調剤薬局の売却相場|処方箋枚数・門前依存で変わるM&A価格と注意点
最終更新: 2026-10-26
調剤薬局のM&Aは、オーナー薬剤師の高齢化と後継者不在、薬剤師の採用難、調剤報酬・薬価の改定への対応負担を背景に、1店舗から数店舗規模の案件でも検討されることが増えている分野です。「うちの薬局はいくらで売れるのか」「門前のクリニックの先生が高齢だが、売却に影響するのか」「店舗だけを譲ることはできるのか」と考えているオーナーや後継者の方も多いのではないでしょうか。
調剤薬局は、収入の大部分が公的な調剤報酬と薬剤料であるため収益の予見性が高い一方で、処方箋の出どころ(応需先の医療機関)への依存、薬剤師の確保、調剤報酬上の区分や加算、そして薬局開設許可と保険薬局の指定という制度側の要素が価格と取引の成否を大きく左右します。本稿では、価値の源泉、評価の考え方と計算例、価格が上がる・下がる要因、株式譲渡と事業譲渡での許認可の違い、デューデリジェンス(DD)で見られる点、売却の流れまでを整理します。金額・倍率はいずれも一般的な目安で、個別の薬局の価格を示すものではありません。制度の記述は、医薬品医療機器等法(薬機法)、健康保険法とその省令、厚生労働省の告示・通知を確認した範囲で記載しています。
結論:調剤薬局の価格は「処方箋が今後も来るか」で決まる
調剤薬局の売却価格は、おおむね次の3つの要素の組み合わせで決まります。
- 実質的な収益力:オーナー薬剤師の役員報酬や私的な経費、一過性の収益を調整した営業利益・EBITDA。処方箋の受付回数と処方箋1枚あたりの技術料・薬学管理料が利益の土台になります。
- 純資産と資産の中身:医薬品の在庫、調剤報酬の未収金(売掛金)、敷金・保証金、調剤機器、有利子負債、退職金の積立状況など。
- 制度と関係性に紐づく無形の価値:薬局開設許可と保険薬局の指定、応需先医療機関との関係、地域の患者基盤、在宅対応の実績、地域連携に関する体制、薬剤師の定着。これらが「のれん(営業権)」として価格に上乗せされます。
買い手が最も気にするのは、譲渡後も今と同じだけ処方箋が来るかです。門前の医療機関1つに処方箋の大半を依存している薬局では、その医療機関の院長の年齢や承継の見通し、移転・閉院の可能性がそのまま価格の上下を決めます。会社売却全般の相場観は会社売却の相場はいくらか、業種ごとの着眼点は業種別の企業価値評価のポイント、医療機関側の評価の考え方は医療法人のバリュエーションで整理しています。
調剤薬局の価値の源泉
処方箋の受付回数と応需先の構成
売上の大部分は「処方箋の受付回数 × 処方箋1枚あたりの単価」で説明できます。単価には薬剤料(薬価に基づく部分)と、調剤基本料・薬剤調製料・薬学管理料などの技術料が含まれます。薬剤料は売上の大きな部分を占めますが、仕入原価も薬価に連動するため利益への寄与は限られ、薬局の利益の源泉は主に技術料と薬学管理料です。そのため買い手は、売上高よりも受付回数の推移と技術料の水準を重視します。
応需先の構成も重要です。特定の医療機関からの処方箋の割合(処方箋集中率)が高い、いわゆる門前型の薬局は、その医療機関が順調である限り収益が安定する反面、依存先に何かあれば一気に受付回数が落ちるリスクを抱えます。複数の医療機関から処方箋を受けている面分業型の薬局は、1件あたりの依存度が低く、リスクが分散していると評価されやすい傾向があります。
調剤基本料の区分と加算
調剤報酬では、処方箋の受付1回ごとに算定する調剤基本料が、薬局の処方箋受付回数や処方箋集中率、所属するグループ全体の受付回数、特定の医療機関との不動産取引等の関係などに応じて区分されています。厚生労働省の令和8年度の調剤報酬点数表(令和8年6月施行)では、調剤基本料1が47点、調剤基本料2が30点、調剤基本料3がイ25点・ロ20点・ハ37点、特別調剤基本料Aが5点とされています。どの区分に該当するかで処方箋1枚あたりの技術料が変わるため、同じ受付回数でも利益水準が異なります。
また、令和8年度改定では、従来の地域支援体制加算が「地域支援・医薬品供給対応体制加算」(加算1〜5)に再編され、病院の近隣など特定の立地への依存度が高い薬局を対象とする「門前薬局等立地依存減算」(所定点数から15点を減算)が設けられました。加算・減算の対象となる要件は、告示と通知で細かく定められています。評価では「どの加算をどれだけ算定しているか」に加えて、「その要件を譲渡後も維持できるか」が問われます。点数と要件は改定のたびに見直されるため、最新の告示・通知と所管の地方厚生局の案内で確認してください。
薬剤師の確保と在宅対応
薬局の運営には薬剤師が欠かせず、管理薬剤師の確保は営業継続の前提です。処方箋の受付回数に見合う薬剤師が在籍しているか、オーナー自身が調剤の主力になっていないか、パート薬剤師の比率や年齢構成はどうかによって、譲渡後の運営リスクが大きく変わります。在宅患者への訪問薬剤管理指導の実績や、かかりつけ機能に関する体制は、加算の取得にも関わるうえ、門前依存を和らげる収益源として評価されることがあります。
在庫と運転資金
医薬品の在庫は、薬局のバランスシートで大きな比重を占めます。調剤報酬は審査支払機関を通じて請求し、入金はおおむね翌々月になるのが一般的なため、未収金と在庫を合わせた運転資金も大きくなりがちです。評価では、在庫が実際に使える状態か(期限切れ・不動在庫がないか)、薬価改定でどれだけ目減りするかが調整の対象になります。運転資金の考え方は運転資本の無料計算ツールで確認できます。
評価の考え方:年買法・EV/EBITDA倍率・時価純資産
| 手法 | 計算の考え方 | 調剤薬局での目安(一般論) |
|---|---|---|
| 年買法(時価純資産+営業権) | 時価純資産+実質営業利益×年数 | 小規模の薬局で最もよく使われる。営業利益の2〜4年分程度を営業権として加算するレンジで議論されることが多い |
| EV/EBITDA倍率法 | 実質EBITDA×倍率=事業価値(EV)。現預金と有利子負債を調整して株式価値へ | 一般に3〜6倍程度が目安とされることが多い。依存度や人員体制で上下する |
| 時価純資産法 | 資産・負債を時価に引き直した純資産 | 価格の下限の目安。在庫・未収金・敷金の実在性と評価額が論点になる |
| 事業譲渡(店舗単位) | 対象店舗の実質営業利益×年数に、在庫・設備などの引継ぎ資産を加える | 在庫は棚卸のうえ別途精算されることが多い。のれん部分の年数で議論される |
年買法の考え方は年買法とは、倍率法は類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)、資産の評価は時価純資産法とは、上乗せ部分の位置づけはのれん(営業権)で解説しています。調剤薬局では、改定や応需先の変化の影響を受けやすいため、同じ利益水準でも営業権の年数や倍率が慎重に見られる場面があります。
計算例:1店舗・門前型の調剤薬局(架空の数値)
説明のため、次のような架空の会社を想定します。門前のクリニック1か所から処方箋の大半を受ける1店舗の薬局で、売上高2億4,000万円。決算書上の営業利益は1,000万円、減価償却費は300万円。オーナー薬剤師の役員報酬が、同じ役割を担う管理薬剤師を雇った場合の水準より800万円多いため、これを調整すると実質営業利益は1,800万円、実質EBITDAは2,100万円になるとします。時価純資産は5,000万円(現預金2,500万円、有利子負債3,000万円を含む)とします。
| 手法 | 計算 | 株式価値の目安 |
|---|---|---|
| 年買法(2〜4年分) | 時価純資産5,000万円+実質営業利益1,800万円×2〜4年 | 約8,600万〜1億2,200万円 |
| EV/EBITDA倍率法(4〜6倍) | EBITDA2,100万円×4〜6倍=EV8,400万〜1億2,600万円、+現預金2,500万円−有利子負債3,000万円 | 約7,900万〜1億2,100万円 |
| 調整後(門前リスクと資産の精査を反映) | 門前医院の承継が未定のため倍率を4〜5倍とレンジの下側で見たうえ、不動在庫・期限切れ間近の在庫300万円と退職金の積立不足400万円を控除 | 約7,200万〜9,300万円 |
役員報酬などをどこまで調整できるかは正常収益力とはの考え方が土台になります。EBITDAの意味はEBITDAとは、事業価値と株式価値の関係は企業価値と株式価値の違いをご覧ください。自社の数字で試すなら年買法の無料計算ツールやEV/EBITDA倍率の無料計算ツールが使えます。
価格が上がる要因・下がる要因
| 項目 | 価格が上がりやすい状態 | 価格が下がりやすい状態 |
|---|---|---|
| 応需先医療機関 | 複数の医療機関から応需している。門前医院に後継者がいる、または開業から日が浅く長期の継続が見込める | 1つの医療機関に大きく依存し、院長が高齢で承継が未定。移転・建替え・閉院の話がある |
| 処方箋受付回数の推移 | 安定または増加傾向で、季節変動の説明がつく | 減少傾向が続いている。応需先の患者数の減少が見える |
| 薬剤師の体制 | 管理薬剤師と常勤薬剤師が定着しており、譲渡後も継続勤務の意向がある | オーナーが調剤の主力で、譲渡後に抜けると回らない。退職予定者がいる |
| 調剤報酬上の体制 | 加算の要件を記録で裏付けられ、在宅対応や地域連携の実績がある | 要件の充足があいまい。減算の対象になる、またはなりうる |
| 在庫・設備 | 在庫管理が仕組み化され、不動在庫が少ない。調剤機器が更新済み | 不動在庫や期限切れが多い。機器やシステムの更新が近い |
| 物件 | 賃貸借契約の残存期間が長く、譲渡・支配権変更の条項に支障がない | 契約の更新が不確実。医療機関側の物件を転借しているなど関係が複雑 |
門前医院の承継リスク
門前型の薬局で最大の論点になるのが、応需先の医療機関の将来です。院長が高齢で後継者が決まっていない場合、買い手は「数年以内に処方箋が大きく減る可能性」を織り込み、営業権の年数を短く見たり、価格の一部を一定期間の受付回数の実績に連動させる条件(アーンアウト)を提案したりすることがあります。逆に、医療機関側の承継が決まっている、あるいは医療機関側も前向きに関係を続ける意向であることを示せれば、評価の下振れを抑えやすくなります。ただし、医療機関との間で処方箋の応需を約束するような取決めや、経済的な利益の提供を伴う関係は、保険薬局としての独立性の観点から問題になりうるため、関係の説明の仕方には注意が必要です。
薬剤師の退職
M&Aの公表をきっかけに薬剤師が退職すると、処方箋の受付に対応できなくなるだけでなく、加算の人員要件を満たせなくなることもあります。買い手は、主要な薬剤師が譲渡後も残るかを重視し、管理薬剤師の継続勤務を契約の前提条件にすることもあります。従業員への開示の進め方は従業員への開示のタイミングで整理しています。
調剤報酬・薬価の改定
調剤報酬は原則として2年ごとの診療報酬改定で見直され、近年は改定のない年度にも薬価の改定が行われています。報酬の区分や加算の要件が変われば、同じ受付回数でも利益が変わります。また、薬価が引き下げられると在庫の価値が目減りし、薬価差による利益も縮みます。買い手は「直近の改定後の点数で計算し直した利益」を見たがるため、改定の影響を試算して示せると、過度に保守的な前提を置かれるのを避けやすくなります。
買い手のグループ規模による区分の変化
見落としやすいのが、買い手側の事情で調剤基本料の区分が変わる可能性です。厚生労働省の通知では、調剤基本料3などの判定に「同一グループ」(最終親会社等とその子会社等・関連会社等、フランチャイズ契約先を含む)の処方箋受付回数の合計が用いられ、月3万5千回や40万回を超えるかどうかといった基準が設けられています。判定は毎年4月末日時点のグループで行われます。大きなグループの傘下に入ると、譲渡後の点数が現在より下がる場合があるため、買い手は自社グループに入った後の点数で収益を計算し直します。売り手としても、提示された価格がどの前提に立っているかを確認しておくとよいでしょう。
株式譲渡と事業譲渡で許認可の扱いが違う
調剤薬局のM&Aで最も注意が必要なのが、薬局開設許可と保険薬局の指定の扱いです。ここを誤ると、譲渡日から保険調剤ができない(調剤報酬を請求できない)期間が生じかねません。
前提となる制度
- 薬局開設許可(医薬品医療機器等法):薬局は、所在地の都道府県知事(保健所設置市・特別区では市長・区長)の許可を受けなければ開設できません(第4条第1項)。許可は6年ごとに更新を受ける必要があります(同条第4項)。許可は開設者(個人または法人)に対して与えられます。
- 薬局の変更届:薬局開設者は、管理者のほか厚生労働省令で定める事項を変更したとき、30日以内に届け出る必要があります(第10条第1項)。省令では、開設者が法人の場合の「薬事に関する業務に責任を有する役員」の氏名などが届出事項とされています(施行規則第16条)。
- 保険薬局の指定(健康保険法):保険調剤を行うには、開設者の申請により地方厚生局長等の指定を受ける必要があり(第65条第1項)、指定は6年で効力を失うため更新が必要です(第68条)。新規の指定日は、原則として申請した翌月1日とされています。
- 保険薬局の変更届:管理薬剤師や保険薬剤師の異動、指定申請書の記載事項の変更があったときは、速やかに地方厚生局長等へ届け出ることとされています(保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令第8条)。
| スキーム | 開設許可・保険薬局指定の扱い | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 開設者である法人は変わらないため、開設許可と保険薬局の指定はそのまま継続するのが原則 | 役員(薬事に関する業務に責任を有する役員)や管理薬剤師が変わる場合は、薬機法上の変更届(30日以内)と地方厚生局への変更届が必要。新しい役員が欠格事由に該当しないかも確認する |
| 事業譲渡 | 開設者が変わるため、譲受側が新たに薬局開設許可を取得し、保険薬局の指定も受け直すのが原則。旧開設者は廃止の届出を行う | 許可申請・指定申請の締切と効力発生日を逆算したスケジュール設計が必須。空白期間を避けるには遡及指定の要件確認と事前相談が重要 |
| 個人開設の薬局の譲渡・法人化 | 開設者が個人から別の個人・法人へ変わるため、事業譲渡と同様に許可・指定を取り直す | 個人の薬局の売却は事業譲渡の形になる。遡及指定の対象になりうるか事前に確認する |
事業譲渡で空白期間を避ける:遡及指定
新規の保険薬局の指定日は原則として申請の翌月1日ですが、開設者の変更などで、旧薬局の廃止日の原則同日または翌日に遡って指定を受ける「遡及指定」が例外的に認められる場合があります。この取扱いは、厚生労働省保険局医療課長通知「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年6月5日付保医発0605第2号)で見直され、原則として令和8年9月1日から適用されています。
同通知では、薬局の所在地を移さず開設者のみを変更する場合について、手続の類型と「基本的には認める要件」が示されています。主なものは、1つの薬局の廃止と1つの薬局の開設であること、調剤録等の引継ぎと過去の患者の問い合わせへの対応、旧薬局の患者への調剤が引き続き行われること、管理薬剤師が同一であること、職員の引継ぎ(所在地を移さず開設者のみ変更する場合は、原則として開設者を除く全ての職員が引き続き雇用されること)などです。これに当てはまらない事例は、原則として遡及を希望する日の3か月前までに予定届出書を出して事前相談を行う手続とされています。
また、厚生労働省の施設基準に関する通知では、開設者の変更などで開設許可を取り直し、遡及指定が認められた場合には、調剤基本料の状況や処方箋受付回数の実績を引き継ぐ取扱いが示されています。逆に言えば、遡及指定にならず「新規の指定」となった場合は、施設基準や加算の届出・実績の扱いが変わりうるということです。管理薬剤師や職員の引継ぎは、空白期間の回避と報酬上の扱いの両方に関わるため、譲渡の条件として早めに固めておくことが重要です。
スキームによる税金と手取りの違いは事業譲渡と株式譲渡の違い、それぞれの手続は事業譲渡とはと株式譲渡とは、個人開設の薬局の場合は個人事業の売却相場もご覧ください。手取り額の目安は手取り額の無料計算ツールで確認できます。税務の判断は税理士にご確認ください。
デューデリジェンス(DD)で見られる点
調剤薬局のDDでは、財務と同じくらい、調剤報酬の算定と運営の適正さが確認されます。見つかった論点は、価格からの控除、表明保証と補償条項、またはクロージングの前提条件という形で扱われます。調査全体の流れはデューデリジェンスとはで解説しています。
| 論点 | 確認される内容 | 価格・条件への影響(一般的な扱い) |
|---|---|---|
| 処方箋と応需先 | 月次の受付回数、応需先別の内訳と処方箋集中率の推移、応需先医療機関の状況 | 依存度と継続性に応じて営業権の年数・倍率を調整。アーンアウトの検討材料になる |
| 調剤報酬の算定 | 調剤基本料の区分、届出済みの施設基準、加算の算定要件の充足と根拠記録、個別指導等の指摘と改善状況 | 要件不備があれば返還見込み額の控除や補償条項の対象。是正を条件とされることもある |
| 許認可・届出 | 薬局開設許可・保険薬局指定の有効期間、変更届の提出漏れ、麻薬小売業者免許など関連許認可 | 届出漏れは是正を前提条件にされやすい。更新期限が近い場合はスケジュールに織り込む |
| 在庫 | 実地棚卸、期限切れ・不動在庫、薬価改定後の評価額、卸との取引条件 | 使えない在庫は控除。事業譲渡では譲渡日の棚卸で別途精算することが多い |
| 人員・労務 | 薬剤師の人数と勤務時間、管理薬剤師の継続意向、未払残業代、有給休暇、退職金の積立 | 未払残業代や積立不足は控除または補償。主要人員の継続は前提条件になりやすい |
| 物件・医療機関との関係 | 賃貸借契約の期間・譲渡や支配権変更の条項、医療機関との不動産取引等の関係の有無 | 契約の承諾が得られないと成立しない。関係の内容は調剤基本料の区分にも影響しうる |
| システム・個人情報 | レセプトコンピューター・電子薬歴の契約と引継ぎ、患者情報の管理 | 事業譲渡では契約の巻き直しが必要。個人情報の引継ぎ方法は専門家に確認する |
売り手側で先に課題を洗い出しておく方法はセルサイドDDと売却前の磨き上げ、DDの結果を受けた価格の調整はM&Aの価格調整、契約で手当てする表明保証などは株式譲渡契約の要点で解説しています。調剤報酬の算定や返還の判断は、所管の地方厚生局の案内や専門家への確認を前提にしてください。
買い手のタイプ別に見る評価の違い
| 買い手のタイプ | 主な狙い | 評価で重視する点 |
|---|---|---|
| 同じ地域の薬局(中小規模) | 近隣での店舗網の拡大、薬剤師の融通、仕入の集約 | 既存店との距離、薬剤師の継続、応需先の継続性。地域の事情を理解しているため判断が早いことがある |
| 広域で展開する薬局グループ | エリアの拡大、規模による仕入・管理の効率化 | グループに入った後の調剤基本料の区分で計算し直した利益、管理体制、DDの結果。条件の提示が体系的になりやすい |
| 異業種(ドラッグストア・医療周辺事業など) | 既存事業との相乗効果、調剤機能の獲得 | 現場を任せられる管理薬剤師の存在、運営基準を守れる体制 |
| 個人の薬剤師(独立志向) | 開業リスクを抑えた独立 | 資金調達の可否、オーナーからの引継ぎ期間。価格は資金力の範囲に収まりやすい |
どのタイプの買い手が最も高く評価するかは、薬局の立地と応需先の構成、規模によって変わります。複数の候補に打診して比較できる状況をつくることが、条件の改善につながります。相乗効果の考え方はM&Aのシナジーとは、相手の探し方はM&Aの買い手の探し方で解説しています。
売却の流れ
| 段階 | 主な作業 | 調剤薬局ならではの注意点 |
|---|---|---|
| 1. 準備 | 決算書3〜5期分、月次の受付回数、応需先別の内訳、加算の算定状況、人員表、在庫データ、賃貸借契約を整理 | 改定後の点数で計算し直した利益を用意。許可・指定の有効期間と変更届の状況を確認 |
| 2. 価格の目安の把握 | 年買法・EV/EBITDA倍率でレンジを出し、控除項目を洗い出す | 門前依存度と応需先の将来の見通しを前提として明示する |
| 3. 相手探し | 仲介・FAへの相談、ノンネームでの打診、秘密保持契約の締結 | 薬剤師や応需先に情報が伝わらないよう、開示の範囲と順序に注意 |
| 4. 面談・意向表明・基本合意 | 条件のすり合わせ、スキームの決定、独占交渉 | スキームに応じた許認可の段取りと、所管行政への事前相談の担当を決める |
| 5. DD | 財務・調剤報酬・労務・法務の調査 | 加算要件の根拠記録と実地棚卸がとくに見られる |
| 6. 最終契約・クロージング | 株式譲渡契約または事業譲渡契約、代金の支払い | 事業譲渡では許可・指定の効力発生日と引渡し日をそろえる。在庫は譲渡日の棚卸で精算 |
| 7. 引継ぎ | 患者・応需先医療機関への説明、各種届出、システムの切替え | オーナーが一定期間勤務して引き継ぐ条件が付くことも多い |
全体の進め方は会社売却の流れ、動き出す時期は会社を売却するタイミング、仲介の費用感はM&A仲介手数料の相場、後継者が見つからない場合の選択肢は後継者不在の場合の選択肢で整理しています。価値を高める具体策は会社を高く売るにはもあわせてご覧ください。
価格を上げるための準備チェックリスト
- 実質利益の整理:オーナー薬剤師の役員報酬、私的な経費、一過性の収益を切り分け、管理薬剤師を雇った場合の人件費に置き換えて説明できるようにする。
- 受付回数と応需先の可視化:月次の受付回数と応需先別の内訳、処方箋集中率の推移を表にする。面分業の比率を高める取り組みがあれば数字で示す。
- 改定影響の試算:直近の調剤報酬改定後の点数で、技術料と利益を計算し直しておく。
- 加算の根拠整備:算定している加算と施設基準の一覧、要件を満たす記録・研修・実績をそろえる。
- 人員体制の安定:管理薬剤師の継続意向を確認し、オーナー以外でも調剤が回る体制をつくる。
- 在庫の整理:不動在庫・期限切れ間近の在庫を減らし、在庫管理の手順を明文化する。
- 許認可・届出の点検:開設許可と保険薬局指定の有効期間、過去の変更届の提出状況、関連許認可の一覧を確認する。
- 物件と医療機関との関係の整理:賃貸借契約の期間・譲渡に関する条項、医療機関との取引関係を説明できるようにしておく。
よくある質問(FAQ)
Q. 1店舗だけの小さな薬局でも売却できますか?
A. 1店舗の薬局が譲渡されることはあります。近隣の薬局や独立を目指す薬剤師などが候補になりえます。ただし価格は、応需先の継続性と薬剤師の体制に強く左右されます。個人で開設している薬局は事業譲渡の形になり、譲受側が開設許可と保険薬局の指定を受け直す必要があるため、早めに所管の行政に相談してください。
Q. 門前のクリニックが閉院予定でも買い手はつきますか?
A. 閉院や移転が見込まれる場合、処方箋の大半を失う前提で評価されるため、営業権はほとんど付かず、純資産(在庫・設備など)を中心とした価格になりやすいと考えられます。後継の医師が決まっている、別の医療機関からの処方箋が増えているといった事情があれば、それを具体的に示すことで評価が変わる余地があります。赤字の場合の考え方は赤字会社の売却相場も参考にしてください。
Q. 在庫はどのように価格に反映されますか?
A. 株式譲渡では会社の資産として純資産に含まれ、実在性と使用可能性を確認したうえで評価されます。事業譲渡では、譲渡日に棚卸を行い、使用できる在庫を一定の基準で別途精算する方法がよく取られます。期限切れや動かない在庫は控除の対象になりやすいため、売却前に整理しておくと交渉がスムーズです。
Q. 株式譲渡なら行政の手続は何も要りませんか?
A. 開設許可と保険薬局の指定は原則として継続しますが、役員(薬事に関する業務に責任を有する役員)や管理薬剤師が変わる場合は、都道府県等への変更届(30日以内)と地方厚生局への変更届が必要です。新しい役員が欠格事由に当たらないことも確認されます。手続の詳細は所管の行政にご確認ください。
Q. 自社の売却価格の目安はどう調べればよいですか?
A. 直近数期の決算書から実質営業利益とEBITDAを整理し、年買法とEV/EBITDA倍率法でレンジを出します。そのうえで、在庫の評価や退職金の積立不足など差し引かれる可能性のある項目と、応需先の見通しを確認すると、現実的な水準に近づきます。手順は会社売却シミュレーションのやり方で解説しています。
まとめ
調剤薬局の売却相場は、実質的な収益力と純資産をもとに、年買法(時価純資産+営業権)やEV/EBITDA倍率法で目安を出すのが基本です。そのうえで価格を左右するのは、応需先医療機関への依存度とその将来、処方箋受付回数の推移、調剤基本料の区分と加算を要件どおりに維持できるか、薬剤師が譲渡後も残るか、在庫の中身といった点です。買い手のグループ規模によって譲渡後の調剤基本料の区分が変わりうることも、価格の前提として押さえておきましょう。
許認可では、株式譲渡なら開設許可と保険薬局の指定は原則継続し、役員等の変更届で足りる一方、事業譲渡や個人薬局の譲渡では許可・指定を取り直す必要があり、空白期間を避けるには遡及指定の要件確認と事前相談が欠かせません。受付回数・応需先・加算根拠・人員体制の資料を整え、改定後の点数で利益を示せるようにしておくことが、評価レンジの上側と円滑な成約につながります。税務・法務・許認可の判断は、税理士・弁護士・行政書士などの専門家と所管の行政に確認しながら進めてください。
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