3期分と事業計画から、DCF法と類似会社比較法の併用で株式価値のレンジを算定し、算定書にまとめられます。試算と評価レンジの表示は無料です。