株式譲渡とは|手続きの流れ・必要書類と譲渡制限株式の承認を解説
最終更新: 2026-10-25
株式譲渡とは、株主が持っている株式を他の人や会社に売る(または贈る)取引です。会社そのもの(法人格・契約・従業員・許認可など)はそのまま残り、変わるのは「誰がその会社の株主か」だけです。中小企業のM&Aや、親族・役員への事業承継でよく使われる方法です。
ただし、非上場の中小企業の株式はほとんどが譲渡制限株式で、会社の承認を受けないと買い手は会社に対して株主であることを主張できません。さらに、代金を払っただけでは足りず、株主名簿の書換えまで終えて初めて、買い手は名実ともに株主になります。本稿では、株式譲渡を考え始めたオーナーや経営企画の方に向けて、手続きの流れと各段階で必要な書類を中心に、承認手続きの期限、株券の有無による違い、よくある失敗を整理します。
株式譲渡とは:会社はそのまま、株主が替わる取引
会社法127条は「株主は、その有する株式を譲渡することができる」と定めています。株式譲渡はこの原則に基づく取引で、売り手(譲渡人)は株主個人や株主である法人、買い手(譲受人)は第三者の会社・個人、親族、役員・従業員などさまざまです。
株式譲渡の最大の特徴は、会社の中身を動かさないことです。取引先との契約、従業員との雇用契約、銀行借入、許認可、不動産の名義などは会社に帰属したままなので、原則として個別に移し替える必要がありません。発行済株式の全部を譲渡すれば、会社の支配権がまるごと買い手に移ります。このため手続きが比較的簡素で、中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)でも、株式譲渡は中小M&Aで用いられる主な手法の一つとして取り上げられています。
一方で、会社をそのまま引き継ぐということは、帳簿に載っていない債務(簿外債務)や将来発生しうる債務(偶発債務)も含めて引き継ぐということでもあります。中小M&Aガイドラインでも、法人格が変わらないことから簿外債務・偶発債務のリスクを買い手が抱えやすい点が指摘されています。買い手がデューデリジェンスや契約の表明保証を重視するのはこのためです。
事業譲渡との違い(要点)
よく比較されるのが事業譲渡です。事業譲渡は会社が「事業(資産・負債・契約など)」を売る取引で、売り手は会社、代金も会社に入ります。株式譲渡は株主が「株式」を売る取引で、売り手は株主、代金も株主に入ります。主な違いを要点だけ並べると次のとおりです。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 売り手 | 株主(個人・法人) | 会社 |
| 代金の受取人 | 株主 | 会社 |
| 契約・従業員・許認可 | 会社に残るので原則そのまま | 個別に移転・同意・再取得が必要になることがある |
| 引き継ぐ範囲 | 会社まるごと(簿外債務も含む) | 譲渡対象を選べる |
| 主な会社側の手続き | 譲渡承認・株主名簿の書換え | 株主総会の特別決議(一定の場合)・個別の移転手続き |
税金・手取り・従業員・許認可まで含めた詳しい比較は事業譲渡と株式譲渡の違いで解説しています。同じ譲渡価額でも手取りがどう変わるかは、無料ツールの株式譲渡と事業譲渡の手取り比較で確かめられます。
非上場会社の株式は、ほとんどが譲渡制限株式
会社法107条1項1号により、株式会社は定款で「譲渡による株式の取得について会社の承認を要する」と定めることができます。この定めがある株式が譲渡制限株式です。中小企業の多くは設立時から定款にこの定めを置いており、株式を売るには会社の承認手続きを経る必要があります。まず自社の定款を開いて、譲渡制限の定めがあるか、承認機関はどこか、一定の場合に承認したとみなす定め(例:株主間の譲渡)があるかを確認するのが出発点です。
承認しないとどうなるか、相続の場合はどうかといった制度全体の解説は譲渡制限株式とはに譲り、ここでは株式譲渡の手続きに必要な範囲で条文を確認します。
承認の請求は誰が、何を示して行うか
承認の請求は、売り手である株主が譲渡の前に行うこと(会社法136条)も、取得した買い手が取得後に行うこと(同137条)もできます。ただし買い手からの請求は、原則として株主名簿上の株主(売り手)と共同で行う必要があります(同137条2項)。M&Aでは、売り手が譲渡前に請求し、承認を得てから代金を決済する段取りが一般的です。
請求の際に明らかにする事項は会社法138条に定められています。売り手からの請求であれば、①譲り渡そうとする株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数)、②譲り受ける者の氏名または名称、③承認しない場合に会社または指定買取人による買取りを請求するときはその旨、の3点です。
承認機関:株主総会か取締役会(定款で別の定めも可)
承認するかどうかの決定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によります。ただし、定款に別段の定めがあればそれに従います(会社法139条1項)。定款で代表取締役を承認機関としている会社もあるため、条文の原則だけで判断せず、定款の文言を確認してください。会社は決定をしたら、その内容を請求者に通知しなければなりません(同条2項)。
不承認なら会社または指定買取人が買い取る
請求者が買取りの請求もしていた場合に、会社が承認しない決定をしたときは、会社が対象株式を買い取るか(会社法140条1項・2項。買取りの決定は株主総会の決議)、買い取る者(指定買取人)を指定します(同条4項・5項)。会社や指定買取人は、買取りの通知をする際に、1株当たり純資産額に対象株式数を乗じた額を供託所に供託する必要があります(同141条2項・142条2項)。
売買価格は当事者の協議で決めますが、買取りの通知があった日から20日以内に、当事者は裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(会社法144条2項)。期間内に申立てがなく協議も調わなかった場合は、1株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格になります(同条5項)。会社が自分で買い取る場合は自己株式の取得として財源規制もかかります。
みなし承認:会社が期限内に動かないと承認したことになる
会社法145条は、会社が次の期限内に通知をしなかった場合、承認の決定をしたものとみなすと定めています(会社と請求者の合意で別段の定めをしたときを除く)。
| 期限 | 起算点と内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2週間 | 承認請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内に、承認するか否かの決定内容を通知しなかった場合 | 会社法145条1号 |
| 40日 | 不承認の通知の日から40日(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内に、会社による買取りの通知をしなかった場合(指定買取人が10日以内に買取りの通知をした場合を除く) | 会社法145条2号 |
| 10日 | 指定買取人による買取りの通知の期限。不承認の通知の日から10日(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内 | 会社法145条2号かっこ書 |
| 20日 | 買取りの通知があった日から20日以内に、裁判所へ売買価格の決定を申し立てることができる | 会社法144条2項 |
合意によるM&Aでは承認されるのが前提なので、みなし承認が問題になることはあまりありません。しかし、少数株主が第三者に売りたいと請求してきた場合などには、請求書を受け取った日から期限が走り始めます。受領日を記録し、すぐに弁護士に相談してスケジュールを引くのが安全です。
株式譲渡の手続きの流れ:検討から引継ぎまで
第三者への株式譲渡(M&A)を想定した全体の流れは次のとおりです。親族や役員への譲渡では、相手探しや仲介の工程が省略されることが多いものの、価格の決定・契約・承認・決済・名簿書換えという骨格は同じです。期間はあくまで目安で、案件によって大きく変わります。
| 段階 | 主な作業 | 作成・やり取りする主な書類 |
|---|---|---|
| 1. 検討・準備 | 譲渡の目的と相手の範囲(第三者・親族・役員)を決める。定款・株主名簿・株券の有無を確認し、名義株や所在不明株主がいないかを洗い出す | 定款、株主名簿、登記事項証明書、決算書 |
| 2. 価格の目安を持つ | 決算書をもとに株式価値のレンジを試算し、希望価格と下限を決める | 試算結果、株価算定書(必要に応じて) |
| 3. 相手探し | 仲介会社・FA・マッチングサイト・取引先などの経路で候補を探す。最初は社名を伏せた概要で打診する | ノンネームシート(企業概要の匿名資料) |
| 4. 秘密保持契約(NDA) | 具体的な情報を開示する前に締結する | 秘密保持契約書 |
| 5. 基本合意 | 価格の目安・スケジュール・独占交渉期間などを合意する | 意向表明書(LOI)、基本合意書 |
| 6. デューデリジェンス(DD) | 買い手が財務・税務・法務・労務などを調査する。株主構成や過去の株式異動の記録も確認対象になる | DD資料一式(決算書・契約書・議事録・株主名簿の履歴など) |
| 7. 株式譲渡契約の締結 | 価格・支払条件・表明保証・前提条件などを確定させて契約する | 株式譲渡契約書(SPA) |
| 8. 譲渡承認 | 売り手が会社に承認を請求し、承認機関が決議して通知する。クロージングの前提条件にするのが一般的 | 譲渡承認請求書、取締役会議事録または株主総会議事録、譲渡承認通知書 |
| 9. 代金決済(クロージング) | 代金の支払いと引換えに、株券発行会社なら株券を交付する。役員の交代などもあわせて行うことが多い | 領収書、株券(株券発行会社)、役員の辞任届など |
| 10. 株主名簿の書換え | 売り手と買い手が共同で会社に書換えを請求し、会社が名簿を更新する | 株主名簿書換請求書、更新後の株主名簿 |
| 11. 引継ぎ(PMI) | 取引先・従業員への説明、経営の引継ぎ、統合作業を進める | 引継ぎ計画など |
検討から成約・引継ぎまでの進め方と期間の目安は会社売却(M&A)の流れで詳しく解説しています。以下では、株式譲渡に特有の論点が出る段階を中心に補足します。
1〜2. 検討・価格の目安:最初に株主と株式の状態を確かめる
株式譲渡では「売るもの」が株式なので、最初に確認すべきは誰が何株持っているかです。株主名簿が作られていない、長年更新されていない、法人税申告書の別表(同族会社等の判定に関する明細書)と名簿の記載が合わない、といった状態は珍しくありません。全株式を譲渡する案件では、株主が一人でも欠けると取引の前提が崩れます。
あわせて株式価値の目安を持っておくと、相手探しや交渉の軸がぶれにくくなります。価格の考え方は後述の「価格の決め方」で触れます。
3〜5. 相手探し・NDA・基本合意
相手探しの経路はM&Aの買い手の探し方、秘密保持契約の読み方はNDA(秘密保持契約)とは、基本合意書の書き方はLOI・基本合意書の書き方で整理しています。基本合意の段階では価格は「目安」であることが多く、DDの結果を踏まえて最終契約で確定します。
6. デューデリジェンス:株主まわりの記録も調べられる
買い手は、株式が確実に自分のものになるかを重視します。そのためDDでは、財務・税務だけでなく、設立以来の株式の異動(過去の譲渡・相続・増資)が適法に行われているか、その都度の承認決議の議事録や譲渡契約書が残っているかも確認されることがあります。調査の全体像はデューデリジェンスとは、売り手側の事前準備はセルサイドDD・売却前の磨き上げをご覧ください。
7. 株式譲渡契約:承認取得を前提条件に組み込む
株式譲渡契約書(SPA)では、譲渡する株式の数と価格、支払方法、表明保証、誓約事項、補償、クロージングの前提条件などを定めます。株式譲渡に特有なのは、譲渡承認の取得をクロージングの前提条件(または売り手の義務)として定めておく点です。条項ごとの考え方は株式譲渡契約書(SPA)の要点で解説しています。価格をクロージング時点の運転資本や純有利子負債で調整する仕組みはM&Aの価格調整を参照してください。
8. 譲渡承認:議事録まで残す
売り手が会社に譲渡承認請求書を提出し、承認機関(取締役会または株主総会など)が決議し、会社が承認した旨を通知します。オーナーが代表取締役で過半数の株主でもある中小企業では、売り手自身が会社側の手続きも担うことになりますが、だからといって省略してよいわけではありません。請求書・議事録・通知書を書面で残すことが、後に買い手が株主であることを証明する材料になります。
9. 代金決済:株券発行会社なら株券の交付が必要
クロージング日に、買い手が代金を支払い、売り手が株式を引き渡します。株券を発行しない会社(株券不発行会社)では、譲渡は当事者の合意で効力を生じ、株券の受け渡しはありません。株券発行会社では、後述のとおり株券の交付が譲渡の効力要件になります。役員の交代を伴う場合は、売り手側の役員の辞任や新役員の選任もこのタイミングで行い、役員変更の登記を進めます。
10. 株主名簿の書換え:会社に対抗するための最後の手続き
会社法130条1項により、株式の譲渡は、取得者の氏名・名称と住所を株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗できません(株券発行会社では、名簿の記載が対抗要件となる相手は「株式会社」に限られます。同条2項)。名簿の書換えは、取得者が会社に請求します(同133条1項)。この請求は、原則として株主名簿上の株主(売り手)またはその相続人などと共同で行う必要があります(同条2項)。
また、取得した株式が譲渡制限株式の場合は、承認を受けていなければ名簿の書換えを請求できません(会社法134条。相続などの一般承継や指定買取人の場合などは例外)。承認→決済→名簿書換えの順番が崩れないよう、契約書とクロージングの手順書で段取りを固めておきます。なお、株主の氏名は登記事項ではないため、株式譲渡そのものについて法務局への登記は必要ありません(役員や本店などの変更があれば、その登記は必要です)。
11. 引継ぎ
株式譲渡は会社がそのまま残るため、取引先・従業員から見た変化は「オーナーが替わった」ことです。だからこそ、誰がいつどのように伝えるかが重要になります。成約後の進め方はPMIの進め方で扱っています。
株券発行会社と株券不発行会社の違い
現在の会社法では、株券を発行しないのが原則で、株券を発行するには定款にその旨を定めます(会社法214条)。株券発行会社であることは登記事項です(同911条3項10号)。古くからある会社では株券発行会社のままになっていることがあるため、登記事項証明書で確認してください。
| 項目 | 株券不発行会社 | 株券発行会社 |
|---|---|---|
| 譲渡の効力 | 当事者の合意で生じる | 株券を交付しなければ効力を生じない(会社法128条1項) |
| 会社への対抗要件 | 株主名簿の書換え | 株主名簿の書換え |
| 会社以外の第三者への対抗要件 | 株主名簿の書換え | 株券の占有 |
| クロージングでの注意 | 名簿書換えまでを確実に行う | 株券を用意して代金と引換えに交付する。株券の紛失・未発行に注意 |
特に注意したいのが「株券発行会社なのに株券を実際には発行していない」ケースです。公開会社でない株券発行会社は、株主から請求があるまで株券を発行しないことができます(会社法215条4項)。一方で、株券の発行前にした譲渡は株券発行会社に対して効力を生じません(同128条2項)。このため、譲渡に先立って株券を発行する、あるいは株券を発行する旨の定款の定めを廃止する(同218条。効力発生日の2週間前までの公告と株主への通知が必要)といった対応を、司法書士・弁護士と相談して進めることになります。株券を紛失している場合も、早めに専門家に相談してください。
株式譲渡の必要書類一覧
株式譲渡で作成・準備する主な書類は次のとおりです。書式は会社の機関設計や定款によって変わり、案件によって追加の書類が必要になることもあります。
| 書類 | 作成・提出する人 | 内容とポイント |
|---|---|---|
| 定款(最新版) | 会社 | 譲渡制限の定め、承認機関、株券発行の定め、みなし承認の定めの有無を確認する |
| 登記事項証明書 | 会社(法務局で取得) | 株券発行会社か、取締役会設置会社か、役員構成を確認する |
| 株主名簿 | 会社 | 株主の氏名・住所、株式数、取得日(株券発行会社は株券番号)を記載(会社法121条)。譲渡前後の両方を用意する |
| 株式譲渡契約書 | 売り手・買い手 | 株式数・価格・支払方法・表明保証・前提条件などを定める |
| 譲渡承認請求書 | 売り手(または売り手と買い手) | 譲渡する株式の数、譲受人の氏名・名称、不承認時に買取りを請求するかを記載(会社法138条) |
| 取締役会議事録または株主総会議事録 | 会社 | 承認の決議を記録する。承認機関は定款の定めに従う |
| 譲渡承認通知書 | 会社 | 承認した旨を請求者に通知する(会社法139条2項) |
| 株主名簿書換請求書 | 買い手と売り手(共同) | 株主名簿の書換えを会社に請求する(会社法133条) |
| 株券 | 売り手(株券発行会社のみ) | 代金と引換えに買い手へ交付する |
| 代金の領収書・振込記録 | 売り手・買い手 | 決済の事実を残す。税務申告の資料にもなる |
価格の決め方の要点
非上場株式には市場価格がないため、譲渡価格は当事者の交渉で決めます。第三者へのM&Aでは、純資産に収益力を上乗せする年買法、将来のキャッシュフローから求めるDCF法、類似会社の倍率を使う方法などで株式価値のレンジを出し、交渉で合意点を探るのが一般的です。評価方法の全体像は非上場株式の評価方法、価格の相場観は会社はいくらで売れるかで解説しています。
親族・役員・自社と関係のある法人への譲渡では、税務上の時価が大きな論点になります。時価より著しく低い価格で譲ると、買い手側に贈与税や受贈益課税、売り手側にも時価で譲渡したものとみなす課税が生じる場合があります。税務上の時価の考え方は取引相場のない株式の評価方法を参照し、価格を決める前に税理士に確認してください。
また、オーナーが退任する場合は、譲渡代金の一部を役員退職金として会社から受け取る設計が検討されることがあります。退職金を支払うと会社の純資産が減るため株式価値も変わります。考え方は役員退職金と自社株評価で整理しています。
税金の要点
個人が非上場株式を譲渡して利益が出た場合、その利益は「一般株式等に係る譲渡所得等」として、他の所得と分けて税額を計算する申告分離課税の対象になります。税率は所得税15%・住民税5%で、所得税には復興特別所得税が上乗せされます(国税庁タックスアンサーNo.1463)。譲渡所得は、譲渡価額から取得費と譲渡費用(仲介手数料など)を差し引いて計算し、翌年に確定申告をします。
注意したいのは、発行会社自身に売る場合です。この場合は売却代金の一部がみなし配当として扱われ、課税関係が変わることがあります。法人株主が譲渡する場合は法人税の課税所得に含まれます。取得費の考え方、確定申告、みなし配当、低額譲渡の注意点は非上場株式の譲渡の税金で計算例とともに解説しています。仲介手数料や税金を差し引いた手元に残る金額の目安は、無料ツールの株式譲渡の手取り計算機で確認できます。具体的な税額は税理士にご確認ください。
株式譲渡でよくある失敗
| 失敗 | 何が起きるか | 事前の対策 |
|---|---|---|
| 名義株が残っている | 設立時の名義借りなどで、名簿上の株主と実際の出資者が違う。買い手が全株式を確実に取得できるか疑われ、価格の減額や破談の理由になる | 名義人と実質の所有者を確認し、合意書の作成などで整理する。手順は名義株の整理で解説 |
| 株主の所在が分からない | 連絡が取れない株主がいると全株式を集められず、100%の譲渡ができない | 所在調査を早めに行う。会社法197条の株式の競売・売却の制度(通知が5年以上継続して到達しない等の要件あり)や、経営承継円滑化法の所在不明株主に関する特例の利用を専門家と検討する |
| 承認の手続きが漏れている | 承認決議や議事録がなく、買い手が会社に対して株主であることを主張しにくくなる。過去の異動が問題になることもある | 今回の譲渡だけでなく過去の譲渡も含めて、請求書・議事録・名簿の記録をそろえる |
| 承認機関を取り違える | 定款で定めた機関と違う機関で決議し、手続きのやり直しが必要になる | 定款の最新版で承認機関を確認してから決議する |
| 株券発行会社なのに株券がない | 株券を交付できず、譲渡の効力が問題になる | 登記事項証明書で確認し、株券の発行または定款の定めの廃止を早めに検討する |
| 名簿の書換えを忘れる | 代金を払ったのに、会社に対して株主であることを対抗できない | クロージング手順に書換請求と名簿の更新を入れ、更新後の名簿の写しを買い手に渡す |
| 株主が複数いて足並みがそろわない | 一部の株主が売却に応じない、価格に不満を示すなどで交渉が止まる | 事前に持株構成と各株主の意向を確認する。持株比率と決議の関係は議決権とはを参照 |
これらはいずれも、買い手が見つかってから慌てて対応すると時間がかかり、交渉上も不利になりがちです。売却を考え始めた段階で、定款・登記事項証明書・株主名簿の3点を手元にそろえて確認しておくことをおすすめします。売り手が知っておきたい仲介・FAとの関わり方は中小M&Aガイドラインの要点で整理しています。
よくある質問
Q. 株式譲渡に法務局での登記は必要ですか?
A. 株主の氏名は登記事項ではないため、株式譲渡そのものの登記はありません。会社の内部では株主名簿の書換えが必要です。ただし、譲渡にあわせて役員が交代する、本店を移す、商号を変えるといった場合は、その変更の登記が必要です。
Q. 承認を得る前に契約書に署名してもよいですか?
A. M&Aの実務では、株式譲渡契約を先に締結し、譲渡承認の取得をクロージング(代金決済と株式の引渡し)の前提条件にする方法がよく使われます。契約の締結と株式の移転の時期を分けて考えるのがポイントです。どの段階で何を求めるかは契約の作り方によるため、弁護士に確認してください。
Q. 株主が自分一人の会社でも、承認の手続きは要りますか?
A. 定款に譲渡制限の定めがある以上、承認の決議は必要です。株主総会が承認機関なら、株主が一人であっても株主総会の決議として議事録を作成します。形式的に見えても、議事録は買い手が株式を確実に取得したことを示す記録になります。
Q. 一部の株式だけを譲渡することもできますか?
A. できます。後継者に段階的に株式を移す、役員に一部を持たせるといった使い方があります。ただし、持株比率によって株主総会でできることが変わるため、譲渡後の議決権の構成をあらかじめ確認しておくことが大切です。
Q. 株券を発行しているかどうか、どこで分かりますか?
A. 株券発行会社であることは登記事項なので、登記事項証明書で確認できます。定款に「株券を発行する」旨の定めがあるかもあわせて見てください。株券発行会社なのに実際の株券が見当たらない場合は、譲渡の前に司法書士・弁護士へ相談してください。
Q. 相続で株式を取得した場合も承認が必要ですか?
A. 相続は「譲渡」ではないため、譲渡の承認は不要です(会社法134条4号も、相続その他の一般承継による取得者は承認がなくても名簿書換えを請求できるとしています)。ただし、定款に相続人等に対する売渡請求の定めがある場合は、会社から売渡しを求められることがあります。詳しくは譲渡制限株式とはをご覧ください。
まとめ
株式譲渡は、会社をそのまま残して株主だけを替える取引で、契約・従業員・許認可を個別に移す必要がない分、中小M&Aや事業承継で使いやすい方法です。一方で、非上場会社の株式の多くは譲渡制限株式のため、承認請求→承認機関の決議→通知という会社側の手続きが欠かせません。会社が期限内に通知しないと承認したものとみなされる(請求から2週間など)ことも押さえておきましょう。
手続きの流れは、検討・価格の目安から相手探し、NDA、基本合意、DD、株式譲渡契約、譲渡承認、代金決済、株主名簿の書換え、引継ぎへと進みます。株券発行会社では株券の交付が譲渡の効力要件になり、名簿の書換えは原則として売り手と買い手の共同請求です。名義株・所在不明株主・承認の手続き漏れは、買い手が見つかってからでは対応に時間がかかるため、早めに定款・登記事項証明書・株主名簿を確認しておくことが、円滑な株式譲渡への近道です。
譲渡価格を考える前に株式価値の目安を持つなら、M&Aバリュークラウドで試算できます。会員登録と試算までは無料で、報告書は有料です。M&Aバリュークラウドを見る