事業譲渡とは|仕組み・手続きの流れ・税金とメリット・デメリット
最終更新: 2026-10-25
「この事業だけを売りたい」「あの会社の店舗部門だけを引き取りたい」——事業の一部や全部を売り買いするときに、まず候補に挙がる方法が事業譲渡です。会社そのもの(株式)を売る株式譲渡と違い、事業譲渡では会社は売り手の手元に残り、事業を形づくる資産・負債・契約・従業員などを買い手に一つずつ移し替えます。
本稿は、事業譲渡を調べ始めた中小企業の経営者・経営企画の方に向けて、事業譲渡の定義と会社法上の位置づけ、全部譲渡と一部譲渡の違い、株式譲渡・会社分割・合併との違いの要点、手続きの流れ(株主総会決議や個別同意を含む)、従業員・許認可・競業避止義務の扱い、税金の概要、メリットとデメリット、向いているケースまでを全体像として整理します。株式譲渡との詳しい比較は事業譲渡と株式譲渡の違い、価格の決め方は事業譲渡の価格の決め方で扱っているので、本稿では要点にとどめます。
事業譲渡とは:事業を「まとまり」として個別に移す取引
事業譲渡とは、会社が営んでいる事業の全部または一部を、契約によって他の会社や個人に譲り渡す取引です。会社法では第2編第7章「事業の譲渡等」に規定があり、一定規模以上の事業譲渡には株主総会の承認が求められます(会社法467条)。なお、個人の商人や商法上の場面では同じ取引を「営業譲渡」と呼ぶことがあります。
ここでいう「事業」は、単なる資産の寄せ集めではありません。判例・通説では、一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先との関係やノウハウなどの事実関係を含む)を移し、譲受人がその事業を引き継いで営めるようにすること、と理解されています。工場の機械を1台売るだけなら単なる資産の売却ですが、機械・在庫・取引先・従業員・ノウハウをまとめて移し、買い手がそのまま事業を続けられる状態にするのが事業譲渡です。
事業を構成する要素と、事業譲渡での移し方を整理すると次のとおりです。
| 事業を構成するもの | 具体例 | 事業譲渡での移し方 |
|---|---|---|
| 有形の資産 | 土地・建物、機械設備、車両、在庫 | 契約で個別に特定し、不動産は登記、車両は登録などで移転 |
| 無形の資産 | 商標・特許、ソフトウェア、ノウハウ、顧客リスト | 契約で特定。登録が必要な権利は移転登録 |
| 債権・債務 | 売掛金、買掛金、借入金、預り金 | 債権は譲渡の手続き、債務の移転は債権者の同意が必要 |
| 契約上の地位 | 取引先との基本契約、賃貸借契約、リース契約 | 契約の相手方の承諾を得て移転 |
| 従業員 | 雇用契約、勤続・退職金・有給休暇の扱い | 従業員一人ひとりの同意(承諾)を得て移る |
| 許認可 | 建設業許可、飲食店営業許可、介護事業の指定など | 原則として引き継げず、買い手側で取得・届出 |
この表のとおり、事業譲渡の本質は特定承継(移すものを指定して個別に移す)です。合併や会社分割のような包括承継(権利義務がまとめて移る)とは異なり、「何を移し、何を残すか」を当事者が契約で選べる反面、移すものごとに相手方の同意や手続きが必要になります。この性質が、事業譲渡のメリットとデメリットの両方を生み出しています。
全部譲渡と一部譲渡
事業譲渡には、会社の事業をすべて譲り渡す全部譲渡と、複数ある事業のうち一部を譲り渡す一部譲渡があります。
- 全部譲渡:会社の事業をすべて買い手に移します。売り手の会社には譲渡代金(現預金)と、移さなかった資産・負債が残ります。その後、会社を清算する、資産管理会社として残す、新しい事業を始めるといった選択をします。後継者のいない会社が事業を引き継いでもらう場面などで使われます。
- 一部譲渡:たとえば「飲食と不動産賃貸を営む会社が、飲食部門だけを売る」というように、一部の事業を切り出して譲り渡します。会社は残った事業を続けます。選択と集中、不採算事業の切り離し、資金確保などの目的で使われます。
会社法上は、事業の全部の譲渡と事業の重要な一部の譲渡に株主総会の承認が必要とされます(467条1項1号・2号)。一部譲渡のうち、譲り渡す資産の帳簿価額が会社の総資産額(法務省令の方法で算定)の5分の1(定款でこれより低い割合を定めた場合はその割合)を超えないものは、この「重要な一部の譲渡」から除かれ、株主総会の決議は不要です。これがいわゆる簡易事業譲渡と呼ばれる例外です。なお、5分の1を超えていても、事業全体から見て「重要な一部」に当たらなければ決議は不要と解されていますが、どちらに当たるかの判断は個別事情によるため、弁護士に確認しながら進めます。
株式譲渡・会社分割・合併との違い(要点)
事業を他社に引き継ぐ方法は事業譲渡だけではありません。中小企業のM&Aでよく比較される方法との違いを、要点に絞って整理します。
| 方法 | 移るもの | 承継の性質 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 事業譲渡 | 事業(資産・負債・契約など) | 特定承継(個別に移す) | 対象を選べる。契約・雇用・許認可は個別に手当てが必要 |
| 株式譲渡 | 会社の株式(持ち主が変わる) | 会社そのものは動かない | 手続きが比較的簡単。会社の過去のリスクもそのまま残る |
| 会社分割(吸収分割・新設分割) | 事業に関する権利義務 | 包括承継(まとめて移る) | 契約を個別に移さずに済む一方、債権者保護手続きなど法定の手続きが必要 |
| 合併 | 会社の権利義務のすべて | 包括承継 | 消滅会社の権利義務を存続会社がすべて引き継ぐ |
売り手のオーナーの視点では、代金を誰が受け取るかが大きな違いです。株式譲渡では株主(オーナー個人など)が代金を受け取りますが、事業譲渡では売り手の会社が受け取ります。そのため税金のかかり方も変わり、同じ金額で売れても手元に残る額が違ってきます。詳しくは事業譲渡と株式譲渡の違いで比較表と試算例を示しています。
吸収分割と事業譲渡の違い
「事業の一部を切り出して他社に移す」という目的が同じため、特に迷いやすいのが吸収分割(会社分割のうち、既存の会社に事業を承継させる方法)です。主な違いは次の3点です。
- 承継の仕組み:吸収分割は包括承継のため、分割契約に定めた権利義務がまとめて移り、取引先や債権者の個別の同意は原則として不要です。事業譲渡は特定承継のため、契約や債務の移転に相手方の同意が必要です。
- 債権者・従業員の保護の仕組み:吸収分割には会社法上の債権者保護手続き(公告・催告など)があり、従業員については労働契約承継法に基づく手続きがあります。事業譲渡にはこうした一括の法定手続きはなく、代わりに一人ひとり・一社ずつの同意で進めます。
- 対価:事業譲渡の対価は通常金銭です。吸収分割では承継会社の株式を対価にすることもできます。
取引先や従業員の数が多く、個別の同意を取り切るのが難しい場合は会社分割が、承継する対象を細かく選びたい場合や手続きを当事者間の契約で完結させたい場合は事業譲渡が検討されやすい、というのが大まかな目安です。会社分割の仕組みは会社分割とは、合併は合併とはで解説しています。
事業譲渡の手続きの流れ
事業譲渡の進め方は、相手探しから最終契約までは一般的なM&Aと大きくは変わりません。違いが出るのは、最終契約のあとに株主総会の承認と、資産・契約・従業員の個別の移転が続く点です。全体の流れを表にまとめます(期間は案件規模や相手方の数によって大きく変わるため、あくまで目安です)。
| 段階 | 主な内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 検討・準備 | 売る事業の範囲を決める、事業単体の損益を整理する、価値の目安をつかむ | どの資産・契約・従業員を移すかの線引きが出発点 |
| 2. 相手探し | 仲介会社・FA・マッチングサイト・取引先などから候補を探す | 事業の中身が伝わる資料を、会社名を伏せて用意する |
| 3. 秘密保持契約(NDA) | 詳しい情報を開示する前に締結 | 従業員や取引先に情報が漏れない管理も重要 |
| 4. 基本合意 | 価格の目安、譲渡対象の範囲、スケジュール、独占交渉期間などを確認 | 多くは法的拘束力のない部分が中心 |
| 5. デューデリジェンス(DD) | 買い手が財務・法務・労務・許認可などを調査 | 事業譲渡では承継する対象に絞って調べることが多い |
| 6. 事業譲渡契約の締結 | 譲渡対象の特定(別紙の資産・契約・従業員リスト)、価格、前提条件、表明保証、競業避止など | リストから漏れたものは移らないため、特定作業が中心 |
| 7. 株主総会の承認 | 全部譲渡・重要な一部の譲渡は効力発生日の前日までに特別決議 | 簡易・略式の例外あり。反対株主の株式買取請求への対応 |
| 8. 個別の同意・移転手続き | 債権者・取引先・貸主・従業員の同意、不動産登記、許認可の取得・届出 | 同意の取得状況をクロージングの前提条件にすることが多い |
| 9. クロージング | 代金の決済と事業の引渡し | 引渡し後も一定期間、引継ぎ支援を行うことがある |
1〜6の段階の進め方は、会社売却(M&A)の流れで詳しく説明しています。相手探しはM&Aの買い手の探し方、秘密保持契約はNDA(秘密保持契約)とは、基本合意はLOI・基本合意書の書き方、調査はデューデリジェンスとはもあわせてご覧ください。以下では、事業譲渡に特有の7・8の段階を中心に見ていきます。
株主総会の特別決議(会社法467条)
事業の全部の譲渡、または事業の重要な一部の譲渡をする会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって事業譲渡契約の承認を受ける必要があります(467条1項)。この決議は特別決議で(309条2項11号)、原則として議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。どの程度の株式を持っていれば決議を左右できるかは議決権とはで整理しています。
あわせて、会社は効力発生日の20日前までに、株主に事業譲渡をする旨を通知(一定の場合は公告)しなければならず(469条3項・4項)、事業譲渡に反対した株主は会社に対して自己の株式を公正な価格で買い取るよう請求できます(469条1項)。ただし、事業の全部の譲渡と同時に会社の解散を決議した場合など、買取請求が認められない場合も定められています。
株主総会の決議が不要になる主な例外は次の2つです。
- 簡易事業譲渡(売り手側):譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額の5分の1(定款でより低い割合を定めた場合はその割合)を超えない一部譲渡は、そもそも決議の対象から外れます(467条1項2号かっこ書)。
- 略式事業譲渡:契約の相手方が、譲渡する会社の総株主の議決権の10分の9(定款でより高い割合を定めた場合はその割合)以上を持つ「特別支配会社」である場合は、決議が不要です(468条1項)。親子会社間の再編で使われる例外です。
買い手側でも、他の会社の事業の全部を譲り受ける場合には株主総会の承認が必要です(467条1項3号)。ただし、対価として交付する財産の帳簿価額が買い手の純資産額の5分の1以下であれば原則として決議は不要で(468条2項)、一定数の株主が反対を通知した場合には決議が必要になります(同条3項)。一部の事業の譲受けであれば、この決議は求められていません。いずれも取締役会設置会社では取締役会での決定も必要になるのが通常です。
債権者・取引先の個別の同意
事業譲渡では、債務も契約も自動的には移りません。買い手が借入金や買掛金などの債務を引き受け、売り手がその債務から抜けるには、債権者の同意(承諾)が必要です(民法472条の免責的債務引受)。取引先との契約や賃貸借契約などの契約上の地位も、契約の相手方が承諾してはじめて買い手に移ります(民法539条の2)。
主要な取引先や貸主には、交渉が固まった段階で説明し、承諾を得ていきます。この過程で取引条件の見直しや承諾料を求められることもあるため、どの契約が事業の生命線かを早めに洗い出し、承諾が得られなかった場合の扱い(前提条件にする、価格に反映するなど)を契約で決めておくのが実務上のポイントです。
移転の手続き
不動産は所有権移転の登記、車両は移転登録、特許権・商標権は移転登録、売掛金などの債権は債務者への通知・承諾といったように、資産ごとに対抗要件を備える手続きが必要です。移す資産や契約の数が多いほど作業量が増え、クロージングまでの期間が長くなりやすい点は、株式譲渡と比べたときの事業譲渡の特徴です。
従業員の転籍:一人ひとりの同意が必要
事業譲渡では、従業員の雇用契約も自動的には移りません。民法625条1項は「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」と定めており、従業員が買い手に移るには本人の同意(承諾)が必要です。実務では、売り手との雇用契約を終了して買い手と新たに雇用契約を結ぶ方法(転籍)や、売り手・買い手・従業員の三者で雇用契約上の地位を移す方法がとられます。
同意を得るうえでは、移った後の賃金・役職・勤務地、勤続年数の通算の有無、退職金の扱い(売り手で精算するか、買い手が通算して引き継ぐか)、有給休暇の残日数の扱いなどを具体的に示すことが欠かせません。厚生労働省は「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」を定め、労働者の真意による承諾を得ること、時間的な余裕をもった協議、労働組合等との協議、解雇に関する留意事項などを示しています。
同意しなかった従業員は売り手の会社に残ります。事業を支えるキーパーソンが移らなければ事業の価値そのものが下がるため、買い手は主要な従業員の同意をクロージングの前提条件にすることがあります。従業員にいつ・どう伝えるかはM&Aを従業員にいつ伝えるかで解説しています。労務の扱いは個別事情による差が大きいため、社会保険労務士・弁護士等の専門家に確認してください。
許認可の扱い:原則として引き継げない
許認可は、許可を受けた事業者(会社)に対して与えられるものが多く、事業譲渡では原則として買い手に引き継げません。買い手が自ら許認可を取得するか、届出をし直す必要があります。許認可がなければ事業を営めない業種では、取得の要件(人員・設備・資金など)を満たせるか、取得までにどのくらいの期間がかかるかを早い段階で確認し、クロージングの日程と前提条件に織り込みます。
一方で、業種によっては事業譲渡でも地位を承継できる制度が設けられているものがあります。たとえば建設業法17条の2は、許可に係る建設業の全部を譲渡する場合に、あらかじめ行政庁の認可を受けることで譲受人が許可を受けた建設業者の地位を承継できる仕組みを定めています。こうした制度の有無や要件は業種ごとに異なり、改正もあるため、所管の行政庁に事前に確認することが重要です。業種ごとの論点は建設会社の売却相場や介護事業の売却相場でも触れています。
競業避止義務と商号の続用(会社法21条・22条)
事業を譲り渡した会社(譲渡会社)は、当事者が別段の意思表示をしない限り、同一の市町村(特別区、指定都市では区または総合区)とこれに隣接する市町村の区域内で、事業を譲渡した日から20年間、同一の事業を行ってはならないとされています(会社法21条1項)。同一の事業を行わない旨の特約をした場合、その特約は譲渡の日から30年の期間内に限り効力を持ちます(同条2項)。また、これらにかかわらず、不正の競争の目的で同一の事業を行うことは禁じられています(同条3項)。
実務では、法律の規定に任せず、事業譲渡契約で競業避止の範囲(地域・期間・対象事業)を具体的に定めるのが一般的です。売り手が残った事業で似た商売を続ける予定があるなら、どこまでが競業に当たるかを契約で明確にしておく必要があります。
もう一つ注意したいのが商号の続用です。事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使う場合、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うとされています(22条1項)。ただし、譲り受けた後遅滞なく、譲受会社が譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合や、第三者に通知した場合には、この責任を負いません(同条2項)。屋号やブランド名を引き継ぐ予定があるときは、この点も弁護士に確認しておきます。
さらに、売り手が承継されない債務の債権者を害することを知って事業を譲渡した場合、その債権者は、承継した財産の価額を限度として譲受会社に債務の履行を請求できるという規定もあります(23条の2。譲受会社が害することを知らなかった場合を除く)。債務超過の会社から事業だけを引き取る場面では特に注意が必要です。赤字や債務超過の会社の扱いは赤字・債務超過の会社は売却できるかも参考にしてください。
事業譲渡の税金の概要
事業譲渡は「資産の売買」の性質を持つため、株式の売買とは税金のかかり方が異なります。売り手・買い手それぞれの主な論点は次のとおりです。
| 当事者 | 主な税金 | 概要 |
|---|---|---|
| 売り手(会社) | 法人税等 | 譲渡価額と、譲り渡す資産・負債の帳簿価額との差額(譲渡益)が会社の所得になり、法人税・法人住民税・法人事業税の対象になる |
| 売り手(会社) | 消費税 | 譲り渡す資産のうち課税資産(建物・設備・在庫・のれんなど)の対価に消費税がかかる。土地や売掛金などは非課税・対象外 |
| 買い手 | 資産調整勘定(税務上ののれん) | 一定の要件を満たす事業の譲受けで、対価が時価純資産を超える部分は資産調整勘定となり、60か月で均等に損金に算入する |
| 買い手 | 不動産取得税・登録免許税 | 土地・建物を取得する場合、不動産取得税と所有権移転登記の登録免許税がかかる |
売り手の注意点は、代金が会社に入ることです。オーナー個人の手元にお金を移すには、役員退職金や配当、会社の清算などの方法をとることになり、そこでも課税が生じます。このため、同じ譲渡価額でも株式譲渡と比べて手取りが少なくなりやすい構造があります。ただし、繰越欠損金がある会社では譲渡益と相殺できる余地があるなど、有利不利は会社の状況によって変わります。役員退職金の考え方は役員退職金と自社株評価で整理しています。
消費税については、国税庁の質疑応答事例でも、営業権・土地・建物などを一括して譲渡した場合は、対価の額を課税資産と非課税資産に合理的に区分して課税標準を計算するという考え方が示されています(消費税法施行令45条3項)。契約書で資産ごとの対価の配分を決めておくことが、売り手・買い手双方にとって大切です。
買い手の資産調整勘定は、法人税法62条の8に定めがあり、当初の計上額を60で除した額に事業年度の月数を乗じた額を損金に算入します。税務上ののれんを償却できる点は、株式譲渡にはない事業譲渡の買い手側のメリットとされています。のれんの中身はのれん(営業権)とは、会計上の償却はのれんの償却とはをご覧ください。
株式譲渡と事業譲渡で手元に残る金額がどのくらい変わるかは、株式譲渡と事業譲渡の手取り比較ツールで目安を並べて確認できます。株式を売る場合の税金は非上場株式の譲渡にかかる税金で解説しています。
事業譲渡のメリットとデメリット
ここまでの内容を、売り手と買い手それぞれの立場で整理します。
| 立場 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 売り手 | 売りたい事業だけを切り出せる/会社と残したい資産(不動産など)を手元に残せる/株主が分散していても会社の決議で進められる | 代金が会社に入り、個人に移す段階でも課税される/契約・従業員・許認可の移転の手間が大きい/競業避止義務を負う |
| 買い手 | 欲しい資産・事業だけを選べる/承継しない債務や簿外のリスクを引き継ぎにくい/税務上ののれん(資産調整勘定)を損金にできる場合がある | 許認可の取り直しが必要になりやすい/従業員や取引先が移らないおそれがある/消費税や不動産の移転コストがかかる |
買い手にとって大きいのは、引き継ぐものを契約で限定できる点です。株式譲渡では会社の未払残業代や係争、保証債務といった決算書に表れにくいリスクもそのまま引き継ぎますが、事業譲渡では承継する債務を特定できるため、こうしたリスクを遮断しやすくなります(ただし前述の商号続用や詐害事業譲渡の規定には注意が必要です)。
売り手にとって大きいのは、手間と手取りです。移す契約や従業員が多いほど同意を集める作業が増え、一人でも鍵となる人や取引先が離れると事業の価値が落ちます。そのため、売り手が株式譲渡を、買い手が事業譲渡を望むという構図はよく見られ、その差を価格でどう調整するかが交渉の焦点になります。
事業譲渡が向いているケース
中小企業のM&Aでは会社をまるごと引き継ぐ株式譲渡が多く使われますが、次のような事情があるときは事業譲渡が検討されやすくなります。
- 複数の事業のうち一部だけを売りたい:本業は続けながら、非中核の事業や地域の店舗だけを手放す場合。
- 会社に残したい資産や事業がある:オーナーが使う不動産や、売るつもりのない事業を会社に残したい場合。
- 買い手が会社の過去のリスクを強く警戒している:簿外債務や係争の可能性があり、株式譲渡では買い手が見つかりにくい場合。
- 株主が分散している、所在不明の株主がいる:全株式をまとめて売るのは難しいが、株主総会の特別決議は可決できる場合。
- 個人事業主が事業を売る:個人事業には株式がないため、事業譲渡で引き継ぐのが通常です。詳しくは個人事業の売却相場をご覧ください。
- 会社全体では買い手がつかないが、価値のある事業がある:赤字部門や負債を切り離し、価値のある事業だけなら引き受け手が見つかる場合。
逆に、許認可が事業の生命線で取り直しに時間がかかる業種、取引先や従業員の数が多く個別の同意を集めきれない場合、オーナーの手取りを重視したい場合は、株式譲渡や会社分割のほうが合うこともあります。どの方法が合うかは、中小M&Aガイドラインでも示されているとおり、手法ごとの特徴を踏まえて仲介者・FAや専門家と相談しながら決めていきます。
事業譲渡の価格はどう決まるか(要点)
事業譲渡で売買されるのは株式ではなく事業そのものなので、価格の基準は会社の株式価値ではなく、対象事業の価値(承継する資産・負債の時価と、のれん)になります。中小企業の実務では、承継する資産・負債の時価純資産に、事業が生み出す利益の数年分を営業権として加える年買法が目安として使われることが多く、将来のキャッシュフローから求めるDCF法や、類似会社の倍率から求める方法も併用されます。
事業譲渡で特に難しいのは、切り出す事業単体の損益を作ることです。本社の管理部門の費用をどう配分するか、切り出したあとに買い手側で新たに必要になる費用はいくらかによって、価格の前提となる利益が変わります。具体的な手順と計算例は事業譲渡の価格の決め方で解説しています。年買法の考え方は年買法とは、簡単な目安は年買法シミュレーターで確認できます。企業価値と株式価値の関係は企業価値・事業価値・株式価値の違いで整理しています。
よくある質問
Q. 事業譲渡と営業譲渡は違うものですか?
A. 取引の中身はほぼ同じです。会社法では「事業譲渡」、商法(個人の商人など)では「営業譲渡」という言葉が使われています。2006年施行の会社法で、会社については「事業」という用語に整理されました。
Q. 小さな部門を売るだけでも株主総会は必要ですか?
A. 譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額の5分の1(定款でより低い割合を定めた場合はその割合)を超えなければ、株主総会の決議は不要です(簡易事業譲渡)。また、5分の1を超えても「重要な一部」に当たらなければ決議は不要とされています。取締役会設置会社では、重要な財産の処分として取締役会の決議が必要になるのが通常です。判断に迷う場合は弁護士に確認してください。
Q. 事業譲渡で従業員を解雇してもよいですか?
A. 慎重に考える必要があります。厚生労働省の指針では、転籍を承諾しなかったことのみを理由とする解雇など、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない解雇は、労働契約法16条により権利の濫用として認められないことに留意すべきとされています。また、事業譲渡を理由とする解雇にも、整理解雇に関する判例法理が適用されるとされています。転籍に同意しない従業員は売り手に残るため、配置転換などを含めて扱いを検討します。個別の対応は社会保険労務士・弁護士等に相談してください。
Q. 事業譲渡の期間はどのくらいかかりますか?
A. 相手探しから最終契約までの期間は、一般的な株式譲渡と同程度(数か月〜1年程度が目安)です。事業譲渡ではこれに加えて、取引先・従業員の同意や許認可の取得、資産ごとの移転手続きが必要になるため、クロージングまで数か月長くなることがあります。許認可の取得期間は業種によって大きく異なります。
Q. 事業譲渡をしたあと、売り手の会社はどうなりますか?
A. 会社は存続します。一部譲渡なら残った事業を続け、全部譲渡なら譲渡代金と残った資産・負債を持つ会社になります。その後、会社を清算して残余財産を株主に分配する、別の事業を始める、資産管理会社として残すなどの選択肢があり、それぞれ税金のかかり方が異なるため、税理士と相談して決めます。
Q. 事業譲渡の代金は分割で受け取れますか?
A. 当事者の合意があれば、一部を後払いにしたり、業績に応じて追加の対価を支払う条件を付けたりすることも可能です。ただし、支払いが滞るリスクや税務上の扱いを考える必要があるため、契約内容は弁護士・税理士等に確認してください。
まとめ
事業譲渡とは、会社が営む事業を、資産・負債・契約・従業員などが有機的に結びついたまとまりとして、契約で個別に移す取引です。全部譲渡と重要な一部の譲渡には原則として株主総会の特別決議が必要で(会社法467条・309条2項11号)、総資産の5分の1以下の一部譲渡(簡易事業譲渡)や特別支配会社との取引(略式)には例外があります。債務・契約・雇用は相手方の同意がなければ移らず、許認可も原則として引き継げません。売り手は譲渡後、法律上の競業避止義務を負います(21条)。
承継する範囲を選べることが最大の特徴で、一部の事業だけを売りたい場合や、買い手が会社の過去のリスクを避けたい場合に向いています。一方で、手続きの手間が大きく、代金が会社に入るため売り手の手取りは株式譲渡より少なくなりやすいという面があります。方法を選ぶ前に、対象事業の価値の目安と、方法ごとの手取りの違いを把握しておくと、交渉の土台を持てます。法務・税務・労務の判断は、弁護士・税理士・社会保険労務士等の専門家に確認しながら進めてください。
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