買収監査(デューデリジェンス)の進め方|買い手の範囲・費用・結果の使い方

最終更新: 2026-11-05・M&Aバリュークラウド(株式会社ベルシャンス)・ 編集方針

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結論から言うと、買い手のデューデリジェンス(DD・買収監査)は「全部を調べる作業」ではなく、基本合意で置いた価格の前提と、取引そのものを止めるべきリスクを確かめる作業です。範囲は案件ごとの仮説から逆算して絞り込み、見つかった事項は「価格を直すもの」「契約条項で手当てするもの」「買収後のPMIで直すもの」の3つに振り分けます。この振り分けまで終えて初めて、稟議や取締役会で「DDの結果を踏まえてこの価格・この条件で買う」と説明できるようになります。

この記事は、買収を検討している事業会社の経営企画・M&A担当者の方に向けて、DDの範囲の決め方、専門家への依頼の仕方、費用と期間の考え方、基本合意から最終契約までのスケジュール、資料依頼と質問の運び方、そして発見事項を価格・契約・PMIにどう反映し、社内でどう報告するかを、仮の数字を使った計算例とあわせて整理したものです。

この記事の役割:買い手がDDを「段取りし、結果を使う」ための実務に絞っています。DDの種類や一般的な流れ、売り手が準備することはデューデリジェンス(DD)とは、売り手が自ら行う調査は売り手のDD(セルサイドDD)、特許・商標などの調査は知財デューデリジェンスで解説しています。契約条項の詳しい読み方は株式譲渡契約書(SPA)の要点、クロージング時の価格調整の計算はM&Aの価格調整をご覧ください。

買い手にとってのDDの目的は3つ

中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月)は、DDを「主に譲り受け側が、譲り渡し側の財務・法務・ビジネス(事業)・税務等の実態について、FAや士業等専門家を活用して調査する工程」と位置づけ、どの調査を実施するかは譲り受け側の意向に従うとしています。そのうえで、DDによって①そもそもM&Aを実行すべきかを検討し、②実行する場合は最終契約の内容・条件(譲渡額、表明保証、補償等)を調整して成立後のトラブルを防ぎ、③成立後の成長に重要なPMIに役立つ情報を得られる、と整理しています。

経営企画の立場で言い換えると、DDのゴールは次の3つの問いに答えることです。

  • 買ってよいか:取引をやめるべき致命的な問題(ディールブレーカー)はないか。
  • いくらで、どんな条件で買うか:基本合意時の価格の前提(正常収益力、純有利子負債、運転資本、事業計画)は正しいか。ずれていれば価格と契約条項をどう直すか。
  • 買った後に何をするか:統合初日から手を打つべき課題は何か。誰がいつまでに対応するか。

同ガイドラインは、中小M&Aの実務では本格的なDDを行わず、数年分の税務申告書の確認と経営者へのヒアリングだけで終えることもあると認めつつ、予算等の制約がある場合でも検討対象を絞るなどの工夫をして実施する調査の内容を検討することが望ましいとしています。規模が小さい案件ほど「やらない」ではなく「絞ってやる」という発想が大切です。

DDの範囲の決め方:仮説から逆算して絞る

範囲を決めるときに避けたいのは、専門家の標準メニューをそのまま全部頼むことです。費用と期間が膨らむうえ、本当に確かめたい論点が報告書の中に埋もれてしまいます。おすすめは、基本合意までに得た情報から「この案件で価格や取引の可否を左右しそうな論点」を仮説として書き出し、それぞれをどの領域の調査で確かめるかを決めていく方法です。

領域ごとの主な確認事項

領域主な確認事項深掘りしたい場面
ビジネス(事業)商流・収益構造、主要顧客と仕入先への依存、競争力、事業計画の実現性、シナジーの前提価格に事業計画やシナジーを織り込んでいる場合。事業部のメンバーが中心になれる領域
財務正常収益力(実態EBITDA)、純有利子負債と負債類似項目、運転資本の水準と季節性、資産の実在性・評価ほぼすべての案件で中心。価格の算定根拠を直接検証する
税務過去の申告内容、税務調査の履歴、組織再編・資本取引の処理、繰越欠損金の使用可能性株式譲渡で過去の税務リスクをそのまま引き継ぐ場合
法務株式・会社組織、重要な契約(チェンジ・オブ・コントロール条項など)、許認可、訴訟・紛争、コンプライアンス株式譲渡、許認可が事業の前提になる業種、主要取引先との契約が多い場合
労務未払残業代、社会保険の加入状況、就業規則と実態の差、退職金制度、キーパーソンの処遇従業員数が多い、長時間労働になりやすい業種、退職給付の負担が大きい場合
IT基幹システムの老朽化・保守契約、ライセンスの適正利用、情報セキュリティ、個人情報の管理システムが事業の中核、統合時にシステム移行が必要な場合
知財・環境・不動産権利の帰属と有効性、土壌汚染・アスベスト、工場・店舗の賃貸借条件技術・ブランドが価値の源泉、製造業で工場を持つ場合など

スキームで調べる深さが変わる

中小M&Aガイドライン(第3版)は、株式譲渡は手続が比較的シンプルな一方、法人格が変わらないため簿外債務(未払残業代など)や偶発債務(紛争に関する損害賠償債務など)のリスクが比較的高くなりやすく、より詳細なDDが実施される傾向にあるとしています。事業譲渡であれば、引き継ぐ資産・負債・契約を個別に選べるため、調査の範囲も引き継ぐものに絞りやすくなります。同ガイドラインは、財務DDで多額の簿外債務・偶発債務が見つかり、株式譲渡から事業譲渡へスキームを変えざるを得なくなることもあると例示しています。スキームの違いは事業譲渡と株式譲渡の違いで整理しています。

規模・業種による絞り方の例

案件のイメージ範囲の組み方の例
小規模(従業員が少なく、取引もシンプル)財務・税務を一体で依頼し、法務は株式・重要契約・許認可に限定。労務は未払残業代と社会保険の確認に絞る。ビジネス面は社内で行う
中堅(拠点・子会社がある、取引先が多い)財務・税務・法務をフルで実施し、労務・ITは論点に応じて追加。ビジネスDDは事業部主導で、必要に応じて外部の支援を受ける
人が価値の源泉(人材・ITサービス・介護など)労務の比重を上げる。キーパーソンの退職リスク、資格者の配置基準、派遣・紹介などの許可要件を重点確認
設備・不動産が価値の源泉(製造・物流など)設備の状態と更新投資の必要額、環境、不動産の権利関係を追加。現地調査を必ず入れる

表は一例で、論点の多さは案件ごとに大きく違います。業種ごとの評価の着眼点は業種別の企業価値評価のポイントもあわせて参考にしてください。

誰に頼むか:領域ごとの依頼先と社内の役割

中小M&Aガイドライン(第3版)は、財務DDを公認会計士の主要な業務、法務DDを弁護士が依頼者と協議して範囲を決める調査、ビジネスDDを中小企業診断士が取り組みやすい業務として紹介し、税務DDについても調査対象範囲・対象年度・手法を依頼者と協議して決めるとしています。依頼先の目安は次のとおりです。

領域主な依頼先社内で担う部分
財務・税務公認会計士・税理士(会計事務所・税理士法人)評価モデルへの反映、論点の優先順位づけ
法務弁護士重要契約の事業上の意味の確認、許認可の承継手続の段取り
労務社会保険労務士、弁護士人事制度の統合方針、キーパーソンとの面談計画
ビジネス中小企業診断士、コンサルタント市場・顧客・競合の評価、シナジーの見積もり(事業部が中心)
IT・知財ITの専門家、弁理士システム統合の方針、情報システム部門の確認

注意したいのは、売り手と買い手の双方から依頼を受ける仲介者は、DDを自ら実施すべきでないとガイドラインが定めている点です(開示資料の整理やスケジュール管理などの補助は可能)。仲介案件では、DDは買い手が自分で選んだ専門家に依頼する前提で予算と時間を確保してください。仲介とFAの役割の違いはM&A仲介とFAの違いで解説しています。

見積もりを取る段階では、①調査範囲と対象期間、②報告書の形式(詳細な報告書か、発見事項の一覧か)、③中間報告の有無と時期、④現地調査やマネジメントインタビューへの同席、⑤範囲を広げた場合の追加費用の扱い、を確認しておくと、後から「頼んだつもりの調査が入っていなかった」というずれを防げます。ガイドラインも財務DDについて、依頼者と公認会計士が事前に調査範囲と調査手法を合意したうえで決めるとしています。

費用と期間の目安:決まる要素と補助金

DDの費用は、調査する領域の数、対象期間、拠点や子会社の数、論点の多さ、売り手の資料の整備状況で大きく変わるため、一律の相場で考えるのは危険です。ガイドラインも財務DDの範囲や手法は、買い手がどのスキームを前提に、どの程度のリスクを容認でき、どの程度の時間やコストを掛けられるかによって異なるとしています。費用感の一般的な傾向はデューデリジェンスとはで触れているので、ここでは予算の組み方に絞ります。

  • 買収価格に対する割合で上限を置く:取引費用(仲介・FA報酬、DD、契約書作成など)全体の予算を先に決め、DDに割ける額を逆算する。取引費用は買収の投資回収にも効くため、価格と一緒に評価する。
  • 段階に分けて発注する:まず財務・税務と法務の重要論点だけを短期間で調べ、致命的な問題がなければ残りを追加する。不成立のときの損失を抑えられる。
  • 不成立でも費用はかかる:DDの結果、取引をやめても専門家への報酬は原則として発生する。稟議ではDD費用を「成約の有無にかかわらず発生する費用」として先に承認を取っておく。

補助金も検討できます。中小企業庁の発表によれば、「事業承継・M&A補助金」の十五次公募(公募要領は2026年5月22日公表、申請受付は2026年6月19日〜7月24日の予定)では、専門家活用枠の補助対象経費として、FAや仲介に係る費用(M&A支援機関登録制度に登録された事業者によるものに限る)のほか、デュー・ディリジェンス(DD)、セカンド・オピニオン、表明保証保険料などが挙げられています。同枠の買い手支援類型の補助率は1/3・1/2・2/3(要件により異なる)、補助上限は600万円で、DD費用を申請する場合は200万円が加算されて800万円とされています(100億企業要件を満たす場合は別の上限)。枠・補助率・上限・対象期間は公募回ごとに見直されるため、申請を検討する際は最新の公募要領で確認し、交付決定前に発注した費用が対象になるかなども事務局や専門家に確認してください。制度の全体像は事業承継・M&A補助金とは、登録制度はM&A支援機関登録制度とはで解説しています。

スケジュール:基本合意→DD→最終契約

DDは基本合意の後に行うのが一般的です。基本合意で独占交渉期間とDDへの協力義務を定め、その期間内にDDと最終契約の交渉を終える必要があるため、DDの日程は基本合意の段階で逆算しておきます。基本合意書の書き方は基本合意書(LOI)の書き方を参照してください。中小規模の案件で、DD開始から最終契約まで2か月程度を想定した場合の一例は次のとおりです。

時期(一例)買い手がやること社内の手続
基本合意の前仮説・懸念リストの作成、専門家の選定と見積もり、DD範囲の仮決めDD費用の予算承認
1週目キックオフ、資料依頼リストの送付、データルームの開設社内の窓口・担当の確定
2〜3週目資料の読み込み、Q&A、マネジメントインタビュー、現地調査事業部による事業計画の引き直し
4週目中間報告(重要な発見事項の速報)、追加調査の要否判断経営陣への速報、続行の判断
5〜6週目最終報告、発見事項の振り分け、価格・条件の再提示評価の更新、稟議書・付議資料の作成
7〜8週目最終契約の交渉、条項への反映取締役会決議、最終契約の締結

期間は論点の数と売り手の資料の出方で大きく前後するため、表はあくまで目安です。また、ガイドラインは最終契約からクロージングまでに特段の事情なく2か月以上などの期間を置くと、業績の変化やDDで把握した内容からの変化で契約の修正や不履行のリスクが生じると指摘しています。クロージングまでに間が空く場合は、その間の業績変動を価格調整条項や誓約事項で手当てしておきます。

依頼時に渡すもの・資料依頼と質問リストの運び方

専門家にキックオフで渡すもの

  • 案件の概要資料:企業概要書(IM)、基本合意書、スキームの想定、スケジュール。
  • 評価の前提:基本合意価格の算定根拠(実態EBITDAの調整項目、倍率、純有利子負債の内訳、事業計画)。DDで何を検証してほしいかが一目でわかる。
  • 仮説・懸念リスト:「主要顧客への依存度」「役員報酬の調整額」「未払残業代の有無」など、確かめたい論点と優先度。
  • 重要性の基準(マテリアリティ):「影響額が○○万円以上、または取引の可否に関わるものを報告」といった線引き。報告書が細かい指摘で埋まるのを防げる。
  • 買収後の方針:統合の範囲や残す経営陣など。PMIに必要な情報も一緒に集めてもらえる。

資料依頼リストとQ&A管理表の運び方

資料依頼と質問は、専門家ごとに別々に売り手へ送るのではなく、買い手の窓口で一本化した管理表で運ぶのが基本です。売り手の負担が減り、同じ質問の重複や回答漏れも防げます。ガイドラインも、仲介者は売り手に過大な負担が生じないよう調査対象を適切な範囲とするよう買い手に働きかけることが望ましいとしており、範囲を絞った依頼は交渉上の信頼にもつながります。

管理表の列書く内容
番号・領域財務・法務などの区分と通し番号
依頼・質問の内容具体的な資料名や質問文(「売上の上位10社の3期推移」など)
優先度高(価格・可否に直結)・中・低。回答期限とセットで示す
依頼者・回答者買い手側の担当専門家と、売り手側の回答者
状況未回答・回答済・追加質問あり・クローズ
回答と影響回答の要旨、価格・契約・PMIのどれに関係するか

Q&Aの回答は、後で表明保証の対象や開示の範囲を決める際の記録にもなります。口頭でのやり取りも要旨を管理表に残しておくと、最終契約の交渉で「どこまで開示を受けていたか」を確認できます。

発見事項を価格・契約・PMIにどう反映するか

DDの報告書を受け取ったら、発見事項を一つずつ「金額が確定しているか」「クロージング前に解消できるか」「発生するかどうか不確実か」で分類し、処理の方法を決めます。

発見事項の性質主な処理例
収益力・純資産の前提がずれていた価格の引き下げ(評価のやり直し)正常収益力の下方修正、負債類似項目の追加
金額はクロージング時点まで動く価格調整条項運転資本・純有利子負債のクロージング調整
特定の論点だが金額が未確定特別補償、エスクロー・支払留保税務調査で指摘されうる処理、係争中の案件
存在するかわからないが、あれば困る表明保証と補償簿外債務がないこと、法令違反がないこと
クロージング前に解消すべき前提条件・誓約事項取引先の同意取得、名義株の整理、役員借入の精算
事業運営の課題PMIの計画へ管理体制の未整備、システムの老朽化
解消できず影響が大きいスキーム変更または取引中止多額の簿外債務、事業の前提となる許認可の問題

計算例:DDの結果で価格がいくら動くか

仮の数字で見てみます。基本合意時、売り手の資料をもとに実態EBITDAを1億円、EV/EBITDA倍率を5倍、ネットキャッシュ(現預金-有利子負債)を5,000万円として、株式価値を5.5億円(=1億円×5倍+0.5億円)と置いていたとします。DDで次の3点が見つかりました(税効果は考慮しない単純化した例です)。

  • 売り手が加算していた「オーナー関連費用」のうち800万円は、買収後も続く経費だった → 実態EBITDAは9,200万円に下方修正。
  • 未払残業代が約2,000万円見込まれる → 負債類似項目として控除。
  • 退職給付の引当不足が約3,000万円ある → 負債類似項目として控除。
項目基本合意時DD反映後差額
実態EBITDA1億円9,200万円-800万円
事業価値(EBITDA×5倍)5億円4.6億円-4,000万円
ネットキャッシュ+5,000万円+5,000万円0
負債類似項目0-5,000万円-5,000万円
株式価値5.5億円4.6億円-9,000万円

EBITDAの修正800万円は倍率5倍を通じて事業価値を4,000万円押し下げ、負債類似項目の5,000万円と合わせて株式価値は9,000万円下がります。EBITDAの修正は倍率を掛けて効くため、小さな利益の修正ほど価格への影響が大きくなる点に注意が必要です。正常収益力の調整の考え方は正常収益力とは、無料の実態EBITDA(正常収益力)調整シートでは調整項目を区分して試算できます。企業価値から株式価値への調整は企業価値・事業価値・株式価値の違いで解説しています。

逆に、売り手が5.5億円を譲らない場合、修正後のEBITDA9,200万円に対する倍率は、事業価値5.5億円(=5.5億円-ネットキャッシュ0.5億円+負債類似項目0.5億円)÷0.92億円で約6.0倍に上がります。DDで正常収益力や純資産を修正したら、無料の買収価格の妥当性チェックに修正後の数字を入れ直し、希望価格のEV/EBITDA倍率・年買法の年数・純資産倍率がどう変わるかを確かめておくと、再交渉の根拠を示しやすくなります。社内での検証の進め方は買収価格の妥当性を社内で検証する方法、上限価格の考え方は買収価格の決め方を参照してください。

価格調整条項:DDで見た「通常の水準」を基準にする

運転資本は月によって大きく動くため、基準日の数字だけで価格を固定すると、クロージングまでの間に売掛金の回収を急ぐ・仕入を絞るといった操作で実質的な価値が動きます。DDで把握した月次の運転資本の推移から「通常の水準(ペグ)」を決め、クロージング時の実績との差額で価格を調整するのが一般的です。ペグの決め方で最終の支払額がどう変わるかは、無料の運転資本ペグ計算ツールで比べられます。

表明保証・補償・特別補償・前提条件・エスクロー

DDで確認しきれない事項は、表明保証(売り手が一定の事実に誤りがないことを保証する)と、違反時の補償で手当てします。一方、DDで具体的に特定できたリスクは、一般的な表明保証ではなく、その事項に限った特別補償として定めるほうが確実です。買い手がDDで知っていた事項について、一般的な表明保証違反を主張できるかは契約の書き方によって扱いが変わるため、弁護士に確認してください。

ガイドラインは、適切な範囲の表明保証を設定するには、DDの結果を踏まえ、問題が顕在化する可能性や影響の大きさ、譲渡対価への織り込みの有無を勘案して双方が認識を擦り合わせることが重要としています。また、表明保証保険を購入する場合は一般にDDレポート等を保険会社に提出して引受審査を受ける必要があるとしています。補償の実効性を担保したい場合は、対価の一部を第三者に預けるエスクローや分割払いを組み合わせます。将来の業績の見通しに確信が持てない場合のアーンアウトについては、ガイドラインがDDや当事者間の調整を十分に行ったうえで確定していない具体的なリスクに対応して設けるべきもので、評価の差を埋める目的で設けるかは慎重に検討すべきとしている点も押さえておきましょう。条項の具体的な書き方は株式譲渡契約書(SPA)の要点で整理しています。

PMIへの引き継ぎ

ガイドラインは、財務DDで把握したリスク要因や問題点はPMI時に有用な情報としても活用されるとしています。DDの発見事項のうち価格や契約で処理しないものは、担当部署・期限・対応内容をつけた一覧にして、統合計画(100日プランなど)に引き継ぎます。DDの担当者と統合の担当者が別になる場合は、報告書を渡すだけでなく、論点の背景を口頭で引き継ぐ場を設けるのが望ましいでしょう。進め方はPMIの進め方、公的な手引きは中小PMIガイドラインの要点で解説しています。

DDの結果を稟議・取締役会でどう報告するか

決裁者が知りたいのは、DDで何が見つかり、それが価格と条件にどう反映され、何がリスクとして残るのかです。報告書の要約をそのまま貼るのではなく、次のような表にまとめると判断の材料になります。

列書く内容(計算例の場合)
発見事項オーナー関連費用の一部が継続経費、未払残業代、退職給付の引当不足
影響額株式価値で-9,000万円(内訳:EBITDA修正-4,000万円、負債類似項目-5,000万円)
対応価格の引き下げで交渉、未払残業代は特別補償も併用、残業管理はPMIで是正
残るリスク税務の未確定論点(特別補償・上限○○万円で手当て)、主要取引先の契約承継(前提条件)
判断修正後の価格・条件であれば投資基準を満たす/満たさない

あわせて、DDの範囲として「どこまで調べ、どこは調べていないか」を明記しておくことが大切です。範囲を絞った場合は、その理由と、調べていない領域のリスクを表明保証などでどう手当てしたかを書いておくと、後から判断の過程を説明できます。取締役が買収価格の判断で押さえておくべき点はM&Aの取締役会決議、稟議に添付する算定資料は買収の稟議に使える株価算定書で解説しています。

無料の稟議書・取締役会付議資料のひな形(Word)には、株式取得の稟議書に「デューデリジェンスの結果」の表、取締役会付議資料に「DDの結果と主なリスク」の欄が用意されています。上の表の内容をそのまま書き写せる構成なので、社内資料の下書きに使えます。

買い手のDDでよくある失敗

  • 範囲を決めずに標準メニューで依頼する:費用と期間が膨らむ一方で、価格の前提を確かめる調査が手薄になる。仮説・懸念リストを渡さずに依頼すると起きやすい。
  • 評価の前提を専門家に共有しない:基本合意価格の根拠を知らないまま調査すると、指摘が「会計処理の誤り」にとどまり、価格への影響額が出てこない。
  • 発見事項を価格に反映しない:独占交渉期間の終わりが迫り、「ここまで来たのだから」と基本合意価格のまま契約してしまう。中間報告の時点で再交渉の方針を決めておく。
  • 特定できたリスクを一般的な表明保証だけで済ませる:後で争いになったときに請求が難しくなる。特定できたものは特別補償や価格で処理する。
  • 売り手に過大な負担をかける:大量の資料依頼と重複した質問で売り手の信頼を損ね、交渉がこじれる。窓口を一本化し、優先度をつけて依頼する。
  • DDの結果をPMIに引き継がない:報告書が稟議の添付資料で終わり、統合後に同じ問題を一から調べ直すことになる。
  • 調べていない範囲を報告しない:後で問題が出たときに「DDで確認済みのはず」と受け止められ、判断の経緯を説明できなくなる。

まとめ:仮説で絞り、結果を3つに振り分ける

買い手のDDは、①基本合意価格の前提と取引を止めるべきリスクから逆算して範囲を絞り、②領域ごとに専門家を選んで評価の前提と懸念リストを渡し、③窓口を一本化して資料依頼とQ&Aを運び、④発見事項を価格・契約条項・PMIに振り分け、⑤その結果と残るリスクを稟議・取締役会に報告する、という順で進めます。数字はすべて前提次第で動く目安として扱い、税務・法務・会計・労務の論点は専門家に確認しながら進めてください。

DDで修正した数字をもとに価格を見直すときは、買い手向けのページも参考にしてください。M&Aバリュークラウドでは、対象会社の決算書3期分と事業計画から、DCF法と類似会社比較法の併用で株式価値のレンジを算定し、算定書にまとめられます。試算と評価レンジの表示は無料です。

対象会社の価値を、自社の前提で試算

対象会社の財務と事業計画を入力すれば、DCF法・類似会社比較法・純資産法による株式価値のレンジを最短数分で。詳細版レポート(5,500円・税込)はWACCの根拠・感応度分析まで収録したPDFで、稟議のたたき台に使えます。