不動産会社の売却相場|仲介・管理・賃貸・分譲で違うM&A価格の決まり方
最終更新: 2026-10-26
「不動産会社を売りたいが、相場はいくらくらいか」というご相談では、まず何をしている不動産会社かを確認する必要があります。同じ「不動産業」でも、売買・賃貸の仲介、賃貸住宅の管理受託、自社でビルやアパートを持って賃料を得る賃貸保有、土地を仕入れて建てて売る分譲・開発では、価値の源泉がまったく違うためです。仲介会社なら人と集客の仕組み、管理会社なら管理戸数という積み上がった契約、賃貸保有会社なら不動産そのものの時価と借入、分譲会社なら在庫と仕入れ力が価格の中心になります。
本稿では、不動産仲介・賃貸管理・賃貸保有・分譲(開発)の4つの業態ごとに、価値の源泉と評価の考え方を整理し、年買法・時価純資産法・EV/EBITDA倍率法の使い分けを仮の数値による計算例で示します。あわせて、宅地建物取引業(宅建業)の免許が株式譲渡と事業譲渡でどう扱われるか、保有不動産の含み益と税効果、借入金とLTV、土地保有特定会社に当たる場合の相続税評価、価格が上がる・下がる要因、売却の流れ、デューデリジェンス(DD)で見られる点まで順に解説します。数値はいずれも目安であり、個別の会社の価格を示すものではありません。
結論:不動産会社の価格は「業態ごとの価値の源泉」を正しく測れるかで決まる
先に全体像をまとめると、不動産会社の売却価格は次のように考えるのが基本です。
- 仲介・賃貸管理(非保有型):手元に大きな不動産を持たないため、実質的な営業利益やEBITDAをもとにした収益ベースで評価します。年買法やEV/EBITDA倍率法が中心です。
- 賃貸保有(資産型):価値の大半が保有不動産にあるため、不動産を時価に置き直した時価純資産が評価の土台になります。含み益にかかる税金(税効果)と借入金の扱いが論点です。
- 分譲・開発:販売用不動産(在庫)と進行中のプロジェクトの価値を一つずつ確認する資産ベースに、仕入れ・販売の力を示す収益力を加味して判断します。
複数の業態を兼ねている会社では、業態ごとに切り分けて評価し、合算する考え方(いわゆるサム・オブ・ザ・パーツ)が分かりやすくなります。会社売却全般の相場観は会社売却の相場はいくらか、REITや不動産ファンドも含めた不動産関連ビジネスの評価手法の全体像は不動産・REITのバリュエーションで整理しています。本稿は中小の不動産会社を売却する側の視点で、業態別の相場の考え方に絞って解説します。
業態別に見る価値の源泉と評価の考え方
4つの業態について、買い手が何に価値を感じるのか、どの手法が中心になるのかを一覧にすると次のとおりです。
| 業態 | 主な価値の源泉 | 中心となる評価手法 | 評価で注意されやすい点 |
|---|---|---|---|
| 売買・賃貸の仲介 | 店舗の立地と集客、反響を生む仕組み、営業担当者、地主・オーナーとの関係 | 年買法、EV/EBITDA倍率法(収益ベース) | 売上が経営者やトップ営業に依存、市況による成約件数の変動、広告費の効率 |
| 賃貸管理(管理受託・サブリース) | 管理戸数と管理料のストック収益、オーナーとの契約の継続性、入居率の維持力 | EV/EBITDA倍率法、年買法(収益ベース) | 管理契約の解約率、サブリースの逆ざやリスク、オーナーの高齢化と相続での解約 |
| 賃貸保有(ビル・マンション・アパート) | 保有不動産の時価と賃料収入(NOI)、立地、建物の状態 | 時価純資産法(不動産は収益還元などで時価評価) | 含み益にかかる税効果、借入金とLTV、修繕の先送り、遵法性 |
| 分譲・開発(戸建・マンション・土地) | 仕入れ力・用地情報、企画・販売力、進行中プロジェクトの見込み利益 | 時価純資産法(在庫・仕掛を個別評価)+収益力の加味 | 販売用不動産の評価損、売れ残り在庫、プロジェクト借入、市況の影響 |
ここで大切なのは、「売上の何倍」「利益の何年分」といった一律の物差しを業態をまたいで当てはめないことです。たとえば賃貸保有会社は、営業利益が小さくても保有不動産の時価が大きければ株式価値は高くなりますし、仲介会社は純資産が小さくても安定して利益を出していれば収益ベースで評価されます。業種ごとに評価の着眼点が違う理由は業種別の企業価値評価のポイントもあわせてご覧ください。
仲介:人と集客の仕組みをどこまで引き継げるか
仲介会社の価値は、成約件数を生み出す力にあります。店舗の立地、ポータルサイトや自社サイトからの反響、地域の地主・オーナーや金融機関・士業からの紹介といった集客の仕組みが、経営者個人ではなく会社の仕組みとして回っているかどうかが評価を大きく左右します。売上の多くが社長やトップ営業の人脈から生まれている場合、その人が抜けると収益が落ちるため、評価は保守的になり、一定期間の残留や引継ぎ、業績連動の対価などの条件が付けられることがよくあります。
また、売買仲介は市況や金利の影響を受けやすく、成約件数の波が大きい業態です。直近の好調な1期だけでなく、複数期の平均や、市況が落ち着いた局面での実績も見られます。賃貸仲介は1件あたりの手数料が小さい一方で件数が多く、繁忙期の偏りや広告費の効率が論点になります。
賃貸管理:管理戸数というストック収益の質
賃貸管理会社の価値の中心は、オーナーから受託している管理戸数と、そこから毎月入ってくる管理料です。景気に左右されにくい継続収入であるため、買い手にとっては収益の見通しが立てやすく、評価されやすい業態です。自社の管理網に組み込めば人員や拠点を効率化できる余地もあり、同業の買い手が関心を持ちやすい分野でもあります。
一方で、評価では管理戸数の「量」だけでなく「質」が見られます。管理契約の解約率、オーナーの分散(上位オーナーへの集中度)、オーナーの年齢構成と相続時の解約リスク、1戸あたりの管理料の水準、入居率と滞納の状況などです。サブリース(一括借上げ)を行っている場合は、オーナーへの支払賃料と入居者からの賃料の差が縮んだり逆転したりするリスク、借上げ契約の条件や期間も確認されます。
なお、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法、2021年6月全面施行)により、自己所有物件を除く管理戸数が200戸以上の事業者は国土交通大臣の登録が必要とされ、営業所・事務所ごとに業務管理者を置く必要があります(国土交通省の賃貸住宅管理業法に関する案内による)。登録の状況、業務管理者の配置、管理受託契約の重要事項説明や書面交付が法令どおり行われているかは、買い手が確認する項目です。
賃貸保有:不動産の時価・借入・税効果がほぼすべて
自社でビルやマンション、アパートを保有して賃料を得ている会社は、価値の大半が不動産そのものにあります。そのため、帳簿上の価額(取得原価から減価償却を引いた簿価)ではなく、不動産を時価に置き直した純資産が評価の出発点になります。古くから保有している土地は簿価が時価を大きく下回ることが多く、この差額(含み益)が株式価値に大きく効きます。
不動産の時価は、賃貸物件であれば年間の純収益(NOI:賃料収入から管理費・修繕費・固定資産税などの運営費用を引いたもの)を還元利回り(キャップレート)で割り戻す収益還元の考え方や、不動産鑑定士の鑑定評価、近隣の取引事例などで求めます。キャップレートは立地・築年数・用途・市況で変わるため、わずかな差が時価を大きく動かす点に注意が必要です。NOIとキャップレートの考え方は不動産・REITのバリュエーションで詳しく解説しています。
分譲・開発:在庫とプロジェクトを一つずつ確かめる
土地を仕入れて戸建やマンションを建てて売る会社は、貸借対照表の販売用不動産・仕掛販売用不動産(開発中の物件)が資産の大きな部分を占めます。評価では、これらを物件ごとに見て、売れ残りや市況の変化で簿価を下回る価額でしか売れない在庫がないか、進行中のプロジェクトが計画どおりの利益を出せるかを確認します。簿価を下回る見込みの在庫は評価損として純資産から差し引かれ、見込み利益が確かなプロジェクトは上乗せの材料になります。
分譲会社はプロジェクトごとに借入を行うことが多く、借入の残高と返済条件、経営者保証の有無も論点です。将来の利益は仕入れの継続に依存するため、用地情報が経営者個人の人脈に頼っていないか、企画・販売の人材が残るかも見られます。
評価手法の使い分け:年買法・時価純資産法・EV/EBITDA倍率法
中小の不動産会社の評価で使われることが多い手法と、業態ごとの向き・不向きを整理すると次のとおりです。
| 手法 | 計算の考え方 | 向いている業態 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 年買法 | 時価純資産+実質営業利益×年数 | 仲介・賃貸管理。賃貸保有でも運営利益がある場合に補助的に使う | 賃貸保有では、不動産の時価に賃料収益の価値がすでに含まれるため、営業利益の加算が二重計上にならないよう注意 |
| 時価純資産法 | 資産・負債を時価で評価し直し、含み損益の税効果を調整した純資産 | 賃貸保有、分譲・開発、収益力が弱い会社の下限確認 | 不動産の時価の求め方(鑑定・収益還元・取引事例)で結果が大きく変わる |
| EV/EBITDA倍率法 | EBITDA×倍率=事業価値。ここから純有利子負債などを調整して株式価値へ | 仲介・賃貸管理 | 賃貸保有は借入が大きく、EBITDAより不動産価値で見るほうが実態に合いやすい |
| DCF法 | 将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引く | 事業計画に裏付けがある中堅規模以上、開発プロジェクトの個別評価 | 賃料・空室率・金利・出口価格の前提で結果が大きく動く |
各手法の考え方は年買法とは、時価純資産法とは、類似会社比較法(EV/EBITDA倍率)、DCF法とはで詳しく解説しています。事業価値(EV)と株式価値の違いは企業価値と株式価値の違いで整理しています。
計算例1:賃貸管理会社(仮の数値)
説明のため、管理戸数2,000戸の賃貸管理会社を想定します。役員報酬などを調整した実質営業利益が3,000万円、減価償却費を加えた実質EBITDAが3,500万円、時価純資産が1億円(現預金8,000万円、有利子負債2,000万円を含む)とします。
| 手法 | 計算 | 株式価値の目安 |
|---|---|---|
| 年買法(3〜5年分) | 時価純資産1億円+実質営業利益3,000万円×3〜5年 | 約1.9億〜2.5億円 |
| EV/EBITDA倍率法(4〜6倍) | EBITDA3,500万円×4〜6倍=EV1.4億〜2.1億円、+現預金8,000万円−有利子負債2,000万円 | 約2.0億〜2.7億円 |
管理契約の解約率が低く、オーナーが分散していれば、レンジの上側で議論しやすくなります。反対に、上位数名のオーナーで管理戸数の多くを占めている、オーナーの高齢化で相続時の解約が見込まれる、サブリースで逆ざやの物件があるといった場合は、下側に寄ったり、逆ざや分の損失見込みが差し引かれたりします。
計算例2:賃貸保有会社(仮の数値)
次に、賃貸マンションと店舗ビルを保有する会社を想定します。土地・建物の簿価は5億円、時価は9億円(年間NOI4,500万円をキャップレート5%で割り戻した水準)、借入金は4億円、現預金などその他の正味資産は5,000万円とします。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 簿価純資産 | 不動産簿価5億円+その他正味資産5,000万円−借入金4億円 | 1.5億円 |
| 不動産の含み益 | 時価9億円−簿価5億円 | 4.0億円 |
| 含み益の税効果(例として30%) | 含み益4.0億円×30% | ▲1.2億円 |
| 時価純資産(税効果調整後) | 1.5億円+4.0億円−1.2億円 | 約4.3億円 |
| 参考:税効果を調整しない場合 | 1.5億円+4.0億円 | 約5.5億円 |
| 参考:LTV(借入金÷不動産時価) | 4億円÷9億円 | 約44% |
この例では、含み益に対する税効果をどこまで差し引くかだけで、株式価値の目安が1億円以上変わります。株式譲渡では会社が不動産を持ったまま株主だけが替わるため、含み益は会社の中に残り、買い手が将来その不動産を売れば法人税等がかかります。買い手はこの将来の税負担を価格から差し引きたいと考え、売り手は「すぐに売るわけではないので全額を差し引くのは過大」と考えるのが一般的で、交渉では税効果をどの程度考慮するかが論点になります。税率は例として30%を置いていますが、実際には会社の実効税率や不動産の保有方針で検討します。
また、キャップレートが5%から5.5%に変わるだけで、同じNOI4,500万円から求める時価は約8.2億円になり、株式価値の目安は数千万円単位で下がります。賃貸保有会社の価格は、不動産の時価の前提を誰がどう置くかに大きく左右される点を押さえておきましょう。
自社の数字で目安を出したい場合は、年買法の無料計算ツール、EV/EBITDA倍率の無料計算ツール、時価純資産の無料計算ツールが使えます。役員報酬や一過性の損益をどう調整するかは正常収益力とはで解説しています。
借入金とLTV:資産型の会社で価格を左右するもう一つの軸
賃貸保有や分譲の会社では、不動産の取得資金を借入でまかなっていることが多く、株式価値は「不動産の時価−借入金」の差額に大きく依存します。不動産の時価に対する借入金の割合(LTV)が高い会社は、時価がわずかに下がるだけで株式価値が大きく目減りするため、買い手は慎重になります。
- 借入の条件:金利(固定か変動か)、返済期間、期限前返済の手数料、財務制限条項の有無を確認します。金利上昇の局面では、変動金利の借入が多い会社ほど将来の収益が圧迫されると見られます。
- 経営者保証:中小の不動産会社では経営者が借入の連帯保証人になっていることが多く、株式譲渡に合わせて保証をどう外すかが重要な条件になります。考え方はM&Aでの個人保証の解除で解説しています。
- チェンジ・オブ・コントロール条項:株主が変わる場合に金融機関への事前通知や承諾が必要とされる契約もあるため、借入契約の条項を早めに確認しておきます。
宅建業免許とスキーム:株式譲渡と事業譲渡で扱いが違う
不動産会社のM&Aで見落とされやすいのが、宅地建物取引業の免許の扱いです。宅建業の免許は、免許を受けた個人または法人に専属するもので、売買や相続によって他者に移すことはできないとされています(都道府県の宅建業免許の手引きによる)。この性質が、株式譲渡と事業譲渡の違いに直結します。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 宅建業免許 | 会社(法人)の免許はそのまま続く。役員や専任の宅建士に変更があれば、変更の届出が必要 | 免許は移らない。買い手が自ら免許を持っている(または取得する)必要がある |
| 管理受託契約・賃貸借契約 | 契約の当事者は会社のままなので、原則として引き継がれる(チェンジ・オブ・コントロール条項は確認) | 契約ごとにオーナーや入居者の同意・承継の手続きが必要になり、手間と時間がかかる |
| 不動産の移転にかかる税・費用 | 不動産の名義は変わらないため、移転に伴う登録免許税や不動産取得税は通常かからない | 不動産の移転に登録免許税・不動産取得税などがかかる場合がある |
| 含み益の課税 | 会社の中に含み益が残る(買い手は将来の税負担を価格で考慮しようとする) | 売り手の会社が不動産を時価で売却するため、その時点で含み益に法人税等がかかる |
株式譲渡では、免許を受けた法人そのものが存続するため、免許を新たに取り直す必要はありません。ただし宅建業法では、役員や事務所ごとの専任の宅建士などに変更があったときは30日以内に免許権者へ届け出ること、事務所には業務に従事する者5名に1名以上の割合で専任の宅建士を置き、不足した場合は2週間以内に補充などの措置を取ることが求められています(同上の手引きによる)。社長が唯一の専任の宅建士という会社では、退任と同時に要件を満たせなくなるおそれがあるため、譲渡後の体制を事前に設計しておくことが欠かせません。
また、宅建業者が合併により消滅した場合は、廃業等の届出が必要とされています。合併や事業譲渡で買い手側に事業を移す場合は、買い手側の免許で業務を続けられるか、事務所や宅建士の体制が整うかを確認したうえでスケジュールを組む必要があります。スキームの違いと税金の考え方は事業譲渡と株式譲渡の違い、株式を売ったときの税金は非上場株式の譲渡にかかる税金で整理しています。免許や登録の手続きは免許権者(国土交通大臣または都道府県知事)や行政書士、税務は税理士に確認してください。
土地保有特定会社に当たる場合の相続税評価
賃貸保有の会社で、親族内の承継や役員・従業員への株式の譲渡を考える場合は、相続税・贈与税の評価(財産評価基本通達による評価)も確認しておく必要があります。総資産に占める土地等の割合が高い会社は、土地保有特定会社に該当することがあります。相続税評価額で計算した土地保有割合が、大会社で70%以上、中会社で90%以上(小会社は総資産の規模によりどちらかの基準を使う)の場合に該当し、株価は原則として純資産価額方式で評価されます。
この場合、類似業種比準方式を使った評価額の引き下げが効きにくくなるため、不動産を多く持つ会社ほど相続税評価額が高くなりやすい点に注意が必要です。なお、相続税評価での土地は路線価などで評価し、純資産価額の計算では評価差額に対する法人税等相当額を控除するなど、M&Aでの時価評価とは計算のルールが異なります。M&Aの価格と相続税評価の株価は別物として考え、両方を把握しておくことが大切です。判定の方法は土地保有特定会社とは、会社規模の区分は会社規模の判定ツール、特定評価会社の判定全体は特定評価会社の判定ツールで確認できます。純資産価額方式の計算は純資産価額方式とはで解説しています。具体的な判定と評価は税理士に確認してください。
価格が上がる要因・下がる要因
同じ業態・同じ規模の会社でも、次のような要因で評価レンジの上側に寄るか下側に寄るかが変わります。
| 区分 | 価格が上がりやすい要因 | 価格が下がりやすい要因 |
|---|---|---|
| 収益の安定性 | 管理料などのストック収益の比率が高い、解約率が低い、複数期にわたり利益が安定 | 単発の大型取引で利益が膨らんだ期だけが好調、市況頼みの売買仲介に偏る |
| 属人性 | 集客・オーナー対応が仕組み化され、経営者以外の担当者や宅建士が複数いる | 売上やオーナーとの関係が社長個人に依存、社長が唯一の専任の宅建士 |
| 保有不動産 | 立地が良く入居率が高い、修繕が計画的に行われている、遵法性に問題がない | 空室が多い、大規模修繕の先送り、違法増築や用途違反、耐震性の懸念 |
| 財務 | LTVが低い、固定金利で返済条件が安定、経営者保証の解除にめどが立つ | LTVが高い、変動金利の借入が多い、財務制限条項に抵触しそう |
| 在庫・プロジェクト | 販売用不動産の回転が速い、プロジェクトの見込み利益に裏付けがある | 長期の売れ残り在庫、簿価を下回る評価損、許認可の遅れたプロジェクト |
| 法令対応 | 重要事項説明・契約書面の管理が整い、行政処分歴がない | 法定書面の不備、広告表示の問題、管理業登録や業務管理者の配置の不備 |
自社の強みを伸ばし、弱みを売却前に手当てしておくことで、同じ収益力でも条件が変わります。具体策は会社を高く売るには、売り手側で事前に課題を洗い出して整える方法はセルサイドDDと売却前の磨き上げで解説しています。
不動産会社の売却の流れ
不動産会社の売却は、一般的な中小企業のM&Aと同じ流れで進みますが、業態によって準備しておく資料が異なります。
| 段階 | 主な内容 | 不動産会社で特に準備したいこと |
|---|---|---|
| 1. 準備・自社の価値の把握 | 決算書の整理、実質利益の調整、価格の目安の算定 | 業態別の損益の切り分け、保有不動産の時価の目安、管理戸数と解約率の推移 |
| 2. 相談先の選定・買い手探し | 仲介会社・FAの選定、ノンネームでの打診 | 同業(仲介・管理・デベロッパー)、異業種、資産を求める買い手など、業態に合う相手の想定 |
| 3. 秘密保持契約・情報開示 | NDAの締結、企業概要書(IM)の提示 | レントロール、管理物件の一覧、物件ごとの収支の整理 |
| 4. 意向表明・基本合意 | 価格・スキーム・条件の大枠の合意 | 株式譲渡か事業譲渡か、宅建士の体制、経営者保証の扱い |
| 5. デューデリジェンス | 財務・税務・法務・不動産の調査 | 賃貸借契約・管理受託契約・登記・遵法性資料の開示 |
| 6. 最終契約・クロージング | 株式譲渡契約の締結、代金の決済、届出 | 役員・宅建士の変更届、金融機関への通知、オーナー・入居者への案内 |
全体の流れはM&Aで会社を売却する流れ、秘密保持契約はNDA(秘密保持契約)とは、基本合意の書き方は意向表明書・基本合意書の書き方、最終契約の要点は株式譲渡契約(SPA)の要点で解説しています。
デューデリジェンスで見られる点
不動産会社のDDでは、財務・税務・法務の一般的な調査に加えて、不動産と契約の中身が詳しく確認されます。調査の全体像はデューデリジェンスとはで解説しています。
| 分野 | 主な確認項目 | 価格・条件への影響 |
|---|---|---|
| 賃貸借契約・レントロール | 物件ごとの賃料・契約期間・敷金保証金・滞納・空室、定期借家か普通借家か、レントロールと契約書・入金実績の一致 | 賃料の過大計上や滞納が見つかればNOIを修正し、不動産の時価を引き下げる |
| 管理受託契約・サブリース契約 | 契約期間と解約条項、管理料率、借上げ賃料と見直し条件、オーナーの集中度 | 解約リスクや逆ざやの物件は、収益の見込みから差し引かれる |
| 不動産の権利・状態 | 登記と実態の一致、境界、担保設定、建物の劣化と修繕履歴、長期修繕の見込み | 修繕の先送り分は将来の支出として控除されることがある |
| 遵法性 | 建築確認・検査済証の有無、用途変更や増築の手続き、容積率・建ぺい率、消防・耐震 | 是正費用の控除、融資や転売への影響を理由とした価格の見直し |
| 宅建業法・賃貸住宅管理業法 | 免許・登録の状況、専任の宅建士・業務管理者の配置、重要事項説明書・契約書面の保存、広告表示、行政処分歴 | 不備があれば是正を条件としたり、補償条項で手当てしたりする |
| 税務 | 不動産の取得・売却時の処理、消費税の扱い、含み益の把握 | 過去の税務リスクは補償条項や価格調整の対象になる |
レントロールは「契約書・入金実績」と照らして整える
レントロール(賃貸借条件の一覧)は、賃貸保有・賃貸管理の会社の価値を測る基礎資料です。買い手は、レントロールに書かれた賃料が実際の契約書と入金実績に裏付けられているかを照合します。フリーレントの期間や、近く退去が決まっている区画、関係会社への相場より低い賃料での賃貸などが反映されていないと、DDでの修正につながります。売却を考え始めた段階で、契約書・入金実績・レントロールの3つを一致させておくと、調査がスムーズに進みます。
遵法性は建物ごとに資料をそろえる
保有物件の遵法性は、買い手が金融機関から融資を受けられるか、将来の売却がしやすいかにも関わるため、重点的に確認されます。検査済証がない、用途を変えたのに手続きをしていない、増築で容積率を超えているといった事情は、是正費用の控除や価格の見直しの理由になります。建物ごとに確認済証・検査済証・図面・修繕履歴をそろえ、分からない点は早めに建築士などの専門家に相談しておくのが安全です。
よくある質問(FAQ)
Q. 不動産会社の売却相場は、売上や管理戸数の何倍くらいですか?
A. 業態によって決まり方が違うため、一律の倍率はありません。仲介・賃貸管理は実質的な営業利益やEBITDAをもとにした収益ベース、賃貸保有は不動産を時価に置き直した時価純資産、分譲は在庫とプロジェクトを個別に確認する資産ベースで考えるのが一般的です。管理戸数は価値の大きな手がかりですが、管理料の水準や解約率で1戸あたりの価値は変わります。
Q. 宅建業の免許は、会社を売っても使えますか?
A. 株式譲渡であれば、免許を受けた法人そのものが続くため、免許を取り直す必要は原則としてありません。ただし役員や専任の宅建士が変わる場合は届出が必要で、専任の宅建士の人数要件も満たし続ける必要があります。事業譲渡では免許は移らないため、買い手側が免許を持っている必要があります。具体的な手続きは免許権者や専門家に確認してください。
Q. 含み益の大きい土地を持っています。その分はそのまま価格に乗りますか?
A. 含み益は株式価値を押し上げますが、そのまま全額が乗るとは限りません。株式譲渡では含み益が会社に残るため、買い手は将来の売却時にかかる法人税等(税効果)を差し引いて考えることが多く、どこまで差し引くかが交渉の論点になります。不動産の時価の前提(鑑定評価か収益還元か、キャップレートの水準)によっても金額は動きます。
Q. 赤字の不動産会社でも売れますか?
A. 赤字でも、立地の良い保有不動産、まとまった管理戸数、宅建業の体制や地域の顧客基盤などに価値があれば、買い手が見つかることはあります。ただし価格は時価純資産を基準に慎重に評価されやすく、借入が大きい場合は株式価値が小さくなることもあります。赤字会社の考え方は赤字会社の売却相場もご覧ください。
Q. 自社の価格の目安はどう調べればよいですか?
A. まず業態ごとに損益と資産を切り分け、仲介・管理部分は実質営業利益やEBITDAから年買法・EV/EBITDA倍率法で、保有不動産は時価と借入から時価純資産で目安を出します。そのうえで、含み益の税効果、修繕の先送り、経営者保証などの論点を確認すると、現実的なレンジに近づきます。手順は会社売却シミュレーションのやり方で解説しています。
まとめ
不動産会社の売却相場は、業態ごとに価値の源泉が違うことを前提に考える必要があります。仲介は集客の仕組みと人、賃貸管理は管理戸数というストック収益の質、賃貸保有は不動産の時価と借入・税効果、分譲は在庫とプロジェクトの見込みが価格の中心です。手法は、収益ベースの年買法・EV/EBITDA倍率法と、資産ベースの時価純資産法を業態に応じて使い分け、複数の業態を兼ねる会社は切り分けて評価すると分かりやすくなります。さらに、宅建業の免許は法人に専属するため株式譲渡と事業譲渡で扱いが異なり、専任の宅建士の体制や経営者保証、親族内承継では土地保有特定会社の判定も論点になります。レントロール・契約書・遵法性資料を早めに整えておくことが、評価レンジの上側と円滑な成約につながります。
「M&Aバリュークラウド」では、財務データを入力すると、簡易版では年買法(時価純資産+正常営業利益の3〜5年分)、詳細版ではDCF法と類似会社比較法を併用して株式価値のレンジを算定し、PDF報告書にまとめます。会員登録と試算までは無料で、報告書は有料です。売却を検討する前の判断材料として、まずは自社の価値の目安を知るところから始めてみてください。無料で登録して試算する