M&Aの資金調達|買収資金の借入・調達方法と返済計画の作り方

最終更新: 2026-11-05・M&Aバリュークラウド(株式会社ベルシャンス)・ 編集方針

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結論から言うと、買い手企業のM&A資金調達は、①買収価格だけでなく手数料・デューデリジェンス費用・運転資金・統合投資まで含めた「必要資金の総額」を先に固め、②自己資金・取引銀行の借入・公的融資・売り手への後払いなどを組み合わせ、③対象会社のキャッシュフローで無理なく返せることを返済計画で示す、という順で進めます。金融機関が最終的に見ているのは「いくら借りたいか」ではなく「何を原資に、何年で返せるか」です。返済計画が成り立たない価格は、事業価値の上では払えても、資金面では払えない価格だと考えてください。

この記事は、買収を検討している事業会社の経営企画・財務担当の方に向けて、買収資金の集め方と、金融機関や社内の稟議に「返せる計画」を示す方法を整理したものです。後半では仮の数字を使い、借入額・金利・期間から年間返済額を出し、対象会社のフリーキャッシュフローとの比較(DSCR)や有利子負債/EBITDA倍率の推移まで通しで計算します。

この記事の役割:買い手が買収資金をどう集め、返せる計画をどう示すかに絞って解説します。融資・出資・補助金など資金調達の手段そのものの一般的な一覧は資金調達の方法、借入を梃子にした買収の仕組み(SPC・合併・投資ファンドの使い方)はLBOとはで扱っています。買収価格そのものの決め方は買収価格の決め方をご覧ください。

必要資金の全体像:買収価格だけを集めても足りない

買収資金の計画でまず起きがちなのが、「株式の対価=必要資金」と考えてしまうことです。実際には、契約からクロージング、統合までの間に、対価以外の支出がいくつも重なります。資金計画は次の項目を一覧にするところから始めます。

項目中身見落としやすい点
買収対価株式の取得価格、または事業譲渡の対価価格調整(純有利子負債・運転資本)でクロージング時に金額が動く。上振れ分の余裕を持つ
取引費用FA・仲介の報酬、デューデリジェンス(財務・税務・法務・労務など)の費用、株価算定の費用、契約書の作成費用、登記費用仲介報酬は最低報酬が設定されていることが多い。DDは範囲を広げると費用が増える
対象会社の既存借入の借換え売り手経営者が保証している借入を、クロージング時に買い手側で返済・借り換える資金経営者保証の解除が条件になる案件では、実質的に買収資金に上乗せされる
運転資金の手当て取引条件の変更(支払サイトの短縮など)や、仕入・在庫の積み増しに必要な資金オーナーの信用で成り立っていた取引条件が、買収後に見直されることがある
統合投資(PMI)システム統合、拠点の移転・改修、ブランド統一、人事制度の統合、老朽設備の更新DDで見つかった更新投資の先送りは、ほぼ確実に発生する支出として扱う
税金等事業譲渡の場合の消費税、不動産を取得する場合の不動産取得税・登録免許税などスキームによって大きく変わる。税理士に確認

仲介・FAの報酬の水準はM&A仲介手数料の相場、株価算定の費用は株価算定の費用相場で整理しています。統合投資の中身はPMIの進め方が参考になります。

なお、株式譲渡と事業譲渡では、必要資金の中身が変わります。株式譲渡では対象会社の借入や現預金もそのまま引き継ぐため、価格調整後の株式価値が対価になります。事業譲渡では資産を個別に買うため、消費税や不動産の移転コストが乗る一方、借入は原則として引き継ぎません。違いは事業譲渡と株式譲渡の違いを参照してください。スキームごとの税負担は案件によって異なるため、税理士に確認してください。

調達手段の比較:組み合わせで考える

買収資金の調達手段は、大きく「自社のお金」「他人から借りるお金」「出資を受けるお金」「売り手に待ってもらうお金」に分けられます。1つの手段で全額を賄うより、複数を組み合わせるほうが、返済負担と財務の安定のバランスを取りやすくなります。

手段仕組み向いている場面注意点
自己資金(手元資金)買い手の現預金から支払う小規模な案件、スピードを優先したい案件手元資金が薄くなり、本業の運転資金や不測の支出に備えられなくなる。買収後の最低手元資金を先に決める
既存取引銀行のコーポレートローン買い手会社が自社の信用力で借りる。返済原資は買い手グループ全体のキャッシュフロー買い手本体の業績・財務が安定している場合。最も一般的買い手本体の借入余力を使う。既存借入の財務制限条項(コベナンツ)に抵触しないか確認
LBO型の買収ローン買収目的の会社(SPCなど)が借り、対象会社のキャッシュフローと資産を返済原資・担保にする対象会社のキャッシュフローが安定し、買い手本体の負担を限定したい場合金利・手数料が高め、財務制限条項が厳しめになりやすい。対象会社の株式・資産への担保設定が一般的。仕組みは別記事
公的融資・信用保証日本政策金融公庫の事業承継・M&A向けの融資、経営承継円滑化法の認定に基づく信用保証の別枠など中小企業どうしの承継型M&A認定や審査が前提で、必ず使えるわけではない。民間金融機関との協調融資になることもある
増資・社債株主・投資家からの出資、社債の発行大型案件、借入だけでは財務が悪化しすぎる場合出資は持分の希薄化を伴う。社債は発行の準備に時間がかかる
売り手への分割払い(後払い)対価の一部をクロージング後に分割で支払う価格の差を埋めたい、初期の資金負担を抑えたい場合実質的には売り手からの借入。金融機関は返済負担として見る
アーンアウト業績目標を達成したら追加対価を支払う売り手の希望価格と買い手の評価に差がある場合支払が発生する年の資金繰りに組み込む。指標の定義で紛争になりやすい
売り手ローン(ベンダーローン)売り手が対価の一部を買い手に貸し付ける形にする金融機関の借入枠だけでは足りない場合銀行借入より返済順位を後にする(劣後)よう求められることが多い。契約条件は弁護士に確認

既存取引銀行のコーポレートローンとLBO型の買収ローンの違いは、「誰の信用で借りるか」です。前者は買い手本体の信用で借りるため条件は比較的整えやすい一方、買収がうまくいかなかった場合の影響は買い手本体にそのまま及びます。後者は対象会社のキャッシュフローに返済を依存させるぶん、金融機関は対象会社の事業計画をより厳しく見ます。どちらを選ぶかは、自社の借入余力と、買収後に対象会社を独立した会社として運営するか、合併するかといった統合方針とあわせて決めます。

アーンアウトの支払額はアーンアウト・シミュレーターで方式・シナリオ別に試算できます。価格調整や後払いの位置づけはM&Aの価格調整とはで整理しています。

公的融資・信用保証で確認できること

日本政策金融公庫は「事業承継・集約・活性化支援資金」という融資制度を、国民生活事業と中小企業事業のそれぞれで公表しています。公庫の公式ページ(2026年11月閲覧)によると、利用できる方には「安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方」が含まれ、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)です。融資限度額は国民生活事業で「別枠7,200万円」、中小企業事業で「14億4千万円」(直接貸付)とされています。公庫の事業承継マッチング支援のページでは、この制度を使って株式の取得資金や営業権・店舗設備の買取資金の融資を受けた事例が紹介されており、民間金融機関との協調融資も約2割あると書かれています。利率は利用者の区分によって異なり、対象になるかどうかも審査次第です。詳細は公庫の窓口で確認してください。

信用保証については、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けると、通常の保証枠とは別枠で保証を受けられる仕組みがあります。たとえば栃木県の案内(2026年10月13日更新)では、他の中小企業者から事業を承継しようとする会社が株式や事業用資産を買い取る資金を対象とする「経営承継準備関連保証」が紹介され、普通保険(2億円)・無担保保険(8,000万円)・特別小口保険(2,000万円)と同額の別枠があること、会社が一定の財務要件を満たす場合は経営者保証を不要とすること、認定を受けても信用保証協会・公庫がそれぞれ審査するため特例が必ず受けられるわけではないこと、認定までに2か月前後かかることが書かれています。手続きの細部は都道府県や時期で異なるため、申請先の都道府県と信用保証協会の最新の案内で確認してください。公的な相談窓口の全体像はM&Aの公的支援、取引費用の一部を賄える補助金は事業承継・M&A補助金で扱っています。

金融機関が審査で見る点

買収資金の融資審査では、通常の設備資金や運転資金の審査に加えて、「買った会社が計画どおりに稼ぐか」が問われます。主な観点は次のとおりです。どの指標をどの水準で見るかは金融機関や案件によって異なり、ここに挙げる数字は判断の目安として社内で確認するためのものです。

観点見られること買い手が用意するもの
返済原資借入を何で返すのか。対象会社のフリーキャッシュフロー、買い手本体の利益、資産売却など対象会社の正常収益力と、配当・合併などでお金が買い手に届く経路の説明
DSCR(債務返済カバー率)返済原資のキャッシュフロー÷年間の元利返済額。1倍を下回ると返済原資が足りない年ごとのDSCRの推移と、業績が下振れしたときの値
有利子負債/EBITDA倍率借入残高がEBITDAの何年分か。借入の重さと、返済が進んだときの改善の速さ買収直後と数年後の倍率。買い手グループ全体での倍率
担保・保証対象会社株式・不動産への担保設定、経営者保証の要否担保に出せる資産の一覧、経営者保証を求めない融資を受けるための財務の状態
事業計画売上・利益の前提が過去の実績から見て無理がないか。統合の効果をどこまで見込んでいるか対象会社単独の計画(シナジー抜き)と、シナジーを含む計画の2本立て
デューデリジェンスの結果簿外債務、正常収益力の修正、キーパーソンへの依存などDD報告書の要約と、発見事項を価格・契約でどう手当てしたか
自己資金の割合買い手がどれだけ自分のお金を入れているか必要資金総額と調達内訳の表

返済原資の土台になるのは、対象会社の正常収益力です。オーナー関連の経費や一時的な損益を調整した実力ベースの利益を出しておかないと、DSCRの計算そのものが信用されません。調整の考え方は正常収益力とは、DDの進め方は買収監査(デューデリジェンス)の進め方で解説しています。フリーキャッシュフローとEBITDAの定義はFCFとはとEBITDAとはを参照してください。

また、事業計画は「シナジー抜き」で返済が成り立つことを示すのが基本です。シナジーは実現に時間がかかり、外れることもあるため、返済原資に織り込むと金融機関の評価は厳しくなります。シナジーを含む計画は、上振れの可能性として別に示すほうが説明しやすくなります。

返済計画の作り方:仮の数字で通して計算する

ここからは、すべて説明のための仮の数字で、返済計画の組み立て方を見ていきます。実在の会社や業界の水準、金融機関の融資条件を示すものではありません。金利も計算のための仮の値です。

前提(仮の数字)

  • 買収対価(株式価値):8.0億円。対象会社は無借金で、買収後も事業に必要な手元資金は社内に残す
  • 取引費用(FA報酬・DD費用・算定費用など):0.4億円
  • 運転資金の手当て:0.3億円、統合投資(システム統合・設備更新):0.3億円
  • 必要資金の総額:8.0+0.4+0.3+0.3=9.0億円
  • 調達:自己資金3.0億円+借入6.0億円(金利年2.0%・期間10年・元利均等返済・年1回払い)
  • 対象会社のEBITDA:1.5億円(正常収益力ベース。期間中は横ばいと置く)

ステップ1:返済原資になるフリーキャッシュフローを出す

項目金額(仮の数字)計算
EBITDA1.50億円正常収益力ベース
減価償却費0.30億円-
営業利益1.20億円1.50-0.30
法人税等(実効税率30%と仮定)▲0.36億円1.20×30%
税引後営業利益0.84億円1.20-0.36
減価償却費を足し戻す+0.30億円現金の支出を伴わない費用
設備投資▲0.30億円維持に必要な水準
運転資本の増加▲0.04億円-
フリーキャッシュフロー(FCF)0.80億円0.84+0.30-0.30-0.04

ここでは利息の節税効果を入れていないため、やや保守的な数字になります。また、対象会社のFCFが買い手の返済に使えるのは、配当として買い手に吸い上げる、あるいは合併して一体化するといった経路があるからです。配当には会社法上の分配可能額の制約があり、税務上の扱いもスキームによって異なるため、経路の設計は税理士・弁護士に確認してください。

ステップ2:年間返済額を出す

元利均等返済の年間返済額は、借入額×金利÷(1-(1+金利)-期間)で求めます。借入6.0億円・金利2.0%・10年なら、(1.02)10≒1.2190、その逆数≒0.8203なので、6.0×0.02÷(1-0.8203)≒年0.668億円(約6,680万円)です。10年間の返済総額は約6.68億円で、うち利息は約0.68億円になります。

ステップ3:DSCRと有利子負債/EBITDA倍率の推移を見る

DSCRは「返済原資のキャッシュフロー÷年間の元利返済額」です。この例ではFCF0.80億円÷返済0.668億円≒1.20倍で、毎年0.13億円ほどの余裕が残る計算です。有利子負債/EBITDA倍率は、借入残高÷対象会社のEBITDAで見ます。返済が進むにつれて次のように下がっていきます。

年支払利息元金返済年間返済額期末借入残高有利子負債/EBITDA倍率DSCR
買収時---6.00億円4.0倍-
1年目0.120億円0.548億円0.668億円5.45億円3.6倍1.20倍
2年目0.109億円0.559億円0.668億円4.89億円3.3倍1.20倍
3年目0.098億円0.570億円0.668億円4.32億円2.9倍1.20倍
5年目0.075億円0.593億円0.668億円3.15億円2.1倍1.20倍
7年目0.051億円0.617億円0.668億円1.93億円1.3倍1.20倍
10年目0.013億円0.655億円0.668億円0.00億円0.0倍1.20倍

元利均等返済なので年間返済額は一定で、FCFを横ばいと置いた以上、DSCRも毎年同じ1.20倍になります。元金均等返済(毎年0.6億円+利息)を選ぶと、1年目の返済額は0.6+0.12=0.72億円でDSCRは約1.11倍に下がり、その後は利息の減少とともに改善していきます。買収直後のほうが統合の混乱で業績がぶれやすいことを考えると、初年度の負担が軽い返済方法や据置期間の有無も、条件交渉の論点になります。

なお、この倍率は買収借入と対象会社のEBITDAだけで計算しています。買い手本体にも借入がある場合、金融機関は買い手グループ全体の有利子負債と連結ベースのEBITDAでも見ます。両方の数字を用意しておくと話が早くなります。

ステップ4:下振れと条件の組み替えを試す

返済計画は「計画どおりなら返せる」だけでは不十分です。FCFが2割減って0.64億円になった場合、借入6.0億円・10年ではDSCRが0.64÷0.668≒0.96倍となり、1倍を割り込みます。手元資金を取り崩すか、買い手本体の利益で補う必要が出る水準です。そこで、借入額と期間を動かして、下振れ時にも1倍を保てる組み合わせを探します。

借入額・期間年間返済額DSCR(FCF0.80億円)DSCR(FCF2割減・0.64億円)
4.0億円・7年0.618億円1.29倍1.04倍
4.0億円・10年0.445億円1.80倍1.44倍
5.0億円・7年0.773億円1.04倍0.83倍
5.0億円・10年0.557億円1.44倍1.15倍
6.0億円・7年0.927億円0.86倍0.69倍
6.0億円・10年0.668億円1.20倍0.96倍

この例では、借入を5.0億円・10年に抑えれば、FCFが2割減っても1.15倍を保てます。差額の1.0億円は、自己資金を増やす、対価の一部を売り手への後払いやアーンアウトにする、といった方法で埋めることになります。ただし後払いやアーンアウトも支払義務であることに変わりはなく、支払が発生する年の資金繰りに入れて確認する必要があります。

借入額・金利・期間からの毎月返済額、DSCRから逆算した借入可能額は借入返済シミュレーションで試算できます。借入を含めた資金構成での投資回収年数やエクイティIRRは買収の投資回収シミュレーションで確認できます。社内のハードルレートとの比べ方はM&Aのハードルレートと投資判断基準を参照してください。

上記はすべて仕組みを説明するための仮の数字です。金利、返済期間、求められるDSCRや倍率の水準、担保・保証の条件は、金融機関と案件によって異なります。融資の可否や条件は金融機関に、税金の計算や配当・合併の扱いは税理士に確認してください。

経営者保証の扱い:買い手側と売り手側の2つがある

M&Aの資金調達では、経営者保証の論点が2か所に出てきます。1つは買い手が新たに借りる買収資金に、買い手の代表者の保証が求められるか、もう1つは対象会社の既存借入に付いている売り手経営者の保証をどうするかです。

買い手側については、金融機関が経営者保証を求めるかどうかは、法人と経営者の資産・経理の分離、財務基盤、情報開示の状況などを踏まえて判断されます。考え方の土台になるのが「経営者保証に関するガイドライン」で、内容は経営者保証に関するガイドラインで解説しています。公的制度でも扱いは制度ごとに異なり、たとえば日本政策金融公庫の中小企業事業の「事業承継・集約・活性化支援資金」のページには、直接貸付で一定の要件に該当する場合は経営責任者の個人保証が必要と書かれています。先に触れた経営承継準備関連保証のように、財務要件を満たせば経営者保証を不要とする仕組みもあります。

売り手側の保証は、クロージング時に解除または買い手側への移行ができないと、売り手が契約に応じないことがあります。解除・移行を最終的に判断するのは金融機関であるため、買い手の側でも、既存借入を自社の資金で返済して借り換える選択肢を資金計画に入れておくと交渉が進めやすくなります。実務の進め方はM&Aにおける個人保証(経営者保証)の解除、保証を外して借り換える制度は事業承継特別保証制度とはで整理しています。

資金調達のスケジュール:基本合意から逆算する

買収資金の調達で多い失敗は、最終契約の直前になって金融機関に相談を始めることです。融資の審査にはDDの結果や事業計画が必要で、公的制度の認定にも時間がかかります。各段階で何を準備するかを、次のように並べておきます。

段階資金調達でやること準備する資料
初期検討(ノンネーム〜秘密保持契約)自社の借入余力と、自己資金で出せる上限を確認する。取引銀行に買収を検討している旨を早めに伝える自社の直近決算、既存借入と財務制限条項の一覧
意向表明想定価格帯での必要資金総額と調達内訳の素案を作る。意向表明書に資金の裏付け(自己資金・借入予定)を書けるようにする必要資金一覧、調達内訳の素案
基本合意金融機関に正式に相談し、融資の大枠(金額・期間・担保)を詰める。公的制度を使うなら認定申請の準備を始める対象会社の決算書3期分、事業計画(シナジー抜き)、返済計画
デューデリジェンスDDの結果を返済計画に反映する。正常収益力の修正があれば借入額を見直すDD報告書の要約、修正後の事業計画とDSCR
最終契約融資の承認を取り、契約に資金調達の条件や経営者保証の扱いを反映する融資承認の見込み、株式譲渡契約書の案
クロージング融資の実行日と代金の支払日、既存借入の返済・保証解除の手続きを同じ日に揃える実行・支払・登記の段取り表

意向表明書や基本合意書の書き方は意向表明書・基本合意書の書き方、最終契約で資金調達をクロージング条件にするかどうかなどの論点は株式譲渡契約書(SPA)の要点で確認できます。融資が下りなかった場合に契約を解除できるかどうかは、売り手との交渉で決まる条件です。契約条項は弁護士に確認してください。

社内の稟議では、「資金計画」欄に必要資金の総額と内訳、調達手段ごとの金額、返済計画(年間返済額・DSCR・有利子負債/EBITDA倍率の推移)、下振れ時の対応を書いておくと、承認する側の質問に先回りできます。株式取得の稟議書・取締役会付議資料のWordひな形は買い手向けの無料ひな形からダウンロードでき、資金計画の欄も用意しています。

M&Aの資金調達でよくある失敗

  • 買収価格だけを資金計画に入れる:取引費用、既存借入の借換え、運転資金、統合投資を落として、クロージング後に資金が足りなくなる。
  • 売り手の事業計画をそのまま返済原資にする:右肩上がりの計画でDSCRを計算すると、計画が外れた瞬間に返済が苦しくなる。買い手目線で引き直した計画で計算する。
  • シナジーを返済原資に織り込む:シナジーが出るまでの数年間、返済原資が足りない状態になる。返済はシナジー抜きで成り立たせる。
  • 下振れケースを試さない:計算例のように、FCFが2割減るだけでDSCRが1倍を割る構成は珍しくない。借入額と期間の組み合わせを複数試す。
  • 金融機関への相談が遅い:最終契約の直前に相談を始め、審査が間に合わない、条件が想定と違う、といった事態になる。基本合意の前後には相談を始める。
  • 後払い・アーンアウトを負債と見なさない:初期の資金負担は軽くなるが、支払年の資金繰りを圧迫する。返済計画に入れて確認する。
  • 手元資金を使い切る:自己資金を最大限入れた結果、本業の運転資金や統合時の不測の支出に備えられなくなる。買収後に残す最低手元資金を先に決める。
  • 税務の影響を後から知る:スキームによって税負担や配当の扱いが変わり、返済原資が想定より減ることがある。制度の概要は中小企業のM&A税制で確認し、個別の判断は税理士に相談する。

まとめ:「いくら借りられるか」より「何で返すか」を先に示す

買い手のM&A資金調達は、①買収価格に取引費用・借換え・運転資金・統合投資を加えた必要資金の総額を固め、②自己資金・コーポレートローン・LBO型の買収ローン・公的融資・売り手への後払いなどを組み合わせ、③対象会社の正常収益力から出したFCFで、DSCRと有利子負債/EBITDA倍率の推移を示し、④下振れしても返せる借入額と期間を選ぶ、という順で進めます。金融機関への相談は基本合意の前後から始め、公的制度を使う場合は認定にかかる期間も見込んでおきます。

数字はいずれも前提次第で動くため「目安」として扱い、融資の条件は金融機関に、税務・法務の論点は税理士・弁護士に確認しながら進めてください。

返済原資を考える前提として、対象会社の価値の目安を先に押さえておきたい場合は、買い手企業の方へのページをご覧ください。M&Aバリュークラウドでは、対象会社の決算書3期分と事業計画から、DCF法と類似会社比較法の併用で株式価値のレンジを算定し、算定書にまとめられます。試算と評価レンジの表示は無料です。

対象会社の価値を、自社の前提で試算

対象会社の財務と事業計画を入力すれば、DCF法・類似会社比較法・純資産法による株式価値のレンジを最短数分で。詳細版レポート(5,500円・税込)はWACCの根拠・感応度分析まで収録したPDFで、稟議のたたき台に使えます。