非上場株式を個人間で売買する価格|税務上の時価と決め方の注意点

最終更新: 2026-10-26

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後継者の長男に自社株を少しずつ譲りたい、退任する役員から株式を買い戻したい、古参の従業員に株を持ってもらいたい。非上場株式(自社株)を親族・役員・従業員の間で売買する場面は、事業承継の実務ではよくあります。そのとき必ず問題になるのが「いくらで売買すればよいのか」です。

上場株式と違って市場価格がないため、売買価格は当事者が決めることになります。ただし、税務上は「時価」と比べて安すぎたり高すぎたりすると、差額に贈与税や所得税・法人税がかかることがあります。しかも、その「時価」は売り手・買い手が個人か法人か、買い手が同族株主かどうかによって考え方が変わります。

本稿では、個人間の売買を中心に、低額譲渡のみなし贈与(相続税法7条)、財産評価基本通達の原則的評価方式と配当還元方式の使い分け、個人から法人へ売る場合の所得税基本通達59-6、法人が関わる場合の法人税法上の時価、売買価格を決める実務の手順、譲渡制限株式の承認手続きと株主名簿までを、国税庁の通達・タックスアンサーと法令の条文で確認できた範囲で整理します。個別の取引の判断は、必ず税理士等の専門家に確認してください。

結論:個人間の売買は「買い手から見た相続税評価額」が目安

先に要点をまとめます。

  • 個人から個人へ著しく低い価額で売ると、時価との差額は買い手が贈与で取得したものとみなされます(相続税法7条)。国税庁のタックスアンサー(No.4423)は、この場合の時価を、土地・建物など以外の財産では相続税評価額としています。
  • 非上場株式の相続税評価額は、取得者が同族株主かどうかで評価方式が変わります。同族株主等が取得するなら原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式など)、それ以外の株主なら配当還元方式によるのが基本です。個人間売買では、贈与税を負担する可能性があるのは買い手なので、買い手の立場で判定します。
  • 「著しく低い」かどうかは個々の事案で判定され、法人に売る場合の「時価の2分の1未満」という基準とは異なるとされています(No.4423)。
  • 買い手が法人なら別の物差しになります。個人が法人へ時価の2分の1未満で売ると、売り手は時価で譲渡したものとみなされ(所得税法59条)、その時価は所得税基本通達59-6により売り手の譲渡直前の議決権で判定し、一定の修正を加えて計算します。
  • 売り手個人の譲渡益には、申告分離課税で20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)がかかります。

つまり「この会社の株価はいくら」という1つの数字があるのではなく、誰が誰に売るかで、税務上比べるべき時価が変わるというのが出発点です。以下、順番に見ていきます。株式譲渡の税金そのものの計算は株式譲渡の税金で詳しく解説しています。

なぜ「自由な価格」で売買できないのか

第三者どうしの取引であれば、売り手はできるだけ高く、買い手はできるだけ安くしたいので、交渉で決まった価格はその時点の「時価」と考えられます。M&Aで会社を売る場合がこれに当たります(第三者への売却価格の考え方は会社はいくらで売れる?を参照)。

一方、親子や兄弟、オーナーと役員のように利害が一致しやすい関係では、価格を意図的に低く(または高く)して、実質的に財産を移すことができてしまいます。たとえば、評価額の高い株式を後継者に極端な低価格で売れば、贈与税を払わずに財産を渡したのと同じ効果になります。そこで税法は、時価との差額を贈与や給与などとして課税する仕組みを用意しています。

会社法上は、当事者が合意すればどんな価格でも売買契約は成立します。問題になるのは税務上の扱いです。だからこそ、親族・役員・従業員との売買では、「税務上の時価」を先に把握したうえで価格を決めることが重要になります。

個人→個人の売買:低額譲渡は相続税法7条のみなし贈与

差額は買い手への贈与とみなされる

相続税法7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、対価と時価との差額に相当する金額を、譲り受けた人が譲り渡した人から贈与により取得したものとみなすと定めています。国税庁のタックスアンサー(No.4423)も、個人から著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合には、時価と支払った対価との差額が贈与により取得したものとみなされると説明しています。

たとえば、相続税評価額で1株1万円の株式を、父から子へ1株2,000円で売った場合、1株あたり8,000円の差額が子への贈与とみなされ、他の贈与とあわせて贈与税の対象になる可能性があります。売買の形を取っていても、税務上は「一部を贈与した」のと近い扱いになるわけです。

「著しく低い」に一律の基準はない

No.4423では、著しく低い価額の対価であるかどうかは個々の具体的事案に基づき判定するとされ、法人への譲渡でみなし譲渡の基準となる「時価の2分の1に満たない金額」とは異なるものと明記されています。「時価の半分以上なら大丈夫」とは言えない点に注意が必要です。

実務では、相続税評価額を基準に価格を決め、それを下回る価格にする場合は理由を説明できるようにしておく、という考え方が一般的です。どの程度の乖離なら問題ないかは、取引の経緯や当事者の関係にもよるため、税理士と事前に相談してください。

この場合の「時価」は相続税評価額

No.4423によると、ここでいう時価は、土地や借地権、家屋や構築物などは通常の取引価額に相当する金額、それ以外の財産は相続税評価額です。非上場株式は「それ以外の財産」に当たるため、財産評価基本通達178〜189-7(取引相場のない株式の評価)で計算した価額が目安になります。評価方法の全体像は取引相場のない株式の評価方法で解説しています。

売り手の側:譲渡損が出ても切り捨てになることがある

個人間の売買では、売り手に時価で売ったとみなす規定(みなし譲渡)は適用されず、売り手は実際に受け取った対価をもとに譲渡所得を計算します。ただし所得税法59条2項により、個人に対して時価の2分の1未満の対価で譲渡し、その対価が取得費と譲渡費用の合計額に満たない場合、その不足額(譲渡損)はなかったものとみなされます。安く売って生じた損失を他の株式の譲渡益と相殺する、ということはできません。

買い手が同族株主かどうかで評価方式が変わる

個人間売買の時価の目安となる相続税評価額は、株式を取得した人が誰かで評価方式が大きく変わります。判定の中心になるのは財産評価基本通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)です。

買い手の立場(取得後)評価方式売買の典型例
同族株主等(経営支配グループの一員)原則的評価方式(会社規模に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式)オーナーから後継者の子・配偶者への譲渡、兄弟間の持分の集約
同族株主以外の株主等(少数株主)配当還元方式(原則的評価方式の価額が低ければその価額)オーナーから親族外の役員・従業員への少数株式の譲渡

配当還元方式は、財産評価基本通達188-2により「その株式に係る年配当金額÷10%×その株式の1株当たりの資本金等の額÷50円」で計算します。年配当金額が2円50銭未満の場合や無配の場合は2円50銭として計算し、原則的評価方式による価額を超える場合は原則的評価方式による価額によります。配当還元方式による価額は、原則的評価方式による価額より大幅に低くなるのが通常です。

同じ会社の同じ株式でも、後継者の子に売るときと、親族でない従業員に少数株式を売るときとでは、目安となる時価がまったく違うということです。同族株主の判定(30%・50%超の基準や、議決権5%未満の場合の判定順序)は同族株主の判定と配当還元方式で詳しく解説しています。議決権の数を入れて判定できる同族株主の判定・配当還元価額 計算ツールも使えます。

判定は取得後の議決権で行うのが基本です。たとえば従業員への譲渡でも、その従業員が役員であったり、親族関係があったり、取得後の議決権割合が一定以上になったりすると、原則的評価方式になることがあります。また、配当還元方式で評価できる相手に安く売り、その後に同族株主へ集約するような取引は、全体として評価が見直される可能性もあります。判定は必ず税理士に確認してください。

原則的評価方式の中身

原則的評価方式では、会社を従業員数・総資産価額・取引金額で大会社・中会社・小会社に区分し(財産評価基本通達178)、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式(納税義務者の選択でLを0.50とする併用方式も可)、中会社は両者の併用方式で評価します(同179)。会社規模の区分は会社規模区分の判定ツール、各方式の計算は類似業種比準価額 計算ツールと純資産価額方式 計算ツールで試算できます。方式ごとの考え方は類似業種比準方式とは、純資産価額方式とはをご覧ください。

株式保有特定会社や土地保有特定会社など「特定の評価会社」に当たると、原則として純資産価額方式などによる別の評価になります。該当の有無は特定の評価会社の判定ツールで確認できます。

個人→個人で高すぎる価格で売買した場合

反対に、時価より明らかに高い価格で売買すると、今度は売り手の側が利益を受けたことになります。相続税法9条は、対価を支払わないで、または著しく低い価額の対価で利益を受けた場合に、その利益を受けさせた人から贈与で取得したものとみなすと定めており、時価を大きく超える部分が買い手から売り手への贈与として扱われる可能性があります。

たとえば、後継者が先代から株式を相続税評価額を大きく上回る価格で買い取ると、先代の側に贈与の問題が生じうるうえ、先代が受け取った多額の代金は先代の財産として残り、将来の相続税の対象にもなります。「高く買ってあげれば問題ない」とは限らないため、価格の根拠を残しておくことが大切です。

個人→法人に売る場合:所得税基本通達59-6

時価の2分の1未満なら、売り手は時価で売ったとみなされる

オーナーが資産管理会社や後継者が経営する会社に株式を売る場合は、個人間とは別のルールになります。所得税法59条1項2号と所得税法施行令169条により、個人が法人に対し時価の2分の1に満たない金額で譲渡所得の基因となる資産を譲渡すると、その時の価額(時価)で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算します。法人に無償で贈与した場合も同様です(同項1号)。

さらに所得税基本通達59-3は、時価の2分の1以上の対価による法人への譲渡であっても、その譲渡が同族会社等の行為計算の否認(所得税法157条)に該当する場合には、時価で所得を計算することがあるとしています。2分の1以上なら必ず安全というわけではありません。

59-6が定める「その時における価額」

所得税基本通達59-6は、株式について所得税法59条1項の「その時における価額」を、23〜35共-9に準じて算定した価額によるとしています。売買実例がなく、類似する法人の株価もない非上場株式では、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」になり、原則として次の条件のもとで財産評価基本通達178〜189-7の例により算定した価額とします。

59-6の条件内容相続税評価との違い
(1) 判定は譲渡直前の売り手の議決権「取得した株式」は「譲渡又は贈与した株式」、「株式の取得者」は「株式を譲渡又は贈与した個人」と読み替え、同族株主等かどうかは譲渡または贈与の直前の議決権の数で判定相続税評価は取得者(買い手)の取得後で判定
(2) 中心的な同族株主なら小会社扱い売り手が譲渡直前に中心的な同族株主に該当するときは、発行会社を常に小会社として評価会社規模区分による類似業種比準方式の比重が使えない
(3) 土地・上場有価証券は時価純資産価額の計算で、土地(土地の上に存する権利を含む)と上場有価証券は譲渡または贈与の時の価額による路線価などの相続税評価額は使わない
(4) 法人税額等相当額を控除しない純資産価額の計算で、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除しない相続税評価では控除する

ポイントは(1)です。オーナーのように売り手が支配株主なら、たとえ少数株式を売る場合でも、原則的評価方式(しかも小会社扱いなどの修正後)で時価を考えることになります。土地の含み益が大きい会社などでは、相続税評価額より59-6による価額のほうがかなり高くなることがあります。

買い手の法人と他の株主の側の課税

時価より低い価格で株式を買った法人の側では、時価との差額が受贈益として法人税の課税対象になる可能性があります。また相続税法基本通達9-2は、同族会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をしたことにより、その会社の株式の価額が増加したときは、その会社の株主が、増加した部分に相当する金額を譲渡した人から贈与によって取得したものとして取り扱うとしています。資産管理会社の株主が後継者の場合、後継者に贈与税の問題が及ぶことがある点に注意が必要です。持株会社の仕組みは持株会社(ホールディングス)とはをご覧ください。

株式を発行会社自身に売る(自己株式の取得)場合は、上記の論点に加えて、売り手の側で代金の一部が「みなし配当」として総合課税になる仕組みがあります。詳しくは自己株式(金庫株)とはと株式譲渡の税金で解説しています。

法人→個人、法人が関わる場合の時価

法人税法上の時価(法人税基本通達9-1-13・9-1-14)

法人税法には、非上場株式の取引価格そのものを定めた規定はありません。法人税基本通達9-1-13は、資産の評価損の規定(法人税法33条2項)を適用する場合の市場有価証券等以外の株式の価額について、売買実例のあるものは事業年度終了の日前6月間の売買のうち適正と認められるものの価額、類似する法人の株価があるものはそれに比準した価額、どちらもないものは1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額などとしています。

続く9-1-14は、財産評価基本通達178〜189-7の例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、次の条件のもとで認めるとしています。

  • 法人がその株式の発行会社にとって中心的な同族株主に該当するときは、発行会社を常に小会社に該当するものとして評価すること。
  • 発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む)や上場有価証券を有しているときは、純資産価額の計算でそれらを事業年度終了の時の価額によること。
  • 純資産価額の計算で、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除しないこと。

これらは評価損の場面の通達ですが、所得税基本通達59-6とよく似た修正を加える内容であり、法人が当事者になる株式取引の時価を考える際の目安として参照されることがあります。どの価額を採るべきかは取引ごとに判断が分かれるため、顧問税理士に確認してください。

法人が役員・従業員に安く売る、高く買う場合

法人が保有する株式(たとえば資産管理会社が持つ事業会社株式)を個人に売る場合、時価より低い価格だと、法人の側では差額のうち実質的に贈与と認められる金額が寄附金に含まれます(法人税法37条8項)。相手が役員等であれば、法人税基本通達9-2-9により、役員等に所有資産を低い価額で譲渡した場合の差額や、役員等から高い価額で資産を買い入れた場合の差額は、役員給与に当たる経済的な利益とされています。

買い手の個人の側でも、所得税基本通達36-15は、資産の譲渡を無償または低い対価で受けた場合の差額に相当する利益を「経済的利益」として収入金額に含めるとしています。役員・従業員であれば給与として課税される可能性があり、それ以外の個人でも一時所得などとして課税される可能性があります。

また、オーナー(役員)が自分の会社に時価より高い価格で株式を売ると、9-2-9の「役員等から高い価額で資産を買い入れた場合」に当たり、時価との差額が役員給与とされる可能性があります。

4つのパターンの整理

売り手→買い手時価の目安安すぎる場合高すぎる場合
個人→個人買い手の取得後の立場で判定した相続税評価額(No.4423)差額は買い手へのみなし贈与(相続税法7条)。売り手の譲渡損は切り捨てになることがある(所得税法59条2項)超過部分が売り手へのみなし贈与となる可能性(相続税法9条)
個人→法人所得税基本通達59-6による価額(売り手の譲渡直前の議決権で判定)時価の2分の1未満なら売り手は時価で譲渡したとみなされる(所得税法59条・施行令169条)。法人の受贈益、他の株主へのみなし贈与(相基通9-2)も論点売り手が役員等なら差額が役員給与とされる可能性(法基通9-2-9)
法人→個人法人税法上の時価(法基通9-1-13・9-1-14が目安)法人は差額が寄附金・役員給与。個人は経済的利益として給与・一時所得などの可能性法人の側では差額の受贈益などが論点
個人→発行会社所得税基本通達59-6による価額時価の2分の1未満ならみなし譲渡の論点売り手側のみなし配当(所得税法25条)に加え、差額の扱いが論点

表は主な論点を整理したもので、実際にどの課税が生じるかは、当事者の関係、取引の経緯、会社の状況によって変わります。特に法人が当事者になる取引は論点が多いため、税理士と一緒に検討してください。

売買価格の決め方:実務の手順

親族・役員・従業員との間で株式を売買するときの、価格決定から手続き完了までの流れを整理します。

1. 当事者と株主構成を確認する

まず、売り手・買い手が個人か法人か、親族関係があるか、役員か、売買前後で議決権割合がどう変わるかを整理します。同族株主の判定は株主全員の議決権をもとに行うため、株主名簿が正確であることが前提です。創業時に他人の名義を借りた「名義株」があると、誰が株主か、誰が売り手になれるのかという出発点が揺らぎます。整理の方法は名義株とはで解説しています。

2. 当事者ごとの税務上の時価を計算する

個人間なら買い手の立場での相続税評価額、法人への譲渡なら所得税基本通達59-6による価額というように、取引ごとに比べるべき時価を計算します。1つの取引で複数の時価が関係することもあります(たとえば買い手個人の贈与税の判定と、将来その株式を法人へ移す場合の価額など)。評価の基準日は、原則として売買の時点です。直前期の決算書をもとに計算することが多いため、決算期をまたぐと評価額が変わる点にも注意します。

3. 売買実例の有無を確認する

所得税基本通達23〜35共-9や法人税基本通達9-1-13では、売買実例のある株式は、適正と認められる売買の価額が時価の判断材料になります。過去に親族間で極端に安い価格で売買した実績があっても、それが「適正と認められる」売買でなければ時価の根拠にはなりにくい一方、近い時期に異なる価格で売買していると、価格の整合性を説明する必要が出てきます。過去の売買の記録は確認しておきましょう。

4. 価格を決め、根拠を書面で残す

計算した時価をもとに、当事者で売買価格を決めます。実務では、相続税評価額や59-6による価額をそのまま売買価格にすることが多いですが、事業承継の全体計画(後継者の買取資金、先代の老後資金、将来の相続税)とあわせて決めることも大切です。評価の計算過程は、株価算定書や評価明細書の形で保存しておくと、後日税務調査で価格の妥当性を問われたときに説明しやすくなります。算定書が必要になる場面は株価算定書が必要な場面、事業承継での株価算定の進め方は事業承継の株価算定をご覧ください。

5. 譲渡制限株式なら会社の承認を得る

非上場会社の株式の多くは、譲渡に会社の承認が必要な譲渡制限株式です。会社法136条により、譲渡制限株式の株主は、他人に譲り渡そうとするときに、会社に対して承認するか否かの決定を請求できます。取得した側から請求する場合(会社法137条)は、原則として株主名簿上の株主(売り手)と共同で請求します。

  • 決定機関:承認するか否かの決定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によります。ただし、定款に別段の定めがある場合はそれに従います(会社法139条1項)。
  • 通知:会社は決定の内容を請求者に通知しなければなりません(同条2項)。
  • みなし承認:請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内に通知をしなかった場合などは、承認したものとみなされます(会社法145条)。
  • 承認しない場合:請求の際に、承認しないときは会社または指定買取人が買い取るよう請求していれば、会社は買い取らなければならず(会社法140条)、売買価格は協議で定め、協議が調わなければ裁判所に価格の決定を申し立てることができます(会社法144条)。

オーナー一族の内部での売買であれば承認が問題になることは少ないものの、取締役会の議事録など承認の記録を残しておくことが重要です。手続きの詳細は譲渡制限株式とはで解説しています。

6. 株式譲渡契約書を作り、代金を決済する

親族間の売買でも、売買の対象(株式の種類・数)、価格、代金の支払方法と期日、株式の移転時期などを定めた契約書を作ります。口頭だけの売買や、代金の支払いが確認できない売買は、後で「実は贈与だったのではないか」と見られるおそれがあります。代金は銀行振込など記録が残る方法で支払うのが安全です。株券発行会社の場合は、株券の交付も必要です。契約書の主な条項は株式譲渡契約書(SPA)の要点を参考にしてください。

7. 株主名簿を書き換える

会社法130条により、株式の譲渡は、取得した人の氏名・住所を株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗できません(株券発行会社では、会社に対する対抗要件となります)。株主名簿の書き換えは、取得者が会社に請求し、原則として売り手と共同で請求します(会社法133条)。あわせて、法人税申告書の株主の明細(同族会社等の判定に関する明細書)も、次の申告から実態と合うように更新します。株主名簿と申告書の記載がずれていると、将来の相続や事業承継税制の適用、M&Aの際に確認作業が増えます。

8. 申告と納税

売り手に譲渡益が出れば、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告をします。買い手の側でみなし贈与の可能性がある場合は、贈与税の申告の要否を確認します。

売り手の税金:譲渡所得は申告分離課税で20.315%

個人が非上場株式を売った利益は「一般株式等に係る譲渡所得等」として、他の所得と分けて税額を計算する申告分離課税になります(国税庁タックスアンサーNo.1463)。税率は所得税15%・復興特別所得税(所得税額の2.1%)・住民税5%の合計で20.315%です。課税対象は売買代金そのものではなく、売買代金から取得費(設立時の払込金額や購入代金など)と譲渡費用を差し引いた利益です。

たとえば、設立時に1株5万円で払い込んだ株式1,000株を、後継者に1株20万円で売った場合、売買代金2億円から取得費5,000万円を差し引いた1億5,000万円が譲渡所得となり、税額は約3,047万円(1億5,000万円×20.315%)が目安です。相続した株式は被相続人の取得費を引き継ぎ、取得費が分からないときは売買代金の5%を取得費とすることも認められています。売買代金からの手取りは株式譲渡の手取り計算機で試算できます。

令和9年(2027年)分以後は、復興特別所得税の税率引下げと防衛特別所得税の創設により、所得税側の内訳が変わる改正が行われています。2027年以後に譲渡する場合は、申告時点の国税庁の案内で確認してください。税率の内訳や申告の手順は株式譲渡の税金にまとめています。

贈与・相続との比較で考える

後継者に株式を移す方法は、売買のほかに贈与や相続もあります。売買は、後継者に買取資金が必要になる一方、先代の手元には代金が残り、先代の側で譲渡所得税がかかります。贈与は資金が不要ですが、評価額に応じた贈与税がかかります。一定の要件を満たせば、贈与税・相続税の納税が猶予される事業承継税制の対象になることもあります。制度の概要は事業承継税制とは、相続税の目安は相続税の概算計算ツールで確認できます。

どの方法が有利かは、株価の水準、後継者の資金力、先代の他の財産、将来の相続人どうしの公平などで変わります。株価そのものが下がる時期(大きな退職金の支給後など)に移転を検討することもあります。役員退職金と株価の関係は役員退職金と自社株評価、事業承継での税理士の関わり方は事業承継における税理士の役割をご覧ください。

よくある失敗と注意点

  • 額面(1株5万円など)で売買してしまう:設立時の払込金額は取得費の目安にはなりますが、時価ではありません。業績が良く内部留保が厚い会社では、相続税評価額が額面を大きく上回っていることがあり、額面での売買は買い手へのみなし贈与の問題を生じえます。
  • 配当還元方式を使える相手かを確認しない:役員や親族、議決権割合が大きくなる買い手は、原則的評価方式になる場合があります。
  • 個人間と法人向けの時価を混同する:資産管理会社に売る場合に、個人間の感覚で相続税評価額(配当還元価額など)を使うと、59-6による価額と比べて2分の1未満となり、売り手にみなし譲渡課税が生じることがあります。
  • 代金を払わない、または後で返す:売買の形を取りながら代金の支払いがない、支払った代金を実質的に戻している、といった場合は贈与と判断されるおそれがあります。
  • 名義株・株主名簿を放置したまま売買する:実際の株主と名簿上の株主が違うと、売り手の権限や同族株主の判定に疑義が生じます。
  • 承認手続きの記録がない:取締役会や株主総会の承認の議事録がないと、譲渡の効力や株主の確定をめぐって後から争いになる余地が残ります。

よくある質問

相続税評価額で売買すれば、税務上の問題はありませんか

個人間の売買では、相続税評価額(買い手の立場で判定したもの)を基準にすれば、低額譲渡のみなし贈与を避ける目安にはなります。ただし、買い手が法人の場合は所得税基本通達59-6による価額など別の物差しになり、また相続税評価額と実際の取引価格が大きく異なる事情がある場合などは、個別の判断が必要です。最終的には税理士に確認してください。

従業員に配当還元価額で株式を売ることはできますか

従業員が取得後に「同族株主以外の株主等」に当たるなら、配当還元方式による価額が相続税評価額となるため、その価額での売買を検討できます。ただし、その従業員が役員である、親族関係がある、取得後の議決権割合が大きいといった場合は原則的評価方式になることがあります。また、将来その従業員から株式を買い戻す場面の価格や、買戻しの条件もあらかじめ決めておくと、退職時のトラブルを避けやすくなります。

M&Aで第三者に売る場合も、同じ時価の考え方ですか

利害関係のない第三者との間で、交渉を経て決まった価格は、原則としてその取引の時価と考えられます。M&Aでの株式価値は、DCF法や類似会社比較法など、将来の収益力や市場の評価を反映した方法で算定するのが一般的で、相続税評価額とは考え方が異なります。両者の違いは非上場株式の評価方法で整理しています。

まとめ

非上場株式を個人間で売買するときは、買い手の立場で判定した相続税評価額が税務上の時価の目安になり、著しく低い価格で売ると差額は買い手へのみなし贈与(相続税法7条)となります。相続税評価額は、買い手が同族株主等なら原則的評価方式、それ以外なら配当還元方式が基本です。買い手が法人なら、所得税基本通達59-6により売り手の譲渡直前の議決権で判定し、小会社扱い・土地等の時価評価・法人税額等相当額の不控除といった修正を加えた価額が基準になり、時価の2分の1未満ならみなし譲渡課税の対象になります。法人が売り手・買い手になる場合は、寄附金・役員給与・受贈益といった法人税の論点も加わります。

価格を決めたら、根拠を算定書などの書面で残し、譲渡制限株式の承認、契約書の作成、代金の決済、株主名簿の書き換えまでを記録の残る形で進めることが大切です。税務上の判断は取引ごとに異なるため、必ず税理士等の専門家に確認しながら進めてください。

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